説明

足部保護靴下

【課題】ガス状又は液状有機化学物質及び有害な微粉塵、細菌、ウィルス等から作業者の足部を有効に防護し得ると共に、軽量、装脱着性が良好で透湿性に優れ、足の蒸れ感を抑制できる足部保護靴下を提供することにある。
【解決手段】透湿度が60g/m・h以上850g/m・h以下の透湿膜層およびガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ1層以上有し、かつ靴下の内側から見て、ガス吸着層の外側には少なくとも1層以上の透湿膜層を配置し、透湿膜層とガス吸着層の積層体の厚さが2.0mm以下であり、かつ靴下の縫い目部分が有機化学物質に対して透過抑制性の樹脂でシール加工されてなる足部保護靴下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害化学物質の取り扱い作業者等が使用する足部保護靴下に関する。更に詳しくは、有機リン系化合物等の如く皮膚から吸収されて人体に悪影響を及ぼすガス状又は液状有機化学物質及び有害な微粉塵、細菌、ウィルス等から作業者の足部を有効に防護し得ると共に、軽量かつ装脱着性が良好で且つ透湿性により着用者の足の蒸れ感を抑制できる足部保護靴下に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害化学物質などから足部を保護する保護靴下としては、従来から提案されている。例えばゴム曳き布のように、有害化学物質が全く透過しない材料で構成されたものがあり防護性能に優れている。しかし、この場合、生地のごわつき感があり、装脱着性が劣り、また通気性および透湿度が全くないため、酷暑環境下や過酷な肉体労働環境下で作業すると靴下内部が汗で蒸れ不快となる問題が有る。
【0003】
一方、通気性があり活性炭等の吸着材料を含む布帛を使用した防護材料に関しても例示されている。それらは通気性により足から発散される汗や水蒸気を効果的に靴下外に放出し、蒸れ感を抑制することができるが、有害化学物質の濃度が高いときなどは、比較的短時間でガス吸着物質による吸着が飽和状態に近づき防護性が低下するという問題と、液状の有機化学物質、有害な微粉塵、細菌、ウィルス等のエアロゾルに対して完全な防護性を得ることが出来ない問題が有る(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、液体遮断性でありながら水蒸気透過性のあるフィルムを具備する、蒸れ感の少ない防護材料についても開示されているが、ガス状の有機化学物質についての防護性については明記されておらず、一般的な水蒸気透過性を有するフィルムについては、ガス状の有機化学物質の侵入を招き、着用者の足部を保護できない可能性が高い(例えば、特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開平8−218210号公報
【特許文献2】特開2005−29938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、ガス状有機化学物質だけでなく、液状有機化学物質、有害なエアロゾルや微粉塵等に対しても防護性を有し、軽量で装脱着性が良好で、かつ透湿性を有する(透湿膜の透湿性を低下させることなく積層された)蒸れ感の少ない足部保護靴下を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.透湿度が60g/m・h以上850g/m・h以下の透湿膜層およびガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ1層以上有し、かつ靴下の内側から見て、ガス吸着層の外側には少なくとも1層以上の透湿膜層を配置し、透湿膜層とガス吸着層の積層体の厚さが2.0mm以下であり、かつ靴下の縫い目部分が有機化学物質に対して透過抑制性の樹脂でシール加工されてなる足部保護靴下。
2.ガス吸着層が繊維状活性炭である上記1に記載の足部保護靴下。
3.メルトインデックスが200g/10min以下の接着剤により透湿膜層とガス吸着層が積層されている上記1または2に記載の足部保護靴下。
4.外層付加層および/または内層付加層を付与した上記1〜3のいずれかに記載の足部保護靴下。
