説明

超高圧水銀ランプ及び該超高圧水銀ランプの製造方法

【課題】放電ランプに供給する電力をセーブするために、定常点灯モードから低電力点灯モードに切替えたときに、放電ランプの発光部及び電極軸部を含む封止部が低温になることを抑制する。
【解決手段】封入量0.15mg/mm以上の水銀が封入された発光部2と、発光部2に連設された封止部3とを備え、定常点灯モードと、定格消費電力に対して20〜75%の範囲内の電力値でランプを駆動する低電力点灯モードとを切り替え可能に駆動される超高圧水銀ランプ1であって、発光部2と封止部3との境界付近の外周方向に、発光部2から放射される光を吸収して発光部2を保温する保温部5を設け、保温部5は、発光部2を構成する物質よりも熱膨張係数が高い物質からなり、定常点灯モード時においては、発光部2から離間して発光部2との間に微小間隙を形成すると共に、低電力点灯モード時においては、発光部2に当接することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高圧水銀ランプに関し、特に、液晶ディスプレイ装置、DMD(デジタルミラーデバイス・登録商標)を用いたDLP(デジタルライトプロセッサ・登録商標)等の投射型プロジェクタ装置のバックライトに使用する超高圧水銀ランプ及び該超高電圧放電ランプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、プロジェクタ装置に供給する電力を必要に応じて可変することが要求されている。例えば、会議等においてスクリーンに画像を映し出すときには、プロジェクタ装置から出射する光量を高くし、スクリーンに画像を鮮明に映し出すことが必要である。一方、スクリーンに画像を映し出すことが不要なときには、プロジェクタ装置から出射する光量を低くすることが望ましい。
例えば、会議等においては、参加者同士でディスカッションを行うときに、スクリーンに対する画像の投影を一時中断することがあり、中断時には消費電力をセーブするためにプロジェクタ装置の光量を落とすことが好ましい。この場合に、プロジェクタ装置に内蔵された光源に給電する電力を零にし、光源を消灯することは好ましくない。この種の光源は一旦消灯すると、再点灯するために要する時間が長いためである。したがって、プロジェクタ装置においては、定常点灯モード(定格電力での点灯)と低電力点灯モード(定格電力よりも低い電力で点灯)とを必要に応じて切り換えることが望ましい。
【0003】
特許文献1には、放電ランプに交流電圧を印加して放電ランプを駆動する方法が記載されている。この駆動方法によれば、第1動作モードと第2動作モードとを備え、第2動作モードにおいて、放電ランプに供給される電力を第1動作モードに比して小さくすることが記載されている。
【0004】
通常、プロジェクタ装置用の光源として使用される超高圧水銀ランプは、その放射輝度を高めるために発光部内に0.15mg/mm以上という高密度の水銀が封入されている。この種のランプの放射輝度は、発光部内の水銀蒸気圧に比例し、発光部内の水銀蒸気圧が低いほど低下する。発光部の水銀蒸気圧は発光部の温度に主として依存する。つまり、発光部が低温であるほど、水銀が発光空間において未蒸発の状態となって水銀蒸気圧が低下するため、次に説明するような問題が生じる。一対の電極間の抵抗値は水銀蒸気圧が低下することに伴って低下し、電極間に電流が流れ易くなる。そのため、電極に対して電子が頻繁に衝突して電極がスパッタされることにより、電極構成物質が放電空間内に飛散すると共に発光部の管壁に付着し、発光部が黒化する。
【0005】
特許文献1に示した放電ランプの駆動方法では、第2動作モードにおいて放電ランプに供給する電力を第1動作モードに比して小さくしたときに、放電ランプの発光部が低温になるため、発光空間において水銀が未蒸発になることが避けられず、その結果として、上記の問題を引き起こす惧れがある。