説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子とが互いに積層されると共に複数の有機圧電素子に複数のプリアンプが接続された超音波プローブを用いながらも、効果的に電力消費を抑制することができるバッテリ駆動型の超音波診断装置を提供する。
【解決手段】有機圧電素子で得られた受信信号を利用して超音波画像を生成する第1の撮像モードまたは第2の撮像モードでの動作中に(S2)、超音波プローブを用いた診断行為が行われているか否かが判定される(S5)と共に内蔵バッテリの残量が第1のしきい値以下に低下したか否かが判定され(S6)、診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、バッテリの残量が第1のしきい値以下にまで低下していると判定された場合に、有機圧電素子を利用しない第3の撮像モードに移行する(S7)と共に有機圧電素子に接続されているプリアンプへの駆動用電圧の供給を停止する(S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、互いに積層された複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子を用いて超音波の送受信を行うバッテリ駆動型の超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、超音波プローブのアレイトランスデューサから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーをアレイトランスデューサで受信して、その受信信号を電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
また、近年、より正確な診断を行うために、被検体の非線形性により超音波波形が歪むことで発生する高調波成分を受信して映像化するハーモニックイメージングが脚光を浴びつつある。
このハーモニックイメージングに適したアレイトランスデューサとして、例えば、特許文献1の超音波診断装置に使用されているように、無機圧電体を用いた複数の無機圧電素子と有機圧電体を用いた複数の有機圧電素子とを積層形成したものが提案されている。
無機圧電素子により高出力の超音波ビームを送信し、有機圧電素子により高調波の信号を高感度に受信することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−201120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、特許文献1の超音波診断装置では、操作者が超音波プローブを把持したか否かを検知するセンサを超音波プローブの筺体に配設し、超音波プローブを把持していない場合にアレイトランスデューサからの超音波の送信を停止することにより、無駄な電力の消費と圧電素子の劣化を防止している。
しかしながら、有機圧電素子で得られる受信信号は、無機圧電素子で得られる受信信号に比べて微弱であるので、通常、それぞれの有機圧電素子に直結されたプリアンプで受信信号を増幅しており、これらのプリアンプに電圧供給を行うことで、超音波の受信時においても、超音波プローブ内における電力消費は無視できないものとなっている。このため、特許文献1のように、超音波プローブを操作しないときにアレイトランスデューサからの超音波の送信を停止するだけでは、電力の消費量を十分に抑制することが困難であった。
【0006】
さらに、近年、ベッドサイドや救急医療現場等に搬送して使用することができるポータブル型の超音波診断装置が開発されているが、このような超音波診断装置では、その電源に内蔵バッテリが用いられており、装置の消費電力が連続使用時間に大きな影響を及ぼすこととなる。そこで、超音波診断装置における大幅な省電力化が要求されている。
【0007】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子とが互いに積層されると共に複数の有機圧電素子に複数のプリアンプが接続された超音波プローブを用いながらも、効果的に電力消費を抑制することができるバッテリ駆動型の超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る超音波診断装置は、複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子とが互いに積層されると共に複数の有機圧電素子に複数のプリアンプが接続された超音波プローブを用いて超音波の送受信を行うことにより得られる受信信号に基づき超音波画像を生成する超音波診断装置であって、複数の無機圧電素子から超音波を送信すると共に複数の無機圧電素子および複数の有機圧電素子の少なくとも一方で超音波エコーを受信することにより得られた受