超音波診断装置および弾性指標信頼性判定方法
【課題】超音波を用いて測定された弾性率等の弾性指標の信頼性を判定することができ、信頼性が乏しい場合に、測定技師等のユーザにその事実を通知することができ、信頼性の乏しい弾性率等の弾性指標に基づいて各種診断を行うことを防止することができる超音波診断装置、弾性指標信頼性判定方法および弾性指標信頼性判定プログラムを提供する。
【解決手段】超音波ビームの送受信を制御する制御手段と、超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの送信方向における変位をトラッキングするトラッキング手段と、トラッキング手段のトラッキング結果に基づいて血管の弾性指標を算出する算出手段と、血管の特定ポイントの送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得手段と、取得手段の取得結果に基いて、弾性指標の信頼性を判定する判定手段と、を具備することにより上記課題を解決する。
【解決手段】超音波ビームの送受信を制御する制御手段と、超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの送信方向における変位をトラッキングするトラッキング手段と、トラッキング手段のトラッキング結果に基づいて血管の弾性指標を算出する算出手段と、血管の特定ポイントの送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得手段と、取得手段の取得結果に基いて、弾性指標の信頼性を判定する判定手段と、を具備することにより上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて血管の弾性指標を測定して、その信頼性を評価し、判定する技術に係り、特に、超音波を用いた測定により得られた血管弾性指標の信頼性を判定する超音波診断装置、弾性指標信頼性判定方法、および弾性指標信頼性判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋の音響的・弾性的特性に基づいて心臓の非侵襲的診断を行なうためには、心臓壁の各部位の振幅数十μm以下の微小振動を数百Hzまでの周波数帯域にわたって数拍以上連続して経皮的に計測する必要がある。そこで、検波信号の振幅及び位相を用いて血管壁の瞬時的な位置を決定し、心臓拍動に基づく血管壁の大きな振幅変位運動をトラッキングすることにより、血管の弾性率を求める技術がある(特許文献1参照)。具体的には、血管壁の順次の位置に基づき、血管壁の微小振動の運動速度波形を求め、血管壁内部の深さ方向に所定間隔でとられた局所ごとのトラッキング軌跡を求め、局所ごとの厚みの時間変化を算出することにより血管の弾性率を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−5226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、血管の弾性率の測定は、心拍により常に運動している血管壁の変位をトラッキングする必要があるが、その心拍による変位が過大であったり、測定対象である血管自体の位置がずれてしまうと、トラッキングに失敗し、得られる弾性率の信頼性が低下することがわかってきている。
【0005】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、超音波を用いて測定された弾性率等の弾性指標の信頼性を評価し、判定することができ、その結果、得られた信頼性が乏しい場合に、測定技師等のユーザにその事実を通知することができ、信頼性の乏しい弾性率等の弾性指標に基づいて各種診断を行うことを防止することができ、その結果として正確な診断を行うことができる超音波診断装置、弾性指標信頼性判定方法および弾性指標信頼性判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る超音波診断装置は、超音波ビームの送受信を制御する制御手段と、前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキング手段と、前記トラッキング手段のトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出手段と、前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得手段と、前記取得手段の取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定手段と、を具備する構成を採る。
【0007】
ここで、前記複数ポイントは、血管後壁上に位置し、記特定ポイントは、少なくとも前記血管後壁上に位置することが好ましく、また、前記判定手段は、前記血管後壁が心臓収縮期において当該血管の外側へ変位している場合、前記弾性指標の信頼性を高いと判定することが好ましく、また、前記血管が最小径から最大径となる期間において、前記血管後壁が血管前壁側へ0.11mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定することが好ましい。
【0008】
また、前記複数ポイントは、血管後壁上に位置し、前記特定ポイントは、血管前壁上および前記血管後壁上にそれぞれに位置することが好ましく、また、前記判定手段は、前記血管が最小径から最大径となる期間において、前記血管の中心位置が前壁側へ0.24mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定することが好ましく、また、1拍の間の血管中心変位が前壁側へ0.49mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定することが好ましい。
また、前記判定手段が前記弾性指標の信頼性を低いと判定した場合に警告する警告手段をさらに具備することが好ましい。
また、前記血管は、人体の頚動脈であることが好ましい。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る弾性指標信頼性判定方法は、超音波ビームの送受信を制御する制御ステップと、前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキングステップと、前記トラッキングステップのトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出ステップと、前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得ステップと、前記取得ステップの取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定ステップと、を具備する。
さらに、また、上記目的を達成するために、本発明に係る弾性指標信頼性判定プログラムは、上記弾性指標信頼性判定方法の各ステップをを手順として、コンピュータに実行させる構成を採る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超音波を用いて測定された弾性率の信頼性を評価し、判定することができ、その結果、得られた信頼性が乏しい場合に、測定技師等のユーザにその事実を通知することができ、ユーザが無駄な測定をそのまま継続することを防止したり、信頼性の乏しい弾性率に基づいて各種診断を行うことを防止することができ、その結果として正確な診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る超音波診断システムの主要構成の外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示す超音波診断装置およびその周辺機器の主要な構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す超音波診断装置のトラッキング処理の概要を説明するための模式図である。
【図4】トラッキングポイントP1〜P5の位置yの時間的変化の一例を示すグラフである。
【図5】図5Aおよび図5Bは、それぞれ隣接する反射体間の厚みの時間変化波形の一例を示すグラフである。
【図6】人間の頚動脈の弾性率を測定する様子を示す模式図である。
【図7】図7Aは、実施の形態1に係る超音波プローブの頚部への当接角度のバリエーションを説明するための頭部から見た頚部の断面を含む模式図であり、図7Bは、人間の頭部及び頚部の模式図である。
【図8】図8A〜図8Cは、それぞれ血管壁の径の各位置の変化速度、血管径および血管壁の各トラッキングポイントの変位の時間変化波形の一例を示すグラフである。
【図9】図9A〜図9Cは、それぞれ血管壁の径の各位置の変化速度、血管径および血管壁の各トラッキングポイントの変位の時間変化波形の別の一例を示すグラフである。
【図10】異なる方向から測定した場合の1拍の間の血管中心変位、血管後壁ならびに血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位および弾性率の信頼性を示す表である。
【図11】図11Aおよび図11Bは、弾性率の信頼性低下の原因を説明するための模式図である。
【図12】頚動脈の層構造を模式的に示す断面図である。
【図13】図13A、図13Bおよび図13Cは、それぞれ異なる方向から、さらに超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接して頚静脈をウインドウにして、測定した場合の1心拍における血管の各部位の変位を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付す。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る超音波診断システム500の主要構成の外観の一例を示す斜視図である。ここでは、探触子である超音波プローブと、その超音波プローブの制御および得られた超音波エコーの受信信号の解析を行い画像を合成する超音波診断装置と、その合成画像を表示するディスプレイと、が各々別個の構成となっている場合を例にとって説明する。
【0014】
図1に示すように、超音波診断システム500は、超音波診断装置100、超音波プローブ200、ユーザ操作部300、およびディスプレイ400を備える。
【0015】
超音波プローブ200は、図示しないが、1次元又は2次元のトランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサによって超音波ビームの送受信を行う探触子であり、超音波トランスデューサが配列された先端のアレイ部分を被検者の表面に当接させて使用される。超音波トランスデューサは、印加される駆動信号に基づいて被検体に向けて超音波ビームを送信すると共に、被検体において反射された超音波エコーを受信することにより受信信号を出力する。各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミックやPVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等の圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極を形成した振動子によって構成される。そのような振動子の電極にパルス状又は連続波の電圧を印加すると圧電体が伸縮する。この伸縮によって各々の振動子からパルス状または連続波の超音波が発生し、これらの超音波の合成によって超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波エコーを受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。これらの電気信号は、超音波エコーの受信信号として出力される。なお、超音波プローブのタイプとしては、コンベックスタイプ、リニアスキャンタイプ、セクタスキャンタイプ等の種々のタイプがある。また、超音波プローブ200は、ケーブル202によって超音波診断装置100に接続されており、その動作は超音波診断装置100によって制御される。
【0016】
超音波診断装置100は、超音波診断システム500の各部の動作を統括的に制御する機能を有し、超音波プローブ200によって超音波ビームを送受信させたり、受信した超音波エコーから断層画像を生成しディスプレイ400に表示する。また、超音波診断装置100は、断層画像としてBモード画像やMモード画像を生成し、リアルタイムにディスプレイ400に表示させる他に、血管壁等の厚さ変化波形を表示したり、観察している組織の弾性指標(例えば、ここでは弾性率)を算出し表示する機能も有している。超音波診断装置100の詳細な構成については後述する。
【0017】
ユーザ操作部300は、キーボードやポインティングデバイス、種々のボタンやダイヤル等からなり、医師、技師等のオペレータ(ユーザ)は、このユーザ操作部300を用いて超音波診断システム500を操作する。例えば、オペレータは、ユーザ操作部300を用いて、観察部位に応じた超音波診断システム500の動作様態に関わる各種設定値を指定したり、超音波プローブ200から送信する超音波ビームの焦点の深さを変更する。また、オペレータは、ユーザ操作部300を用いて関心領域(以下、ROIと略称する:Region of Interest)を指定する。
【0018】
ディスプレイ400は、例えば、ラスタスキャン方式のLCDディスプレイ等であり、超音波診断装置100から出力されるアナログ変換された画像信号に基づいて、超音波画像の動画、静止画等を表示する。
【0019】