しかし、同文献においては、水銀が未蒸発になることが原因で発生する問題及びその解決策について何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−527871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、放電ランプに供給する電力をセーブするために、定常点灯モードから低電力点灯モードに切替えたときに、放電ランプの発光部及び電極軸部を含む封止部が低温になることを抑制することのできる超高圧水銀ランプ及び該超高電圧放電ランプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、封入量0.15mg/mm以上の水銀が封入された発光部と、該発光部に連設された封止部とを備え、定常点灯モードと、定格消費電力に対して20〜75%の範囲内の電力値でランプを駆動する低電力点灯モードとを切り替え可能に駆動される超高圧水銀ランプであって、前記発光部と前記封止部との境界付近の外周方向に、前記発光部から放射される光を吸収して前記発光部を保温する保温部を設け、前記保温部は、前記発光部を構成する物質よりも熱膨張係数が高い物質からなり、前記定常点灯モード時においては、前記発光部から離間して前記発光部との間に微小間隙を形成すると共に、前記低電力点灯モード時においては、前記発光部に当接することを特徴とする超高圧水銀ランプである。
第2の手段は、第1の手段において、前記保温部は、0.2〜1mmの厚みを有する膜であることを特徴とする超高圧水銀ランプである。
第3の手段は、第1の手段において、前記保温部は、筒状であることを特徴とする超高圧水銀ランプである。
第4の手段は、第1の手段において、前記保温部の熱膨張係数が1×10−6/K以上であることを特徴とする超高圧水銀ランプである。
第5の手段は、封入量0.15mg/mm以上の水銀が封入された発光部と、該発光部に連設された封止部と、前記発光部と前記封止部との境界付近の外周方向に形成され、前記発光部から放射される光を吸収して発光部を保温する保温部とを備える超高圧水銀ランプの製造方法であって、間隙形成用媒体を、前記発光部と前記封止部との境界付近に塗布して乾燥させる手順と、保温部形成用媒体を前記間隙形成用媒体の上に塗布して乾燥させる手順と、前記間隙形成用媒体及び前記保温部形成用媒体とを一次乾燥させ、前記間隙形成用媒体及び前記保温部形成用媒体に含まれる溶媒を除去する手順と、前記間隙形成用媒体及び前記保温部形成用媒体とを二次乾燥させ、前記間隙形成用媒体を除去すると共に前記保温部を形成する手順と、を含むことを特徴とする超高圧水銀ランプの製造方法である。
第6の手段は、第5の手段において、前記間隙形成用媒体は、グラファイト粉末にC1735COOH(ステアリン酸)を混合したゲル状物であることを特徴とする超高圧水銀ランプの製造方法である。
第7の手段は、第5の手段において、前記保温部形成用媒体は、Al(アルミナ)、MgO(酸化マグネシウム)、SiO(シリカ)及び酸化ナトリウム(NaO)の粉末を水に混合した縣濁液であることを特徴とする超高圧水銀ランプの製造方法である。
第8の手段は、第5の手段において、前記保温部形成用媒体は、Al(アルミナ)、MgO(酸化マグネシウム)、SiO(シリカ)及び酸化ナトリウム(NaO)の金属アルコキシド重合体であることを特徴とする超高圧水銀ランプの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低電力点灯モード時において、発光部及び電極軸部を含む封止部を保温して発光部及び電極軸部を含む封止部が低温になることを防止することによって、発光部の内部空間の水銀蒸気圧の低下を防止し、電極に対する負荷を軽減して発光部の管壁の黒化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る超高圧水銀ランプの構成を示す平面図である。
【図2】定常点灯モード時における図1に示した超高電圧放電ランプの発光部の一部と一方の封止部を拡大して示した断面図である。
【図3】低電力点灯モード時における図1のA−A線で径方向に切断した断面図、及び定常点灯モードにおける図1のA−A線で径方向に切断した断面図である。
【図4】保温部5を発光部2の一部とそれに連設された封止部3、3の外表面に亘って形成する手順の一例を示す図である。
【図5】第2の実施形態に係る超高圧水銀ランプの構成を示す平面図である。
【図6】定常点灯モード時における図5に示した超高電圧放電ランプの発光部の一部と一方の封止部を拡大して示した断面図である。
【図7】第1及び第2の実施形態において示した本発明に係る超高圧水銀ランプに適用される点灯装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態を図1〜図4を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る超高圧水銀ランプの構成を示す平面図、図2は定常点灯モード時における図1に示した超高電圧放電ランプの発光部の一部と一方の封止部を拡大して示した断面図である。
