説明

踏段装置

【課題】静粛性対策を施しながらも運転を阻害する確率を低減することができる、コンベア装置用の踏段装置の提供。
【解決手段】踏段装置5は、表面側に被搬送対象が載せられる踏板21と、踏板の裏面側に延びるライザ23と、一面が踏板の裏面側と対面するように、踏板の裏面側に着脱可能に取り付けられる第1ベース板31と、第1ベース板の他面に形成された第1防音層33と、一面がライザの裏面側と対面するように、ライザの裏面側に着脱可能に取り付けられる第2ベース板35と、第2ベース板の他面に形成された第2防音層37とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベア装置に設けられる踏段装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンベア装置には、被搬送対象を載せた階段状の搬送部が移動することにより、被搬送対象を目的の場所に搬送するものがあり、最たる例では、被搬送対象が乗員であるエスカレータがある。エスカレータには、複数の踏段装置が無端状に連結された搬送部が設けられ、乗員は、周回移動する搬送部の階段状の部分に搭乗して、目的の場所に移動する。
【0003】
特許文献1には、エスカレータの踏段装置の一例が開示されている。踏段装置は、乗員が載る板状部分の踏板と、その踏板から下方に延びて、階段におけるいわゆる蹴り上げ部に相当するライザと、踏板の姿勢を規定するようにレールで案内されるローラとを含んでいる。そして、複数の踏段装置は、無端状の駆動チェーンに連結され、駆動チェーンの周回移動により駆動される。
【0004】
ところで、美術館や博物館等の静粛性を要する場所に設置されるエスカレータでは、踏板やライザの裏面に、防音塗料を塗布しておき、駆動に伴う音の発生を低減させる対策が考えられる。しかしながら、このようなエスカレータでは、経年変化、エスカレータの駆動に伴う振動さらに乗員の乗り降り時に生じる衝撃等が原因で、防音塗料の塗膜が劣化し、塗膜に亀裂が入ることが考えられる。そして、この亀裂がもとで塗膜の一部が剥離し落下すると、場合によっては、エスカレータにおける駆動チェーン等の駆動部の可動を阻害する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−85689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、静粛性対策を施しながらも運転を阻害する確率を低減することができる、コンベア装置用の踏段装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明の踏段装置は、表面側に被搬送対象が載せられる踏板と、前記踏板の裏面側に延びるライザと、一面が前記踏板の裏面側と対面するように、該踏板の裏面側に着脱可能に取り付けられる第1ベース板と、前記第1ベース板の他面に形成された第1防音層と、一面が前記ライザの裏面側と対面するように、該ライザの裏面側に着脱可能に取り付けられる第2ベース板と、前記第2ベース板の他面に形成された第2防音層とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の踏段装置によれば、静粛性対策を施しながらも運転を阻害する確率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のコンベア装置の一例としてのエスカレータの側面を示す図である。
【図2】実施の形態1に係る踏段装置の構成を示す斜視図である。
【図3】実施の形態2に関する第1ベース板の斜視図である。
【図4】図3の矢印IV方向からみた第1ベース板の一部を示す図である。
【図5】実施の形態3に関するベース板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る踏段装置等の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0011】
実施の形態1.
