説明

超音波診断装置

【課題】パルス波に利用される新しいデジタル変調方式を提供する。
【解決手段】PSK変調処理部24は、互いに相補関係にあるコードAとコードBを利用して、搬送波に対してPSKによるデジタル変調処理を施すことにより、PSK変調処理されたパルス波の送信信号を発生する。圧縮処理部A30Aは、コードAに対応した受信RF信号に対してコードAに応じた復調処理を施し、時間軸方向に広がっているパルス波を圧縮処理する。圧縮処理部B30Bは、コードBに対応した受信RF信号に対してコードBに応じた復調処理を施し、時間軸方向に広がっているパルス波を圧縮処理する。そして、合成処理部40は、コードAに関する圧縮処理後の復調信号とコードBに関する圧縮処理後の復調信号とを合成処理する。これにより、圧縮処理後の復調信号に含まれるレンジサイドローブが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変調処理されたパルス波を利用する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置において、変調処理されたパルス波を利用する技術として、パルス圧縮処理が知られている。パルス圧縮処理では、変調処理されたパルス波の超音波を送波して受信信号を受信し、変調処理に対応した復調処理により、受信信号を時間軸方向に圧縮処理する。このパルス圧縮処理においては、例えば、搬送波の周波数をアナログ変調方式により変化させたチャープ信号のパルス波や、搬送波の位相などをデジタル変調方式により変化させたデジタル変調信号のパルス波などが利用される(特許文献1参照)。
【0003】
ところが、従来のパルス圧縮処理においては、復調処理された(圧縮処理された)信号に含まれるレンジサイドローブの低減に関して、変調と復調に利用される信号処理の原理に伴う限界があった。レンジサイドローブの低減については、アナログ変調方式に比べてデジタル変調方式の方に有利な面があるものの、従来のデジタル変調方式では、レンジサイドローブを理論的にゼロにすることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−013280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した技術的な状況を背景としつつ、本願の発明者は、例えばパルス圧縮処理などの変調と復調に利用される信号処理について研究開発を重ねてきた。特に、デジタル変調処理の改良について研究開発を重ねてきた。
【0006】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、パルス波に利用される新しいデジタル変調方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、互いに相補関係にある第1信号列と第2信号列に基づいてデジタル変調処理されたパルス波の送信信号を出力する送信信号処理部と、前記送信信号に対応した超音波を生体に送波して当該生体から超音波を受波することにより受信信号を得る超音波送受部と、前記受信信号に対して前記デジタル変調処理に対応した復調処理を施すことにより復調信号を得る受信信号処理部と、前記復調信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、を有することを特徴とする。
【0008】
望ましい具体例において、前記送信信号処理部は、符号長Nの第1符号列に対応した第1信号列と、符号長Nの第2符号列に対応した第2信号列と、に基づいてデジタル変調処理されたパルス波の送信信号を出力する、ことを特徴とする。
【0009】
望ましい具体例において、前記符号長Nは2の累乗であり、前記第1符合列と前記第2符合列の各々は、第1符合列N/2と第2符号列N/2に基づいて形成される、ことを特徴とする。
【0010】
望ましい具体例において、前記第1符合列は、符号列Aであり、前記第2符合列は符号列Bであり、符号列Aは、符号列AN/2と符号列BN/2を直列接続した符号列であり、符号列Bは、符号列AN/2と符号列−BN/2を直列接続した符号列であり、符号列−BN/2は、符号列BN/2の符号の値を反転させた符号列である、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記符号列Aと前記符号列Bの各々は、符号長2の符号列A=(1,1)と符号列B=(1,−1)から、前記直列接続を繰り返して形成される、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記第1符合列は、符号列Aであり、前記第2符合列は符号列B´であり、符号列Aは、符号列AN/2と符号列BN/2を直列接続した符号列であり、符号列B´は、符号列BN/2−1と符号列−AN/2−1を直列接続した符号列であり、符号列BN/2は、符号列AN/4と符号列−BN/4を直列接続した符号列であり、符号列BN/2−1は、符号列BN/2の符号の並び反転させた符号列であり、符号列−AN/2−1は、符号列AN/2の符号の値と並びを共に反転させた符号列であり、符号列−BN/4は、符号列BN/4の符号の値を反転させた符号列である、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記符号列Aと前記符号列B´の各々は、符号長2の符号列A=(1,1)と符号列B=(1,−1)から、前記直列接続を繰り返して形成される、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記送信信号処理部は、第1信号列に対応したパルス波の第1送信信号と第2信号列に対応したパルス波の第2送信信号を出力し、前記超音波送受部は、第1送信信号に対応した第1受信信号と第2送信信号に対応した第2受信信号を受信し、前記受信信号処理部は、前記第1信号列に応じた復調処理により第1受信信号を第1復調信号に復調し、前記第2信号列に応じた復調処理により第2受信信号を第2復調信号に復調し、前記画像形成部は、第1復調信号と第2復調信号を合成処理して得られる合成復調信号に基づいて超音波画像を形成する、ことを特徴とする。
【0015】
