説明

車両のフロントグリル開閉制御装置

【課題】 フロントグリルの開閉により、車両の高速走行時の操舵安定性と、車両が横風を受けたときの偏向防止とを両立させる。
【解決手段】 圧力センサで検出した横風の強さと、横加速度センサで検出した車両の横加速度とに基づいて、横風の強さが大きいときにフロントグリルを閉鎖して前輪の接地荷重を増加させることで、横風を受けたときの車両の偏向を防止することができ(領域A参照)、横風の強さが小さいときにフロントグリルを開放して後輪の接地荷重を増加させることで、高速走行時の操舵安定性を高めることができる(領域B1参照)。また衝突回避等の緊急時に大きな横加速度が検出されたときには、横風の強さが小さくてもフロントグリルを閉鎖して前輪の接地荷重を増加させることで、操舵応答性を鋭敏にして衝突回避を効果的に行わせることができる(領域B2参照)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンルームに走行風を導入するフロントグリルをアクチュエータで開閉する車両のフロントグリル開閉制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前部に開閉自在なフロントグリルと常開の空気導入口とを設け、高速走行時にフロントグリルを閉じて車体の抗力係数を低下させながら、空気導入口から導入した冷却風でエンジンの冷却を図るものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また車体前部の中央下部に収納および展開可能な第1エアスポイラを設けるとともに、車体前部にフロントグリルを開閉する第2エアスポイラを設け、かつ車体後部の中央上部に収納および展開可能な第3エアスポイラを設けるとともに、車体後部の左右両側部に上方に展開可能な第4エアスポイラを設け、エンジンの温度、横風の強さ、タイヤの接地荷重、起動修正の有無、車両の制動状態等に基づいて前記第1〜第4エアスポイラの状態を切り換えるものが、下記特許文献2により公知である。
【0004】
また車体前部の前エアスポイラ、車体後部の後エアスポイラおよびフロントグリルを開閉するグリルシャッタを作動させることで、車体の前後の揚力係数を制御して走行安定性を総合的に高めるものが、下記特許文献3により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−158171号公報
【特許文献2】特開平4−237686号公報
【特許文献3】特開平6−305451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1〜特許文献3に記載された発明は、何れもフロントグリルを開閉制御する構成を備えているが、その目的は車両の横風安定性を高めるためではない。上記特許文献2に記載された発明は車両の横風安定性を高めることを目的の一つにしているが、その手段として車体後部の左右両側部に設けられて上方に展開可能な第4エアスポイラを使用しており、フロントグリルの開閉手段は用いていない。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、フロントグリルの開閉により、車両の高速走行時の操舵安定性と、車両が横風を受けたときの偏向防止とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車両のエンジンルームに走行風を導入するフロントグリルをアクチュエータで開閉する車両のフロントグリル開閉装置において、車体前部の左右両側面の圧力差を圧力センサで検出するとともに、車両の横運動量を横運動量センサで検出し、前記圧力差および前記横運動量に基づいて前記アクチュエータの作動を制御することを特徴とする車両のフロントグリル開閉制御装置が提案される。
【0009】
尚、実施の形態の横加速度センサ14は本発明の横運動量センサに対応する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成によれば、圧力センサで検出した車体前部の左右両側面の圧力差(つまり横風の強さ)と、横運動量センサで検出した車両の横運動量とに基づいて、フロントグリルを開閉するアクチュエータの作動を制御するので、横風の強さが大きいときにフロントグリルを閉鎖して前輪の接地荷重を増加させることで、横風による車両の偏向を防止することができ、横風の強さが小さいときにフロントグリルを開放して後輪の接地荷重を増加させることで、高速走行時の操舵安定性を高めることができる。また衝突回避等の緊急時に大きな横運動量が検出されたときにフロントグリルを閉鎖して前輪の接地荷重を増加させることで、操舵応答性を鋭敏にして衝突回避を効果的に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フロントグリルの開閉装置を備えた車両の全体構成図。
