説明

超音波診断装置

【課題】超音波診断装置において、関心領域の画質調整を重視して自動画質調整処理を実施する。
【解決手段】取得した超音波Bモードデータを分割パターンの設定(S14)に従って領域分割する(S16)。そして、領域毎に輝度についてのヒストグラムを作成して(S18)、ピーク輝度A及び輝度幅Bを算出し、目標値との差分をとる(S24)。得られた各領域の差分データΔA,ΔBを、非一様に設定した評価加重にしたがって(S28)重み付け平均して(S26)、超音波Bモードデータ全体の画質を評価する(S30)。この評価値を目標値に近づけるようにすることで、加重の大きな関心領域の画質を重視した自動画質調整処理が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信した超音波エコーに基づいて超音波画像を表示する技術、特に、表示する画像の画質調整を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置においては、受信した超音波のエコーに基づいてBモード(断層モード)やMモード(モーションモード)などの形式で超音波画像が表示される。表示に際しては、ゲイン調整やダイナミックレンジ調整などの画質調整処理が行われる。こうした画質調整処理は、しばしば、設定に基づいて自動的に行われる。
【0003】
下記特許文献1乃至3には、超音波画像全体の輝度のヒストグラムに基づいて、超音波画像のゲイン調整、あるいは、コントラスト(ダイナミックレンジ)調整を行う技術が開示されている。しかし、これらの技術では、超音波画像の全体について輝度を評価しており、超音波画像の部分についての輝度評価は行っていない。また、下記特許文献4には、DSC(デジタルスキャンコンバータ)出力の領域を9分割してそれぞれの領域毎に画像の適・不適を判定し、多数決によりゲイン変更を行うか否か決定する技術が開示されている。しかし、この技術もまた、超音波画像の全体の輝度を同じ重みで評価しているに過ぎない。
【0004】
【特許文献1】特開平5−245147号公報
【特許文献2】特開平6−105850号公報
【特許文献3】特開昭62−117534号公報
【特許文献4】特開平7−236637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波診断装置においては、操作者が関心をもつ領域についての超音波画像を適当な画質で表示することが望まれている。しかし、例えば従来の自動画質調整処理においては、診断領域に応じた最適化ができていなかった。すなわち、診断において最も関心が高い領域の画質を反映した画質調整が行われておらず、操作者の意図した通りの画質を得られない場合があった。
【0006】
本発明の目的は、超音波診断装置において、関心領域の画質調整を重視して画質調整処理を実施する技術を確立することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、超音波診断装置において、診断対象又は診断方式に応じて画質調整態様を変更する技術を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超音波診断装置は、受信した超音波エコーに基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成手段と、生成される超音波画像に対し、超音波画像の各領域に対して非一様に設定された評価加重に従って、画質評価を行う画質評価手段と、画質評価の結果に応じて超音波画像の画質調整を行う画質調整手段と、画質調整された超音波画像を表示する表示手段と、を備える。
【0009】
超音波診断装置は、超音波動画像の画像処理機能及び表示機能を備えた装置である。超音波診断装置は、典型的には、超音波を送信する送信装置及び反射波を受信する受信装置を内蔵するが、これらの装置を別途外付けするように構成されてもよい。超音波画像生成手段は、受信した超音波エコーに基づいて超音波画像を生成する手段である。すなわち、超音波診断装置自体又は外部装置において送受信した超音波に基づいて、人体等の診断対象の内部構造や動きを示す超音波画像を生成する。超音波画像の表現形式は特に限定されるものではなく、Bモード画像、Mモード画像、カラードプラ画像など様々なものを採用することができる。
【0010】