望ましい具体例において、前記送信信号処理部は、第1信号列と第2信号列に基づいた位相シフトキーイングにより得られるパルス波の送信信号を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、パルス波に利用される新しいデジタル変調方式が提供される。例えば、本発明の好適な態様によれば、互いに相補関係にある2つの信号列に基づいてデジタル変調処理されたパルス波が利用され、レンジサイドローブの低減などの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】コードAに関する自己相関の計算結果を示す図である。
【図3】コードBに関する自己相関の計算結果を示す図である。
【図4】コードB´に関する自己相関の計算結果を示す図である。
【図5】コードAのPSKパルス波の送受信処理を説明するための図である。
【図6】コードBのPSKパルス波の送受信処理を説明するための図である。
【図7】汎用の位相検波器の特性を示す図である。
【図8】合成処理部における合成処理の具体例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。プローブ10は、パルス波の超音波を生体内へ送波し、生体内から得られる超音波の反射波を受波する。プローブ10は、各々が超音波を送受する複数の振動素子を備えており、これら複数の振動素子が送信制御されて超音波の送信ビームが形成され、また、これら複数の振動素子により得られた信号が受信処理されて受信ビームが形成される。
【0019】
送信ビームフォーマ(送信BF)14は、プローブ10が備える複数の振動素子に対して送信信号を出力する。送信ビームフォーマ14には、PSK変調処理部24からパルス波の送信信号が供給され、送信ビームフォーマ14は、その送信信号に対して、各振動素子に応じた遅延処理を施して各振動素子に対応した送信信号を形成する。なお、送信ビームフォーマ14において形成された各振動素子に対応した送信信号に対して、必要に応じて電力増幅処理が施されてもよい。こうして、超音波の送信ビームが形成される。
【0020】
PSK変調処理部24は、搬送波発生部20から得られる搬送波(RF波)に対して、位相シフトキーイング(PSK)によるデジタル変調処理を施すことにより、PSK変調処理されたパルス波の送信信号を発生する。その位相シフトキーイングにおいて、互いに相補関係にある2つのコード(符号列)が利用される。つまり、コードA発生部22Aが発生するコードAとコードB発生部22Bが発生するコードBが、時分割処理部23を介して交互にPSK変調処理部24へ出力され、互いに相補関係にあるコードAとコードBを利用してPSK変調処理部24が位相シフトキーイングによるデジタル変調処理を施す。PSK変調処理部24により形成されるパルス波の送信信号については、後にさらに詳述する。
【0021】
受信ビームフォーマ(受信BF)16は、プローブ10が備える複数の振動素子から得られる複数の受波信号を整相加算処理して受信ビームを形成する。つまり、受信ビームフォーマ16は、各振動素子から得られる受波信号に対してその振動素子に応じた遅延処理を施し、複数の振動素子から得られる複数の受波信号を加算処理することにより受信ビームを形成する。なお、各振動素子から得られる受波信号に対して低雑音増幅等の処理を施してから、受信ビームフォーマ16に複数の受波信号が供給されてもよい。こうして受信ビームに沿った受信RF信号が得られる。
【0022】
時分割処理部18は、コードAに対応した期間に得られる受信RF信号を圧縮処理部A30Aへ出力し、コードBに対応した期間に得られる受信RF信号を圧縮処理部B30Bへ出力する。
【0023】
圧縮処理部A30Aは、コードAに対応した受信RF信号に対してコードAに応じた復調処理を施し、さらに、時間軸方向に広がっているパルス波を圧縮処理する。一方、圧縮処理部B30Bは、コードBに対応した受信RF信号に対してコードBに応じた復調処理を施し、さらに、時間軸方向に広がっているパルス波を圧縮処理する。
【0024】
そして、合成処理部40は、コードAに関する圧縮処理後の復調信号とコードBに関する圧縮処理後の復調信号とを合成処理する。これにより、圧縮処理後の復調信号に含まれるレンジサイドローブが低減される。望ましくは、レンジサイドローブがゼロになる。圧縮処理部A30Aと圧縮処理部B30Bと合成処理部40における処理については、後にさらに詳述する。
【0025】
画像形成部52は、合成処理部40において合成処理された復調信号に基づいて、超音波画像の画像データを形成する。例えば、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)を走査して得られる信号に基づいて、生体内の断層画像(Bモード画像)や三次元画像の画像データが形成される。形成された画像データに対応した超音波画像は、表示部54に表示される。なお、図1に示す超音波診断装置内の各部は、システム制御部60によって制御される。つまり、システム制御部60は、送信制御や受信制御や表示制御などを行う。
【0026】
以上、概説したように、図1の超音波診断装置では、互いに相補関係にあるコードAとコードBを利用して得られるパルス波の送信信号を用いて超音波を送受することにより受信信号を得て、得られた受信信号を圧縮処理することにより、例えば、レンジサイドローブを低減させている。そこで、図1の超音波診断装置におけるPSK変調処理と、レンジサイドローブが低減される原理について詳述する。なお、図1に示した部分(構成)については、以下の説明においても図1の符号を利用する。
【0027】
図1の超音波診断装置では、互いに相補関係にある2つのコード(符号列)を用いて位相シフトキーイング(PSK)による変調処理が行われる。つまり、コードA発生部22Aから出力されるコードAとコードB発生部22Bから出力されるコードBが互いに相補関係にあり、コードAとコードBを利用してPSK変調処理部24が位相シフトキーイングによるデジタル変調処理を施す。
【0028】
まず、コードAとコードBの自己相関を数1式のように定義し、そして、数2式の条件を満足する具体的なコードを検討する。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
例えば、n=2の場合に、A=(1,1)、B=(1,−1)が上述した条件を満足する。数1式と数2式に基づいた具体的な計算結果を数3式に示す。
【0032】
【数3】

