説明

車両のシートベルト装置

【課題】目的は、車両レイアウト性の自由度を確保しつつ、乗員を拘束可能なベルト本体の傾斜角確保とベルトアンカの支持強度確保との両立を図ることが可能なシートベルト装置を提供することである。
【解決手段】ベルトアンカ16は、ベルト本体10の屈曲方向を誘導して車体前後方向前方に方向変換可能なアンカ部16a、アンカ部16aを貫通・支持するボルト部16b、ボルト部16bと締結可能なナット部16cとから構成され、ヒンジ21の回転軸に近接する位置で、アンカ部16aはリフトゲートインナ3bと第2レインフォースメント3cとに締結固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転席の後方に配置される後部座席が、車幅方向において複数名の乗員によって着座可能とされ、更に、車幅方向中央領域に乗員が着座可能な中央席を設け、この中央席の左右両側に夫々座席を設けた3人掛けシートは知られている。
【0003】
衝突時の衝撃から座席に着座する乗員を保護するため、乗員を拘束するシートベルト装置が夫々の座席に設置されており、近年、後部座席に着座する乗員についてもシートベルトの着用が義務付けられている。安全性向上の観点から、後部座席、特に後部中央席のシートベルトについても、3点式とすることが望まれている。
【0004】
後部中央席の3点式シートベルトは、リトラクタから引き出されたベルト本体が車両上方位置に設置されたベルトアンカを経由した後、その先端に設けられたアンカ用タングがシートの車幅方向一方側のアンカ用バックルと係合され、ベルト本体途中部に摺動可能に設けられた乗員拘束用タングがシートの車幅方向他方側の乗員拘束用バックルと係合されることで乗員を3点で拘束している。
【0005】
後部中央席の3点式シートベルトでは、中央乗員の両隣に左右のシートが存在することから、左右シートのようにリトラクタをピラー内部に配置することができず、リトラクタ等のシートベルト装置をどの位置に配置するかが問題となる。シート自体にシートベルト装置を設置する技術も提案されているが、シート構造の大幅変更は本より、衝突時の荷重対策等、シートの総重量増加やコストアップの問題が新たに発生する。
【0006】
特許文献1は、リフトゲートに設置されたリトラクタから引き出されたベルト本体がシートバック上方、所謂シートの肩部分に設置されたベルトアンカを経由した後、その先端に設けられたアンカ用タングをシートの車幅方向一方側のアンカ用バックルと係合し、ベルト本体途中部に摺動可能に設けられた乗員拘束用タングをシートの車幅方向他方側の乗員拘束用バックルと係合する技術を提案している。特許文献1では、シートバックとシートクッションとの連結部分に大きな荷重が掛ることを防止しつつ、リトラクタの支持強度を向上できる。
【0007】
特許文献2は、車両のルーフ後縁部のリアヘッダに設けられたリフトゲートのヒンジレインフォースメントを後部座席用のベルトアンカの支持部とする技術を提案している。特許文献2では、シート構造の変更を行うことなく、後部中央席の3点式シートベルトの設置が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−240415号公報
【特許文献2】実開昭63−70461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、シートベルト装置はその機構上、衝突時、衝撃を有効に吸収するには、シートベルトにおけるベルトアンカと乗員の肩部当接部との間の傾斜角、所謂車体側面視で上下方向に対する角度を、乗員を良好に拘束できる程度の大きな傾斜角とする必要がある。このベルト本体の乗員に対する傾斜角を確保するため、支持強度が高くされたベルトアンカを乗員の車体前後方向後方側に設置するか、或いはベルトアンカとリトラクタとからなるシートベルト装置自体を乗員の後方側に設置する必要がある。
【0010】
特許文献1では、リトラクタをリフトゲートに設置するため、シートバックの肩部分に設置されたベルトアンカの支持強度に影響なく、シートベルト装置が有効に衝撃吸収することができる。しかしながら、リトラクタをリフトゲートに設けるため、シートベルト着用時、リフトゲートに設置されたリトラクタからベルトアンカが配置されるシートまでベルト本体が懸架されることになり、荷室空間が有効に利用できないという問題が生じる。
【0011】
また、前述の問題を考慮して、リトラクタの配置位置をルーフ等に設け、後部座席より前方側にリトラクタを配置することも考えられるが、シートバック上方に設置されたベルトアンカの支持強度を強固にして衝撃吸収する必要があり、シートバックとシートクッションとの連結部分、更にはベルトアンカ自体の支持強度の補強等シート自体の構造変更が必要とされる。
