説明

車両のフロントバンパ構造

【課題】簡素な構成で、フロントバンパ本来の機能(衝撃吸収機能)を維持しつつ、作業者がフロントウィンドウを清掃する場合等の作業性を向上させる。
【解決手段】車両前面に取付けられるフロントバンパ2の前面に、車幅方向に延びて形成された間隙部3と、この間隙部3の下縁部に設けられ、水平に延設された踏板部を有するステッププレート4と、この間隙部3の上縁部を構成し、後方に開放する断面コ字状に形成されたフロントバンパアッパ5とを備え、フロントバンパアッパ5の踏板部と対向する対向面部に、所定の幅で上方に変位するように湾曲形成された変形部が車幅方向に複数設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前面に取り付けられるフロントバンパ構造に関し、特に車両のフロントウィンドウの清掃等に作業者が利用するステップ部を備えたフロントバンパ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トラック等の大型車両(以下、車両という)では、フロントウィンドウを清掃する場合、作業者は車両前面の下部に取付けられたフロントバンパの上部をステップとして利用するが、このフロントバンパの上部は面積が狭いため、十分に足場を確保することができず、清掃等の作業性が安定しないといった課題がある。
このような課題を解決する技術として、例えば、特許文献1には、フロントバンパ前面に走行風を取り入れる取入口を形成し、この取入口を開閉するとともに、使用時には水平に展開される屈伸自在なステイを備えたステップを設けた構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−147194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているように、フロントバンパに、フロントウィンドウの清掃時等に作業者が足を乗せるステップを設ける場合には、ステップの上方に作業者の足先が入り込む空間を確保しなくてはならない。
また、フロントウィンドウを清掃する場合、車幅方向に延びるように上記のステップを形成すれば、フロントウィンドウの一端から他端までを清掃する上で利便性が高い。
【0005】
なお、特許文献1に開示されたフロントバンパのステップ構造では、このような車幅方向に延びるようにステップが構成されているわけではない。
ステップを車幅方向に延びるように形成する場合、ステップの上方の作業者の足先が入り込む空間もステップと同様に車幅方向に延びるように確保しなくてはならない。
その一方で、大型車両においても、ボディフロント部の意匠は、車両の商品性上で重要なものとなり、フロントバンパに、ステップを設ける場合にも、良好な意匠性を確保したいという要請が強い。
【0006】
この意匠性の観点からは、フロントバンパに設けるステップやステップ上方の空間も、可能な限り目立たないようにしたい。特に、ステップ上方の空間を、上下方向に大きく確保すると、見栄えが悪化し易いので、ステップ上方の空間の高さは、可能な限り抑えたい。
なお、特許文献1に開示されたフロントバンパのステップ構造では、ステップを使用する時には取入口をステップ上方の空間として使用でき、ステップを使用しないときには、開閉式のステップで取入口を閉鎖することができるので、ステップ上方の空間を十分に確保しながら、ステップを使用しない通常時には、ステップ上方に大きな空間が露見するような事態を回避でき、意匠性を確保できる。
【0007】
ただし、特許文献1のものでは、使用時(作業時)のみ水平に展開するステップを屈伸自在なステイで支持するなど、フロントバンパにステップを設けるための複雑な機構が必要となり、部品点数が増加する他、製造コストの増加も招来するといった課題がある。
また、車両走行時はステップを使用しないため、このステップは取入口に格納されてフロントバンパ前面の一部を構成することになるが、例えば、このステップに使用時の荷重に耐えうるような高強度の部材を用いた場合には、車両が衝突した際の衝撃を吸収するといった、フロントバンパ本来の機能が、そのステップの部分で損なわれ得るといった課題もある。
【0008】
そこで、フロントバンパにステップを固定式で設けることとなるが、この場合、ステップ上方空間の確保と意匠性の確保との両立は困難になる。
そこで、ステップ上方空間を上下方向に最低限確保しながら、意匠性の確保との両立を確保することとなるが、前述のように、車幅方向に延びるようにステップ及びステップ上方空間を形成して、フロントウィンドウを清掃する場合の作業者の利便性を図ると、ステップ上方空間の上下方向の規制から、作業者がステップに乗ると、その踏み込み位置によってはステップ上方空間の上縁部が作業者の靴等に当接した状態となり易く、このような状態で作業者が車幅方向(横方向)に移動しながらフロントウィンドウを清掃すると、ステップ上方空間の上縁部が靴等の上面に連続的に接しながらの移動となるため、円滑な移動が妨げられて作業性が悪化する。特に作業者が靴等を脱いで、裸足又はソックスのみを履いた状態で同様の作業を行った場合、足とステップ上方空間の上縁部が連続的に接することとなり、思わぬ影響を与えかねないといった新たな課題が発生する。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、簡素な構成で、フロントバンパ本来の機能(衝撃吸収機能)を維持しつつ、作業者がフロントウィンドウを清掃する場合等の作業性を向上させたステップ部を有するフロントバンパ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のフロントバンパの構造は、車両前面に取付けられるフロントバンパの構造であって、前記フロントバンパの前面に車幅方向に延びて形成された間隙部と、前記間隙部の下縁部に設けられ、水平に延設された踏板部を有するステッププレートと、前記間隙部の上縁部を構成し、後方に開放する断面コ字状に形成されたフロントバンパアッパとを備え、前記フロントバンパアッパの前記踏板部と対向する対向面部に、所定の幅で上方に変位するように湾曲形成された変形部が車幅方向に複数設けられたことを特徴とする。
