説明

超音波顕微鏡

【課題】試料に対して高周波数の超音波を送出でき、高空間分解能で試料の内部を観察することができる超音波顕微鏡を提供する。
【解決手段】パルス光によって超音波を発生させて試料に照射し、試料で反射した反射超音波を用いて試料を観察する超音波顕微鏡1aにおいて、パルス光を照射するパルス光照射手段5と、照射されたパルス光を吸収して熱弾性効果による超音波を発し、該超音波を試料に送出する超音波送波部4aとを備える。超音波受波部6aは、試料で反射した超音波である反射超音波を受波するとともに、その反射超音波から受ける応力に応じて量子特性を変化させる。超音波顕微鏡1aに備わる特性変化検出手段7aは、超音波受波部6aの量子特性の変化を検出する。さらに、超音波顕微鏡1aに備わる内部情報取得手段8は、検出された量子特性の変化を基に試料内部の情報を得て、試料内部における3次元方向の状態の分布を観測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス光を用いて発生させた超音波を試料に照射し、試料で反射した反射超音波を用いて、当該試料を観察する超音波顕微鏡に関するものであり、特に試料の微小領域の弾性的性質を超音波を利用して評価する超音波顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パルス光を用いて超音波を発生させ、発生した超音波を音響レンズを通して集束して試料に照射し、その試料で反射した反射超音波を用いて試料の微小部分の弾性的性質を検出する装置として超音波顕微鏡が知られている。
超音波顕微鏡では、光学顕微鏡や電子顕微鏡では得られない試料内部の情報が非破壊で得られることから、試料の弾性等の力学的性質の評価だけでなく、内部欠陥の検出等にも多く用いられている。
【0003】
このような超音波顕微鏡としては特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1の超音波顕微鏡は、超音波を発生するトランスデューサと、試料台と、走査手段とを備えている。トランスデューサは、音響レンズと圧電薄膜とから構成されている。音響レンズは、サファイアや石英ガラスなどの円柱状結晶からなっており、一方の端面は光学研磨された平面であり、他方の端面には、レンズ面を形成する微小な凹半球状のレンズ面が設けられている。試料台上に載置された試料と音響レンズとの間には、純水のような超音波の伝播媒体が充填される。
【0004】
圧電薄膜は、前述した音響レンズの光学研磨された平面上に設けられ、パルス発振器からの高周波パルスで励起されて超音波を発生する。圧電薄膜から放射された超音波は、音響レンズを通して試料の微小部位に入射し、当該微小部位で反射する。その反射した超音波は、反射超音波として再び音響レンズを通じて圧電薄膜に到達する。圧電薄膜は、試料からの反射超音波である超音波エコーを電気信号に変換して、この電気信号を受信器に与える。
【0005】
受信器は、この電気信号を検波及び増幅してビデオ信号に変換し、該ビデオ信号を表示器に出力する。表示器は、受信器からビデオ信号を受信し、試料の内部状態を画像として表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−43208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されるような超音波顕微鏡の空間分解能は、超音波の波長(λ)で決定され、その波長(λ)は、音速(V)/周波数(f)で与えられる。そのため、音速(V)が一定となる環境下で空間分解能を高めるためには、周波数(f)を高くする必要がある。
例えば、観察対象の試料が、表面に数μm〜サブμmの厚みの配線膜や絶縁膜が形成された半導体デバイス等であるような場合、超音波顕微鏡を用いてその試料における膜界面の接合評価(膜の剥離の有無等の評価)を行うためには、膜厚(数μm)以下のオーダーの空間分解能が要求される。
【0008】
また、電子部品が実装された基板における電極部の大きさは数十μm程度であるが、その電極部内の欠陥評価(ボイドの有無等の評価)を行う場合も、超音波顕微鏡には数μm以下のオーダーの空間分解能が要求される。
しかし、圧電薄膜により超音波の送波及び受波が行われる従来の超音波顕微鏡では、圧電薄膜の容量成分や共振特性の制約から、高周波超音波の発生は困難であり、発生可能な実用周波数帯域は、数百MHz程度以下(波長は10μm以上)に制限される。
【0009】