図2は、超音波診断装置100およびその周辺機器の主要な構成を示すブロック図である。なお、図1において既に示した構成については、その説明を省略する。
【0020】
超音波診断装置100は、送受信制御部111、送信回路113、受信回路115、断層画像形成部117、表示処理部119、トラッキングポイント設定部121、トラッキング部125、血管壁厚み変化演算部127、トラッキングポイント変位演算部128、血圧入力部129、弾性率算出部132、および弾性率信頼性判定部133を備える。また、超音波診断装置100の周辺機器として、超音波プローブ200、血圧計103、およびディスプレイ400が設けられている。
【0021】
送受信制御部111は、送信回路113および受信回路115を介して超音波プローブ200の超音波ビームの送信方向および超音波エコーの受信方向を順次設定するもので、設定された送信方向に応じて送信遅延パターンを選択する送信制御機能と、設定された受信方向に応じて受信遅延パターンを選択する受信制御機能とを有している。ここで、送信遅延パターンとは、超音波プローブ200の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波によって所望の方向に超音波ビームを形成するために各超音波トランスデューサの駆動信号に与えられる遅延時間のパターンであり、受信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサによって受信される超音波によって所望の方向からの超音波エコーを抽出するために受信信号に与えられる遅延時間のパターンである。複数の送信遅延パターンおよび複数の受信遅延パターンが内部メモリ(図示せず)に格納されていて、状況に応じ適宜選択して使用される。
【0022】
送信回路113は、複数のチャネルを備えており、超音波プローブ200の複数の超音波トランスデューサにそれぞれ印加される複数の駆動信号を生成する。その際に、送受信制御部111によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数の駆動信号にそれぞれの遅延時間を与えることができる。送信回路113は、複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するように、複数の駆動信号の遅延量を調節して複数の駆動信号をそれぞれ超音波プローブ200の複数の超音波トランスデューサに供給するようにしても良いし、複数の超音波トランスデューサから一度に送信される超音波が被検体の撮像領域全体に届くように構成した複数の駆動信号を超音波プローブ200に供給するようにしても良い。
【0023】
受信回路115は、送信回路113と同様に複数のチャネルを備えており、複数の超音波トランスデューサを介して受信された複数のアナログ信号を増幅し、デジタルの受信信号に変換する。さらに、送受信制御部111によって選択された受信遅延パターンに基づいて、複数の受信信号にそれぞれの遅延時間を与え、それらの受信信号を加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理によって、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(音線データ)が形成される。
【0024】
次に、受信回路115は、音線データに対し、ローパスフィルタ処理等によって包絡線検波処理を施して、STC(Sensitivity Time gain Control:センシティビティ・タイム・ゲイン・コントロール)によって超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正をする。こうして処理された音線データは、複数フレーム分の音線データを蓄積するための記憶容量を有するシネメモリ(図示せず)に順次格納される。受信回路115は、画像データ生成部(図示せず)を備え、ライブモードにおいては直接供給される音線データを画像データ生成部へ入力し、フリーズモードにおいてはシネメモリから供給される音線データを画像データ生成部へ入力して、音線データに対してLog(対数)圧縮やゲイン調整等のプリプロセス処理を施して画像データを生成し、これを断層画像形成部117およびトラッキングポイント設定部121へ出力する。
【0025】
断層画像形成部117は、受信回路115から供給された超音波画像の画像データを通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像データに変換(ラスター変換)し、さらに階調処理等の必要な画像処理を施した上で表示処理部119へ出力する。
【0026】
トラッキングポイント設定部121は、受信回路115から供給された画像データによって表される超音波画像においてROI(関心領域)を設定し、このROI内において被検体の深さ方向(超音波の送信方向)に、血管壁変位波形や血管径等の自動追跡(トラッキング)のための複数のトラッキングポイントを設定する。このトラッキングポイントに関する情報は、トラッキング部125へ出力される。なお、トラッキングポイントの設定は、オペレータがディスプレイ400上の表示を見ながら手動で行っても良いし、トラッキングポイント設定部121が特定のアルゴリズムに基づいて自動設定で行っても良い。
【0027】
また、トラッキングポイント設定部121で設定されるトラッキングポイントは、後述する弾性率の信頼性判定にも使用されるが、血管壁変位波形や血管径等の自動追跡のために設定されたトラッキングポイントの全てを弾性率の信頼性判定に使用する必要はないので、全トラッキングポイントの中から、オペレータが弾性率の信頼性判定用の特定のトラッキングポイントを手動で1以上、好ましくは複数設定できるようにしても良いし、トラッキングポイント設定部121が特定のアルゴリズムに基づいて弾性率の信頼性判定用の特定のトラッキングポイントを1以上、好ましくは複数自動設定しても良い。
なお、本実施形態では、トラッキングポイント設定部121によるROIの設定は、オペレータのユーザ操作部300によるROIの手動指定に従って行われるが、画像データに基づいて自動で行われるようにしても良い。例えば、頚動脈の超音波診断の場合、(1)血管内は超音波エコーが弱く、Bモード画像上では低輝度であり、(2)頚動脈が見える断面においては、頚動脈は約1cm程度の太さで血管としては一番太いことから、画像データより比較的簡単に自動検出することができる。
【0028】
トラッキング部125は、トラッキングポイント設定部121で設定されたトラッキングポイントを超音波断層画像データから自動識別し、これらを追跡対象としてトラッキングポイントの変位、即ち、血管壁の位置変化(血管壁変位)を把握する。トラッキング部125は、血管壁変位波形として、血管壁の位置変化を把握することにより得られた血管壁の厚み変化波形を血管壁厚み変化演算部127へ出力すると共に、弾性率の信頼性判定用の特定トラッキングポイントの変位をデータとして変位量算出部128へ出力する。なお、トラッキング部125から血管壁厚み変化演算部127に出力される変位のデータには、血管壁の後壁の変位だけの場合と、後壁の変位と前壁の変位との両方の場合があっても良い。
【0029】
血管壁厚み変化演算部127は、トラッキング部125のトラッキングで得られた血管壁の厚み変化波形に基づいて、心臓収縮期血管径(最大血管径)Dsおよび心臓拡張期血管径(最小血管径)Ddを求める。すなわち、画像データから血管径Dの変化を追跡し、最大血管径Dsおよび最小血管径Ddを求める。また、血管壁厚み変化演算部127は、血管壁の厚み変化波形から血管壁厚み変化を算出して弾性率算出部132へ出力する。
【0030】
トラッキングポイント変位演算部128は、トラッキング部125から供給される弾性率の信頼性判定用の特定トラッキングポイントの変位データから、特定トラッキングポイントの被検体の深さ方向(超音波の送信方向)における変位の向き及び変位量を演算し、演算結果である変位の向き及び変位量を弾性率信頼性判定部133へ出力する。
【0031】
一方、血圧計103は、カフ式の血圧計であり、被検体の上腕にカフを巻き付け、心臓の収縮および拡張の各々に対応して最高値Psおよび最低値Pdを測定する。測定された血圧データは、自動あるいは手動で超音波診断装置100の血圧入力部129へ入力される。
【0032】
血圧入力部129は、血圧計103と超音波診断装置100とのインターフェースであり、入力された血圧データを弾性率算出部132へ出力する。
【0033】
弾性率算出部132は、血管壁厚み変化演算部127および血圧入力部129からそれぞれ供給される血管壁厚み変化データおよび血圧データを用いて、血管弾性を示す指標の一つである弾性率を演算により求め、弾性率信頼性判定部133へ出力する。
【0034】
弾性率信頼性判定部133は、変位量算出部128から出力される変位の方向および変位量についてのデータに基づき、弾性率算出部132から供給される弾性率データの信頼性について後述のプロセスにより評価し、判定し、その判定結果を表示処理部119へ出力する。
【0035】
表示処理部119は、断層画像形成部117から供給される画像データに基づいて、表示用の画像データを生成する。この表示用の画像は、主に、Bモード画像やMモード画像等の断層画像、血管壁の厚さ変化波形等であるが、弾性率信頼性判定部133から供給された評価結果や判定結果も併せて表示される。また、表示処理部119は、弾性率信頼性判定部133から弾性率の信頼性が低い旨の通知信号が入力されてきた場合には、ディスプレイ400上に、文字、図形等を表示することにより、ユーザへその旨警告する。この警告は、アラーム音等を鳴らす態様であっても良い。なお、表示処理部119に、ゲイン調整およびコントラスト調整を含む線形の階調処理や、γ補正を含む非線形の階調処理等の画像処理を施す画像処理機能を付属させても良い。さらに、表示処理部119は、D/A変換器を備え、表示用の画像データをアナログの画像信号に変換して外部のディスプレイ400へ出力する。
【0036】
図3は、本実施の形態に係る超音波診断装置100が血管壁に対し行うトラッキング処理の概要を説明するための模式図である。
【0037】
トラッキング処理の手法には、断層画像のパターンマッチング法、ゼロクロス点法、組織ドプラ法、位相差トラッキング法等の様々な手法があり、原則、どの手法に依っても良い。本実施の形態に係る超音波診断装置100は、1つの超音波ビーム上に設定した血管後壁側の内膜中膜複合体上の複数の反射体の位置変位を、直交検波出力の振幅情報もしくは位相情報を用いて、またはその両方を用いてトラッキングを行う。
【0038】
例えば、図3は、超音波プローブ200から被検体21へ向けて超音波ビームB26を送信し、この超音波ビームB26を、血管前壁23および血管内腔24を通過させて血管後壁25上のトラッキングポイントP1、P2、P3、P4およびP5に到達させ、超音波診断装置100において、各トラッキングポイントP1〜P5からの超音波エコー信号を超音波プローブ200を介して受信し、トラッキング部125で血管22の血管壁、したがってその厚みをトラッキングする例である。トラッキングポイントP1〜P5は、トラッキングポイント設定部121によって、血管後壁25上に、5つの反射体の位置、すなわち第1〜第5反射体(以下、それぞれ反射体1、反射体2、反射体3、反射体4および反射体5と呼ぶ)の位置としてそれぞれ手動又は自動で設定されたものである。トラッキング部125は、設定されたトラッキングポイントP1、P2、P3、P4およびP5をトラッキングし、各トラッキングポイントの時間的な位置変化を求める。
【0039】
なお、ここでは、血管後壁25上にプラーク27があり、血管内腔24側へ血管後壁25の一部が盛り出しているプラーク27の部分のトラッキングをする例を示したが、当然のことながら、超音波診断装置100のトラッキング処理はプラークがない場合でも可能である。
【0040】
図4は、トラッキング部125で得られるトラッキングポイントP1〜P5の位置yの時間的変化の一例を示すグラフである。位置の変化を表す曲線L1〜L5は、トラッキングポイントP1〜P5の各々に対応したものである。この図から、1回の心拍においてトラッキングポイントP1〜P5の位置がどのように変化するか、また、トラッキングポイントによって変位量(凹み具合)に差があることが読み取れる。そこで、隣合う反射体の位置(例えば、P2とP3)の変化の差分をとれば、血管壁厚みの時間変化波形を求めることができる。
【0041】
図5Aは、血管壁の隣合う反射体である反射体1と反射体2の間の厚みの時間変化波形であり、図中Δh1は、厚みの変化分を示す。図5Bは、反射体3と反射体4の間の厚みの時間変化波形であり、図中Δh3は、厚みの変化分を示す。これらの図から、反射体3と反射体4の間の組織は比較的柔らかいため圧力により大きく凹むことができる組織であるのに対し、反射体1と反射体2の間の組織は、比較的固いため圧力により大きく凹むことができない組織、つまり硬化した組織であることがわかる。
【0042】
このように、血管壁厚みの時間変化波形によって血管壁の弾性の度合いを把握することができるが、より定量的な議論をするために、血管の径方向の歪みεを次式(1)によって算出することができる。
【0043】
【数1】
ここで、εiは、血管壁の反射体i及びi+1の間の径方向の歪み、Δhiは、心臓収縮期での反射体i及びi+1の間の厚み変化の最大値、hdiは、心臓拡張期末期での反射体i及びi+1の間の厚みを表す。
【0044】
また、弾性率算出部132では、血圧計103で測定した血圧をさらに用いて、次式(2)、(3)に従って、血管壁の各反射体間の径方向の弾性率Eri、円周方向の弾性率Eθiを算出することができる。
