説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】受信信号を増幅するプリアンプが非線形性を有していても、高画質の超音波画像の生成を図ることができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】超音波トランスデューサ3から出力された受信信号は、受信信号処理部の入力保護回路41を通り、プリアンプ42および可変利得アンプ43で増幅され、ローパスフィルタ44で高周波成分が除去されてA/Dコンバータ45でA/D変換された後、歪み補正部46により補正値テーブルを参照することでプリアンプ42の非線形性に起因した歪みが補正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、超音波プローブのアレイトランスデューサから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーをアレイトランスデューサで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
例えば、特許文献1には、超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力された受信信号が、それぞれ、プリアンプで増幅され、A/DコンバータでA/D変換されてデジタルの受信データとされた後、適切な遅延を与えられることで互いに位相が合致した状態で加算され、これにより受信フォーカス処理を行う超音波診断装置が開示されている。
この受信フォーカス処理によって超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号が生成され、このようにして生成された診断領域内の複数の音線信号に基づいて、被検体内の断層画像情報であるBモード画像信号が生成される。
【0004】
このような超音波診断においては、アレイトランスデューサから出力された受信信号をそれぞれ増幅するプリアンプの利得等にばらつきが存在すると、受信データを整相加算しても精度のよい受信フォーカス処理を行うことが困難となる。
そこで、例えば、特許文献2には、A/Dコンバータの出力に対して所定値を加算する加算器と所定値を乗算する乗算器を備えることで、受信信号に含まれるオフセットを除去すると共に受信信号間のプリアンプの利得のばらつきを補正するようにした超音波診断装置が開示されている。このような構成とすることにより、精度のよい受信フォーカス処理を行って高画質の超音波画像を生成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−232888号公報
【特許文献2】特開2001−95805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、受信信号間のプリアンプの利得のばらつきを補正しても、各プリアンプの非線形性に起因してA/D変換後の信号に歪みを生じる場合には、生成される超音波画像の画質の低下を招くこととなり、ひいては、高精度の超音波診断を行うことができなくなってしまう。
【0007】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、受信信号を増幅するプリアンプが非線形性を有していても、高画質の超音波画像の生成を図ることができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る超音波診断装置は、アレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、受信信号処理部は、アレイトランスデューサから出力される受信信号を増幅するプリアンプと、プリアンプで増幅された受信信号をA/D変換するA/Dコンバータと、A/DコンバータでA/D変換された受信信号に対してプリアンプの非線形性に起因した歪みを補正する歪み補正部とを備えたものである。
【0009】
歪み補正部は、予め作成された補正値テーブルを参照することによりA/DコンバータでA/D変換された受信信号の補正を行うことができる。
ここで、補正値テーブルは、予め測定されたプリアンプへのアナログ入力とA/Dコンバータからのデジタル出力との入出力特性に基づいて作成されてもよく、あるいは、予め送信ビームの強度を低下させてプリアンプの線形領域のみで得られた無歪みの受信信号を収集することにより作成されてもよい。
【0010】
また、受信信号処理部が、プリアンプの前段に配置された入力保護回路を備え、歪み補正部は、アレイトランスデューサから出力される受信信号が入力保護回路で飽和することにより歪みを生じたときに、A/DコンバータでA/D変換された受信信号の補正を行うように構成してもよい。
歪み補正部は、送信ビーム波形から予想される無歪みのエコー波形をフィッティングすることにより受信信号の補正を行うことができる。あるいは、歪み補正部は、A/DコンバータでA/D変換された受信信号の飽和した時間幅に基づいて無歪みのエコー波形を推定することにより受信信号の補正を行うこともできる。
【0011】