【0033】
n=2(2ビット)のコードを拡張したn=4(4ビット)のコードは、数4式から得られる。
【0034】
【数4】

【0035】
=(1,1)、B=(1,−1)に基づいて得られるn=4のコードは、数5式に示すとおりである。
【0036】
【数5】

【0037】
数5式に示すコードAの自己相関(数1式参照)は、数6式に示すとおりとなる。
【0038】
【数6】

【0039】
また、数5式に示すコードBの自己相関は、数7式に示すとおりとなる。
【0040】
【数7】

【0041】
数6式と数7式に示すように、コードAとコードBの両コード共に、自己相関の値は、コードのずれが0(i=0)のときに極大値4となる。また、両コードの相関値の和についても、コードのずれが0(i=0)のときに極大値8となる。
【0042】
さらに、n=4(4ビット)のコードを拡張したn=8(8ビット)のコードは、数8式から得られる。
【0043】
【数8】

【0044】
数5式のA,Bから得られるn=8のコードは、数9式に示すとおりである。
【0045】
【数9】

【0046】
数9式に示すコードAの自己相関(数1式参照)は、数10式に示すとおりとなる。
【0047】
【数10】

【0048】
図2は、コードAに関する自己相関の計算結果を示す図である。コードのずれを示すτ(=i)が1,2,4,6,7の場合に相関値が0となり、τが3,5の場合に相関値が4となり、τが0,8の場合に相関値が8となっている。極大値である8よりは小さいものの、τが3,5の場合には相関値が4であり0になっていない。
【0049】
一方、数9式に示すコードBの自己相関は、数11式に示すとおりとなる。
【0050】
【数11】