5.外層付加層および/または内層付加層を付与した場合の厚さが3.0mm以下である上記1〜4のいずれかに記載の足部保護靴下。
6.外層付加層の掌部に天然皮革、人工皮革、織物、編物、フェルトから選ばれる滑り止め(保護層)が貼り付けられている上記1〜5のいずれかに記載の足部保護靴下。
【発明の効果】
【0008】
本発明による足部保護靴下は、透湿膜層とガス吸着層を有することを特徴とする防護材料からなり、ガス状、液状の有機化学物質及び有毒なエアロゾルや微粉塵等に対して防護性を有し、かつ高い透湿性により靴下の内側の蒸れを抑制することが可能で装脱着性、柔軟性、着用感に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の足部保護靴下を構成する透湿膜層の素材としては、公知のウレタン系樹脂で微多孔質膜を形成できる樹脂やシリコン、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエステル、共重合ポリエステル、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ポリビニルアルコール、セルロース、セルロース誘導体等の皮膜形成性能を有するポリマーで皮膜形成後に透湿性を有する材料であればよい。又、これらの材料を単独、混合、あるいは順次積層して皮膜を形成しても構わない。また、本樹脂層中には、他の添加剤、例えば酸化チタン、シリカ等が添加されていても良い。
【0010】
本発明で使用する透湿膜層の厚さとしては、3μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上70μm以下であることが好ましい。3μm以下であると、十分な強度が得られなく、ピンホール、クラック等の問題が発生する可能性が高い。一方、100μmを超えると、透湿性が低下するうえ、材料が厚くなり目的とする本靴下材料には適さなくなる。
【0011】
透湿膜層の目付としては、200g/m以下、好ましくは150g/m以下であることが好ましい。200g/m以上では、本発明の目的とする軽量で装脱着性に優れた靴下材料となり得ない。
【0012】
透湿膜層の透湿性としては、60g/m・h以上850g/m・h以下、好ましくは100g/m・h以上750g/m・以下であることが好ましい。60g/m・h以下では着用者から発する汗・蒸気を有効に外部へ放出できず、850g/m・hを超えると耐久性に問題があるためである。
【0013】
透湿膜は皮膜を形成し単独で用いても構わないが、皮膜の補強あるいは保護のために透湿性のある基材と複合することが好ましい。基材の透湿性については、透湿膜の透湿性能を損なわないために200g/m・h以上、好ましくは300g/m・h以上必要である。強度を維持しながら軽量で柔軟な靴下材料とするには、基材の厚さは0.05mm以上0.50mm以下が好ましい。基材にはシート状繊維集合体あるいは透湿性のある微多孔あるいは無孔質のフィルム又は膜を用いることが出来る。
シート状繊維集合体としては綿、麻、毛、絹等の天然繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、アクリル系、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリクラール、ポリアリレート、ポリベンザゾール、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド等の合成繊維からなる織物、編物、不織布等が挙げられる。これら繊維は単独あるいは混紡、交織、交編等により組み合わせてシート状繊維集合体としても良い。
透湿性のある微多孔あるいは無孔質のフィルム又は膜としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、共重合ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、アクリレート等のシート状物が挙げられる。
【0014】
