説明

超音波診断装置

【課題】温度環境に応じた超音波診断装置の起動処理を実現する。
【解決手段】超音波診断装置の電源がオン状態に切り替えられると、中央制御部20内においてBIOSが起動され、BIOSによる基本処理において温度の確認が行われる。つまり、温度センサSからセンサIF部を介して得られる温度の計測結果が、適正な温度の条件にあるかどうかについて確認がなされる。温度の確認の結果、温度が適正であると判断されると、中央制御部20のハードディスクに記憶されたOSがロードされてOSが起動される。さらに、OSが起動されると、中央制御部20のハードディスクに記憶された各種のソフトウェアが起動され、これにより、送受信部22、ビームフォーマ24、シネメモリ26、スキャンコンバータ28に対する制御処理が開始される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、温度環境に応じて動作する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になり超音波診断装置の小型化が進み、これに伴い、超音波診断装置が様々な環境下で利用される可能性が増している。例えば、比較的規模の大きな病院内において1台の超音波診断装置が環境の異なる様々な部屋で利用され又は保管される場合がある。さらに小型化が進んだ携帯型(ポータブルタイプ)の超音波診断装置であれば、屋内に留まらず屋外への持ち運びも十分に考えられ、利用され又は保管される環境の温度などを無視することはできない。
【0003】
特に、超音波診断装置は、緻密な構造のいくつものハードウェアデバイスを組み合わせた装置であり、例えば、温度環境によって複数のハードウェアデバイスの動作タイミングなどにばらつきが生じると、装置全体の動作が不安定になる可能性もある。また、ハードディスクなどのように、低温(氷点下)における利用が困難なデバイスもある。
【0004】
そのため、温度環境に応じて適宜に動作する超音波診断装置が望まれていた。ちなみに特許文献1には、超音波プローブの温度などに基づいて超音波プローブの状態を管理する旨の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−61938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した背景技術に鑑み、本願の発明者は、温度環境に応じて適宜に動作する超音波診断装置について研究開発を重ねてきた。特に超音波診断装置の起動時における動作に注目した。
【0007】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、温度環境に応じた超音波診断装置の起動処理を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、超音波を送受して得られた信号を段階的に処理する複数の信号処理部と、基本処理を経て制御処理を実行して複数の信号処理部を制御する中央制御部と、温度の監視を必要とされる箇所に配置された少なくとも一つの温度センサと、を有し、前記中央制御部は、温度センサで計測された温度が開始条件を満たすか否かを基本処理において確認し、開始条件を満たす場合に、オペレーティングシステムを起動して制御処理を開始する、ことを特徴とする。
【0009】
上記構成において、複数の信号処理部は、例えば超音波を送受して得られた信号から診断情報を生成するまでの信号処理経路に配置されるものであり、送受信部、ビームフォーマ、超音波画像形成部、シネメモリ、スキャンコンバータなどが各信号処理部の具体例である。また、温度センサは、例えば低温または高温における動作が不安定なハードディスクなどのデバイスの近傍や、温度環境の変化が激しい箇所などに配置される。
【0010】
そして中央制御部は、例えば超音波診断装置内を全体的に制御する機能を備えており、例えばCPUやROMやハードディスクやこれらを互いに接続するバスなどのハードウェアで構成される。例えば超音波診断装置の電源がオン状態(作動状態)に切り替えられると、中央制御部の動作が開始され、例えばROMに記憶された基本プログラムが起動されて基本処理が開始される。例えばBIOS(Basic Input/Output System)が基本プログラムとして起動される。そして、この基本処理において、温度に関する開始条件が確認される。
【0011】
例えば、開始条件として下限温度から上限温度までの温度範囲が設定され、温度センサで計測された温度がその温度範囲内か否かが確認される。もちろん、温度の下限のみ又は上限のみを開始条件として設定してもよいし、複数の温度センサから得られる複数の計測値を適宜に組み合わせた開始条件が設定されてもよい。
【0012】
こうして、開始条件が満たされた場合に、オペレーティングシステム(OS)が起動される。なお、開始条件が満たされない場合には、例えば開始条件が満たされるまで待機してからOSが起動される。したがって、OSのプログラムが例えばハードディスクなどに記憶されている場合においても、超音波診断装置の起動処理が安定化される。
【0013】
望ましい具体例において、前記各信号処理部は、初期化処理を実行してから前記中央制御部における異常を検出する異常検出処理を実行し、前記中央制御部は、前記制御処理において、異常を検出して停止した信号処理部の停止を解除する、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記中央制御部は、前記基本処理と共に各信号処理部の初期化処理を開始させる、ことを特徴とする。
【0015】
