説明

超音波診断装置

【課題】超音波探触子からの送信波に内在する2次高調波成分と3次高調波成分の両方を消去することで、鮮明な超音波画像を得ることができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】基本波、n次波及びm次波の超音波を出力する圧電素子であって、同じ出力特性を備える圧電素子を4個以上具備する圧電素子群を備え、前記圧電素子群の中の4つの前記圧電素子を第1圧電素子から第4圧電素子として一組とする圧電素子体を少なくとも1つ備える超音波探触子と、送信手段と、受信手段と、高調波抽出部と、画像処理部と、を有し、前記送信手段は、各圧電素子体において、第1圧電素子と第3圧電素子のn次波における位相差と、第2圧電素子と第4圧電素子のn次波における位相差とは共に180度であり、第1圧電素子と第2圧電素子のm次波における位相差と、第3圧電素子と第4圧電素子のm次波における位相差とは共に180度であるように駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内に超音波を送信し、超音波が被検体内において反射して生成された反射超音波を受信して被検体内の画像を形成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、非破壊、無害及び略リアルタイムでその内部を調べることに用いられ、欠陥の検査や疾患の診断等の様々な分野に応用されている。その一つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内から来た超音波の反射波から生成した受信信号に基づいて被検体内の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。超音波診断装置は、医療用では、他の医療用画像装置に較べて小型で安価であり、そしてX線等の放射線被爆が無く安全性が高いこと、また、ドップラ効果を応用した血流表示が可能であること等の様々な特長を有している。このため、超音波診断装置は、循環器系(例えば心臓の冠動脈等)、消化器系(例えば胃腸等)、内科系(例えば肝臓、膵臓及び脾臓等)、泌尿器系(例えば腎臓及び膀胱等)及び産婦人科系等で広く利用されている。
【0003】
超音波診断装置には、被検体に対して超音波を送受信する超音波探触子が用いられている。超音波探触子は、圧電現象を利用することによって、送信の電気信号に基づいて機械振動して超音波を発生し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる超音波の反射波を受信して電気信号を生成する複数の圧電素子を備え、これら複数の圧電素子が例えばアレイ状に2次元配列されて構成されている。
【0004】
また、近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された超音波の周波数(基本周波数)成分ではなく、その高調波成分によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究、開発されている。ハーモニックイメージング技術は、基本周波数成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(Signal to Noise ratio)が良くなってコントラストが向上すること、周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって横方向分解能が向上すること、近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されること、及び、焦点以遠の減衰が基本波並みであり高周波を基本波とする場合に較べて深度を大きく取れること等の様々な利点を有している。(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
ハーモニックイメージング技術においては、被検体から反射して戻る超音波に含まれる高調波成分は、基本波成分に比べて非常に小さいので、高調波成分のみを抽出するために高度な技術が採用されている。一方、超音波探触子から送信される超音波の時間波形はパルス波形であるので、高調波成分を内在する。送信される超音波に内在する高調波成分は、被検体から反射して戻る超音波に含まれる高調波成分に比して無視できない大きさである。そのため、送信される超音波に内在する高調波成分は、被検体から反射して戻る超音波に含まれる高調波成分を抽出するにあたってノイズ成分となってしまい、鮮明な超音波画像を得る上で除去したいものとなっている。
【0006】
かかる課題に対し、特許文献3においては、反射波の基本波を2波にして打ち消し合わせ、残った高調波成分を抽出する技術が開示されている。
【0007】
特許文献4においては、送信波を複数に分け、分けられた送信波の位相をπ/3ずつ変位させて足し合わせることで、送信波に内在する3次高調波を打ち消している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−118065号公報
【特許文献2】特開2007−185525号公報
【特許文献3】特開2010−017406号公報
