説明

超高速光標本化方法及び光AD変換器

【課題】偏波保持高非線形ファイバを用いて高品質な光標本化を実現する超高速光標本化方法及び光AD変換器を提供する。
【解決手段】本発明の超高速光標本化方法では、標本化対象の光アナログ信号1と標本化光パルス列2をそれぞれ入力用ファイバ4、5に入力し、カプラ-6で合波して偏波保持高非線形ファイバ7に入力する。偏波保持高非線形ファイバ7の内部で発生する四光波混合により、変換光パルス列3が生成される。偏波保持高非線形ファイバのファイバ長と標本化光パルス列2のピークパワーを適切に設定することにより、高品質な変換光パルス列が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アナログ信号を光ファイバ内で発生する四光波混合を用いて標本化する超高速光標本化方法及び光AD変換器の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アナログ−ディジタル(AD)変換及びディジタル−アナログ(DA)変換は、連続的に変化するアナログ信号と、信号処理、伝達、記録などに適したディジタル信号とを結ぶ技術として研究が行われており、近年の信号処置速度の向上に伴い、電子デバイスの動作制限を受けない超高速光AD変換、超高速光DA変換が求められている。
【0003】
AD変換には、標本化、量子化、符号化の3つの処理が必要である。電子デバイスの発展には目を見張るものがあり、電気的なAD変換では並列処理を導入して高速化の努力が図られている。しかしながら、電子回路の熱雑音、標本化のアパチャのジッタ、比較器の曖昧性、さらにはハイゼンベルグの不確定性原理などの物理的な限界から標本化周波数は高々数10GHzとされている。
【0004】
そこで、より高速の標本化を実現するものとして、光AD変換の開発が進められており、特に高速大容量化のニーズが高い通信分野において重要性が高まっている。光AD変換の概略構成の例を図7に示す。光AD変換では、連続的な光アナログ信号101を例えばサンプリング周期が超高速の標本化光パルス列102とともに光標本化部103に入力することで、光アナログ信号101を超高速に標本化することができ、標本化された信号としてディジタル信号104が出力される。
【0005】
光標本化を実現する方法として、2次の非線形光学結晶中での和周波発生を用いる方法、非線形ループミラー中での相互位相変調を用いる方法、及び光ファイバ中での四光波混合を用いる方法等が既に提案されている。また、半導体光増幅器内の四光波混合を用いた光標本化について、その実現性を確認した報告も行われている(非特許文献1)。
【0006】
光ファイバ中での四光波混合を用いる方法では、光ファイバ中の3次の非線形分極に起因する四光波混合により、周波数f1、f2、f3の3つの光から、それらとは異なる周波数f4の光が発生する。この場合、周波数f4は、周波数f1、f2、f3により決定され、f4+f1=f2+f3の関係が成立する。特に、f2=f3の場合を縮退四光波混合と呼ぶ。標本化光パルス列と光アナログ信号により新たに発生した光をフィルタにより切り出すことで、光標本化を実現できる。
【0007】
非特許文献2では、光ファイバ中の四光波混合を用いた160GHz光サンプリングの例が報告されている。光ファイバ中の四光波混合により、波長1540nmの連続光をサンプリング周期160GHzの標本化光パルス列でサンプリングを行った例を図8に示す。
【0008】
図8(a)は、連続光111とサンプリング周期160GHzの光パルス列112とを高非線形ファイバに入力したとき、該高非線形ファイバの内部で発生する四光波混合によって光パルス列113が生成されることを示している。
【0009】
また、図8(b)は、ポンプ光である光パルス列112と四光波混合によって生成された光パルス列113の強度を示している。同図より、四光波混合によって生成された光パルス列113は、ポンプ光の光パルス列112と時間領域で同程度のパルス幅(図中、矢印で示す)を有していることがわかる。
【0010】
光ファイバ中の四光波混合は、その応答速度が〜数fsと非常に高速であり、原理的にはテラヘルツ領域という非常に高速な光標本化が可能である。