【0045】
【数2】
ここで、rdは心臓拡張末期での血管内半径、hdは心臓拡張末期での血管壁厚み、hdiは心臓拡張期末期での反射体i及びi+1の間の厚み、Δhiは心臓収縮期での反射体i及びi+1の間の厚み変化の最大値、Δpは心臓収縮期と拡張末期の間の血圧差を表す。
【0046】
上記の方法により血管壁等の弾性率測定は行われるが、本発明者の検討により、トラッキングを上記方法に則って測定した場合には弾性率の測定精度が著しく低下する場合があることがわかってきた。これは、弾性率の測定が、運動している血管壁の微小変位を正確にトラッキングできることを前提としているためと考えられる。例えば、諸々の原因により、トラッキングポイントを誤認識する等により、この微小変位のトラッキング自体に失敗した場合、その結果得られる弾性率が全く意味のない値になってしまうことがあることがわかってきた。以下、この観点について詳細に説明する。
【0047】
典型的な例として、本明細書では、頚動脈を対象として弾性率の測定をする場合を例にとって説明する。頚動脈を対象とした場合に、特定のケースで弾性率の精度が著しく低下する現象が発生する。図6は、本実施の形態に係る超音波診断装置100を用いて人間の頚動脈の弾性率を測定する様子を示す図である。ここでは、超音波プローブ200を頚動脈31に沿って被検者の頚部32に当接させながら頚動脈壁の観察を行う。
【0048】
頚動脈31の深さは概ね1〜3cmであるため、その観察に必要な深さDは概ね3cm程度である。また、人体内の平均音速Vsは1400〜1600m/sであり、健常者の頚動脈では、血管内腔と血管後壁内膜との境界は、1心拍で0.5mm程度変位し、当該境界の深さ方向の変位速度は5〜8mm/s程度であることが分かっている。このため、再現性が良く信頼性の高い歪みεを算出するためには、当該境界およびその周囲に設定したトラッキングポイントの計測誤差を、頚動脈壁の1心拍の変位量0.5mmの10%程度以下に抑え、精密にトラッキングする必要がある。従って、健常者の頚動脈を観察する場合、0.05mm÷5m/s=0.01sであり、0.05mmの変位を捕捉するためには、フレームレートFRは100[1/s]以上であることが必要である。さらに、高血圧等のために、心拍に応じた血管壁の動きが速い被検者の場合には、FR=400[1/s]程度であることが望ましい。これらのことから、超音波診断装置100では、D=3、Vs=1400m/s、FR=400[1/s]とする。なお、1フレーム当たりの超音波ビームの送信回数は58とする。
【0049】
そして、超音波プローブ200は、図6に示すように、頚動脈31に沿って頚部32に当接されるが、本発明者の詳細な検証によると、医師もしくは技師(以下、単に技師等という)によって、頚部32のどの方向から超音波プローブ200を当てるか一般的に大別して2種類のパターンがある。図7Aは、超音波プローブ200の頚部32への当接角度のバリエーションを説明するための模式図である。この図7Aは、図7Bに示す頚部32の頭部41から見たA−A線における断面図を示す。図7Aに示すように、頚部32に対し超音波プローブ200を当接する方向には、次に示す2通りの方法がある。第1の方法は、方向D51から当接させ頚動脈31を観測する方法である。これは被検者の正面から超音波プローブ200を当てることに相当する。第2の方法は、方向D52から超音波プローブ200を当接させ、頚静脈35をウインドウ(窓:Window)として、ウインドウ越しに(頚静脈35を介して)頚動脈31を観察する方法である。このとき、超音波プローブ200から送信された超音波ビームは頚静脈35を通過してから頚動脈31に達する。この当て方は被検者の横から超音波プローブ200を当てることに相当する。
【0050】
第2の方法を採用する理由の1つとしては、静脈は、血液で満たされているため超音波ビームの反射がほとんど起こらず、また、頚静脈は、図7Aに示すように、頚動脈に近接した位置関係にある。そのため、超音波ビームが先に通過する組織(頚静脈)からのアーチファクトが診断対象である組織(頚動脈)の超音波画像に重畳して血管内腔が不鮮明に映る現象(かぶり現象)を防ぐことができる。すなわち、第2の方法によれば比較的画質の良い画像を得やすいということが理由として考えられる。
【0051】
図8A〜図8Cは、血管壁のトラッキングが精度良く実施された場合の信頼性が高い血管壁に関する指標(以下では、総称して血管壁厚みともいう)の時間変化波形の一例である。これは、被検者の正面から超音波プローブ200を当てて測定した例である。
具体的には、図8Aは、血管壁の径の各位置(詳細には、前壁外膜側、後壁内膜側、後壁外膜側、前壁外膜−前壁内膜)の変化速度の時間的変化を示す図、図8Bは、血管径(詳細には、前壁外膜と後壁内膜との間の距離)の時間的変化を示す図、図8Cは、血管壁の各トラッキングポイント(詳細には、前壁外膜側位置、略中心位置、後壁内膜側位置、後壁外膜側位置)における変位の時間的変化を示す図である。
図8Aから分かる通り、血管壁のトラッキングが精度良く実施された場合の信頼性が高い血管壁厚みの時間変化波形が得られた場合には、波形は速度0のラインを境に上下対称に近い状態で波形が現れる。例えば、図8Aの前壁外膜側と後壁内膜や後壁外膜とが対称に近いならば信頼性が高くなり、また、例えば、図8Cにおいても、前壁外膜側と後壁内膜側や後壁外膜側とが対称に近いと信頼性が高くなる。即ち、このような上下対称に近い形状を有した血管壁厚みの時間変化波形からは、一般的に信頼性の高い血管弾性率が得られることが期待できる。
【0052】
なお、図8Cにおいて、2点鎖線は、略中心位置の変位を示すが、具体的には、前壁外膜側と後壁内膜側との間の真中の点の変位である。正確な中心位置は、前壁内膜側と後壁内膜側とを用いる方が良いが、ここでは、超音波診断で診易い(即ち、超音波エコーが強い、他の箇所からのかぶり等のノイズが少ない)前壁外膜側と後壁内膜側を用いている。超音波診断において、信頼性判定に用いるのは、上述したように、前壁と後壁が対称的に動いているか否かである。したがって、後壁内膜側と後壁外膜側は、径変化というスケールでは同じような動きをするので、変位波形としては、(前壁外膜側−後壁内膜側の変位)≒(前壁内膜側−後壁内膜側の変位)≒(前壁外膜側−後壁外膜側の変位)となる。以上から、図8Aにおいては、2点鎖線で示される前壁外膜−前壁内膜)の変化速度の時間的変化を求めている。
【0053】
一方、図9A〜図9Cは、血管壁のトラッキング精度が悪く実施された場合の信頼性が低い血管壁に関する指標(血管壁厚み)の時間変化波形の一例であり、それぞれ図8A〜図8Cと同様に、血管壁の径の各位置の変化速度、血管径、及び血管壁の各トラッキングポイントにおける変位の時間的変化を示す図である。ここでは、被検者の横から超音波プローブ200を当てて測定した場合の例である。図9Aに示される波形は、図8Aと異なり、速度0のラインを境に上下に非対称の波形が現れる。この波形は、血管壁のトラッキングが正常に機能していない場合によく得られる波形であり、この際に得られる血管弾性率は、一般的に信頼性が低いことが予想される。なお、図9Cにおいては、図8Cとは逆に、前壁外膜側と後壁内膜側や後壁外膜側とが対称でないので、信頼性が低くなる。
【0054】
ここで、測定される弾性率の信頼性が低い場合の理由を考察する。弾性率の測定は、運動している血管壁の微小変位をトラッキングする必要があるが、血管自体の位置が動いてしまうと、(1)血管の変位が超音波ビームのエレベーション方向の中心軸からずれる、(2)変動幅自体が大きくなるため微小変位をトラッキングする際の誤差が大きくなる、また、(3)そもそも技師等の手がずれ、超音波プローブの当てている位置がずれてしまう等といった現象が考えられる。この事実から、信頼性を評価し、判定するには、血管自体の位置が大きく動いているか否かを判断すれば良いことに本発明者は思い至った。そこで、本実施の形態に係る超音波診断装置100は、血管の中心の位置を求め、この時間的変化を捕捉することにより、測定された血管弾性率の信頼性を判定する。具体的には、超音波診断装置100は、血管の前壁と後壁の位置の平均を算出し、これを血管の中心位置とする。なお、より高精度を求める場合には、前壁外膜の位置と後壁内膜の位置との平均を算出し、これを血管の中心位置としても良い。すなわち、前壁外膜の位置と後壁内膜の位置との真中を血管の中心位置としても良い。
【0055】
図10は、信頼性が高い血管壁厚みの時間変化波形が得られた場合と、信頼性が低い血管壁厚みの時間変化波形が得られた場合の、双方のケースにおける1拍の間の血管中心変位、血管後壁および血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位および弾性率の信頼性を示す表である。
まず、図10の異なる2つの方向から測定した場合、すなわち、信頼性が高い血管壁厚みの時間変化波形が得られた「前(正面)から」測定した場合と、信頼性が低い血管壁厚みの時間変化波形が得られた「静脈をウィンドウ」にして横から測定した場合との1拍の間の血管中心変位、血管後壁および血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位、ならびに弾性率の信頼性について説明する。
【0056】
ここで、弾性率の信頼性は、一般的に健常者であれば弾性率が300kPa以下であることが予想されるため、300kPa以下の場合を「信頼性:○」、この300kPaから著しく離れた値を採った場合を「信頼性:×」と評価した。この図からわかる通り、正面から測定した場合(図8A〜図8Cのケース)では、弾性率の信頼性が高いのに対し、横から頚静脈をウインドウにして測定した場合(図9A〜図9Cのケース)では、弾性率の信頼性が乏しいことがわかる。
さらに、血管中心位置の変位量に着目すると、血管の中心位置の変位量が、0.1mm近傍(0.09〜0.12)では信頼性が「○」で信頼性が高いことが分かる。一方、血管の中心位置の変位量が、0.49mm以上では信頼性が「×」で信頼性が低いことがわかる。
また、血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位量に着目すると、血管中心の最小径及び最大径両タイミングの変位量が、僅かな負の値(−0.07mm〜−0.03mm)では信頼性が「○」で信頼性が高いことが分かる。一方、血管中心の両タイミングの変位量が、0.24mm以上の正の値(0.24mm〜0.34mm)では信頼性が「×」で信頼性が低いことがわかる。本実施の形態では、血管中心の両タイミングの変位量が、前壁側に0.24mm以上変位した場合、弾性指標の信頼性が低いと判定することもできる。
そこで、本実施の形態に係る超音波診断装置100は、血管の中心位置が前壁側へ0.24mm以上変位した場合、弾性指標の信頼性が低いと判定することにする。
【0057】
このように、特に、頚静脈のウインドウ越しに頚動脈を観察した場合に弾性率の信頼性が低下することが分かった。図11Aおよび図11Bは、弾性率の信頼性低下の原因を説明するための模式図である。この図により、弾性率の信頼性が低下するメカニズムを推察することができる。例えば、方向D51においては、頚動脈31は方向D51上の両方の組織に挟まれた状態となっており動きにくい状況にある。一方、方向D52においては、頚静脈35は周囲の組織よりも圧力が低い状態にあるため、頚動脈31は頚静脈35の方へ拡張し易い状況にある。従って、図11Bに示す通り、頚動脈31は頚静脈35側へ偏重して拡張することとなる(拡張後の頚動脈31aの輪郭を破線で示す)。かかる場合、(1)血管の変位が超音波ビームのエレベーション方向の中心軸からずれる状態、または(2)変動幅自体が大きくなるため微小変位をトラッキングする際の誤差が大きくなる状態、が顕著に現れるため、弾性率の信頼性が低下すると考えられる。なお、図11Aから分かるように、頚動脈31の中心は、方向D52の方へは移動するが、方向D51の方へは、ほとんど移動しない。
【0058】
このように信頼性低下のメカニズムの分析が進むと、先ほどは血管の中心位置を求め、この変位に基づいて信頼性を判断する態様を示したが、方向D52から頚静脈のウインドウ越しに頚動脈を観察する場合のように、変位方向が特異的な血管後壁の動きを観察することによって、信頼性を判定できることがわかる。すなわち、本発明者は、血管を構成する各層のうち血管後壁のみに着目し、これを直接トラッキングすることにより、弾性率の信頼性判定が可能となることを見出した。
【0059】
図12は、頚動脈の層構造を模式的に示す断面図である。ここでは、詳細な断面図を示したため、血管後壁として、後壁内膜78、後壁中膜79、後壁外膜81まで示してあるが、本実施の形態では、トラッキング対象として血管後壁のうち、特にトラッキングによる追従性能が高い、「後壁血管腔−内膜境界77」または「後壁中膜−外膜境界80」を用いる。特に、画像データにおいて血管腔は一般に信号レベルが低いため、トラッキングの失敗につながり易い。そこで、Mモード画像上において明確にラインが現れる「後壁血管腔−内膜境界77」または「後壁中膜−外膜境界80」を用いることが望ましい。これにより、測定時間の短縮につながり、医師等や被検者の負荷を軽減することができる。
なお、図12には、血管前壁として、前壁外膜71、前壁中膜73、および前壁内膜74が示され、前壁外膜−中膜境界72、前壁内膜−血管腔境界75、および血管腔76も示されている。
【0060】