【特許文献4】特開2010−063493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3と4において開示されている技術は、高次高調波の中で一つの高次高調波のみ消すことができる技術である。従って、2次高調波成分を消去しても3次高調波成分が残り、逆に3次高調波成分を消去しても2次高調波成分が残る。残った高次高調波は、被検体から反射して戻る超音波に含まれる高調波成分を抽出するにあたってノイズ成分となってしまう。
【0010】
本発明は、2次高調波成分と3次高調波成分の両方を消去することで、鮮明な超音波画像を得ることができる超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0012】
1.基本波、n次波(nは2以上の自然数)及びm次波(mはnと異なる2以上の自然数)の超音波を出力する圧電素子であって、同じ出力特性を備える圧電素子を4個以上具備する圧電素子群を備え、前記圧電素子群の中の4つの前記圧電素子を第1圧電素子から第4圧電素子として一組とする圧電素子体を少なくとも1つ備える超音波探触子と、
該超音波探触子に超音波を送信させる送信手段と、
被検体からの反射超音波を前記超音波探触子が変換した電気信号を受信する受信手段と、
該電気信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部と、
前記高調波成分から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、を有し、
前記送信手段は、各圧電素子体において、第1圧電素子と第3圧電素子のn次波における位相差と、第2圧電素子と第4圧電素子のn次波における位相差とは共に180度であり、第1圧電素子と第2圧電素子のm次波における位相差と、第3圧電素子と第4圧電素子のm次波における位相差とは共に180度であるように駆動することを特徴とする超音波診断装置。
【0013】
2.前記第1圧電素子から前記第4圧電素子は5mm以内の近接状態で設置されることを特徴とする前記1に記載の超音波診断装置。
【0014】
3.前記圧電素子体が10組以上備えられ、各圧電素子は1次元状または2次元状に配列されていることを特徴とする前記1または2に記載の超音波診断装置。
【0015】
4.前記nは2であり、前記mは3であることを特徴とする前記1から3の何れか一項に記載の超音波診断装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明は2次高調波成分と3次高調波成分の両方を消去することで、鮮明な超音波画像を得ることができる超音波診断装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る超音波診断装置Sの外観構成を示す概要図である。
【図2】実施形態に係る超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】超音波探触子2の送信に係る部分、及び送信部12の内部構成を示す図である。
【図4】超音波探触子2における受信に係る部分、及び受信部13の内部構成を示す図である。
【図5】実施形態に係る超音波探触子2の振動部20の構成を示す概要図である。
【図6】実施形態に係る圧電素子群200を構成する各チャンネルの圧電素子221に付与された遅延時間の例を説明する説明図である。
【図7】基本波と本発明に係る送信波の時間波形の実測値の一例である。
【図8】基本波と本発明に係る送信波の周波数スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を図面により説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限られるものではない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0019】
図1は、実施形態に係る超音波診断装置Sの外観構成を示す概要図である。図2は、実施形態に係る超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。
【0020】
超音波診断装置Sは、図1及び図2に示すように、図略の生体等の被検体Hに対して超音波を送信すると共に、被検体Hで反射した超音波の反射超音波を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2にケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体Hに対して超音波を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体H内からの反射超音波に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体H内の内部状態を超音波画像として医用画像に画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0021】
超音波診断装置本体1には、超音波探触子2を使用しない時に、超音波探触子2を保持させておく超音波探触子フォルダ4が備えられている。
【0022】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、受信信号処理部14と、画像処理部15と、表示部16と、制御部17と、記憶部19と、送信信号処理部18と、を備えて構成されている。
【0023】