この発明に係る超音波画像生成方法は、アレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信したアレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、アレイトランスデューサから出力される受信信号をプリアンプで増幅し、プリアンプで増幅された受信信号をA/DコンバータでA/D変換し、A/DコンバータでA/D変換された受信信号に対してプリアンプの非線形性に起因した歪みを補正することにより受信データを生成する方法である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、歪み補正部が、A/DコンバータでA/D変換された受信信号に対してプリアンプの非線形性に起因した歪みを補正するので、プリアンプが非線形性を有していても、高画質の超音波画像の生成を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1で用いられた受信信号処理部の内部構成を示すブロック図である。
【図3】受信信号処理部の入出力特性を示す図である。
【図4】(A)は無歪みの受信信号波形を示す図、(B)は飽和時にクリップされた受信信号波形を示す図である。
【図5】実施の形態2における歪み補正の方法を示す図である。
【図6】実施の形態3における歪み補正の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ1と、この超音波プローブ1と無線通信により接続された診断装置本体2とを備えている。
【0015】
超音波プローブ1は、1次元又は2次元のアレイ状に配列された複数の超音波トランスデューサ3を有し、これら超音波トランスデューサ3にそれぞれ対応して受信信号処理部4が接続され、さらに受信信号処理部4にパラレル/シリアル変換部5を介して無線通信部6が接続されている。また、複数の超音波トランスデューサ3に送信駆動部7を介して送信制御部8が接続され、複数の受信信号処理部4に受信制御部9が接続され、無線通信部6に通信制御部10が接続されている。そして、パラレル/シリアル変換部5、送信制御部8、受信制御部9および通信制御部10にプローブ制御部11が接続されている。
【0016】
複数の超音波トランスデューサ3は、それぞれ送信駆動部7から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各超音波トランスデューサ3は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0017】
送信駆動部7は、例えば、複数のパルサを含んでおり、送信制御部8によって選択された送信遅延パターンに基づいて、複数の超音波トランスデューサ3から送信される超音波が被検体内の組織のエリアをカバーする幅広の超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサ3に供給する。
各受信信号処理部4は、受信制御部9の制御の下で、対応する超音波トランスデューサ3から出力される受信信号に対して直交検波処理又は直交サンプリング処理を施すことにより複素ベースバンド信号を生成し、複素ベースバンド信号をサンプリングすることにより、組織のエリアの情報を含むサンプルデータを生成して、サンプルデータをパラレル/シリアル変換部5に供給する。受信信号処理部4は、複素ベースバンド信号をサンプリングして得られるデータに高能率符号化のためのデータ圧縮処理を施すことによりサンプルデータを生成してもよい。
パラレル/シリアル変換部5は、複数の受信信号処理部4によって生成されたパラレルのサンプルデータを、シリアルのサンプルデータに変換する。
【0018】
無線通信部6は、シリアルのサンプルデータに基づいてキャリアを変調して伝送信号を生成し、伝送信号をアンテナに供給してアンテナから電波を送信することにより、シリアルのサンプルデータを送信する。変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(16 Quadrature Amplitude Modulation)等が用いられる。
無線通信部6は、診断装置本体2との間で無線通信を行うことにより、サンプルデータを診断装置本体2に送信すると共に、診断装置本体2から各種の制御信号を受信して、受信された制御信号を通信制御部10に出力する。通信制御部10は、プローブ制御部11によって設定された送信電波強度でサンプルデータの送信が行われるように無線通信部6を制御すると共に、無線通信部6が受信した各種の制御信号をプローブ制御部11に出力する。
【0019】
プローブ制御部11は、診断装置本体2から送信される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
超音波プローブ1には、図示しないバッテリが内蔵され、このバッテリから超音波プローブ1内の各回路に電源供給が行われる。
なお、超音波プローブ1は、リニアスキャン方式、コンベックススキャン方式、セクタスキャン方式等の体外式プローブでもよいし、ラジアルスキャン方式等の超音波内視鏡用プローブでもよい。
【0020】
一方、診断装置本体2は、無線通信部21を有し、この無線通信部21にシリアル/パラレル変換部22を介してデータ格納部23が接続され、データ格納部23に画像生成部24が接続されている。さらに、画像生成部24に表示制御部25を介して表示部26が接続されている。また、無線通信部21に通信制御部27が接続され、シリアル/パラレル変換部22、画像生成部24、表示制御部25および通信制御部27に本体制御部28が接続されている。さらに、本体制御部28には、オペレータが入力操作を行うための操作部29と、動作プログラムを格納する格納部30がそれぞれ接続されている。
【0021】
