説明

超音波診断装置

【課題】三次元画像に関する視点の位置を基準として速度情報を表示する。
【解決手段】3Dデータ生成部40は、データ空間内の各座標ごとに、3つの3Dプローブ11,12,13から得られるエコーデータを合成処理して三次元の速度ベクトルを得る。レイ設定部52は、視点からデータ空間内を通る複数のレイを設定する。ボクセル値算出部50は、設定された各レイに沿って並ぶ複数のボクセルに関して、各ボクセルごとに速度値と輝度値を算出する。各ボクセルの速度値として、そのボクセルに対応した速度ベクトルのレイ方向成分が算出される。各レイに沿って並ぶ複数のボクセルの各々についての速度値と輝度値が算出されると、レンダリング処理部60において、速度値と輝度値を利用して、各レイについてのレンダリング演算が実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元空間内から得られる速度情報に基づいて表示画像を形成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元空間内からエコー情報を収集して三次元の超音波画像を形成する装置が知られている。例えば、特許文献1には、三次元の生体組織画像と血流画像とを同時に表示する超音波診断装置が示されている。この装置により、例えば、生体組織部分を白で表示させて血流部分を赤く表示させ、さらに、生体組織部分と血流部分の前後関係をより明確に表現した画像を形成することができる。
【0003】
また、例えば、正方向の血流に対して暖色系の色相を割り当て、負方向の血流に対して寒色系の色相を割り当てることにより、血流の方向を表現したカラードプラ画像が知られており、特許文献2には、カラードプラの情報を三次元画像に反映させる技術が示されている。
【0004】
上述した基礎的な技術に支えられ、近年においては、三次元画像を形成する際の視点を超音波プローブに固定せず、視点の位置を任意に変更できる装置も登場している。この装置によれば、例えば医師等のユーザが診断状況等に応じた所望の位置に視点を設定し、診断対象の三次元画像を観察することが可能になる。
【0005】
ところが、診断対象が血流でありその方向を色で表現する場合において、例えば、超音波ビームの方向を基準として、固定的に、正方向の血流を暖色系の色相として負方向の血流を寒色系の色相とすると、視点の位置が超音波プローブ側にある場合には、視点に向かってくる血流が暖色系となり視点から遠ざかる血流が寒色系となるため、カラードプラと同様な色の表現が維持されるものの、視点の位置が血流を挟んで超音波プローブの反対側に設定されてしまうと、視点に向かってくる血流が寒色系となり視点から遠ざかる血流が暖色系となるため、カラードプラにおける色の表現と逆になってしまう。
【0006】
つまり、超音波ビームの方向を基準として速度情報を表示してしまうと、視点の位置の変更に対して十分に対応しきれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3977779号公報
【特許文献2】特開2005−278988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した背景技術に鑑み、本願の発明者は、視点の位置を任意に変更して三次元画像を形成する技術について研究開発を重ねてきた。
【0009】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、三次元画像に関する視点の位置を基準として速度情報を表示する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、三次元空間に対して互いに異なる複数の原点方向から超音波を送受する送受波部と、前記送受波部を制御することにより、前記各原点方向ごとに超音波ビームを立体的に走査して各原点方向ごとに三次元的にエコーデータを収集する送受信処理部と、前記三次元空間に対応したデータ空間内の各座標ごとに、前記複数の原点方向から得られるその座標に対応した複数のエコーデータに基づいて、その座標における三次元の速度ベクトル情報を得る三次元情報生成部と、前記データ空間に対して設定された視点側からデータ空間内を通る複数のレイを設定するレイ設定部と、前記各レイごとに、そのレイに沿って並ぶ複数のボクセルに関して、各ボクセルに対応した座標の前記速度ベクトル情報に基づいて、各ボクセルごとにそのレイの方向の速度値を算出するボクセル値算出部と、前記各レイごとに、そのレイに沿って並ぶ複数のボクセルに関する複数の速度値に基づいてレンダリング演算を実行するレンダリング処理部と、前記レンダリング演算により前記複数のレイから得られる複数の画素値に基づいて前記三次元空間に関する表示画像を形成する画像形成部と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、三次元の速度ベクトル情報に基づいて各ボクセルごとにレイの方向の速度値が算出される。そのため、例えば、視点の位置の変更に伴ってレイの方向が変化した場合においても、変化後のレイの方向に応じた速度値が算出され、その速度値に基づいて表示画像が形成される。このように、例えば任意の位置に設定される視点を基準として速度値を得て表示画像を形成することが可能になる。