信信号を処理する送受信部と、送受信部で処理された受信信号に基づいて超音波画像を生成する画像生成部と、電力供給するための内蔵バッテリと、超音波プローブを用いた診断行為が行われているか否かを判定する判定手段と、複数の有機圧電素子で得られた受信信号を利用して超音波画像を生成する第1の動作モードと複数の有機圧電素子を利用しない第2の動作モードの一方に基づいて動作するように送受信部および画像生成部を制御すると共に、第1の動作モードによる動作中に、判定手段により超音波プローブを用いた診断行為が行われていないと判定された場合あるいは内蔵バッテリの残量が所定のしきい値以下に低下した場合に第1の動作モードから第2の動作モードに移行するように送受信部および画像生成部を制御すると共に内蔵バッテリから複数のプリアンプへ供給される電圧を停止あるいは低減する制御部とを備えたものである。
【0009】
判定手段は、送受信部、超音波プローブの把持部に配置された接触センサおよび超音波プローブの音響レンズ面に配置された接触センサのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
第1の動作モードは、複数の無機圧電素子を送信専用とし、複数の有機圧電素子を受信専用とする撮像モードを含むことができる。あるいは、第1の動作モードは、複数の無機圧電素子を送受信兼用とし、複数の有機圧電素子を受信専用とする撮像モードを含むことができる。
また、第2の動作モードは、複数の無機圧電素子を送受信兼用とし、複数の有機圧電素子を停止する撮像モードを含むことができる。あるいは、第2の動作モードは、複数の無機圧電素子および複数の有機圧電素子を停止するスリープモードを含むことができる。
さらに、内蔵バッテリが超音波プローブ内に配置され、送受信部が超音波プローブ内に配置されると共に受信信号をデジタル処理して画像生成部に伝送するように構成することもできる。
【0010】
この発明に係る超音波画像生成方法は、複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子とが互いに積層されると共に複数の有機圧電素子に複数のプリアンプが接続された超音波プローブを用いて超音波の送受信を行うことにより得られる受信信号に基づき超音波画像を生成する方法であって、内蔵バッテリから供給される電力により、複数の無機圧電素子から超音波を送信すると共に少なくとも複数の有機圧電素子で得られた受信信号を利用する第1の動作モードで超音波画像を生成し、超音波プローブを用いた診断行為が行われているか否かを判定すると共に内蔵バッテリの残量を測定し、第1の動作モードによる動作中に、超音波プローブを用いた診断行為が行われていないと判定された場合あるいは内蔵バッテリの残量が所定のしきい値以下に低下した場合に第1の動作モードから複数の有機圧電素子を利用しない第2の動作モードに移行すると共に内蔵バッテリから複数のプリアンプへ供給される電圧を停止あるいは低減する方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、複数の有機圧電素子で得られた受信信号を利用して超音波画像を生成する第1の動作モードによる動作中に、超音波プローブを用いた診断行為が行われていないと判定された場合あるいは内蔵バッテリの残量が所定のしきい値以下に低下した場合に、第1の動作モードから複数の有機圧電素子を利用しない第2の動作モードに移行すると共に内蔵バッテリから複数の有機圧電素子に接続された複数のプリアンプへ供給される電圧を停止あるいは低減するので、複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子とが互いに積層されると共に複数の有機圧電素子に複数のプリアンプが接続された超音波プローブを用いながらも、効果的に電力消費を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1の動作を示すフローチャートである。
【図3】実施の形態2の動作を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態3に係る超音波診断装置で用いられた超音波プローブを示す斜視図である。
【図5】実施の形態3に係る超音波診断装置で用いられた超音波プローブの構成を示すブロック図である。
【図6】実施の形態4に係る超音波診断装置で用いられた超音波プローブを示す斜視図である。
【図7】実施の形態5に係る超音波診断装置で用いられた超音波プローブの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、実施の形態1に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ1と、この超音波プローブ1に接続された診断装置本体2とを備えている。