【0011】
また、前記変形部が、車幅方向に100mm以下のピッチで等間隔に設けられるようにしてもよい。
また、前記フロントバンパアッパの前記対向面部に設けられた各変形部は、前記対向面部の基準面に対して車体後方にいくにしたがってより上方に変位するように形成されるようにしてもよい。
【0012】
また、前記フロントバンパは、前記間隙部の下縁部を有し前記ステッププレートが装着されるフロントバンパ本体と、前記間隙部の上縁部を有し前記フロントバンパ本体と別体に形成されて前記フロントバンパ本体に結合される前記フロントバンパアッパとから構成されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフロントバンパ構造によれば、フロントバンパ前面の間隙部に設けられた踏板部と対向するフロントバンパアッパの対向面部に、所定の幅で上方に変位するように湾曲形成された変形部を車幅方向に複数設けたことにより、この対向面部が間隙部に挿し入れられた作業者の靴等に連続的に接することを回避できる。そのため、間隙部の高さ(深さ)を抑えた場合であっても、作業者の車幅方向(横方向)への円滑な移動が許容され、フロントウィンドウの清掃等の作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るフロントバンパの構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るフロントバンパの構造を示す図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るフロントバンパアッパを示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るフロントバンパアッパを後方から視た状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面により、本発明に係る一実施形態について説明する。
図1〜3は、本発明の一実施形態を説明するもので、図1はそのフロントバンパの構造を示す斜視図、図2はそのフロントバンパの構造を示す図1のA−A断面図、図3はそのフロントバンパアッパを示す斜視図、図4はそのフロントバンパアッパを後方から視た状態を示す模式図である。
【0016】
本実施形態に係るフロントバンパの構造は、図1に示すように、フロントバンパ2と、ステッププレート4と、フロントバンパアッパ5とを備え構成されている。
フロントバンパ2は、図1,2に示すように、車両前面の下部に取付けられるもので、フロントバンパ2を背面側から正面視した状態で、右側端部を形成する右サイド部2aと、左側端部を形成する左サイド部2bと、この右サイド部2aと左サイド部2bとの間に設けられた中央フロント部2cとから構成されている。
【0017】
中央フロント部2cの上部は、図1,2に示すように、右側縁部3dと、左側縁部3eと、この右側縁部3d及び、左側縁部3eから下方に所定の深さDで落ち込んで、後述するフロントバンパアッパ5との間に間隙部3を構成する右縦縁部3aと、縁部3bと、左縦縁部3cとで形成されている。
また、中央フロント部2cの裏面の左右両端部には、詳細を後述するフロントバンパアッパ5を取り付けるための図示しない取付け部材がそれぞれ設けられている。
【0018】
また、間隙部3の下縁部に相当する縁部3bには、後述するステッププレート4の踏板部4bをボルト締結するための図示しない複数の締結穴が形成されている。
なお、間隙部3の所定の深さDは、衝撃吸収といったバンパの本来的な機能を確保する観点及び、良好な意匠性を確保する観点から、フロントバンパ2の高さに比べ十分に小さい値であることが好ましい。
【0019】
ステッププレート4は、図2に示すように、断面L字状の平板に形成され、前面板部4aと、この前面板部4aに略垂直に設けられた踏板部4bとを備えている。
また、ステッププレート4は、図2に示すように、踏板部4bに設けた図示しないボルト挿通穴と、前述の間隙部3の下縁部3bに設けられた締結穴とを、ボルトで締結することでフロントバンパ2に固設されるようになっている。
【0020】
フロントバンパアッパ5は、図2,3に示すように、断面コ字状に形成され、その端部には右側固定用ステイ7aと左側固定用ステイ7bとが設けられている。
また、フロントバンパアッパ5は、この右側固定用ステイ7aと左側固定用ステイ7bとが、それぞれ前述の中央フロント部2cの裏面に設けられた図示しない取付け部材にボルト締結されることで、断面コ字状の開放が車両後方となるようにフロントバンパ本体2に取付けられるようになっている。すなわち、このフロントバンパアッパ5が間隙部3の上方の開放部を塞ぎ、間隙部3の上縁部を構成するように取付けられることで、フロントバンパ2自体の車幅方向の剛性が維持される。