【0051】
図3は、コードBに関する自己相関の計算結果を示す図である。コードのずれを示すτ(=i)が1,2,4,6,7の場合に相関値が0となり、τが3,5の場合に相関値が−4となり、τが0,8の場合に相関値が8となっている。τが3,5の場合の相関値が−4であり、コードAに関する自己相関の計算結果(図2)と比較すると、絶対値が等しく極性が逆になっている。
【0052】
そのため、コードAとコードBの両コードの相関値の和を算出すると、コードのずれを示すτが0,8の場合、つまりコードのずれが無い場合に、相関値の和が極大値16となり、τが他の値の場合、つまりコードのずれが有る場合に、相関値の和が常に0となる。このように、コードAとコードBは、コードがずれている場合に互いの相関値を打ち消し合う相補関係にある。
【0053】
なお、互いに相補関係にあるn=8のコードは、次の数12式から得ることもできる。数12式において、コードB−1は、コードBの符号の並び反転させたコードであり、コード−A−1は、コードAの符号の値と並びを共に反転させたコードである。
【0054】
【数12】

【0055】
数5式のA,Bから、数12式に基づいて得られるコードAは、数9式の場合と同じであり、数12式に基づいて得られるコードB´は、数13式に示すとおりとなる。
【0056】
【数13】

【0057】
図4は、コードB´に関する自己相関の計算結果を示す図である。コードのずれを示すτ(=i)が1,2,4,6,7の場合に相関値が0となり、τが3,5の場合に相関値が−4となり、τが0,8の場合に相関値が8となっている。つまり、コードBに関する自己相関の計算結果(図3)と同じ結果が得られており、コードAとコードB´の組み合わせも、互いに相補関係にあることがわかる。
【0058】
さらに、n=8(8ビット)のコードを拡張したn=16(16ビット)のコードは、数14式または数15式から得られる。
【0059】
【数14】

【0060】
【数15】

【0061】
さらに、32ビット、64ビット、128ビット、256ビット等のコードも同様の法則を適用して拡張できる。数14式に対応した一般式を示すと数16式のようになり、数15式に対応した一般式を示すと数17式のようになる。数16式と数17式におけるNは、コードに含まれるビット数(符号長)であり2の累乗となる。
【0062】
【数16】

