説明

踵部中敷、履物、踵部中敷の高さを調整する方法

【課題】
本発明では、当初の作製が容易であることに加え、患者状況の経時的変化にも対応が容易であって、患者の脚長差を矯正する踵部中敷を提供することを目的とする。
【解決手段】
開示の踵部中敷は、左右どちらか一方の履物の踵部分に設置する踵部中敷であって、前記履物の踵部分の形状に合わせて形成され、前後長が異なるシート状の複数の中敷体を有し、前記各中敷体が、底面から上面に向けて、前記前後長が長いものから短いものの順であって、前記履物の踵部分の形状の最後部を揃えるように重ねて配置されることによって、前記履物の爪先方向が低くなるように傾斜しており、前記履物を履く人の脚長差に応じ、前記各中敷体の枚数及び前記各中敷体の厚さを変化させることによって、該各中敷体を重ねた厚さが調整されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴など履物の中敷(インソール)の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
靴の中に敷く中敷に関しては種々の提案がなされている。例えば、特許文献1では、靴の踵部分にしてかつ靴底Aと敷革Bとの間に装填するための踵部中敷体1の上面に、人体踵部分をやや後上がり状に持ち上げるような形態にして、かつ人体踵部分の自然の局面を保持可能とする曲面形状を具えた凹窪部2を形成したことを特徴とする靴の踵部中敷が提案されている。
【0003】
また、特許文献2では、胛被(6)と靴底(7)とから成る靴(8)の中に敷く中敷であって、土踏まず部分(1a)から踵部分(1b)の後端に向かって厚みを次第に増加させて形成し、かつその下面に係合構造を有する主中敷(1)と、該主中敷(1)の踵部分(b)に重ねることができ、該主中敷(1)の係合構造に係合する係合構造を上面に有
すると共に、所定の厚さに形成した副中敷(2)と、を備えた、ことを特徴とする身長を高く見せる靴の中敷が提案されている。
【0004】
特許文献1で提案されている技術の効果は定かではないが、特許文献2で提案されている技術の効果は、必要に応じて中敷の厚さを調節することができると共に、1足の靴で数段階の高さに身長を高く見せることができるというものである。
【0005】
一方、上記の技術が奏する効果とは観点を異にする靴の中敷に関する技術として、足底板療法において使用される足底板(靴の中敷)がある。足底板療法とは、患者各人の足の形に応じた足底板を作製し、それを靴の中に入れて使用させることで、当該患者の健康を増進させることを試みるものである。足底板療法で使用される足底板は、患者の足の裏の形状に合わせるために、研磨装置で足底板の原型を削って作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平04−45404号公報
【特許文献2】特開2003−164303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記足底板療法で使用される足底板は、両足及び足の裏全体の形状に合ったものを作製する必要があるため、作製の手間が掛かるという問題点があった。
【0008】
また、上記足底板療法で使用される足底板は、研磨装置で足底板の原型を削って作製するため、患者の足の裏の形状の経時的変化に伴い足底板を再作製する場合、一から再作製の作業を行う必要があり、再作製の手間が掛かるという問題点があった。
【0009】
さらに、上記足底板療法で使用される足底板は、両足及び足の裏全体の形状に合ったものを作製するため、患者の脚長差を矯正する観点で作製されていないという問題点があった。つまり、上記足底板療法で使用される足底板では、患者の脚長差に基づく体の不具合を改善させることができない。
【0010】
そこで本発明では、上記問題点に鑑み、当初の作製が容易であることに加え、患者状況の経時的変化にも対応が容易であって、患者の脚長差を矯正する踵部中敷、当該踵部中敷を備える履物及び当該踵部中敷の高さの調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示する踵部中敷の一形態は、左右どちらか一方の履物の踵部分に設置する踵部中敷であって、前記履物の踵部分の形状に合わせて形成され、前後長が異なる複数のシート状の中敷体を有し、前記各中敷体が、底面から上面に向けて、前記前後長が長いものから短いものの順であって、前記履物の踵部分の形状の最後部を揃えるように重ねて配置されることによって、前記履物の爪先方向が低くなるように傾斜しており、前記履物を履く人の脚長差に応じ、前記各中敷体の枚数及び前記各中敷体の厚さを変化させることによって、該各中敷体を重ねた厚さが調整されることを特徴とする。ただし、踵部中敷の厚さが0.5ミリメートル以下になると、各中敷体が柔らかくなり不安定になる。その場合、左右両方の履物の踵部分に厚さ0.5ミリメートルの中敷体をベース部として設置し、左右どちらか一方のベース部の上に厚さ0.2ミリメートルや0.1ミリメートルの中敷体を設置して、0.5ミリメートル以下の厚さ調整を行う形態としても良い。
