説明

路面の難処理物流出防止用貯留枡

【課題】 自動車用道路の道路脇に設置の難処理物流出防止用貯留枡から分離処理後の排水を流出するサイフォンの始動性を良好としてコスト安く、サイフォン管を通す開口の小さな間詰めの容易なサイフォン管を提供する。
【解決手段】 流入槽2、分離槽3、4、5、流出槽6からなる難処理物流出防止用貯留枡1において、流出槽6から排水溝に排水する排出管をサイフォン管8に形成し、サイフォン管8の頂部を水平管10とすることで、従来のベントタイプのサイフォン管8のコストを下げ、さらに流出槽からのサイフォン管8の流出側下端にエルボ管20を介して水平管21からなる流出管を設けて、ベントタイプのサイフォンと同等以上のサイフォンの始動性を確保したサイフォン管8である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高速道路やその他の自動車用道路などの路面上にタンクローリーなどの事故により流出した重油や液状化学物質などの難処理物が道路から流出し、河川などへ流出しないようにするために道路脇などの排水系統内に設置する路面排水処理用の難処理物流出防止用貯留枡に関する。
【背景技術】
【0002】
道路上でのタンクローリー事故などによる環境汚染対策の一つとして、路面上に流出した液状化学物質などが事故処理車の到着時間までに河川などへ流出しないように、これらの流出物を道路の排水系統内に一時貯留するための難処理物流出防止用貯留枡が設けられている。このような難処理物流出防止用貯留枡はその機能を果たすためには通常時は空の状態にしておき、降雨時にファースト・フラッシュとして流入する雨水と共に例えば1000〜5000m2の一定面積の路面から難処理物を流入させ、これらを処理若しくは貯留した雨水を排出するためにサイフォン式の排水管を貯留枡に配設しているのが一般的である。ところで、このようなサイフォン式の排水管を配設している貯留枡では、ファースト・フラシュ時だけでなく、貯留枡が満水で、サイフォンが稼働している状態のときでも、難処理物を流入して処理することができる。
【0003】
この場合、難処理物流出防止用貯留枡内で、環境汚染する重油や液状化学物質などの難処理物を路面流出水から十分に分離する時間保持するかあるいは貯留して、環境汚染物質を除く路面流出水又は貯留した路面流出水を貯留枡から排出させる必要がある。このように難処理物流出防止用貯留枡内に取り入れた環境汚染物質を含有する路面流出水は分離または貯留のために少なくとも難処理物流出防止用貯留枡に一時貯留される。一時貯留された路面流出水は60分以上かけて難処理物流出防止用から排水される。この60分以上かける排水時間は道路上で事故が発生した時に、事故処理班が事故発生から駆けつけるまでに要する時間が通常60分以内であるということから、このような時間とされている。
【0004】
ところで、従来、弱い雨で流量の少ない場合においても難処理物流出防止用貯留枡のサイフォン式の排水管(以下、「サイフォン管」という。)のサイフォンの始動性を良くするためにサイフォン管の頂部の水平部分を極力短くしてベント状にしている。そこで、通常このサイフォン管の頂部には市販の曲げ加工されたベント管が設置されている。しかし、ベント管は市販のものは通常塩ビ管からなり価格が高い。そこで形状はベント管と同様であるが、材質は鋼製からなる安価な特注品が使用されている。さらにベント管は曲状であるのでベント管を貫通させる槽の壁に開口する孔が管径に比して大きくなり、また間詰めが難しい。さらにサイフォン管の破損時の取替えが上記のように高価なベント管の価格のため困難であるなど種々の問題がある。
【0005】
従来の路面排水処理槽には、出願人によるものがある(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この出願のものは排水管のサイフォン自体についてのものでない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−207434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高速道路やその他の自動車用道路の道路脇に設置の路面排水処理用の難処理物流出防止用貯留枡において路面流出水から難処理物分離後の排水又は貯留後の路面流出水を排出するためのサイフォン管の構造をサイフォンの始動性を良好としながら従来のベント管に比してコストが安く、サイフォン管を通す槽の開口が小さく、間詰めの容易な構造のサイフォン管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、流入槽、分離槽、流出槽からなる難処理物流出防止用貯留枡において、流出槽から排水溝に排水する排出管をサイフォン管に形成し、このサイフォン管の頂部を水平管とエルボ管で構成することにより、従来のベントタイプのサイフォン管の上記のコストの問題を解決するものである。さらに流出槽からのサイフォン管の流出側下端にエルボ管を介して水平の流出管を設けることにより、従来のベントタイプのサイフォンと同等以上のサイフォンの始動性を確保した排出管の構造である。