上記記載の透湿膜を形成するポリマーはキャスト法、押出法、射出成型法等により一旦ポリマー単独のフィルムとして製膜する方法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピン法等による微細繊維不織布を膜とする方法、該ポリマーの溶液あるいは低重合物を基材にコーティング、ディッピング等により塗工後に乾燥あるいは重合固化する方法などが挙げられる。
【0015】
透湿膜を基材と複合させて足部保護靴下とする場合、透湿性の低下を防ぎ且つ材料の柔軟性を維持したうえでラミネート法により積層できる。透湿膜と基材の間をポリウレタン系あるいはアクリル酸エステル系エマルジョンで接着する場合や透湿膜あるいは基材の一部を溶着あるいは融着する場合は全面接着もしくはドット状に部分接着するいずれでも構わない。又、低融点の共重合ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンから成る低目付の不織布、網状体あるいは粉体を介して熱接着することも可能である。
【0016】
本発明では、上記の基材に後加工、例えば撥水撥油加工、難燃加工等を施しておいてもよい。撥水剤はフッ素系、ポリシロキサン系、パラフィン系等、特に限定されるものではない。
【0017】
ここでいうガス状有機化学物質とは炭素元素を1つ以上持つガス状化合物のことである。50以上の比較的大きな分子量をもち、活性炭等のガス吸着性物質が吸着可能なガス状化学物質である。一例を挙げると、農薬、殺虫剤、除草剤に使用される有機リン系化合物や塗装作業などに使用されるトルエン、塩化メチレン、クロロホルムなどの一般的な有機溶剤があげられる。
【0018】
本発明に使用するガス吸着層としては、活性炭やカーボンブラックなどの炭素系吸着材、あるいは、シリカゲル、ゼオライト系吸着材、炭化ケイ素、活性アルミナなどの無機系吸着材から対象とする被吸着物質に応じ適宜選定することができる。その中でも広範囲なガスに対応できる活性炭は好ましく、特に吸着速度や吸着容量が大きく少量の使用で効果的な透過抑制性が得られることから繊維状活性炭がより好ましい。
【0019】
活性炭のBET比表面積としては700m/g以上3000m/g以下が好ましく、少量の使用で十分な透過抑制性を得るためには、1000m/g以上2500m/g以下がさらに好ましい。BET比表面積が700m/g未満であると十分な防護性を得るために多くの活性炭が必要となり材料が重くなる。一方、3000m/gより大きくなると吸着したガス状有機化学物質を脱離する問題が起こる。
【0020】
活性炭の目付としては20g/m以上200g/m以下が好ましく、さらに好ましくは50g/m以上150g/m以下であることが好ましい。20g/m未満であると、吸着できる容量が小さくなり使用時間が制限される。一方200g/mより大きくなると材料が重く、厚くなり装脱着性、柔軟性、着用感が悪くなる問題が有る。
【0021】
少量の使用で効果的な透過抑制性を得るために繊維状の活性炭を使用する方法は有効な手段であるが、その際、使用する繊維状活性炭の原料としては、綿、麻といった天然セルロース繊維の他、レーヨン、ポリノジック、溶剤紡糸法によるといった再生セルロース繊維、さらにはポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド繊維、リグニン繊維、フェノール繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維が挙げられるが、得られる繊維状活性炭の物性(強度等)や吸着性能から再生セルロース繊維、フェノール系繊維、アクリル系繊維が好ましい。これらの原料繊維の短繊維あるいは長繊維を用いて製織、製編、不織布化した布帛を必要に応じて適当な耐炎化剤を含有させた後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで500℃以上1000℃以下の温度で炭化賦活する公知の方法によって繊維状活性炭を製造することができる。
【0022】
繊維状活性炭をシート化する方法としては、シート基材にガス吸着性物質をバインダーにより接着する方法、あるいは吸着剤を適当なパルプおよびバインダーを含めスラリー状とし、湿式抄紙機により抄造する方法、あるいは活性炭素繊維の原料繊維をあらかじめ製織、製編、不織布化し、必要に応じて耐炎化処理したのち炭化・賦活する公知の方法により吸着シートを得ることができる。