超音波プローブ1は、積層型アレイトランスデューサ3を有している。この積層型アレイトランスデューサ3は、アレイ状に配列された複数の無機圧電素子4と、これら複数の無機圧電素子4に積層形成されると共にアレイ状に配列された複数の有機圧電素子5を有しており、各有機圧電素子5にそれぞれ対応するプリアンプ6が接続されている。
そして、複数の無機圧電素子4に送信回路7および受信回路8がそれぞれ接続されると共に、複数の有機圧電素子5に接続された複数のプリアンプ6に受信回路8が接続されている。さらに、送信回路7および受信回路8にプローブ制御部9が接続されている。
【0014】
診断装置本体2は、超音波プローブ1の受信回路8に接続された信号処理部11を有し、この信号処理部11にDSC(Digital Scan Converter)12、画像処理部13、表示制御部14および表示部15が順次接続されている。画像処理部13には、画像メモリ16が接続され、信号処理部11、DSC12、画像処理部13および画像メモリ16により画像生成部17が形成されている。また、診断装置本体2は、超音波プローブ1の受信回路8に接続されたメモリ18を有し、このメモリ18が信号処理部11に接続されると共に、信号処理部11、DSC12、表示制御部14およびメモリ18に本体制御部19が接続されている。
さらに、本体制御部19に、タイマ20、操作部21、格納部22およびバッテリ23がそれぞれ接続されている。
また、超音波プローブ1のプローブ制御部9と診断装置本体2の本体制御部19が互いに接続されている。
【0015】
積層型アレイトランスデューサ3の複数の無機圧電素子4は、送受信兼用の素子として使用することができ、それぞれ送信回路7から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に、被検体による超音波エコーを受信することで得られた受信信号を受信回路8に出力する。一方、積層型アレイトランスデューサ3の複数の有機圧電素子5は、受信専用の素子として使用され、それぞれ被検体による超音波エコーを受信することで得られた受信信号を、プリアンプ6を介して受信回路8に出力する。
【0016】
それぞれの無機圧電素子4は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に代表される圧電セラミックまたはマグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体(PMN−PT)に代表される圧電単結晶からなる無機圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
一方、それぞれの有機圧電素子5は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体等の高分子圧電素子からなる有機圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
【0017】
複数の無機圧電素子4の電極間に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、それぞれの無機圧電体が伸縮してパルス状又は連続波の超音波が発生し、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。
また、積層型アレイトランスデューサ3に超音波エコーが入射すると、それぞれの無機圧電素子4の無機圧電体が伸縮して電気信号が発生し、受信信号として出力されると共に、それぞれの有機圧電素子5の有機圧電体が超音波の高調波成分に高感度に応答して伸縮し、電気信号が発生し、受信信号として出力される。有機圧電素子5から出力された受信信号は、対応するプリアンプ6で増幅された後、受信回路8に入力される。
【0018】
送信回路7は、例えば、複数のパルサを含んでおり、プローブ制御部9からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、積層型アレイトランスデューサ3の複数の無機圧電素子4から送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して各無機圧電素子4に供給する。
受信回路8は、積層型アレイトランスデューサ3の各振動子で得られた受信信号を増幅してA/D変換した後、プローブ制御部9からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、各受信信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれたサンプルデータ(音線信号)が生成される。
プローブ制御部9は、診断装置本体2の本体制御部19から伝送される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