【0009】
すなわち、上記の課題を解決するための本発明の手段は、流入槽、複数の分離槽及び流出槽に仕切壁で区分した貯留枡からなり、流入槽と分離槽の間及び分離槽と流出槽の間の各槽間の仕切壁に各槽底を連通する連通路と各分離槽の間の各中段下部を連通する連通路をそれぞれ配設し、流出槽の側壁の上段にオーバーフロー用切欠きを配設し、さらに各分離槽間の槽壁の該オーバーフロー用切欠き位置より下方の上段中部に連通路を開口する路面の難処理物流出防止用貯留枡において、流出槽から流出貯留枡外に排水する排出管をサイフォン管から形成し、このサイフォン管の一端の鉛直管を流出槽に配設し、サイフォン管の頂部をエルボ管により水平管として流出槽壁上部に挿通して流出槽壁から貯留枡外に出し、貯留枡外に出た水平管をエルボ管により下降する鉛直管とし、該鉛直管の下端にさらにエルボ管により水平管を配設して排出管としたことを特徴とするサイフォンの始動性を確保したサイフォン管を有する路面の難処理物流出防止用貯留枡である。
【0010】
さらに、上記の手段において、難処理物流出防止用貯留枡は、処理する路面の1000〜5000m2当たりの貯留容積を7〜8m3、かつ、サイフォン管の管径を20〜30mmとしたことを特徴とする。
【0011】
さらに、上記の手段において、貯留枡外で下降する鉛直管の下端にさらにエルボ管により配設した水平管は、その水平管の長さをサイフォン始動範囲である350〜450mmとすることを特徴とする。
【0012】
上記の手段の作用について、さらに説明する。本発明は上記の手段とすることで、高価な価格のベント管に替えて市販の量産タイプのエルボ管と水平管とすることで安価で、かつ入手の容易な汎用性の市販の部材でサイフォン管を構成することができる。また流出槽の槽壁に貫通させるサイフォン管が水平管であるので、サイフォン管を貫通させる小孔を水平に開口することで小さな円形孔とすることができる。さらに従来のベントタイプのサイフォン管に比して、空気の粒が小さくなってサイフォンの始動が早くなる効果を有する。また、さらにこの開口の孔の周囲とサイフォン管との間のシーリングが、槽壁の孔に対してサイフォン管の部分が水平でかつ小径となるので、容易なものとなる。この結果、保守の際のサイフォン管の取替えが簡単に実施できることとなる。
【0013】
さらに難処理物流出防止用貯留枡は、例えば、処理する路面の1000〜5000m2当たりの貯留容積を7〜8m3とするとき、サイフォン管の管径を20〜30mmとしている。このように難処理物流出防止用貯留枡の大きな貯留容積に比してサイフォン管の管径は極めて細い。このようにサイフォン管の径が小さくなるほど始動性は良好なものとなる。
【0014】
上記の大きさの難処理物流出防止用貯留枡では、サイフォン管の吸込み口とサイフォンの頂部との高低差0.3〜1.5m、サイフォン管の頂部の水平管の長さ0.1〜0.4m、貯留枡のサイフォン管の流出側の鉛直管の下端部に配設のエルボ管によりさらに長さ0.1〜0.4mの水平管を設けて流出口とすることで、サイフォン管の始動性は向上することが確認された。特に上記のようにサイフォン管に接続される貯留枡外の鉛直管の下端部にさらに水平管を配設することによりサイフォンの始動性はより優れるものとなる。
【0015】
すなわち、上記の貯留枡外の流出側の鉛直管の下端部に配設のエルボ管を介して設けた水平管に対し、エルボ管を介してさらに直角方向に曲げた水平方向の長さ0.1〜0.4mの水平管、望ましくは0.35〜0.45mの水平管を設けて流出口とすることで、始動性がより向上することが確認された。なお、この流出口の方向は水平面内であれば自由に変更できる。さらに流出側の鉛直管の下端は上記のエルボ管を介して設けた水平管からなるものに加えて、方向を変更した水平管をさらに1段以上数段加えることでより一層に始動性は向上するものとなる。
【0016】
また、サイフォン管の頂部の水平管は充満された満流状態でなくても、例えば管径25mmの水平管の場合、水面の高さが管底から20mmであってもサイフォンは開始する。
【0017】