本発明は、この問題点に鑑みてなされたものであって、試料の弾性特性等を測定しうる超音波顕微鏡の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る超音波顕微鏡は、パルス光を用いて超音波を発生させ、発生した超音波を試料に照射し、前記試料で反射した反射超音波を用いて、当該試料を観察する超音波顕微鏡であって、パルス光を照射するパルス光照射手段と、前記照射されたパルス光を吸収して熱弾性効果による超音波を発し、当該超音波を試料に送出する超音波送波部と、前記試料で反射した超音波である反射超音波を受波するとともに、その反射超音波から受ける応力に応じて量子特性を変化させる半導体薄膜を有する超音波受波部と、前記超音波受波部の量子特性の変化を検出する特性変化検出手段と、検出された量子特性の変化を基に試料内部の情報を得る内部情報取得手段と、を具備することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記超音波受波部の半導体薄膜は、混晶半導体からなるものであり、前記特性変化検出手段は、前記半導体薄膜のバンドギャップに対応する波長又は該波長よりも短い波長を含む測定光を前記超音波受波部に照射することで、前記量子特性の変化を検出するものであってもよい。
また、前記特性変化検出手段は、前記測定光を、前記超音波受波部で反射するように、前記超音波受波部の受波面に対して斜め方向に所定の角度から照射する測定光照射手段と、前記超音波受波部で反射した測定光である反射測定光を検出することで、前記超音波受波部の量子特性の変化を検出する測定光検出手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
または、超音波受波部の半導体薄膜は、測定光を伝搬させる光導波路を有するものであり、特性変化検出手段は、前記測定光を、前記半導体薄膜の光導波路内を通過するように照射する測定光照射手段と、前記半導体薄膜の光導波路を通過した測定光を検出することで、前記超音波受波部の量子特性の変化を検出する測定光検出手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
または、前記超音波受波部の半導体薄膜は、電流を注入されることでバンドギャップに対応する波長を含む測定光を発する混晶半導体からなるものであり、前記特性変化検出手段は、前記半導体薄膜から発せられた測定光を検出することで、前記超音波受波部の量子特性の変化を検出する測定光検出手段を有することを特徴とする。
さらに、前記超音波発生部が発した超音波を集束すると共に、前記試料からの反射超音波を受波するレンズ面を備えた音響レンズをさらに具備し、前記音響レンズは、反レンズ面側に前記超音波受波部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る超音波顕微鏡によれば、試料に対して高周波数の超音波を送出でき、高空間分解能で試料の内部を観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態による超音波顕微鏡の構成を示す図である。
【図2】(a)は、第1実施形態による超音波顕微鏡の音響レンズの構成を示す側面図であり、(b)は、音響レンズの反レンズ面側の構成を示す上面図である。
【図3】反射測定光の強度信号の時系列変化を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態による超音波顕微鏡の構成を示す図である。
【図5】(a)は、第2実施形態による超音波顕微鏡の音響レンズの構成を示す側面図であり、(b)は、音響レンズの反レンズ面側の構成を示す上面図である。
【図6】本発明の第3実施形態による超音波顕微鏡の構成を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態による超音波顕微鏡の音響レンズを側面から見たときの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
[第1実施形態]
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の第1実施形態による超音波顕微鏡1aについて詳しく説明する。図1は、本実施形態による超音波顕微鏡1aの構成を示す図である。図2は、本実施形態による超音波顕微鏡1aの音響レンズ2の構成を示す図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る超音波顕微鏡1aは、試料が載置されるX−Yステージ3と、X−Yステージ3上の試料にレンズ面10を向けて配置された音響レンズ2を備えている。この音響レンズ2の上部には、照射されたパルス光を吸収して熱弾性効果による超音波を発し、当該超音波を試料に送出する超音波送波部4aが形成されており、超音波送波部4aにパルス光を照射するパルス光照射手段5も備えられている。
