説明

車両のリッド構造

【課題】収納部等を開閉させるリッドをハンドル周辺に配置した場合であっても転舵されたハンドルとリッドとを干渉させないようにする。
【解決手段】ステアリングステム4を操作するハンドルバー9を備え、リッド29の開閉時の軌跡がハンドルバー9が転舵時に描く軌跡と干渉する位置にリッド29が配置される車両において、リッド29がハンドルバー9の転舵運動に連動して閉じるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の収納部等を開閉させる車両のリッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車にはハンドル周辺に収納部を設け、この収納部に開閉可能なリッドを付設したものがある。例えば特許文献1には、スクータ型自動二輪車において車両前部を覆うレッグシールドのハンドル周辺領域に穴を形成して収納容器を挿入し、前記穴の上部にリッドを設けたものが開示されている。この車両では、収納容器がレッグシールド内に全体が格納される格納位置から下方に向けてスライド可能とされ、スライドにより容量を大きくすることが可能であり、また、さらに収納容器をスライドさせた場合には、これを下方から丸ごと取り外すことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3871931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1においてリッドは、収納部に伴いハンドル周辺に配置され、矩形状に形成されて一端を車体側に回動可能に支持され開閉可能となっているが、このような開閉構造のリッドは、開いた状態で転舵されたハンドルと干渉しないようにする必要がある。ここで、開いた状態のリッドと転舵されたハンドルとを干渉させない態様としては、例えばリッドを小さくしたり、リッドの開く角度を抑えたりすることが考えられる。しかしながら、このような態様では、リッドの開口面積が小さくなってしまい使い勝手が良好でなくなる。
【0005】
本発明は係る実情に鑑みてなされたもので、収納部等を開閉させるリッドの開口面積を十分に確保しつつ、このリッドをハンドル周辺に配置した場合であっても、転舵されたハンドルとリッドとを干渉させないようにすることができる車両のリッド構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載の発明は、ステアリング機構(例えば実施形態におけるステアリングステム4、ボトムブリッジ7、トップブリッジ8)と、該ステアリング機構を操作するハンドル(例えば実施形態におけるハンドルバー9)とを備える車両(例えば実施形態における自動二輪車1)に開閉可能なリッド(例えば実施形態におけるリッド29)を付設する車両のリッド構造において、前記リッドは、その開閉時の軌跡が前記ハンドルが転舵時に描く軌跡と干渉する位置に配置され、前記リッドを前記ステアリング機構の転舵運動に連動して閉じる連係部材(例えば実施形態におけるワイヤー部材34)が設けられていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記ステアリング機構に前記ハンドルを転舵状態で固定するハンドルロック装置が備えられ、前記連係部材が前記ステアリング機構の転舵時に前記リッドを閉じることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記ステアリング機構が左右一対のフロントフォーク(例えば実施形態におけるフロントフォーク3)に架設されるブリッジ部材(例えば実施形態におけるトップブリッジ8)を有し、前記連係部材は、一端を前記ブリッジ部材に固定すると共に他端を前記リッドに固定するワイヤーであり、該ワイヤーが、前記ハンドルの転舵状態を前記リッドに伝達し、前記ステアリング機構の転舵時に前記リッドを閉じることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記ワイヤーの端部間の部位を車体側に係止する係止部材(例えば実施形態におけるアウター側ホルダーステー38)が設けられることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記ワイヤーの一端を前記ブリッジ部材に連結させ、前記ハンドルの操舵時に該ハンドルの軌跡に沿って前記ワイヤーを巻き取る巻き取り装置(例えば実施形態における巻き取り装置41)が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、ハンドルの転舵運動に連動してリッドが閉じるため、リッドの開く角度を大きくしたり、リッド自体を大きくしたりして、リッドの開口面積を十分に確保しつつ、このリッドをハンドル周辺に配置した場合であっても、ハンドルの転舵時にハンドルとリッドとを干渉させないようにすることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、ハンドルロック状態でリッドを閉じた状態にすることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、簡易な構造でリッドの閉じ構造を実現できる。