【0023】
したがって、繊維状活性炭シートの形態としては、織物状、編物状、不織布状、フェルト状、紙状、フィルム状などあげられるが、靴下の装脱着性、柔軟性、積層の容易性から織物状、編物状であることが好ましい。
【0024】
透湿膜層とガス吸着層の積層手段としては、次の2つが上げられる。第1の方法としては、透湿膜層にガス吸着層を接着剤により接着する。第2の方法は、透湿膜層とガス吸着層のいずれかをあらかじめ作製した後、他方をコーティングまたはディッピングする方法などがあげられる。
【0025】
使用する接着剤としては、ウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系、エポキシ系、塩ビ系、オレフィン系、アミド系、アクリル系、セルロース系など挙げられるが、接着後の柔軟性を考慮するとウレタン系、ビニルアルコール系、エステル系、アミド系が好ましい。
【0026】
また使用する接着剤のメルトインデックスとしては、200g/10min以下、好ましくは150g/10min以下であることが好ましい。200g/10min以下とすることにより接着の際、ガス吸着性物質の表面を接着剤が被覆する面積が小さくなり積層によるガス吸着性能の低下を抑制することができ、また、透湿膜の透湿性の低下も抑制可能となる。
【0027】
本願発明で用いる接着剤は、不織布状であることが好ましい。粒子であれば均一塗布が困難であるため、少量で接着すると、吸着剤を固着できず、また多量に使用すると硬くなり、更には吸着性能低下を招来する。またフィルムであれば通気性が低下するからである。
【0028】
内層付加層とガス吸着層をあらかじめキルティングにより積層することは、積層によるガス吸着層の性能低下を抑え、より柔軟な積層材料を得るのに有効な手段である。前記2層をあらかじめキルティングにより積層した後、透湿膜層を接着剤により積層することにより靴下用の防護材料を得ることができる。
【0029】
透湿膜層およびガス吸着層の層数は、それぞれ少なくとも1層は必要であるが、柔軟性を高める目的や対象ガスが複数にわたるときなどは、透湿膜層とガス吸着層をそれぞれ必要数選定し重ね合わせて使用することは有効な手段である。
【0030】
透湿膜層とガス吸着層の積層順序としては、ガス吸着層の寿命を考えると、靴下の内側から見てガス吸着層の外側に少なくとも1層の透湿膜層があることが好ましい。また、透湿膜層を複数用いる場合は、ガス吸着層を保護するために、透湿膜層によりガス吸着層を挟み込む構造としてもよい。
【0031】
透湿膜層とガス吸着層からなる積層体の質量としては、300g/m以下が好ましく、さらに好ましくは250g/m以下が好ましい。300g/mを超えると靴下の装脱着性や柔軟性、着用感が低下する原因となるためである。
【0032】
また、上記積層体の厚さとしては、2.0mm以下、好ましくは1.5mm以下であることが好ましい。2.0mmを超えると、装脱着性が低下し本目的とする靴下材料には適さない。
【0033】
また、外部から侵入する液状有機化学物質に対しては、耐液浸透性のある不織布および吸油性の紙等を透湿膜層とガス吸着層の間に挟み込むことは有効な手段となる。
使用する不織布の材質としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等、特に限定されるものではなく、また、これらの素材を抄紙し、紙状にして透湿膜層とガス吸着層の間に挟み使用しても良い。
【0034】
図1に示すように透湿膜層とガス吸着層からなる積層材料の最も外側に外層付加層を設けることが好ましい。外層付加層の目的としては、外部から与えられる機械的な力から透湿膜層およびガス吸着層を保護すること、機械的強度を補うことであり、撥水性と撥油性が付与されている織物、編物あるいは不織布などが好ましい。外層付加層の素材としては、織物、編物及び不織布形態をとれるものは、限定無く使用可能であり、綿、ナイロン、芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリベンズアゾール系繊維、フッ素系繊維、ガラス繊維等が使用可能である。