【図2】図1の2−2線拡大矢視図。
【図3】フロントグリルの開閉が車両の揚力係数に及ぼす影響を示す図。
【図4】フロントグリルの開閉制御の作用を説明するフローチャート。
【図5】フロントグリルの開領域および閉領域を検索するマップを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1に示すように、四輪の自動車は、フロントグリル11を開閉するアクチュエータ12を備えており、アクチュエータ12の作動を制御する電子制御ユニットUには、車体前部の左右両側面の圧力を検出する左右一対の圧力センサ13L,13Rと、車両の横運動量としての横加速度を検出する横加速度センサ14と、エンジンの冷却水温度を検出する冷却水温度センサ15とが接続される。
【0014】
図2に示すように、フロントグリル11は左右方向に水平に延びて上下方向に所定間隔で配置された複数のフィン21…を備えており、各フィン21…は、その左右両端の前後方向中間部がピン22…で車体に揺動自在に支持されるとともに、その後端が共通の駆動ロッド23に枢支される。そして駆動ロッド24を前記アクチュエータ12の出力軸に固定したアーム24で上下に押し引きすることで、フィン21…は走行風を通過させてラジエータ25に導く開放状態(実線参照)と、走行風の通過を遮断する閉鎖状態(鎖線参照)との間で揺動する。
【0015】
通常の走行時には、エンジン、ラジエータ、エアコンのコンデンサ等が配置されたエンジンルームに冷却風を導入すべくフロントグリル11は開いているが、フロントグリル11を閉じることで、車体の抗力係数CDおよび揚力係数CLを共に減少させることができる。特に、揚力係数CLについては、車体全体の揚力係数CLが減少するだけでなく、車体前部の揚力係数CLfが車体後部の揚力係数CLrに比べて著しく減少することで、後輪Wr,Wrの接地荷重が占める割合に対して前輪Wf,Wfの接地荷重が占める割合が増加することになる。
【0016】
図3に示すように、大型セダン系の車両では、フロントグリル11を開放状態から閉鎖状態に切り換えると、車体全体の揚力係数CLは正値の範囲で減少するとともに、前後の揚力係数の差CLf−CLrが正値から負値に変化する。即ち、フロントグリル11を開いた状態では、車体前部の揚力係数CLfが車体後部の揚力係数CLrよりも大きいが、フロントグリル11を閉じた状態では、車体後部の揚力係数CLrが車体前部の揚力係数CLfよりも大きくなり、後輪Wr,Wrの接地荷重が減少して前輪Wf,Wfの接地荷重が増加することになる。
【0017】
また小型ハッチバック系の車両では、フロントグリル11を開いた状態から閉じた状態に切り換えると、車体全体の揚力係数CLは負値の範囲で減少するとともに、前後の揚力係数の差CLf−CLrが負値の範囲で減少する。即ち、フロントグリル11を開いた状態でも、車体後部の揚力係数CLrが車体前部の揚力係数CLfよりも大きいが、フロントグリル11を閉じた状態では、車体後部の揚力係数CLrが車体前部の揚力係数CLfよりも更に大きくなり、後輪Wr,Wrの接地荷重が減少して前輪Wf,Wfの接地荷重が増加することになる。
【0018】
つまり、大型セダン系の車両でも、小型ハッチバック系の車両でも、フロントグリル11を閉じることで後輪Wr,Wrで接地荷重を減少させて前輪Wf,Wfの接地荷重が増加させることができる。
【0019】
ところで、高速走行時に空気力の影響による効果を得て操舵安定性を高めるには、前輪Wf,Wfの接地荷重に対して後輪Wr,Wrの接地荷重を大きめに設定することが望ましいが、横風を受けたときの車体の偏向を防止するには、後輪Wr,Wrの接地荷重に対して前輪Wf,Wfの接地荷重を大きめに設定することが望ましく、両者はトレードオフの関係にあって両立することが困難である。
【0020】
そこで本実施の形態では、左右一対の圧力センサ13L,13Rで検出した車体前部の左右圧力差(つまり横風の強さ)に応じてフロントグリル11を開閉することで、高速走行時の操舵安定性と横風を受けたときの偏向防止とを両立させる制御が行われる。
【0021】