【0019】
診断装置本体2の信号処理部11は、超音波プローブ1の受信回路8で生成されたサンプルデータに対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
DSC12は、信号処理部11で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部13は、DSC12から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部14に出力する、あるいは画像メモリ16に格納する。
【0020】
表示制御部14は、画像処理部13によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、表示部15に超音波診断画像を表示させる。
表示部15は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部14の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0021】
タイマ20は、超音波プローブ1を用いた診断行為が行われているか否かを判定する際に本体制御部19により作動される。
操作部21は、操作者が入力操作を行うためのもので、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル等から形成することができる。
格納部22は、動作プログラム等を格納するもので、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM、SDカード、CFカード、USBメモリ等の記録メディア、またはサーバ等を用いることができる。
バッテリ23は、この超音波診断装置の駆動電源として機能し、診断装置本体2内の電力を必要とする各部および超音波プローブ1内の電力を必要とする各部に電力を供給する。
【0022】
本体制御部19は、操作者により操作部21から入力された各種の指令信号等に基づいて、診断装置本体2内の各部の制御を行うものである。
なお、信号処理部11、DSC12、画像処理部13および表示制御部14は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0023】
ここで、この実施の形態1における動作モードについて説明する。
動作モードとしては、第1の撮像モード、第2の撮像モード、第3の撮像モードおよびスリープモードの4種類のモードが用いられる。
まず、第1の撮像モードは、複数の無機圧電素子4を送受信兼用の素子として使用すると共に複数の有機圧電素子5を受信専用の素子として使用し、無機圧電素子4で得られた受信信号と有機圧電素子5で得られた受信信号の双方に基づいて、基本波成分と高調波成分を複合したコンパウンド画像を生成するモードである。
次に、第2の撮像モードは、複数の無機圧電素子4を送信専用の素子として使用すると共に複数の有機圧電素子5を受信専用の素子として使用し、有機圧電素子5で得られた受信信号に基づいて、高調波成分を映像化したハーモニック画像を生成するモードである。
【0024】
第3の撮像モードは、複数の有機圧電素子5を利用せず、複数の無機圧電素子4を送受信兼用の素子として使用し、無機圧電素子4で得られた受信信号に基づいて、Bモード画像を生成するモードである。
スリープモードは、複数の有機圧電素子5を停止状態とし、複数の無機圧電素子4を停止状態とする、あるいは、複数の無機圧電素子4から間欠的に超音波の送受信を行うモードであり、超音波画像の生成は行われない。
これらの動作モードにおける消費電力は、第1の撮像モードが最も大きな電力を消費し、第2の撮像モード、第3の撮像モードおよびスリープモードの順で消費量が小さくなる。
また、上記の4種類の動作モードは、操作者が操作部21から入力操作を行うことにより、選択することができる。
【0025】
次に、図2のフローチャートを参照して実施の形態1の動作を説明する。
まず、ステップS1で、第1の撮像モード、第2の撮像モード、第3の撮像モードおよびスリープモードのうちのいずれかのモードの選択が行われる。
ステップS2で、複数の有機圧電素子5を受信専用の素子として使用する第1の撮像モードまたは第2の撮像モードが選択されたものと判定されると、ステップS3で、その選択された撮像モードにより撮像が実行される。
【0026】
このとき、第1の撮像モードであれば、超音波プローブ1の送信回路7からの駆動信号に従って複数の無機圧電素子4から被検体内に超音波ビームが発せられ、超音波エコーを受信した複数の無機圧電素子4で得られた受信信号が受信回路8に入力されると共に超音波エコーを受信した複数の有機圧電素子5で得られた受信信号がプリアンプ6で増幅された後に受信回路8に入力される。なお、プリアンプ6には、駆動用の電圧が供給されている。それぞれの受信信号は、受信回路8でデジタル処理されると共に受信フォーカス処理が行われてサンプルデータが生成され、このサンプルデータに基づいて、診断装置本体2の画像生成部17で画像信号が生成され、表示制御部14により基本波成分と高調波成分を複合したコンパウンド画像が表示部15に表示される。