【非特許文献1】西谷隆志他、「前光アナログーディジタル変換における半導体光増幅器内の四光波混合を用いた光標本化の検討」、電子情報通信学会総合大会B−10−114(2005)。
【非特許文献2】H. Tobioka et al., “Low-noise ultra-fast fiber parametric wavelength converter for 160 GHz sub-picojule picosecond pulse train using low dispersion slope highly-nonlinear fiber”ECOC2003, We3.7.1, Rimini, Italy
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光ファイバ中の四光波混合により超高速の標本化を実現するためには、標本化光パルス列のパルス幅を狭くする必要があるが、それとともにスペクトル幅が拡がってしまう。そのため、標本化の対象である光アナログ信号と標本化光パルス列との周波数間隔を大きくする必要があり、四光波混合の変換帯域を拡げる必要がある。
【0012】
これに対し、光ファイバ中の四光波混合は、主として以下にあげる3つの要因により変換帯域が制限されることが知られている。
(1)零分散波長の長手方向の揺らぎ
(2)光ファイバの複屈折に起因する偏光の不一致
(3)位相関係による帯域の制限
【0013】
上記3つの要因のうち、(1)と(2)の要因の影響が大きいことから、四光波混合の変換帯域を拡げるためには(1)と(2)に対する対策が必要となる。しかしながら、光ファイバを用いた従来の光標本化の方法では、これらの影響を十分に低減することは困難であり、光アナログ信号の高品質な標本化を実現することはできなかった。
【0014】
四光波混合の変換帯域がファイバ長に逆比例して変化することは従来から知られているが、変換帯域を拡大するためにファイバ長を短くしていくと、非線形効果が低下して四光波混合による波長変換の効率が低下してしまうという問題があった。
【0015】
また、四光波混合による波長変換効率を高めるために標本化光パルス列のピークパワーを高くしていくと、スペクトルに歪みが生じて四光波混合の品質が低下してしまうという問題があった。
【0016】
さらに、光ファイバの複屈折に起因する偏光の不一致により、変換帯域が比較的狭い場合であっても、変換効率に無視できない程度のリップル(ripple)が生じ、四光波混合の品質を低下させてしまうといった問題もあった。
【0017】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、偏波保持高非線形ファイバを用いて高品質な光標本化を実現する超高速光標本化方法及び光AD変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明の超高速光標本化方法の第1の態様は、所定波長の光アナログ信号を光ファイバを用いてサンプリングする超高速光標本化方法であって、前記光ファイバに偏波保持高非線形ファイバを用い、前記光アナログ信号とは異なる波長のパルス光を所定のサンプリング周期で発生させて標本化光パルス列を生成し、前記光アナログ信号と前記標本化光パルス列を前記偏波保持高非線形ファイバに入力して四光波混合を発生させ、前記偏波保持高非線形ファイバの出力光から前記四光波混合で発生された変換光パルス列のみを抽出することを特徴とする超高速光標本化方法である。
【0019】
この発明の超高速光標本化方法の第2の態様は、前記光アナログ信号と前記標本化光パルス列の波長間隔を△λ、前記標本化光パルス列が有するスペクトルパルスのパルス幅を△λsampとしたとき、前記波長間隔△λが次式を満たし、
△λ>△λsamp/2
前記四光波混合の変換帯域が前記△λの2倍より広くなるよう前記偏波保持高非線形ファイバの長さLを決定することを特徴とする超高速光標本化方法である。
【0020】
この発明の超高速光標本化方法の第3の態様は、前記標本化光パルス列のピークパワーをP0とし、前記偏波保持高非線形ファイバの非線形定数をγ、LNL=1/(γP0)としたとき、前記偏波保持高非線形ファイバの長さLが、
L>LNL
を満たすよう決定されることを特徴とする超高速光標本化方法である。
