説明

超高スゥエル比の高分子材料を有する発泡プラスチック絶縁体を具えるケーブル

本発明は、導電体の周囲に押し出された発泡プラスチック絶縁体を具える電気伝達素子に関する。前記絶縁体は、超高ダイスゥエル比のポリマー(UHDSRP)を20重量%以下の割合で含み、好ましくは約15重量%の割合で含む。前記UHDSRPは、55%以上の超高ダイスゥエル比を有することによって規定され、より好ましくは65%以上のダイスゥエル比を有することによって規定される。前記絶縁体は、高い耐応力クラック特性を有する第2の組成物を具えることができる。このような組み合わせにより、高い発泡率、小さく均一なセル構造、低減衰率、及び外径と等しい直径を有する主軸の周りに巻回した際に生じる応力レベルにおいて、100℃で100時間以上の耐熱加速応力クラック特性を呈し、半径方向又は長手方向においてクラックを発生させないような耐応力クラック特性を有するような絶縁層を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して通信ケーブルに関するものであり、特には均一、小型及びクローズドセルの特性を有する拡充型のケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
USP4,547,328及びUSP4,683,166において、Yuto及びSuzukiはポリマーブレンドに対して55%以上のダイスゥエル比(DSR)のプラスチックを少なくとも20重量%の割合で加えることにより、同軸ケーブルを作製する際に種々の利点を得ることができることを教示している。特に、前記55%以上のDSRポリマーを加えることにより、溶融高分子の弾性を増大させることができ、この結果、ワイヤを発泡絶縁体で被覆するという工程における制御をより良く行うことができる。
【0003】
このような教示に基づけば、高度に発泡させること(高度に膨張させること)及び50μm以下の大きさの発泡ポリマーからなるセル構造とすることにより、種々の利点が得られることが分かる。高膨張率の小型のセル構造は、電気的ロス(減衰)を小さくする観点、材料利用の観点及び機械的強度の観点から望ましい。
【0004】
従来においては、上述した望ましいセル構造を維持するとともに、高膨張率を維持し、さらに応力に起因したクラック発生に対する耐性を維持するためには、前記55%以上のDSR材料は全混合物中において20%以上含有させなければならないことが当業者においては公知であった。しかしながら、ケーブルのディメンション的な安定性の増大及び機械的強度の増大を考慮して、前記発泡絶縁体は非発泡の固体ポリマー層で被覆していた。そのような層の付加は、製造工程を複雑化するとともに、初期投資に関するコストや得られる材料コストの増大をもたらす結果となっていた。
【0005】
さらに、高DSR材料は、電気的な欠点を有しており、得ようとするケーブルの電気的純度(散逸率)に対して悪影響を及ぼす結果となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、固形化状態、好ましくは発泡状態において、低散逸率であって高い耐熱応力クラック特性を有するワイヤあるいはケーブルなどの電気的伝達素子を提供することを目的とする。上記した新規な特性の組み合わせは、同じ構造において、次に示すような独自かつ有利な特性を示す。
【0007】
・少なくとも50%、好ましくは50−85%の間の高発泡率
・密閉構造であって、好ましくは100μm以下の大きさを有し、優れた機械的な耐破砕性を有する、微細で均一なセル構造からなる発泡構造
・外径と等しい直径を有する主軸の周りに巻回した際に生じる応力レベルにおいて、100℃で100時間以上の耐熱加速応力クラック特性を呈するような、当業界において公知の耐久性試験をクリアできるような耐熱加速応力クラック特性
・前記55%以上のDSR材料を全混合物中において20%以上含有させた場合よりも、より少ない電気的な減衰レベル
・同様の使用目的に対して、従来の電気的伝達素子として比較してより使用するプラスチックの量が少なく、低コストの電気的伝達素子