【0012】
望ましい具体例において、前記レンダリング処理部は、前記各レイごとに、前記速度値が正の値となる複数のボクセルを対象とした正のレンダリング演算と、前記速度値が負の値となる複数のボクセルを対象とした負のレンダリング演算と、を実行し、前記画像形成部は、前記各レイごとに、前記正のレンダリング演算により得られる結果値と前記負のレンダリング演算により得られる結果値に基づいて画素値を決定する、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記各ボクセルに対応した座標のエコーデータに基づいて各ボクセルごとに輝度値が決定され、前記レンダリング処理部は、前記各レイごとに、前記正のレンダリング演算と前記負のレンダリング演算に加えて、そのレイに沿って並ぶ複数のボクセルに関する複数の輝度値に基づいた輝度のレンダリング演算を実行し、前記画像形成部は、前記各レイごとに、前記正のレンダリング演算と前記負のレンダリング演算により得られる色相と、前記輝度のレンダリング演算により得られる輝度と、に基づいて画素値を決定する、ことを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記レンダリング処理部は、前記各レイごとに、レンダリング演算の進行と共に、そのレイに沿って並ぶ複数のボクセルに関する複数の速度値と複数の輝度値を複合的に累積処理し、その累積処理の結果が予め設定された閾値に達した時点をレンダリング演算の終了時点とする、ことを特徴とする。
【0015】
望ましい具体例において、前記送受波部は、三次元空間に対して互いに異なる複数の原点方向から超音波を送受する複数の三次元プローブを備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、三次元画像に関する視点の位置を基準として速度情報を表示することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】エコーデータの合成処理を説明するための図である。
【図3】ボリュームレンダリングの原理を説明するための図である。
【図4】レンダリング処理部における演算を説明するための図である。
【図5】レンダリング演算の結果に基づいた3原色の信号値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の好適な実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。3Dプローブ11は、血流などの対象物を含む三次元空間に対して超音波を送受波する超音波プローブである。3Dプローブ11は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子がビームフォーマ21によって送信制御されて送信ビームが形成される。また、複数の振動素子が三次元空間内から得られる超音波を受波し、これにより得られた信号がビームフォーマ21へ出力され、ビームフォーマ21が受信ビームを形成する。
【0020】
3Dプローブ11は、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)を三次元空間内において走査して立体的にエコーデータを収集する三次元プローブである。例えば、一次元的に配列された複数の振動素子(1Dアレイ振動子)によって電子的に形成される走査面を機械的に動かすことにより超音波ビームが立体的に走査される。また、二次元的に配列された複数の振動素子(2Dアレイ振動子)を電子的に制御して超音波ビームを立体的に走査してもよい。3Dプローブ11を利用して三次元空間内から収集されたエコーデータは3Dメモリ31に記憶される。
【0021】
図1の超音波診断装置は、3Dプローブ11に加えて、3Dプローブ12,13を備えている。3Dプローブ12,13も三次元プローブであり、例えば3Dプローブ11と同じ構成のプローブが利用される。但し、3つの3Dプローブ11,12,13は、互いに異なる方向から三次元空間に対して超音波を送受するように配置される。
【0022】
3Dプローブ12は、ビームフォーマ22により制御される。これにより超音波ビームが三次元空間内において立体的に走査されてエコーデータが収集される。3Dプローブ12を利用して三次元空間内から収集されたエコーデータは3Dメモリ32に記憶される。
