説明

身体障害者用の投てき競技用スローイングチエア

【課題】身体障害者の投てき競技では、競技者ごとに固定式補助具的な用具は存在していたが、広く利用できる汎用的な調整できるスローイングチエアは存在しなかった。
【解決課題】この発明は、脚部を植立したシート部に、前後調整できる背もたれ部、高低を調整できる足置き部、膝押さえローラー、腕支持台を装備し、身体障害者がシート部に座ってスローイングする時の体勢確保を可能とした投てき競技用スローイングチエアを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チエア(椅子)、特に身体障害者が陸上競技、中でもフィールド競技の代表的な投てき競技、例えば砲丸投げ、円盤投げ、こん棒投げ、あるいは槍投げなどのスローイング競技において使用する競技用椅子(チエア)の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
身体障害者の投てき競技においては、障害に適合した特性のシーテイングシステム「スローイングチエア」を活用することで、重度の障害者にもスポーツ活動を可能としている。まして、身体障害者の積極的な社会参加が叫ばれている今日、スポーツ活動においてもパラリンピックで見られるようにますますその競技性が増し、従来の医学的リハビリテーションの一環としてのスポーツから本来の競技スポーツへとその意味が大きく変わってきている。
【0003】
特に陸上競技中の投てき競技にあっては、円盤や砲丸などの投てき競技において使用されるスローイングチエア、あるいは用具に個々の競技者の障害の程度に応じた改良を加えることで、これらの競技は重度の身体障害者にとっても比較的参加しやすいスポーツになってきている。
しかし残念ながら、現在利用されている、スローイングチエア、用具などは、例えば椅子をロープで固定したり、椅子に支え棒を設け椅子が転倒しないようにしたり、椅子に競技者を縛り付けたりする程度のもので本格的に身体障害者用に開発された椅子(チエア)等ではなく、都度その場その場においては身体障害者の障害の程度に応じて対応する程度のもので、汎用的なものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来の用具は、椅子(チエア)自体に改良を加えず、付属的な部品で椅子の転倒、椅子上の競技者を固定する方策等を取っていたが、この程度では競技者にとっては万全の方策ではなく椅子(チエア)の上で十分な力が入らず、競技者の実力を十分サポートすることは困難であった。
この発明は、身体障害者が椅子(チエア)の上で、その持っている実力を十分発揮できるような椅子(チエア)の構造に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明によれば、4本の脚部が植立固定されたシート部と、このシート部に対し進退自在に設けられた背もたれ部と、高低調整自在に脚部に設けられた足置き台と、シート部に設けられた腕支持台とを有することを特徴とする身障者用の投てき競技あるいはスローイング競技用椅子(チエア)で、競技者は、シート部に腰掛けたうえで背もたれ部を調整し座る深さを調整し、足置き台上で足を踏ん張るために例えば左右の足置き台の高さを調整し、スローイングする腕と反対の腕で身体を支えるための腕支持台で腕を支えて投てきあるいはスローイングを行い得る。
【0006】
さらにこの発明にあっては、シート部に少なくとも1個の膝押さえローラを設け、投てき時に膝の浮き上がりを防止したり、あるいは襟帯ベルトを利用して、競技者を椅子に縛りつけ、投てきあるいはスローイングに際しより力が入るようにすることが可能となる。
また、身体障害者の身長などの関係で、脚の長さ(シート部の高さ)が調整できるように
各脚を2分した間にスペーサを挿入し脚の長さを調整できる構造となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
第1図はこの発明の実施の一形態に係り競技用椅子(チエア)の全体の斜視図で、第2図から第5図は、このチエアに取り付ける備品・付属品の形状などを説明するもので、第6図は脚部の長さを調整するための実施例図である。
【0008】
第1図において、1はシート部で競技者が腰を掛けるところであり、2は背もたれ部で背後支持部材3によりその背後は支持されている。この背後支持部材3と一体の調整部材4は、シート部1を載置して後方に伸びるベース部材5の上を移動でき、適宜、調整部材4とベース部材5とに開孔されているピン孔(図示せず)にピン6を差し込むことによって調整部材4(背もたれ部2)を固定し、背もたれ部2を位置決めする。これによってシート部1に座る競技者の座る位置、つまり深く座るか、浅く座るか等の位置決めが可能となる。