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体Hの個人情報等のデータを入力するものであり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0024】
送信信号処理部18は、制御部17の制御に従って、後述する圧電部22を駆動する電気信号の送信信号を生成する機能を有する送信手段としての回路である。
【0025】
送信部12は、送信信号処理部18が生成した電気信号を増幅し、超音波探触子2内の圧電部22へ、ケーブル3を介して送信信号を供給し、超音波探触子2に超音波を発生させる。送信部12は、例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。また、送信部12には後述する送信ビームフォーマ121が内蔵されている。
【0026】
受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信する受信手段としての回路であり、この受信信号を受信信号処理部14へ出力する。受信部13は、例えば、受信信号を予め設定された所定の増幅率で増幅するアンプ、このアンプで増幅された受信信号をアナログ信号からデジタル信号へ変換するアナログ−デジタル変換器、そしてまた、後述する受信ビームフォーマ131等が内蔵されている。
【0027】
受信信号処理部14は、制御部17の制御に従って、受信部13からの電気信号から高調波成分を抽出したり、所定の信号処理を施す高調波抽出部としての回路であり、その信号処理した反射受信信号を画像処理部15へ出力する。
【0028】
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、受信信号処理部14で信号処理された反射受信信号に基づいて、ハーモニックイメージング技術等を用いて被検体H内の内部状態の超音波画像を生成する回路である。また、例えば、反射受信信号に対して包絡線検波処理を施すことにより、反射超音波の振幅強度に対応したBモード信号を生成する。
【0029】
記憶部19はRAMやROMで構成され、制御部17に用いられるプログラムが記録され、また、表示部16で表示する各種画像のテンプレートが記録されている。
【0030】
制御部17は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子及びその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、受信信号処理部14、画像処理部15、表示部16、送信信号処理部18、記憶部19を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0031】
表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された超音波画像を表示する装置である。表示部16は、例えば、CRTディスプレイ、LCD、ELディスプレイ及びプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0032】
超音波探触子2は、振動部20を備える。振動部20は、図略の生体等の被検体Hに対して超音波を送信すると共に、被検体Hからの反射超音波を受信する。
【0033】
図3は、超音波探触子2の送信に係る部分、及び送信部12の内部構成を示す図である。
【0034】
超音波探触子2に備えられる振動部20は、複数の圧電素子221から構成される圧電素子群200と、送信ビームフォーマ121が各圧電素子へ出力する送信信号を増幅するアンプ202とを備えている。
【0035】
送信ビームフォーマ121は、遅延テーブル記憶部123に記憶された遅延テーブルに基づいて送信信号を生成する機能する。
【0036】
送信ビームフォーマ121は、遅延テーブル記憶部123、及び遅延パルス発生回路122を備えており、遅延テーブルに基づいて複数の圧電素子221の各々に対してアンプ202を介して送信信号を出力する。
【0037】
遅延テーブルとは上記のように、圧電素子221毎の超音波の送波タイミング、すなわち電子走査において必要とされる全てのステアリング角度に対応する遅延調整量が記録されたテーブルである。
【0038】
遅延パルス発生回路122は、遅延テーブル記憶部123において取得された遅延テーブルに基づいて、その遅延テーブルが規定する超音波出力タイミングで各圧電素子221に対してアンプ202を介して送信信号を出力する。これにより、被検体内に超音波がフォーカスされる。
【0039】
また、例えば、様々なフォーカス位置を規定する遅延テーブルを遅延テーブル記憶部123に記憶させておき、所望のフォーカス位置を実現することも可能である。
【0040】
図4は、超音波探触子2における受信に係る部分、及び受信部13の内部構成を示す図である。
【0041】
振動部20における各圧電素子221は被検体Hの生体内から反射される超音波を受波して受信信号を出力する。受信信号は各圧電素子221毎に設けられたアンプ201を介して受信部13に出力される。
【0042】
受信部13においては、振動部20からの出力はローパスフィルタ134を通って受信ビームフォーマ131に入力される。
【0043】
受信部13における受信ビームフォーマ131は整相加算部132及びアナログデジタルコンバータ(ADC)133で構成されている。受信ビームフォーマ131は各圧電素子221が出力する受信信号毎に遅延調整を行い、遅延調整後の受信信号を加算処理するといういわゆる整相加算処理を行う。