無線通信部21は、超音波プローブ1との間で無線通信を行うことにより、各種の制御信号を超音波プローブ1に送信する。また、無線通信部21は、アンテナによって受信される信号を復調することにより、シリアルのサンプルデータを出力する。
通信制御部27は、本体制御部28によって設定された送信電波強度で各種の制御信号の送信が行われるように無線通信部21を制御する。
シリアル/パラレル変換部22は、無線通信部21から出力されるシリアルのサンプルデータを、パラレルのサンプルデータに変換する。データ格納部23は、メモリまたはハードディスク等によって構成され、シリアル/パラレル変換部22によって変換された少なくとも1フレーム分のサンプルデータを格納する。
画像生成部24は、データ格納部23から読み出される1フレーム毎のサンプルデータに受信フォーカス処理を施して、超音波診断画像を表す画像信号を生成する。画像生成部24は、整相加算部31と画像処理部32とを含んでいる。
【0022】
整相加算部31は、本体制御部28において設定された受信方向に応じて、予め記憶されている複数の受信遅延パターンの中から1つの受信遅延パターンを選択し、選択された受信遅延パターンに基づいて、サンプルデータによって表される複数の複素ベースバンド信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれたベースバンド信号(音線信号)が生成される。
【0023】
画像処理部32は、整相加算部31によって生成される音線信号に基づいて、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。画像処理部32は、STC(sensitivity time control)部と、DSC(digital scan converter:デジタル・スキャン・コンバータ)とを含んでいる。STC部は、音線信号に対して、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施す。DSCは、STC部によって補正された音線信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)し、階調処理等の必要な画像処理を施すことにより、Bモード画像信号を生成する。
表示制御部25は、画像生成部24によって生成される画像信号に基づいて、表示部26に超音波診断画像を表示させる。表示部26は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部25の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
本体制御部28は、操作者により操作部29から入力された各種の指令信号等に基づいて、診断装置本体2内の各部の制御を行うものである。
【0024】
このような診断装置本体2において、シリアル/パラレル変換部22、画像生成部24、表示制御部25、通信制御部27および本体制御部28は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。上記の動作プログラムは、格納部30に格納される。格納部30における記録媒体としては、内蔵のハードディスクの他に、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM、SDカード、CFカード、USBメモリ等の記録メディア、またはサーバ等を用いることができる。
【0025】
ここで、超音波プローブ1内における各受信信号処理部4の内部構成を図2に示す。受信信号処理部4は、対応する超音波トランスデューサ3に接続された入力保護回路41を有し、入力保護回路41にプリアンプ42および可変利得アンプ43が順次接続され、可変利得アンプ43にローパスフィルタ44を介してA/Dコンバータ45が接続されている。さらに、A/Dコンバータ45に、歪み補正部46が接続されている。
【0026】
入力保護回路41は、超音波トランスデューサ3からプリアンプ42に設定値を超える電圧の信号が入力されることを防止する。プリアンプ42は、超音波トランスデューサ3から出力された受信信号を静的に増幅し、可変利得アンプ43は、動的に利得の調整を行う。
ローパスフィルタ44は、プリアンプ42および可変利得アンプ43で増幅された受信信号から信号検出に用いられない高周波成分を除去する。A/Dコンバータ45は、受信制御部9から入力される変換開始信号に基づき、ローパスフィルタ44で高周波成分が除去されたアナログの受信信号をデジタル信号に変換する。
【0027】
歪み補正部46は、A/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号に対して、受信信号処理部4内における非線形性に起因した歪みを補正するものである。
図3に示されるように、プリアンプ42に入力されるアナログ入力S1とA/Dコンバータ45からのデジタル出力S2との入出力特性を予め測定し、測定結果に基づいて、非線形領域におけるデジタル出力S2がアナログ入力S1に対して線形な関係を示す直線L上に補正されるような補正値テーブルを作成し、この補正値テーブルが予め歪み補正部46に内蔵されているものとする。
【0028】
次に、この実施の形態1の動作について説明する。
まず、超音波プローブ1の送信駆動部7から供給される駆動信号に従って複数の超音波トランスデューサ3から超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサ3から出力された受信信号がそれぞれ対応する受信信号処理部4に供給される。