図1に、本発明のコンベア装置の一例としてのエスカレータの側面を示す。エスカレータ1は、上下斜めに延びる主枠3を備えており、その主枠3には、無端状に連結され周回移動する複数の踏段装置5が設けられている。踏段装置5はそれぞれ、上部エリアとしての上部乗降口7と、下部エリアとしての下部乗降口9との間を斜めに往復する。そして、複数の踏段装置5は、往路11において階段状をなして被搬送対象である人員を載せ、復路13においては、主枠3内を往路11と逆向きに進行する。
【0012】
踏段装置5の左右両側には、主枠3の長手方向に沿って延びる欄干15が立設されている。左右一対の欄干15にはそれぞれ、側板17と、移動手摺19とが含まれている。移動手摺19は、無端状をなすベルト状部材であり、踏段装置5の周回移動と同期するようにして、側板17の周囲を周回移動する。
【0013】
さらに、図2に基づいて、本実施の形態に係る踏段装置の詳細について説明する。図2は、実施の形態1に係る踏段装置の構成を示す斜視図であり、特に、復路での姿勢として裏面側を上に向けるような状態で示している。踏段装置5は、踏板21と、ライザ23とを含んでいる。踏板21は、その表面21a側に被搬送対象を載せる部分である。ライザ23は、踏板21の一方の端辺から、踏板の裏面21b側へと延びる部分である。前述したように複数の踏段装置5は往路11において階段状となるが、踏板21の表面21aはその踏み面に相当し、ライザ23の表面23aは蹴り上げに相当する。また、ライザ23は、踏板21から離隔する部分ほど、踏板21の中央に傾くような態様で、弧状に湾曲して延びている。
【0014】
踏段装置5は、踏板21の裏面21b側であって、ライザ23の裏面23b側に、左右一対のブラケットフレーム25を含んでいる。それぞれのブラケットフレーム25の前端25a近傍には、図示省略する駆動軸、駆動チェーン、駆動ローラ等が設けられる。複数の踏段装置5は、左右一対の駆動チェーンによって連結されており、図示しないチェーンスプロケット等を介して駆動チェーンが周回駆動されることで、複数の踏段装置5もまた周回移動される。各ブラケットフレーム25の後端25b近傍には、追従ローラ27が設けられている。
【0015】
踏段装置5における踏板21、ライザ23及び一対のブラケットフレーム25は、軽量化のため、一例としてアルミニウムダイキャストで製作されている。また、さらなる軽量化を図るべく、踏板21及びライザ23の裏面21b,23bには、適当な厚みで肉をえぐった凹部29が形成されている。
【0016】
さらに、踏段装置5は、第1ベース板31と、第1防音層33と、第2ベース板35と、第2防音層37と、着脱可能取付手段39とを含んでいる。第1ベース板31及び第2ベース板35はそれぞれ、着脱可能取付手段39によって踏板21及びライザ23に着脱可能に取り付けられる鉄板である。着脱可能取付手段39には、本実施の形態では一例としてねじが用いられている。
【0017】
上記についてより詳細に説明する。第1ベース板31は、その一面31aが踏板21の裏面21b側と対面するようにして、踏板21の裏面21b側に着脱可能に取り付けられる。第1防音層33は、第1ベース板31における他面31bに形成されている。第2ベース板35は、その一面35aがライザ23の裏23b面側と対面するようにして、ライザ23の裏面23b側に着脱可能に取り付けられる。第2防音層37は、第2ベース板35における他面35bに形成されている。
【0018】
第1防音層33及び第2防音層37はそれぞれ、第1ベース板31及び第2ベース板35の他面31b,35bに防音塗料を塗布して得られた塗膜である。
【0019】
以上のように構成された本実施の形態に係る踏段装置によれば、エスカレータ等のコンベア装置に使用された際、コンベア装置の運転に伴う騒音の発生を低減することができ、特に美術館や博物館等の静粛性を要求される場所に設置されるコンベア装置においては騒音低減にたいへん有益である。加えて、経年変化、エスカレータの駆動に伴う振動、さらに乗員の乗り降り時に生じる衝撃等が原因で、防音層が劣化した場合には、ベース板ごと防音層全体を踏段装置から取り外し、防音層全体を一新すればよいので、劣化した防音層が一部剥落しコンベア装置の駆動部に干渉して運転が阻害されることを回避することができる。
【0020】
また、特に、防音層が防音塗料による塗膜である場合、塗膜の膜厚は数ミリ程度となり、上記の原因によって塗膜に亀裂が生じるという劣化が起こりうる。さらに、その亀裂にチェーン等の駆動部のオイルが浸み込むと、塗膜の剥落はより生じ易くなる。この場合において、防音塗料が踏板自体やライザ自体に直接塗布されて防音層が形成されている態様では、亀裂の確認、塗膜の修復等がやりづらく、さらに場合によっては劣化した塗膜を含む踏段装置そのものを、新しい踏段装置と交換する対応も必要となる等、作業性が悪く経済的にも大きな負担を強いられることとなる。これに対し、本実施の形態では、防音層を構成する塗膜に亀裂が生じても、その亀裂がある防音層が形成されたベース板そのものを取り外して、正常な塗膜を有するベース板に交換するだけで済むので、作業性は良好であり且つ作業時間も少なくて済み、さらに経済的にも負担を少なくすることができる。
【0021】
このように、本実施の形態に係る踏段装置及びそれらを備えたコンベア装置では、静粛性対策を施しつつ、その静粛性対策手段の劣化に対して機能回復作業(防音層を一新する作業)の負担が低減されているので劣化に起因して運転が阻害される確率を低減させることが可能となっている。
【0022】
実施の形態2.