これらの図に示すように、超高圧水銀ランプ1は、球状の発光部2と、その両端に連設された一対の封止部3、3とで構成される石英ガラス製の発光管を備えている。発光部2の内部空間には、それぞれの先端が向き合うように一対のタングステン製の電極4、4が配置されている。また、発光部2の内部空間には、定常点灯モードで点灯したときの水銀蒸気圧が150気圧以上となるように水銀が0.15mg/mm以上封入されると共に、所定量の希ガスが封入されている。封止部3、3の発光部2側の一部及び封止部3、3から連接された発光部2の一部にかかる領域(以下、封止部と発光部の境界付近)の外周面上に、超高圧水銀ランプ1の発光部2から放射される光を吸収することによって、発光部2及び電極軸部41を保温するための保温部5、5が形成される。超高電圧放電ランプ1は点灯装置8によって点灯される。
【0012】
封止部3は、モリブデンからなる金属箔6が埋設されることによって気密に封止されている。金属箔6は、一端が電極4に接続される電極軸部41の端部が接続されると共に、他端が外部リード7に接続されている。外部リード7は封止部3の外方へと伸び出ている。
【0013】
封入される水銀は、必要な可視光波長、例えば、波長380〜780nmという放射光を得るためのものであり、0.15mg/mm以上封入されている。この封入量は、温度条件によっても異なるが、点灯時15MPa以上という極めて高い蒸気圧を形成するためのものである。また、水銀をより多く封入することによって点灯時の水銀蒸気圧を20MPa以上、更には30MPa以上という高い水銀蒸気圧の放電ランプを作ることができ、水銀蒸気圧が高くなるほどプロジェクタ装置に適した光源を実現することができる。
【0014】
希ガスは、静圧で約10〜26kPa封入される。具体的には、アルゴンガスであり、このように希ガスを封入するのは、点灯始動性を改善するためである。また、ハロゲンは、沃素、臭素、塩素等が封入され、ハロゲンの封入量は、10−6〜10−2μmol/mmの範囲から選択される。その機能は、ハロゲンサイクルを利用した長寿命化(黒化防止)にあるが、本発明の超高圧水銀ランプのように極めて小型で高い内圧を有するものの場合は、発光部2の失透を防止するためでもある。
【0015】
本発明の超高圧水銀ランプは、超高圧水銀ランプに供給する電力をセーブするために、定常点灯モードから低電力点灯モードに切替えたときに、発光部2を保温することによって、発光部2が低温になることを回避し、ひいては、発光部2における水銀蒸気圧が低下することを防止するものである。そのために、超高圧水銀ランプの発光部2と封止部3との境界付近の外表面には、発光部2から放射される光を吸収する保温部5が形成されている。
【0016】
保温部5は、発光部を確実に保温するために、発光部2と封止部3、3の境界付近に少なくとも設けられることが必要であり、図1に示すように、発光部2の一部とそれに連設された封止部3、3の一部の外表面に亘って形成される。ただし、保温部5は、発光部2から放射される光を邪魔することのないように形成することが好ましい。
【0017】
保温部5は、低電力点灯モード時に発光部2を保温して発光部2が低温状態になることを避けるためのものであるが、定常点灯モードにおいては、発光部2が過剰に高温状態になることを避けるべく、発光部2を保温しないようにするために、発光部2から離間していることが好ましい。
【0018】
このような理由から、保温部5は、定常点灯モード時では発光部2から離間して発光部2との間に微小間隙を形成すると共に、低電力点灯モード時では発光部2に当接するように形成することが必要である。保温部5は、それ自体の温度の高低に応じて自在に伸縮することができるものである。つまり、保温部5は、高温状態にあるときは熱膨張することによって発光部2から離間し、発光部2との間に微小間隙が形成する。一方、保温部5は、低温状態にあるときは収縮することによって発光部2に当接し、発光部2を保温する。
【0019】
図3(a)は低電力点灯モード時における、図1のA−A線で径方向に切断した断面図、図3(b)は定常点灯モードにおける、図1のA−A線で径方向に切断した断面図である。なお、これらの図においては、電極は省略されている。
つまり、図3(a)は低電力点灯モード時において発光部2が低温状態にある時の保温部5の様子を示し、図3(b)は定常点灯モード時において発光部2が高温状態にある時の保温部5の様子を示している。