画質評価手段は、生成される超音波画像の画質を評価する手段である。画質の評価は、超音波画像の各領域に対し不均一に設定された評価加重に基づいて行われる。すなわち、重要な部分には大きな評価加重が与えられ、重要でない部分には、0(評価対象外)または小さな評価加重が与えられる。評価加重の加重パターンは、ユーザ設定されても、標準設定が用いられても、適宜自動・ユーザ変更されてもよい。標準設定の例としては、画像の中央部分ほど関心領域となる可能性が高いことを考慮して、画像の中央部分ほど大きな評価加重を設定する態様が挙げられる。また、ある一部分についてのみ0以外の評価加重を与える「スポットモード」を用意することも有効である。スポットモードは、例えば、コントラスト差の大きい心臓の検査で威力を発揮することが期待できる。もちろん、設定切替により、画像の全域に等しい評価加重を与えた「平均モード」を採用することもできる。平均モードは、例えば、脂肪層の影響を受けやすく全体の輝度変動が大きくなりがちな乳腺の検査に適している。なお、画質とは、表示画像の見た目を左右する指標ともいうべきものであり、例えば、輝度、コントラスト、色彩の多様さ、ノイズの多さなどによって表現される。また、画質の評価は、典型的には評価基準となる目標画質を設定し、それと対比することで行われる。
【0011】
画質調整手段は、画質の評価結果に基づいて画質調整を行う手段である。画質調整とは、表示画像の見た目である画質を調整する処理であり、具体的には、ゲイン調整、ダイナミックレンジ調整、カラーレンジ調整、階調変換、フィルタ処理などを例示することができる。画質調整は、アナログ画像(典型的にはDSC(デジタルスキャンコンバータ)による処理前の画像)に対して行ってもよいし、デジタル変換後の画像(典型的にはDSC処理後の画像)に対して行ってもよい。画質調整された超音波画像は、表示手段によって表示画面上に表示される。
【0012】
この構成によれば、画像の一部領域に対し他の一部領域とは異なる値が設定された評価加重に従って画質の評価が行われ、その評価に基づいて画質調整が行われる。したがって、関心領域に対して大きな評価加重を与えることで、関心領域の画質調整を重視した画質調整処理が実施できることとなる。なお、画質調整は、この評価加重の下、ユーザ指示に従って実行するマニュアル画質調整としてもよいが、ユーザ負担の軽減の観点からはプログラミング等に従って実行する自動画質調整であることが特に望ましい。
【0013】
本発明の超音波診断装置の一態様においては、評価加重は、超音波画像の一部領域を評価対象外とするように値が設定されている。つまり、評価加重の値を適宜設定することで、超音波画像の一部領域を評価の対象から外したり、超音波画像の一部領域のみを評価対象としたりすることができる。また、本発明の超音波診断装置の一態様においては、評価加重は、超音波画像の全部または一部が複数に分割されてなる各小領域に対して設定されている。領域分割の態様としては、画像の全部の領域を格子状に分割したり、画像の一部の領域を格子状に分割したりする例が挙げられる。
【0014】
本発明の超音波診断装置の一態様においては、画質評価手段における画質評価は、エコー強度分布のヒストグラム解析に基づいて行われる。また、本発明の超音波診断装置の一態様においては、画質調整手段において行われる画質調整には、ゲイン調整又はダイナミックレンジ調整が含まれてもよい。
【0015】
本発明の超音波診断装置の一態様においては、評価加重は、診断対象又は診断方式に応じて設定され、画質調整手段は、画質評価の結果が、診断対象又は診断方式に応じて設定された目標画質となるように画質調整を行う。診断対象とは、心臓、腎臓などの臓器や、血流などを指す。診断対象についての情報は、臓器名等のユーザ入力に基づいて取得することができる他、診察を行う科目(心臓外科、産科など)や部位名(胸部、腹部)に基づいて取得することも可能である。また、診断方式とは、装置側における設定態様についての情報であり、診断深さ(焦点深さ)、周波数、プローブの型番、超音波走査方式などを指す。関心領域や見やすい画質は、診断対象や診断方式によって異なる。そこで、評価加重及び目標画質を診断対象又は診断方式に応じて設定することとした。
【0016】
本発明の超音波診断装置の一態様においては、画質調整手段における画質調整は、超音波画像の一部の領域に対しユーザ入力によって既に画質調整が行われている場合に、超音波画像におけるこの領域を除いて行われる。一部領域に対しユーザ入力により画質調整が行われる例としては、STC(TGC)やLGCなどの処理が挙げられる。こうした処理が行われる領域に対しては、評価対象外とする評価加重値を設定してもよいし、評価対象とする評価加重値を設定してもよい。なお、本発明の超音波診断装置の一態様においては、超音波画像は断層画像(Bモード画像)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本実施の形態にかかる超音波診断装置10の概略構成を示すブロック図である。超音波診断装置10は、複数の超音波振動子を有するプローブ12を備えている。