【0021】
この発明の超高速光標本化方法の第4の態様は、前記ピークパワーP0が、
γP0L<3π/2
を満たすよう決定されることを特徴とする超高速光標本化方法である。
【0022】
この発明の超高速光標本化方法の第5の態様は、前記光アナログ信号及び前記標本化光パルス列とは異なる波長を有する出力一定の連続光を前記偏波保持高非線形ファイバに入力することを特徴とする超高速光標本化方法である。
【0023】
この発明の光AD変換器の第1の態様は、所定波長の光アナログ信号を光ファイバを用いてサンプリングする光AD変換器であって、前記光アナログ信号とは異なる波長のパルス光を所定のサンプリング周期で発生させて標本化光パルス列を生成する標本化光パルス列生成部と、前記光アナログ信号を入力する光アナログ信号入力部と、前記標本化光パルス列生成部で生成された前記標本化光パルス列と前記アナログ信号入力部で入力された前記光アナログ信号とを合波部を介して入力する偏波保持高非線形ファイバと、前記偏波保持高非線形ファイバから出力される出力光を入力して所定の周波数帯域の変換光パルス列のみを抽出するバンドパスフィルタ(BPF)とを備えることを特徴とする光AD変換器である。
【0024】
この発明の光AD変換器の第2の態様は、前記光アナログ信号と前記標本化光パルス列の波長間隔を△λ、前記標本化光パルス列が有するスペクトルパルスのパルス幅を△λsampとしたとき、前記波長間隔△λが次式を満たし、
△λ>△λsamp/2
前記四光波混合の変換帯域が前記△λの2倍より広くなるよう前記偏波保持高非線形ファイバの長さLを決定することを特徴とする光AD変換器である。
【0025】
この発明の光AD変換器の第3の態様は、前記標本化光パルス列のピークパワーをP0とし、前記偏波保持高非線形ファイバの非線形定数をγ、LNL=1/(γP0)としたとき、前記長さLが、
L>LNL
を満たすよう決定されることを特徴とする光AD変換器である。
【0026】
この発明の光AD変換器の第4の態様は、前記ピークパワーP0が、
γP0L<3π/2
を満たすよう決定されることを特徴とする光AD変換器である。
【0027】
この発明の光AD変換器の第5の態様は、前記光アナログ信号及び前記標本化光パルス列とは異なる波長を有する出力一定の連続光を生成する連続光生成部をさらに備え、前記連続光を前記標本化光パルス列及び前記光アナログ信号とともに前記偏波保持高非線形ファイバに入力することを特徴とする光AD変換器である。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明によれば、偏波保持高非線形ファイバを用いて高品質な光標本化を実現する超高速光標本化方法及び光AD変換器を提供することができる。
【0029】
本発明の超高速光標本化方法によれば、偏波保持高非線形ファイバのファイバ長と標本化に用いるポンプ光のピークパワーに対する好ましい設定範囲を提供することができる。また、本発明の超高速光標本化方法に基づいて構成された光AD変換器では、スペクトル歪みが低減された高品質の変換光パルス列を生成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態における超高速光標本化方法及び光AD変換器の構成について詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0031】
はじめに、縮退四光波混合を用いた光標本化の例を図2を用いて説明する。波長λ(周波数f)の光アナログ信号1と波長λ(周波数f)の標本化光パルス列2を同時に光ファイバに入射すると、標本化光パルス列2を中心として光アナログ信号1とは対称の波長2λ−λ(周波数位置2f−f)に、光アナログ信号1の振幅に比例した強度の標本化された変換光パルス列3が出力される。図2において、符号4で示す△λは、△λ=λ−λと定義される。
【0032】
変換光パルス列3の強度は、光ファイバの分散値△βにも比例することが知られており、分散値△βは標本化光パルス列2の波長λが光ファイバの零分散波長に等しいときに最大となる。よって、標本化光パルス列2の波長λを光ファイバの零分散波長に一致させることにより、最も効率よく変換光パルス列3を発生させることができる。