【0035】
外層付加層としては、JIS L−1092 5.2に記載のスプレー試験を実施した場合の撥水度が4以上、AATCC Test Method 118による撥油度が4級以上である織物、編物、または不織布などが好適に用いることができるが、柔軟性を考慮したものの使用が推奨される。
透湿膜層とガス吸着層からなる積層材料と外層付加層とは、あらかじめ接着剤により接着されている形態でもよいし、柔軟性を考慮し、接着せずに重ね合わせた状態で縫製加工し、靴下を作製してもよい。更に必要に応じて外層付加層へ別の織物、編物、天然皮革、人工皮革、フェルトなどを積層し、保護層(滑り止め)等を付与しても良い。
【0036】
図1に示すように透湿膜層とガス吸着層からなる積層材料の最も内側に内層付加層を設けることが好ましい。内層付加層としては、織物、編物、不織布、開孔フィルム等の材料があげられるが、透湿性、柔軟性の面から粗い密度で製織あるいは製編された織物あるいは編物が好ましい。
内層付加層の目的としては、外部から与えられる機械的な力からガス吸着層及び透湿膜層を保護する役割と、着用者の足から発散される汗によるべたつき感を抑制する役割である。
【0037】
外層付加層および/または内層付加層を付与した積層体の目付としては、600g/m以下が好ましく、さらに好ましくは500g/m以下である。600g/mを超えると足部への負担が大きく、また、装脱着性が低下する原因となるためである。
【0038】
また、本発明の足部保護靴下素材の厚さとしては、3.0mm以下、好ましくは2.5mm以下であることが好ましい。3.0mmを超えると、装脱着性が低下するうえ、堅くなり着用感が悪くなるため本目的とする靴下材料には適さないためである。
【0039】
上記の材料で靴下を作製する方法は、例えば、透湿膜、ガス吸着層及び内層付加層の積層体を足型に裁断し、2枚の外周部を熱融着法や縫糸で縫製後、防護性のあるシールテープにより縫製部にシール加工を施す方法によりあらかじめ内側の靴下を作製した後、外層付加層についても、同様に、足型に裁断した2枚を縫製・シール加工し外側の靴下とし、重ねる合わせ靴下としても良い。また、外層付加層、透湿膜とガス吸着層の積層体及び内層付加層をそれぞれ単独で靴下にし、ついでこれらを接着させることなく重ね合わせて3層構造の靴下としても良い。また、それぞれの素材を全て接着させた後、靴下とする方法でも良い。また、外層付加層および/または内層付加層を具備していない、透湿膜とガス吸着層からなる靴下でも構わない。
【0040】
足部保護靴下は、縫い目からのガス状・液状化学物質の浸透や有害な微粉塵、細菌、ウィルスなどのエアロゾルの進入を防止することが必要であり、かつ透湿性や柔軟性を阻害しないように配慮が必要である。この目的のために、縫製はフラシ縫いで縫製することが好ましい。本発明では、さらに、縫い目からの浸透を防止するために、縫い目をシール加工する。
【0041】
シール加工では、特にガス状、液状の化学物質に対して透過抑制性がある樹脂で縫い目部分を被覆して目止めする。加工に使用する材料としては、透過抑制性がある樹脂の溶液、透過抑制性でかつ接着性の樹脂フィルム、透過抑制性樹脂フィルムを用いたシールテープなどを使用することができる。シールテープとしては、ガス透過抑制層と接着層を含む2層以上からなるものが使用でき、接着層の樹脂としては、ホットメルト樹脂、低温(150℃以下)硬化型の接着剤や湿気硬化型の接着剤を用いることができる。加工性と加工後のシールテープの耐剥離性を考慮すると、硬化型の接着剤を用いることがより好ましい。また、樹脂の種類は縫い目のシールができるものであれば特に限定されないが、柔軟性、接着性、透湿性の点でポリウレタン系樹脂が好ましく、ポリウレタン系樹脂の中では硬化型のものが好ましい。
シール加工の方法は、縫い目部分に接着剤を塗布後に透過抑制性がある樹脂フィルムをラミネートする方法なども採用できるが、上記樹脂で予め作成したフィルムやテープをシール材として使用する方法が、作業性の点で好ましい。
【0042】