【0012】
特許文献2のように、ベルトアンカをルーフ後縁部のリアヘッダに設ける構造は、リトラクタの配置位置に拘わらずベルトアンカの支持強度を強固にするには有効である。しかしながら、前記構造を採用した場合、例えば、デザイン上の理由により車室の後面部を大きく前傾させる場合があるが、この場合、リアヘッダがシートバックの直上に位置することになり、その結果、リアヘッダにベルトアンカを設けた構造であっても、傾斜角を充分に確保できない場合がある。(図15参照)
【0013】
本発明の目的は、車両レイアウト性の自由度を確保しつつ、乗員を拘束可能なベルト本体の傾斜角確保とベルトアンカの支持強度確保との両立を図ることが可能なシートベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る車両のシートベルト装置は、ルーフの車体前後方向後縁部に設けられるリアヘッダと、このリアヘッダの車体前後方向に近接する位置に配置される後部座席と、この後部座席の車体前後方向後方に配置されるリフトゲートと、前記後部座席に着座した乗員を拘束するベルト本体とこのベルト本体を収容するリトラクタとを有する。
【0015】
請求項1の発明は、前記リトラクタから引き出された前記ベルト本体を車体前後方向前方に方向変換するベルトアンカを有し、このベルトアンカは前記リフトゲートに配置されたことを特徴とする。
【0016】
請求項1の発明では、ベルト本体を車体前後方向前方に方向変換するベルトアンカを有するため、リトラクタの設置位置を自由に設定できる。また、車両構成部材であるリフトゲートにベルトアンカを配置したため、ベルトアンカの支持強度の向上が図れる。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、リトラクタは、前記ルーフに設けられたことを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、リトラクタは、前記リフトゲートに設けられたことを特徴とする。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れかの発明において、リアヘッダに設けられると共に前記リフトゲートを開閉可能に支持するヒンジ部を有し、前記ベルトアンカは、前記ヒンジ部の回転軸に対して車体前後方向に近接して配置されたことを特徴とする。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1〜4の何れかの発明において、ベルトアンカは、前記リフトゲートの開閉動作に伴って前記ベルトアンカを車幅方向に移動させる移動手段を有することを特徴とする。
【0021】
請求項6の発明は、請求項1〜5の何れかの発明において、後部座席は、車幅方向に複数名乗員が着座可能とされると共に車幅方向中央領域に乗員が着座可能な中央席を備え、前記ベルト本体は、前記中央席に着座した乗員を拘束することを特徴とする。
【0022】
請求項7の発明は、請求項1〜6の何れかの発明において、ベルト本体は、前記ベルト本体の先端部にアンカ用タングと、前記ベルト本体の途中部に乗員拘束用タングとを有し、乗員が着座したとき、乗員の車幅方向一方側に前記アンカ用タングと係合可能なアンカ用バックルと、乗員の車幅方向他方側に前記乗員拘束用タングと係合可能な乗員拘束用バックルとを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、車両レイアウト性の自由度を確保しつつ、乗員を拘束可能なベルト本体の傾斜角確保とベルトアンカの支持強度確保との両立を図ることが可能なシートベルト装置を得ることができる。つまり、車両構成部材であり且つ車両後端となるリフトゲートにベルトアンカを配置したため、ベルトアンカの支持を強固にすることができる。しかも、リトラクタの配置位置及び後部座席の配置位置に拘わらず、ベルトアンカと乗員の肩部当接部との間の傾斜角、所謂車体側面視で上下方向に対する角度を、乗員を良好に拘束できる程度の大きな傾斜角とすることができ、シートベルト装置が有効に衝撃吸収することができる。
【0024】
請求項2の発明によれば、リトラクタをルーフに設けたため、リトラクタがリフトゲートに設置できない場合であっても、アンカポイントを乗員後方側として傾斜角を充分に確保可能なシートベルト装置を得ることができる。
【0025】