【0023】
同様に、3Dプローブ13は、ビームフォーマ23により制御される。これにより、超音波ビームが三次元空間内において立体的に走査されてエコーデータが収集される。3Dプローブ13を利用して三次元空間内から収集されたエコーデータは3Dメモリ33に記憶される。
【0024】
3つの3Dプローブ11,12,13により三次元空間内からエコーデータが収集されると、3Dデータ生成部40は、3Dメモリ31,32,33に記憶されたそれらのエコーデータを合成処理することにより、三次元空間に対応したデータ空間内において、各座標ごとに輝度や速度ベクトルを算出する。
【0025】
図2は、エコーデータの合成処理を説明するための図であり、図2には、図1を利用して説明した3Dプローブ11,12,13が図示されている。図2に示すように、3つの3Dプローブ11,12,13は、三次元空間100に対して互いに異なる方向から超音波を送受するように配置されている。例えば、3つの3Dプローブ11,12,13の互いの相対的な配置関係が既知とされ、3Dプローブ12を基準として三次元空間100の座標系が設定される。
【0026】
3Dデータ生成部40(図1)は、三次元空間100に対応したデータ空間内の各座標ごとに、3つの3Dプローブ11,12,13から得られるエコーデータを合成処理して三次元の速度ベクトルを得る。そこで、図2に示す三次元空間100内の座標Cにおける合成処理について説明する。
【0027】
まず、3Dプローブ11から座標Cに向けられた超音波ビームB1に沿って得られるエコーデータに含まれるドプラ情報に基づいて、超音波ビームB1と同じ方向の速度ベクトル成分V1が決定される。3Dプローブ11についてのエコーデータは、3Dメモリ31(図1)から読み出される。また、3Dプローブ12から座標Cに向けられた超音波ビームB2に沿って得られるエコーデータに含まれるドプラ情報に基づいて、超音波ビームB2と同じ方向の速度ベクトル成分V2が決定される。3Dプローブ12についてのエコーデータは、3Dメモリ32(図1)から読み出される。さらに、3Dプローブ13から座標Cに向けられた超音波ビームB3に沿って得られるエコーデータに含まれるドプラ情報に基づいて、超音波ビームB3と同じ方向の速度ベクトル成分V3が決定される。3Dプローブ13についてのエコーデータは、3Dメモリ33(図1)から読み出される。そして、速度ベクトル成分V1と速度ベクトル成分V2と速度ベクトル成分V3をベクトル的に加算することにより、三次元空間100内の座標Cにおける三次元の速度ベクトルVが得られる。
【0028】
また、3Dデータ生成部40は、三次元空間100に対応したデータ空間内の各座標ごとに、3つの3Dプローブ11,12,13から得られるエコーデータに基づいて輝度(エコーデータの大きさ)を得る。なお、輝度はスカラー値であるため、例えば3つの3Dプローブ11,12,13のうちのいずれか1つのプローブから得られるエコーデータのみにより座標Cにおける輝度が決定されてもよいし、複数のプローブから得られるエコーデータの平均値などから座標Cにおける輝度が決定されてもよい。
【0029】
こうして、3Dデータ生成部40は、三次元空間100内(データ空間内)の全座標について、各座標ごとに三次元の速度ベクトルと輝度を決定する。全座標についての速度ベクトルと輝度は、例えば座標値をアドレスとして3Dデータ生成部40が備えるメモリに記憶される。
【0030】
図1の超音波診断装置は、3Dデータ生成部40において得られた三次元空間100内(データ空間内)の各座標の速度ベクトルと輝度に基づいて、ボリュームレンダリングの手法を利用して表示画像を形成する。そこで、そのボリュームレンダリングの原理について説明する。
【0031】
図3は、ボリュームレンダリングの原理を説明するための図である。図3には、三次元空間100(データ空間)がXYZの直交座標系で示されている。三次元空間100内の全座標について、各座標ごとにデータ(三次元の速度ベクトルと輝度)が決定されていることは先に説明したとおりである。
【0032】
ボリュームレンダリングにおいては、通常、三次元空間100(データ空間)の外側に仮想的に視点VPが設定され、三次元空間100を間に介して、視点VPと反対側に二次元平面としてのスクリーン110が仮想的に設定される。その視点VPを基準として複数のレイ(透視線)112が定義される。レイ112は、三次元空間100を貫通するように設定される。そして、三次元空間100内において、レイ112上には複数のボクセル(黒丸)からなるボクセル列が対応付けられる。
【0033】
なお、各ボクセルのデータ(ボクセル値)は、そのボクセルに対応した座標の速度ベクトルや輝度から算出される。各ボクセルの位置に合致する座標が無ければ、そのボクセルの近傍にある座標の速度ベクトルや輝度を用いて、補間処理などにより、そのボクセルのボクセル値が算出される。本実施形態におけるボクセル値については後に説明する。