プローブ12は、送信器14から入力される送信信号に基づいて超音波を送信するとともに、反射した超音波を受信して電気信号たる受信信号に変換し、受信アンプ16に出力する。超音波の送受信における走査態様、周波数、焦点などは様々に設定可能であり、一般的には診断部位や表示態様等に応じて適宜変更される。説明の簡単のため、以下では、主としてBモード画像(断層画像)を時間連続的に得て動画表示する態様について言及するが、他のモードの画像についても同様にして処理することができる。なお、受信信号は続く処理を経て最終的に(動)画像として表示されるものであり、受信信号と超音波(動)画像とは必ずしも明確に区別されるものではない。したがって、以下では、受信信号と超音波画像とを同一視して説明する場合がある。
【0018】
受信アンプ16は、受信信号を増幅するアンプである。受信アンプ16には、指示に基づいて、STC(Sensitivity Time Control;深さ方向別の画質調整、TGC(Time Gain Control)と呼ばれることもある)処理やLGC(Lateral Gain Control;走査方向別の画質調整)を行う機能が設けられている。この受信アンプ16で増幅された各超音波振動子についての受信信号は、ビームフォーマ18において合成され、さらにベースバンド信号処理部20において検波処理を受ける。そして、DSC(Degital Scan Converter)22によって、デジタル化されるとともに、走査に基づく表現形式から表示画面に基づく座標及び解像度に変換される。座標変換された信号は、画像表示のためのメモリを備えた表示制御部24に送られ、液晶ディスプレイ等からなる表示部26に表示される。
【0019】
この超音波診断装置10には、ヒストグラム処理部28が設けられている。ヒストグラム処理部28は、ベースバンド信号処理部20から検波済みのアナログ信号を入力し、このアナログ信号が指し示す超音波断層画像の輝度分布についての画質をヒストグラム解析により評価するものである。評価は、超音波断層画像の各領域に対し不均一に行われる。すなわち、まず、超音波画像が複数領域に分割され、各領域について設定目標となるゲイン及びダイナミックレンジとの対比が行われる。そして、各領域の対比結果を、設定された非一様な評価加重に基づいて集計する。これにより、注目する箇所(関心領域)を重視した画質評価が行われることとなる。なお、ヒストグラム処理部28は、ベースバンド信号処理部20からの出力の代わりに、DSC22から出力されるデジタル信号に基づいて、画質評価を行うように構成されてもよい。
【0020】
ヒストグラム処理部28による評価結果は、ゲイン・ダイナミックレンジ判定部30に出力される。そして、ゲイン・ダイナミックレンジ判定部30は、画質評価の結果に基づいてゲインとダイナミックレンジの設定を調整し、目標画質に十分収束した画質が得られるようになったと判断した場合には、ゲインとダイナミックレンジをその設定に固定する。また、ゲイン・ダイナミックレンジ判定部30は、設定を固定した後に画質が目標画質から逸脱したと判断した場合には、ゲインとダイナミックレンジの設定変更を再開する。
【0021】
操作者は、操作パネル32を通じて、この超音波診断装置10における断層動画像表示(Bモード表示)を制御することができる。主たる制御操作としては、超音波動画像のフリーズ(静止画を表示する)の指令、受信アンプ16で使用するSTCの設定値の入力、ヒストグラム処理部28で使用するゲイン目標値、ダイナミックレンジ目標値、診断レンジ指定、科目指定及びプローブ指定の入力などが挙げられる。
【0022】
操作解析部34は、操作パネル32から入力された信号を解析し、必要な指令を各構成に行うものである。操作解析部34は、必要に応じて、データベース36の情報を参照する。このデータベース36には、診断レンジ情報、科目情報、プローブ情報などが格納されており、診断レンジ指定、科目指定、プローブ指定などの指定に対応する最適な領域分割態様やゲイン・ダイナミックレンジの目標値などを見いだすことができる。タイマー38は、操作解析部34からの指令に基づいて時刻のカウントを行うものであり、そのカウント結果はゲイン・ダイナミックレンジ判定部30での判定条件において使用される。
【0023】
続いて、超音波診断装置10の動作について簡単に説明する。医師や検査技師等の操作者は、プローブ12を診断部位の体表面に当てて超音波診断を行う。プローブ12は、送信器14から送られた送信信号に基づき電子走査を行い、反射波に対応する受信信号を取得する。受信信号は、受信アンプ16、ビームフォーマ18、ベースバンド信号処理部20、DSC22及び表示制御部24において各処理を受けたのち表示部26に表示される。操作者は、表示された断層動画像を視認することで、診断対象の内部構造やその動きなどを把握することができる。