続いて、図3及び図4をもとに本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2は、上記実施の形態1において第1ベース板を改変したものであり、よって、以下に説明する点を除いて、実施の形態1と同様であるものとする。図3は、実施の形態2に関する第1ベース板の斜視図であり、図4は、図3の矢印IV方向からみた第1ベース板の一部を示す図である。
【0023】
第1ベース板131は、その一面31aが踏板21の裏面21b側と対面するようにして、踏板21の裏面21b側に着脱可能に取り付けられる。第1防音層33は、第1ベース板131における他面31bに形成されている。第1防音層33は、防音塗料を塗布して得られた塗膜である。
【0024】
第1ベース板131における第1防音層33が形成された他面31bと反対側となる一面31aには、少なくとも一つ(本例では二つ)の補強凹凸プレート141が設けられている。補強凹凸プレート141は、本例では、直角に凸状に屈曲した金属性の板状部材であり、溶接等によって、第1ベース板131の一面31aに固定されている。補強凹凸プレート141はそれぞれ、第1ベース板131の一辺から他辺にわたって延びている。そして、補強凹凸プレート141において一面31aと交差する方向に延びている部分、換言すると、第1ベース板131の厚さを部分的に稼ぐような部分が、補強リブ143として機能する。また、本例では、相互に離隔するように配置された一対の補強リブ143の端部が架橋部145でつながるような形態がとられており、言い換えれば、一面31a、一対の補強リブ143及び架橋部145で画定された軽量化空間147が確保されている。また、これら一対の補強リブ143、架橋部145及び軽量化空間147は、第1ベース板131の踏板の裏面側の凹部(図2の符号29)に収まることなる。
【0025】
このような本実施の形態2によっても、上記実施の形態1と同様、静粛性対策を施しつつ、その静粛性対策手段の劣化に起因して運転が阻害される確率を低減させることができる。また、コンベア装置の内部を点検する際には、通常、往路側の踏段装置を取り外し、作業者がコンベア装置の内部に入りこむ。そして、このとき、作業者は、復路側の踏段装置の踏板の裏面側に足場を求めることになる。よって、その体重によって第1ベース板が撓み第1防音層に亀裂を生じる可能性が高まる。しかし、本実施の形態2では、補強リブによって第1ベース板の撓みを抑制することができ、第1ベース板に設けられている第1防音層に亀裂が生じることも予防することができる。また、それらの補強リブ及びそれらが協働して確保している軽量化空間は、第1ベース板の踏板の裏面側の凹部に収まることとなる。よって、体重による亀裂予防の強度確保と軽量化とが効率よく両立されている。
【0026】
実施の形態3.