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、導電体と、この導電体を囲むようにして設けられた発泡プラスチック絶縁体とを具えた電気伝達素子に関する。前記発泡プラスチック絶縁体は、55%以上の超高ダイスゥエル比を有するポリマーを20重量%以下の割合で含む。
【0009】
好ましくは、前記超高ダイスゥエル比のポリマーは、1以上の電気的特性及び/又は環境特性に優れた付加的なポリマーを含むようにする。これによって、同じ構造を有する場合であっても、これまでに実現されたことのない、機械的、電気的、熱的さらには高寿命かつ低コストの利点を得ることができるようになる。特に、前記付加的なポリマーは、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)で規定されるような、高い熱加速安定性を有することが好ましい。また、前記付加的なポリマーは、20分以上の酸化誘発時間を有することが好ましい。
【0010】
前記付加的なポリマーは、前記超高ダイスゥエル比を有するポリマーよりも低く、75マイクロラジアン、さらには50マイクロラジアン以下の散逸率を有することが好ましい。
【0011】
本発明によって提供される絶縁体は、その外径と等しい直径を有する主軸の周りに巻回した際に生じる応力レベルにおいて、100℃で100時間以上の耐熱加速応力クラック特性を呈し、半径方向又は長手方向においてクラックを発生させないように構成されている。
【0012】
本発明の好ましい態様においては、前記発泡プラスチック絶縁体は、55%以上のダイスゥエル比を有するオレフィンポリマーを15重量%の割合で具える。本発明の他の好ましい態様においては、55%以上のダイスゥエル比を有する低密度ポリエチレンを20重量%以下の割合で具え、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)で規定されるような高い熱加速安定性を有する、少なくとも1種の付加的なポリオレフィンを具える。好ましくは、前記付加的なポリオレフィンは、前記低密度ポリエチレンより低く、75マイクロラジアン以下の散逸率を有する。
【0013】
本発明の絶縁性の電気的伝達素子は、同軸ケーブル、引き込みケーブル、ねじれ対ケーブルなどの電気的伝達手段への応用に関して、種々の構造を有することができる。
【0014】
本発明の一態様においては、導電体と、この導電体を覆うようにして設けられた発泡プラスチック絶縁体とを具える電気通信ケーブルを提供することができる。前記発泡プラスチック絶縁体は、20重量%以下の割合の55%以上のダイスゥエル比を有する第1のオレフィンポリマーと、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)で規定されるような高い熱加速安定性を有する、少なくとも1種の付加的なポリオレフィンとの混合物を具える。
【0015】
前記前記付加的なポリオレフィンは、前記超高ダイスゥエル比のポリオレフィンよりも低く、75マイクロラジアン以下の散逸率を有することが好ましい。前記付加的なポリマーは、ヒンダードアミン光安定化剤、並びにフェノール系耐酸化剤及び/又はフォスファイト混合のフェノール系耐酸化剤を含む高安定化ポリオレフィンとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施例及び図面と関連させて、説明する。しかしながら、本発明に関する総ての実施例が示されるものではなく、本発明の範囲を法的に逸脱しない限りにおいて、上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形などが可能である。また、総ての図面を通じて、同様の構成要素に対して同様の参照数字を用いている。
【0017】
図1は、本発明の絶縁電気的伝達素子の一例を示す図である。本例においては、同軸ケーブル10が示されている。この同軸ケーブルは、ケーブルコア11を具えている。このケーブルコア11は、適当な電気導電材料からなる内部導電体12及び発泡プラスチック誘電体材料からなる、連続した管状の被覆層14とを含む。被覆層14は、エキスパンデッドセルラー(expanded cellular)発泡組成を有する誘電体材料から構成されている。好ましくは、被覆層14を構成する誘電体材料の気泡は、密閉構造を有し、特に直径が200μm以下、好ましくは100μm以下の均一な大きさを有することが好ましい。