【0024】
操作者は、操作パネル32から画質調整のための各種の設定を行うことができる。その設定態様は様々に実装しうるが、一例としては、診断レンジ指定、科目指定、プローブ指定を行う態様が挙げられる。この指定では、例えば、診断レンジとして高周波の超音波を、科目として心臓外科を、プローブとして使用する型番を指定する。なお、操作者が指定を行う代わりに関連する登録データ等からこれらの情報を取得させることも可能である。例えばプローブの自動認識によりプローブのデータを取得させたり、患者のデータから科目情報を取得させたりすることができる。
【0025】
操作解析部34は、入力された診断レンジ、科目、プローブに対応する最適な画質調整態様を、データベース36の診断レンジ情報、科目情報、プローブ情報を参照して決定する。そして、ヒストグラム処理部28に対し、決定した画質調整態様に基づいて、どのように領域分割するか、各領域に対しどのような評価加重を割り当てるか、各領域にどのような画質目標値を設定するかという領域分割情報42を送信する。
【0026】
ヒストグラム処理部28では、設定された領域分割情報42に基づいて、ベースバンド信号処理部20から入力する画像データの画質評価を行い、その結果得られたピーク輝度代表値・輝度幅代表値44をゲイン・ダイナミックレンジ判定部30に出力する。ゲイン・ダイナミックレンジ判定部30は、操作パネル32からフリーズ指定を解除した信号が送られた場合に、ゲインとダイナミックレンジの調整を開始する。そして、操作パネル32から入力されるゲイン目標値とダイナミックレンジ目標値に画質を近づけるようにゲイン設定・ダイナミックレンジ設定46を設定し、ベースバンド信号処理部20に対し出力する。この結果ゲイン及びダイナミックレンジが目標値を満たすようになると、ゲイン・ダイナミックレンジ判定部30は、新たなゲイン設定・ダイナミックレンジ設定46を中止し、ゲインとダイナミックレンジの設定を固定する。これにより画質の安定した画像表示が行われるようになる。なお、目標値を満たさない場合には、タイマー38からのカウント入力に基づいて所定時間が経過した後にエラー処理を行う。
【0027】
続いて、図2乃至図4を用いて、ヒストグラム処理部28で行われる画質評価の例について詳しく説明する。
【0028】
図2は、画質評価処理過程を説明するフローチャートである。ユーザ指示又はプログラミング制御に基づいてゲイン・ダイナミックレンジについての制御が開始された場合(S10)、ヒストグラム処理部28では、まず、ベースバンド信号処理部20から超音波断層画像(Bモード)データを1フレーム取得する(S12)。そして、領域分割パターン(例えば9領域)の入力(S14)に基づいて、この超音波断層画像データの領域分割を行う(S16)。続いて、領域毎に、各輝度をもつ画素(または画素に相当する小領域)がどの程度あるかを示すヒストグラムが作成される(S18)。そして、このヒストグラムの解析により、ピーク輝度(Aで表すこととする)及び輝度幅(Bで表すこととする)が算出される(S20)。ピーク輝度は、最も度数の多い輝度であり、輝度幅はピーク輝度よりも高輝度側における輝度分布の拡がり幅の目安を示すものである。
【0029】
続いて、ピーク輝度・輝度幅の目標値(全て共通でもよいがここでは9データ)(S22)とピーク輝度・輝度幅との差分(ΔA1〜ΔA9,ΔB1〜ΔB9)が計算される(S24)。そして、各領域の評価結果を集計するための重み付け係数(評価加重w1〜w9)に基づいて(S28)、重み付け平均がなされる(S26;DA=ΣΔAiwi,DB=ΣΔBiwi)。この結果、ピーク輝度差代表値DA及び輝度幅差代表値DBが求められる。
【0030】
図3は、図2のフローチャートにおける領域分割(S16)の例を説明する図である。この図には、図3(a)〜図3(c)として三つの分割例を示しており、各図においては同一の構成には同一の番号を付して説明を省略ないし簡略化する。
【0031】
図3(a)は、扇形の走査範囲100を、深さ方向102に3分割、走査方向104に3分割し、部分領域106〜122の9領域に分割した例である。各領域には異なる評価加重を設定することが可能であり、ここでは、関心領域となる可能性の高い中央の領域114に対し相対的に大きな評価加重Wを付与し、周辺に位置する他の領域に対しては相対的に小さな評価加重w(w<W)を付与している。つまり、この態様は、中央の領域114の表示を重視するものの、周辺領域についてもそれなりに適当な表示をさせたい場合に有効となる評価態様である。中央の領域114と周辺領域との評価加重の配分は、中央の領域114の重視の度合いに応じて変更すればよい。
【0032】