請求項3の発明によれば、リトラクタをリフトゲートに設けたため、リトラクタがルーフに設置できない場合であっても、アンカポイントを乗員後方側として傾斜角を充分に確保可能なシートベルト装置を得ることができる。しかも、乗員のヘッドクリアランスを確保することができ、乗員の快適性を得ることができる。
【0026】
請求項4の発明によれば、ベルトアンカは、リフトゲートのヒンジ部の回転軸に対して車体前後方向に近接して配置されるため、乗員のシートベルト着用時、リフトゲートが開作動されても、アンカポイントの移動に伴う乗員のベルト本体による引っ張られ感を最小に抑えることができる。
【0027】
請求項5の発明によれば、リフトゲートの開閉動作に伴って前記ベルトアンカを車幅方向に移動させる移動手段を有するため、乗員のシートベルト着用時、リフトゲートが開作動されても、アンカポイントの移動に伴う乗員のベルト本体による引っ張られ感を最小に抑えることができる。
【0028】
請求項6の発明によれば、ベルト本体は、後部座席の中央席に着座した乗員を拘束するため、リトラクタの配置が困難な後部中央席であっても、有効なシートベルト装置を得ることができる。
【0029】
請求項7の発明によれば、乗員が着座したとき、乗員の車幅方向一方側にアンカ用タングと係合可能なアンカ用バックルと、乗員の車幅方向他方側に乗員拘束用タングと係合可能な乗員拘束用バックルとを設けたため、乗員の拘束に有効な3点式シートベルト装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1を示す車両の側部断面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図2におけるIII−III線断面図である。
【図4】図2におけるIV−IV線断面図である。
【図5】実施例1に係るリトラクタの取付領域の斜視図である。
【図6】実施例1に係る車両後方領域を車両外側から見た図である。
【図7】実施例1に係るシートベルト未着用時の図4相当図である。
【図8】実施例2を示す車両の側部断面図である。
【図9】図8の正面図である。
【図10】図9におけるX−X線断面図である。
【図11】図9におけるXI−XI線断面図である。
【図12】実施例2に係るリフトゲート内部を車体後方側から見た図である。
【図13】図12におけるXIII−XIII線断面図である。
【図14】実施例2に係る移動手段の斜視図である。
【図15】従来の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0032】
図1及び図2に示すように、車両Aはミニバンタイプの車両であり、フロアパネル1、ルーフ2、リフトゲート3、図示しない左右サイドフレーム及び左右サイドドアとによって車室4を構成している。フロアパネル1上に設置されたシート5(後部座席)は、図示しない運転席及び助手席を構成する最前列シートの車両前後方向後方に配置され、車室4の最後列シートを構成する。
【0033】
シート5は、シートクッション6、シートバック7、シートバック7に着脱自在に取付けられたヘッドレスト8とから構成する。また、シート5は、ベンチ式とされ、車幅方向中央領域に設けられた中央席の他に、中央席左に位置する左席、中央席右に位置する右席との3座席を備えた3人掛けシートとされる。
【0034】
シートクッション6は、図示しないブラケットを介してフロアパネル1に取付けられ、前後方向にスライド可能とされる。シートバック7は、シートクッション6に対して前後に揺動可能とされ、前倒しされたとき、シートクッション6上に略水平状態で重合し、前方倒伏位置となる。シートバック7の背面は、略平坦面とされ、前方倒伏位置のとき、略水平状態の物置面を構成する。
【0035】
シート5の中央席に着座する乗員用シートベルト装置9は、着用時に乗員を拘束するベルト本体10、ベルト本体10を巻き取り・引き出し可能に収容するリトラクタ11、ベルト本体10の先端部に設置される第1タング12(アンカ用タング)、ベルト本体10の途中部に摺動可能に設置される第2タング13(乗員拘束用タング)、乗員の右側に固定されると共に第1タング12と係合可能な第1バックル14(アンカ用バックル)、乗員の左側に固定されると共に第2タング13と係合可能な第2バックル15(乗員拘束用バックル)、及びリフトゲート3に設置されリトラクタ11から引き出されたベルト本体10を屈曲させて車体前後方向前方に方向変換するベルトアンカ16とから構成される3点式シートベルト装置である。
【0036】
図3〜図7に基づき、実施例1のシートベルト装置9を詳細に説明する。尚、図3は図2のIII−III線断面図、図4は図2のIV−IV線断面図、図5は車室内から見たリトラクタ11の取付領域の斜視図、図6は車両V後方領域を車両外側から見た図、図7はシートベルト装置9の未着用時の図4相当図である。