【0018】
また、被覆層14は、内部導電体12に対して接着剤あるいは摩擦剤13からなる薄層13を介して結合していることが好ましい。内部導電体12は、金属銅、銅管、銅被覆鋼、銅被覆アルミニウムなどの標準的な固体状の導体あるいは中空の導体から構成することができる。内部導電体12は平滑な表面を有することが好ましいが、多少荒れていても良い。本例においては、単一の内部導電体12のみが示されているが、互いに絶縁された状態で設けられており、コア10の一部を構成するような複数の内部導電体とすることもできる。また、本例において、内部導電体12は銅外部クラッド層12bを有するアルミニウムコア12aから構成されている。
【0019】
コア11は、連続した平滑な面を有する管状シース15で被覆することができる。好ましい態様において、管状シース15はアルミニウムストリップから構成することができる。この場合、管状シース15は、参照数字“16”で示すように、ストリップの対抗する端面同士を長手方向において溶接接合してなる管状構造とすることができる。前記溶接は、USP4,472,595及びUSP5,926,949に開示された方法で行うことができ、その内容については本願明細書中にも含まれるものである。
【0020】
シース14は長手方向における溶接によって形成することができる一方で、当業者であれば、他の方法を用いることによって、機械的及び電気的な薄いバイメタルのシースとして形成することもできる。管状シース15の内表面は、被覆層14の外表面と薄い接着層17を介して長手方向の全体に亘って連続的に接合することができる。接着層17は、好ましくはエチレン及びアクリル酸のランダム共重合体(EAA)から構成することもできるし、これらの共重合体を他のポリマーと混合して用いることもできる。
【0021】
シース15の外表面は、保護カバー18で覆っている。この保護カバー18は、ポリエチレン、ポリビニルクロライド、ポリウレタン及びゴムなどを含む熱可塑性コーティング材料から構成することができる。本例において、保護カバー18は、シース15の外表面と接着層19によって結合していることが好ましく、これによって、前記同軸ケーブルの曲げ特性を向上させることができる。接着層19は、EAA共重合体やこの共重合体を含む混合物から構成することができる。図示したような接着層19を設ける構成の他に、保護カバー18を直接シース15の外表面に結合させるようにすることもできる。
【0022】
図2は、本発明の絶縁電気的伝達素子の一例を示す図である。本例においては、ケーブルテレビ信号、衛星信号、携帯電話信号、データなどのRF信号を伝送するための引き込みケーブル20が示されている。ケーブル20は、延在した内部導電体22及びこの内部導電体を囲むようにして設けられた誘電体層24を有するケーブルコア21を含む。
【0023】
誘電体層24は、接着層23を介して内部導電体22に結合していることが好ましい。接着層23は、例えばポリエチレン−アクリル酸(EAA)、エチレン−ビニルアセテート(EVA)、エチレンメチルアクリレート(EMA)共重合体などの接着剤やその他の摩擦剤から構成することができる。内部導電体22は銅被覆スティールワイヤから構成することが好ましいが、その他の導電性ワイヤ(例えば、銅)なども用いることができる。誘電体層24は、内部導電体22から隣接した被覆層まで連続して発泡性ポリマーから構成することができる。しかしながら、誘電体層24は、非発泡性の固体状の層とすることもできる。
【0024】
誘電体層24の外周には導電性シールド25が設けられている。この導電性シールド25は、接着層26を介して誘電体層24に結合していることが好ましい。この接着層26は、接着層23で述べたような任意の材料から構成することができる。導電性シールド25は、内部導電体22によって伝達される信号のリークを防止するとともに、外部信号による妨害を防止する。
【0025】
導電性シールド25は、好ましくはケーブルに沿って長手方向に延在するシールドテープから構成することができる。シールドテープは、100%のシールド率を達成することができるようにその端部位置を調整して長手方向に延在させることが好ましい。より好ましくは、シールドテープの長手方向に関する端部が互いにオーバーラップするようにする。