本発明者は、更に新たな着想に至った。通常のトラッキングにおいては、心拍に伴い血管がその位置を変えずに、単純に血管径が拡張伸縮する場合を想定して行われる。このとき、血管壁は心拍に伴い血管中心を対称軸として単純に拡張伸縮するだけである。すなわち、血管前壁と血管後壁は、互いに逆方向である当該血管の外側へ変位する。しかし、先に示した通り、頚動脈を頚静脈をウインドウにして画像を得る場合には、血管全体が心拍に伴い頚静脈側へずれる(移動する)状態となる。このとき、血管壁のうち、血管前壁は通常の場合と同方向に変位するが、一方、血管後壁は血管の外側へ変位するのではなく、血管前壁と同方向、すなわち前壁側へと変位する場合が多くなる。そこで、本発明者は、血管後壁の変位方向に着目し、この向きによって血管率の信頼性を判定できることを着想した。
【0061】
図13A、図13Bおよび図13Cは、それぞれ異なる方向(前、静脈をウインドウにして横)から、および超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接して頚静脈をウインドウにして横から測定した場合の1心拍における血管の各部位(血管壁位置:トラッキングポイント)の変位(変位方向及び変位量)を示したグラフである。
まず、図10の表の「前」および「静脈をウィンドウにして横」の異なる2方向から測定した場合に相当する図13Aおよび図13Bに付いて説明する。
これらの図から分かる通り、変位の向きには特徴があり、信頼性が低下する図13Bのケースでは、変位の方向、より具体的には後壁の変位が前壁側へ変位する向きの場合には信頼性が低下する。先に示した図8A〜8Cまたは図9A〜図9Cでは、血管壁厚みの時間変化波形に基づいて弾性率の信頼性をある程度予想することができたが、図13Aおよび図13Bでは、血管壁の変位の方向から弾性率の信頼性を判定できることがわかる。
【0062】
また、図10の表の異なる2つの方向から測定した場合は、血管壁の変位の方向から信頼性を判定できることを説明するための表ということができ、ここでは、図10において血管後壁の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位について説明する。この表から分かる通り、血管後壁の最小径及び最大径両タイミングの変位量が、−0.14mm以下の負の値(−0.19mm〜−0.14mm)では信頼性が「○」で信頼性が高いことが分かる。すなわち、血管後壁が、心臓収縮期において血管の外側へ変位している場合には、弾性指標の信頼性を高いと評価し、判定することができる。
一方、血管後壁の両タイミングの変位量が0.11mm以上の正の値を採っている場合は信頼性が「×」で信頼性に乏しいケースであることがわかる。そこで、本実施の形態に係る超音波診断装置100は、血管の後壁が前壁側へ0.11mm以上変位した場合、弾性指標の信頼性が低いと判定することにする。
【0063】
また、本発明者のさらなる検討により、頚静脈をウインドウにして横から測定する場合でも、血管の中心位置の変位量を抑えられ、信頼できる弾性率が取得できる測定方法が存在することもわかってきた。
【0064】
図13Cは、頚静脈をウインドウにして横から測定した場合の1心拍における血管の各部位(血管壁位置:トラッキングポイント)の変位(変位方向および変位量)を示したグラフであるが、超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接し測定した場合である。このようにすることで、頚静脈に外圧が加わり頚静脈内の圧力が高くなるため、頚動脈が頚静脈側に移動しにくくなり、血管の変位量を抑えられ、信頼できる弾性率が取得できるようになったと考えられる。
【0065】
図10の「静脈をwindowにして加圧」の表は、上記の図13Cのケース、すなわち、超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接し頚静脈をウインドウにして横から測定した場合の弾性率の信頼性を示した表である。
この表から分かる通り、血管中心位置の変位量に着目すると、血管の中心位置の変位量は、正面(前)から測定した場合に比べると少し大きいが、横から頚静脈をウインドウにして測定した場合に比べて大幅に小さく、前壁側への変位は、0.12mm〜0.21mmで0.3mm未満であり、信頼性が「○」となり、信頼性が高くなったことが分かる。 また、血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位量に着目すると、この変位量は、正面(前)から測定した場合に比べると大きいが、横から頚静脈をウインドウにして測定した場合に比べて大幅に小さく、前壁側への変位は、−0.01mm〜+0.08mmで0.01mm未満であり、信頼性が「○」となり、信頼性が高くなったことが分かる。
【0066】
さらに、血管後壁の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位量から変位方向に着目すると、血管後壁の変位方向は、横から頚静脈をウインドウにして測定した場合の血管の後壁の前壁側へ変位ではなく、正面(前)から測定した場合と同様に、血管の後壁側への変位であり、信頼性が「○」となり、信頼性が高くなったことが分かる。
このように、頚静脈をウインドウにして横から測定した場合であっても、超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接し頚静脈をウインドウにして横から測定した場合には、信頼性の高い弾性率が得られていることがわかる。
【0067】
このように、本発明は、この技師等の手技によって異なる測定結果が得られる系においても、その測定を継続して良いかどうかの客観的な指針を与えることができる。
【0068】
以上説明したように、本発明の超音波診断装置によれば、心臓拍動に基づく血管壁等の厚さ変化波形を算出し、弾性指標または弾性画像を算出する超音波診断装置において、血管壁または血管中心位置の移動量を算出、表示することにより、血管弾性の信頼性に関する警告を行うことができる。血管の弾性率の測定精度の低下は、上記の通り、測定技師の超音波プローブを人体に対し当てる方向等に起因するものであり、測定精度が低下する可能性を測定技師に教えることができれば、測定技師は超音波プローブの当てる方向または圧迫度合い等を修正することができるため、測定精度の低下は回避できる性質のものである。
【0069】
また、以上の構成において、心臓拍動に基づく血管壁等の厚さ変化波形を算出し、弾性指標または弾性画像を算出する超音波診断装置において、血管壁または血管中心位置の移動量を算出、表示することにより、血管弾性の信頼性に関する警告を行うことができる。
【0070】
なお、以上説明した本発明に係る実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。本発明に係る超音波診断装置等は、上記実施の形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能である。
【0071】
例えば、本明細書では、頚動脈の血管弾性率の信頼性を判定する場合を例にとって説明したが、本質的には、心拍により脈動する血管の局所点をトラッキングすることにより弾性率等の弾性指標を測定する場合であれば本発明を適用することができる。すなわち、対象は頚動脈に限定されず、腹部大動脈、腸骨動脈等も対象とすることができる。
【0072】
また、脈動していなくても良い。何かしらの外力を与えることによりトラッキングポイントが移動し、この移動の方向および変位量に基づいて弾性率を測定できる系であれば良い。
【0073】
また、上記実施の形態では、血管の弾性指標として弾性率を使用する場合を例にとって説明したが、血管の弾性指標として血管の径方向の歪みを使用する態様でも良い。
【0074】
上記実施の形態における各構成は、主に、中央演算装置(CPU)とCPUに各種の処理を行わせるためのソフトウエアとによって構成されるが、これらをデジタル回路またはアナログ回路等のハードウエアで構成しても良い。なお、ソフトウエアは、図示しない内部メモリに記憶される。
【0075】
また、本発明に係る血管弾性指標信頼性評価又は判定方法のアルゴリズムをプログラミング言語によって記述し、必要に応じてコンパイルし、この血管弾性指標信頼性評価又は判定プログラムをメモリ(記録媒体)に記憶して他の装置の情報処理手段によって実行させれば、本発明に係る超音波診断装置と同様の機能を実現することができる。
すなわち、本発明に係る血管弾性指標信頼性評価又は判定方法は、プログラムを実行することによってコンピュータ上で処理することができる。
例えば、本発明の血管弾性指標信頼性評価又は判定プログラムは、上述した血管弾性指標信頼性評価又は判定方法の各ステップをコンピュータ、具体的にはそのCPUに行わせる手順を有するものである。これらの手順からなるプログラムは、1つまたは複数のプログラムモジュールとして構成されていても良い。
これらのコンピュータが実行する手順からなる血管弾性指標信頼性評価又は判定プログラムは、コンピュータまたはサーバのメモリ(記憶装置)内に記憶されるものであっても良いし、記録媒体に記憶されるものであっても良く、実行時に、当該コンピュータ(CPU)または他のコンピュータによって、メモリまたは記録媒体から読み出されて実行されるものである。したがって、本発明は、上記の血管弾性指標信頼性評価又は判定方法をコンピュータに実行させるための血管弾性指標信頼性評価又は判定プログラムを記憶したコンピュータに読み取り可能なメモリもしくは記録媒体であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る超音波診断装置、弾性指標信頼性評価又は判定方法および弾性指標信頼性評価又は判定プログラムは、例えば病院内でカートに載せて各部屋を移動する超音波診断装置のみならず、患者が自宅で使用するような軽量で携帯式の超音波診断装置や、超音波を用いて血管弾性指標のみを測定するような測定装置等の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
100 超音波診断装置
125 トラッキング部
127 血管壁厚み変化演算部
132 弾性率算出部
133 弾性率信頼性判定部
200 超音波プローブ
300 ユーザ操作部
400 ディスプレイ
500 超音波診断システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて血管の弾性指標を測定して、その信頼性を評価し、判定する技術に係り、特に、超音波を用いた測定により得られた血管弾性指標の信頼性を判定する超音波診断装置、弾性指標信頼性判定方法、および弾性指標信頼性判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋の音響的・弾性的特性に基づいて心臓の非侵襲的診断を行なうためには、心臓壁の各部位の振幅数十μm以下の微小振動を数百Hzまでの周波数帯域にわたって数拍以上連続して経皮的に計測する必要がある。そこで、検波信号の振幅及び位相を用いて血管壁の瞬時的な位置を決定し、心臓拍動に基づく血管壁の大きな振幅変位運動をトラッキングすることにより、血管の弾性率を求める技術がある(特許文献1参照)。具体的には、血管壁の順次の位置に基づき、血管壁の微小振動の運動速度波形を求め、血管壁内部の深さ方向に所定間隔でとられた局所ごとのトラッキング軌跡を求め、局所ごとの厚みの時間変化を算出することにより血管の弾性率を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−5226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、血管の弾性率の測定は、心拍により常に運動している血管壁の変位をトラッキングする必要があるが、その心拍による変位が過大であったり、測定対象である血管自体の位置がずれてしまうと、トラッキングに失敗し、得られる弾性率の信頼性が低下することがわかってきている。
【0005】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、超音波を用いて測定された弾性率等の弾性指標の信頼性を評価し、判定することができ、その結果、得られた信頼性が乏しい場合に、測定技師等のユーザにその事実を通知することができ、信頼性の乏しい弾性率等の弾性指標に基づいて各種診断を行うことを防止することができ、その結果として正確な診断を行うことができる超音波診断装置、弾性指標信頼性判定方法および弾性指標信頼性判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る超音波診断装置は、超音波ビームの送受信を制御する制御手段と、前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキング手段と、前記トラッキング手段のトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出手段と、前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得手段と、前記取得手段の取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定手段と、を具備する構成を採る。
【0007】
ここで、前記複数ポイントは、血管後壁上に位置し、記特定ポイントは、少なくとも前記血管後壁上に位置することが好ましく、また、前記判定手段は、前記血管後壁が心臓収縮期において当該血管の外側へ変位している場合、前記弾性指標の信頼性を高いと判定することが好ましく、また、前記血管が最小径から最大径となる期間において、前記血管後壁が血管前壁側へ0.11mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定することが好ましい。
【0008】