【0044】
整相加算部132から出力される整相加算後の受信信号はADC133においてアナログデジタル変換されて受信信号処理部14へ出力される。
【0045】
図5は、実施形態に係る超音波探触子2の振動部20の構成を示す概要図である。振動部20は、圧電部22と、音響整合層23と、音響レンズ24と、バッキング層25と、固定板26とを有する。
【0046】
圧電部22は、複数の圧電素子221における圧電現象を利用することによって電気信号と超音波との間で相互に信号を変換するものである。
【0047】
圧電部22は、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して入力された送信信号の電気信号を超音波へ変換して超音波を送信すると共に、受信した反射超音波を電気信号へ変換してこの電気信号である受信信号を、ケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。
【0048】
超音波探触子2が被検体Hに当接されることによって圧電部22で生成された超音波が被検体H内へ送信され、被検体H内からの反射超音波が圧電部22で受信される。圧電材料には無機材料や有機材料が使用される。
【0049】
音響整合層23は、圧電部22の音響インピーダンスと被検体Hの音響インピーダンスの間の値の音響インピーダンスを備えることで、圧電部22から送信される超音波を被検体Hに送信する際に、圧電部22と被検体Hとの音響インピーダンスの差に応じて生じる反射超音波を軽減する機能を有し、圧電部22で生じた超音波を被検体Hへ、また被検体H内で反射した超音波を圧電部22へ効率良く伝達することができる。圧電部22から被検体Hへ音響インピーダンスが徐々に近づいていくように2層以上の音響整合層を形成すれば、圧電部22と被検体Hとの間で超音波の反射をより少なくすることができる。
【0050】
音響レンズ24は、圧電部22から送信される超音波を測定箇所へ向けて集束させる機能を有する。
【0051】
バッキング層25は、超音波を吸収する材料から構成された部材であり、圧電部22からバッキング層25方向へ放射される不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。好ましいバッキング材としては、ゴム系複合材料及びまたはエポキシ樹脂複合材からなるものであり、その形状は圧電体や圧電体を含むプローブヘッドの形状に応じて、適宜選択することができる。
【0052】
固定板26は、バッキング層25を固定し、超音波探触子2に剛性を持たせたり、加工時に固定したりする機能を有するものである。
【0053】
次いで、送信される超音波に含まれる高次高調波を消去し、基本波だけの超音波にする手段について説明する。
【0054】
本実施形態については、振動部20を構成する圧電素子群200の各圧電素子221は基本波、n次波及びm次波の超音波を出力するものであり、各圧電素子221は全て同じ出力特性を備えるものとする。すなわち、各圧電素子221から出力される超音波における基本波、n次波及びm次波の振幅が同じに駆動するように、送信部12から送られる送信信号が設定されている。なお、nとmとは相異なる2以上の自然数である。
【0055】
圧電素子群200を構成する圧電素子221の中の4個を一組として圧電素子体220という概念で捉える。
【0056】
圧電素子体220を構成する4つの圧電素子を第1圧電素子から第4圧電素子と呼称する。図5に示されているように、圧電素子221aを第1圧電素子、圧電素子221bを第2圧電素子、圧電素子221cを第3圧電素子、圧電素子221dを第4圧電素子とする。
【0057】
本実施形態においては、各圧電素子体220において、第1圧電素子と第3圧電素子のn次波における位相差と、第2圧電素子と第4圧電素子のn次波における位相差とは共に180度であるように各圧電素子を駆動し、第1圧電素子と第2圧電素子のm次波における位相差と、第3圧電素子と第4圧電素子のm次波における位相差とは共に180度であるように駆動する。
【0058】
以下、nは2であり、mは3であるとして説明する。
【0059】
最初に、2次波の消去について説明する。第1圧電素子221aと第3圧電素子221cの2次波における位相差と、第2圧電素子221bと第4圧電素子221dの2次波における位相差とは共に180度であるようにする駆動する。
【0060】
具体的には、初期位相について、基本波における第1圧電素子221aの位相を0とし、第2圧電素子221bの位相をπ/3とし、第3圧電素子221cの位相をπ/2とし、第4圧電素子221dの位相を5π/6とする。
【0061】
すると、2次波においては、波長が2分の1になるので、位相も2倍進むことになり、第2圧電素子221bの位相は2π/3、第3圧電素子221cの位相はπ、第4圧電素子221dの位相は10π/6となる。
【0062】
従って、第1圧電素子221aと第3圧電素子221cの2次波における位相差と、第2圧電素子221bと第4圧電素子221dの2次波における位相差とは共に180度となるので、第1圧電素子221aと第3圧電素子221cの2次波は相殺しあい、第2圧電素子221bと第4圧電素子221dの2次波も相殺しあう。その結果、2次波は消去される。
【0063】