【0026】
前記シールドテープは、金属箔などの少なくとも1つの導電層を含む。前記シールドテープは、結合した積層テープとすることが好ましい。この積層テープは、ポリマー内部層と、この内部層の対向する端面上に結合した金属層とを含む。前記ポリマー内部層は、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン)やポリエステルフィルムなどから構成することができる。前記金属層は、例えばアルミニウム箔から構成する。
【0027】
導電性シールド25の外周には延在した複数のワイヤ27が設けられている。これらのワイヤ27は互いに織り交ぜられており、ブレイド28を形成している。しかしながら、ワイヤ27は、双方向状にオーバーラップさせたり、一方向のみに形成したり、所定の規則的な配列(通常は、SZやROLと呼んでいる)として形成したりすることもできる。ワイヤ27は金属であり、好ましくはアルミニウムやアルミニウム合金から構成する。但し、銅や銅合金などのその他の材料からも構成することができる。
【0028】
ブレイド28の外側にはケーブルカバー29が設けられており、前記ケーブルを水分や外部環境から保護するようにしている。カバー29は、好ましくはポリエチレンあるいはポリエチレンクロライドなどの非導電性材料から構成する。延在した多重フォイルシールド及び多重ワイヤを組み合わせて付加的な電気的シールド及び/又は機械的強度を付与するようにすることができる。
【0029】
図3は、本発明の絶縁電気的伝達素子のその他の例を示す図である。本例においては、多対通信ケーブル30が示されている。このケーブル30は管状のケーブルカバー31を有しており、このケーブルカバー31は4対のねじれ絶縁性導電体32、33、34及び35を有している。カバー31は可とう性の高分子材料から構成することができ、好ましくは溶融押出で形成する。本例におけるケーブルにおいては、慣用の高分子材料を用いることができる。
【0030】
各対における絶縁性導電体は、その内部において導体36を有しており、その周囲は絶縁材料37で囲まれている。導体36はワイヤやケーブルの分野において汎用されている公知の金属導体から構成することができ、例えば銅、アルミニウム、銅被覆アルミニウム、及び銅被覆スチールなどを用いることができる。好ましくは、前記ワイヤは、18−26AWGゲージとすることができる。絶縁材料37の厚さは25ミリ以下とすることが好ましく、特定の用途に関しては10ミリ以下とすることが好ましい。
【0031】
本発明においては、絶縁性電気通信素子は、導電体の周囲に対して発泡性ポリマーを押し出し、次いで、発泡及び膨張させることによって製造することができる。発泡に際しては、発泡絶縁体を形成するために、ワイヤやケーブル産業界において汎用されている窒素などの、化学的及び/又は機械的なブローイング剤を用いることができる。
【0032】
そのような発泡性ポリマーは、55%以上の超高ダイスゥエル率を有するポリマーを20重量%以下の割合で含む。このような超高ダイスゥエル率を有するポリマーは、前記絶縁物に対して優れた発泡特性を付与する。前記発泡性ポリマーは、優れた電気的安定性及び/又は環境安定性を考慮して少なくとも1種のポリマーを含むことができる。本発明において使用可能なポリマーは、ワイヤやケーブルの分野で商業的に慣用されている任意のものを用いることができる。例えば、ポリプロピレンや、低密度、中密度、及び高密度のポリエチレンなどのポリオレフィンを用いることができる。
【0033】
特に、超高ダイスゥエル率を有するポリマーとしては、低密度ポリエチレン、好ましくは0.915−0.930g/cmの範囲の密度を有するポリエチレンを用いることができる。前記付加的なポリマーとしては、好ましくは中密度及び/又は高密度のポリエチレンを用いることができる。前記付加的なポリマーとしては、ASTM4568で規定されている、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)で規定されるような、高い熱加速安定性を有することが好ましい。
【0034】