また、前記複数ポイントは、血管後壁上に位置し、前記特定ポイントは、血管前壁上および前記血管後壁上にそれぞれに位置することが好ましく、また、前記判定手段は、前記血管が最小径から最大径となる期間において、前記血管の中心位置が前壁側へ0.24mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定することが好ましく、また、1拍の間の血管中心変位が前壁側へ0.49mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定することが好ましい。
また、前記判定手段が前記弾性指標の信頼性を低いと判定した場合に警告する警告手段をさらに具備することが好ましい。
また、前記血管は、人体の頚動脈であることが好ましい。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る弾性指標信頼性判定方法は、超音波ビームの送受信を制御する制御ステップと、前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキングステップと、前記トラッキングステップのトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出ステップと、前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得ステップと、前記取得ステップの取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定ステップと、を具備する。
さらに、また、上記目的を達成するために、本発明に係る弾性指標信頼性判定プログラムは、上記弾性指標信頼性判定方法の各ステップをを手順として、コンピュータに実行させる構成を採る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超音波を用いて測定された弾性率の信頼性を評価し、判定することができ、その結果、得られた信頼性が乏しい場合に、測定技師等のユーザにその事実を通知することができ、ユーザが無駄な測定をそのまま継続することを防止したり、信頼性の乏しい弾性率に基づいて各種診断を行うことを防止することができ、その結果として正確な診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る超音波診断システムの主要構成の外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示す超音波診断装置およびその周辺機器の主要な構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す超音波診断装置のトラッキング処理の概要を説明するための模式図である。
【図4】トラッキングポイントP1〜P5の位置yの時間的変化の一例を示すグラフである。
【図5】図5Aおよび図5Bは、それぞれ隣接する反射体間の厚みの時間変化波形の一例を示すグラフである。
【図6】人間の頚動脈の弾性率を測定する様子を示す模式図である。
【図7】図7Aは、実施の形態1に係る超音波プローブの頚部への当接角度のバリエーションを説明するための頭部から見た頚部の断面を含む模式図であり、図7Bは、人間の頭部及び頚部の模式図である。
【図8】図8A〜図8Cは、それぞれ血管壁の径の各位置の変化速度、血管径および血管壁の各トラッキングポイントの変位の時間変化波形の一例を示すグラフである。
【図9】図9A〜図9Cは、それぞれ血管壁の径の各位置の変化速度、血管径および血管壁の各トラッキングポイントの変位の時間変化波形の別の一例を示すグラフである。
【図10】異なる方向から測定した場合の1拍の間の血管中心変位、血管後壁ならびに血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位および弾性率の信頼性を示す表である。
【図11】図11Aおよび図11Bは、弾性率の信頼性低下の原因を説明するための模式図である。
【図12】頚動脈の層構造を模式的に示す断面図である。
【図13】図13A、図13Bおよび図13Cは、それぞれ異なる方向から、さらに超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接して頚静脈をウインドウにして、測定した場合の1心拍における血管の各部位の変位を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付す。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る超音波診断システム500の主要構成の外観の一例を示す斜視図である。ここでは、探触子である超音波プローブと、その超音波プローブの制御および得られた超音波エコーの受信信号の解析を行い画像を合成する超音波診断装置と、その合成画像を表示するディスプレイと、が各々別個の構成となっている場合を例にとって説明する。
【0014】
図1に示すように、超音波診断システム500は、超音波診断装置100、超音波プローブ200、ユーザ操作部300、およびディスプレイ400を備える。
【0015】
超音波プローブ200は、図示しないが、1次元又は2次元のトランスデューサアレイを構成する複数の超音波トランスデューサによって超音波ビームの送受信を行う探触子であり、超音波トランスデューサが配列された先端のアレイ部分を被検者の表面に当接させて使用される。超音波トランスデューサは、印加される駆動信号に基づいて被検体に向けて超音波ビームを送信すると共に、被検体において反射された超音波エコーを受信することにより受信信号を出力する。各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミックやPVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等の圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極を形成した振動子によって構成される。そのような振動子の電極にパルス状又は連続波の電圧を印加すると圧電体が伸縮する。この伸縮によって各々の振動子からパルス状または連続波の超音波が発生し、これらの超音波の合成によって超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波エコーを受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。これらの電気信号は、超音波エコーの受信信号として出力される。なお、超音波プローブのタイプとしては、コンベックスタイプ、リニアスキャンタイプ、セクタスキャンタイプ等の種々のタイプがある。また、超音波プローブ200は、ケーブル202によって超音波診断装置100に接続されており、その動作は超音波診断装置100によって制御される。
【0016】
超音波診断装置100は、超音波診断システム500の各部の動作を統括的に制御する機能を有し、超音波プローブ200によって超音波ビームを送受信させたり、受信した超音波エコーから断層画像を生成しディスプレイ400に表示する。また、超音波診断装置100は、断層画像としてBモード画像やMモード画像を生成し、リアルタイムにディスプレイ400に表示させる他に、血管壁等の厚さ変化波形を表示したり、観察している組織の弾性指標(例えば、ここでは弾性率)を算出し表示する機能も有している。超音波診断装置100の詳細な構成については後述する。
【0017】
ユーザ操作部300は、キーボードやポインティングデバイス、種々のボタンやダイヤル等からなり、医師、技師等のオペレータ(ユーザ)は、このユーザ操作部300を用いて超音波診断システム500を操作する。例えば、オペレータは、ユーザ操作部300を用いて、観察部位に応じた超音波診断システム500の動作様態に関わる各種設定値を指定したり、超音波プローブ200から送信する超音波ビームの焦点の深さを変更する。また、オペレータは、ユーザ操作部300を用いて関心領域(以下、ROIと略称する:Region of Interest)を指定する。
【0018】
ディスプレイ400は、例えば、ラスタスキャン方式のLCDディスプレイ等であり、超音波診断装置100から出力されるアナログ変換された画像信号に基づいて、超音波画像の動画、静止画等を表示する。
【0019】
図2は、超音波診断装置100およびその周辺機器の主要な構成を示すブロック図である。なお、図1において既に示した構成については、その説明を省略する。
【0020】
超音波診断装置100は、送受信制御部111、送信回路113、受信回路115、断層画像形成部117、表示処理部119、トラッキングポイント設定部121、トラッキング部125、血管壁厚み変化演算部127、トラッキングポイント変位演算部128、血圧入力部129、弾性率算出部132、および弾性率信頼性判定部133を備える。また、超音波診断装置100の周辺機器として、超音波プローブ200、血圧計103、およびディスプレイ400が設けられている。
【0021】
送受信制御部111は、送信回路113および受信回路115を介して超音波プローブ200の超音波ビームの送信方向および超音波エコーの受信方向を順次設定するもので、設定された送信方向に応じて送信遅延パターンを選択する送信制御機能と、設定された受信方向に応じて受信遅延パターンを選択する受信制御機能とを有している。ここで、送信遅延パターンとは、超音波プローブ200の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波によって所望の方向に超音波ビームを形成するために各超音波トランスデューサの駆動信号に与えられる遅延時間のパターンであり、受信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサによって受信される超音波によって所望の方向からの超音波エコーを抽出するために受信信号に与えられる遅延時間のパターンである。複数の送信遅延パターンおよび複数の受信遅延パターンが内部メモリ(図示せず)に格納されていて、状況に応じ適宜選択して使用される。
【0022】
送信回路113は、複数のチャネルを備えており、超音波プローブ200の複数の超音波トランスデューサにそれぞれ印加される複数の駆動信号を生成する。その際に、送受信制御部111によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数の駆動信号にそれぞれの遅延時間を与えることができる。送信回路113は、複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するように、複数の駆動信号の遅延量を調節して複数の駆動信号をそれぞれ超音波プローブ200の複数の超音波トランスデューサに供給するようにしても良いし、複数の超音波トランスデューサから一度に送信される超音波が被検体の撮像領域全体に届くように構成した複数の駆動信号を超音波プローブ200に供給するようにしても良い。
【0023】
受信回路115は、送信回路113と同様に複数のチャネルを備えており、複数の超音波トランスデューサを介して受信された複数のアナログ信号を増幅し、デジタルの受信信号に変換する。さらに、送受信制御部111によって選択された受信遅延パターンに基づいて、複数の受信信号にそれぞれの遅延時間を与え、それらの受信信号を加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理によって、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号(音線データ)が形成される。
【0024】
次に、受信回路115は、音線データに対し、ローパスフィルタ処理等によって包絡線検波処理を施して、STC(Sensitivity Time gain Control:センシティビティ・タイム・ゲイン・コントロール)によって超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正をする。こうして処理された音線データは、複数フレーム分の音線データを蓄積するための記憶容量を有するシネメモリ(図示せず)に順次格納される。受信回路115は、画像データ生成部(図示せず)を備え、ライブモードにおいては直接供給される音線データを画像データ生成部へ入力し、フリーズモードにおいてはシネメモリから供給される音線データを画像データ生成部へ入力して、音線データに対してLog(対数)圧縮やゲイン調整等のプリプロセス処理を施して画像データを生成し、これを断層画像形成部117およびトラッキングポイント設定部121へ出力する。
【0025】
断層画像形成部117は、受信回路115から供給された超音波画像の画像データを通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像データに変換(ラスター変換)し、さらに階調処理等の必要な画像処理を施した上で表示処理部119へ出力する。
【0026】
トラッキングポイント設定部121は、受信回路115から供給された画像データによって表される超音波画像においてROI(関心領域)を設定し、このROI内において被検体の深さ方向(超音波の送信方向)に、血管壁変位波形や血管径等の自動追跡(トラッキング)のための複数のトラッキングポイントを設定する。このトラッキングポイントに関する情報は、トラッキング部125へ出力される。なお、トラッキングポイントの設定は、オペレータがディスプレイ400上の表示を見ながら手動で行っても良いし、トラッキングポイント設定部121が特定のアルゴリズムに基づいて自動設定で行っても良い。
【0027】