【0018】
加えて、超音波顕微鏡1aは、試料で反射した超音波である反射超音波を受波するとともに、その反射超音波から受ける応力に応じて量子特性を変化させる半導体薄膜を有する超音波受波部6aを有する。
また、超音波顕微鏡1aは、超音波受波部6aの量子特性の変化を検出する特性変化検出手段7aと、検出された量子特性の変化を基に試料内部の情報を得る内部情報取得手段8と、を具備する。
【0019】
以下、第1実施形態の超音波顕微鏡1aについて、その構成を詳細に説明する。
超音波顕微鏡1aは、試料が載置されるX−Yステージ3を備えている。このX−Yステージ3は、試料を支持し、音響レンズ2に対する試料の位置を水平方向(超音波の照射方向に対して直交する方向の位置)に変化させて位置決めするためのものであり、直交するボールネジ機構等から構成される。X−Yステージ3は、コンピュータ等で構成されたステージ制御部21により、試料の水平方向位置や送りピッチなどが制御される。
【0020】
X−Yステージ3の上方には、音響レンズ2が配備される。この音響レンズ2は、例えば純水であって超音波を伝播するカップリング媒体9を介して、X−Yステージ3上の試料と対向している。
図2を参照して、音響レンズ2について詳細に説明する。図2(a)は、音響レンズ2を側面から見たときの構成を示す図であり、図2(b)は、音響レンズ2の反レンズ面側の構成示す図である。
【0021】
音響レンズ2は、例えばSi単結晶からなる円柱状部材であって、その内部には空間を有さない中実な構造となっている。この円柱状部材の一つの底面、すなわちX−Yステージ3と対向する底面側に、音響レンズ2の内部に向かって湾曲した窪み状のレンズ面10を形成している。このレンズ面10は、当該底面での開口部がほぼ円形であり、レンズ面10は凹凸のない平滑な略球面となっている。レンズ面10が形成されないもう一方の底面(反レンズ面、すなわち反X−Yステージ3側)は、光学研磨された平面である。
【0022】
音響レンズ2は、超音波をできるだけ減衰させずに伝播するために硬質材料で形成されるので、音響レンズ2の材料として石英ガラスやサファイアなどを用いてもよい。また、音響レンズ2の形状を円柱状であるとしたが、円錐台形状、角柱形状、又は角錐台形状でもよい。
係る音響レンズ2の反レンズ面側の平面には、試料で反射して音響レンズ2を通って戻った反射超音波を受波するための半導体薄膜(超音波受波部6a)が積層されている。
【0023】
この半導体薄膜の上部には、加熱用のパルス光(加熱パルス光)の吸収及び発熱により発生する熱応力によって高周波の超音波を発生する金属膜(超音波送波部4a)が、超音波受波部6aの一部を覆うように設けられている。
まず、超音波送波部4aについて説明する。
音響レンズ2の反レンズ面には、AlN(窒化アルミニウム)からなる緩衝層11が設けられ、この緩衝層11上にGaAs膜が積層される。このGaAs膜の上に、金属膜であるMo(モリブデン)が積層されている。この金属膜(Mo)は、超音波送波部4aとしての機能を果たすものである。
【0024】
この超音波送波部4aである金属膜(Mo)に対して加熱パルス光が照射されると、金属膜(Mo)は、パルス光のエネルギの吸収及び発熱によって熱膨張し、そのときに発生する熱応力(熱弾性効果)によって、加熱パルスと同じパルス幅(時間幅)の熱弾性波を発生する。例えば、パルス幅が0.5ns以下の加熱パルスが照射されると、1GHz以上の周波数の超音波を発生させることができる。超音波送波部4aに用いる金属膜の材料としては、モリブデンの他に、金、銅、アルミニウム等を用いることができる。
【0025】
音響レンズ2の上方側には、加熱パルス光を発生するパルス光照射手段5が設けられている。このパルス光照射手段5は、短パルス幅のパルスレーザ光を発する光源(YAGレーザ等)であるパルス光照射部12と、加熱パルス光を超音波送波部4aに対して略垂直方向に照射するように導くミラー13と、加熱パルス光のビーム径を調整するレンズ系14aとを備えている。これらパルス光照射部12、ミラー13、及びレンズ系14でパルス光照射手段5を構成している。
【0026】