なお、この図においては、調整部材4とベース部材5と間はピンで固定すると説明したが、固定方法としては、ネジで固定する、襟帯する等のいろいろ方策が採用できる。
また、背もたれ部2と背後支持部材3も、ネジ方式、あるいはピン孔を利用する方式などで、上下方向に調節可能に支持・固定することで、背もたれ部の前後位置調整とともに身体障害者にとっての最適な上下位置に背もたれ部を位置決めすることが可能である。
【0009】
さらに、この第1図において、7は、金属性角パイプからなる4本の脚部でありシート部1に一体に植立され、8はこれらの脚部間を接合している同じく金属性角パイプからなる枠体である。
9、10は、脚部7に高低調整自在に設けられている足置き台で、例えば9が右足置き台、10が左足置き台で、この詳細は第2図において後述する。
【0010】
ついで11は、膝押さえローラーで、シート部に座った競技者の膝を必要に応じて押さえ、体を安定してシート部に位置決めしようとするものである。このローラー11も第3図で後述するように位置調整可能にセッテイングされる。
【0011】
12は、腕支持台で13はその握りで、競技者は投てき時、例えば左手を腕支持台12上に置き握り13を持って体を安定に保持して投てき動作を開始できるのである。この詳細は第3図で説明する。
【0012】
次に第2図において、9、10は第1図の足置き台で、踏み板21とこれと一体の挿入棒22とから構成されている。この足置き台の踏み板21、及び挿入棒22は、金属製の平板および角パイプで構成されている。
一方、脚部7には、この脚部を抱き込んだスライド枠体23が設けられ、その空隙24に上記の挿入棒22が挿入される。このスライド枠体23は、脚部7を上下方向にスライドでき、スライド枠体23と脚部7との関係位置は、脚部7に上下方向に適当な間隔で開孔されているピン孔25にピン16を差し込むことによって固定される。また公知のネジ止め方式も可能である。
なお、以上では足置き台9につき説明したが、第1図の足置き台10も同じように高低調整自在に脚部に固定される。なおこの図において足置き台9は右足を、足置き台10は左足を意識したものであり、投てき、スローイングに際し、右足、左足の位置決めは障害者の身体的事情で、上下自由に調整可能とされている。
【0013】
更にこの図においては、例えば右足の足置き台9は、椅子(チエア)本体の側部に設けているが、身体障害者の身体状況によっては、この足置き台を椅子(チエア)の正面部に配置することもできる。
この場合、脚部のピン孔を脚部の側面に設け、スライド枠体も空隙が正面に来るようにして、ピンで適当な高さにスライド枠体を固定して、足置き台の挿入棒を枠体の空隙に挿入することで可能である。
同じく、左足置き台もその設ける位置を変更できる。
【0014】
第3図において、その表面が柔軟な物質で覆われた膝押さえローラー11は、回転可能に挿入棒31に支持され、この挿入棒31は、シート部1に設けられている固定枠32に差し込まれ、固定枠に開孔されたピン孔(図示せず)と挿入棒31に間隔をあけて開孔されているピン孔33とを位置合わせし、適当な高さでピン孔にピン34を差し込んでローラ11の高さを固定調整することができる。
第1図、第3図においては、身体障害者の右脚用の膝押さえローラを示したが、必要に応じて左脚用のローラも同じように設けることが可能であり、場合によっては左右両ローラを必要とする場合も存在する。
【0015】
第4図において、腕支持台12は、やはりシート部1に設けられている固定枠41に挿入される挿入棒42に固定され、この挿入棒に開孔されているピン孔43と固定枠41上のピン孔(図示せず)とを合致させてピン44で両者を位置決め固定する。
投てき、あるいはスローイングにおいて、身体障害者の右投げ、あるいは左投げに対応して、この腕支持台12をシート部1の両側にセッテイング可能に構成しておくことも可能である。
【0016】
第5図において、第1図と同じ符号は、同じものを示す。
この図において、51、52は襟帯バンドで、襟帯バンド51は競技者をシート部に座った状態で背もたれ部に襟帯するもの、52は、同じく競技者の膝部をぐるぐる巻きにするもので、これらは身体障害者の身体的都合で適宜採用できるものである。
【0017】
第6図は、脚部の長さ、すなわちシート部の高低を調整する機構の説明である。