【0037】
まず、リトラクタ11の取付構造について説明する。
ルーフ2の車体前後方向後縁部には、車幅方向に延設されるリアヘッダアウタ17aと、リアヘッダインナ17bと、両者の間に介在される第1レインフォースメント17cとにより閉断面を構成するリアヘッダ17が形成されている。実施例1におけるシート5は、車体前後方向で見て、リアヘッダ17に近接して設置されており、特に、シートクッション6が車体前後方向でリアヘッダ17に一部重合する設置とされている。
【0038】
ルーフ2の車幅方向両端には、閉断面を構成する一対のルーフレール2aが配置されている。つまり、ルーフ2は、その外枠領域に閉断面を構成する左右一対のルーフレール2a、リアヘッダ17、図示しないフロントヘッダとを有している。尚、ルーフレール2a及びリアヘッダ17の車室4内側、所謂車体上下方向下方領域は、トリム18によって覆われている。
【0039】
図5に示すように、リトラクタ11は、緊急式シートベルトリトラクタ(ELR)とされ、ガセット19によってルーフ2の右側後端領域に固定されている。尚、ELRは公知の構造であるため、詳細な説明は省略する。ガセット19は、略三角形状とされ、後端部分ではリアヘッダインナ17bと第1レインフォースメント17cとを共締め状態で2ヶ所、右側部分ではルーフレール2aに1ヶ所、ボルトによってルーフ2に合計3ヶ所締結されている。
【0040】
リトラクタ11は、図示しないボルトによってガセット19に固定されており、ルーフ2に対向した状態で軸心を車幅方向に向けて配置されている。ベルト本体10は、リトラクタ11からガセット19に形成されたスリット状の開口19aを貫通して車室4内に引き出し・巻き取り可能に構成されている。
【0041】
次に、ベルトアンカ16の取付構造について説明する。
リフトゲート3は、リフトゲートアウタ3aと、リフトゲートインナ3bと、両者の間に介在する第2レインフォースメント3cと、リアウインド20が設置されるウインド開口3dとから構成している。ウインド開口3dの上部領域には、リフトゲートアウタ3aとリフトゲートインナ3bとによって車幅方向に延びる閉断面が形成され、この閉断面内に第2レインフォースメント3cが車幅方向に延設されている。
【0042】
リフトゲート3は、ルーフ2の左右端夫々の後縁部に設けられた回転可能なヒンジ21によってヒンジ21の回転軸O中心に開閉可能に支持されている。ヒンジ21は、一方をルーフ2とリアヘッダアウタ17aと第1レインフォースメント17cとの3者を共締め状態でボルト締めされ、他方をリフトゲートインナ3bと第2レインフォースメント3cとを共締め状態でボルト締めされている。尚、第2レインフォースメント3cはヒンジ21の取付部を補強する補強部材となっている。
【0043】
ベルトアンカ16は、ベルト本体10の屈曲方向を誘導して車体前後方向前方に方向変換可能なアンカ部16a、アンカ部16aを貫通・支持するボルト部16b、ボルト部16bと締結可能なナット部16cとから構成している。図2及び図6に示すように、ベルトアンカ16は、車幅方向で見て、リトラクタ11とシート5の中央席との間、所謂車幅方向中心領域からオフセットした位置に設置される。この構成により、第1タング12と第1バックル14との係合後、第2タング13を第2バックル15に係合したとき、ベルト本体10は乗員の右側後方から左側下方に充分な傾斜角をもって配置され、乗員の障害となることなく3点式シートベルトの機能を達成できる。
【0044】
図4に示すように、アンカ部16aは、車体前後方向で見て、ヒンジ回転軸Oとウインド開口3dとの間、所謂ヒンジ回転軸Oに近接する位置で、リフトゲートインナ3bと第2レインフォースメント3cとに締結固定されている。この構成により、リトラクタ11が乗員の直上位置のようにシート5に対して車体前方側に配置されたとしても、ベルト本体10のアンカポイントを乗員の座席位置よりも充分に後方側にすることができると共に、車両構成部材のリフトゲートインナ3bと第2レインフォースメント3cとによって強固に支持することができる。
【0045】
図7に示すように、シートベルト装置9の未着用時、ベルト本体10はリトラクタ11に巻き取られるため、アンカ部16aの位置に第1タング12及び第2タング13が集中配置されている。
【0046】
実施例1に係るシートベルト装置9の作用・効果について説明する。