【0034】
ボリュームレンダリングにおいては、視点VP側からレイ112に沿って並ぶ複数のボクセル値を対象として、レンダリング演算(ボクセル演算)が逐次的に実行される。そして、最終のレンダリング演算の結果として画素値が決定される。その画素値がスクリーン上における当該レイ112に対応する画素Pにマッピングされる。
【0035】
図3において、スクリーン110は、Xs,Ysの座標系で示されている。つまり、スクリーン110内の各座標はXs,Ysの座標値で定義される。このスクリーン110内の各座標ごとに1本のレイ112が設定されており、上述にように各レイ112ごとに得られた画素値をスクリーン110上にマッピングすることにより、スクリーン110上に三次元画像が形成される。なお、複数のレイ112が互いに平行の場合もあるが、複数のレイ112が互いに非平行となる場合もある。
【0036】
レンダリング演算の好適な例では、i番目のボクセルのデータ(ボクセル値)をeとし、その際のオパシティ(不透明度)をα(但し0≦α≦1)とし、i番目の演算結果をCOUTiとし、i番目の演算における入力値((i−1)番目の演算結果)をCINiとすると、次式で示すことができる。もちろん、次式以外の公知の演算が用いられてもよい。
【0037】
【数1】

【0038】
例えば数1式を利用してレイ112に沿って逐次的にレンダリング演算を行う場合においては、それと並行して各オパシティαが積算され、その積算値が所定値(例えば1)以上となった時点において、そのレイ112についての演算が終了する。また、最終のボクセル値についての演算が終了した場合にもそのレイ112についての演算は終了する。さらに、本実施形態においては、後に詳述する終了条件に基づいてレイ112についての演算を終了させてもよい。
【0039】
なお、本実施形態に係る超音波診断装置は、上記のようなボリュームレンダリングを利用することが特に好適であるものの、各レイ112に沿って逐次演算を行う他のレンダリング処理が適用されてもよい。例えば、積算法、最大値や最小値の検出法などが適用されてもよい。
【0040】
図1に戻り、レイ設定部52は、視点VP(図2)からデータ空間内を通る複数のレイ(図2の符号112)を設定する。視点VPは、任意の位置に設定される。例えば、図示しない操作デバイスを利用してユーザが所望の位置に視点VPを設定する。また、スクリーン(図2の符号110)は、データ空間を間に挟むように、視点VPの反対側に設定される。レイ設定部52は、設定された視点VPからデータ空間内を通りスクリーンに達する複数のレイを設定する。
【0041】
複数のレイが設定されると、ボクセル値算出部50は、設定された各レイに沿って並ぶ複数のボクセルに関して、各ボクセルごとにボクセル値を算出する。ボクセル値算出部50は、ボクセル値として各ボクセルごとに速度値と輝度値を算出する。
【0042】
まず、各ボクセルの速度値は、そのボクセルに対応した座標の速度ベクトルに基づいて算出される。複数のボクセルは三次元空間内(データ空間内)にあるため(図3参照)、三次元空間内における各ボクセルの位置に対応した座標の速度ベクトル(図2)が参照される。そして、各ボクセルの速度値として、そのボクセルに対応した速度ベクトルのレイ方向成分が算出される。つまり、対象となるボクセルが載るレイとそのボクセルに対応した速度ベクトルとの間の角度をθとし、その速度ベクトルの大きさをVとすると、そのボクセルの速度値は、速度値=V×cosθと算出される。なお、視点に向かう方向を速度の正方向とし、視点から遠ざかる方向を速度の負方向とする。
【0043】
また、各ボクセルの輝度値は、そのボクセルに対応した座標の輝度(エコーデータの大きさ)に基づいて算出される。つまり、三次元空間内における各ボクセルの位置に対応した座標の輝度(エコーデータの大きさ)が参照され、そのエコーデータの大きさがそのボクセルの輝度値とされる。
【0044】
こうして、ボクセル値算出部50により、各レイに沿って並ぶ複数のボクセルの各々についての速度値と輝度値が算出されると、レンダリング処理部60において、ボクセル値として算出された速度値と輝度値を利用して、各レイについてのレンダリング演算が実行される。
【0045】
図4は、レンダリング処理部における演算を説明するための図である。レンダリング処理部(図1の符号60)は、ボクセル値として算出された速度値と輝度値を利用して、各レイごとにレンダリング演算を実行する。
【0046】
図4(I)は、1本のレイについてのレンダリング演算を示しており、1本のレイについて、輝度値を対象としたレンダリング演算(輝度レンダリング)と、正の速度値を対象としたレンダリング演算(正レンダリング)と、負の速度値を対象としたレンダリング演算(負レンダリング)が実行される。