また、トラッキングポイント設定部121で設定されるトラッキングポイントは、後述する弾性率の信頼性判定にも使用されるが、血管壁変位波形や血管径等の自動追跡のために設定されたトラッキングポイントの全てを弾性率の信頼性判定に使用する必要はないので、全トラッキングポイントの中から、オペレータが弾性率の信頼性判定用の特定のトラッキングポイントを手動で1以上、好ましくは複数設定できるようにしても良いし、トラッキングポイント設定部121が特定のアルゴリズムに基づいて弾性率の信頼性判定用の特定のトラッキングポイントを1以上、好ましくは複数自動設定しても良い。
なお、本実施形態では、トラッキングポイント設定部121によるROIの設定は、オペレータのユーザ操作部300によるROIの手動指定に従って行われるが、画像データに基づいて自動で行われるようにしても良い。例えば、頚動脈の超音波診断の場合、(1)血管内は超音波エコーが弱く、Bモード画像上では低輝度であり、(2)頚動脈が見える断面においては、頚動脈は約1cm程度の太さで血管としては一番太いことから、画像データより比較的簡単に自動検出することができる。
【0028】
トラッキング部125は、トラッキングポイント設定部121で設定されたトラッキングポイントを超音波断層画像データから自動識別し、これらを追跡対象としてトラッキングポイントの変位、即ち、血管壁の位置変化(血管壁変位)を把握する。トラッキング部125は、血管壁変位波形として、血管壁の位置変化を把握することにより得られた血管壁の厚み変化波形を血管壁厚み変化演算部127へ出力すると共に、弾性率の信頼性判定用の特定トラッキングポイントの変位をデータとして変位量算出部128へ出力する。なお、トラッキング部125から血管壁厚み変化演算部127に出力される変位のデータには、血管壁の後壁の変位だけの場合と、後壁の変位と前壁の変位との両方の場合があっても良い。
【0029】
血管壁厚み変化演算部127は、トラッキング部125のトラッキングで得られた血管壁の厚み変化波形に基づいて、心臓収縮期血管径(最大血管径)Dsおよび心臓拡張期血管径(最小血管径)Ddを求める。すなわち、画像データから血管径Dの変化を追跡し、最大血管径Dsおよび最小血管径Ddを求める。また、血管壁厚み変化演算部127は、血管壁の厚み変化波形から血管壁厚み変化を算出して弾性率算出部132へ出力する。
【0030】
トラッキングポイント変位演算部128は、トラッキング部125から供給される弾性率の信頼性判定用の特定トラッキングポイントの変位データから、特定トラッキングポイントの被検体の深さ方向(超音波の送信方向)における変位の向き及び変位量を演算し、演算結果である変位の向き及び変位量を弾性率信頼性判定部133へ出力する。
【0031】
一方、血圧計103は、カフ式の血圧計であり、被検体の上腕にカフを巻き付け、心臓の収縮および拡張の各々に対応して最高値Psおよび最低値Pdを測定する。測定された血圧データは、自動あるいは手動で超音波診断装置100の血圧入力部129へ入力される。
【0032】
血圧入力部129は、血圧計103と超音波診断装置100とのインターフェースであり、入力された血圧データを弾性率算出部132へ出力する。
【0033】
弾性率算出部132は、血管壁厚み変化演算部127および血圧入力部129からそれぞれ供給される血管壁厚み変化データおよび血圧データを用いて、血管弾性を示す指標の一つである弾性率を演算により求め、弾性率信頼性判定部133へ出力する。
【0034】
弾性率信頼性判定部133は、変位量算出部128から出力される変位の方向および変位量についてのデータに基づき、弾性率算出部132から供給される弾性率データの信頼性について後述のプロセスにより評価し、判定し、その判定結果を表示処理部119へ出力する。
【0035】
表示処理部119は、断層画像形成部117から供給される画像データに基づいて、表示用の画像データを生成する。この表示用の画像は、主に、Bモード画像やMモード画像等の断層画像、血管壁の厚さ変化波形等であるが、弾性率信頼性判定部133から供給された評価結果や判定結果も併せて表示される。また、表示処理部119は、弾性率信頼性判定部133から弾性率の信頼性が低い旨の通知信号が入力されてきた場合には、ディスプレイ400上に、文字、図形等を表示することにより、ユーザへその旨警告する。この警告は、アラーム音等を鳴らす態様であっても良い。なお、表示処理部119に、ゲイン調整およびコントラスト調整を含む線形の階調処理や、γ補正を含む非線形の階調処理等の画像処理を施す画像処理機能を付属させても良い。さらに、表示処理部119は、D/A変換器を備え、表示用の画像データをアナログの画像信号に変換して外部のディスプレイ400へ出力する。
【0036】
図3は、本実施の形態に係る超音波診断装置100が血管壁に対し行うトラッキング処理の概要を説明するための模式図である。
【0037】
トラッキング処理の手法には、断層画像のパターンマッチング法、ゼロクロス点法、組織ドプラ法、位相差トラッキング法等の様々な手法があり、原則、どの手法に依っても良い。本実施の形態に係る超音波診断装置100は、1つの超音波ビーム上に設定した血管後壁側の内膜中膜複合体上の複数の反射体の位置変位を、直交検波出力の振幅情報もしくは位相情報を用いて、またはその両方を用いてトラッキングを行う。
【0038】
例えば、図3は、超音波プローブ200から被検体21へ向けて超音波ビームB26を送信し、この超音波ビームB26を、血管前壁23および血管内腔24を通過させて血管後壁25上のトラッキングポイントP1、P2、P3、P4およびP5に到達させ、超音波診断装置100において、各トラッキングポイントP1〜P5からの超音波エコー信号を超音波プローブ200を介して受信し、トラッキング部125で血管22の血管壁、したがってその厚みをトラッキングする例である。トラッキングポイントP1〜P5は、トラッキングポイント設定部121によって、血管後壁25上に、5つの反射体の位置、すなわち第1〜第5反射体(以下、それぞれ反射体1、反射体2、反射体3、反射体4および反射体5と呼ぶ)の位置としてそれぞれ手動又は自動で設定されたものである。トラッキング部125は、設定されたトラッキングポイントP1、P2、P3、P4およびP5をトラッキングし、各トラッキングポイントの時間的な位置変化を求める。
【0039】
なお、ここでは、血管後壁25上にプラーク27があり、血管内腔24側へ血管後壁25の一部が盛り出しているプラーク27の部分のトラッキングをする例を示したが、当然のことながら、超音波診断装置100のトラッキング処理はプラークがない場合でも可能である。
【0040】
図4は、トラッキング部125で得られるトラッキングポイントP1〜P5の位置yの時間的変化の一例を示すグラフである。位置の変化を表す曲線L1〜L5は、トラッキングポイントP1〜P5の各々に対応したものである。この図から、1回の心拍においてトラッキングポイントP1〜P5の位置がどのように変化するか、また、トラッキングポイントによって変位量(凹み具合)に差があることが読み取れる。そこで、隣合う反射体の位置(例えば、P2とP3)の変化の差分をとれば、血管壁厚みの時間変化波形を求めることができる。
【0041】
図5Aは、血管壁の隣合う反射体である反射体1と反射体2の間の厚みの時間変化波形であり、図中Δh1は、厚みの変化分を示す。図5Bは、反射体3と反射体4の間の厚みの時間変化波形であり、図中Δh3は、厚みの変化分を示す。これらの図から、反射体3と反射体4の間の組織は比較的柔らかいため圧力により大きく凹むことができる組織であるのに対し、反射体1と反射体2の間の組織は、比較的固いため圧力により大きく凹むことができない組織、つまり硬化した組織であることがわかる。
【0042】
このように、血管壁厚みの時間変化波形によって血管壁の弾性の度合いを把握することができるが、より定量的な議論をするために、血管の径方向の歪みεを次式(1)によって算出することができる。
【0043】
【数1】
ここで、εiは、血管壁の反射体i及びi+1の間の径方向の歪み、Δhiは、心臓収縮期での反射体i及びi+1の間の厚み変化の最大値、hdiは、心臓拡張期末期での反射体i及びi+1の間の厚みを表す。
【0044】
また、弾性率算出部132では、血圧計103で測定した血圧をさらに用いて、次式(2)、(3)に従って、血管壁の各反射体間の径方向の弾性率Eri、円周方向の弾性率Eθiを算出することができる。
【0045】
【数2】
ここで、rdは心臓拡張末期での血管内半径、hdは心臓拡張末期での血管壁厚み、hdiは心臓拡張期末期での反射体i及びi+1の間の厚み、Δhiは心臓収縮期での反射体i及びi+1の間の厚み変化の最大値、Δpは心臓収縮期と拡張末期の間の血圧差を表す。
【0046】
上記の方法により血管壁等の弾性率測定は行われるが、本発明者の検討により、トラッキングを上記方法に則って測定した場合には弾性率の測定精度が著しく低下する場合があることがわかってきた。これは、弾性率の測定が、運動している血管壁の微小変位を正確にトラッキングできることを前提としているためと考えられる。例えば、諸々の原因により、トラッキングポイントを誤認識する等により、この微小変位のトラッキング自体に失敗した場合、その結果得られる弾性率が全く意味のない値になってしまうことがあることがわかってきた。以下、この観点について詳細に説明する。
【0047】
典型的な例として、本明細書では、頚動脈を対象として弾性率の測定をする場合を例にとって説明する。頚動脈を対象とした場合に、特定のケースで弾性率の精度が著しく低下する現象が発生する。図6は、本実施の形態に係る超音波診断装置100を用いて人間の頚動脈の弾性率を測定する様子を示す図である。ここでは、超音波プローブ200を頚動脈31に沿って被検者の頚部32に当接させながら頚動脈壁の観察を行う。
【0048】
頚動脈31の深さは概ね1〜3cmであるため、その観察に必要な深さDは概ね3cm程度である。また、人体内の平均音速Vsは1400〜1600m/sであり、健常者の頚動脈では、血管内腔と血管後壁内膜との境界は、1心拍で0.5mm程度変位し、当該境界の深さ方向の変位速度は5〜8mm/s程度であることが分かっている。このため、再現性が良く信頼性の高い歪みεを算出するためには、当該境界およびその周囲に設定したトラッキングポイントの計測誤差を、頚動脈壁の1心拍の変位量0.5mmの10%程度以下に抑え、精密にトラッキングする必要がある。従って、健常者の頚動脈を観察する場合、0.05mm÷5m/s=0.01sであり、0.05mmの変位を捕捉するためには、フレームレートFRは100[1/s]以上であることが必要である。さらに、高血圧等のために、心拍に応じた血管壁の動きが速い被検者の場合には、FR=400[1/s]程度であることが望ましい。これらのことから、超音波診断装置100では、D=3、Vs=1400m/s、FR=400[1/s]とする。なお、1フレーム当たりの超音波ビームの送信回数は58とする。
【0049】
そして、超音波プローブ200は、図6に示すように、頚動脈31に沿って頚部32に当接されるが、本発明者の詳細な検証によると、医師もしくは技師(以下、単に技師等という)によって、頚部32のどの方向から超音波プローブ200を当てるか一般的に大別して2種類のパターンがある。図7Aは、超音波プローブ200の頚部32への当接角度のバリエーションを説明するための模式図である。この図7Aは、図7Bに示す頚部32の頭部41から見たA−A線における断面図を示す。図7Aに示すように、頚部32に対し超音波プローブ200を当接する方向には、次に示す2通りの方法がある。第1の方法は、方向D51から当接させ頚動脈31を観測する方法である。これは被検者の正面から超音波プローブ200を当てることに相当する。第2の方法は、方向D52から超音波プローブ200を当接させ、頚静脈35をウインドウ(窓:Window)として、ウインドウ越しに(頚静脈35を介して)頚動脈31を観察する方法である。このとき、超音波プローブ200から送信された超音波ビームは頚静脈35を通過してから頚動脈31に達する。この当て方は被検者の横から超音波プローブ200を当てることに相当する。
【0050】
第2の方法を採用する理由の1つとしては、静脈は、血液で満たされているため超音波ビームの反射がほとんど起こらず、また、頚静脈は、図7Aに示すように、頚動脈に近接した位置関係にある。そのため、超音波ビームが先に通過する組織(頚静脈)からのアーチファクトが診断対象である組織(頚動脈)の超音波画像に重畳して血管内腔が不鮮明に映る現象(かぶり現象)を防ぐことができる。すなわち、第2の方法によれば比較的画質の良い画像を得やすいということが理由として考えられる。
【0051】
図8A〜図8Cは、血管壁のトラッキングが精度良く実施された場合の信頼性が高い血管壁に関する指標(以下では、総称して血管壁厚みともいう)の時間変化波形の一例である。これは、被検者の正面から超音波プローブ200を当てて測定した例である。
具体的には、図8Aは、血管壁の径の各位置(詳細には、前壁外膜側、後壁内膜側、後壁外膜側、前壁外膜−前壁内膜)の変化速度の時間的変化を示す図、図8Bは、血管径(詳細には、前壁外膜と後壁内膜との間の距離)の時間的変化を示す図、図8Cは、血管壁の各トラッキングポイント(詳細には、前壁外膜側位置、略中心位置、後壁内膜側位置、後壁外膜側位置)における変位の時間的変化を示す図である。
図8Aから分かる通り、血管壁のトラッキングが精度良く実施された場合の信頼性が高い血管壁厚みの時間変化波形が得られた場合には、波形は速度0のラインを境に上下対称に近い状態で波形が現れる。例えば、図8Aの前壁外膜側と後壁内膜や後壁外膜とが対称に近いならば信頼性が高くなり、また、例えば、図8Cにおいても、前壁外膜側と後壁内膜側や後壁外膜側とが対称に近いと信頼性が高くなる。即ち、このような上下対称に近い形状を有した血管壁厚みの時間変化波形からは、一般的に信頼性の高い血管弾性率が得られることが期待できる。
