説明

車両のもぐり込み防止装置

【課題】車両と他の車両との衝突時に、フロントタイヤを利用して他の車両のもぐり込みを防止する。
【解決手段】車両1のもぐり込み防止装置は、フロントアンダーランプロテクタ4とプロテクタ移動規制体7と回転体14と回転体ブラケット16と上部、下部保持ユニット22,32とECU44等を有する。プロテクタ移動規制体7は、フロントアンダーランプロテクタ4の端部後面で支持されて、フロントタイヤ接触面10aと回転体接触面11aとを有する。回転体14は回転体ブラケット16の下部に支持される。ECU44が車両1と他の車両との衝突の可能性が高い展開時と判定するまでは、回転体14はフロントタイヤ12の前面12aと離間して支持され、ECU44が車両1と他の車両との衝突の可能性が高い展開時と判定した時、回転体14はフロントタイヤ12の前面12aに面接触する位置に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両と他の車両とが衝突したときのもぐり込み防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002−274300号公報には、大型トラック等の車両の前面下部に配置され、普通乗用車等の他の車両との正面衝突時に他の車両の車台下へのもぐり込みを防止するフロントアンダーランプロテクタの取付構造が記載されている。この構造では、車両のメインフレームに取付ステーが固定され、取付ステーの下部前側にフロントアンダーランプロテクタが固定される。取付ステーの下部後側には、昇降用ステップが固定され、昇降用ステップの後部は、フロントタイヤの前方に所定の間隔を置いて位置する。他の車両がフロントアンダーランプロテクタに衝突して取付ステーが後方に大きく変形すると、昇降用ステップの後部がフロントタイヤに衝突し、フロントタイヤの弾性力によって他の車両の衝撃が吸収される。また、同公報には、フロントアンダーランプロテクタに昇降用ステップを固定しても良いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−274300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特開2002−274300号公報記載の構造では、昇降用ステップとの接触時にフロントタイヤが完全に停止せずに回転していると、昇降用ステップの後部とフロントタイヤとの間に動摩擦力が作用し、昇降用ステップの後部はフロントタイヤの回転方向への力を受けて下方へ変形し、落下する可能性がある。昇降用ステップの後部が落下すると、昇降用ステップの後部がフロントタイヤによって支持されず、フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収が行われない可能性がある。また、昇降用ステップの後部が落下すると、取付ステーの更なる後方への変形が可能となり、取付ステーに固定されたフロントアンダーランプロテクタの耐荷重が低下して他の車両のもぐり込みを十分に防止できない可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、フロントタイヤを利用して他の車両のもぐり込みを確実に防ぐことが可能なもぐり込み防止装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係わる車両のもぐり込み防止装置は、フロントアンダーランプロテクタと、プロテクタ移動規制体と、判定手段と、回転体と、回転体支持手段と、制御手段とを備える。フロントアンダーランプロテクタは、車両の前端下部に支持されて車幅方向に延びる。プロテクタ移動規制体は、フロントアンダーランプロテクタの後方で車両の側部に支持されて前後方向に延び、フロントアンダーランプロテクタに近接又は接触する前面と、フロントタイヤの前面に対向する後面と、後面よりも前下方でフロントタイヤの前面に対向する回転体接触面とを有する。判定手段は、車両と他の車両との衝突の可能性が高い展開状態であるか否かを判定する。回転体支持手段は、車両に支持され、フロントタイヤの前面から離間する第1位置で回転体を支持する第1状態と、フロントタイヤの前面とプロテクタ移動規制体の回転体接触面との間であってフロントタイヤの前面と面接触する第2位置で回転体を回転自在に支持する第2状態とに設定可能であり、第1状態の解除によって第2状態へ移行する。制御手段は、展開状態であると判定手段が判定するまでの間は、回転体支持手段を前記第1状態に維持し、展開状態であると判定手段が判定したとき、回転体支持手段の前記第1状態を解除する。
【0007】