このサイフォンの開始する理由は次の作用による。(1)サイフォン管の頂部が満流でなくても、流出槽内の水位がサイフォン管の底の高さを越えた水位になると流出が開始する。(2)従来の下向きの鉛直管のみからなる排水管ではサイフォンは始まらないが、サイフォン管の流出側の鉛直管の下端にエルボ管を介して水平管を設けると、流出側における鉛直管部と水平管部との流速の違いにより下端のエルボ管付近に満流部分が生じる。この結果、(3)サイフォン管の頂部付近の水平管内における密閉された空気は、排出水と共に徐々に移行されて上記の満流部で攪拌されて気泡となり排出水と共に徐々に排出されて頂部付近の空気が少なくなっていく。(4)サイフォン管の頂部付近の空気が少なくなれば、排出水の流出量が増えて、さらに一緒に多量の空気が排出される。(5)以上の繰り返しにより、次第に排出水の流量が多くなり、最後に完全なサイフォン状態となる。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、自動車道路などにおいて、降雨時のファースト・フラッシュの降雨排水と共に、あるいは、ファースト・フラッシュ時以外の降雨排水で処理槽の貯留枡が満水でサイフォンの稼働状態におけるファースト・フラッシュを過ぎた時点の降雨排水と共に、自動車の事故などにより自動車から流出した重油や液状化学物質などの難処理流出物を路面から道路脇の排出溝に流下させ、さらにこの排出溝から処理するためにこの道路脇の排出溝に設置の難処理物流出防止用貯留枡に流入させて難処理流出物のオイルなどを浮上分離し、さらに土砂を沈殿分離し、この貯留枡で分離処理して得られた排水を貯留枡の下流の排出溝に排出する。この排出のために貯留枡に設けた排出管であるサイフォン管の構造としてエルボ管および水平管を採用し、かつ貯留枡のサイフォン管の下流側の鉛直管の下端にさらにベント管と水平管からなる流出管を付設したことで、従来の高価なベント管に勝るとも劣らず、サイフォンの始動性に優れたものとなり、確実にサイフォンを働かせることができ、この結果、不慮の事故により道路に油などの難処理物が流出する事態となった場合に備えて敷設する難処理物流出防止用貯留枡を、高価な価格のベント管に替えて市販の量産タイプのエルボ管と水平管とすることで安価に容易に入手可能でかつ保守管理にも優れているものとでき、本願の発明は優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本願の発明における最良の実施の形態を以下の実験例を通じ、図面を参照して説明する。図1に示すように、本発明における難処理物流出防止用貯留枡1は、その大きさを難処理物流出防止用貯留枡1の内径で、長さ4100mm、幅1300mm、高さ1800mmとし、これらはコンクリートブロックを積載して現場で敷設して形成するものである。この難処理物流出防止用貯留枡1は流入槽2、第1分離槽3、第2分離槽4、第3分離槽5、流出槽6に各仕切壁7で区分されている。流出槽6の槽壁14には、流出槽6から難処理物の除去後の排水を排出するための排水管としてφ25mmの図3に示すエルボタイプのエルボ管9と水平管10からなるサイフォン管8と、図4に示すベントタイプの排水管としてベント管11からなるサイフォン管8を、それぞれ設けている。
【0020】
これらの難処理物流出防止用貯留枡1の各槽は、図2に見られるように、水位を1740mmとする深さからなるものとし、流入槽2と第1分離槽3との間および第3分離槽5と流出槽6との間に設けられた仕切壁7はそれぞれ槽底12から400mmより上部側に存在し、この仕切壁7より下部は隣接する槽間の連通路13に形成されている。さらに第1分離槽3と第2分離槽4の間および第2分離槽4と第3分離槽5の間に設けられたそれぞれの仕切壁7には、槽底12から245mmの位置から上方200mmの位置をスリットからなる連通路13と、槽底12から1463mmの位置から上方200mmの位置をスリットからなる上部の連通路13が設けられている。この上部の連通路13は水平面にあり越流用である。一方、流出槽6の槽壁14には排水管を通す孔17が槽壁14の上端15から300mm下方の位置に開口されている。槽壁14の上端部には上端15から100mm下方が切り欠かれてオーバーフロー用の切欠き16に形成されている。
【0021】
槽壁14の孔17に挿通のサイフォン管8である排出管の形状は、上記のとおり、図3に示す寸法の本願発明におけるエルボ管9および直管の水平管10からなるエルボタイプのものと、図4に示す寸法の比較用の従来のベント管11からなるベントタイプのものとし、これらのサイフォン管8である排出管の径はいずれも25mmとした。さらにサイフォン管8である排出管のうちエルボタイプのものについては、図5に示すように、サイフォン管8の鉛直管18の長さを900mm、1230mm、1560mmの3種類とした。流出槽6内の吸込み口である鉛直管18の先端にはストレーナー19を取り付けたものと、ストレーナー無しのものの2タイプで実験を行った。