【0033】
標本化光パルス列2の波長λを上記のように設定することにより、標本化された変換光パルス列3の強度が光アナログ信号1の振幅に比例するだけでなく、ポンプ光を上記の標本化光パルス列2とすることによって四光波混合の変換効率向上が期待され、SBS(Stimulated Brillouin Scattering)抑圧のための周波数ディザリングも不要となる。
【0034】
本発明の超高速光標本化方法について、図1を用いて以下に説明する。図1は、本発明の超高速光標本化方法の概略構成を示す図である。図1において、標本化対象の光アナログ信号1と標本化光パルス列2をそれぞれ入力用ファイバ4、5に入力し、カプラ-6で合波して偏波保持高非線形ファイバ7に入力する。これにより、偏波保持高非線形ファイバ7の内部では図2で説明したような四光波混合による変換光パルス列3が発生する。
【0035】
偏波保持高非線形ファイバ7からは、光アナログ信号1と標本化光パルス列2、及び変換光パルス列3を含む光が出力され、バンドパスフィルタ(BPF)8において前記出力光から変換光パルス列3のみを抽出することで、光アナログ信号1の標本化が実現できる。光ファイバとして、偏波保持高非線形ファイバ7を用いた理由は後述する。
【0036】
図1に示すような構成で光アナログ信号1を標本化するためには、BPF8で変換光パルス列3のみを抽出できるようにする必要がある。そのためには、光アナログ信号1と標本化光パルス列2とのスペクトル成分の重なりを避ける必要がある。つまり、光アナログ信号1と標本化光パルス列2との波長間隔Δλ(図2の符号4)を、それぞれのパルス幅に対して充分大きくする必要がある。
【0037】
光アナログ信号1と標本化光パルス列2との波長間隔Δλを大きくしても、四光波混合の効率がそれほど低下しないようにするためには、偏波保持高非線形ファイバ7の変換帯域を拡大する必要がある。ここで、変換帯域とは、四光波混合の効率(強度)が1/2に低下するときの波長間隔Δλである。
【0038】
通常、前記変換帯域は、光ファイバを短尺化することで拡大できることが知られており、光ファイバのファイバ長と前記変換帯域とは図3に示すような関係がある。図3は、横軸を光ファイバのファイバ長としたときの変換帯域の変化を示すグラフである。図3において、黒丸11は変換帯域の測定値を示しており、ファイバ長の逆数に比例して変化する曲線12とは良い一致を示すことが知られている。
【0039】
図3に示す通り、光ファイバを短尺化することによって、変換帯域を拡大することが可能である。しかしながら、光ファイバを端尺化して変換帯域を拡大しようとしても、通常は、該光ファイバの複屈折または偏波モード分散(PMD:Polarization Mode Distribution)によって変換帯域が制限されてしまう。このため、広帯域にわたる変換スペクトルの平坦性は必ずしも良くない。これは、標本化パルス列2が例えば100GHzを超えるような超高速になると、スペクトルが拡がるため特に問題となる。
【0040】
そこで、本発明の超高速光標本化方法では、四光波混合を発生させる光ファイバに偏波保持高非線形ファイバ7を用いている。偏波保持高非線形ファイバ7と従来用いられていた非偏波保持高非線形ファイバのそれぞれについて、前記波長間隔に対する変換効率の実測値の一例を図4に示す。図4(a)は、偏波保持高非線形ファイバの変換効率の実測値13を、また図4(b)は、非偏波保持高非線形ファイバの変換効率の実測値14をそれぞれ示す。
【0041】
図4(a)に示す偏波保持高非線形ファイバでは、変換効率が1/2に低下する時の前記波長間隔、すなわち変換帯域が15に示す範囲だけ確保されており、スペクトルの平坦性が確保されていることがわかる。これに対し図4(b)に示す非偏波保持高非線形ファイバでは、前記変換帯域が16に示す範囲に狭まっている。
【0042】
さらに、非偏波保持高非線形ファイバの場合には、高速化によりスペクトル幅が広くなると、偏光の不一致に起因して生じるリップルが大きくなり、16で示す変換帯域においてもその影響が無視できなくなる。
【0043】
そこで、本発明の超高速光標本化方法では、図4(a)に示す特性を有する偏波保持高非線形ファイバ7を用いることで、高品質な標本化を実現するようにしている。偏波保持高非線形ファイバ7について、図3と同様の変換帯域のファイバ長依存性を実験で測定した結果を図5に示す。