【0027】
一方、第2の撮像モードであれば、超音波プローブ1の送信回路7からの駆動信号に従って複数の無機圧電素子4から被検体内に超音波ビームが発せられ、超音波エコーを受信した複数の有機圧電素子5で得られた受信信号がプリアンプ6で増幅された後に受信回路8に入力される。それぞれの受信信号は、受信回路8でデジタル処理されると共に受信フォーカス処理が行われてサンプルデータが生成され、このサンプルデータに基づいて、診断装置本体2の画像生成部17で画像信号が生成され、表示制御部14により高調波成分を映像化したハーモニック画像が表示部15に表示される。
【0028】
このようにして撮像が行われるが、ステップS4で操作者によるモード変更の指示がないことが確認されると、ステップS5に進んで、超音波プローブ1を用いた診断行為が実行中であるか否かが判定される。ここでは、診断装置本体2の本体制御部19が超音波プローブ1内のプローブ制御部9を介して送信回路7と受信回路8の動作状況を把握し、判定を行う。例えば、送信回路7が複数の無機圧電素子4に駆動信号を供給した時点から所定の時間が経過しても、複数の無機圧電素子4または複数の有機圧電素子5から受信回路8に受信信号が入力されない場合には、超音波プローブ1の音響レンズ面が被検体に当接されることなく、超音波プローブ1が空中放置されていると判断し、この状態が所定期間継続したところで、診断行為は行われていないと判定することができる。一方、駆動信号の供給に対応して受信回路8に受信信号が入力される場合には、診断行為が行われていると判定することができる。なお、駆動信号を供給してからの経過時間ならびに空中放置の継続期間は、本体制御部19に接続されたタイマ20を用いて測定される。
【0029】
ステップS5で、超音波プローブ1を用いた診断行為が実行中であると判定された場合は、ステップS6に進み、バッテリ23の残量が予め設定された第1のしきい値以下に低下したか否かが判定される。そして、バッテリ23の残量がまだ第1のしきい値以下にまで低下していないと判定された場合は、ステップS3に戻り、第1の撮像モードまたは第2の撮像モードによる撮像が続行される。
【0030】
一方、ステップS5で、超音波プローブ1を用いた診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、ステップS6で、バッテリ23の残量が第1のしきい値以下にまで低下していると判定された場合は、ステップS7に進んで、強制的に第3の撮像モードへの移行が行われ、さらにステップS8で、超音波プローブ1の複数の有機圧電素子5に接続されている複数のプリアンプ6への駆動用電圧の供給が停止される。
第3の撮像モードでは、複数の無機圧電素子4のみを用いて画像の生成が行われ、複数の有機圧電素子5が利用されないため、複数のプリアンプ6への駆動用電圧の供給を停止することにより、大幅な省電力化を図ることができる。
【0031】
そして、ステップS9で、第3の撮像モードによる撮像を行うことが可能となる。このとき、超音波プローブ1の送信回路7からの駆動信号に従って複数の無機圧電素子4から被検体内に超音波ビームが発せられ、超音波エコーを受信した複数の無機圧電素子4で得られた受信信号が受信回路8に入力される。それぞれの受信信号は、受信回路8でデジタル処理されると共に受信フォーカス処理が行われてサンプルデータが生成され、このサンプルデータに基づいて、診断装置本体2の画像生成部17で画像信号が生成され、表示制御部14によりBモード画像が表示部15に表示される。
【0032】
その後、上述したステップS4〜6と同様にして、ステップS10で、操作者によるモード変更の指示がないかどうか確認され、ステップS11で、超音波プローブ1を用いた診断行為が実行中であるか否かが判定され、さらに、ステップS12で、バッテリ23の残量が予め設定された第2のしきい値以下に低下したか否かが判定される。なお、第2のしきい値は、ステップS6で用いられた第1のしきい値よりも小さい値に設定されている。
ステップS11で、診断行為が実行中であると判定されると共に、ステップS12で、バッテリ23の残量がまだ第2のしきい値以下にまで低下していないと判定された場合は、ステップS9に戻り、第3の撮像モードによる撮像が続行される。
一方、ステップS11で、超音波プローブ1を用いた診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、ステップS12で、バッテリ23の残量が第2のしきい値以下にまで低下していると判定された場合は、ステップS13に進み、強制的に第3の撮像モードからスリープモードへの移行が行われる。