【0022】
さらに、図5に示すようにエルボタイプのものを用いた貯留枡の鉛直管18の下端にはエルボ管20と400mmの水平管21を配設し、さらにエルボ管20で直角に曲げられて200mmの水平管21からなるものを配設した。これに対し、従来のベントタイプのものを用いた貯留枡の鉛直管18の下端は単に鉛直管18の端部のままとしたものである。
【0023】
上記の構造の難処理物流出防止用貯留枡1に実験用に給水するための図1に示す給水コンテナ25と給水用の樋26を流入槽2に配設し、さらに流出槽6の側部の槽壁14に形成の切欠き16の外側に排水コンテナ27を準備をして、サイフォンの作動性の確認の実験を行った。
【0024】
実験1:サイフォンの作動性の確認は、エルボ管9と水平管10からなるエルボタイプのものとベント管11のベントタイプのものについて、また貯留枡のサイフォン管8の鉛直管18の長さを上記の3種類に変えて、例えば集水面積1000m2、降雨強度1mm/hの場合で流入量は15l/min(流出係数0.9で計算)であるが、どの程度の弱い雨までサイフォンが作動するかの加減を確認した。実験では、水の流入量とサイフォン管8からの流出量がほぼ平衡状態に達してから、サイフォンが作動するまでの時間を計測し、その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
エルボタイプでは、流入量がおよそ3l/min程度まで減少してもサイフォンが作動したのに対し、ベントタイプでは5l/min程度以下では作動しなかった。この結果、エルボタイプの方がベントタイプよりもサイフォンの作動性が優れていることが判った。また、貯留枡の鉛直管18は長い方が流入量を減少していくとき流入量4l/min程度までは作動性に優れていたが、それ以下の流入量では鉛直長さとはあまり関係がなく同じような挙動を示した。
【0027】
実際の道路の降雨強度γ(mm/h)と集水面積S(m2)と流出係数C(0.9として計算)と、難処理物流出防止用貯留枡1への流入量Q(l/min)の関係は以下の式(1)で表される。
【0028】
Q=(3.6×106-1×C×γ×S×1000×60……(1)
【0029】
例えば、流入量Qが2.83l/minの場合、
集水面積S=5000m2ならば降雨強度γ=0.038mm/h
集水面積S=4000m2ならば降雨強度γ=0.047mm/h
集水面積S=3000m2ならば降雨強度γ=0.063mm/h
集水面積S=2000m2ならば降雨強度γ=0.094mm/h
集水面積S=1000m2ならば降雨強度γ=0.189mm/h
となる。
【0030】
ここで流入量Qが2.83l/minの場合の道路の集水面積Sおよび降雨強度γの関係を式(1)より求め、本発明のエルボタイプと従来のベントタイプのサイフォンの作動状況を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2の結果、従来のベントタイプに比して、本発明におけるエルボタイプのサイフォン管8は半分程度の降雨強度でもサイフォンが作動することが判った。
【0033】
実験2:本発明におけるエルボタイプのサイフォン管8と従来のベントタイプとによる排水中の水位の経時変化について、さらに実験により計測し、サイフォン管8による4m3の排水時間が、貯留に最低必要な時間の60分以上を有することを確認した。なお、上記の計測において、難処理物流出防止用貯留枡1の貯留量は、流出槽6を除く部分である流入槽2、第1分離槽3、第2分離槽4および第3分離槽5で見ることとし、この場合、4m3を排水するとサイフォン管8の水平管10の部分の管底から水位が流出槽6内の吸込み口である鉛直管18の先端まで893mmまで下がることとなる。さらにサイフォン管8の貯留枡外の排水管の鉛直長さはエルボタイプでは、900mm、1230mm、1560mmの3種類とし、ベントタイプの排水管の鉛直長さは900mmの1種のみとする。
【0034】