上記構成では、車両と他の車両との衝突の可能性が高い展開状態であると判定手段が判定するまでの間は、回転体支持手段は第1状態に維持される。第1状態の回転体は、フロントタイヤから離間する第1位置に支持されるので、回転体とフロントタイヤとの接触に起因した燃料消費量の増加を招くことがなく、またフロントタイヤのステアリング操作を妨げることもない。
【0008】
車両と他の車両との衝突の可能性が高い展開状態であると判定手段が判定すると、回転体支持手段の第1状態が解除され、回転体支持手段は第2状態へ移行する。第2状態の回転体は、フロントタイヤの前面とプロテクタ移動規制体の回転体接触面との間であってフロントタイヤの前面と面接触する第2位置に支持される。
【0009】
車両と他の車両とが衝突すると、フロントアンダーランプロテクタの端部が車両後方に変形してプロテクタ移動規制体の前面を押圧し、プロテクタ移動規制体が車両後方へ移動すると、プロテクタ移動規制体の後面がフロントタイヤの前面に接触する。この接触時に、フロントタイヤが完全に停止せずに回転していると、プロテクタ移動規制体の後面にはフロントタイヤの前面との接触による動摩擦力が作用し、プロテクタ移動規制体の後面はフロントタイヤの回転方向に沿った下方向の力を受ける。この時、回転体は、第2位置に支持されているので、車両後方へ移動したプロテクタ移動規制体の回転体接触面は、回転体に前方から当接し、回転体は、回転体接触面とフロントタイヤの前面とに前後から挟まれた状態で、フロントタイヤによって従動回転する。回転体は、フロントタイヤとは反対の方向に回転するため、プロテクタ移動規制体の回転体接触面には回転体との接触による動摩擦力が作用し、プロテクタ移動規制体は、回転体の回転方向に沿った上向きの力を受ける。この上向きの力により、プロテクタ移動規制体の後部に作用する下向きの力が低減されるので、プロテクタ移動規制体の後部の下方への変形が抑制され、プロテクタ移動規制体の後部の落下を防止することができる。
【0010】
この結果、プロテクタ移動規制体の車両後方への移動が規制されるので、フロントアンダーランプロテクタの耐荷重の低下が抑制され、フロントアンダーランプロテクタによって他の車両のもぐり込みを確実に防止することができる。また、プロテクタ移動規制体がフロントタイヤの前面によって確実に支持されるので、フロントタイヤの弾性力によって衝突エネルギを吸収することができる。
【0011】
このように、車両と他の車両の衝突時に車両後方へ移動するプロテクタ移動規制体の後部の落下が防止され、プロテクタ移動規制体の後面がフロントタイヤの前面によって確実に支持されるので、他の車両のもぐり込みを確実に防止することができる。
【0012】
また、フロントアンダーランプロテクタは、プロテクタ移動規制体の前面を支持するものであってもよい。上記構成では、衝突による力が、フロントアンダーランプロテクタを介して直接的にプロテクタ移動規制体に加わるので、迅速且つ確実に他の車両のもぐり込みを防止することができる。
【0013】
また、上記もぐり込み防止装置は、前記回転体支持手段が、回転体支持部材と第1保持手段と第2保持手段とを有してもよい。回転体支持部材は、上下方向にスライド移動自在である。第1保持手段は、第1状態において回転体支持部材を解放自在に保持する。第2保持手段は、第1状態から下方へ移動した第2状態の回転体支持部材を保持する。回転体は、回転体支持部材の下部に回転自在に支持される。第1状態が解除されると、第1保持手段が回転体支持部材を解放し、回転体支持部材が落下して、第2状態へ移行する。
【0014】
上記構成では、回転体支持部材の落下によって回転体支持手段が第1状態から第2状態へ移行するので、回転体支持手段は、第1状態から第2状態への移行のための特別な駆動源等を必要としない。従って、回転体支持手段の構造を簡素化することができる。
【0015】
また、第2保持手段は、回転体支持部材を後方へ付勢する付勢手段を有してもよい。上記構成では、第2位置へ移動した回転体は、付勢手段によって付勢されてフロントタイヤの前面に当接し、フロントタイヤによって従動回転する。すなわち、プロテクタ移動規制体の回転体接触面が回転体に当接しているか否かに関わらず、回転体は、フロントタイヤによって従動回転する。従って、プロテクタ移動規制体の回転体接触面は、衝突発生によって後方へ移動した際に、既に従動回転している回転体に当接するので、回転体接触面に上向きの力を直ちに作用させることができ、プロテクタ移動規制体の後部に作用する下向きの力を迅速に低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、他の車両との衝突時において、フロントタイヤを利用してプロテクタ移動規制体の後部の落下を防止し他の車両のもぐり込みを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態のもぐり込み防止装置を備えた車両の前部の展開時までの状態を示す側面図である。