【0033】
このようにして、ステップS14で、スリープモードに入ると、複数の有機圧電素子5が停止状態とされ、複数の無機圧電素子4も停止状態とされる、あるいは、複数の無機圧電素子4から間欠的に超音波の送受信を行うようにしてもよい。
ステップS15で、操作者によるモード変更の指示がない限り、スリープモードが続行される。
【0034】
なお、ステップS4、S10あるいはS15で、操作者により操作部21を介してモード変更の指示がなされたことを確認すると、ステップS2に戻り、指示されたモードが第1の撮像モードまたは第2の撮像モードであるか否かが判定される。
ステップS1あるいはステップS4、S10、S15で、操作者により第3の撮像モードが選択され指示された場合は、ステップS2からステップS16に進み、第3の撮像モードの選択が確認された後に、ステップS9〜S15が実行される。また、ステップS1あるいはステップS4、S10、S15で、操作者によりスリープモードが選択され指示された場合は、ステップS2からステップS16を通ってステップS14へと処理が進行する。
【0035】
以上のように、第1の撮像モードまたは第2の撮像モードでの動作中に、超音波プローブ1を用いた診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、バッテリ23の残量が第1のしきい値以下にまで低下していると判定された場合に、強制的に第3の撮像モードに移行すると共に複数のプリアンプ6への駆動用電圧の供給を停止し、第3の撮像モードでの動作中に、超音波プローブ1を用いた診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、バッテリ23の残量が第2のしきい値以下にまで低下していると判定された場合に、強制的にスリープモードに移行するので、効果的に電力消費を抑制することが可能となる。
【0036】
なお、第1の撮像モードでの動作中に、超音波プローブ1を用いた診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、バッテリ23の残量が第1のしきい値以下にまで低下していると判定された場合に、強制的に第3の撮像モードに移行したが、その代わりに、第2の撮像モードに移行してもよい。第2の撮像モードの方が、第1の撮像モードよりも電力消費量が小さいので、省電力化を図ることができる。この場合には、第2の撮像モードにおいても、複数の有機圧電素子5が利用されるので、複数のプリアンプ6への駆動用電圧の供給はそのまま続行される。
また、第1の撮像モードまたは第2の撮像モードから第3の撮像モードに移行する際に、ステップS8で、複数のプリアンプ6への駆動用電圧の供給を停止したが、完全に停止する代わりに、装置全体の消費電力に影響を及ぼさない程度の低電圧に低減するようにしてもよい。
【0037】
実施の形態2
上述した実施の形態1では、第1の撮像モードまたは第2の撮像モードでの動作中に、超音波プローブ1を用いた診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、バッテリ23の残量が第1のしきい値以下にまで低下していると判定された場合に、ステップS7で、強制的に第3の撮像モードに移行したが、その代わりに、スリープモードに移行するように構成してもよい。
このような構成とした実施の形態2における動作を図3のフローチャートに示す。ステップS5で、診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、ステップS6で、バッテリ23の残量が第1のしきい値以下にまで低下していると判定された場合に、ステップS17に進んで、強制的にスリープモードへの移行が行われ、ステップS8で、超音波プローブ1の複数の有機圧電素子5に接続されている複数のプリアンプ6への駆動用電圧の供給が停止された後、ステップS14でスリープモードとなる。
この実施の形態2においても、電力消費の大幅な抑制が可能となる。
【0038】
実施の形態3
実施の形態1および2では、診断装置本体2の本体制御部19が超音波プローブ1内の送信回路7と受信回路8の動作状況を把握することにより、超音波プローブ1を用いた診断行為が行われているか否かを判定したが、これに限るものではない。例えば、超音波プローブに接触センサを配置することによっても、診断行為の有無を判定することができる。
図4に、実施の形態3に係る超音波診断装置で用いられた超音波プローブ31を示す。超音波プローブ31は、筺体31aを有し、筺体31aの外面上に接触センサ32が配設されている。接触センサ32は、操作者が超音波プローブ31を操作する際に把持する把持部に配置され、操作者の手または指が接触することにより、操作者が超音波プローブ31を把持したことを検知する。