図3(a)に示すように、低電力点灯モード時においては、保温部5が低温状態にあるために、保温部5が発光部2の外表面21に当接することによって、発光部2は保温される。一方、図3(b)に示すように、定常点灯モード時においては、保温部5が高温状態にあるために、保温部5は発光部2の外表面21から離間することによって、保温部5と発光部2の外表面21との間に微小間隙22が形成され、発光部2が高温になり過ぎることを防止している。
【0020】
保温部5は、発光部2の径方向において自在に伸縮するために、発光部2を構成する石英ガラス(SiO)よりも熱膨張率の高い物質によって構成され、例えばAl(アルミナ)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO)及びシリカ(SiO)のうちの少なくとも一種以上によって膜状に形成される。それぞれの物質の熱膨張係数は、Alが7×10−6/K、MgOが11×10−6/K、ZrOが1×10−5/K、SiOが5×10−7/Kである。なお、保温部5は、発光部2の石英ガラスに密着させ易くするために、所定量の酸化ナトリウム(NaO)を含むことが好ましい。
保温部5の膜厚は0.2〜1mmである。保温部5の厚みをこの範囲にすることによって、保温部5が伸縮し易くなり、定常点灯モード時に保温部5が膨張することによって発光部2から離間して微小間隙を形成し易くなると共に、低電力点灯モード時に保温部5が収縮することによって発光部2に当接することになる。
【0021】
次に、保温部5を、発光部2の一部とそれに連設された封止部3、3の外表面に亘って形成する手順の一例を図4を用いて説明する、
(1)手順1(間隙形成用媒体の作製・塗布・乾燥)
グラファイト粉末にC1735COOH(ステアリン酸)を混合してゲル状の間隙形成用媒体を作製する。作製した間隙形成用媒体を、封止部3、3と発光部2の境界付近の外周面に刷毛等を使用して塗布し、十分に乾燥させる。間隙形成用媒体の前記境界付近の外周面への塗布は、吹き付け、ディッピング等により行うことができる。
(2)手順2(保温部形成用媒体の作製・塗布・乾燥)
手順1で間隙形成用媒体を塗布・乾燥させた後に、Al(アルミナ)を主成分とし、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO)及びシリカ(SiO)を少量含む粉末を水に混合して混濁液を作製する。作製した混濁液を前記間隙形成用媒体の上に刷毛等を使用して塗布し、十分に乾燥させ、保温部形成用媒体を形成する。保温部形成用媒体の発光部2への塗布は、吹き付け、ディッピング等により行うことができる。
(3)手順3(一次乾燥)
間隙形成用媒体上に保温部形成用媒体形成が形成された発光部2を有する発光管1を電気炉に入れて100℃に加熱し、間隙形成用媒体に含まれるステアリン酸を蒸発させる。
(4)手順4(二次乾燥)
一次乾燥を終えた発光管1を電気炉に入れて1000℃で30分間の加熱を行い、塗布したアルミナ等を焼成する。このとき、手順1で塗布したグラファイトは、CO若しくはCOとして燃焼され、保温部5と発光部2との間には間隙形成用媒体の厚みと同程度の隙間が形成される。
【0022】
なお、上記手順2においては、混濁液を使用する方法に限らず、金属アルコキシド重合体を利用するゾル−ゲル法によって、保温部形成用媒体を塗布しても良い。手順2でゾル−ゲル法を利用する場合は、Al(アルミナ)を主成分とし、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO)及びシリカ(SiO)を含む金属アルコキシドを加水分解及び縮重合させてコロイド(ゾル)溶液とし、かかる金属アルコキシド重合体を刷毛等を使用して間隙形成用媒体に塗布して加熱乾燥させゲル化する。手順2でゾル−ゲル法を利用した場合は、同手順で混濁液を利用した場合に比べて、エチルアルコールが低温で蒸散することから、手順4でアルミナ等を焼成させるために必要な温度を200℃程度に低減することができ、保温部5を容易に作製することができる。
【0023】
上記の手順1−4を順次に行うことにより、手順1で発光部2の所定箇所に形成された間隙形成用媒体が蒸発するので、保温部5を封止部3、3と発光部2の境界付近の外周面上に形成することができる。保温部5は、定常点灯モード時に高温状態になって発光部2の径方向外方に膨張することにより、発光部2から離間して発光部2との間に微小間隙が形成される。一方、低電力点灯モード時には低温状態になって発光部2の径方向内方に収縮して発光部2に当接する。定常点灯モード時に保温部5と発光部2との間に形成される微小間隙の大きさは、概ね0.01〜0.5mmである。