次に、図4のフローチャートに基づいてフロントグリル11の開閉制御について説明する。
【0022】
先ずステップS1で冷却水温度センサ15で冷却水温度を検出し、ステップS2で冷却水温度が高く、ラジエータ25による冷却水の冷却が必要である場合には、ステップS3で優先的にフロントグリル11を開いて冷却風をラジエータ25に導入することで、冷却水を走行風で冷却してエンジンのオーバーヒートを防止する。
【0023】
前記ステップS2で冷却水温度が低くてエンジンがオーバーヒートする虞がないとき、ステップS4で左右の圧力センサ13L,13Rの出力を比較することで横風の強さを検出し、ステップS5で横加速度センサ14で車両の横加速度を検出する。そしてステップS6で横風の強さと横加速度とをパラメータとして図5のマップを検索し、ステップS7でフロントグリル11の閉領域であれば、ステップS8でアクチュエータ12によりフロントグリル11を閉鎖し、フロントグリル11の開領域であれば、前記ステップS3でアクチュエータ12によりフロントグリル11を開放する。
【0024】
図5はフロントグリル11の開領域および閉領域を検索するマップであり、縦軸のパラメータは横風の強さであり、横軸のパラメータは横加速度である。横風の強さが閾値以上の領域Aではフロントグリル11を閉鎖する。これにより、車体後部の揚力係数CLrが車体前部の揚力係数CLfよりも大きくなり、後輪Wr,Wrの接地荷重が減少して前輪Wf,Wfの接地荷重が増加することで、車両の風下への偏向を抑制して横風に対する安定性を高めることができる。
【0025】
一方、横風の強さが閾値未満の領域B1ではフロントグリル11を開放する。これにより、車体前部の揚力係数CLfが車体後部の揚力係数CLrよりも大きくなり、前輪Wf,Wfの接地荷重が減少して後輪Wr,Wrの接地荷重が増加することで、車両の操舵応答性が安定(鈍感)になり、特に高速走行時の操舵安定性を高めることができる。
【0026】
横風の強さが前記閾値未満であっても横加速度が大きい領域B2では、前記領域Aと同様にフロントグリル11を閉鎖することで、後輪Wr,Wrの接地荷重を減少させて前輪Wf,Wfの接地荷重を増加させる。これによりステアリングホイールの利きが敏感になり、横加速度が大きくなる障害物との衝突回避等の緊急時に車両の操舵応答性を高めることができる。
【0027】
また横風の強さが前記閾値未満であり、かつ車両が略直進走行していて横加速度が小さい領域B3では、横風の影響は殆ど問題にならないため、フロントグリル11を閉鎖することで車体の抗力係数CDを低下させて燃料消費量を節減することができる。
【0028】
以上のように、本実施の形態によれば、横風が強いときにフロントグリル11を閉鎖して前輪Wf,Wfの接地荷重を増加させることで、車両の偏向を防止して横風安定性を高めることができ、横風が弱いときにフロントグリル11を開放して後輪Wr,Wrの接地荷重を増加させることで、高速走行時の操舵安定性を高めることができる。また横風が小さいときであっても、衝突回避等の緊急時に大きな横加速度が検出されたときにはフロントグリル11を閉鎖して前輪Wf,Wfの接地荷重を増加させることで、操舵応答性を鋭敏にして衝突回避を効果的に行わせることができる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0030】
例えば、実施の形態では車両の横運動量として横加速度センサ14で検出したで横加速度を用いているが、ヨーレートセンサで検出したヨーレートを用いても良い。
【符号の説明】
【0031】
11 フロントグリル
12 アクチュエータ
13L 圧力センサ
13R 圧力センサ
14 横加速度センサ(横運動量センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンルームに走行風を導入するフロントグリル(11)をアクチュエータ(12)で開閉する車両のフロントグリル開閉制御装置において、
車体前部の左右両側面の圧力差を圧力センサ(13L,13R)で検出するとともに、車両の横運動量を横運動量センサ(14)で検出し、前記圧力差および前記横運動量に基づいて前記アクチュエータ(12)の作動を制御することを特徴とする車両のフロントグリル開閉制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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