また、ワイヤーが引っ張られた状態でリッドが閉じる状態となる構造を実現できるので、ハンドルロック装置によるハンドルロック状態でリッドの簡易ロックも実現できる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、ワイヤーの位置を規制できる。
請求項5に記載の発明によれば、ワイヤーをたわませないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る自動二輪車の側面図である。
【図2】自動二輪車を右後方から見た斜視図である。
【図3】第1の実施の形態に係るリッドの構造を説明する図である。
【図4】第1の実施の形態に係るリッドの配置を説明する図である。
【図5】第1の実施の形態に係るリッドの動きを説明する図である。
【図6】第2の実施の形態に係るリッドの構造を説明する図である。
【図7】第2の実施の形態に係るリッドの動きを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を基に説明する。以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印LHは車両左方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示している。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1に本発明の第1の実施形態に係る構造を備えた自動二輪車1が示されている。この自動二輪車1において前輪2は左右一対のフロントフォーク3の下端部に軸支され、各フロントフォーク3の上部はステアリングステム4を介して車体フレーム5前端部のヘッドパイプ6に操向可能に枢支されている。ステアリングステム4の下部には車幅方向に延びて左右一対のフロントフォーク3と連結するボトムブリッジ7が設けられ、フロントフォーク3はボトムブリッジ7を貫通して上方に延びている。ステアリングステム4の上部には車幅方向に延びるトップブリッジ8が設けられ、トップブリッジ8はその左右端部でフロントフォーク3と連結している。トップブリッジ8には、左右に延びるハンドルバー9が固定されている。
【0018】
ヘッドパイプ6からは車体フレーム5を構成する左右一対のメインフレーム10が斜め下後方に延び、これら左右のメインフレーム10の後端部には、左右一対のピボットプレート11の上端部がそれぞれ結合されている。各ピボットプレート11には、後端部に後輪12を軸支するスイングアーム13の前端部が揺動可能に枢支されている。スイングアーム13内には不図示のドライブシャフトが挿通され、該ドライブシャフトを介して後輪12とエンジン14の間の動力伝達がなされる。エンジン14は例えば水冷四ストローク水平対向六気筒型であり、メインフレーム10の下方に固定的に支持されている。
【0019】
メインフレーム10の後端には、斜め後方に延びる左右一対のシートレール15が結合され、シートレール15の上部には、運転者用の前シート16が設けられている。前シート16の前方には、該前シート16の下方まで延びる燃料タンク17が配置され、該燃料タンク17の前方には、エンジン吸気ろ過用のエアクリーナボックス18が配置されている。
【0020】
車体前部は左右一対のヘッドランプ20を備えたフロントカウル21により覆われ、フロントカウル21の前部上方には、車両前方を視認可能なウインドスクリーン22が設けられている。またフロントカウル21の上部後側には、スピードメータ及びタコメータ等を備えたメータパネル23が設けられている。
【0021】
メータパネル23の斜め下後方には、車両外装部品であるトップシェルタ24が設けられ、このトップシェルタ24は、フロントカウル21の後部から前シート16の前部に渡る範囲を覆い、上記燃料タンク17及びエアクリーナボックス18等の車両構成部品を上方から覆っている。図2に示すようにトップシェルタ24は、ハンドルバー9の下部にあるヘッドパイプ6、ステアリングステム4、トップブリッジ8等を上方から覆う前部カバー25と、前部カバー25の後部に結合し前シート16の前端までに延びる上部カバー26と、上部カバー26の側部から下方に延びる左右一対の側部カバー27とで構成されている。前部カバー25の上方には、ハンドルバー9の左右グリップ部を操向可能に取り出すための長孔25aが左右一対設けられている。前部カバー25及び上部カバー26は前上方に傾いた状態で支持されている。