パルス光照射部12は、例えば波長532nm、パルス幅0.5nsのパルス状のレーザ光を、加熱パルス光として発する光源(YAGレーザ等)である。ここで加熱パルス光の波長は、超音波送波部4aの材質に応じて選択することができ、パルス幅は、発生させたい超音波の周波数に応じて選択することができる。
次に、超音波受波部6aについて説明する。
【0027】
前述したように、音響レンズ2の反レンズ面には、AlN(窒化アルミニウム)からなる緩衝層11が設けられ、この緩衝層11上にGaAs膜が積層される。このGaAs膜は、超音波受波部6aとしての機能を果たすものであって、固有のバンドギャップ(量子特性)を有する混晶半導体の薄膜である。GaAs膜のバンドギャップの大きさは、GaAs膜が受ける応力によって変化することが知られており、このGaAs膜が超音波を受波するとGaAs膜内に応力が発生するので、GaAs固有のバンドギャップの大きさが変化する。
【0028】
つまり、超音波受波部6aの上部には、超音波受波部6aの一部を覆うように、超音波送波部4aである金属膜(Mo)が積層されている。図2(b)に示すように、反レンズ面では、金属膜である超音波送波部4aと半導体薄膜である超音波受波部6aの一部が露出している。
一方、図1に示すように、音響レンズ2の上方の両側部には、特性変化検出手段7aが設けられている。この特性変化検出手段7aは、測定光として例えばHe−Neレーザを発する測定光レーザ光源15と、測定光を反射して超音波受波部6aに対して斜め方向から入射させるミラー16aと、超音波受波部6aで反射した反射測定光を、後述する高速光検出器18に向かって反射させるミラー17aと、ミラー17aからの反射測定光を検出する高速光検出器18と、高速光検出器18が検出した反射測定光の強度信号の時系列変化を検出する高速オシロスコープ19とを備えている。
【0029】
これらのうち、測定光レーザ光源15及びミラー16aで測定光照射手段を形成し、ミラー17a、高速光検出器18、及び高速オシロスコープ19で測定光検出手段を形成している。
図1の紙面に向かって音響レンズ2の左上方には、測定光レーザ光源15が配備されている。この測定光レーザ光源15は、上記した超音波受波部6aのGaAs膜のバンドギャップに対応する波長又は該波長よりも短い波長を含むHe−Neレーザ光を、測定光として出力するものである。
【0030】
すなわち、本実施形態において測定光レーザ光源15から発せられる測定光は、少なくとも超音波受波部6aのGaAs膜のバンドギャップ以上のエネルギを有する波長である。なお、測定光は、加熱パルス光とは、異なる波長を有するのが好ましい。
図1の紙面に向かって音響レンズ2の右上方には、高速光検出器18が配備されている。この高速光検出器18は、超音波受波部6aで反射した反射測定光を検出するものであり、検出した反射測定光を光電変換して、当該反射測定光の強度信号を生成し、後述する高速オシロスコープ19に出力するものである。
【0031】
高速オシロスコープ19は、高速光検出器18から出力された反射測定光の強度信号を受け取るとともに、強度信号をサンプリングして一次記憶し、その強度信号の時系列変化を検出する装置である。
例えば、高速オシロスコープ19は、熱パルス光が出力されたことを示すパルス光出力開始信号をパルス光照射部12から取得し、当該パルス光出力開始信号を取得した時点から、図3に示すような反射測定光の強度信号の強度のピークE1、E2、E3、・・・(エコー)が検出された時点までの時間を検出し、その時間の情報を計算機20に出力する。ここで、最も早く検出されたピークE1は、音響レンズ2とカップリング媒体9との界面からの反射エコーを示し、ピークE2は、試料表面からの反射エコーを示し、以降に続くピークは試料内部からの反射エコーを示している。
【0032】
高速オシロスコープ19は、例えば1〜10psec程度のサンプリング周期での信号入力機能を有しているので、熱パルス光のパルス幅よりも十分に短い間隔で反射測定光の強度信号をサンプリングすることができる。
内部情報取得手段8である計算機20は、高速オシロスコープ19から得られるピークE1、E2、・・・の検出時間の情報から、2番目のピークE2の発生時間と3番目以降の前記ピークE3、E4・・・発生時間との時間差を算出し、試料内での超音波の伝播速度から、試料内部に存在する欠陥等の深さや、音速等を算出する。このとき、加熱パルス光を複数回繰り返し照射することで試料内の同一測定点の測定を繰り返し、同期加算平均化処理を行うことで測定精度(S/N比)を向上させる。
【0033】
以上のように構成された超音波顕微鏡1aの動作について、以下に説明する。