また、開示する踵部中敷の一形態は、前記各中敷体が透明であっても良い。
また、開示する踵部中敷の一形態は、前記各中敷体を重ねた厚さが、5ミリメートル以下であっても良い。
一方、開示する履物の一形態は、左右どちらか一方の踵部分に上記踵部中敷を備えている。
【0012】
他方、開示する踵部中敷の高さを調整する方法の一形態は、上記踵部中敷の高さを調整する方法であって、所定の期間毎に所定の計測方法により前記履物を履く人の脚長差を計測し、該脚長差に応じて、前記各中敷体の枚数及び該各中敷体の厚さを調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
開示する踵部中敷は、当初の作製が容易であることに加え、患者状況の経時的変化にも対応が容易であって、患者の脚長差を解消させることができる。また、開示する踵部中敷は、患者の脚長差が解消するため、当該脚長差に基づく体の不具合を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態に係る踵部中敷を備える履物の一例を示す図である。
【図2】本実施の形態に係る中敷体の一例を示す図である。
【図3】本実施の形態に係る踵部中敷の平面図及び正面図の一例を示す図である。
【図4】本実施の形態に係る踵部中敷の平面図及び正面図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
(踵部中敷の構造)
【0016】
図1乃至4を用いて、本実施の形態に係る踵部中敷100の構造について説明する。図1は、踵部中敷100を備える履物(以下、「靴」という。)120の一例を示す図であり、図2は、中敷体110の一例を示す図である。また、図3及び図4は、踵部中敷100の平面図及び正面図の一例を示す図である。なお、踵部中敷100は、靴120を履く人(患者)の左右の足の脚長差が無くなるように調整する機能を有するため、左右どちらか一方の靴の中に敷く態様である。つまり、踵部中敷100は、左右の足のうち、脚長差がマイナスと評価(計測)される足に対応する一方の靴120の踵部分に設置する。こうすることによって、左右の足の脚長差をゼロに矯正し、靴120を履く人の脚長差に基づく体の不具合(健康状態)を改善させる。ここで、脚長差に基づく体の不具合とは、腰痛、肩凝りなどの症状であり、脚長差とは、左右の脚の長さの差である。
【0017】
図1で示すように、靴の踵部中敷100は、靴120の踵部分に、中敷(インソール)として設置し使用する。また、図1及び図3で示すように、靴の踵部中敷100は、複数の中敷体110の後方を揃えて重ねて形成される。こうすることによって、靴の踵部中敷100は、靴130の爪先方向が下がるように傾斜が付いている。
【0018】
図2で示すように、各中敷体110(中敷体(a)112、中敷体(b)114、中敷体(c)116)は、靴120の踵部分の形状に合わせて形成され、また、フィルム状(シート状)に薄く形成されている。例えば、各中敷体110の厚さは、0.5ミリメートル以下であることが好適である。
【0019】
そして、中敷体(a)112、中敷体(b)114、中敷体(c)116それぞれは、その前後長が異なっている。このように、前後長が異なる中敷体110について、靴120に接する底面から上面に向けて、前後長が長いものから短いものの順に後方を揃えて重ねるので、靴の踵部中敷100は、爪先下がりの傾斜が付いている。
【0020】
また、図2及び図3では便宜的に、中敷体(a)112、中敷体(b)114、中敷体(c)116が、同一の厚さであるように図示されているが、それぞれは相異なる厚さであっても良い。例えば、中敷体110は、厚さが0.5ミリメートル、0.2ミリメートル、0.1ミリメートルのものを備え、これらを適宜組み合わせることで、踵部中敷100の高さを自在に調節することが可能である。つまり、踵部中敷100は、0.1ミリメートル単位で、その高さを調整することが可能である。
【0021】