【0022】
前部カバー25の左右の長孔25aの後方において車幅方向略中央領域には矩形状に形成されたリッド29が設けられている。リッド29は、前部カバー25の下方に設けられた収納ボックス30(図1参照)の上部開口を開放状態又は閉鎖状態として開閉させる。前部カバー25には、リッド29の開放状態で収納ボックス30を外部に臨ませる開口31が形成されている。図3は、トップシェルタ24が取り外された状態のリッド29の周辺部位を示している。同図に示すように収納ボックス30は、上方を開口させた箱形形状に形成され、メインフレーム10の上方に配置されている。この収納ボックス30は前述の前部カバー25に支持されるようになっている。
【0023】
以下、上記リッド29の構造について詳しく説明する。
リッド29は収納ボックス30に対して回動可能に支持されることで収納ボックス30を開閉させる。図3に示すように、収納ボックス30の後側左右側部には溝部32,32が形成される一方で、リッド29の後側左右側部には溝部32,32に係合される係合片33,33が形成されている。リッド29は、これら係合片33,33を溝部32,32に係合した状態で車幅方向に延びるシャフト部材29aを挿通されることで、シャフト部材29aを支点として回動可能とされて、収納ボックス30を開閉させるようになっている。なお、本例でリッド29は図3に示すように上方に向けて立ち上がるように大きく開くようになっている。
【0024】
図4はリッド29の閉鎖状態でハンドルバー9を転舵した状態を示している。同図によりリッド29の配置位置について説明すると、リッド29は、収納ボックス30を閉塞する閉鎖状態では、操舵時にハンドルバー9の端部が描く回動軌跡Cの内側の領域に上面視で一部が重なるように配置されている。ここでリッド29は閉鎖状態から開かれた場合、転舵されたハンドルバー9と干渉する位置にある。すなわち、リッド29は、その開閉時の回動軌跡がハンドルバー9全体が転舵時に描く軌跡と干渉する位置に配置されている。
【0025】
図3を参照し、リッド29にはハンドルバー9の転舵運動に連動してリッド29を引っ張る連係部材であるワイヤー部材34が連結されている。リッド29は、このワイヤー部材34によりハンドルバー9の転舵時に閉塞されるようになっている。ワイヤー部材34は、管状とされるアウターチューブ35と、このアウターチューブ35に摺動自在に内挿されたインナーワイヤー36とを有してなる。
【0026】
ワイヤー部材34においてアウターチューブ35の一端は収納ボックス30の右側部に形成されたホルダ部37に固定され、アウターチューブ35の他端はヘッドパイプ6後方の左右のメインフレーム10の結合部位に着脱自在に設けられたアウター側ホルダーステー38に固定されている。アウター側ホルダーステー38は車幅方向中央に位置している。
【0027】
アウターチューブ35はホルダ部37から収納ボックス30の右側部に沿って前方に延び、その後、収納ボックス30の前部に沿うようにしてアウター側ホルダーステー38に至るように配索されている。すなわち、アウターチューブ35は収納ボックス30の収容スペースを迂回するように配索されている。ここでアウターチューブ35は、アウター側ホルダーステー38により車体側(メインフレーム10)に係止されるので、後述インナーワイヤー36とともに位置が規制されるようになっている。
【0028】
一方、インナーワイヤー36の一端はアウターチューブ35の一端開口から外部に延びて、リッド29の右側底面から突出する連結片39に固定され、インナーワイヤー36の他端はアウターチューブ35の他端開口から外部に延びて、トップブリッジ8において車幅方向略中央であって、ステアリングステム4の後方に設けられたインナー側ホルダーステー40に固定されている。インナー側ホルダーステー40はトップブリッジ8の後端から後方に突出し、その先端でインナーワイヤー36に連結することで、インナーワイヤー36をトップブリッジ8に連結させている。インナー側ホルダーステー40のインナーワイヤー36との連結部位はハンドルバー9の転舵時の軌跡に沿って回動する。
【0029】
図5を参照し、ハンドルバー9が転舵された状態が示されている。上記の構成のワイヤー部材34においては、同図に示すようにハンドルバー9が転舵された際に、インナー側ホルダーステー40によりインナーワイヤー36が引っ張られる。これにより、本実施形態においてリッド29は開いた状態である場合には下方に向けて引っ張られ、ハンドルバー9の転舵に連動して閉じられるようになっている。なお、その後、ハンドルバー9を中立位置に戻すと、後方に押圧されたインナーワイヤー36はアウター側ホルダーステー38から前側の部分でU字状にたわむようになっている。
【0030】