測定光レーザ光源15が測定光を照射すると共に、パルス光照射手段5のパルス光照射部12が加熱パルス光を発すると、加熱パルス光を受けた超音波送波部4aが超音波を発生する。発生した超音波は、超音波受波部6a、及び緩衝層11を経て音響レンズ2内をレンズ面10に向けて伝播する。音響レンズ2を伝播した超音波は、レンズ面10で集束され、試料表面及び内部に入射する。試料表面及び内部で反射した超音波は、入射とは反対の経路を経てレンズ面10に戻り、音響レンズ2内を超音波受波部6aに向けて伝播する。音響レンズ2内を伝播した超音波は、緩衝層11を経て超音波受波部6aに到達する。
【0034】
超音波受波部6aに到達した超音波は超音波受波部6a内に応力を発生させるので、超音波受波部6aの半導体薄膜のバンドギャップが変化(量子特性が変化)する。これにより、超音波受波部6aに照射されている測定光の吸収特性が変化する。
よって、超音波受波部6aで反射した反射測定光は、吸収された光の分だけ強度が低下して、高速光検出器18に入射する。その後、高速オシロスコープ19が、当該反射測定光の強度信号の時系列変化を検出し、計算機20が上述のように試料内部に存在する欠陥等の深さや、音速等を算出する。
【0035】
X−Yステージ3によって試料における観測部位の位置決めがなされるごとに、加熱パルス光及び測定光の照射と、高速光検出器18による反射測定光の検出と、計算機20による試料内部に存在する欠陥等の深さの算出とが行われる。
以上のような動作を経て、試料内部における3次元方向の状態の分布を観測することができる。
【0036】
[第2実施形態]
図4及び図5を参照しながら、本発明の第2実施形態による超音波顕微鏡1bについて説明する。図4は、本実施形態による超音波顕微鏡1bの構成を示す図である。図5は、本実施形態による超音波顕微鏡1bの音響レンズ2の構成を示す図である。
本実施形態による超音波顕微鏡1bは、第1実施形態による超音波顕微鏡1aと比較して、超音波受波部6bの構成と、特性変化検出手段7bの構成が異なり、その他の構成は第1実施形態による超音波顕微鏡1aと略同様である。
よって、以下の説明では、本実施形態における超音波受波部6bの構成と、特性変化検出手段7bの構成を説明する。
【0037】
図5を参照して、超音波受波部6bの構成を説明する。図5(a)は、音響レンズ2を側面から見たときの構成を示す図であり、図5(b)は、音響レンズ2の反レンズ面を上から見たときの構成示す図である。
第1実施形態と同様に、超音波受波部6bは、GaAs膜で構成されており、音響レンズ2の反レンズ面に、AlN(窒化アルミニウム)からなる緩衝層11を介して積層される。このGaAs膜は、固有のバンドギャップ(量子特性)を有する混晶半導体の薄膜である。GaAs膜のバンドギャップの大きさは、GaAs膜が受ける応力によって変化することが知られており、このGaAs膜が超音波を受波するとGaAs膜内に応力が発生するので、GaAs固有のバンドギャップの大きさが変化する。
【0038】
本実施形態では、超音波受波部6bの半導体薄膜上に、SiOのパターンが形成される。SiOのパターンは、図5(b)に示されるように、超音波送波部4aである2つの金属膜の間(Mo,Mo)に形成されている。
このSiOパターンは、まず超音波受波部6bの上面にSiOを一様に堆積させ、その後エッチングすることによって形成される。本実施形態では、図5(b)に示されるように、約100μmの幅で、音響レンズ2の反レンズ面の直径とほぼ同一の位置で直線状にSiOパターンが形成されている。このSiOパターンによって、SiOパターン直下のみGaAs膜の屈折率が高くなるため、形成されたSiOパターンに沿って、超音波受波部6bのGaAs膜内に光導波路が形成される。
【0039】
また、図5(b)では、SiOパターンを挟むように超音波受波部4aである金属膜(Mo)が設けられている。なお、加熱パルス光が、パルス光照射手段5から超音波受波部4aに照射されると、SiOパターン及びその直下の光導波路が損傷する可能性があるので、SiOパターンを覆うように保護膜(図示はしない)が形成されている。
次に、本実施形態における特性変化検出手段7bの構成について説明する。特性変化検出手段7bは、上述の超音波受波部6bの光導波路に測定光を通し、光導波路を出た測定光の強度を検出するものである。
【0040】