なお、踵部中敷100は、主に、2センチメートル以下の脚長差を矯正することを目的としており、踵部中敷100の厚さは、通常、5ミリメートル以下となるように作製される。
【0022】
また、靴の踵部中敷100の材質は、透明な塩化ビニル樹脂(例えば、軟質塩ビシート)を用いることが好適である。透明にすることで、靴の踵部中敷100は、サンダル等の履物にも抵抗なく使用することができるようになる。一方、塩化ビニル樹脂を用いることで、接着剤を使用しなくても中敷体110どうしをズレ無く張り合わせることができる。また、塩化ビニル樹脂を用いることで、一部の中敷体110を剥がすことによる、靴の踵部中敷100の厚さ調整が容易となる。また、塩化ビニル樹脂を用いることで、靴の踵部中敷100は、加工が容易となる。
【0023】
さらに、図4で示すように、踵部中敷100は、一番上層に、長い中敷体(d)118を、下層の中敷体110を覆うように被せることによって、中敷体112、114、116を重ねた場合に生じる段差を滑らかにする形態としても良い。こうすることによって、靴120を履く人による、踵部中敷100の装着感が改善する。
(踵部中敷の使用方法)
【0024】
図1乃至4を用いて、本実施の形態に係る踵部中敷100の使用方法について説明する。図1で示すように、踵部中敷100は、靴120の踵部分に中敷として設置して使用する。踵部中敷100を靴120に設置した後、靴120は、通常の使用方法に従って使用する。また、踵部中敷100は、作製が容易であることから多数複製することが可能であるため、一組の靴120だけでなく、室内履き(例えば、スリッパ)など他の履物にも設置することも可能である。こうすることで患者は、長い時間、これらの履物を装着することができるため、脚長差の調整を長時間行うことが可能となり、脚長差の調整には効果的である。
【0025】
また、患者(靴120を履く人)の脚長差は、経時的に変化するため、所定の期間毎に、脚長差を計測(評価)し、その計測(評価)時点の脚長差に応じて、踵部中敷100の高さを調整することが好適である。踵部中敷100の高さの調整は、個々の中敷体110の厚さを変えたり、踵部中敷100を構成する中敷体110の枚数を変えたりすることによって行う。踵部中敷100は、塩化ビニル樹脂製(軟質塩ビシート)であるため、張り合わせる作業及び剥がす作業が容易であり、かつ、加工も容易である。そのため、上記のような、患者の脚長差の経時的変化に応じて行う、踵部中敷100の高さの再調整の作業が容易である。
(踵部中敷の厚さの調整)
ここでは、踵部中敷100の初期作製時及び高さ調整時に行う脚長差の計測(評価)方法について説明する。
(1)脚長差の評価
種々の方法によって脚長差を評価し、短脚、長脚を特定する。
【0026】
・立位姿勢評価(水平な床の上で行う)では、全体的な傾きなど体の特徴を確認し、特に、腰のくびれ具合、肩甲骨の内転具合、骨盤上縁の高さの左右差、肩甲骨の下角の高さの左右差などに基づき、短脚、長脚を特定する。
【0027】
・体幹の可動域検査(水平な床の上で行う)では、体幹の側屈の左右差を観察して、短脚、長脚を特定する。他方、体幹の回旋の左右差を観察して、短脚、長脚を特定する。
【0028】
・仰臥位(仰向け)で骨盤(上前腸骨棘)の位置の左右差を観察して、短脚、長脚を特定する。また、仰臥位で踵の位置の左右差を観察して、短脚、長脚を特定する。
・仰臥位で股関節の屈曲後、上前腸骨棘の位置を確認して、短脚、長脚を特定する。
【0029】
・腹臥位で脊椎起立筋、肩関節周囲筋、骨盤周囲筋などの筋緊張(コリ)の有無を確認した後、股関節の伸展で筋緊張の変化を確認することによって、短脚、長脚を特定する。
(2)脚長差調整の準備
【0030】
上記(1)で評価した脚長差に合わせた整体を行って、骨盤をはじめ全身の可動性を出し、脚長差調整の準備を行う。なお、整体を行うことによって姿勢が整い、関節の可動性が改善され、筋緊張が改善された状態となる。
(3)脚長差の再評価
【0031】
上記(2)の整体を行った後、患者を5メートルほど歩行させ、再度、上記(1)の脚長差の評価を行う。なお、脚長差が原因で体に歪みがあると5メートル歩行しただけで上記(2)の整体する前の状態に戻ってしまう。
(4)踵部中敷100の作製
【0032】
患者が履く靴120の踵部分に、適当な厚さの踵部中敷100を設置した後、患者を歩行させ、上記(1)の脚長差の評価を行いながら、踵部中敷100の厚さを適宜変化させる。そして、脚長差が逆転するポイント(短脚(長脚)が長脚(短脚)となるポイント)を探し当てる。例えば、最終的に、踵部中敷100の厚さを0.2ミリメートル変化させると、脚長差が逆転するポイントでこの調整を終了し、踵部中敷100の適切な厚さを決定する。