図3(b)においては、図3(a)と同様にして走査範囲100を9分割している。図3(a)との違いは、中央の領域114にのみ0以外の評価加重Wを与え、周辺に位置する他の領域に対しては0の評価加重を与えている点である。この態様は、中央の領域114に特化して最適な画質調整を行い、周辺領域の画質は問わない「スポットモード」とも言うべき態様である。したがって、一般には、周辺領域の画質は悪くはなるが、その画像を判別できなくなるわけではない。つまり、中央の領域114を単に拡大表示する場合とは異なり、周辺領域との関係の中で中央の領域114を詳細に診断することが可能となる。
【0033】
図3(c)では、図3(b)と同様に、走査範囲100を9分割し、中央の領域114以外の領域には0の評価加重を与えている。ただし、中央の領域114をさらに深さ方向102及び走査方向104にそれぞれ3分割し、得られた9分割の領域の中央の領域124には相対的に大きな評価加重Wを与え、他の8個の領域には相対的に小さな評価加重w(w<W)を与えている。この態様は、中央の領域114のさらに中央の領域124の画質を最優先し、中央の領域114の他領域の画質にも若干の考慮をし、中央の領域114以外の領域の画質は問わない場合に有効となる。別の見方をすれば、図3(c)の態様は、図3(b)の場合に比べ、中央の領域114と周辺領域との画質評価を(例えばガウス分布のように)滑らかに接続する態様であり、中央の領域114と周辺領域との境界付近に輝度の特異点が存在するような状況下でも的確に対応できる評価態様であると言える。
【0034】
領域分割はこの他にも様々に行うことが可能であり、例えば、深さ方向や走査方向の分割数を適宜変更することができる。分割形状を不規則にすることも可能であるが、一般には各点のデータは深さ方向及び走査方向(DSC処理後は縦及び横方向)に規則正しく並んでおり規則的な分割の方が高速処理に適している。また、評価加重の段階数や分布形状を様々に変更することも可能である。評価加重は、画質評価の対象を抽出するためのフィルタとして機能するものであり、関心箇所の形状に応じた評価加重分布を適宜採用すればよい。
【0035】
なお、領域分割及び評価加重分布の設定は、ユーザ設定(ユーザによるマニュアル設定やユーザによる設定候補からの選択)によって行うことも可能であるが、前にも説明した通り、ユーザの走査負担を軽くするため診断態様に応じて自動設定することも可能である。具体的には、診断レンジ、科目、プローブ等の組み合わせに対応する適当な領域分割及び評価加重分布を予め設定しておき、診断レンジ指定、科目指定、プローブ指定等の情報を取得した場合にその領域分割及び評価加重分布を標準設定として採用する例が挙げられる。例えば、診断レンジにおいて比較的高周波数の超音波振動数が選択されている場合には、比較的減衰が少ない浅部が関心領域であると考えられるため、浅部についての画質を重視する領域分割及び評価加重分布を標準設定することが有効となる。
【0036】
図4は、図2のフローチャートにおけるピーク輝度及び輝度幅の算出過程(S20)について説明する図である。図には、横軸を輝度、縦軸を画素数(または画素に相当する小領域数)とするヒストグラムが模式的に描かれている。ヒストグラムは、背景として強制割り当てされた輝度を除いて描かれており、領域内にある二つの構造物に対応して低輝度側に画素数(度数)の小ピーク132を有し、高輝度側に画素数Nの大ピーク134を有するふた山構造を示している。画質評価においては、ヒストグラムにおける最大のピークである大ピーク134の輝度をAとして抽出する。また、輝度Aよりも高輝度側にあり画素数がN/2となる輝度と輝度Aとの差をBとして抽出する。
【0037】
次に、図5及び図6を用いて、図1のゲイン・ダイナミックレンジ判定部30における画質調整処理過程について説明する。
【0038】
図5は、画質評価結果に基づく画質調整処理過程を示したフローチャートである。画質調整は、典型的にはゲイン及びダイナミックレンジについて行われるが、ここでは、説明の簡単のためゲイン調整についてのみ示している。もちろん、ダイナミックレンジの調整やさらに他の画質調整も、ゲイン調整と同様に実行することができる。
【0039】
ゲイン調整は、操作パネル32からフリーズ解除(S40)の指令が発せられた場合に開始される。つまり、静止画像の表示が解除されてリアルタイムでの動画像の表示が再開された場合に、表示される動画像に合わせて画質調整が実施される。ゲイン調整が開始されると、まず、タイマー38のカウントに基づいて、調整処理に要した時間の計測が開始される(S42)。そして、ヒストグラム処理部28の画質評価結果に基づいて、ピーク輝度差代表値DAが目標値に対しEA以内の誤差で近づいたか否かが判定される(S44)。
【0040】