第1実施形態と同様に、音響レンズ2の上方の両側部には、特性変化検出手段7bが設けられている。この特性変化検出手段7bは、測定光として例えばHe−Neレーザを発する測定光レーザ光源15と、測定光を集束し超音波受波部6bの光導波路に導くレンズ22と、測定光レーザ光源15から発せられた測定光を反射してレンズ22に入射させるミラー群16bと、超音波受波部6bの光導波路から出射した測定光を集束するレンズ23と、レンズ23で集束された測定光を反射して高速光検出器18に導くミラー群17bと、ミラー群17bからの測定光を検出する高速光検出器18と、高速光検出器18が検出した反射測定光の強度信号の時系列変化を検出する高速オシロスコープ19とを備えている。
【0041】
これらのうち、測定光レーザ光源15、レンズ22、ミラー群16bで測定光照射手段を形成し、レンズ23、ミラー群17b、高速光検出器18、及び高速オシロスコープ19で測定光検出手段を形成している。
測定光レーザ光源15、高速光検出器18、及び高速オシロスコープ19の構成及び配置は、それぞれ第1実施形態で説明したものと同様である。ここでは、ミラー群16b、17bとレンズ22、23の配置について説明する。
【0042】
レンズ22とレンズ23は、互いの光軸を一致させると共に、光軸の延長線が、超音波受波部6bの光導波路を通るような位置で、光導波路から所定の間隔を空けて配置される。
ミラー群16bは、測定光レーザ光源15から発せられた測定光を反射して、測定光が、レンズ22の光軸に沿ってレンズ22に入射するように配置される。また、ミラー群17bは、超音波受波部6bの光導波路から出射し、レンズ23を通過した測定光を反射して、測定光が、高速光検出器18に入射するように配置される。
【0043】
このように配置されたミラー群16b、17bとレンズ22、23によって、測定光レーザ光源15から発せられた測定光は、図5に示すように紙面左側から右側に向かって超音波受波部6bの光導波路を通過し、高速光検出器18に入射する。
以上のように構成された超音波顕微鏡1bの動作について、以下に説明する。
測定光レーザ光源15が測定光を照射すると共に、パルス光照射手段5のパルス光照射部12が加熱パルス光を発すると、加熱パルス光を受けた超音波送波部4aが超音波を発生する。発生した超音波は、超音波受波部6b及び緩衝層11を経て音響レンズ2内をレンズ面10に向けて伝播する。音響レンズ2を伝播した超音波は、レンズ面10で集束され、試料表面及び内部に入射する。試料表面及び内部で反射した超音波は、入射とは反対の経路を経てレンズ面10に戻り、音響レンズ2内を超音波受波部6bに向けて伝播する。音響レンズ2内を伝播した超音波は、緩衝層11を経て超音波受波部6bに到達する。
【0044】
超音波受波部6bに到達した超音波は超音波受波部6b内に応力を発生させるので、超音波受波部6bのGaAs膜のバンドギャップが変化(量子特性が変化)する。このとき、超音波受波部6bの光導波路を通過する測定光では、通過の過程で、変化したバンドギャップに対応する波長の光が吸収される。
よって、超音波受波部6bの光導波路を通過した測定光は、吸収された光の分だけ強度が低下して、レンズ23及びミラー群17bを経て高速光検出器18に入射する。その後、高速オシロスコープ19が、当該測定光の強度信号の時系列変化を検出し、計算機が上述のように試料内部に存在する欠陥等の深さや、音速等を算出する。
【0045】
X−Yステージ3によって試料における観測部位の位置決めがなされるごとに、加熱パルス光及び測定光の照射と、高速光検出器18による測定光の検出と、計算機20による試料内部に存在する欠陥等の深さの算出とが行われる。
以上のような動作を経て、試料内部における3次元方向の状態の分布を観測することができる。
【0046】
[第3実施形態]
図6を参照しながら、本発明の第3実施形態による超音波顕微鏡1cについて説明する。図6は、本実施形態による超音波顕微鏡1cの構成を示す図である。
本実施形態による超音波顕微鏡1cは、第2実施形態による超音波顕微鏡1bから、特性変化検出手段7bにおける測定光レーザ光源15、ミラー群16b、及びレンズ22を取り除いた構成を有している。さらに、第2実施形態による超音波顕微鏡1bと比較して、音響レンズ2上に設けられる超音波送波部6c及び超音波受波部4bの構成が異なる。その他の構成は第2実施形態による超音波顕微鏡1bと同様である。
【0047】
よって、以下の説明では、本実施形態における超音波受波部6cと超音波送波部4bの構成を説明する。
図6を参照して、超音波受波部6c及び超音波送波部4bの構成を説明する。図6は、音響レンズ2を側面から見たときの構成を示す図である。
音響レンズ2の反レンズ面側の平面には、測定光となる半導体レーザ光を発すると共に試料で反射して音響レンズ2を通って戻った反射超音波を受波するための半導体薄膜(超音波受波部)が超音波受波部6cとして積層されている。