エネルギーを蓄積して緊張状態にあるポリマー高分子鎖は、温度や実際の作業条件などに依存して、その膨張量に対して影響を与えるようになる。比較的長い分子鎖及び側枝を有する低密度ポリエチレン(LDPE)などのポリマーは、比較的短い分子鎖及び比較的少ない側枝を有する同様の低密度ポリエチレン(LDPE)などに比較して、より多くのエネルギーを蓄積し、加工後においてより高い速度で回復する。回復度合いの測定は、ダイスゥエル率(DSR)によって決定することができ、次式によって決定することができる。
DSR(%)=[(ds−d)/d×100]
【0035】
ここで、dsは押し出された材料の外直径であり、dはASTM D1238で規定された押出プラストメータのオリフィスの内直径である。ds及びdは、押出プラストメータによるメルトインデックス(MI)の測定の間に得ることができる。前記オリフィスの直径は、通常装置を加熱する以前において、室温で測定する。低密度ポリエチレンを用いたASTMD1238に関する評価は、190℃の温度で2160gの荷重を掛けた状態で行う。
【0036】
分子量分布(Mw/Mn:MWD)は、高ダイスゥエル特性の同定に際して重要な役割を果たす。8以上のMWDを有するLDPE組成物は、十分に高いダイスゥエルを呈するとともに、溶融弾性を呈する。このような特性は、通信素子における低密度の発泡性誘電体絶縁物の形成に対して望ましいものである。このような特性は、オートクレーブを用いた反応過程を経て製造したLDPEレジンにおいては本来的に具えられているものであるが、管状あるいはその他の反応形態を通じて得たLDPEにおいても同様の特性を呈することができる。
【0037】
Equistar Chemicalsによって規定される多分散性すなわちER値は、ポリエチレン製品の溶融弾性に対する指標となる。ER値の測定手順は、例えばR. Shroffらによる、”New Measures of Polydispersity from Rheological Data on Polymer Melts”, J. Applied Polymer Science, Vol. 57, pp. 1605-1626(1995)及びUSP5,534,472に記載されている。これらの文献の内容は本願明細書中にも含まれるものである。表1に示すように、高ダイスゥエル材料は、ER値及び発泡特性と相関がある。
【0038】
[表1]

【0039】
基準となるHDPE組成物と、高ダイスゥエルのLDPE組成物とからそれぞれ75ミリ(0.075インチ)の試験片を作製し、その電気的散逸率からその電気的特性を評価した。このパラメータは、材料のロスタンジェント(Loss tangent)としても用いることができる。前記散逸率及び誘電常数は、HP/Agilent 4324A Model Q Meterを用いて、1MHzの周波数で測定した。この測定は、マイクロラジアンあるいは10−6ラジアンの単位で行われる。
【0040】
前記LDPE組成物は、耐酸化剤、UV安定剤、滑剤、及び耐ブロッキング剤などの添加剤をほとんどあるいは全く含まない。安定剤や加工助剤を高濃度に含むLDPEレジンは電気的な臨界値を満足するものではなく、最適な減衰特性を満足するための熱劣化特性をも満足するものでもない。このような観点から、HDPE/LDPE発泡性ポリマー混合物の熱加速安定性や耐熱加速応力クラック特性を向上させるためには、前記HDPEは安定剤や耐酸化剤を最小限の割合でのみ含むことが要求される。
【0041】
安定剤を用いることによって高寿命化を達成できる一方、そのような安定剤の付加は、電気的減衰に対してマイナスの影響を与える。最適な減衰特性とともに、良好な安定性を実現させるためには、Irganox 1010又は1076(Ciba Chemicals)などの1次的なフェノール系の耐酸化剤や、Irgafos 168(Ciba Chemicals)などの2次的なフォスファイト系の共安定化剤などを用いることができる。このような耐酸化剤及び安定化剤を組み合わせて用いることにより、それらの相乗効果によって、発泡製品の熱加速安定性に対して重大な影響を与えるようになる。さらに、良好な環境安定性及び耐UV特性を呈するヒンダードアミン光安定化剤(HALS)を用いることもできる。
【0042】