【図2】図1の車両の展開時の状態を示す側面図である。
【図3】図1の車両の衝突時の状態を示す側面図である。
【図4】回転体ブラケット及び回転体を示す斜視図である。
【図5】図1の車両の要部を示すブロック図である。
【図6】衝突判定処理と回転体制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図中のFRは車両前方を、UPは上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示す。また、以下の説明において、前後方向は車両の進行方向の前後を意味し、左右方向は車両の進行方向前方を向いた状態での左右を意味する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のキャブオーバートラック(車両)1は、キャブ2と、メインフレーム3と、フロントアンダーランプロテクタ(以下、FUPと称する)4と、フロントアンダーランプロテクタブラケット(以下、FUPブラケットと称する)5と、フロントタイヤ12等を備えている。
【0020】
メインフレーム3は、車両1の車幅方向両側で車両前後方向に延びており、クロスメンバによって、左右各メインフレーム3の前端部間が連結されている。メインフレーム3の前端部には、下方へ延びる左右一対のFUPブラケット5が固定されている。FUP4は、矩形筒状であり、FUPブラケット5の前面に固定されて車幅方向に延びている。車両前部にはFUP4の前端部を覆うフロントバンパ6が設けられている。
【0021】
本実施形態のもぐり込み防止装置は、上記FUP4とプロテクタ移動規制体7と回転体14と回転体ブラケット(回転体支持手段の回転体支持部材)16と上部保持ユニット(回転体支持手段の第1保持手段)22と下部保持ユニット(回転体支持手段の第2保持手段)32とレーダセンサ43とECU44とから構成されている。プロテクタ移動規制体7と回転体14と回転体ブラケット16と上部保持ユニット22と下部保持ユニット32とは車両1の前端部の左右両側にそれぞれ配置されており、右側と左側とがそれぞれ同様の構成を有するため、以下ではその一方(右側)について説明し、他方(左側)についての説明を省略する。
【0022】
プロテクタ移動規制体7は、本体8とフロントタイヤ接触部10と回転体接触部11とを有している。本体8は、前後で開口する矩形筒状であり、上下方向の長さがFUP4の上下方向の長さとほぼ同一であり、前側の端面(プロテクタ移動規制体7の前面)9がFUP4の端部後面に固定されて前後方向に延びている。フロントタイヤ接触部10は、車幅方向の長さが本体8の幅とほぼ等しく、上下方向の長さが本体8の後端部の上下方向の長さよりも長い板状であり、本体8の後端部に固定されて本体8の後側開口を閉止する。フロントタイヤ接触部10の後面(プロテクタ移動規制体7の後面)10aは、フロントタイヤ12の前面12aに対向している。フロントタイヤ接触部10の下端はプロテクタ移動規制体7の下面と同一面内にあり、フロントタイヤ接触部10の上端はプロテクタ移動規制体7の上面よりも突出し、車両1の前方衝突によってプロテクタ移動規制体7が後方に移動したときフロントタイヤ12の前面12aに広い範囲で面接触する。回転体接触部11は、プロテクタ移動規制体の前側端面9とフロントタイヤ接触部10との間で、プロテクタ移動規制体7の下面から下方に延びる板状であり、フロントタイヤ12の前面12aと対向している。回転体接触部11の上下方向の長さは、回転体14の半径よりも長くプロテクタ移動規制体7の下面と路面との距離よりも短い。また、フロントタイヤ接触部10の後面10aから回転体接触部11の後面11aまでの距離は、回転体14の外径よりも短い。
【0023】
車両1の前方衝突時において、FUP4を介してプロテクタ移動規制体7に衝突荷重が入力し、且つプロテクタ移動規制体7の後方への移動が規制されている場合、プロテクタ移動規制体7はFUP4の後方への移動を規制し、FUP4の耐荷重の低下を抑制する。また、プロテクタ移動規制体7が潰れ変形を起こすことによって、プロテクタ移動規制体に入力する衝突エネルギが効率的に吸収される。
【0024】
回転体14は、幅方向に長い円筒状であり、円筒の軸心上に延びる回転軸15を一体的に有している。回転体14の外径は、プロテクタ移動規制体7のフロントタイヤ接触部10の後面10aと対向するフロントタイヤ12の前面12aとの間隔よりも小さく、フロントタイヤ12の前面12aに沿ってフロントタイヤ12の上部から下部へ移動が可能である。
【0025】