計測1:難処理物流出防止用貯留枡1の流出槽6内の吸込み口である鉛直管18の先端にストレーナー19を取り付け、難処理物流出防止用貯留枡1に注水してサイフォンを作動させた。注水した水がサイフォン管8の水平管10の部分の管底の水位に達したところで計測を開始する。その後5分毎に排水が止まるまで水位の変化を計測した。この計測結果を水位の経時変化として図7に示す。この装置における平均排水量は、エルボタイプのサイフォン管8の場合、鉛直管18の鉛直長さ900mmで23.7l/min、1230mmで33.2l/min、鉛直長さ1560mmで41.3l/minで、一方、ベントタイプの場合は鉛直長さ900mmのみで27.6l/minである。いずれも4m3の排水時間は60分以上を要しており、問題のない結果であった。
【0035】
計測2:難処理物流出防止用貯留枡1の流出槽6内の吸込み口である鉛直管18の先端にストレーナー19を取り付けることなく、計測1と同様の計測を行った。この場合はエルボタイプのサイフォン管8のみについて計測した。計測結果を水位の経時変化として図8に示す。この装置における平均排水量は、鉛直管18の鉛直長さ900mmで26.4l/min、1230mmで33.8l/min、鉛直長さ1560mmで41.2l/minである。ストレーナー無しの場合、ストレーナー部のメッシュの抵抗のない分だけ排水が速まることも考えられたが、サイフォン管8への流入部のストレーナー有りと無しとの形状の違いによる抵抗の差により相殺されるためか、ストレーナー19の有無であまり差はでなかった。
【0036】
実験3:比重0.9程度の油類が難処理物流出防止用貯留枡1に流入した場合の難処理物流出防止用貯留枡1の分離性能について確認した。この場合、分離には最も厳しい条件である難処理物流出防止用貯留枡1内が空になっている状況下で降雨により雨水と油が流入してきた場合の分離性能を確認するためのものである。
【0037】
これは1リットルのエンジンオイルを難処理物流出防止用貯留枡1の最大流入量の水とともに流入させ、オーバーフローする直前で注水を中止し、2時間放置後の流出槽6に到達した油の量を計測した。この場合、オイルの投入は難処理物流出防止用貯留枡1の水位637mmで投入開始し、40秒でオイル投入を終了した。40分後の水位1697mmで流入水量を絞り、オイル回収を開始し、実験開始からおよそ160分でオイルの回収は終了した。この場合のオイルの投入量は870.0g(比重0.87として計算)で、最大流入時の流入水量は147.72l/minであった。
【0038】
この流出槽6に到達したオイルの量を知るために、流出槽6のサイフォン管8の水平管10を利用して、図6の(a)に示すように流出槽6内のエルボ管9を上方の水面側に向けて短い鉛直管18を設け、その先端に、図6の(b)に示すように油吸着材23を充填しその上に網24を張ったソケット22を取り付け排水管とした。このように設置して排水管からの排水量と平衡を保つ程度に難処理物流出防止用貯留枡1に水を流入させ、流出する水がすべてソケット22を通過するようにした。さらに流出槽6の水面にもオイル吸着材23を分散した。流出する水がソケット22から排出されなくなると、ソケット23からオイル吸着材23を回収し、回収したオイル吸着材23を乾燥機で水分を蒸発させた後その重さを計測し、流出槽6に到達したオイルの量を算出した。回収されたオイルの量からさらに以下のようにして、オイルの除去率を算出した。
【0039】
すなわち、回収されたオイルの量は1.405gであった。投入量は870.0gであったので、オイルの流出率(%)は、(流出油分量/投入オイル分量)×100=(1.450g/870.0g)×100=0.161%であった。よって、オイルの除去率(%)=1−オイルの流出率、であるので、実際に当てはめて計算すると、1−0.161=99.839%であった。
【0040】
以上の結果、サイフォンの作動性は、本発明のエルボタイプの方が、ベントタイプよりも優れていた。また、流入量4l/minまではサイフォン管8の貯留枡の鉛直管18の鉛直長さが長いほど作業性はよく、流入量4l/min以下では鉛直長さとはあまり関係はなかった。サイフォンによる4m3の排水時間は60分以上を要し、ファースト・フラッシュの確保及び含有される難処理物分離の時間として問題はなかった。またサイフォン管8の貯留枡の鉛直管18の鉛直長さが長いほど排水時間は短くすることができた。オイルの除去率は99.839%と極めて良好であった。
【0041】