【0047】
輝度レンダリングにおいては、レイに沿って並ぶ複数のボクセルについて、視点に近い側のボクセル1から順に、ボクセル値として輝度値を利用して、レンダリング演算(ボクセル演算)が実行される。
【0048】
正レンダリングにおいては、レイに沿って並ぶ複数のボクセルについて、視点に近い側のボクセル1から順に、ボクセル値として速度値を利用して、レンダリング演算(ボクセル演算)が実行される。但し、正レンダリングにおいては、正の速度値つまり視点に向かう方向の速度値のみが演算の対象とされ、速度値がゼロまたは負となるボクセルについては演算の対象から除かれる。なお、速度値がゼロまたは負となるボクセルのボクセル値を0として演算を進めることにより、結果的に演算結果に反映させないようにしてもよい。
【0049】
一方、負レンダリングにおいては、負の速度値つまり視点から遠ざかる方向の速度値のみが演算の対象とされ、速度値がゼロまたは正となるボクセルについては演算の対象から除かれる。なお、速度値がゼロまたは正となるボクセルのボクセル値を0として演算を進めることにより、結果的に演算結果に反映させないようにしてもよい。
【0050】
図4(II)は、(I)に示したレンダリング演算の終了判定を示しており、(I)のレンダリング演算と並行して実行される処理を示している。この終了判定においては、レイに沿って並ぶ複数のボクセルに関する速度値と輝度値が複合的に累積処理され、累積処理の結果が予め設定された閾値に達した時点がレンダリング演算の終了時点とされる。
【0051】
具体的には、例えば、各ボクセルに関する速度値と輝度値の絶対値が利用される。そして、各ボクセルに関する輝度値の絶対値と速度値の絶対値が累積処理の対象とされ、(I)に示すレンダリング演算に並行するように、視点に近い側のボクセル1から順に絶対値の加算(累積処理)が進行される。図4(II)に示す例においては、ボクセル1の輝度値の絶対値と正の速度値の絶対値が加算され、さらにその加算結果に対して、ボクセル2の輝度値の絶対値と正の速度値の絶対値が加算され、さらにその加算結果に対して、ボクセル3の輝度値の絶対値と負の速度値の絶対値が加算される。こうして、累積処理が進められ、ボクセルiにおいて累積処理の結果が予め設定された閾値に達すると、(I)に示す各レンダリング演算がボクセルiの段階で終了され、その段階における各レンダリング演算の値が演算結果とされる。
【0052】
図1に戻り、レンダリング処理部60は、複数のレイの各々について3つのレンダリング演算を実行し、各レイごとに演算結果(E)と演算結果(+V)と演算結果(−V)を得る(図4参照)。そして、画像形成部70は、各レイごとに得られる3つの演算結果に基づいて、スクリーン上におけるそのレイに対応した画素P(図3参照)の画素値を決定する。各画素Pの画素値は、RGB(赤緑青)の3原色に対応したR信号値とG信号値とB信号値により決定される。これらR信号値とG信号値とB信号値は、各レイごとに3つのレンダリング演算の結果として得られる演算結果(E)と演算結果(+V)と演算結果(−V)に基づいて決定される。
【0053】
図5は、レンダリング演算の結果に基づいた3原色の信号値を示す図である。演算結果(+V)は、正の速度値を対象としたレンダリング演算の演算結果であり、演算結果(−V)は、負の速度値を対象としたレンダリング演算の演算結果であり、演算結果(E)は輝度値を対象としたレンダリング演算の演算結果である(図4参照)。
【0054】
演算結果(+V)と演算結果(−V)が共にゼロの場合には、R信号値とG信号値とB信号値の全ての信号値を演算結果(E)とする。一方、演算結果(+V)と演算結果(−V)の少なくとも一方がゼロでない場合には、R信号値を演算結果(+V)としてB信号値を演算結果(−V)とし、G信号値は0または0以外の固定値とする。
【0055】
これにより、演算結果(+V)つまり視点に向かってくる正の速度値に関する演算結果が赤(R)を基調とした暖色系で画素に反映され、演算結果(−V)つまり視点から遠ざかる負の速度値に関する演算結果が青(B)を基調とした寒色系で画素に反映される。
【0056】
図1に戻り、画像形成部70は、各レイごとに得られる3つの演算結果に基づいて、スクリーン上におけるそのレイに対応した画素の画素値(R信号値,G信号値,B信号値)を決定する(図5参照)。こうして、仮想的なスクリーン上における全ての画素の画素値が決定され、このスクリーン上に形成される画像が三次元空間に関する表示画像としてモニタなどに表示される。なお、図1に示した超音波診断装置内の各部は、制御部80により制御される。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態によれば、三次元の速度ベクトルに基づいて各ボクセルごとにレイの方向の速度値が算出され、その算出において、視点に向かう方向が正の速度値とされ視点から遠ざかる方向が負の速度値される。つまり、レイの起点となる視点VPが任意の位置に変更されたとしても、常に視点を基準として速度の正負が決定されている。これにより、例えば、視点に向かってくる血流等が赤を基調とした暖色系で表現され、視点から遠ざかる血流等が青を基調とした寒色系で表現され、視点の位置に関わらずカラードプラと同様な色の表現を維持することができる。