(5)脚長差の経時的変化に伴う調整
【0033】
踵部中敷100を設置した靴120を履く患者の脚長差は、経時的に変化する。従って、所定の期間毎に上記(4)の作業を行い、当該作業時点における最適な厚さの踵部中敷100を作製する。このように、踵部中敷100の厚さを定期的に修正することによって、患者の脚長差をゼロに近づかせることができ、それに伴って、患者の脚長差に基づく体の不具合を改善させることができる。
(総括)
【0034】
・中敷体110が塩化ビニル樹脂を材料とするフィルム状(シート状)であるため、踵部中敷100は、履物120の踵部分の形状に合わせ、容易かつ自在に加工することができる。踵部だけの調整なので、指先に負担が掛からない。
【0035】
・中敷体110が塩化ビニル樹脂を材料とするフィルム状(シート状)であるため、中敷体110どうしを貼り合わせたり剥がしたりすることが容易に行うことができる。そのため、踵部中敷100は、その厚さ調節を容易かつ自在に行うことができる。
【0036】
・中敷体110が塩化ビニル樹脂を材料とするフィルム状(シート状)であるため、踵部中敷100は、適度な硬さがあり、潰れ難く、形状を安定的に保持することができる。
【0037】
・中敷体110が塩化ビニル樹脂を材料とするフィルム状(シート状)であり、重ねた中敷体110どうしを接着剤無しで張り合わせることができるため、踵部中敷100は、中敷体110を貼り合わせたり剥がしたりする作業が容易である。
【0038】
・中敷体110が透明な塩化ビニル樹脂を材料とするため、踵部中敷100は、履物120に装着しても目立ち難く、サンダル等の踵部分が露出している履物にも抵抗無く設置し使用することができる。
・踵部中敷100は、2センチメートル以下の極小さな脚長差を補正することによって、脚長差に基づく体の不具合を改善させることができる。
【0039】
・踵部中敷100は、評価される脚長差が0.1ミリメートル以下となるまで、所定期間毎にその厚さが調整される。こうすることによって、脚長差に基づく体の不具合を改善させることができる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
100 踵部中敷
110 中敷体
112 中敷体(a)
114 中敷体(b)
116 中敷体(c)
118 中敷体(d)
120 履物(例えば、靴、サンダル)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右どちらか一方の履物の踵部分に設置する踵部中敷であって、
前記履物の踵部分の形状に合わせて形成され、前後長が異なるシート状の複数の中敷体を有し、
前記各中敷体が、底面から上面に向けて、前記前後長が長いものから短いものの順であって、前記履物の踵部分の形状の最後部を揃えるように重ねて配置されることによって、前記履物の爪先方向が低くなるように傾斜しており、
前記履物を履く人の脚長差に応じ、前記各中敷体の枚数及び前記各中敷体の厚さを変化させることによって、該各中敷体を重ねた厚さが調整されることを特徴とする踵部中敷。
【請求項2】
前記各中敷体が透明であることを特徴とする請求項1に記載の踵部中敷。
【請求項3】
前記各中敷体を重ねた厚さが、5ミリメートル以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の踵部中敷。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一に記載の踵部中敷を、左右どちらか一方の踵部分に設置した履物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一に記載の踵部中敷の高さを調整する方法であって、
所定の期間毎に所定の計測方法により前記履物を履く人の脚長差を計測し、該脚長差に応じて、前記各中敷体の枚数及び該各中敷体の厚さを調整することを特徴とする方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−63196(P2013−63196A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204008(P2011−204008)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(511228252)
【Fターム(参考)】