【0044】
図5に示す測定結果は、偏波保持高非線形ファイバ7においては、ファイバ長をある程度短くすると変換帯域の測定値17が飽和してしまうことを示している。すなわち、図3に示した非偏波保持高非線形ファイバでは、変換帯域がファイバ長Lを短くするにつれてその逆数に比例する曲線12に沿って拡大したのに対し、偏波保持高非線形ファイバでは、ファイバ長を短くしても変換帯域は飽和してそれ以上拡大されなくなる。
【0045】
図5では、偏波保持高非線形ファイバについて、ファイバ長に対する変換帯域の測定値17とともに、変換効率の測定値18も合わせて表示している。図5に示す通り、ファイバ長を短くすると変換効率の測定値18は指数関数的に急激に低下することがわかる。
【0046】
上記の通り、例えば100GHzを超えるような超高速の光標本化を実現するためには、四光波混合の変換帯域を拡大する必要があるが、変換帯域を拡大するためにファイバ長を短くしていくと変換効率が大幅に低下してしまう。また、変換効率を高めるために標本化光パルス列のピークパワーを高くしていくと、四光波混合による波長変換の品質が著しく低下してしまう。
【0047】
そこで、本発明の超高速光標本化方法では、偏波保持高非線形ファイバ7のファイバ長と標本化光パルス列2のピークパワーについて、それぞれの好適な設定範囲を設けている。
【0048】
以下では、偏波保持高非線形ファイバ7のファイバ長をL、非線形定数をγ、光アナログ信号1と標本化光パルス列2との波長間隔を△λとし、標本化光パルス列2のスペクトルパルスのパルス幅を△λsamp、ピークパワーをP0として、ファイバ長LとピークパワーP0の好適な設定範囲を説明する。
【0049】
まず、上記の通り、光アナログ信号1と標本化光パルス列2とのスペクトル成分の重なりを避けるために、前記波長間隔△λを少なくとも下記の(式1)を満たす範囲まで拡大する。
△λ>△λsamp/2 (式1)
そして、四光波混合の変換帯域が2△λより大きくなるようファイバ長Lを短くして該変換帯域を拡大する。
【0050】
一方、ファイバ長Lを短くし過ぎると十分な非線形効果が得られず変換効率が著しく低下してしまうため、所定の非線形効果が得られるよう、ファイバ長Lを下記の(式3)で定義される非線形長より長くしている。すなわち、ファイバ長Lが下記の(式2)で表わされる範囲を満たすように設定されている。
L>LNL (式2)
ここで、LNLが前述の非線形長を表しており、次式で定義される。
NL=1/(γP0) (式3)
【0051】
さらに、四光波混合を高品質に発生させるために、標本化光パルス列2のピークパワーP0を、次式を満たす範囲に設定している。
γP0L≦3π/2 (式4)
(式4)の左辺は非線形位相シフトを表しており、これを3π/2以下に保つことにより、四光波混合を高品質に発生させるようにしている。
【0052】
(式2)と(式4)は、ともにファイバ長LとピークパワーP0に依存していることから、(式2)と(式4)とが同時に満たされるようファイバ長LとピークパワーP0を調整している。
【0053】
上記説明の通り、四光波混合を発生させる光ファイバとして偏波保持高非線形ファイバ7を用い、(式1)を満たす△λの2倍より広い変換帯域が得られる範囲において、偏波保持高非線形ファイバ7のファイバ長と標本化パルス列2のピークパワーを、(式2)及び(式4)を同時に満たすように設定することで、光アナログ信号1を高品質に標本化することが可能となる。
【0054】
つぎに、本発明の超高速光標本化方法を適用した光AD変換器について説明する。図6は、本発明の実施の形態に係る光AD変換器を説明するためのブロック図である。
【0055】
光AD変換器21は、光アナログ信号入力部22、標本化ポンプ光発生部23、合波部24、偏波保持高非線形ファイバ7、及びバンドパスフィルタ(BPF)8から構成されている。外部の光アナログ信号1は、光アナログ信号入力部22に入力されて合波部24に送られる。また、標本化ポンプ光発生部23は、所定のサンプリング周期で標本化光パルス列2を発生させて合波部24に出力する。
【0056】