【0024】
本発明の第2の実施形態を図5及び図6を用いて説明する。
図5は、本実施形態に係る超高圧水銀ランプの構成を示す平面図、図6は定常点灯モード時における図5に示した超高電圧放電ランプの発光部の一部と一方の封止部を拡大して示した断面図である。なお、本実施形態においては、保温部以外、第1の実施形態における図1及び図2に示した構成とほぼ同様に構成されるので、その他の構成の説明は省略する。
これらの図に示すように、超高電圧放電ランプの発光部と封止部の境界付近の外周面に形成される保温部は、図1に示したような膜状の保温部に限定されない。つまり、図5に示すように、保温部51、51は、例えばアルミナのように発光部2の石英ガラスよりも熱膨張率の高い物質によって、互いに異なる内径を有する円筒状に形成され、発光部2の端部領域の外周を包囲する大径円筒部51Aと、大径円筒部51Aに連設され封止部3の端部領域を包囲する小径円筒部51Bとを備えるものである。このような保温部51は、例えばアルミナ粉末を互いに内径の異なる円筒形状に成型した後に、かかるアルミナの成型円筒を所定温度かつ所定時間で焼結することによって形成することができる。
【0025】
大径円筒部51Aは発光部2の外径よりも、また小径円筒部51Bは封止部3の外径よりも、それぞれ若干大きい内径を有しており、それぞれ発光部2及び封止部3の外表面との間に概ね0.001〜0.5mmの微小間隙を隔てて設けられている。このような円筒状の保温部51は、発光部2の一部及び封止部3の一部を包囲するように、封止部3の外端部から発光部2に向けて挿入される。なお、保温部51は、前記のように挿入されるものの、封止部3の外表面には凸部31が形成されているため、封止部3の外端部方向に脱落する惧れはない。
【0026】
上記のごとく、第1及び第2の実施形態に示した本発明に係る超高圧水銀ランプによれば、低電力点灯モード時には、保温部5または保温部51が低温状態になって発光部2の径方向内方に収縮することによって、発光部2の外表面に当接するため、発光部2を保温することができる。すなわち、低電力点灯モード時には、超高圧水銀ランプへの供給電力が低減されることから、発光部2が低温になり易いが、保温部5または保温部51が発光部2に当接していることから、発光部2が低温状態になることが回避される。
したがって、本発明の超高圧水銀ランプは、低電力点灯モード時であっても、未蒸発となる水銀量が低減され、発光部2ないし封止部3内の水銀蒸気圧が十分に高いものとなるため、発光部2内に対向して配置された一対の電極4、4間の抵抗が低くなることに伴い一対の電極4、4に大電流が流れることがなく、それぞれの電極4、4への熱的負荷が軽減されるために、電極構成物質が蒸発して電極4、4表面から飛散することが防止され、その結果として、発光部2の黒化を確実に防止することができる。
【0027】
図7は、第1及び第2の実施形態に示した本発明に係る超高圧水銀ランプに適用される点灯装置の構成例を示す図である。
同図に示すように、この点灯装置8は、直流電圧が供給される降圧チョッパ回路9と、降圧チョッパ回路9の出力側に接続され、直流電圧を交流電圧に変換して超高圧水銀ランプ1に供給するフルブリッジ型インバータ回路10(以下、フルブリッジ回路ともいう。)と、超高圧水銀ランプ1に直列接続されたコイルL1、コンデンサC1、及びスタータ回路11と、フルブリッジ回路10のスイッチング素子Q1〜Q4を駆動するドライバ12と、制御部13とから構成される。制御部13は、例えば、マイクロプロセッサ等の処理装置で構成される。
【0028】
制御部13は、駆動信号発生部131とコントローラ132から構成される。駆動信号発生部131は、フルブリッジ回路10のスイッチング素子Q1〜Q4を駆動するための駆動信号を発生する。コントローラ132は、超高圧水銀ランプ1の点灯動作を制御し、外部からの点灯電力指令に応じて、降圧チョッパ回路9のスイッチング素子Qxを設定されたデューティで駆動する機能を備える。また、コントローラ132は、電流検出用の抵抗Rxの両端電圧と、電圧検出用の抵抗R1、R2により検出された電圧から、ランプ電流I、ランプ電圧Vを求めてランプ電力を演算し、この電力が点灯電力指令により指令された電力と一致するように降圧チョッパ回路9のスイッチング素子Qxのデューティを制御する。駆動信号発生部131は、スイッチング素子Q1〜Q4を駆動するための駆動信号を発生し、ドライバ12に送信する。フルブリッジ回路10は、ドライバ12からのドライブ信号に応じた極性反転動作を行う。