次いで、3次波の消去について説明する。第1圧電素子221aと第2圧電素子221bの3次波における位相差と、第3圧電素子221cと第4圧電素子221dの3次波における位相差とは共に180度であるように駆動する。
【0064】
各圧電素子間の初期位相についは上記のごとくである。そして、3次波においては、波長が3分の1になるので、位相も3倍進むことになるので、第2圧電素子221bの位相をπ、第3圧電素子221cの位相を3π/2、第4圧電素子221dの位相を15π/6となる。
【0065】
従って、第1圧電素子221aと第2圧電素子221bの3次波における位相差と、第3圧電素子221cと第4圧電素子221dの3次波における位相差とは共に180度となるので、第1圧電素子221aと第2圧電素子221bの3次波は相殺しあい、第3圧電素子221cと第4圧電素子221dの3次波も相殺しあう。その結果、3次波は消去される。
【0066】
そして、基本波の位相関係は互いに相殺しあう関係にはないので2次波、3次波が打ち消された後に基本波は打ち消されず残ることとなる。以上のように、送信される超音波に含まれる高次高調波は消去され、基本波だけの超音波を生成することが可能となる。
【0067】
図6は、圧電素子群200を構成する各チャンネルの圧電素子221に付与された遅延時間の例を説明する説明図である。
【0068】
横軸は圧電素子群200を構成する圧電素子221のチャンネル番号を表し、縦軸は各圧電素子221を駆動するにあたって設けられる遅延時間(ナノ秒)の量を表す。
【0069】
圧電素子群200を構成する各チャンネルの圧電素子221は図5に示されているように一平面上に直線状に同一間隔で64個配列されている。
【0070】
第1チャンネルから第4チャンネルを一つの圧電素子体220とし、次に第5チャンネルから第8チャンネルを一つの圧電素子体220とするという組み合わせで64チャンネルまでの中に16組の圧電素子体220が並列されているものとする。
【0071】
第1から第4チャンネルまでを第1圧電素子221a,第2圧電素子221b,第3圧電素子221c,第4圧電素子221dとし、第5チャンネルから第8チャンネルまでを第4圧電素子221d,第3圧電素子221c,第2圧電素子221b,第1圧電素子221aとする。
【0072】
同様に、第9から第12チャンネルまでを第1圧電素子221a,第2圧電素子221b,第3圧電素子221c,第4圧電素子221dとし、第13チャンネルから第16チャンネルまでを第4圧電素子221d,第3圧電素子221c,第2圧電素子221b,第1圧電素子221aとする。
【0073】
各遅延時間は、図6に示されているように、被検体の測定部位に超音波を集めるビームフォーミングのために各チャンネルの圧電素子221に付与された遅延時間を表す線70に対して付加されている。この線70で表される遅延時間に対して、第1圧電素子から第4圧電素子に設けられるべき遅延時間が付与されている。すなわち、各圧電素子221は上記した位相関係を有するように遅延時間が設定されて駆動されるようになっている。
【0074】
具体的には、基本波における第1圧電素子221aの位相は0、第2圧電素子221bの位相はπ/3、第3圧電素子221cの位相はπ/2、第4圧電素子221dの位相を5π/6とされている。
【0075】
なお、第1圧電素子から第4圧電素子までの圧電素子から送信される超音波は、上記のように超音波自身が干渉しあうように近接状態して設置されている。具体的には、第1圧電素子から第4圧電素子までの圧電素子は5mm以内の近接状態で設置されることが望ましい。
【0076】
また、第1圧電素子から第4圧電素子までの圧電素子から送信される超音波が有効に干渉しあって本発明の効果を発揮するために、圧電素子体220は10組以上備えられていることが望ましい。また、各圧電素子は1次元状または2次元状に配列されていることが望ましい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0078】
第1圧電素子から第4圧電素子までを一組とする圧電素子体220を16組用意した。
【0079】
ビームフォーミングにより超音波探触子から35mm離れた位置にフォーカスポイントを合わせ、基本周波数4MHzで駆動した。
【0080】
第1圧電素子から第4圧電素子までの位相関係と、かかる位相関係によって除去できる2次高調波成分と3次高調波成分の関係を表1に示す。
【0081】
第1圧電素子と第2圧電素子とから送信される超音波の差分で3次高調波を相殺して除去し、同じく第3圧電素子と第4圧電素子とから送信される超音波の差分で3次高調波を相殺して除去した。また、第1圧電素子と第2圧電素子とから送信される超音波の差分と、第3圧電素子と第4圧電素子とから送信される超音波の差分とをさらに差分することで2次高調波を相殺して除去した。
【0082】
得られた結果を図7と図8に示す。図7は、基本波と本発明にかかる送信波の時間波形の実測値の一例である。横軸は時間(μs)を表し、縦軸は実測された超音波の相対的な強度を表す。線81が基本波の時間波形、線82が本発明にかかる送信波の時間波形を表す。
【0083】
図8は、基本波と本発明にかかる送信波の周波数スペクトルである。横軸は周波数を表し、縦軸は超音波の強度(dB)を表す。超音波の強度は、0dBで1Vrmsに相当する。線91が基本波の周波数スペクトル、線92が本発明にかかる送信波の周波数スペクトルを表す。
【0084】