合波部24に入力された光アナログ信号1と標本化光パルス列2はともに偏波保持高非線形ファイバ7に入力され、偏波保持高非線形ファイバ7の内部で四光波混合を発生させる。偏波保持高非線形ファイバ7からは、光アナログ信号1と標本化光パルス列2、及び四光波混合で発生された変換光パルス列3を含む光が出力され、BPF8において変換光パルス列3のみが抽出される。
【0057】
偏波保持高非線形ファイバ7の長さLは、 (式1)を満たす前記波長間隔△λの2倍より広い変換帯域が得られる範囲で、標本化パルス列2のピークパワーP0との関係において(式2)及び(式4)を満たすよう決定される。これにより、光AD変換器21は、入力された光アナログ信号1を高品質な変換光パルス列3に変換することが可能となる。
【0058】
上記では、周波数fの光アナログ信号1と周波数fの標本化光パルス列2を同時に偏波保持高非線形ファイバ7に入射する実施例について説明したが、これに加えてf及びfとは異なる別の周波数fを有する出力一定の連続光を偏波保持高非線形ファイバ7に入力するようにしてもよい。
【0059】
すなわち、周波数fの光アナログ信号1と周波数fの標本化光パルス列2と周波数fの連続光とからなる3光波を同時に偏波保持高非線形ファイバ7に入射することにより、縮退のない四光波混合が発生して周波数fの変換光パルス列が生成される。
【0060】
縮退のない四光波混合により発生した変換光パルス列の周波数fは、次式によって決定される。
f4=f2+f3―f1 (式5)
よって、前記連続光の周波数fを適切に選択することにより、変換光パルス列の周波数fを調整することが可能となる。
【0061】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る超高速光標本化方法及び光AD変換器の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における超高速光標本化方法及び光AD変換器の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の システムの全体構成を説明する図である。
【図2】図2は、縮退四光波混合を用いた光標本化の例を説明する図である。
【図3】図3は、横軸を光ファイバのファイバ長としたときの非偏波保持高非線形ファイバの変換帯域の変化を示すグラフである。
【図4】図4は光アナログ信号1と標本化光パルス列2との波長間隔を△λに対する、四光波混合の変換効率の実測値の一例を示す図である。図4(a)は、偏波保持高非線形ファイバの変換効率の実測値を、また図4(b)は、非偏波保持高非線形ファイバの変換効率の実測値をそれぞれ示す。
【図5】図5は、横軸を光ファイバのファイバ長としたときの偏波保持高非線形ファイバの変換帯域及び変換効率の変化を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の光AD変換器を説明するためのブロック図である。
【図7】図7は、光AD変換の概略構成を説明する図である。
【図8】図8は、光ファイバ中の四光波混合により、波長1540nmの連続光をサンプリング周期160GHzの標本化光パルス列でサンプリングを行った例を示す。図8(a)は、各光のスペクトルを、図8(b)は、各光の強度を示す。
【符号の説明】
【0063】
1・・・光アナログ信号
2・・・標本化光パルス列
3・・・変換光パルス列
4、5・・・入力用ファイバ
6・・・カプラ-
7・・・偏波保持高非線形ファイバ
8・・・BPF
11・・・非偏波保持高非線形ファイバの変換帯域測定値
12・・・ファイバ長の逆数に比例する曲線
13・・・偏波保持高非線形ファイバの変換効率測定値
14・・・非偏波保持高非線形ファイバの変換効率測定値
15・・・偏波保持高非線形ファイバの変換帯域
16・・・非偏波保持高非線形ファイバの変換帯域
17・・・偏波保持高非線形ファイバの変換帯域測定値
18・・・偏波保持高非線形ファイバの変換効率
21・・・光AD変換器
22・・・光アナログ信号入力部
23・・・標本化ポンプ光発生部
24・・・合波部
101・・・光アナログ信号
102・・・標本化光パルス列
103・・・光標本化部