上記で述べた方法により作製した足部保護靴下は、靴下を装着した状態での靴下の外側から内側へのガス透過性が1%未満であることが好ましく、0.1%未満であることがより好ましい。1%以上になると人体に悪影響を及ぼす可能性があるからである。
また、該足部保護靴下は、靴下を装着した状態での靴下の外側から内側への粒子捕集効率が90%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。90%未満になるとウィルスや細菌などが人体に悪影響を及ぼす可能性があるためである。
【実施例】
【0043】
次に本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、本発明で得られた各種評価、試験値は以下に記す方法によるものである。
【0044】
[ガス透過性試験法]:
試験装置:図2に示したガス透過性試験装置を使用し、以下の(1)〜(3)の手順で実施した。
(1)1m(幅1×奥行き1×高さ1(m))チャンバー内に足部保護靴下を装着した足型マネキンを設置し、靴下内・外のガス透過濃度を計測できるようにサンプリングチューブを接続する(尚、足型マネキンと靴下の裾部分に隙間ができないようにビニールテープで完全に密封する。)
(2)ガス洗浄瓶(アズワン社製)中にトルエン特級試薬(ナカライテスク社)を入れ、乾燥窒素でバブリングしたトルエン含有窒素を、チャンバー内に一定時間送気した。このときのトルエンガス初期濃度は約1000ppmとなるように調整する。
(3)足部保護靴下の内側と外側のガスを一定時間毎にシリンジでサンプリングし、ガスクロマトグラフィ(日本ヒューレットパッカード社 HP6890)で測定し、ガス透過性を下記式で算出し、24hrの平均値を求める。
ガス透過性(%)=(靴下内側ガス濃度/靴下外側ガス濃度)×100
【0045】
[粒子捕集効率測定法]:
試験装置:図3に示した粒子捕集効率測定装置を使用し、以下の(1)〜(4)の手順で測定した。
(1)1m(幅1×奥行き1×高さ1(m))チャンバー内に足部保護靴下を装着した足型マネキンを設置し、靴下内・外の粒子個数を計測できるようにサンプリングチューブを粒子計測器(株式会社RION製KC−14)に接続する(尚、足型マネキンと靴下の裾部分に隙間ができないようにビニールテープで完全に密封する。)。
(2)BOX内の大気塵をHEPAフィルターで完全に除去する。
(3)ラスキン・ノズル式粒子発生装置及びディフュージョンドライヤー(TSI社製モデル306200)を用いてNaCl粒子をチャンバー内に発生させた。このときのNaCl粒子は平均粒子径0.1μmで、粒子濃度は約50000(個/10−2CF)とな
るように調整する。
(4)足部保護靴下の内側と外側の0.3μm以上のNaCl粒子個数を上記測定装置で計測し、粒子捕集効率を下記式で算出する。
粒子捕集効率(%)=(1−靴下内側粒子個数/靴下外側粒子個数)×100
【0046】
[透湿性]:
JIS L−1099 塩化カルシウム法による。
【0047】
[比表面積]:
窒素の吸着等温線を求め、これを基にしてBET法により算出した。
【0048】
[質量(目付)]
JIS L−1018 8.4及びJIS L−1096 8.4による。
【0049】
[厚さ]:
JIS L−1018 8.5及びJIS L−1096 8.5による。
【0050】
[メルトインデックス]:
JIS K−7210による。
【0051】
[装脱着性]:
靴下を装脱着した際の履き易さ、脱ぎ易さ、装着感をアンケート調査から判定を行った。
【0052】
[蒸れ感]:
靴下を1h装着した後の蒸れ感をアンケート調査から判定を行った。
【0053】
[製造例]
(ガス吸着層製造例)
ガス吸着層として繊維状活性炭編物を以下の方法で作製した。単糸2.2デシテックス20番手のノボラック系フェノール樹脂繊維紡績糸からなる目付200g/mのフライス編物を400℃の不活性雰囲気中で30分間加熱し、次に870℃まで30分間、不活性雰囲気中で加熱し炭化を進行させ、次に水蒸気を12容量%含有する雰囲気中、870℃の温度で2時間賦活した。得られた編物状の繊維状活性炭の目付は120g/m、比表面積1400m/g、厚さ1.15mmであった。
【0054】
(外層付加層製造例)