【0048】
この半導体薄膜の上部には、正電極であると共に、加熱パルス光の吸収及び発熱によって発生する熱応力によって高周波の超音波を発生する金属膜(超音波送波部)が超音波送波部4bとして設けられている。
まず、図7を参照して、超音波送波部4bについて説明する。
音響レンズ2の反レンズ面の上面には、例えばMo、Au、又はNiなどから構成されると共に、負電極である金属膜が下部電極として積層される。この金属膜の上に、N形GaAs膜が積層され、このN形GaAs膜上にN形GaAlAs膜が積層される。
【0049】
このように積層されたN形GaAlAs膜の上に、後述する超音波受波部6cとなるレーザ活性層のP形GaAs膜が積層され、さらにP形GaAlAs膜が、積層される。N形GaAlAs膜とP形GaAlAs膜は、レーザ活性層であるP形GaAs膜からのレーザ光を閉じこめるクラッド層の役割を果たすものである。
P形GaAlAs膜の上には、P形GaAs膜と、例えばMo、Au、又はNiなどの金属膜から構成されると共に、正電極であって超音波送波部4bである上部電極とが積層される。
【0050】
この超音波送波部4bである上部電極に対して加熱パルス光が照射されると、金属膜である上部電極は、パルス光のエネルギの吸収及び発熱によって熱膨張し、そのときに発生する熱応力(熱弾性効果)によって、加熱パルスと同じパルス幅(時間幅)の熱弾性波を発生する。
次に、超音波受波部6cについて説明する。
【0051】
前述したように、音響レンズ2の反レンズ面には、下から順に、下部電極、N形GaAs膜、N形GaAlAs膜、P形GaAs膜、P形GaAlAs膜、P形GaAs膜、及び上部電極が積層される。このうちのP形GaAs膜が、超音波受波部6cとして働くと共に、測定光レーザ光源としても働く。
上部電極から電流を注入すると、レーザ活性層であるP形GaAs膜は、そのバンドギャップに応じたレーザ光を発する。このP形GaAs膜のバンドギャップの大きさは、P形GaAs膜が受ける応力によって変化することが知られている。このP形GaAs膜が超音波を受波するとP形GaAs膜内に発生する応力によって、P形GaAs固有のバンドギャップの大きさが変化する。このバンドギャップの変化によって、P形GaAs膜が発するレーザ光の波長分布が変化すると共に、レーザ光強度が変化する。
【0052】
以上のように構成された超音波顕微鏡1cの動作について、以下に説明する。
上部電極から電流を注入して測定光レーザ光源として働く超音波受波部6cから測定光を照射させると共に、パルス光照射手段5のパルス光照射部12が加熱パルス光を発すると、加熱パルス光を受けた超音波送波部4bが超音波を発生する。
発生した超音波は、超音波受波部6c及びそれ以下の各層を経て音響レンズ2内をレンズ面10に向けて伝播する。音響レンズ2を伝播した超音波は、レンズ面10で集束され、試料表面及び内部に入射する。
【0053】
試料表面及び内部で反射した超音波は、入射とは反対の経路を経てレンズ面10に戻り、音響レンズ2内を超音波受波部6cに向けて伝播する。音響レンズ2内を伝播した超音波は、下部電極、N形GaAs膜、及びN形GaAlAs膜を経て超音波受波部6cに到達する。
超音波受波部6cに到達した超音波は超音波受波部6c内に応力を発生させるので、超音波受波部6cのP形GaAs固有のバンドギャップが変化(量子特性が変化)する。P形GaAs固有のバンドギャップの大きさが変化すると、このバンドギャップの変化によって、P形GaAs膜が発するレーザ光(測定光)の波長分布が変化すると共に、強度が変化する。よって、超音波を受波したときに発せられる測定光は、バンドギャップが変化した分だけ強度が変化して、レンズ23及びミラー群17bを経て高速光検出器18に入射する。
【0054】
その後、高速オシロスコープ19が、当該測定光の強度信号の時系列変化を検出し、計算機20が上述のように試料内部に存在する欠陥等の深さや、音速等を算出する。
X−Yステージ3によって試料における観測部位の位置決めがなされるごとに、加熱パルス光及び測定光の照射と、高速光検出器18による測定光の検出と、計算機20による試料内部に存在する欠陥等の深さの算出とが行われる。
【0055】
以上のような動作を経て、試料内部における3次元方向の状態の分布を観測することができる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0056】
例えば、超音波受波部に用いられる半導体薄膜は、GaAsに限らない。受ける応力によってバンドギャップ等の量子特性を変化させると共に、内部に光導波路を形成できる半導体薄膜であればよい。