続いて、図5をもとに本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態3は、上記実施の形態1においてベース板を改変したものであり、よって、以下に説明する点を除いて、実施の形態1と同様であるものとする。図5は、実施の形態3に関するベース板の斜視図である。
【0027】
本実施の形態におけるベース板230は、踏板とライザとのなす角度に対応するように屈曲した板状部材であり、上記実施の形態1の第1ベース板31と第2ベース板35とを一体に形成したものである。第1ベース板31及び第2ベース板35のそれぞれ他面31b,35bに第1防音層33,第2防音層37が設けられている。
【0028】
このような本実施の形態3によっても、上記実施の形態1と同様、静粛性対策を施しつつ、その静粛性対策手段の劣化に起因して運転が阻害される確率を低減させることができる。さらに、本実施の形態3によれば、第1ベース板と第2ベース板とが一体化されているので、ベース板の着脱作業がやり易く、且つ、着脱可能取付手段としてのねじの使用本数を減らすこともできる。さらに、第2ベース板が第1ベース板に対して補強効果を付与するので、上記のようにメンテナンス作業者が復路側の踏板の裏面側を足場とする場合に対し、補強のためだけの手段に頼らずに、第1ベース板の撓みを抑制することができ、第1ベース板に設けられている第1防音層に亀裂が生じることも予防することができる。
【0029】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【0030】
例えば、上述した塗膜による防音層は、予めベース板に塗布形成しておき、塗膜付きのベース板を踏板やライザに取り付ける態様でもよいし、ベース板を先に踏板あるいはライザに取り付けておき、そのベース板に塗料を塗布する態様でもよい。
【0031】
また、補強リブは、上記実施の形態では補強凹凸プレートの一部として設けられていたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、補強リブは、第1ベース板に交差する方向に立ち上がり第1ベース板の厚さを部分的に稼ぐような部分としてあれば、その形成形態は特に限定されない。また、補強リブは、別体として後から第1ベース板に付加される態様に限らず、一体成形または加工によって第1ベース板の一部分を担う部分として構成されていてもよい。また、補強凹凸プレートの屈曲態様は、直角に限定されず、例えば軽量化空間が図示のように矩形ではなく三角形になるように、鋭角でもよく、逆に鈍角でもよい。
【0032】
上記実施の形態では、着脱可能取付手段の一例としてねじを示しているが、本発明では、これに限定されず、ベース板を所期の取付対象部に着脱可能に取り付けられれば如何なるものでもよい。よって、着脱可能取付手段に関し、他の例としては、ベース板及び取付対象部の一部分からなり相互に引っ掛け固定される構造を挙げることもできる。
【0033】
上記実施の形態2及び3はそれぞれ、個別に実施される例として説明したが、本発明はこれに限定されず、実施の形態2及び3を組み合わせて実施することもでき、すなわち、第1ベース板及び第2ベース板が一体化されたベース板に対して、その第1ベース板の部分に補強リブを設けてもよい。
【0034】
上述した実施の形態はいずれも、コンベア装置として、人員が搭乗するエスカレータを例に説明したが、本発明に係るコンベア装置は、特にエスカレータに限定されるものではなく、搬送部が階段状になる構成であればよく、その被搬送対象は物品や人以外の生き物等でもよく特に人に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0035】
1 エスカレータ(コンベア装置)、5 踏段装置、7 上部乗降口(上部エリア)、9 下部乗降口(下部エリア)、11 往路、21 踏板、23 ライザ、31,131 第1ベース板、33 第1防音層、35 第2ベース板、37 第2防音層、143 補強リブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に被搬送対象が載せられる踏板と、
前記踏板の裏面側に延びるライザと、
一面が前記踏板の裏面側と対面するように、該踏板の裏面側に着脱可能に取り付けられる第1ベース板と、
前記第1ベース板の他面に形成された第1防音層と、
一面が前記ライザの裏面側と対面するように、該ライザの裏面側に着脱可能に取り付けられる第2ベース板と、
前記第2ベース板の他面に形成された第2防音層と
を備えた踏段装置。
【請求項2】
前記第1防音層及び前記第2防音層はそれぞれ、前記第1ベース板及び前記第2ベース板の他面に防音塗料を塗布して得られた塗膜である請求項1の踏段装置。
【請求項3】
前記第1ベース板の一面側には、複数の補強リブが形成されている請求項1又は2の踏段装置。
【請求項4】
前記第1ベース板と前記第2ベース板とは一体に形成されている請求項1乃至3の何れか一項の踏段装置。
【請求項5】
無端状に連結され周回移動する複数の踏段装置を備え、
前記複数の踏段装置は、請求項1乃至4の何れか一項の踏段装置であり、
前記踏段装置はそれぞれ、上部エリアと下部エリアとの間を斜めに往復しており、
前記複数の踏段装置は、往路において階段状をなして被搬送対象を載せる
コンベア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−144359(P2012−144359A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5692(P2011−5692)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】