DAが十分に目標値に近づいていない(DA≧EA)場合には、その時点での経過時間が調整を終えるべき時間を超えたか否かが判定される(S46)。そして、調整を終えるべき時間を経過している場合には、適当なエラー処理が実施される(S48)。一方、調整を終えるべき時間を経過してない場合には、次の画質評価の結果に従ってDAとEAの大きさが評価される(S44)。
【0041】
DAが目標値に近づいている(DA<EA)場合には、タイマー38のカウントに基づいて、収束時間計測が開始される(S50)。収束時間とはDA<EAの状態を維持している時間であり、収束時間が設定された時間を超えた場合にはゲインが十分に調整されたと判定される。そこで、DA<EAであるか否かが評価され(S52)、DA≧EAとなってしまった場合、つまりピーク輝度が目標値からEAの誤差で逸脱してしまった場合には、収束時間の計測が中止されて(S54)、再度ステップS44に戻ってDA<EAを満たしたか否かの判定が繰り返される。これに対し、DA<EAを満たしている場合には、その都度、収束時間が設定時間を超えたか否かが判定される(S56)。そして、超えたと判定された場合には、ゲイン調整が停止され(S58)、ゲイン調整処理が終了する(S60)。
【0042】
ステップS48に示したエラー処理は様々に実行可能である。例えば、超音波動画像のピーク輝度値が目標値よりも非常に低い場合には、操作者が超音波検査を行っていない可能性があり、超音波送信の停止を指示するエラー処理が考えられる。また、超音波動画像のピーク輝度値が目標値よりも非常に高い場合には、超音波出力が高すぎる可能性があり、送信出力低下を指示するエラー処理が考えられる。
【0043】
さらに、評価加重が相対的に大きな領域(関心領域)のピーク輝度値と評価加重が相対的に小さな領域(周辺領域等の非関心領域)のピーク輝度値に大きな差があるときは、音響インピーダンスが異なる限局された構造物が描出されている可能性がある。このような状況としては、送信線、横隔膜、消化器内容物のような高輝度エコー構造物と、心腔、結石等の音響陰影のような低輝度エコー構造物とが見いだされている例が挙げられる。そこで、このような場合において関心領域のピーク輝度値だけが非関心領域と異なっているときには、限局された構造物を観測している可能性が高いとして、その時点でのゲイン設定で固定して表示を継続するエラー処理が考えられる。また、このような場合において非関心領域の一部に突出したピークがあるときは、その部分と他の部分との画質調整を別途行うように、その部分に対してSTC処理やLGC処理を促したり、自動STC処理や自動LGC処理を行ったりするエラー処理が考えられる。なお、一般にSTC処理やLGC処理は図3に示すようなDSC処理前の扇形幾何形状において実施される。そのため、STC処理やLGC処理される領域を別扱いして画質調整を行う場合には、DSC処理前の画像データに対して画質調整を行うのが良いと言える。
【0044】
図6は画質と目標値との誤差の時間変化を示したグラフであり、画質調整の進行過程を説明するものである。縦軸は、画質と目標値との誤差を表しており、図5に示した例に当てはめれば、縦軸はピーク輝度差代表値DAを符号付きで評価した値に相当する。また、縦軸のメモリが0の点は、誤差が0の点であり画質が目標値と一致した点を表す。そして、縦軸に示した中止上限値142及び中止下限値144は、画質が目標値に十分近づいたと判断される範囲を示しており、図5に示した例に当てはめれば、±EAの値に相当する。縦軸には、この中止上限値142よりも大きな値である再開上限値146と中止下限値144よりも小さな値である再開下限値148が記されている。これらは、画質が目標値に収束したと判定され画質の調整が中止された後、画質の調整を再開する条件として用いられる値である。以下、グラフに示された誤差曲線140に従って、画質調整処理の流れを説明する。
【0045】
誤差曲線140は、フリーズが開示され調整が開始された直後には、誤差0のレベルよりも遙か下方にあり、画質が目標値から大きくずれている。しかし、画質調整によってその値は急速に誤差0に近づき、符号150の時点では中止下限値144にまで達している。この場合、図5に示したように収束時間の計測が開始されるが、ここでは符号152の時点で一旦中止上限値142を超えてしまっており画質調整が継続されている。そして、符号154の時点で中止上限値142に達すると、今度は収束時間Δtが経過する符号156の時点まで中止上限値142と中止下限値144との間の値を示し続けている。そこで、符号156の時点で画質調整は一旦終了し、それ以降は符号156の時点での画質設定に従って、入力データに対する固定的な画質調整が行われる。
【0046】