【0021】
また、図2,3に示すように、フロントバンパアッパ5の外側面のうち、バンパエクステンション5をフロントバンパ2に取付けた状態で下方に向いた外側面、すなわち、ステッププレート4の踏板部4bと対向する対向面部5aには、所定の幅Wで上方に変位するように湾曲して形成された複数の変形部6が、車幅方向に所定のピッチP(例えば、P=100mm)で等間隔に設けられている。また、この変形部6は、図2,4に示すように、対向面部5aの基準面に対し、車体後方に行くにしたがってより上方に変位するように形成されている。
【0022】
なお、作業者の靴等の幅を考慮して、作業者が踏板部4bに乗って車幅方向(横方向)に移動する際に、対向面部5aがこの靴等の上面に連続的に接した状態となることを回避するために、変形部6を設ける所定のピッチPは100mm以下の数値(P≦100mm)であることが好ましい。
また、変形部6の所定の幅Wも、100mm以下の数値(W≦100mm)であることが好ましい。
【0023】
以上のような構成により、本実施形態におけるステップ部を備えたフロントバンパ構造は以下のような作用・効果を奏する。
すなわち、ステッププレート4の踏板部4bは、作業者がフロントウィンドウ等を清掃する場合にステップとして利用されるが、この踏板部4bと対抗するフロントバンパアッパ5の対向面部5aには、作業者が車幅方向(横方向)に移動した際に作業者の靴等の上面がこの対向面部5aと連続的に接する状態となることを回避すべく、所定の幅W(W≦100mm)で上方に変位するように湾曲して形成された複数の変形部6が、車幅方向に所定のピッチP(P≦100mm)で等間隔に設けられている。
【0024】
したがって、間隙部3の所定の深さDが、作業者の靴等のつま先部の高さと略同等に形成されている場合でも、作業者の踏板部4b上の車幅方向(横方向)への円滑な移動が許容され、フロントウィンドウの清掃等の作業性を向上することができると共に、作業者が靴等を脱いで、裸足又はソックスのみを履いた状態で作業を行った場合でも、作業者の足に思わぬ影響を与える恐れもなく、また、フロントバンパ2の意匠性も確保することができる。
【0025】
また、踏板部4bはフロントバンパ2の前面を構成することなく、間隙部3の下縁部3bに水平に延設されている。
したがって、フロントバンパ2の前面で衝撃を吸収するといったバンパ本来の機能を損なうことなく、フロントバンパ2にステップを設けることができる。
[その他]
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0026】
例えば、上述の実施形態において、間隙部3は、フロントバンパ2の一箇所に設けられるものとして説明したが、必ずしも一箇所である必要はなく、複数箇所に設こともできる。
また、間隙部3の上縁部は必ずしもフロントバンパ2と別体に設けられたフロントバンパアッパ5で構成される必要はなく、フロントバンパ2を部分的に開口してフロントバンパ2自体に設けるようにしてもよい。
【0027】
また、車両はトラック等の大型車に限られず、普通自動車等のバンパにも適用できる。
【符号の説明】
【0028】
2 フロントバンパ
3 間隙部
4 ステッププレート
4b 踏板部
5 フロントバンパアッパ
5a 対向面部
6 変形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前面に取付けられるフロントバンパの構造であって、
前記フロントバンパの前面に車幅方向に延びて形成された間隙部と、
前記間隙部の下縁部に設けられ、水平に延設された踏板部を有するステッププレートと、
前記間隙部の上縁部を構成し、後方に開放する断面コ字状に形成されたフロントバンパアッパと、を備え、
前記フロントバンパアッパの前記踏板部と対向する対向面部に、所定の幅で上方に変位するように湾曲形成された変形部が車幅方向に複数設けられた
ことを特徴とするフロントバンパの構造。
【請求項2】
前記変形部が、車幅方向に100mm以下のピッチで等間隔に設けられた
ことを特徴とする請求項1記載のフロントバンパの構造。
【請求項3】
前記フロントバンパアッパの前記対向面部に設けられた各変形部は、前記対向面部の基準面に対して車体後方にいくにしたがってより上方に変位するように形成される
ことを特徴とする請求項1又は2記載のフロントバンパの構造。
【請求項4】
前記フロントバンパは、
前記間隙部の下縁部を有し前記ステッププレートが装着されるフロントバンパ本体と、
前記間隙部の上縁部を有し前記フロントバンパ本体と別体に形成されて前記フロントバンパ本体に結合される前記フロントバンパアッパとから構成される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフロントバンパの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131615(P2011−131615A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290124(P2009−290124)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)