【0029】
受信信号は、受信信号処理部4の入力保護回路41を通り、プリアンプ42および可変利得アンプ43で増幅され、ローパスフィルタ44で不要な高周波成分が除去された後、A/Dコンバータ45でA/D変換される。このとき、受信信号処理部4内の非線形性、特にプリアンプ42の非線形性に起因して、図3に示したように、非線形領域においてA/Dコンバータ45から出力されるデジタル出力に歪みが発生しているが、歪み補正部46が、内蔵された補正値テーブルを参照して、プリアンプ42に入力されたアナログの受信信号に対して線形な関係となるようにA/Dコンバータ45からのデジタル出力を補正する。このため、A/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号は、非線形性に起因した歪みが補正された状態で歪み補正部46からサンプルデータとして出力される。
【0030】
このようにして生成されたサンプルデータがパラレル/シリアル変換部5でシリアル化された後に無線通信部6から診断装置本体2へ無線伝送される。診断装置本体2の無線通信部21で受信されたサンプルデータは、シリアル/パラレル変換部22でパラレルのデータに変換され、データ格納部23に格納される。さらに、データ格納部23から1フレーム毎のサンプルデータが読み出され、画像生成部24で画像信号が生成され、この画像信号に基づいて表示制御部25により超音波診断画像が表示部26に表示される。
【0031】
以上のように、受信信号処理部4の歪み補正部46により、A/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号の歪みが補正されるので、受信信号処理部4内、特にプリアンプ42が非線形性を有していても、高画質の超音波画像が生成されることとなる。
また、プリアンプ42により発生する歪みをA/D変換前にアナログ信号の段階で補正することも可能であるが、複雑なアナログ回路が必要となり、アナログ部における消費電力の増大化を招くこととなる。これに対し、この発明では、歪み補正部46がA/Dコンバータ45から出力されるデジタル出力を補正するため、より簡単な構成で歪み補正を行うことができる。
【0032】
なお、歪み補正部46に内蔵された補正値テーブルは、プリアンプ42に入力されるアナログ入力S1とA/Dコンバータ45からのデジタル出力S2との入出力特性を予め測定することにより作成されたが、これに限るものではない。例えば、予めプリスキャン等を行うことにより、超音波トランスデューサ3から送信される超音波ビームの強度を低下させて、プリアンプ42の線形領域のみで歪みの無い受信信号を収集し、このようにして得られた無歪みの受信信号に基づいて補正値テーブルを作成することもできる。
【0033】
実施の形態2
受信信号処理部4には、プリアンプ42に設定値を超える電圧の信号が入力されることを防止するための入力保護回路41が具備されているので、超音波トランスデューサ3から受信信号処理部4に設定値を超える電圧の受信信号が入力されると、例えば図4(A)に示されるような信号波形を有する受信信号の一部が入力保護回路41で飽和し、図4(B)に示されるように、飽和部分W1〜W3が欠落して歪んだ信号波形の受信信号がクリップされることとなる。その結果、A/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号も飽和部分W1〜W3が欠落したものとなる。
【0034】
そこで、この実施の形態2においては、超音波トランスデューサ3から出力される受信信号が入力保護回路41で飽和することにより歪みを生じたときに、A/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号に対して、歪みを正すように歪み補正部46により補正が施される。
歪み補正部46は、送信駆動部7から供給される駆動信号に従って超音波トランスデューサ3からの送信ビームの波形に基づいて無歪みのエコー波形を予想し、予想される波形をフィッティングすることによりA/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号の補正を行う。
【0035】
図5に示されるように、入力保護回路41によりクリップされた受信信号は、送信ビームの周波数を有する正弦波の一部が欠落したものであるので、この正弦波の半周期分の波形P1〜P3をそれぞれA/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号にフィッティングする。このとき、波形P1〜P3の周期と振幅を受信信号にできるだけ適合させてフィッティングすることが好ましい。
このようにすることで、欠落した飽和部分W1〜W3が波形P1〜P3で補われ、歪みが補正されたサンプルデータとして歪み補正部46から出力することができる。このため、受信信号が飽和した場合であっても、高画質の超音波画像の生成が可能となる。
【0036】
なお、フィッティングの代わりに、A/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号の飽和した時間幅に基づいて無歪みのエコー波形を推定し、受信信号の補正を行うこともできる。