図8から本発明の送信波は基本波の周波数スペクトルに対して大幅に周波数帯域が狭くなり、2次以上の高次高調波が減衰していることが分かる。
【0085】
以上のように本実施形態によれば、基本波、n次波(nは2以上の自然数)及びm次波(mはnと異なる2以上の自然数)の超音波を出力する圧電素子であって、同じ出力特性を備える圧電素子を4個以上具備する圧電素子群を備え、前記圧電素子群の中の4つの前記圧電素子を第1圧電素子から第4圧電素子として一組とする圧電素子体を少なくとも1つ備える超音波探触子と、該超音波探触子に超音波を送信させる送信手段と、被検体からの反射超音波を前記超音波探触子が変換した電気信号を受信する受信手段と、該電気信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部と、前記高調波成分から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、を有し、前記送信手段は、各圧電素子体において、第1圧電素子と第3圧電素子のn次波における位相差と、第2圧電素子と第4圧電素子のn次波における位相差とは共に180度であり、第1圧電素子と第2圧電素子のm次波における位相差と、第3圧電素子と第4圧電素子のm次波における位相差とは共に180度であるように駆動することから、送信波の中の高次高調波であるn次波とm次波を消去する超音波診断装置を提供することが可能となる。
【0086】
また他の実施形態によれば、第1圧電素子から第4圧電素子は5mm以内の近接状態で設置されることから、各圧電素子から送信される超音波自身が有効に干渉しあうようになるので、効果的に高次高調波であるn次波とm次波を消去する超音波診断装置を提供することが可能となる。
【0087】
また他の実施形態によれば、圧電素子体220は10組以上備えられており、各圧電素子は1次元状または2次元状に配列されていることから、効果的に高次高調波であるn次波とm次波を消去する超音波診断装置を提供することが可能となる。
【0088】
また他の実施形態によれば、前記nは2であり、前記mは3であることから、効果的に高次高調波である2次波と3次波を消去する超音波診断装置を提供することが可能となる。
【0089】
【表1】

【符号の説明】
【0090】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
4 超音波探触子フォルダ
11 操作入力部
12 送信部
13 受信部
14 受信信号処理部
15 画像処理部
16 表示部
17 制御部
18 送信信号処理部
19 記憶部
20 振動部
22 圧電部
23 音響整合層
24 音響レンズ
25 バッキング層
26 固定板
121 送信ビームフォーマ
122 遅延パルス発生回路
123 遅延テーブル記憶部
131 受信ビームフォーマ
132 整相加算部
133 アナログデジタルコンバータ(ADC)
134 ローパスフィルタ
200 圧電素子群
201、202 アンプ
220 圧電素子体
221 圧電素子
221a 第1圧電素子
221b 第2圧電素子
221c 第3圧電素子
221d 第4圧電素子
H 被検体
S 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本波、n次波(nは2以上の自然数)及びm次波(mはnと異なる2以上の自然数)の超音波を出力する圧電素子であって、同じ出力特性を備える圧電素子を4個以上具備する圧電素子群を備え、前記圧電素子群の中の4つの前記圧電素子を第1圧電素子から第4圧電素子として一組とする圧電素子体を少なくとも1つ備える超音波探触子と、
該超音波探触子に超音波を送信させる送信手段と、
被検体からの反射超音波を前記超音波探触子が変換した電気信号を受信する受信手段と、
該電気信号に含まれる高調波成分を抽出するための高調波抽出部と、
前記高調波成分から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、を有し、
前記送信手段は、各圧電素子体において、第1圧電素子と第3圧電素子のn次波における位相差と、第2圧電素子と第4圧電素子のn次波における位相差とは共に180度であり、第1圧電素子と第2圧電素子のm次波における位相差と、第3圧電素子と第4圧電素子のm次波における位相差とは共に180度であるように駆動することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記第1圧電素子から前記第4圧電素子は5mm以内の近接状態で設置されることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記圧電素子体が10組以上備えられ、各圧電素子は1次元状または2次元状に配列されていることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記nは2であり、前記mは3であることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−143322(P2012−143322A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2576(P2011−2576)
【出願日】平成23年1月8日(2011.1.8)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】