【0063】
【数17】

【0064】
図1の超音波診断装置では、A=(1,1)、B=(1,−1)から、数16式または数17式を利用して得られるコードAとコードB(又はコードB´)が用いられる。つまり、コードA発生部22AがコードAを発生し、コードB発生部22BがコードB(又はコードB´)を発生し、時分割処理部23がコードAとコードB(又はコードB´)を交互にPSK変調処理部24へ出力する。
【0065】
そして、PSK変調処理部24がコードAに対応した送信信号と、コードB(又はコードB´)に対応した送信信号を交互に出力する。こうして、例えば、同一の走査方向に対して又は同一とみなせる走査方向に対して、コードAに対応した送信ビームとコードBに対応した送信ビームが交互に形成される。
【0066】
さらに、受信系において、コードAに対応した受信ビームとコードBに対応した受信ビームが交互に形成され、時分割処理部18を介して、コードAに対応した受信ビームの受信RF信号が圧縮処理部A30Aへ出力され、コードBに対応した受信ビームの受信RF信号が圧縮処理部B30Bへ出力される。つまり、コードAに対応したPSKパルス波に関する送受信処理と、コードB(又はコードB´)に対応したPSKパルス波に関する送受信処理が、時分割で実行される。そこで、各コードに対応したパルス波に関する送受信処理について説明する。
【0067】
図5は、コードAのPSKパルス波の送受信処理を説明するための図である。図5には8ビットのコードAを用いて搬送波に対して2相の位相シフトキーイング(PSK)変調処理を施した例が図示されている。
【0068】
PSK変調処理部24は、コードAが供給されている期間において、コードAを用いて搬送波に対して2相の位相シフトキーイング(PSK)変調処理を施す。これにより図5に示すようにPSKパルス波の位相が調整される。1つのPSKパルス波の長さは、例えば5μsec(マイクロ秒)程度である。そして、このPSKパルス波に対応した超音波が送受され、このPSKパルス波に対応した受信RF信号が圧縮処理部A30Aへ送られる。圧縮処理部A30Aは、コードAに対応した復調処理を施す。図5には、圧縮処理部A30Aにおける復調時の位相シフト量も示されている。
【0069】
圧縮処理部A30Aは、コードAに対応した8ビット長の遅延時間を備えたディレイラインを利用する。ディレイラインは、1ビット期間ごとに段階的に入力される受信信号(受信RF信号)を1ビット期間ずつ段階的にずらして遅延しつつ、8つのタップの各々から各ビット期間に対応した信号を出力する。図5には、ディレイラインの8つのタップから次々に出力される受信信号(φ1〜φ15)が示されている。ディレイラインには、送信されたPSKパルス波に対応した受信波形が入力され、その受信波形が1ビット期間ずつ段階的に遅延されてディレイラインから出力される。そのため、図5に示す受信信号(φ1〜φ15)の位相は、図5の上段に示したPSKパルス波を1ビットずつ段階的にずらした場合の位相に対応している。
【0070】
さらに、圧縮処理部A30Aは、ディレイラインの8つのタップの各々から出力される信号に対して、図5に示す復調時の位相シフト量だけ位相シフト処理を施す。図5には、受信信号(φ1〜φ15)の各々に関する復調後(位相シフト処理後)の位相が図示されている。また、復調後の位相の下段に示す検波出力は、復調後の位相から、例えば、図7に示す汎用の位相検波器の特性に基づいて得られる電圧である。
【0071】
そして、図5に示す合計は、8ビットの期間内における検波出力の合計値であり、圧縮処理部A30Aが備える加算処理部において算出される。図5に示すように、受信信号(φ8)の場合に、検波出力が常に1となり合計値が極大値8となる。つまり、8ビットのPSKパルス波が、8ビットの期間に対応したディレイラインに丁度収まった場合に、合計値が極大値8となる。これに対し、ディレイラインに丁度収まっていない他の受信信号の場合には、検波出力がランダムに変化するために合計値が比較的小さくなる。
【0072】
そのため、例えば、8ビットの期間に対応した深さ方向の範囲(レンジ)から得られる信号のうち、その範囲の中心に対応した深さからの受信信号が選択的に圧縮処理されて合計値が極大となり、他の深さからの受信信号に関する合計値が比較的小さくなる。つまりレンジサイドローブが比較的小さくなる。
【0073】
但し、図5に示すように、受信信号(φ8)に関する合計値(極大値8)よりは小さいものの、受信信号(φ1,φ3,φ7)などについても合計値が0にはならない。つまりレンジサイドローブが完全には除去しきれない。このレンジサイドローブを除去するために、コードBに対応したPSKパルス波が併用されている。
【0074】
図6は、コードBのPSKパルス波の送受信処理を説明するための図である。図6には8ビットのコードAと相補関係にある8ビットのコードBを用いて搬送波に対して2相の位相シフトキーイング(PSK)変調処理を施した例が図示されている。
【0075】