外層付加層を以下の方法で作製した。綿糸40番手を使った平織物に、フッ素系撥水・撥油加工を施し、樹脂固形分で0.54質量%付着させた。得られた織物は、厚さ0.30mm、目付120g/m、剛軟度0.56gf・cmで、通気性は水位計1.27cmの圧力差で80cm/cm・s、撥水度は5、撥油度は6級であった。
【0055】
(内層付加層製造例)
内層付加層を以下の方法で作製した。28ゲージ2枚筬トリコット機により、フロント筬にポリエステルフィラメント(82.5dtex、36フィラメント)を、またバック筬にポリエステルフィラメント(22dtex、モノフィラメント)を各々セットして、フロント1−2/1−0、バック1−0/2−3の組織で経編地を編成後、定法により精練し、更に分散染料により染色した。このようにして得られた編地は、厚さ0.32mm、目付60g/m、通気性は水位計1.27cmの圧力差で700cm/cm・s、撥水度5、撥油度6級であった。
【0056】
[実施例1]
透湿膜層としてポリウレタンをナイロン織物へコーティングした防水透湿布帛である東洋紡績株式会社製のアクアベント、厚み0.22mm、目付108g/m、透湿度418g/m・hのものを使用した。この透湿膜層と前記ガス吸着層及び前記内層付加層を、目付20g/m、メルトインデックス60g/10minの通気性不織布状ホットメ
ルト接着剤(呉羽テック株式会社製 ダイナック)で接着し積層体とした。その積層体を靴下の形状に裁断しフラシ縫いで縫製した後、その縫い目部分を下記のシール加工方法で目止めし内靴下とした。
シール加工方法:
シールテープ用の選択透過膜としてクラレ株式会社製のエバールEF−XLを使用した。エバールEF−XLの厚さは12μm、質量は15g/mであった。
前記選択透過膜上上に固形分30質量%の硬化型透湿性ポリウレタン樹脂(三洋化成工業株式会社製 サンプレンLQ120)を流延し、コーターにより膜厚を調整しながら塗工し、100℃で乾燥させた。該シールテープを幅20mmに裁断し、靴下の縫い目上に該シールテープを接着面が下になるように載せて圧着後、60℃、RH95%の条件下で24hr湿気硬化させた。
また、前記外層付加層を靴下の形状に裁断し、フラシ縫いで縫製し、さらに前記と同様にシール加工を施して外靴下とした。これらの内靴下と外靴下を重ね合わせることにより足部保護靴下とした。なお、足部保護靴下の材料は、目付475g/m、厚さ2.05mm、透湿度370g/m・hであった。この足部保護靴下を用いた時のガス透過性試験結果、粒子捕集効率測定結果、透湿性、蒸れ感の結果をそれぞれ表1に示す。
【0057】
[実施例2]
目付32g/m、厚み30μm、透湿度が146g/m・hのPVA系フィルム(クラレ株式会社製ポバール)を透湿膜層として使用した以外は、実施例1と同様の方法で靴下を作製した。なお、足部保護靴下の材料は、目付487g/m、厚さ1.86mm、透湿度127g/m・hであった。この足部保護靴下を用いた時のガス透過性試験結果、粒子捕集効率測定結果、透湿性、装脱着性、蒸れ感の結果をそれぞれ表1に示す。
【0058】
[比較例1]
目付59g/m、厚み38μm、透湿度が0.46g/m・hのポリフッ化ビニルフィルムを透湿膜層として使用した以外は、実施例1と同様の方法で靴下を作製した。なお、足部保護靴下の材料は、目付325g/m、厚さ1.87mm、透湿度0.3g/m・hであった。この足部保護靴下を用いた時のガス透過性試験結果、粒子捕集効率測定結果、透湿性、装脱着性、蒸れ感の結果をそれぞれ表1に示す。
【0059】
[比較例2]
実施例1において、ガス吸着層を除いた積層体で足部保護靴下を作製した。なお、足部保護靴下の材料は、目付332g/m、厚さ0.95mm、透湿度403g/m・hであった。この足部保護靴下を用いた時のガス透過性試験結果、粒子捕集効率測定結果、透湿性、装脱着性、蒸れ感の結果をそれぞれ表1に示す。
【0060】
[比較例3]
実施例1において、透湿膜層を除いた積層体で足部保護靴下を作製した。なお、足部保護靴下の材料は、目付365/m、厚さ1.88mm、透湿度455g/m・hであった。この足部保護靴下を用いた時のガス透過性試験結果、粒子捕集効率測定結果、透湿性、装脱着性、蒸れ感の結果をそれぞれ表1に示す。
【0061】