やがて、画質は符号158の時点で中止上限値142を超えてしまっている。しかし、ここでは一旦固定した画質設定をなるべく維持し、調整に伴う画面のちらつきを防止するため、この時点では画質調整は再開されない。続いて誤差曲線140は、符号160の時点で再開上限値146を超えている。しかし、このイベントが偶発的な画質の乱れによって生じる場合を考慮して、この時点では画質調整は再開されない。画質調整は、再開上限値146を時間Δtの間上回り続けるとの条件が充足される符号162の時点になってはじめて再開される。
【0047】
画質調整が再開された後には、画質の目標値に対する誤差は急速に改善されており、符号164の時点では中止上限値142を下回っている。そして、この時点から収束時間Δtが経過した符号166の時点で再び画質調整が固定されている。
【0048】
なお、このようにして画質調整が行われた状態で、例えば画像の拡大縮小切替やMモード画像への切替等が行われた場合には、既設定のゲインやダイナミックレンジ等の画質設定を引き継ぐことも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】超音波診断装置の構成例の概略を示すブロック図である。
【図2】画質評価の流れを示すフローチャートである。
【図3】画質評価のための領域分割例を説明する図である。
【図4】画質評価に用いるヒストグラムの例を示す図である。
【図5】画質調整の流れを示すフローチャートである。
【図6】画質調整と誤差との対応関係例を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 超音波診断装置、12 プローブ、14 送信器、16 受信アンプ、18 ビームフォーマ、20 ベースバンド信号処理部、24 表示制御部、26 表示部、28 ヒストグラム処理部、30 ゲインダイナミックレンジ判定部、32 操作パネル、34 操作解析部、36 データベース、38 タイマー、42 領域分割情報、44 ピーク輝度代表値・輝度幅代表値、46 ゲイン設定・ダイナミックレンジ設定、100 走査範囲、102 深さ方向、104 走査方向、106〜122 部分領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した超音波エコーに基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成手段と、
生成される超音波画像に対し、超音波画像の各領域に対して非一様に設定された評価加重に従って、画質評価を行う画質評価手段と、
画質評価の結果に応じて超音波画像の画質調整を行う画質調整手段と、
画質調整された超音波画像を表示する表示手段と、
を備える、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
評価加重は、超音波画像の一部領域を評価対象外とするように値が設定されている、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
評価加重は、超音波画像の全部または一部が複数に分割されてなる各小領域に対して設定されている、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
画質評価手段における画質評価は、エコー強度分布のヒストグラム解析に基づいて行われる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
画質調整手段において行われる画質調整には、ゲイン調整又はダイナミックレンジ調整が含まれる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
評価加重は、診断対象又は診断方式に応じて設定され、
画質調整手段は、画質評価の結果が、診断対象又は診断方式に応じて設定された目標画質となるように画質調整を行う、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
画質調整手段における画質調整は、超音波画像の一部の領域に対しユーザ入力によって既に画質調整が行われている場合に、超音波画像におけるこの領域を除いて行われる、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
超音波画像は断層画像である、ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−117168(P2007−117168A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309644(P2005−309644)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】