図6に示されるように、A/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号における飽和部分の時間幅T1〜T3を測定すれば、これら時間幅T1〜T3から飽和部分に対応する正弦波の半周期分の波形を推定することが可能となる。このようにして推定された半周期分の波形をそれぞれA/Dコンバータ45でA/D変換された受信信号の飽和部分に合成することで、歪みの補正を行うことができる。
このようにしても、歪み補正部46から歪みが補正されたサンプルデータを出力することができ、高画質の超音波画像の生成が可能となる。
【0037】
この実施の形態2における受信信号の飽和時の補正は、実施の形態1におけるプリアンプ42等の非線形性に起因した歪みの補正と共に行うことができ、これにより、さらに高画質の超音波画像の生成を図ることができる。
【0038】
上記の実施の形態1および2では、超音波プローブ1と診断装置本体2とが互いに無線通信により接続されていたが、これに限るものではなく、接続ケーブルを介して超音波プローブ1が診断装置本体2に接続されていてもよい。この場合には、超音波プローブ1の無線通信部6および通信制御部10、診断装置本体2の無線通信部21および通信制御部27等は不要となる。
【符号の説明】
【0039】
1 超音波プローブ、2 診断装置本体、3 超音波トランスデューサ、4 受信信号処理部、5 パラレル/シリアル変換部、6 無線通信部、7 送信駆動部、8 送信制御部、9 受信制御部、10 通信制御部、11 プローブ制御部、21 無線通信部、22 シリアル/パラレル変換部、23 データ格納部、24 画像生成部、25 表示制御部、26 表示部、27 通信制御部、28 本体制御部、29 操作部、30 格納部、31 整相加算部、32 画像処理部、41 入力保護回路、42 プリアンプ、43 可変利得アンプ、44 ローパスフィルタ、45 A/Dコンバータ、46 歪み補正部、S1 アナログ入力、S2 デジタル出力、W1〜W3 飽和部分、P1〜P3 半周期分の波形、T1〜T3 飽和部分の時間幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記アレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
前記受信信号処理部は、前記アレイトランスデューサから出力される受信信号を増幅するプリアンプと、前記プリアンプで増幅された受信信号をA/D変換するA/Dコンバータと、前記A/DコンバータでA/D変換された受信信号に対して前記プリアンプの非線形性に起因した歪みを補正する歪み補正部とを備えていることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記歪み補正部は、予め作成された補正値テーブルを参照することにより前記A/DコンバータでA/D変換された受信信号の補正を行う請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記補正値テーブルは、予め測定された前記プリアンプへのアナログ入力と前記A/Dコンバータからのデジタル出力との入出力特性に基づいて作成される請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記補正値テーブルは、予め送信ビームの強度を低下させて前記プリアンプの線形領域のみで得られた無歪みの受信信号を収集することにより作成される請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記受信信号処理部は、前記プリアンプの前段に配置された入力保護回路を備え、
前記歪み補正部は、前記アレイトランスデューサから出力される受信信号が前記入力保護回路で飽和することにより歪みを生じたときに、前記A/DコンバータでA/D変換された受信信号の補正を行う請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記歪み補正部は、送信ビーム波形から予想される無歪みのエコー波形をフィッティングすることにより受信信号の補正を行う請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記歪み補正部は、前記A/DコンバータでA/D変換された受信信号の飽和した時間幅に基づいて無歪みのエコー波形を推定することにより受信信号の補正を行う請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
アレイトランスデューサから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記アレイトランスデューサから出力される受信信号を受信信号処理部で処理することで得られる受信データに基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成方法であって、
前記アレイトランスデューサから出力される受信信号をプリアンプで増幅し、
前記プリアンプで増幅された受信信号をA/DコンバータでA/D変換し、
前記A/DコンバータでA/D変換された受信信号に対して前記プリアンプの非線形性に起因した歪みを補正することにより前記受信データを生成する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−55996(P2013−55996A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195245(P2011−195245)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】