【0029】
次に、点灯装置14の動作を図7を用いて説明する。
まず、コントローラ132に点灯指令が与えられると、超高圧水銀ランプ1への給電が開始されると共に、コントローラ132は、始動回路駆動信号を発生し、スタータ回路11をトリガして超高圧水銀ランプ1を点灯させる。次に、超高圧水銀ランプ1が点灯すると、コントローラ132は、分圧抵抗R1、R2により検出される電圧値Vと、抵抗Rxにより検出される電流値Iにより点灯電力を演算する。次に、コントローラ132は、点灯電力指令信号により指令された電力値と、上記演算された電力値に基き、降圧チョッパ回路9のスイッチング素子Qxを制御して、点灯電力を制御する。すなわち、降圧チョッパ回路9のスイッチング素子Qxは、ゲート信号Gxのデューティに応じて変化し、外部から点灯電力指令に応じて、電力アップならスイッチング素子Qxのデューティを上げ、電力ダウンならスイッチング素子Qxのデューティを下げて、入力された点灯電力指令に合致する電力値になるようにゲート信号Gxの制御を行う。
【0030】
より詳細には、点灯電力指令により定常点灯モードが指令された時は、コントローラ132は、降圧チョッパ回路9のスイッチング素子Qxのデューティを制御して定格電力の70%以上の電力が出力されるように制御し、また、点灯電力指令により低電力点灯モードが指令された時は、コントローラ132は、降圧チョッパ回路9のスイッチング素子Qxのデューティを制御して定格電力の20〜75%の電力が出力されるように制御する。ここで、低電力点灯モードにおいて指令された電力値が定格電力の20〜75%の範囲とするのは、20%以下では超高圧水銀ランプ1が不点灯となってしまい、また75%以下とするのは、低電力点灯モード時に超高圧水銀ランプ1に供給する電力をセーブするためである。
【0031】
次に、本発明、比較例1、及び比較例2にかかるそれぞれの超高圧水銀ランプについて行った実験1、2について説明する。
<実験1>
実験1は、図1に示す構成に従う、本発明、比較例1、及び比較例2に係るそれぞれの超高圧水銀ランプを10本ずつ作製した。本発明、比較例1、及び比較例2にかかる超高圧水銀ランプは、それぞれ保温部の構成のみが相違し、その他については共通する。詳細は以下のとおりである。
(1)本発明:上記手順1−4に従って、Alを主成分とし、MgO、SiO、NaOを含む、組成比(Al:MgO:SiO:NaO=70:10:5:15)の保温部をを作製した。膜厚は約1mmである。
(2)比較例1:保温部は、SiOのみからなり、膜厚は約1mmである。
(3)比較例2:保温部は設けられていない。
〔実験条件〕
(1)超高圧水銀ランプの定格電力:230W
(2)超高圧水銀ランプへの供給電力と冷却風の風量の関係は以下のとおりである。
条件1、供給電力230Wの場合の冷却風量=100(相対値)
条件2、供給電力115Wの場合の冷却風量=70(相対値)
条件3、供給電力57Wの場合の冷却風量=50(相対値)
(3)本発明、比較例1、及び比較例2に係る超高圧水銀ランプを、それぞれ10本ずつ3時間点灯させた後、発光部の黒化の有無を目視で確認した。
【0032】
表1は実験1の結果を示す表である。
【表1】

表1に示すように、本発明の超高圧水銀ランプは、定格電力230Wを供給する定常点灯モードから、57Wを供給する低電力点灯モードに切替えても、発光部が黒化したものは10本中1本も無かった。一方、比較例1の超高圧水銀ランプは、定格電力230Wを供給する定常点灯モードから、57Wを供給する低電力点灯モードに切替えると、10本中3本は発光部が黒化した。又、比較例2の超高圧水銀ランプは、定格電力230Wを供給する定常点灯モードから、57Wを供給する低電力点灯モードに切替えると、10本の全てが発光部が黒化した。
【0033】
<実験2>
実験2は、図1の構成に従い、実験1と同様に、本発明、比較例1、及び比較例2に係るそれぞれの超高圧水銀ランプを10本ずつ作製し、超高圧水銀ランプへの供給電力と冷却風量との関係のみを以下の条件に変更して実験を行った。
〔実験条件〕
(1)超高圧水銀ランプの定格電力:230W
(2)超高圧水銀ランプへの供給電力と冷却風の風量の関係は以下のとおりである。