望ましい具体例において、当該装置内を冷却する少なくとも一つの冷却ファンをさらに有し、前記中央制御部は、前記開始条件を満たさない場合に基本処理において冷却ファンを停止させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、温度環境に応じた超音波診断装置の起動処理が実現される。例えば、本発明の好適な態様によれば、オペレーティングシステムがハードディスクに記憶されている場合においても、超音波診断装置の起動処理が安定化される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】温度が正常な場合における起動処理を説明するための図である。
【図3】温度が異常な場合における起動処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の好適な実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。プローブ10は、例えば生体に対して超音波を送受波する超音波プローブである。プローブ10は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、送受信部22から得られる送信信号に応じて各振動素子が超音波を送波する。また、各振動素子が生体内から得られる超音波を受波し、これにより得られた受信信号が送受信部22へ出力される。
【0020】
ビームフォーマ(BF)24は、複数の振動素子の各々へ出力される送信信号の出力タイミングなどを調整する。これにより、送受信部22から出力される送信信号に基づいてプローブ10の複数の振動素子が送信制御されて送信ビームが形成される。また、ビームフォーマ24は、複数の振動素子から送受信部22を介して得られる複数の受信信号を整相加算処理する。これにより、受信ビームが形成され、受信ビームに沿ってエコーデータが収集される。
【0021】
シネメモリ26は、受信ビームに沿って得られたエコーデータを記憶する。エコーデータは、複数の受信ビームで構成される各フレームごとに、複数のフレームに亘って記憶される。シネメモリ26は、最新フレームから過去に遡って複数のフレームに関するエコーデータを記憶し、新しいフレームのエコーデータが得られる度に、最古のフレームを消去して最新フレームのエコーデータに書き換える処理を繰り返す。
【0022】
スキャンコンバータ(SC)28は、各フレームごとに得られたエコーデータに基づいて、そのフレームに対応した表示画像データを形成する。エコーデータは受信ビームに沿って並べられたデータであり、スキャンコンバータ28において、表示に適した配列のデータに変換される。こうして、形成された表示画像データに対応した画像が表示部30に表示される。
【0023】
なお、送受信部22とビームフォーマ24とシネメモリ26とスキャンコンバータ28の各々は、上述した信号処理を実行するプロセッサを備えており、さらに、中央制御部20の暴走(異常処理)を監視するウォッチドッグタイマ(WDT)の機能を備えている。また、送受信部22とビームフォーマ24とシネメモリ26とスキャンコンバータ28と中央制御部20は、互いにバスを介して電気的に接続される。
【0024】
中央制御部20は、図1の超音波診断装置内を全体的に制御する機能を備えている。中央制御部20は、CPU、ROM、ハードディスク、センサインターフェイス(IF)部を備えており、これらが中央制御部20の内部で図示しないバスを介して互いに接続されている。そして、CPUが、ROM内のBIOS(Basic Input/Output System)や、ハードディスク内のOS(オペレーティングシステム)や各種のソフトウェアを起動し、超音波診断装置内の制御処理が実現される。OSなどが起動されるまでの処理においては、温度センサSにより計測される温度が参照される。
【0025】
温度センサSは、温度の監視を必要とされる箇所に配置される。例えば、中央制御部20のハードディスクの温度を監視するためにそのハードディスクの近傍に温度センサSが配置される。また、送受信部22からスキャンコンバータ28までの各信号処理部に温度センサSが設けられてもよい。もちろん、各信号処理部がハードディスクを備えていればそのハードディスクの近傍に温度センサSが配置されてもよい。
【0026】
中央制御部20は、OSなどが起動されるまでの処理において、温度センサSにより計測される温度を参照する。そこで、中央制御部20による起動処理について詳述する。なお、図1に示した部分(構成)については、以下の説明において図1の符号を利用する。
【0027】
図2は、温度が正常な場合における起動処理を説明するための図である。ユーザにより超音波診断装置の電源がオン状態(作動状態)に切り替えられると、中央制御部20のCPUが複数の信号処理部(送受信部22、ビームフォーマ24、シネメモリ26、スキャンコンバータ28)の各々に対してリセット命令を行う。また、リセット命令の直後に、ROMに記憶されたBIOSがロードされてBIOSが起動される。なお、電源がオン状態に切り替えられた後、リセット命令の直前にBIOSがロードされてもよいし、同時とみなせるタイミングでリセット命令とBIOSのロードが行われてもよい。
【0028】
BIOSが起動されると、BIOSによる基本処理において、温度の確認が行われる。つまり、温度センサSからセンサIF部を介して得られる温度の計測結果が、適正な温度の条件にあるかどうかについて確認が行われる。適正な温度の条件としては、例えば下限温度と上限温度が設定され、温度センサSで計測された温度がその温度範囲内か否かが確認される。なお、適正な温度範囲として、下限温度のみ又は上限温度のみが設定されてもよい。また、複数の温度センサSから得られる複数の計測値を適宜に組み合わせた条件が設定されてもよいし、特定の温度センサSの計測値、例えば中央制御部20のハードディスクの温度を重視するような条件が設定されてもよい。