この接触センサ32は、図5に示されるように、プローブ制御部9に接続されている。
【0039】
診断装置本体2の本体制御部19は、超音波プローブ31内のプローブ制御部9を介して接触センサ32からの検知信号を監視し、接触センサ32が操作者による超音波プローブ31の把持を検知したときには、超音波プローブ31を用いた診断行為が行われていると判定する。一方、操作者により超音波プローブ31が把持されていない状態が所定期間継続した場合には、診断行為は行われていないと判定する。なお、超音波プローブ31が把持されていない状態の継続期間は、タイマ20を用いて測定することができる。
【0040】
このような構成としても、診断行為が行われているか否かを判定して、効果的に電力消費を抑制することが可能となる。
なお、実施の形態1および2における、送信回路7と受信回路8の動作状況の把握と、この実施の形態3における、接触センサ32を用いた超音波プローブの把持の検知の双方を行い、これらを組み合わせて診断行為が行われているか否かを判定することもできる。
【0041】
実施の形態4
実施の形態3において、超音波プローブ31の把持部に接触センサ32を配置する代わりに、図6に示されるように、超音波プローブ41の音響レンズ面42に接触センサ43を配置することもできる。
撮像時には、超音波プローブ41の音響レンズ面42を被検体に当接した状態で超音波の送受信が行われる。そこで、音響レンズ面42に接触センサ43を配置することにより、診断行為が行われているか否かを判定することが可能となる。
【0042】
診断装置本体2の本体制御部19は、超音波プローブ41内のプローブ制御部9を介して接触センサ43からの検知信号を監視し、接触センサ43が被検体との当接を検知したときには、超音波プローブ41を用いた診断行為が行われていると判定する。一方、接触センサ43が被検体に当接していない状態が所定期間継続した場合には、診断行為は行われていないと判定する。なお、接触センサ43が被検体に当接していない状態の継続期間は、タイマ20を用いて測定することができる。
【0043】
このような構成としても、診断行為が行われているか否かを判定して、効果的に電力消費を抑制することが可能となる。
なお、実施の形態1および2における、送信回路7と受信回路8の動作状況の把握と、この実施の形態4における、接触センサ43を用いた音響レンズ面42の被検体との当接の検知の双方を行い、これらを組み合わせて診断行為が行われているか否かを判定することもできる。
さらに、実施の形態1および2における、送信回路7と受信回路8の動作状況の把握と、実施の形態3における、接触センサ32を用いた超音波プローブの把持の検知と、実施の形態4における、接触センサ43を用いた音響レンズ面42の被検体との当接の検知をそれぞれ行い、これらを組み合わせて診断行為が行われているか否かの判定を行ってもよい。
【0044】
実施の形態5
上記の実施の形態1〜4では、バッテリ23が診断装置本体2に内蔵されていたが、図7に示されるように、超音波プローブ51内にバッテリ52を内蔵させることもできる。このバッテリ52により、超音波プローブ51内の電力を必要とする各部に電力が供給され、超音波プローブ51の受信回路8でデジタル処理された受信信号が診断装置本体2の画像生成部17に伝送される。
【0045】
プローブ制御部9によってバッテリ52の残量が検出され、第1の撮像モードまたは第2の撮像モードでの動作中に、超音波プローブ51を用いた診断行為が行われているか否かが判定されると共に超音波プローブ51内のバッテリ52の残量が第1のしきい値以下に低下したか否かが診断装置本体2の本体制御部19により判定され、診断行為が行われていないと判定された場合、あるいは、バッテリ52の残量が第1のしきい値以下にまで低下していると判定された場合に、強制的に第3の撮像モードまたはスリープモードに移行する。
このとき、診断装置本体2内の各部への電力供給は、診断装置本体2に内蔵された別のバッテリから行ってもよく、あるいは、診断装置本体2については商用電源から電力供給を行い、超音波プローブ51のみバッテリ52により電力供給を行ってもよい。
【0046】
上記の実施の形態1〜5において、超音波プローブ1、31、41、51と診断装置本体2との接続は、有線による接続および無線通信による接続のいずれの形態をとることもできる。無線通信により接続する場合には、実施の形態5のように、超音波プローブ51に電源供給用のバッテリ52を内蔵することが好ましい。
【符号の説明】
【0047】