車両構成部材であり且つ車両Vの後端部となるリフトゲート3にベルトアンカ16を配置したため、ベルトアンカ16の支持を強固にすることができる。また、ベルト本体10を屈曲させるアンカポイントが確実に乗員の後方側とすることにより、図4に示すように、リトラクタ11の配置位置及びシート5の配置位置に拘わらず、車体側面視で上下方向に対するベルト本体10の傾斜角を、乗員を良好に拘束できる程度の大きな傾斜角とすることができ、シートベルト装置9が有効に衝撃吸収することができる。
【0047】
また、リトラクタ11をルーフ2に固定したため、リトラクタ11がリフトゲート3に設置できない場合であっても、アンカポイントを乗員後方側として傾斜角を充分に確保可能なシートベルト装置9を得ることができる。
【0048】
更に、ベルトアンカ16は、リフトゲート3のヒンジ21の回転軸Oに対して車体前後方向に近接して配置されるため、乗員によるベルト着用時、リフトゲート3が開作動されても、アンカポイントの移動に伴う乗員のベルト本体10による引っ張られ感を最小に抑えることができる。
【実施例2】
【0049】
次に、図8〜図14に基づき、実施例2を説明する。尚、実施例1と同一部材は同一符号を付している。実施例1との相違点は、実施例1ではリトラクタ11をルーフ2に設置したのに対し、実施例2ではリトラクタ11をリフトゲート3に設置すると共に、アンカポイントを車幅方向に対して可動にした点である。
【0050】
図8及び図9に示すように、車両Aは、フロアパネル1、ルーフ2、リフトゲート3、図示しない左右サイドフレーム及び左右サイドドアとによって車室4を構成している。フロアパネル1上に設置されたシート5は、図示しない運転席及び助手席を構成する最前列シートの車両前後方向後方に配置され、車室4の最後列シートを構成する。
【0051】
シート5は、シートクッション6、シートバック7、シートバック7に着脱自在に取付けられたヘッドレスト8とから構成する。また、シート5は、ベンチ式とされ、車幅方向中央領域に配置された中央席の他に、中央席左に位置する左席、中央席右に位置する右席との3座席を備えた3人掛けシートとされる。
【0052】
シート5の中央席に着座する乗員用のシートベルト装置9は、着用時に乗員を拘束するベルト本体10、ベルト本体10を収容するリトラクタ11、ベルト本体10の先端部に設置された第1タング12、ベルト本体10の途中部に摺動可能に設置された第2タング13、乗員の右側に固定されると共に第1タング12と係合可能な第1バックル14、乗員の左側に固定されると共に第2タング13と係合可能な第2バックル15、リフトゲート3に配置されリトラクタ11から引き出されたベルト本体10を屈曲させて車体前後方向前方に方向変換するベルトアンカ16、ベルトアンカ16をリフトゲート3の開閉作動に伴って車幅方向に移動させる移動手段22とから構成される3点式シートベルト装置である。
【0053】
図10〜図14に基づき、実施例2のシートベルト装置9を詳細に説明する。尚、図10は図9のX−X線断面図、図11は図9のXI−XI線断面図、図12はリフトゲート内部を車体後方側から見た図、図13は図12のXIII−XIII線断面図、図14は移動手段22の斜視図である。
【0054】
まず、リトラクタ11の取付構造について説明する。
リフトゲート3は、リフトゲートアウタ3aと、リフトゲートインナ3bと、両者の間に介在する第2レインフォースメント3cと、リアウインド20が設置されるウインド開口3dと、車幅方向右側端部に設けられリトラクタ11が設置されるリトラクタ開口3eと、リフトゲートインナ3bの車室4側の内装材23と、リフトゲート3の開閉作動の速度を緩やかにするダンパ部材24とから構成している。
【0055】
ウインド開口3d上部領域には、リフトゲートアウタ3aとリフトゲートインナ3bとによって車幅方向に延びる閉断面が形成され、この閉断面内に第2レインフォースメント3cが車幅方向に延設されている。
【0056】
リフトゲート3は、ルーフ2の左右端夫々の後縁部に設けられた回転可能なヒンジ21によってヒンジ21の回転軸O中心に開閉可能に支持されている。ヒンジ21は、一方をルーフ2とリアヘッダアウタ17aと第1レインフォースメント17cとを共締め状態でボルト締めされ、他方をリフトゲートインナ3bと第2レインフォースメント3cとを共締め状態でボルト締めされている。
【0057】
図12及び図13に示すように、リトラクタ開口3eに配置されるリトラクタ11は、ガセット19によってリフトゲートインナ3bと第2レインフォースメント3cとにボルトによって支持固定される。尚、第2レインフォースメント3cはヒンジ21の取付部を補強する補強部材となっている。
【0058】