また、自動二輪車1にはハンドルバー9の転舵状態でハンドルバー9を転舵不能としてロック状態とするハンドルロック装置が備えられている。すなわち、この自動二輪車1ではハンドルロック装置によりハンドルロックを行った場合に、必然的にリッド29が閉じるようになっている。なお、ハンドルロック装置はステアリングステム4又はボトムブリッジ7を乗員の操作に応じ係脱可能に係止するピン部材等で構成されている。
【0031】
以上に記載した本実施形態に係る自動二輪車1では、ハンドルバー9の転舵運動に連動してリッド29が閉じるので、リッド29の開口面積を十分に確保しつつ、リッド29をハンドルバー9周辺に配置した場合であっても、リッド29とハンドルバー9とを干渉させないようにすることができる。また、ハンドルロック装置によりハンドルバー9をロック状態とした場合には、インナーワイヤー36が引っ張られた状態で保持されることになるため、ハンドルロック装置とワイヤー部材34の組み合わせによって、リッド29の簡易ロックも実現できるようになっている。
【0032】
<第2の実施の形態>
次に本発明の第2の実施形態について図6,図7を用いて説明する。
本実施形態ではハンドルバー9の転舵運動に連動して引っ張られるインナーワイヤー36がトップブリッジ8に設けられた巻き取り装置41によって巻き取られるようになっている。なお、第1の実施形態と同様の構成要素については同一符合で示し説明を省略する。
【0033】
図6を参照し、巻き取り装置41は円板状に形成され、トップブリッジ8において車幅方向略中央に設けられている。巻き取り装置41は、その周部でインナーワイヤー36と連結し、図7に示すようにハンドルバー39転舵された際に、その周部にインナーワイヤー36を巻き取る。すなわち、この巻き取り装置41は、ハンドルバー9の操舵時に、ハンドルバー9の軌跡に沿ってインナーワイヤー36を巻き取るように構成されている。この第2の実施形態では上記巻き取り装置41を備えることで、リッド29を閉じた後にハンドルバー9を中立位置に戻した際に、インナーワイヤー36をたわませないようにすることができる。
【0034】
なお、本実施形態における構成はこの発明の一例であり、部品構成や構造、形状、大きさ、数及び配置等を含め、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。例えば、本実施形態ではトップブリッジ8にインナーワイヤー36を固定する例を説明したがボトムブリッジ7に固定しても本発明を好適に実施できる。
【符号の説明】
【0035】
1 自動二輪車
3 フロントフォーク
4 ステアリングステム(ステアリング機構)
7 ボトムブリッジ(ステアリング機構)
8 トップブリッジ(ステアリング機構、ブリッジ部材)
9 ハンドルバー(ハンドル)
29 リッド
34 ワイヤー部材(連係部材)
38 アウター側ホルダーステー(係止部材)
41 巻き取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング機構と、該ステアリング機構を操作するハンドルとを備える車両に開閉可能なリッドを付設する車両のリッド構造において、前記リッドは、その開閉時の軌跡が前記ハンドルが転舵時に描く軌跡と干渉する位置に配置され、前記リッドを前記ステアリング機構の転舵運動に連動して閉じる連係部材が設けられていることを特徴とする車両のリッド構造。
【請求項2】
前記ステアリング機構に前記ハンドルを転舵状態で固定するハンドルロック装置が備えられ、前記連係部材が前記ステアリング機構の転舵時に前記リッドを閉じることを特徴とする請求項1に記載の車両のリッド構造。
【請求項3】
前記ステアリング機構が左右一対のフロントフォークに架設されるブリッジ部材を有し、前記連係部材は、一端を前記ブリッジ部材に固定すると共に他端を前記リッドに固定するワイヤーであり、該ワイヤーが、前記ハンドルの転舵状態を前記リッドに伝達し、前記ステアリング機構の転舵時に前記リッドを閉じることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のリッド構造。
【請求項4】
前記ワイヤーの端部間の部位を車体側に係止する係止部材が設けられることを特徴とする請求項3に記載の車両のリッド構造。
【請求項5】
前記ワイヤーの一端を前記ブリッジ部材に連結させ、前記ハンドルの操舵時に該ハンドルの軌跡に沿って前記ワイヤーを巻き取る巻き取り装置が設けられることを特徴とする請求項3又は4に記載の車両のリッド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−140286(P2011−140286A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2959(P2010−2959)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】