1,31,41,51 超音波プローブ、2 診断装置本体、3 積層型アレイトランスデューサ、4 無機圧電素子、5 有機圧電素子、6 プリアンプ、7 送信回路、8 受信回路、9 プローブ制御部、11 信号処理部、12 DSC、13 画像処理部、14 表示制御部、15 表示部、16 画像メモリ、17 画像生成部、18 メモリ、19 本体制御部、20 タイマ、21 操作部、22 格納部、23,52 バッテリ、31a 筐体、32,43 接触センサ、42 音響レンズ面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子とが互いに積層されると共に前記複数の有機圧電素子に複数のプリアンプが接続された超音波プローブを用いて超音波の送受信を行うことにより得られる受信信号に基づき超音波画像を生成する超音波診断装置であって、
前記複数の無機圧電素子から超音波を送信すると共に前記複数の無機圧電素子および前記複数の有機圧電素子の少なくとも一方で超音波エコーを受信することにより得られた受信信号を処理する送受信部と、
前記送受信部で処理された受信信号に基づいて超音波画像を生成する画像生成部と、
電力供給するための内蔵バッテリと、
前記超音波プローブを用いた診断行為が行われているか否かを判定する判定手段と、
前記複数の有機圧電素子で得られた受信信号を利用して超音波画像を生成する第1の動作モードと前記複数の有機圧電素子を利用しない第2の動作モードの一方に基づいて動作するように前記送受信部および前記画像生成部を制御すると共に、前記第1の動作モードによる動作中に、前記判定手段により前記超音波プローブを用いた診断行為が行われていないと判定された場合あるいは前記内蔵バッテリの残量が所定のしきい値以下に低下した場合に前記第1の動作モードから前記第2の動作モードに移行するように前記送受信部および前記画像生成部を制御すると共に前記内蔵バッテリから前記複数のプリアンプへ供給される電圧を停止あるいは低減する制御部と
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記送受信部、前記超音波プローブの把持部に配置された接触センサおよび前記超音波プローブの音響レンズ面に配置された接触センサのうち少なくとも1つを含む請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記第1の動作モードは、前記複数の無機圧電素子を送信専用とし、前記複数の有機圧電素子を受信専用とする撮像モードを含む請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記第1の動作モードは、前記複数の無機圧電素子を送受信兼用とし、前記複数の有機圧電素子を受信専用とする撮像モードを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記第2の動作モードは、前記複数の無機圧電素子を送受信兼用とし、前記複数の有機圧電素子を停止する撮像モードを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記第2の動作モードは、前記複数の無機圧電素子および前記複数の有機圧電素子を停止するスリープモードを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記内蔵バッテリは、前記超音波プローブ内に配置され、
前記送受信部は、前記超音波プローブ内に配置されると共に前記受信信号をデジタル処理して前記画像生成部に伝送する請求項1〜6のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
複数の無機圧電素子と複数の有機圧電素子とが互いに積層されると共に前記複数の有機圧電素子に複数のプリアンプが接続された超音波プローブを用いて超音波の送受信を行うことにより得られる受信信号に基づき超音波画像を生成する方法であって、
内蔵バッテリから供給される電力により、前記複数の無機圧電素子から超音波を送信すると共に少なくとも前記複数の有機圧電素子で得られた受信信号を利用する第1の動作モードで超音波画像を生成し、
前記超音波プローブを用いた診断行為が行われているか否かを判定すると共に前記内蔵バッテリの残量を測定し、
前記第1の動作モードによる動作中に、前記超音波プローブを用いた診断行為が行われていないと判定された場合あるいは前記内蔵バッテリの残量が所定のしきい値以下に低下した場合に前記第1の動作モードから前記複数の有機圧電素子を利用しない第2の動作モードに移行すると共に前記内蔵バッテリから前記複数のプリアンプへ供給される電圧を停止あるいは低減する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−90650(P2013−90650A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232644(P2011−232644)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】