効果的なUV安定性を得ようとしてHALSを比較的多量に用いるようになると、同軸ケーブルの製造の際に用いるHDPEの散逸率(したがって減衰率)に対してマイナスの影響を与えることが理論的には想定される。表2に示す試験結果は、上述した耐酸化剤やHALSを種々の割合で含んだHDPEの散逸率が上述したような理論上想定される現象に合致しないことを示している。
【0043】
上記耐酸化剤と上記HALSとの混合は以下のようにして特定される。
〇Irganox 1010 フェノール系耐酸化剤 200ppm
〇Irgafos 168 フェノール系耐酸化剤フォスファイト混合 400ppm
〇Chimassorb 944 又はTinuvin 622 ヒンダードアミン光安定化剤 400ppm
〇カルシウムステアレート 600ppm
【0044】
Irganox B215(Ciba)などの市販されている混合物は、上述のような耐酸化剤などを正確な割合で含んで調整されている。なお、使用する材料の状態に応じて、他の製造メーカーにおける種々の濃度に調整された同様の組成の混合物を用いることもできる。
【0045】
[表2]

【0046】
0.0403インチの銅被覆スチールからなる中心導電体を有する、0.180インチ直径の発泡性同軸部材の耐熱加速応力クラック特性が、試験に供する素子の直径と等しい直径を有する主軸の周りに発泡性のコアをラッピングするという規定の試験方法に従って実施された。この試験方法においては、試験片を直径に比例した所定の応力が負荷されるような応力レベルの状態に配置する。
【0047】
図4に示すように、発泡性の誘電体で被覆された内部導電体を具えるケーブルコアはループ状に形成されるとともに、前記ケーブルコアの規定位置の周囲において巻回するようにして構成されている。このようにして準備された試験片は100℃の温度環境下に晒され、図5に示すようなクラックが発生するまで、定期的にモニタリングする。(1)比較的高いDSRのLDPEを含有させたことによる影響、並びに(2)HALSとともに所定の耐酸化剤を含んだ場合の影響に関係した試験結果を表3に示す。
【0048】
[表3]

【0049】
図6に示すグラフは、絶縁材料の散逸率及び密度が減衰率に対してどのような影響を与えるかについて示したものである。上側の曲線は、40×10−6の散逸率を有するポリマー組成物から形成された絶縁体に対する、減衰率と周波数との関係をプロットしたものである。前記絶縁材料は、2つの異なる密度(0.240g/cc及び0.200g/cc)を有するように発泡されている。なお、これら2つの異なる密度に対するプロットは互いにオーバーラップしている。第2の曲線は、22×10−6の散逸率を有するポリマー組成物から形成された絶縁体に対する、減衰率と周波数との関係をプロットしたものである。前記第2の曲線を得るに際しても、同様な2つの異なる密度を有するように発泡されている。
【0050】
これらのグラフから、散逸率の減少は、減衰率が高周波数側にシフトするにつれて、大きく減少することを表している。これら2つの異なる密度に対するプロットは、ワイドレンジのスケールにおいては互いにオーバーラップしているものの、スケールを細かくしてみた場合には、低密度の場合の方が僅かに減衰の度合いが低下している。したがって、本発明によれば、高品質で環境安定性に優れ、低密度の密閉性の発泡構造体を作製することができる。この発泡構造体は、低い散逸率を有し、これに伴って減衰度合いも減少する。
【0051】
このような発見及びそれに基づく実験結果は、上述した材料の新規な組み合わせに基づいて、高い耐応力クラック特性を示し、安定かつ小型で、クローズドセルの発泡押出体を、一貫して繰り返し製造できることを示している。
【0052】
上述した実施例に対して変更を加えることもできるし、その他の実施例についても当業者にとっては想到できるものであって、これらの実施例に対しても上述したような記載及び図面に基づいて教示された利益を享受することができるものである。したがって、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範疇を逸脱しない限りにおいて、変更やその他の実施例を構成することも可能である。本願明細書においては、特定の用語が持ちられているものの、それらは一般的な記述的なものであって、特定の目的のために用いているものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に従った同軸ケーブルの一部を切り取って示した斜視図である。