また、音響レンズをSi単結晶を用いて構成したが、超音波をできるだけ減衰させずに伝播する材料であればよいので、Siに限らず、サファイア単結晶や石英ガラスなどの硬質材料を用いてもよい。また、音響レンズ2の形状を円柱状であるとしたが、角柱形状でも角錐台形状でもよい。
【0057】
さらに、上記第1〜第3実施形態では、高速光検出器及び高速オシロスコープで測定光の強度変化を測定したが、測定光の波長分布の変化を測定することで、試料からの反射エコーを検出することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1a、1b、1c 超音波顕微鏡
2 音響レンズ
3 X−Yステージ
4a、4b 超音波送波部
5 パルス光照射手段
6a、6b、6c 超音波受波部
7a、7b、7c 特性変化検出手段
8 内部情報取得手段
9 カップリング媒体
10 レンズ面
11 緩衝層
12 パルス光照射部
13、16a、17a ミラー
14a レンズ系
15 測定光レーザ光源
18 高速光検出器
19 高速オシロスコープ
20 計算機
21 ステージ制御部
22、23 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光を用いて超音波を発生させ、発生した超音波を試料に照射し、前記試料で反射した反射超音波を用いて、当該試料を観察する超音波顕微鏡であって、
パルス光を照射するパルス光照射手段と、
前記照射されたパルス光を吸収して熱弾性効果による超音波を発し、当該超音波を試料に送出する超音波送波部と、
前記試料で反射した超音波である反射超音波を受波するとともに、その反射超音波から受ける応力に応じて量子特性を変化させる半導体薄膜を有する超音波受波部と、
前記超音波受波部の量子特性の変化を検出する特性変化検出手段と、
検出された量子特性の変化を基に試料内部の情報を得る内部情報取得手段と、を具備することを特徴とする超音波顕微鏡。
【請求項2】
前記超音波受波部の半導体薄膜は、混晶半導体からなるものであり、
前記特性変化検出手段は、前記半導体薄膜のバンドギャップに対応する波長又は該波長よりも短い波長を含む測定光を前記超音波受波部に照射することで、前記量子特性の変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の超音波顕微鏡。
【請求項3】
前記特性変化検出手段は、
前記測定光を、前記超音波受波部で反射するように、前記超音波受波部の受波面に対して斜め方向に所定の角度から照射する測定光照射手段と、
前記超音波受波部で反射した測定光である反射測定光を検出することで、前記超音波受波部の量子特性の変化を検出する測定光検出手段と、を有することを特徴とする請求項2に記載の超音波顕微鏡。
【請求項4】
超音波受波部の半導体薄膜は、測定光を伝搬させる光導波路を有するものであり、
特性変化検出手段は、
前記測定光を、前記半導体薄膜の光導波路内を通過するように照射する測定光照射手段と、
前記半導体薄膜の光導波路を通過した測定光を検出することで、前記超音波受波部の量子特性の変化を検出する測定光検出手段と、を有することを特徴とする請求項2に記載の超音波顕微鏡。
【請求項5】
前記超音波受波部の半導体薄膜は、電流を注入されることでバンドギャップに対応する波長を含む測定光を発する混晶半導体からなるものであり、
前記特性変化検出手段は、
前記半導体薄膜から発せられた測定光を検出することで、前記超音波受波部の量子特性の変化を検出する測定光検出手段を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波顕微鏡。
【請求項6】
前記超音波発生部が発した超音波を集束すると共に、前記試料からの反射超音波を受波するレンズ面を備えた音響レンズをさらに具備し、
前記音響レンズは、反レンズ面側に前記超音波受波部が設けられていることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の超音波顕微鏡。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−44713(P2013−44713A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184818(P2011−184818)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】