リトラクタ11は、図示しないボルトによってガセット19に固定されており、リフトゲートアウタ3aに対向した状態で軸心を車体前後方向に向けて配置されている。ベルト本体10は、ガセット19に形成されたスリット状の開口19aと内装材23のスリット状の開口23aとを貫通して車室4内に引き出し・巻き取り可能に構成されている。
【0059】
次に、ベルトアンカ16の取付構造について説明する。
ベルトアンカ16は、ベルト本体10を屈曲方向を誘導して車体前後方向前方に方向変換可能なアンカ部16a、アンカ部16aを貫通するボルト部16b、ボルト部16bと締結可能なナット部16cとから構成している。
【0060】
図14に示すように、ベルトアンカ16が固定される移動手段22は、C字状のケーシング22a、ケーシング22aの長手方向に開口する溝部22b、ケーシング22a内に収容されると共にケーシング22a内をケーシング22aにガイドされて摺動可能な摺動部22c、溝部22bの一端側に立設する壁部22d、溝部22bの他端側に立設する壁部22e、壁部22dと壁部22eとの間に配置されると共に常時壁部22d側に付勢するばね部材25、一端がばね部材25の壁部22d側端部と摺動部22cとに連結されると共に他端がダンパ部材24の外筒に連結されるワイヤ部材26とから構成している。
【0061】
アンカ部16aは、ボルト部16bとナット部16cとによって摺動部22cに固定されると共に、摺動部22cを介してワイヤ部材26の一端に接続されている。ベルトアンカ16が装着された移動手段22は、車幅方向で見て、リトラクタ11とシート5の中央席との間、所謂車幅方向中心領域からオフセットした位置で、且つ壁部22dが車幅方向中央側となるようリフトゲートインナ3bと第2レインフォースメント3cとにボルトによって支持固定される。
【0062】
この構成により、アンカ部16aは、通常、ばね部材22fの付勢力によって溝部22bの壁部22d側一端位置、所謂車幅方向中央側位置に付勢されている。リフトゲート3が開作動したとき、リフトゲート3の開作動に伴ってダンパ部材24と移動手段22との相対位置関係が変わり、両者の離間距離が長くなる。
【0063】
ダンパ部材24と移動手段22との離間距離が長くなり、ワイヤ部材26が引っ張られた結果、ばね部材25の付勢力に抗してばね部材25壁部22e側に圧縮する。このばね部材25の圧縮に同期して摺動部22cが壁部22e側他端位置、所謂アンカ部16aがリトラクタ11方向に摺動しながら移動する。リフトゲート3を閉作動したときは、ばね部材25の圧縮が解放され、ワイヤ部材26が緩められた結果、アンカ部16aは通常位置である車幅方向中央側位置に戻る。
【0064】
つまり、シートベルト着用時、リフトゲート3が閉状態の場合、第1タング12と第1バックル14との係合後、第2タング13を第2バックル15に係合したとき、ベルト本体10は乗員の右側後方から左側下方に充分な傾斜角を確保した状態で配置され、乗員の障害となることなく3点式シートベルトの機能を達成できる。一方、シートベルト着用中にリフトゲート3が開作動された場合、リフトゲート3の開作動に伴ってアンカ部16aが車幅方向外側、所謂第1タング12方向に移動するため、乗員のベルト本体10による引っ張られ感を最小に抑えることができる。
【0065】
実施例2に係るシートベルト装置9の作用・効果について説明する。
車両構成部材であり且つ車両V後端となるリフトゲート3にベルトアンカ16を配置したため、ベルトアンカ16の支持を強固にすることができると共に、ベルト本体10を屈曲させるアンカポイントが確実に乗員の後方側とすることにより、リトラクタ11の配置位置及びシート5の配置位置に拘わらず、車体側面視で上下方向に対するベルト本体10の傾斜角を充分に確保でき、シートベルト装置9が有効に衝撃吸収することができる。
【0066】
リトラクタ11をリフトゲート3の閉断面内に設けたため、リトラクタ11がルーフ2に設置できない場合であっても、アンカポイントを乗員後方側として傾斜角を充分に確保可能なシートベルト装置9を得ることができる。しかも、乗員のヘッドクリアランスを確保することができ、乗員の快適性を得ることができる。
【0067】
リフトゲート3の開閉動作に伴ってベルトアンカ16を車幅方向外側に移動させる移動手段22を有するため、乗員のシートベルト着用時、リフトゲート3が開作動されても、乗員のベルト本体10による引っ張られ感を最小に抑えることができる。
【0068】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、リトラクタを緊急式シートベルトリトラクタ(ELR)の例について説明したが、リトラクタのタイプに拘わらず、例えば、自動シートベルトリトラクタ(ALR)であっても良い。