【図2】本発明に従った引き込みケーブルの一部を切り取って示した斜視図である。
【図3】本発明に従った多対通信ケーブルを示す斜視図である。
【図4】試験前の、熱加速応力クラックの状態を示す写真である。
【図5】試験後の、熱加速応力クラックが一定のレベルで発生している状態を示す写真である。
【図6】ケーブルの減衰率が絶縁体組成の散逸率によって如何に影響を受けるかに関して示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体と、この導電体を囲むようにして設けられた発泡プラスチック絶縁体とを具えた電気伝達素子であって、
前記発泡プラスチック絶縁体は、55%以上の超高ダイスゥエル比を有するポリマーを20重量%以下の割合で含むことを特徴とする、電気伝達素子。
【請求項2】
前記発泡プラスチック絶縁体は、前記超高ダイスゥエル比を有するポリマーと、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)で規定されるような、高い熱加速安定性を有する少なくとも1種の付加的なポリマーとを具えることを特徴とする、請求項1に記載の電気伝達素子。
【請求項3】
前記付加的ポリマーは、20分以上の酸化誘発時間を有することを特徴とする、請求項2に記載の電気伝達素子。
【請求項4】
前記発泡プラスチック絶縁体は、その外径と等しい直径を有する主軸の周りに巻回した際に生じる応力レベルにおいて、100℃で100時間以上の耐熱加速応力クラック特性を呈し、半径方向又は長手方向においてクラックを発生させないことを特徴とする、請求項1に記載の電気伝達素子。
【請求項5】
前記発泡性プラスチック絶縁体は、前記超高ダイスゥエル比を有するポリマーと、この超高ダイスゥエル比を有するポリマーよりも低く、75マイクロラジアン以下の散逸率を有する少なくとも1種の付加的なポリマーを具えることを特徴とする、請求項1に記載の電気伝達素子。
【請求項6】
前記付加的なポリマーは50マイクロラジアン以下の散逸率を有することを特徴とする、請求項5に記載の電気伝達素子。
【請求項7】
前記発泡プラスチック絶縁体は、前記超高ダイスゥエル比を有するポリマーと、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)で規定されるような、高い熱加速安定性を有し、75マイクロラジアン以下の散逸率を有する少なくとも1種の付加的なポリマーを具えることを特徴とする、請求項1に記載の電気伝達素子。
【請求項8】
前記付加的なポリマーは、ヒンダードアミン光安定化剤、並びにフェノール系耐酸化剤及び/又はフォスファイト混合のフェノール系耐酸化剤を含む高安定化ポリオレフィンであることを特徴とする、請求項7に記載の電気伝達素子。
【請求項9】
前記発泡プラスチック絶縁体は、55%以上のダイスゥエル比を有するオレフィンポリマーを15重量%の割合で具えることを特徴とする、請求項1に記載の電気伝達素子。
【請求項10】
前記発泡プラスチック絶縁体は、55%以上のダイスゥエル比を有する低密度ポリエチレンを20重量%以下の割合で具え、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)で規定されるような高い熱加速安定性を有する、少なくとも1種の付加的なポリオレフィンを具えることを特徴とする、請求項1に記載の電気伝達素子。
【請求項11】
前記付加的なポリオレフィンは、前記低密度ポリエチレンより低く、75マイクロラジアン以下の散逸率を有することを特徴とする、請求項10に記載の電気伝達素子。
【請求項12】
中心導電体、及びこの中心導電体を覆うようにして設けられた誘電体を含むケーブルコアと、このケーブルコアを覆うようにして設けられた外部導電体とを具え、
前記ケーブルコアは、請求項1に記載の電気伝達素子からなることを特徴とする、同軸ケーブル。
【請求項13】
少なくとも2対のねじれ絶縁性導電体を具え、各ねじれ絶縁性導電体は請求項1に記載の電気伝達素子からなることを特徴とする、ねじれ対ケーブル。