回転体ブラケット16は、図4に示すように、ブラケット本体17とストッパ18とアーム部19とを有している。ブラケット本体17は、上下方向に直線状に延びる円筒状である。ストッパ18は、ブラケット本体17の外径よりも大きな外径の円板状であり、ブラケット本体17の上端であって、ストッパ18の中心とブラケット本体17の中心とがほぼ一致する位置に、フランジ状に固定されている。アーム部19は、ブラケット本体17の外径とほぼ同一幅の板状部材から形成される。アーム部19の上部19aは、幅方向に延び、中央部がブラケット本体17の下端に固定されている。上部19aの両端部は下方向に屈曲して相対向して延び、下方向に開口してほぼU字形状を形成している。相対向する下端部19bには回転体14の軸受け20が固定されている。回転体14は、回転軸15の両端部が軸受け20に挿入されることによって、アーム部19に回転自在に支持されている。アーム部19の上部19aは回転体14から離間しており後述するプロテクタ移動規制体7の後部の挿通部21として機能する。
【0026】
上部保持ユニット22は、上部前側保持板23と上部後側保持板27と前側エアシリンダ24と後側エアシリンダ28とを有する。上部前側保持板23は前後方向に延びる矩形板状であり、後方向に開口する半円形状の凹部を有する。上部後側保持板27は前後方向に延びる矩形板状であり、前方向に開口する半円形状の凹部を有する。上部前側保持板23の後端部と上部後側保持板27の前端部とが同一平面上で接触することにより、中央に円形の上部ガイド孔31が形成される。上部ガイド孔31の内径は回転体ブラケット16のストッパ18の外径よりも小さくブラケット本体17の外径よりも大きい。上部前側保持板23及び上部後側保持板27は、車幅方向の両端を、前後方向に延びる左右一対のガイドレール(図示省略)によって、同一平面上を前後方向に移動自在に支持されている。ガイドレールは、車両1の車体側部の上部であって、ガイドレール上の上部ガイド孔31の中心とフロントタイヤ12の幅方向の中心とがほぼ一致する幅方向の位置に固定されている。
【0027】
前側エアシリンダ24は、前側シリンダ本体25と前側シャフト26とを備えている。前側シリンダ本体25は円筒状であり、上部前側保持板23の前方の車両1の車体側部に支持されて前後方向に延びている。前側シャフト26は、前側シリンダ本体25内に移動自在に挿入され、前側エアシリンダ24の伸長時(エア供給時)に後方へ移動し、短縮時(エア排気時)に前方に移動する。前側シャフト26の後側先端は、上部前側保持板25の前端部と連結している。後側エアシリンダ28は、前側エアシリンダ24と同一の構造であり、後側シリンダ本体29は、上部後側保持板27の後方の車両1の車体側部に支持されて前後方向に延びている。後側シャフト30の前側先端は、上部後側保持板27の後端部と連結している。シリンダ本体25,29には、圧縮空気を供給するエア管路(図示省略)が接続され、エア管路には、給気弁、排気弁(図示省略)が設けられている。排気弁が閉止され給気弁が開放されると圧縮空気がシリンダ本体25,29に供給され、前側エアシリンダ24及び後側エアシリンダ28は最伸状態となる。給気弁が閉止され排気弁が開放されると、シリンダ本体25,29の圧縮空気が排気され、前側エアシリンダ24及び後側エアシリンダ28は最縮状態となる。通常時は給気弁、排気弁ともに閉止され、エアシリンダ24,28はシリンダ内の空気圧に応じた状態を維持する。
【0028】
前側エアシリンダ24及び後側エアシリンダ28が最伸状態のとき上部前側保持板23の後端部と上部後側保持板27の前端部とが接触し、上部ガイド孔31が形成される。前側エアシリンダ24及び後側エアシリンダ28が最縮状態の時、上部前側保持板23及び上部後側保持板27の相対する端部は回転体ブラケット16のストッパ18の外径以上に離間する。
【0029】
下部保持ユニット32は、下部保持板33とバネユニット(第2保持手段の付勢手段)36とを有する。下部保持板33は、各辺の長さが回転体ブラケット16のストッパ18の外径よりも長く、中央にブラケット本体17の外径よりも大きくストッパ18の外径よりも小さな内径の下部ガイド孔35を有する矩形板状である。
下部保持板33は、上部保持ユニット22よりも後方の下方であって、下部ガイド孔35の中心とフロントタイヤ12の幅方向の中心とがほぼ一致する幅方向の位置で、上部前側保持板23及び上部後側保持板27と平行に車両1の車体側部に固定されている。下部ガイド孔35は上部ガイド孔31よりも後方に位置する。
【0030】