PSK変調処理部24は、コードBが供給されている期間において、コードBを用いて搬送波に対して2相の位相シフトキーイング(PSK)変調処理を施す。これにより図6に示すようにPSKパルス波の位相が調整される。1つのPSKパルス波の長さは、例えば5μsec(マイクロ秒)程度である。そして、このPSKパルス波に対応した超音波が送受され、このPSKパルス波に対応した受信RF信号が圧縮処理部B30Bへ送られる。圧縮処理部B30Bは、コードBに対応した復調処理を施す。図6には、圧縮処理部B30Bにおける復調時の位相シフト量も示されている。
【0076】
圧縮処理部B30Bも、圧縮処理部A30Aと同様に、8ビット長の遅延時間を備えたディレイラインを利用する。ディレイラインには、送信されたPSKパルス波に対応した受信波形が入力され、その受信波形が1ビット期間ずつ段階的に遅延されてディレイラインから出力される。そのため、図6に示す受信信号(φ1〜φ15)の位相は、図6の上段に示したPSKパルス波を1ビットずつ段階的にずらした場合の位相に対応している。
【0077】
さらに、圧縮処理部B30Bは、ディレイラインの8つのタップの各々から出力される信号に対して、図6に示す復調時の位相シフト量だけ位相シフト処理を施す。図6には、受信信号(φ1〜φ15)の各々に関する復調後(位相シフト処理後)の位相が図示されている。また、復調後の位相の下段に示す検波出力は、復調後の位相から、例えば、図7に示す汎用の位相検波器の特性に基づいて得られる電圧である。
【0078】
そして、図6に示す合計は、8ビットの期間内における検波出力の合計値であり、圧縮処理部B30Bが備える加算処理部において算出される。図6に示すように、受信信号(φ8)の場合に、検波出力が常に1となり合計値が極大値8となる。つまり、8ビットのPSKパルス波が、8ビットの期間に対応したディレイラインに丁度収まった場合に、合計値が極大値8となる。これに対し、ディレイラインに丁度収まっていない他の受信信号の場合には、検波出力がランダムに変化するために合計値が比較的小さくなる。
【0079】
図6に示すコードBの場合においても、レンジサイドローブが完全には除去されていない。つまり、受信信号(φ1,φ3,φ7)などについても合計値が0にはならない。但し、合計値が0にならない受信信号(φ1,φ3,φ7)などについて、図6と図5を比較すると、互いに対応する受信信号に関する合計値の絶対値が等しく極性が逆になっている。
【0080】
そのため、図5のコードAに関する合計値と図6のコードBに関する合計値の和を算出すると、受信信号(φ8)の場合に合計値の和が極大値16となり、他の受信信号(φ1〜φ7,φ9〜φ15)の場合に合計値の和が常に0となる。つまり、合計値同士を加算することにより、理論的にはレンジサイドローブを完全に除去することができる。この合計値同士の加算は、合成処理部40において実行される。
【0081】
なお、図5,6においては、8ビットのコードAとコードBを利用した具体例を説明したが、装置の具現化においては、コードに含まれるビット数(符号長)を適宜調整してもよいことは言うまでもない。例えば、ビット数を増やして1ビットの期間を小さくすることにより位置分解能を高めることができる。
【0082】
図8は、合成処理部40における合成処理の具体例を説明するための図である。(A)は、圧縮処理部A30Aから出力される信号を示している。つまり、ある深さdに対応した圧縮パルス(圧縮処理後の復調信号)を示しており、図5に示した検波出力の合計値を時間軸方向に沿って並べた結果に対応している。一方(B)は、圧縮処理部B30Bから出力される信号を示している。つまり、(A)と同じ深さdに対応した圧縮パルス(圧縮処理後の復調信号)を示しており、図6に示した検波出力の合計値を時間軸方向に沿って並べた結果に対応している。
【0083】
同一の走査方向に対して、コードAに対応した送信ビームとコードBに対応した送信ビームが交互に形成され、それに応じて、コードAに対応した受信ビームとコードBに対応した受信ビームが交互に形成されると、(A)と(B)に示すように、同一の深さdに対応した信号がビーム1本分の期間(1/PRF)だけ離れて交互に得られる。
【0084】
そこで、合成処理部40は、まず(C)に示すように(A)の信号と(B)の信号をそのまま加算し、さらに(D)に示すように(C)の信号をビーム1本分の期間(1/PRF)だけ遅延処理する。
【0085】
そして、合成処理部40は、(E)に示すように(C)の信号と(D)の信号を加算する。これにより、同一の深さdから得られる(A)の信号と(B)の信号が加算される。つまり、図5のコードAに関する合計値と図6のコードBに関する合計値の和に相当する処理が実行され、深さdのメインローブに対応した信号値が極大となり、理論的にはレンジサイドローブが発生しない。
【0086】