【0069】
2〕前記実施例においては、ミニバンタイプの車両の例について説明したが、少なくとも、リアヘッダよりも後方に配置され、強固且つベルトアンカが配置可能な車両構成部材を有するものであれば良く、例えば、ハッチバックタイプの車両に適用することも可能である。
【0070】
3〕前記実施例においては、ベルトアンカが車幅方向右側にオフセットして設置され、ベルト本体が乗員の右側後方から左側下方に傾斜配置された例について説明したが、ベルトアンカを車幅方向左側にオフセットして設置することも可能である。この場合、乗員は第1タングと第2バックルとの係合後、第2タングを第1バックルに係合することになり、ベルト本体は乗員の左側後方から右側下方に傾斜配置される。
【0071】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、リフトゲートを有する車両のシートベルト装置全般に利用することができ、特に、後部座席とリアヘッダとが車体前後方向で近接配置される車両のシートベルト装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
V 車両
2 ルーフ
3 リフトゲート
4 車室
5 シート
9 シートベルト装置
10 ベルト本体
11 リトラクタ
12 第1タング
13 第2タング
14 第1バックル
15 第2バックル
16 ベルトアンカ
16a アンカ部
21 ヒンジ
22 移動手段
22a ケーシング
22c 摺動部





【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフの車体前後方向後縁部に設けられるリアヘッダと、このリアヘッダの車体前後方向に近接する位置に配置される後部座席と、この後部座席の車体前後方向後方に配置されるリフトゲートと、前記後部座席に着座した乗員を拘束するベルト本体とこのベルト本体を収容するリトラクタとを有する車両のシートベルト装置において、
前記リトラクタから引き出された前記ベルト本体を車体前後方向前方に方向変換するベルトアンカを有し、
このベルトアンカは前記リフトゲートに配置されたことを特徴とする車両のシートベルト装置。
【請求項2】
前記リトラクタは、前記ルーフに設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両のシートベルト装置。
【請求項3】
前記リトラクタは、前記リフトゲートに設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両のシートベルト装置。
【請求項4】
前記リアヘッダに設けられると共に前記リフトゲートを開閉可能に支持するヒンジ部を有し、
前記ベルトアンカは、前記ヒンジ部の回転軸に対して車体前後方向に近接して配置されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車両のシートベルト装置。
【請求項5】
前記ベルトアンカは、前記リフトゲートの開閉動作に伴って前記ベルトアンカを車幅方向に移動させる移動手段を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の車両のシートベルト装置。
【請求項6】
前記後部座席は、車幅方向に複数名乗員が着座可能とされると共に車幅方向中央領域に乗員が着座可能な中央席を備え、
前記ベルト本体は、前記中央席に着座した乗員を拘束することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の車両のシートベルト装置。
【請求項7】
前記ベルト本体は、前記ベルト本体の先端部にアンカ用タングと、前記ベルト本体の途中部に乗員拘束用タングとを有し、
乗員が着座したとき、乗員の車幅方向一方側に前記乗員拘束用タングと係合可能な乗員拘束用バックルと、乗員の車幅方向他方側に前記アンカ用タングと係合可能なアンカ用バックルとを設けたことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の車両のシートベルト装置。













【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−179705(P2010−179705A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22811(P2009−22811)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】