【0052】
なお、図8Cにおいて、2点鎖線は、略中心位置の変位を示すが、具体的には、前壁外膜側と後壁内膜側との間の真中の点の変位である。正確な中心位置は、前壁内膜側と後壁内膜側とを用いる方が良いが、ここでは、超音波診断で診易い(即ち、超音波エコーが強い、他の箇所からのかぶり等のノイズが少ない)前壁外膜側と後壁内膜側を用いている。超音波診断において、信頼性判定に用いるのは、上述したように、前壁と後壁が対称的に動いているか否かである。したがって、後壁内膜側と後壁外膜側は、径変化というスケールでは同じような動きをするので、変位波形としては、(前壁外膜側−後壁内膜側の変位)≒(前壁内膜側−後壁内膜側の変位)≒(前壁外膜側−後壁外膜側の変位)となる。以上から、図8Aにおいては、2点鎖線で示される前壁外膜−前壁内膜)の変化速度の時間的変化を求めている。
【0053】
一方、図9A〜図9Cは、血管壁のトラッキング精度が悪く実施された場合の信頼性が低い血管壁に関する指標(血管壁厚み)の時間変化波形の一例であり、それぞれ図8A〜図8Cと同様に、血管壁の径の各位置の変化速度、血管径、及び血管壁の各トラッキングポイントにおける変位の時間的変化を示す図である。ここでは、被検者の横から超音波プローブ200を当てて測定した場合の例である。図9Aに示される波形は、図8Aと異なり、速度0のラインを境に上下に非対称の波形が現れる。この波形は、血管壁のトラッキングが正常に機能していない場合によく得られる波形であり、この際に得られる血管弾性率は、一般的に信頼性が低いことが予想される。なお、図9Cにおいては、図8Cとは逆に、前壁外膜側と後壁内膜側や後壁外膜側とが対称でないので、信頼性が低くなる。
【0054】
ここで、測定される弾性率の信頼性が低い場合の理由を考察する。弾性率の測定は、運動している血管壁の微小変位をトラッキングする必要があるが、血管自体の位置が動いてしまうと、(1)血管の変位が超音波ビームのエレベーション方向の中心軸からずれる、(2)変動幅自体が大きくなるため微小変位をトラッキングする際の誤差が大きくなる、また、(3)そもそも技師等の手がずれ、超音波プローブの当てている位置がずれてしまう等といった現象が考えられる。この事実から、信頼性を評価し、判定するには、血管自体の位置が大きく動いているか否かを判断すれば良いことに本発明者は思い至った。そこで、本実施の形態に係る超音波診断装置100は、血管の中心の位置を求め、この時間的変化を捕捉することにより、測定された血管弾性率の信頼性を判定する。具体的には、超音波診断装置100は、血管の前壁と後壁の位置の平均を算出し、これを血管の中心位置とする。なお、より高精度を求める場合には、前壁外膜の位置と後壁内膜の位置との平均を算出し、これを血管の中心位置としても良い。すなわち、前壁外膜の位置と後壁内膜の位置との真中を血管の中心位置としても良い。
【0055】
図10は、信頼性が高い血管壁厚みの時間変化波形が得られた場合と、信頼性が低い血管壁厚みの時間変化波形が得られた場合の、双方のケースにおける1拍の間の血管中心変位、血管後壁および血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位および弾性率の信頼性を示す表である。
まず、図10の異なる2つの方向から測定した場合、すなわち、信頼性が高い血管壁厚みの時間変化波形が得られた「前(正面)から」測定した場合と、信頼性が低い血管壁厚みの時間変化波形が得られた「静脈をウィンドウ」にして横から測定した場合との1拍の間の血管中心変位、血管後壁および血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位、ならびに弾性率の信頼性について説明する。
【0056】
ここで、弾性率の信頼性は、一般的に健常者であれば弾性率が300kPa以下であることが予想されるため、300kPa以下の場合を「信頼性:○」、この300kPaから著しく離れた値を採った場合を「信頼性:×」と評価した。この図からわかる通り、正面から測定した場合(図8A〜図8Cのケース)では、弾性率の信頼性が高いのに対し、横から頚静脈をウインドウにして測定した場合(図9A〜図9Cのケース)では、弾性率の信頼性が乏しいことがわかる。
さらに、血管中心位置の変位量に着目すると、血管の中心位置の変位量が、0.1mm近傍(0.09〜0.12)では信頼性が「○」で信頼性が高いことが分かる。一方、血管の中心位置の変位量が、0.49mm以上では信頼性が「×」で信頼性が低いことがわかる。
また、血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位量に着目すると、血管中心の最小径及び最大径両タイミングの変位量が、僅かな負の値(−0.07mm〜−0.03mm)では信頼性が「○」で信頼性が高いことが分かる。一方、血管中心の両タイミングの変位量が、0.24mm以上の正の値(0.24mm〜0.34mm)では信頼性が「×」で信頼性が低いことがわかる。本実施の形態では、血管中心の両タイミングの変位量が、前壁側に0.24mm以上変位した場合、弾性指標の信頼性が低いと判定することもできる。
そこで、本実施の形態に係る超音波診断装置100は、血管の中心位置が前壁側へ0.24mm以上変位した場合、弾性指標の信頼性が低いと判定することにする。
【0057】
このように、特に、頚静脈のウインドウ越しに頚動脈を観察した場合に弾性率の信頼性が低下することが分かった。図11Aおよび図11Bは、弾性率の信頼性低下の原因を説明するための模式図である。この図により、弾性率の信頼性が低下するメカニズムを推察することができる。例えば、方向D51においては、頚動脈31は方向D51上の両方の組織に挟まれた状態となっており動きにくい状況にある。一方、方向D52においては、頚静脈35は周囲の組織よりも圧力が低い状態にあるため、頚動脈31は頚静脈35の方へ拡張し易い状況にある。従って、図11Bに示す通り、頚動脈31は頚静脈35側へ偏重して拡張することとなる(拡張後の頚動脈31aの輪郭を破線で示す)。かかる場合、(1)血管の変位が超音波ビームのエレベーション方向の中心軸からずれる状態、または(2)変動幅自体が大きくなるため微小変位をトラッキングする際の誤差が大きくなる状態、が顕著に現れるため、弾性率の信頼性が低下すると考えられる。なお、図11Aから分かるように、頚動脈31の中心は、方向D52の方へは移動するが、方向D51の方へは、ほとんど移動しない。
【0058】
このように信頼性低下のメカニズムの分析が進むと、先ほどは血管の中心位置を求め、この変位に基づいて信頼性を判断する態様を示したが、方向D52から頚静脈のウインドウ越しに頚動脈を観察する場合のように、変位方向が特異的な血管後壁の動きを観察することによって、信頼性を判定できることがわかる。すなわち、本発明者は、血管を構成する各層のうち血管後壁のみに着目し、これを直接トラッキングすることにより、弾性率の信頼性判定が可能となることを見出した。
【0059】
図12は、頚動脈の層構造を模式的に示す断面図である。ここでは、詳細な断面図を示したため、血管後壁として、後壁内膜78、後壁中膜79、後壁外膜81まで示してあるが、本実施の形態では、トラッキング対象として血管後壁のうち、特にトラッキングによる追従性能が高い、「後壁血管腔−内膜境界77」または「後壁中膜−外膜境界80」を用いる。特に、画像データにおいて血管腔は一般に信号レベルが低いため、トラッキングの失敗につながり易い。そこで、Mモード画像上において明確にラインが現れる「後壁血管腔−内膜境界77」または「後壁中膜−外膜境界80」を用いることが望ましい。これにより、測定時間の短縮につながり、医師等や被検者の負荷を軽減することができる。
なお、図12には、血管前壁として、前壁外膜71、前壁中膜73、および前壁内膜74が示され、前壁外膜−中膜境界72、前壁内膜−血管腔境界75、および血管腔76も示されている。
【0060】
本発明者は、更に新たな着想に至った。通常のトラッキングにおいては、心拍に伴い血管がその位置を変えずに、単純に血管径が拡張伸縮する場合を想定して行われる。このとき、血管壁は心拍に伴い血管中心を対称軸として単純に拡張伸縮するだけである。すなわち、血管前壁と血管後壁は、互いに逆方向である当該血管の外側へ変位する。しかし、先に示した通り、頚動脈を頚静脈をウインドウにして画像を得る場合には、血管全体が心拍に伴い頚静脈側へずれる(移動する)状態となる。このとき、血管壁のうち、血管前壁は通常の場合と同方向に変位するが、一方、血管後壁は血管の外側へ変位するのではなく、血管前壁と同方向、すなわち前壁側へと変位する場合が多くなる。そこで、本発明者は、血管後壁の変位方向に着目し、この向きによって血管率の信頼性を判定できることを着想した。
【0061】
図13A、図13Bおよび図13Cは、それぞれ異なる方向(前、静脈をウインドウにして横)から、および超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接して頚静脈をウインドウにして横から測定した場合の1心拍における血管の各部位(血管壁位置:トラッキングポイント)の変位(変位方向及び変位量)を示したグラフである。
まず、図10の表の「前」および「静脈をウィンドウにして横」の異なる2方向から測定した場合に相当する図13Aおよび図13Bに付いて説明する。
これらの図から分かる通り、変位の向きには特徴があり、信頼性が低下する図13Bのケースでは、変位の方向、より具体的には後壁の変位が前壁側へ変位する向きの場合には信頼性が低下する。先に示した図8A〜8Cまたは図9A〜図9Cでは、血管壁厚みの時間変化波形に基づいて弾性率の信頼性をある程度予想することができたが、図13Aおよび図13Bでは、血管壁の変位の方向から弾性率の信頼性を判定できることがわかる。
【0062】
また、図10の表の異なる2つの方向から測定した場合は、血管壁の変位の方向から信頼性を判定できることを説明するための表ということができ、ここでは、図10において血管後壁の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位について説明する。この表から分かる通り、血管後壁の最小径及び最大径両タイミングの変位量が、−0.14mm以下の負の値(−0.19mm〜−0.14mm)では信頼性が「○」で信頼性が高いことが分かる。すなわち、血管後壁が、心臓収縮期において血管の外側へ変位している場合には、弾性指標の信頼性を高いと評価し、判定することができる。
一方、血管後壁の両タイミングの変位量が0.11mm以上の正の値を採っている場合は信頼性が「×」で信頼性に乏しいケースであることがわかる。そこで、本実施の形態に係る超音波診断装置100は、血管の後壁が前壁側へ0.11mm以上変位した場合、弾性指標の信頼性が低いと判定することにする。
【0063】
また、本発明者のさらなる検討により、頚静脈をウインドウにして横から測定する場合でも、血管の中心位置の変位量を抑えられ、信頼できる弾性率が取得できる測定方法が存在することもわかってきた。
【0064】
図13Cは、頚静脈をウインドウにして横から測定した場合の1心拍における血管の各部位(血管壁位置:トラッキングポイント)の変位(変位方向および変位量)を示したグラフであるが、超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接し測定した場合である。このようにすることで、頚静脈に外圧が加わり頚静脈内の圧力が高くなるため、頚動脈が頚静脈側に移動しにくくなり、血管の変位量を抑えられ、信頼できる弾性率が取得できるようになったと考えられる。
【0065】
図10の「静脈をwindowにして加圧」の表は、上記の図13Cのケース、すなわち、超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接し頚静脈をウインドウにして横から測定した場合の弾性率の信頼性を示した表である。
この表から分かる通り、血管中心位置の変位量に着目すると、血管の中心位置の変位量は、正面(前)から測定した場合に比べると少し大きいが、横から頚静脈をウインドウにして測定した場合に比べて大幅に小さく、前壁側への変位は、0.12mm〜0.21mmで0.3mm未満であり、信頼性が「○」となり、信頼性が高くなったことが分かる。 また、血管中心の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位量に着目すると、この変位量は、正面(前)から測定した場合に比べると大きいが、横から頚静脈をウインドウにして測定した場合に比べて大幅に小さく、前壁側への変位は、−0.01mm〜+0.08mmで0.01mm未満であり、信頼性が「○」となり、信頼性が高くなったことが分かる。
【0066】
さらに、血管後壁の最小径タイミングから最大径タイミングまでの変位量から変位方向に着目すると、血管後壁の変位方向は、横から頚静脈をウインドウにして測定した場合の血管の後壁の前壁側へ変位ではなく、正面(前)から測定した場合と同様に、血管の後壁側への変位であり、信頼性が「○」となり、信頼性が高くなったことが分かる。
このように、頚静脈をウインドウにして横から測定した場合であっても、超音波プローブを被検者に対し押し気味に当接し頚静脈をウインドウにして横から測定した場合には、信頼性の高い弾性率が得られていることがわかる。
【0067】
このように、本発明は、この技師等の手技によって異なる測定結果が得られる系においても、その測定を継続して良いかどうかの客観的な指針を与えることができる。