バネユニット36は、コイルバネ37とハウジング38と回転体ブラケット接触板39とソレノイド40とを有する。ハウジング38は、コイルバネ37の外径よりも大きな内径を有し前後方向に延びる円筒状である。ハウジング38は、下部保持ユニット32よりも下方の車両1の車体側部であって、円筒の中心とフロントタイヤ12の幅方向の中心とがほぼ一致する幅方向の位置に固定されている。コイルバネ37は後方向からハウジング38に挿入され、コイルバネ37の前方向の一端は、ハウジング38の円筒内面の前端部に固定されている。コイルバネ37の後方向の他端には、回転体ブラケット接触板39が固定されている。回転体ブラケット接触板39は、ハウジング38の内径よりも小さな外径の円形の板状である。回転体ブラケット接触板39の上側側面には後述のソレノイド40のプランジャ42が挿入される係合孔39bを有する。回転体ブラケット接触板39の後面39aは、コイルバネ37の伸長時に回転体ブラケット16のブラケット本体17と接触する。ソレノイド40は、ソレノイド本体41とソレノイド本体41に移動自在に挿入されるプランジャ42とを備える。ソレノイド40は、ハウジング38の後端上部に固定され、プランジャ42はハウジング38の後端上部に設けられた貫通孔を通して上下方向に移動する。ソレノイド40が非励磁状態のとき、プランジャ42はソレノイド本体41から突出し、ソレノイド40が励磁状態のとき、プランジャ42はソレノイド本体41の方向に移動する。
【0031】
バネユニット36は、非作動状態と作動状態とに設定可能である。非作動状態では、コイルバネ37が圧縮されてハウジング38内部に収納され、回転体ブラケット接触板39はハウジング38の後端部に位置する。ソレノイド40は非励磁状態にあり、回転体ブラケット接触板39の係合孔39bにプランジャ42が係合して、回転体ブラケット接触板39の後方への移動が規制される。作動状態では、ソレノイド40が励磁され、バネユニット36は伸長状態となる。すなわち、プランジャ42がソレノイド本体41の方向に移動し、回転体ブラケット接触板39の係合孔39bとの係合が解除され、コイルバネ37が伸長する。回転体ブラケット接触板39はコイルバネ37により付勢されて後方へ移動する。なお、バネユニット36に使用するバネはコイルバネ37に限定されるものではなく、例えば板バネ等を使用してもよい。
【0032】
レーダセンサ43は、車両1の前端部から進行方向の所定角度の範囲内に向けてレーザやミリ波等の電磁波を所定時間毎に発信し、その反射波を受信することにより、先行車両と車両1との車間距離L(m)及び相対速度RV(m/s)を検出し、検出した車間距離L及び相対速度RVをECU44へ出力する。
【0033】
ECU44は、CPU(Central Processing Unit)45とROM(Read Only Memory)46とRAM(Random Access Memory)47とを備える。CPU45は、ROM46に格納されたプログラムを読み出して後述の処理を実行することによって、判定手段及び制御手段として機能する。RAM47は、衝突の可能性の高低を判定するための閾値Tcを記憶する記憶領域を有する。
【0034】
次に、回転体の支持と移動について説明する。
【0035】
回転体ブラケット16が上部保持ユニット22で保持される第1状態では、上部保持ユニット22の前側エアシリンダ24と後側エアシリンダ28とが最伸状態にあり、上部保持ユニット22には上部ガイド孔31が形成される。回転体ブラケット16のストッパ18は上部前側保持板23及び上部後側保持板27の上面で支持され、ブラケット本体17は上部ガイド孔31及び下部ガイド孔35を貫通している。ブラケット本体17はフロントタイヤ12の幅方向のぼぼ中心線上に上下方向に位置して、前後方向、左右方向、下方向への移動が規制され、回転体14はフロントタイヤ12の前面12aから離間する第1位置に支持される。回転体14の回転軸15は、フロントタイヤ12の前面12とほぼ平行である。下部ガイド孔35が上部ガイド孔31よりも後方に位置するので、回転体14の最後端はフロントタイヤ12の最前端よりも後方に位置している。バネユニット36は非作動状態にあり、回転体ブラケット接触板39はハウジング38の後端部に位置し、回転体ブラケット16のスライド移動の障害にならない。
【0036】
上部保持ユニット22の前側エアシリンダ24と後側エアシリンダ28とが最縮状態になると、第1状態が解除され、回転体ブラケット16は下部保持ユニット32の下部ガイド孔35を下方向にスライド移動する。回転体14の最後端がフロントタイヤ12の最前端よりも後方に位置するため、回転体14はフロントタイヤ12の上部に接触し、フロントタイヤ12の前面12aに沿って下方に移動してフロントタイヤ12とプロテクタ移動規制体7のフロントタイヤ接触面10との間隙を通過する。ストッパ18が下部保持板33の上面で係止し回転体ブラケット16が下部保持ユニット32で保持される第2状態になると、回転体はフロントタイヤ12の最前端の下方でフロントタイヤ12の前面と面接触する第2位置に支持される。この時、バネユニット36が作動状態になると、回転体ブラケット接触板39が後方に移動し、回転体ブラケット16のブラケット本体17に接触して回転体ブラケット16を後方に付勢する。その結果、回転体14がフロントタイヤ12の前面12aに押圧され、前後方向の移動が規制される。