【0029】
温度の確認の結果、温度が適正であると判断されると、中央制御部20のハードディスクに記憶されたOSがロードされてOSが起動される。さらに、OSが起動されると、中央制御部20のハードディスクに記憶された各種のソフトウェアが起動され、これにより複数の信号処理部(送受信部22、ビームフォーマ24、シネメモリ26、スキャンコンバータ28)に対する制御処理が開始される。
【0030】
なお、各信号処理部は、中央制御部20からリセット命令を受けると、初期化処理を実行して信号処理の準備をする。また、各信号処理部は、初期化処理後において、中央制御部20の暴走(異常処理)を監視するウォッチドッグタイマ(WDT)を機能させ、定められた期間内に中央制御部20からクリア処理が行われるか否かを確認する。正常に作動していれば中央制御部20の制御処理において、ウォッチドッグタイマのクリア処理が周期的に行われ、中央制御部20が正常に動作していることが各信号処理部に伝えられる。
【0031】
仮に、中央制御部20において何らかの異常があり、ウォッチドッグタイマのクリア処理が行われないと、各信号処理部が自身の機能を停止させる。そこで、温度が異常な場合における処理について以下に説明する。
【0032】
図3は、温度が異常な場合における起動処理を説明するための図である。まず、図2の正常な場合の処理と同様に、図3においても、超音波診断装置の電源がオン状態に切り替えられると、複数の信号処理部の各々に対してリセット命令が行われ、さらに、ROMに記憶されたBIOSがロードされてBIOSが起動される。そして、BIOSが起動されると、BIOSによる基本処理において、温度の確認が行われる。
【0033】
図3における処理では、その温度の確認において温度が適正な範囲よりも小さいため、温度が上昇するのを待っている。装置の電源がオン状態となっているため、装置内の各回路に電力が供給され、各回路の発熱による温度の上昇が期待される。また、装置内を冷却する冷却ファンが設けられている場合には、温度が適正な範囲に上昇するまで、冷却ファンを停止させることが望ましい。
【0034】
こうして、温度が上昇して温度が適正であると判断されると、図2における処理と同様に、図3においても、OSがロードされてOSが起動され、さらに、各種のソフトウェアがロードされて起動され、複数の信号処理部に対する制御処理が開始される。
【0035】
但し、図3の処理においては、温度上昇を待っていた期間があるため、中央制御部20による制御処理の前に、各信号処理部(送受信部22、ビームフォーマ24、シネメモリ26、スキャンコンバータ28)において、ウォッチドッグタイマ(WDT)による暴走検出が既に開始されている。そして、その暴走検出において、中央制御部20からウォッチドッグタイマのクリア処理が行われていないため、ウォッチドッグタイマがタイムアウトと判断し、各信号処理部の機能が停止されている。
【0036】
そこで、中央制御部20は、温度上昇を待っている期間がある場合に、起動抑止フラグを生成しておく。そして、ソフトウェアが起動されてからその起動抑止フラグを確認し、起動抑止フラグが生成されている場合には、各信号処理部に対して回復コメントを出力する。これにより、各信号処理部の機能の停止状態が解除され、ウォッチドッグタイマを含む全ての機能が正常時と同じ動作状態に回復される。なお、温度上昇を待っていた期間があることを、POSTコードを取得している回路からソフトウェアに伝える構成としてもよい。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0038】
10 プローブ、20 中央制御部、22 送受信部、24 ビームフォーマ、26 シネメモリ、28 スキャンコンバータ、30 表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受して得られた信号を段階的に処理する複数の信号処理部と、
基本処理を経て制御処理を実行して複数の信号処理部を制御する中央制御部と、
温度の監視を必要とされる箇所に配置された少なくとも一つの温度センサと、
を有し、
前記中央制御部は、温度センサで計測された温度が開始条件を満たすか否かを基本処理において確認し、開始条件を満たす場合に、オペレーティングシステムを起動して制御処理を開始する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記各信号処理部は、初期化処理を実行してから前記中央制御部における異常を検出する異常検出処理を実行し、
前記中央制御部は、前記制御処理において、異常を検出して停止した信号処理部の停止を解除する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記中央制御部は、前記基本処理と共に各信号処理部の初期化処理を開始させる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
当該装置内を冷却する少なくとも一つの冷却ファンをさらに有し、
前記中央制御部は、前記開始条件を満たさない場合に基本処理において冷却ファンを停止させる、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−245089(P2012−245089A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117780(P2011−117780)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】