図のように、金属性角パイプの脚部の下端部は、上脚部71と下脚部72とに上下に2分割に分離できるように構成されている。この分離部分には、パイプに挿入固定される心金61が設けられ、この心金61に、いろいろの長さの金属性角パイプのスペーサ62、あるいは63を挿入することで、上下脚部71,72を接続し、よって脚部の長さを調整できるようになっている。
【0018】
この図において、この分離部分には、パイプに挿入固定される芯金61が設けられており、これは、上脚部71、および下脚部72の空隙に充填され、この芯金61にその長さが相違する空隙タイプのスペーサ62,63、・・をはめ込むことにより、脚部の長さ、換言すれば、シート部の高さが調整できる。
【0019】
以上のこの発明において、例えば砲丸投げの時、右投げの身体障害者である競技者は、このシート部に腰掛け、まず、深く座るか浅く座るかによって背もたれ部2を前後調整してピン6で背後支持部材3を固定し(必要に応じ上下関係も調整固定する)、蹴る力を右足に発生させるために右足を少し高く調整した足置き台9に、左足は体を支えるために少し低くした足置き台10に、それぞれ位置決めし、左手は、投てきの時に体を支えるために腕支持台に置き、腕がずれないように握り13を強く掌握し、砲丸を右手に持って投てきする。
【0020】
このとき、膝が浮き、力が入らないのであれば、膝押さえローラ11で膝部を押さえ、腰、下半身がふらつき力が入らない時は襟帯ベルト51,52などを利用することも可能である。
【0021】
これらの競技の時は、補助者、あるいは指導者が必要であるが、このような椅子(チエア)を利用することにより、障害者にとって共通の条件下での競技が可能となり、公平性が保ちえ、スポーツ振興に大いに役立つものと思われる
【0022】
特に、脳性麻痺、脊髄損傷、などの障害を持った競技者にとって、投てき競技において、体をしっかりと固定できることは必須の条件であるが、この発明においては、進退および上下可能な背後支持部材(背もたれ部2)、高低の可変調整可能な足置き台、左右の膝部に設けられる膝押さえローラー、それに腕支持台の等の存在から、補助者は必要とするものの、楽しく競技ができ、容易に重度の身体障害者の投てき種目への参加が可能とはる。
【0023】
なお、上記の説明では椅子(チエア)の構成、利用法についてのみ説明したが、これらの椅子(チエア)の転倒を防ぐために、支え棒を利用したり、ロープなどで杭に固定したり、等の従来の方式で、椅子の転倒を防ぎ、競技者が安心して競技に没頭できるようにすることはもちろんのことである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の椅子(チエア)の斜視図である。
【図2】足置き部を説明する図である。
【図3】膝押さえ部を説明する図である。
【図4】腕支持台を説明する図である。
【図5】他の実施例を説明する図である。
【図6】脚部の伸捗調整を説明する図
【符号の説明】
【0025】
1台座
2背もたれ部
3背後支持部材
4調整部材
5ベース部材
6、16、34、44ピン
7脚部
71上脚部、72下脚部
8枠体
9、10足置き部
11膝押さえローラー
12腕支持台
13握り
21踏み板
22、31、42挿入棒
23スライド枠体
24空隙
25,33,43ピン孔
32、41固定枠
51,52襟帯バント゛
61芯金
62,63スペーサ























【特許請求の範囲】
【請求項1】
4本の脚部が植立固定されたシート部と、シート部に対し進退自在に設けられた背もたれ部と、高低調整自在に脚部に設けられた足置き部と、シート部に設けられた腕支持部とを有することを特徴とする身体障害者用の投てき競技用スローイングチエア
【請求項2】
シート部に少なくとも1個の膝押さえ部を設けた請求項1項記載の身体障害者用の投てき競技用スローイングチエア
【請求項3】
シート部に膝押さえ用の襟帯用ベルトを設けた請求項1項及び2項記載の身体障害者用の投てき競技用スローイングチエア
【請求項4】
背もたれ部に腰部襟帯用ベルトを設けた請求項1項及び2項、3項記載の身体障害者用の投てき競技用スローイングチエア
【請求項5】
脚部の長さを、スペーサを挿入して調整可能とした請求項1項および2項、3項、4項記載の身体障害者用の投てき競技用スローイングチエア



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−75267(P2007−75267A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265193(P2005−265193)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】