【0037】
次に、ECU44が実行する処理について、図6のフローチャートに基づいて説明する。本処理は、車両1と先行する他の車両との衝突の危険性の高低に基づき展開時を判定する衝突判定処理(ステップS1からステップS3)と、衝突判定処理の結果に応じて回転体の位置を制御する回転体制御処理(ステップS4からステップS8)とから構成され、所定時間毎に繰り返して実行される。先ず、ECU44は、レーダセンサ43から車両1と先行する他の車両との車間距離Lと相対速度RVとを取得する(ステップS1)。次に、ECU44は、衝突予想時間TTC(s)を次式(1)に従って演算する(ステップS2)。
【0038】
TTC=L/RV ・・・(1)
【0039】
次に、ECU44はステップS2で算出したTTCを予め設定された衝突予測時間の閾値Tcと比較する(ステップS3)。衝突予想時間TTCがTcを超えている場合は、車両1と先行する他の車両との衝突の可能性が低いと判定し本処理を終了する。衝突予想時間TTCがTc以下の場合は、車両1と先行する他の車両との衝突の可能性が高い展開時と判定し、ステップS4へ進む。
【0040】
ステップS4では、ECU44は上部保持ユニット22に制御信号を送出し、前側エアシリンダ24及び後側エアシリンダ28を最縮状態にする。その結果、上部保持ユニット22に保持されていた回転体ブラケットの第1状態が解除されて回転体ブラケット16は自由落下する。回転体ブラケット16の移動中に、バネユニット36のコイルバネ37が伸長して回転体14及び回転体ブラケット16の移動の障害となるのを防ぐため、ECU44は所定の移動時間を確保する。すなわち、ECU44はステップS5で時間カウンタIを所定値nに設定する。ステップS6ではカウンタIのカウント値が0以下か否かを判断し、0を超えていれば、カウンタIの値を1減算し(ステップS7)、ステップS6に戻る。カウンタIのカウント値が0以下の場合は所定の移動時間が経過しているのでステップS8へ進む。この間に、回転体ブラケット16は下方に移動し、下部保持部32で保持される第2状態に移る。また、回転体14はフロントタイヤ12の前面12aと面接触する第2位置に支持される。
【0041】
次に、ECU44はバネユニット36に制御信号を送出し、ソレノイド40を励磁してバネユニット36を作動状態にする(ステップS8)。回転体ブラケット接触板39が回転体ブラケット16に接触して後方に付勢し、回転体14がフロントタイヤ12の前面12aに押圧される。その結果、回転体14は、フロントタイヤ12と反対方向に従動回転する(図2)。以上により、ECU44は処理を終了する。
【0042】
なお、衝突判定処理は衝突危険性の高低の判定ができるものであればよく、本実施形態に限定されるものではない。例えば車両1にカメラ等を搭載し画像処理などを併用して行ってもよい。
【0043】
本実施形態では、ECU44によって、車両1と他の車両との衝突の可能性が高い展開時と判定されるまでは、図1に示すように、回転体ブラケット16は上部保持ユニット22によって第1状態に保持され、回転体14はフロントタイヤ12から離間する第1位置に支持される。従って、回転体14とフロントタイヤ12との接触に起因した燃料消費量の増加を招くことはなく、またフロントタイヤ12のステアリング操作の妨げになることもない。
【0044】
ECU44によって、車両1と他の車両との衝突の可能性が高い展開時と判定されると、図2に示すように、上部保持ユニット22によって回転体ブラケット16の保持が解除される。回転体ブラケット16は自由落下し、下部保持ユニット32で保持される第2状態に移行する。回転体14はフロントタイヤ12の前面12aと面接触する第2位置に支持される。また、バネユニット36によって回転体14がフロントタイヤ12の前面12aに押圧され、回転体14はフロントタイヤ12の回転に従動してフロントタイヤ12と反対方向に回転する。
【0045】