[比較例4]
実施例1において、透湿膜層として目付32g/m、厚み30μm、透湿度が146g/m・hのPVA系フィルム(クラレ株式会社製ポバール)を目付80g/m、厚さ1.15mmのポリエステル製のスパンレース不織布(東洋紡績株式会社製)を通気性不織布状ホットメルト接着剤で接着したものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で靴下を作製した。なお、足部保護靴下の材料は、目付503g/m、厚さ3.11mm、透湿度115g/m・hであった。この足部保護靴下を用いた時のガス透過性試験結果、粒子捕集効率測定結果、透湿性、装脱着性、蒸れ感の結果をそれぞれ表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1〜2は、ガス透過抑制性、粒子捕集効率、透湿性、装脱着性に優れ、蒸れ感が少ない好適な足部保護靴下であるのに対し、比較例1は透湿性が低いため、蒸れ感が生じる結果であり、比較例2は、ガス透過抑制性が劣る結果で、比較例3は粒子捕集効率が低く、比較例4は着用感が悪く、本願発明の目的に対しては充分と言えるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の足部保護靴下は、ガス状、液状の有機化学物質から作業者を防護でき、且つ作業中にピンホールを生じる危険性も大幅に減少させ、透湿性により汗などによるべたつきも少なく、装脱着性が良好な足部保護靴下であり、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の足部保護靴下を構成する積層体の一例を示す模式断面図である。
【図2】ガス透過性試験法を示す概略図である。
【図3】粒子捕集効率測定法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1:外層付加層
2:透湿膜層
3:ガス吸着層
4:内層付加層
5:チャンバー
6:足部保護靴下
7:足型マネキン
8:サンプリングチューブ(靴下内側)
9:サンプリングチューブ(靴下外側)
10:ガス洗浄瓶
11:チャンバー
12:足部保護靴下
13:足型マネキン
14:サンプリングチューブ(靴下内側)
15:サンプリングチューブ(靴下外側)
16:粒子計測器
17:粒子計測器
18:ラスキン・ノズル式粒子発生装置
19:ディフュージョンドライヤー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透湿度が60g/m・h以上850g/m・h以下の透湿膜層およびガス吸着性物質を含む層(ガス吸着層)をそれぞれ1層以上有し、かつ靴下の内側から見て、ガス吸着層の外側には少なくとも1層以上の透湿膜層を配置し、透湿膜層とガス吸着層の積層体の厚さが2.0mm以下であり、かつ靴下の縫い目部分が有機化学物質に対して透過抑制性の樹脂でシール加工されてなる足部保護靴下。
【請求項2】
ガス吸着層が繊維状活性炭である請求項1記載の足部保護靴下。
【請求項3】
メルトインデックスが200g/10min以下の接着剤により透湿膜層とガス吸着層が積層されている請求項1または2に記載の足部保護靴下。
【請求項4】
外層付加層および/または内層付加層を付与した請求項1〜3のいずれかに記載の足部保護靴下。
【請求項5】
外層付加層および/または内層付加層を付与した場合の厚さが3.0mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の足部保護靴下。
【請求項6】
外層付加層の掌部に天然皮革、人工皮革、織物、編物、フェルトから選ばれる滑り止め(保護層)が貼り付けられている請求項1〜5いずれかに記載の足部保護靴下。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−212162(P2008−212162A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45369(P2007−45369)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】