上記に説明した図1に示す難処理物流出防止用貯留枡1は基本構造のものである。これに対し、処理する路面の面積を倍のものとするとき、難処理物流出防止用貯留枡30の貯留容積を上記の2倍の14〜16m3とするために、図9および図10に示すように、上記の基本構造の難処理物流出防止用貯留枡1の2槽を長手方向に横に接続して難処理物流出防止用貯留枡30とする。この場合、連結した槽壁14同士の側には流入槽2と流出槽6を省略し、かつ、連結した槽壁14同士をその上下2箇所に開口した連通管28で連通するものとする。これらの連通管28の高さ位置は、基本構造の難処理物流出防止用貯留枡1の連通路13の上下の高さ位置と同じとする。従って下部の連通管28は砂泥などの沈殿物およびオイルなどの浮上物を分離減量した排水を次槽に送り、上部の連通管28は水平面に設けた越流用である。上記の2槽を横に連結することで分離槽は1槽の場合の2倍の6槽となり、路面排水の受け入れ処理量が倍増することとなる。流入槽2および流出槽6は従来と同様に左右に1個ずつであり、従って、サイフォン管8も流出槽6に基本構造のものと同じ管径である20〜30mmのものが設置されており、これらの構造は基本構造のものと同様である。排水コンテナ27からの排水は排水口から流出される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の難処理物流出防止用貯留枡の基本的構造の模式的平面図である。
【図2】図1の難処理物流出防止用貯留枡のA−A矢視切断図である。
【図3】本発明のエルボタイプのサイフォン管の取り付け状態の概略図である。
【図4】従来のベントタイプのサイフォン管の取り付け状態の概略図である。
【図5】本発明のエルボタイプのサイフォン管の配管取り回しの概略図である。
【図6】本発明の流出槽の実験に使用の油回収装置の(a)は概略図で、(b)はソケット部分の拡大図である。
【図7】流出槽のストレーナーを有するサイフォン管による排出中の水位および貯留量の経時変化を示すグラフ。
【図8】流出槽のストレーナーを有しないサイフォン管による排出中の水位および貯留量の経時変化を示すグラフ。
【図9】本発明の難処理物流出防止用貯留枡の基本構造の2倍の大きさの難処理物流出防止用貯留枡の模式的平面図である。
【図10】図9の難処理物流出防止用貯留枡のA−A矢視切断図である。
【符号の説明】
【0043】
1 難処理物流出防止用貯留枡
2 流入槽
3 第1分離槽
4 第2分離槽
5 第3分離槽
6 流出槽
7 仕切壁
8 サイフォン管
9 エルボ管
10 水平管
11 ベント管
12 槽底
13 連通路
14 槽壁
15 上端
16 切欠き
17 孔
18 鉛直管
19 ストレーナー
20 エルボ管
21 水平管
22 ソケット
23 油吸着材
24 網
25 給水コンテナ
26 樋
27 排水コンテナ
28 連通管
29 排水口
30 難処理物流出防止用貯留枡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入槽、複数の分離槽及び流出槽に仕切壁で区分した貯留枡からなり、流入槽と分離槽の間及び分離槽と流出槽の間の各槽間の仕切壁に各槽底を連通する連通路と各分離槽の間の各中段下部を連通する連通路をそれぞれ配設し、流出槽の側壁の上段にオーバーフロー用切欠きを配設し、さらに各分離槽間の槽壁の該オーバーフロー用切欠き位置より下方の上段中部に連通路を開口する路面の難処理物流出防止用貯留枡において、流出槽から流出貯留枡外に排水する排出管をサイフォン管から形成し、このサイフォン管の一端の鉛直管を流出槽に配設し、サイフォン管の頂部をエルボ管により水平管として流出槽壁上部に挿通して流出槽壁から貯留枡外に出し、貯留枡外に出た水平管をエルボ管により下降する鉛直管とし、該鉛直管の下端にさらにエルボ管により水平管を配設して排出管としたことを特徴とするサイフォンの始動性を確保したサイフォン管を有する路面の難処理物流出防止用貯留枡。
【請求項2】
難処理物流出防止用貯留枡は、処理する路面の1000〜5000m2当たりの貯留容積を7〜8m3、かつ、サイフォン管の管径を20〜30mmとしたことを特徴とする請求項1に記載のサイフォンの始動性を確保したサイフォン管を有する路面の難処理物流出防止用貯留枡。
【請求項3】
貯留枡外で下降する鉛直管の下端にさらにエルボ管により配設した水平管は、その水平管の長さをサイフォン始動範囲である350〜450mmとすることを特徴とする請求項1または2に記載のサイフォンの始動性を確保したサイフォン管を有する路面の難処理物流出防止用貯留枡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−9532(P2006−9532A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192186(P2004−192186)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000161817)ケイコン株式会社 (37)
【Fターム(参考)】