車両1の前面に他の車両が衝突すると、図3に示すように、FUP4の端部が車両後方に変形してプロテクタ移動規制体7の前面を押圧し、プロテクタ移動規制体7が車両1の後方へ移動する。この移動によりプロテクタ移動規制体7の後端部は、上記第2状態に保持されている回転体ブラケット16のアーム部19の開口部21を挿通し、フロントタイヤ接触部9の後面9aがフロントタイヤ12の前面12aに接触する。この接触時に、フロントタイヤ12が完全に停止せずに回転していると、フロントタイヤ接触部10の後面10aとフロントタイヤ12の前面12aとの間に動摩擦力が作用し、フロントタイヤ接触部10は、フロントタイヤ12の回転方向に沿った下向きの力を受ける。また、フロントタイヤ接触部10の後面10aと回転体接触部11の後面11aとの距離は回転体14の外径よりも短いので、フロントタイヤ接触部10の後面10aがフロントタイヤ12の前面12aに接触すると、プロテクタ移動規制体7の回転体接触面11も回転体14に前方から当接する。この時、回転体14はフロントタイヤ12と反対方向に回転しているので、プロテクタ移動規制体7の回転体接触面11の後面11aには回転体14との接触による動摩擦力が作用し、プロテクタ移動規制体7は回転体14の回転方向に沿った上向きの力を受ける。この上向きの力により、プロテクタ移動規制体7の後部に作用する下向きの力が低減されるので、プロテクタ移動規制体7の後部の下方への変形が抑制され、プロテクタ移動規制体7の後部の落下を防止することができる。
【0046】
この結果、プロテクタ移動規制体7の車両後方への移動が規制されるので、FUP4の耐荷重の低下が抑制され、FUP4によって他の車両のもぐり込みを確実に防止することができる。また、プロテクタ移動規制体7がフロントタイヤ12の前面12aによって確実に支持されるので、フロントタイヤ12の弾性力によって衝突エネルギを吸収することができる。
【0047】
また、FUP4の端部が、プロテクタ移動規制体7の前面を支持しているので、衝突による力がFUP4を介して直接的にプロテクタ移動規制体7に加わり、迅速且つ確実に他の車両のもぐり込みを防止することができる。
【0048】
また、下部保持ユニット32はバネユニット36を有し、コイルバネ37が回転体ブラケット16を後方に付勢することによって、第2位置に支持される回転体14をフロントタイヤ12の前面12aに押圧する。この結果、車両1と他の車両との衝突発生前の展開時に、回転体14はフロントタイヤ12と反対方向に従動回転している。従って、衝突発生によりプロテクタ移動規制体7の回転体接触面11が回転体14に当接した時、既に回転している回転体14によって、回転体接触面11に上記上向きの力を直ちに作用させることができ、プロテクタ移動規制体7の後部に作用する下向きの力を迅速に低減することができる。
【0049】
なお、フロントタイヤ12に従動回転する回転体14との接触によって回転体接触部11に作用する上向きの力が、プロテクタ移動規制体7の後部へ作用する下向きの力を低減するのに十分ではない場合は、別途モータなどを設置し、回転体14を能動的に回転させて上向きの力を増大してもよい。
【0050】
また、プロテクタ移動規制体7の回転体接触部11に作用する上向きの力が、プロテクタ移動規制体7の後部に作用する下向きの力を低減するのに不十分である場合、プロテクタ移動規制体7の後部が下方向に変形し、プロテクタ移動規制体7の後部下面が回転体14に接触する可能性がある。しかし、回転体14は回転体ブラケット16によって支持され、回転体ブラケット16は、車両1の車体側部に支持された下部保持ユニット32によって保持されている。従って、プロテクタ移動規制体7の下方への変形は回転体14によって規制され、プロテクタ移動規制体7の後部の落下を防止することができる。
【0051】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0052】
例えば、プロテクタ移動規制体7をFUP4の端部後面に固定せず、プロテクタ移動規制体7をFUP4に近接又は接触させた状態で、前部車体側に支持された他の部材(例えばメインフレーム3に支持されたプロテクタ移動規制体支持ブラケット)にプロテクタ移動規制体7を固定してもよい。
【0053】
また、プロテクタ移動規制体7は本実施形態に限定されるものではなく、例えばエネルギ吸収部材等を使用してもよい。
【0054】
また、上部保持ユニット22の操作に2個のエアシリンダ24,28を用いたが、リンク機構等を組み合わせて1個のエアシリンダで操作してもよい。また、エアシリンダに限定されるものではなく、例えば油圧シリンダやリニアモータ等を使用してもよい。
【0055】
また、バネユニット32の非作動状態から作動状態への切替はソレノイド40の使用に限定されるものではない。
【0056】
また、下部保持ユニット32はバネユニット36を有しなくてもよい。この場合は、車両1の前方衝突により車両後方へ移動したプロテクタ移動規制体7の回転体接触部11が回転体14に前方から当接した時に、回転体14は、回転体接触面部の後面11aとフロントタイヤ12の前面12aとに前後から挟まれた状態で、フロントタイヤ12と反対方向に従動回転する。
【0057】
また、回転体ブラケット16の第1状態から第2状態への移動は、回転体ブラケット16の自由落下に限定されるものではなく、例えばエアシリンダ等の駆動源を用いて、より高速に移動させてもよい。
【0058】