【請求項14】
導電体と、この導電体を覆うようにして設けられた発泡プラスチック絶縁体とを具え、
前記発泡プラスチック絶縁体は、20重量%以下の割合の55%以上のダイスゥエル比を有する第1のオレフィンポリマーと、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)で規定されるような高い熱加速安定性を有する、少なくとも1種の付加的なポリオレフィンとの混合物を具えることを特徴とする、電気通信ケーブル。
【請求項15】
前記付加的なポリオレフィンは、前記超高ダイスゥエル比のポリオレフィンよりも低く、75マイクロラジアン以下の散逸率を有することを特徴とする、請求項14に記載の電気通信ケーブル。
【請求項16】
前記付加的なポリオレフィンは、ヒンダードアミン光安定化剤、並びにフェノール系耐酸化剤及び/又はフォスファイト混合のフェノール系耐酸化剤を含む高安定化ポリオレフィンであることを特徴とする、請求項15に記載の電気通信ケーブル。
【請求項17】
前記第1のポリオレフィン及び前記付加的なポリオレフィンの前記混合物は、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)を示すことを特徴とする、請求項14に記載の電気通信ケーブル。
【請求項18】
前記第1のポリオレフィン及び前記付加的なポリオレフィンの前記混合物は、20分以上の酸化誘発時間を有することを特徴とする、請求項17に記載の電気通信ケーブル。
【請求項19】
外径と等しい直径を有する主軸の周りに巻回した際に生じる応力レベルにおいて、100℃で100時間以上の耐熱加速応力クラック特性を呈し、半径方向又は長手方向においてクラックを発生させないことを特徴とする、請求項14に記載の電気通信ケーブル。
【請求項20】
導電体と、この導電体を覆うようにして設けられた発泡プラスチック絶縁体とを具え、
前記発泡プラスチック絶縁体は、20重量%以下の割合の55%以上のダイスゥエル比を有する第1のオレフィンポリマーと、ヒンダードアミン光安定化剤、並びにフェノール系耐酸化剤及び/又はフォスファイト混合のフェノール系耐酸化剤を含む高安定化ポリオレフィンとの混合物を具えることを特徴とする、電気通信ケーブル。
【請求項21】
前記第1のポリオレフィン及び前記高安定化ポリオレフィンとの混合物は、ASTM4568に従った、200℃で15分間以上の酸化誘発時間(OIT)を示すことを特徴とする、請求項20に記載の電気通信ケーブル。
【請求項22】
前記第1のポリオレフィン及び前記高安定化ポリオレフィンとの混合物は、75マイクロラジアン以下の散逸率を示すことを特徴とする、請求項20に記載の電気通信ケーブル。
【請求項23】
1の応力レベルで巻回した際に、100℃で100時間以上の耐熱加速応力クラック特性を呈し、半径方向又は長手方向においてクラックを発生させることなく、直径方向の外側における絶縁性を保持できるように構成されていることを特徴とする、請求項20に記載の電気通信ケーブル。
【請求項24】
前記第1のポリオレフィンは、前記混合物中に約15重量%の割合で含まれていることを特徴とする、請求項20に記載の電気通信ケーブル。
【請求項25】
前記第1のポリオレフィンは、低密度ポリエチレンであることを特徴とする、請求項24に記載の電気通信ケーブル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−502526(P2007−502526A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532355(P2006−532355)
【出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/009708
【国際公開番号】WO2004/102591
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(503089548)コムスコープ インコーポレイテッド オブ ノース カロライナ (2)
【氏名又は名称原語表記】COMMSCOPE,INC.OF NORTH CAROLINA
【Fターム(参考)】