104・・・ディジタル信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定波長の光アナログ信号を光ファイバを用いてサンプリングする超高速光標本化方法であって、
前記光ファイバに偏波保持高非線形ファイバを用い、
前記光アナログ信号とは異なる波長のパルス光を所定のサンプリング周期で発生させて標本化光パルス列を生成し、
前記光アナログ信号と前記標本化光パルス列を前記偏波保持高非線形ファイバに入力して四光波混合を発生させ、
前記偏波保持高非線形ファイバの出力光から前記四光波混合で発生された変換光パルス列のみを抽出する
ことを特徴とする超高速光標本化方法。
【請求項2】
前記光アナログ信号と前記標本化光パルス列の波長間隔を△λ、前記標本化光パルス列が有するスペクトルパルスのパルス幅を△λsampとしたとき、前記波長間隔△λが次式を満たし、
△λ>△λsamp/2
前記四光波混合の変換帯域が前記△λの2倍より広くなるよう前記偏波保持高非線形ファイバの長さLを決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の超高速光標本化方法。
【請求項3】
前記標本化光パルス列のピークパワーをP0とし、前記偏波保持高非線形ファイバの非線形定数をγ、LNL=1/(γP0)としたとき、前記偏波保持高非線形ファイバの長さLは、
L>LNL
を満たすよう決定される
ことを特徴とする請求項2に記載の超高速光標本化方法。
【請求項4】
前記ピークパワーP0は、
γP0L<3π/2
を満たすよう決定される
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の超高速光標本化方法。
【請求項5】
前記光アナログ信号及び前記標本化光パルス列とは異なる波長を有する出力一定の連続光を前記偏波保持高非線形ファイバに入力する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超高速光標本化方法。
【請求項6】
所定波長の光アナログ信号を光ファイバを用いてサンプリングする光AD変換器であって、
前記光アナログ信号とは異なる波長のパルス光を所定のサンプリング周期で発生させて標本化光パルス列を生成する標本化光パルス列生成部と、
前記光アナログ信号を入力する光アナログ信号入力部と、
前記標本化光パルス列生成部で生成された前記標本化光パルス列と前記アナログ信号入力部で入力された前記光アナログ信号とを合波部を介して入力する偏波保持高非線形ファイバと、
前記偏波保持高非線形ファイバから出力される出力光を入力して所定の周波数帯域の変換光パルス列のみを抽出するバンドパスフィルタ(BPF)と
を備えることを特徴とする光AD変換器。
【請求項7】
前記光アナログ信号と前記標本化光パルス列の波長間隔を△λ、前記標本化光パルス列が有するスペクトルパルスのパルス幅を△λsampとしたとき、前記波長間隔△λが次式を満たし、
△λ>△λsamp/2
前記四光波混合の変換帯域が前記△λの2倍より広くなるよう前記偏波保持高非線形ファイバの長さLを決定する
ことを特徴とする請求項6に記載の光AD変換器。
【請求項8】
前記標本化光パルス列のピークパワーをP0とし、前記偏波保持高非線形ファイバの非線形定数をγ、LNL=1/(γP0)としたとき、前記長さLは、
L>LNL
を満たすよう決定される
ことを特徴とする請求項7に記載の光AD変換器。
【請求項9】
前記ピークパワーP0は、
γP0L<3π/2
を満たすよう決定される
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の光AD変換器。
【請求項10】
前記光アナログ信号及び前記標本化光パルス列とは異なる波長を有する出力一定の連続光を生成する連続光生成部をさらに備え、
前記連続光を前記標本化光パルス列及び前記光アナログ信号とともに前記偏波保持高非線形ファイバに入力する
ことを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の光AD変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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