また、本実施形態では、1つのECU44が衝突判定処理と回転体制御処理とを実行しているが、衝突判定処理を実行する処理装置と回転体制御処理を実行する処理装置とを、異なる別のユニットとして構成してもよい。従って、衝突判定処理を実行する装置を備えた既存の車両に対しては、回転体制御処理を実行する装置(ユニット)を追加して設置すればよく、このような既存の車両に対して、本発明を容易に適用して前方衝突時の他の車両のもぐり込み防止を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、貨物車両などの大型車両のもぐり込み防止装置として広く適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1:キャブオーバートラック(車両)
3:メインフレーム
4:フロントアンダーランプロテクタ
5:フロントアンダーランプロテクタブラケット
7:プロテクタ移動規制体

9:プロテクタ移動規制体の前側端面(プロテクタ移動規制体の前面)
10:フロントタイヤ接触部
10a:フロントタイヤ接触部の後面(プロテクタ移動規制体の後面)
11:回転体接触部
11a:回転体接触部の後面
12:フロントタイヤ
12a:フロントタイヤの前面
14:回転体
16:回転体ブラケット(回転体支持手段の回転体支持部材)
18:ストッパ
22:上部保持ユニット(回転体支持手段の第1保持手段)
23:上部前側保持板
24:前側エアシリンダ
27:上部後側保持板
28:後側エアシリンダ
32:下部保持ユニット(回転体支持手段の第2保持手段)
33:下部保持板
36:バネユニット(第2保持手段の付勢手段)
37:コイルバネ
39:回転体ブラケット接触板
40:ソレノイド
44:ECU(判定手段及び制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前端下部に支持されて車幅方向に延びるフロントアンダーランプロテクタと、
前記フロントアンダーランプロテクタの後方で前記車両の側部に支持されて前後方向に延び、前記フロントアンダーランプロテクタに近接又は接触する前面と、フロントタイヤの前面に対向する後面と、該後面よりも前下方で前記フロントタイヤの前面に対向する回転体接触面とを有するプロテクタ移動規制体と、
前記車両と他の車両との衝突の可能性が高い展開状態であるか否かを判定する判定手段と、
回転体と、
前記車両に支持され、前記フロントタイヤの前面から離間する第1位置で前記回転体を支持する第1状態と、前記フロントタイヤの前面と前記プロテクタ移動規制体の回転体接触面との間であって前記フロントタイヤの前面と面接触する第2位置で前記回転体を回転自在に支持する第2状態とに設定可能であり、前記第1状態の解除によって前記第2状態へ移行する回転体支持手段と、
前記展開状態であると前記判定手段が判定するまでの間は、前記回転体支持手段を前記第1状態に維持し、前記展開状態であると前記判定手段が判定したとき、前記回転体支持手段の前記第1状態を解除する制御手段と、を備えた
ことを特徴とする車両のもぐり込み防止装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のもぐり込み防止装置であって、
前記フロントアンダーランプロテクタは、前記プロテクタ移動規制体の前記前面を支持する
ことを特徴とする車両のもぐり込み防止装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両のもぐり込み防止装置であって、
前記回転体支持手段は、上下方向にスライド移動自在な回転体支持部材と、前記第1状態において前記回転体支持部材を解放自在に保持する第1保持手段と、前記第1状態から下方へ移動した前記第2状態の前記回転体支持部材を保持する第2保持手段とを有し、
前記回転体は、前記回転体支持部材の下部に回転自在に支持され、
前記第1状態が解除されると、前記第1保持手段が前記回転体支持部材を解放し、前記回転体支持部材が落下して、前記第2状態へ移行する
ことを特徴とする車両のもぐり込み防止装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両のもぐり込み防止装置であって、
前記第2保持手段は、前記回転体支持部材を後方へ付勢する付勢手段を有する
ことを特徴とする車両のもぐり込み防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−111273(P2012−111273A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259720(P2010−259720)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)