【0068】
以上説明したように、本発明の超音波診断装置によれば、心臓拍動に基づく血管壁等の厚さ変化波形を算出し、弾性指標または弾性画像を算出する超音波診断装置において、血管壁または血管中心位置の移動量を算出、表示することにより、血管弾性の信頼性に関する警告を行うことができる。血管の弾性率の測定精度の低下は、上記の通り、測定技師の超音波プローブを人体に対し当てる方向等に起因するものであり、測定精度が低下する可能性を測定技師に教えることができれば、測定技師は超音波プローブの当てる方向または圧迫度合い等を修正することができるため、測定精度の低下は回避できる性質のものである。
【0069】
また、以上の構成において、心臓拍動に基づく血管壁等の厚さ変化波形を算出し、弾性指標または弾性画像を算出する超音波診断装置において、血管壁または血管中心位置の移動量を算出、表示することにより、血管弾性の信頼性に関する警告を行うことができる。
【0070】
なお、以上説明した本発明に係る実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。本発明に係る超音波診断装置等は、上記実施の形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々変更して実施することが可能である。
【0071】
例えば、本明細書では、頚動脈の血管弾性率の信頼性を判定する場合を例にとって説明したが、本質的には、心拍により脈動する血管の局所点をトラッキングすることにより弾性率等の弾性指標を測定する場合であれば本発明を適用することができる。すなわち、対象は頚動脈に限定されず、腹部大動脈、腸骨動脈等も対象とすることができる。
【0072】
また、脈動していなくても良い。何かしらの外力を与えることによりトラッキングポイントが移動し、この移動の方向および変位量に基づいて弾性率を測定できる系であれば良い。
【0073】
また、上記実施の形態では、血管の弾性指標として弾性率を使用する場合を例にとって説明したが、血管の弾性指標として血管の径方向の歪みを使用する態様でも良い。
【0074】
上記実施の形態における各構成は、主に、中央演算装置(CPU)とCPUに各種の処理を行わせるためのソフトウエアとによって構成されるが、これらをデジタル回路またはアナログ回路等のハードウエアで構成しても良い。なお、ソフトウエアは、図示しない内部メモリに記憶される。
【0075】
また、本発明に係る血管弾性指標信頼性評価又は判定方法のアルゴリズムをプログラミング言語によって記述し、必要に応じてコンパイルし、この血管弾性指標信頼性評価又は判定プログラムをメモリ(記録媒体)に記憶して他の装置の情報処理手段によって実行させれば、本発明に係る超音波診断装置と同様の機能を実現することができる。
すなわち、本発明に係る血管弾性指標信頼性評価又は判定方法は、プログラムを実行することによってコンピュータ上で処理することができる。
例えば、本発明の血管弾性指標信頼性評価又は判定プログラムは、上述した血管弾性指標信頼性評価又は判定方法の各ステップをコンピュータ、具体的にはそのCPUに行わせる手順を有するものである。これらの手順からなるプログラムは、1つまたは複数のプログラムモジュールとして構成されていても良い。
これらのコンピュータが実行する手順からなる血管弾性指標信頼性評価又は判定プログラムは、コンピュータまたはサーバのメモリ(記憶装置)内に記憶されるものであっても良いし、記録媒体に記憶されるものであっても良く、実行時に、当該コンピュータ(CPU)または他のコンピュータによって、メモリまたは記録媒体から読み出されて実行されるものである。したがって、本発明は、上記の血管弾性指標信頼性評価又は判定方法をコンピュータに実行させるための血管弾性指標信頼性評価又は判定プログラムを記憶したコンピュータに読み取り可能なメモリもしくは記録媒体であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る超音波診断装置、弾性指標信頼性評価又は判定方法および弾性指標信頼性評価又は判定プログラムは、例えば病院内でカートに載せて各部屋を移動する超音波診断装置のみならず、患者が自宅で使用するような軽量で携帯式の超音波診断装置や、超音波を用いて血管弾性指標のみを測定するような測定装置等の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
100 超音波診断装置
125 トラッキング部
127 血管壁厚み変化演算部
132 弾性率算出部
133 弾性率信頼性判定部
200 超音波プローブ
300 ユーザ操作部
400 ディスプレイ
500 超音波診断システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波ビームの送受信を制御する制御手段と、
前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキング手段と、
前記トラッキング手段のトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出手段と、
前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得手段と、
前記取得手段の取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定手段と、を具備する超音波診断装置。
【請求項2】
前記複数ポイントは、血管後壁上に位置し、
前記特定ポイントは、少なくとも前記血管後壁上に位置する請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記判定手段は、
前記血管後壁が心臓収縮期において当該血管の外側へ変位している場合、前記弾性指標の信頼性を高いと判定する請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記判定手段は、
前記血管が最小径から最大径となる期間において、前記血管後壁が血管前壁側へ0.11mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定する請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記複数ポイントは、血管後壁上に位置し、
前記特定ポイントは、血管前壁上および前記血管後壁上にそれぞれに位置する請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記判定手段は、
前記血管が最小径から最大径となる期間において、前記血管の中心位置が前壁側へ0.24mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定する請求項5記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記判定手段は、
1拍の間の血管中心変位が前壁側へ0.49mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定する請求項5記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記判定手段が前記弾性指標の信頼性を低いと判定した場合に警告する警告手段をさらに具備する請求項1〜7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記血管は、人体の頚動脈である請求項1〜8のいずれか1項に記載の超音波診断装
置。
【請求項10】
超音波ビームの送受信を制御する制御ステップと、
前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキングステップと、
前記トラッキングステップのトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出ステップと、
前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップの取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定ステップと、を具備する弾性指標信頼性判定方法。
【請求項11】
超音波ビームの送受信を制御する制御ステップと、
前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキングステップと、
前記トラッキングステップのトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出ステップと、
前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップの取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定ステップと、を手順として、コンピュータに実行させる弾性指標信頼性判定プログラム。
【請求項1】
超音波ビームの送受信を制御する制御手段と、
前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキング手段と、
前記トラッキング手段のトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出手段と、
前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得手段と、
前記取得手段の取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定手段と、を具備する超音波診断装置。
【請求項2】
前記複数ポイントは、血管後壁上に位置し、
前記特定ポイントは、少なくとも前記血管後壁上に位置する請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記判定手段は、
前記血管後壁が心臓収縮期において当該血管の外側へ変位している場合、前記弾性指標の信頼性を高いと判定する請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記判定手段は、
前記血管が最小径から最大径となる期間において、前記血管後壁が血管前壁側へ0.11mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定する請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記複数ポイントは、血管後壁上に位置し、
前記特定ポイントは、血管前壁上および前記血管後壁上にそれぞれに位置する請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記判定手段は、
前記血管が最小径から最大径となる期間において、前記血管の中心位置が前壁側へ0.24mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定する請求項5記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記判定手段は、
1拍の間の血管中心変位が前壁側へ0.49mm以上変位した場合に、前記弾性指標の信頼性を低いと判定する請求項5記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記判定手段が前記弾性指標の信頼性を低いと判定した場合に警告する警告手段をさらに具備する請求項1〜7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記血管は、人体の頚動脈である請求項1〜8のいずれか1項に記載の超音波診断装
置。
【請求項10】
超音波ビームの送受信を制御する制御ステップと、
前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキングステップと、
前記トラッキングステップのトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出ステップと、
前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップの取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定ステップと、を具備する弾性指標信頼性判定方法。
【請求項11】
超音波ビームの送受信を制御する制御ステップと、
前記超音波ビームの送信方向に位置する血管の複数ポイントの前記送信方向における変位をトラッキングするトラッキングステップと、
前記トラッキングステップのトラッキング結果に基づいて前記血管の弾性指標を算出する算出ステップと、
前記血管の特定ポイントの前記送信方向における変位の向きまたは変位量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップの取得結果に基いて、前記弾性指標の信頼性を判定する判定ステップと、を手順として、コンピュータに実行させる弾性指標信頼性判定プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−183261(P2012−183261A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50130(P2011−50130)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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