なお、図8には1つの深さdに対応した圧縮パルスのみを図示しているが、パルス波を送信してから受信信号が圧縮処理されるまで(圧縮パルスが発生するまで)の時間は、その受信信号の深さに対応する。そのため、ビーム1本分の期間(1/PRF)内で、刻々と得られる圧縮パルスを各深さに対応付けることにより、1本のビームに沿って複数の深さに亘って圧縮パルスを得ることができる。そして、複数の深さから得られる複数の圧縮パルスを時間軸方向に沿って並べた信号を対象として、(A)から(E)に示した合成処理を行うことにより、レンジサイドローブを低減しつつ(理論的にはゼロとしつつ)1本のビームに沿って複数の深さに亘って圧縮パルス(加算後の圧縮パルス)を得ることが可能になる。
【0087】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した本発明の好適な実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0088】
22A コードA発生部、22B コードB発生部、23 時分割処理部、24 PSK変調処理部、30A 圧縮処理部A、30B 圧縮処理部B、40 合成処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相補関係にある第1信号列と第2信号列に基づいてデジタル変調処理されたパルス波の送信信号を出力する送信信号処理部と、
前記送信信号に対応した超音波を生体に送波して当該生体から超音波を受波することにより受信信号を得る超音波送受部と、
前記受信信号に対して前記デジタル変調処理に対応した復調処理を施すことにより復調信号を得る受信信号処理部と、
前記復調信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記送信信号処理部は、符号長Nの第1符号列に対応した第1信号列と、符号長Nの第2符号列に対応した第2信号列と、に基づいてデジタル変調処理されたパルス波の送信信号を出力する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記符号長Nは2の累乗であり、
前記第1符合列と前記第2符合列の各々は、第1符合列N/2と第2符号列N/2に基づいて形成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記第1符合列は、符号列Aであり、
前記第2符合列は、符号列Bであり、
符号列Aは、符号列AN/2と符号列BN/2を直列接続した符号列であり、
符号列Bは、符号列AN/2と符号列−BN/2を直列接続した符号列であり、
符号列−BN/2は、符号列BN/2の符号の値を反転させた符号列である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波診断装置において、
前記符号列Aと前記符号列Bの各々は、符号長2の符号列A=(1,1)と符号列B=(1,−1)から、前記直列接続を繰り返して形成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記第1符合列は、符号列Aであり、
前記第2符合列は、符号列B´であり、
符号列Aは、符号列AN/2と符号列BN/2を直列接続した符号列であり、
符号列B´は、符号列BN/2−1と符号列−AN/2−1を直列接続した符号列であり、
符号列BN/2は、符号列AN/4と符号列−BN/4を直列接続した符号列であり、
符号列BN/2−1は、符号列BN/2の符号の並び反転させた符号列であり、
符号列−AN/2−1は、符号列AN/2の符号の値と並びを共に反転させた符号列であり、
符号列−BN/4は、符号列BN/4の符号の値を反転させた符号列である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波診断装置において、
前記符号列Aと前記符号列B´の各々は、符号長2の符号列A=(1,1)と符号列B=(1,−1)から、前記直列接続を繰り返して形成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記送信信号処理部は、第1信号列に対応したパルス波の第1送信信号と第2信号列に対応したパルス波の第2送信信号を出力し、
前記超音波送受部は、第1送信信号に対応した第1受信信号と第2送信信号に対応した第2受信信号を受信し、
前記受信信号処理部は、前記第1信号列に応じた復調処理により第1受信信号を第1復調信号に復調し、前記第2信号列に応じた復調処理により第2受信信号を第2復調信号に復調し、
前記画像形成部は、第1復調信号と第2復調信号を合成処理して得られる合成復調信号に基づいて超音波画像を形成する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記送信信号処理部は、第1信号列と第2信号列に基づいた位相シフトキーイングにより得られるパルス波の送信信号を出力する、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−218049(P2011−218049A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92517(P2010−92517)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】