条件1、供給電力230Wの場合の冷却風量=70(相対値)
条件2、供給電力115Wの場合の冷却風量=50(相対値)
条件3、供給電力57Wの場合の冷却風量=30(相対値)
(3)本発明、比較例1、及び比較例2に係る超高圧水銀ランプを、それぞれ10本ずつ3時間点灯させた後、発光部の黒化の有無を目視で確認した。
【0034】
表2は実験2の結果を示す表である。
【表2】

表2に示すように、本発明の超高圧水銀ランプは、定格電力230Wを供給する定常点灯モードから、57Wを供給する低電力点灯モードに切替えても、発光部が黒化したものは10本中1本も無かった。一方、比較例1の超高圧水銀ランプは、定格電力230Wを供給すると10本中3本が発光部に黒化が生じた。これは実験1に比べ冷却風量を減らしたことから、発光部が高温に成り過ぎたことが原因と考えられる。又、比較例2の超高圧水銀ランプは、定格電力230Wを供給する定常点灯モードから、57Wを供給する低電力点灯モードに切替えると、10本中7本が発光部が黒化した。冷却風量を減らしただけでは、発光部の黒化を防止することはできないことが確認された。
【符号の説明】
【0035】
1 超高圧水銀ランプ
2 発光部
3 封止部
4 電極
41 電極軸部
5、51 保温部
51A 大径円筒部
51B 小径円筒部
6 金属箔
7 外部リード
8 点灯装置
9 降圧チョッパ回路
10 フルブリッジ回路
11 スタータ回路
12 ドライバ
13 制御部
131 駆動信号発生部
132 コントローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
封入量0.15mg/mm以上の水銀が封入された発光部と、該発光部に連設された封止部とを備え、定常点灯モードと、定格消費電力に対して20〜75%の範囲内の電力値でランプを駆動する低電力点灯モードとを切り替え可能に駆動される超高圧水銀ランプであって、
前記発光部と前記封止部との境界付近の外周方向に、前記発光部から放射される光を吸収して前記発光部を保温する保温部を設け、
前記保温部は、前記発光部を構成する物質よりも熱膨張係数が高い物質からなり、前記定常点灯モード時においては、前記発光部から離間して前記発光部との間に微小間隙を形成すると共に、前記低電力点灯モード時においては、前記発光部に当接することを特徴とする超高圧水銀ランプ。
【請求項2】
前記保温部は、0.2〜1mmの厚みを有する膜であることを特徴とする請求項1記載の超高圧水銀ランプ。
【請求項3】
前記保温部は、筒状であることを特徴とする請求項1記載の超高圧水銀ランプ。
【請求項4】
前記保温部の熱膨張係数が1×10−6/K以上であることを特徴とする請求項1記載の超高圧水銀ランプ
【請求項5】
封入量0.15mg/mm以上の水銀が封入された発光部と、該発光部に連設された封止部と、前記発光部と前記封止部との境界付近の外周方向に形成され、前記発光部から放射される光を吸収して発光部を保温する保温部とを備える超高圧水銀ランプの製造方法であって、
間隙形成用媒体を、前記発光部と前記封止部との境界付近に塗布して乾燥させる手順と、
保温部形成用媒体を前記間隙形成用媒体の上に塗布して乾燥させる手順と、
前記間隙形成用媒体及び前記保温部形成用媒体とを一次乾燥させ、前記間隙形成用媒体及び前記保温部形成用媒体に含まれる溶媒を除去する手順と、
前記間隙形成用媒体及び前記保温部形成用媒体とを二次乾燥させ、前記間隙形成用媒体を除去すると共に前記保温部を形成する手順と、を含むことを特徴とする超高圧水銀ランプの製造方法。
【請求項6】
前記間隙形成用媒体は、グラファイト粉末にC1735COOH(ステアリン酸)を混合したゲル状物であることを特徴とする請求項5記載の超高圧水銀ランプの製造方法。
【請求項7】
前記保温部形成用媒体は、Al(アルミナ)、MgO(酸化マグネシウム)、SiO(シリカ)及び酸化ナトリウム(NaO)の粉末を水に混合した縣濁液であることを特徴とする請求項5記載の超高圧水銀ランプの製造方法。
【請求項8】
前記保温部形成用媒体は、Al(アルミナ)、MgO(酸化マグネシウム)、SiO(シリカ)及び酸化ナトリウム(NaO)の金属アルコキシド重合体であることを特徴とする請求項5記載の超高圧水銀ランプの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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