【0058】
なお、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。例えば、図1では、3つの3Dプローブ11,12,13を利用した実施形態を示したが、4つ以上の複数の3Dプローブが利用されてもよい。その場合には、例えばそれら複数の3Dプローブの中から3つの3Dプローブが選択的に利用されて、図2以降に説明した処理が実現される。
【符号の説明】
【0059】
11,12,13 3Dプローブ、21,22,23 ビームフォーマ、40 3Dデータ生成部、50 ボクセル値算出部、52 レイ設定部、60 レンダリング処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元空間に対して互いに異なる複数の原点方向から超音波を送受する送受波部と、
前記送受波部を制御することにより、前記各原点方向ごとに超音波ビームを立体的に走査して各原点方向ごとに三次元的にエコーデータを収集する送受信処理部と、
前記三次元空間に対応したデータ空間内の各座標ごとに、前記複数の原点方向から得られるその座標に対応した複数のエコーデータに基づいて、その座標における三次元の速度ベクトル情報を得る三次元情報生成部と、
前記データ空間に対して設定された視点側からデータ空間内を通る複数のレイを設定するレイ設定部と、
前記各レイごとに、そのレイに沿って並ぶ複数のボクセルに関して、各ボクセルに対応した座標の前記速度ベクトル情報に基づいて、各ボクセルごとにそのレイの方向の速度値を算出するボクセル値算出部と、
前記各レイごとに、そのレイに沿って並ぶ複数のボクセルに関する複数の速度値に基づいてレンダリング演算を実行するレンダリング処理部と、
前記レンダリング演算により前記複数のレイから得られる複数の画素値に基づいて前記三次元空間に関する表示画像を形成する画像形成部と、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波診断装置において、
前記レンダリング処理部は、前記各レイごとに、前記速度値が正の値となる複数のボクセルを対象とした正のレンダリング演算と、前記速度値が負の値となる複数のボクセルを対象とした負のレンダリング演算と、を実行し、
前記画像形成部は、前記各レイごとに、前記正のレンダリング演算により得られる結果値と前記負のレンダリング演算により得られる結果値に基づいて画素値を決定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波診断装置において、
前記各ボクセルに対応した座標のエコーデータに基づいて各ボクセルごとに輝度値が決定され、
前記レンダリング処理部は、前記各レイごとに、前記正のレンダリング演算と前記負のレンダリング演算に加えて、そのレイに沿って並ぶ複数のボクセルに関する複数の輝度値に基づいた輝度のレンダリング演算を実行し、
前記画像形成部は、前記各レイごとに、前記正のレンダリング演算と前記負のレンダリング演算により得られる色相と、前記輝度のレンダリング演算により得られる輝度と、に基づいて画素値を決定する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波診断装置において、
前記レンダリング処理部は、前記各レイごとに、レンダリング演算の進行と共に、そのレイに沿って並ぶ複数のボクセルに関する複数の速度値と複数の輝度値を複合的に累積処理し、その累積処理の結果が予め設定された閾値に達した時点をレンダリング演算の終了時点とする、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断装置において、
前記送受波部は、三次元空間に対して互いに異なる複数の原点方向から超音波を送受する複数の三次元プローブを備える、
ことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−45253(P2012−45253A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191757(P2010−191757)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】