車両の下肢保護構造
【課題】簡単な構成で車両の前突時等にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止して運転者の下肢を効果的に保護できるようにする。
【解決手段】車室の底面を構成するフロアパネル1と、該フロアパネル1の前方に連続して上方へ延びるように設置されることにより車室の前壁を形成するダッシュパネル2とを有し、上記フロアパネル1上の運転席3に着座した運転者が操作するアクセルペダル6等からなるペダル部材が上記ダッシュパネル2に近接して設けられた車両において、該ダッシュパネル2の下部で上記ペダル部材の側方部には、運転者の下肢が載置されるフットレスト部材8が配設され、該フットレスト部材8には、車両の前突時等に運転者の下肢がペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段が設けられた。
【解決手段】車室の底面を構成するフロアパネル1と、該フロアパネル1の前方に連続して上方へ延びるように設置されることにより車室の前壁を形成するダッシュパネル2とを有し、上記フロアパネル1上の運転席3に着座した運転者が操作するアクセルペダル6等からなるペダル部材が上記ダッシュパネル2に近接して設けられた車両において、該ダッシュパネル2の下部で上記ペダル部材の側方部には、運転者の下肢が載置されるフットレスト部材8が配設され、該フットレスト部材8には、車両の前突時等に運転者の下肢がペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段が設けられた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の底面を構成するフロアパネルと、該フロアパネルの前方に連続して上方へ延びるように設置されて車室の前壁を形成するダッシュパネルとを有し、上記フロアパネル上の運転席に着座した運転者が操作するペダル部材が上記ダッシュパネルに近接して設けられた車両の下肢保護構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、フロアトンネルの側面傾斜壁とカーペットとの間に、フットレストの車幅方向かつ上側においてエネルギー吸収材を設け、該エネルギー吸収部材の車幅方向外側面を側面傾斜壁に対して車幅方向外側へ傾斜させることにより、車両の前面衝突時等にフットレストがフロアトンネル側へ回動されて乗員の足先部がフロアトンネル側へ回動される際には、足先部のフロアトンネル側への回動エネルギーが上記エネルギー吸収部材によって吸収されるように構成して乗員の足(下肢)を保護することが行われている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、フロアトンネル部からなる衝撃吸収体の近傍に設置された所定高さのフットレストに、初期位置から拡張位置に拡張可能な拡張フットレスト部と、車両の前面衝突予知手段の予知に応じて上記拡張フットレスト部を初期位置から拡張位置まで移動させる移動機構とを設けることにより、フットレストに載置された乗員の足がフットレストの踏面から外れるのを防止して乗員の足を保護することが行われている。
【0004】
さらに、下記特許文献3に示されるように、トーボードに固定されるベースブラケット部の基部側と、搭乗者の足を載せるフットレスト部との基部側とを屈曲部を介して一体成形するとともに、ベースブラケット部の基部側にフォースリミッタを形成し、上記ベースブラケット部とフットレスト部とを、屈曲部を屈曲させて互いに対向させるとともに、両部材の先端側に介装したクッションを介して連結し、互いに対向する両部材の基部側の高さをフォースリミッタで規定し、大きな衝撃荷重が印加された場合は、フォースリミッタを変形もしくは破壊させることが衝撃荷重を吸収することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−279984号公報
【特許文献2】特開2008−189030号公報
【特許文献2】特開2007−238035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された発明では、フットレスト部材の側方に位置するフロアトンネル部の側壁傾斜面に発泡樹脂製のエネルギー吸収材を設けたため、車両の前突時等に、フットレスト部材がフロアトンネル部側へ回動するように車体が変形した場合に、フットレスト部材上に載置された運転者の下肢(足先部)がフロアトンネル部の側壁面に押し付けられることによる衝撃を緩和して下肢を保護することが可能である。しかし、上記構成を採用したとしても、フットレスト部材上に載置された運転者の下肢をペダル部材の設置部側へ移動させる方向の荷重が作用した場合に、フットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを効果的に防止することができず、運転者が違和感を受け易いとともに、下肢の保護作用が充分に得られないという問題があった。
【0007】
上記特許文献2に開示された発明では、前面衝突予知手段により車両の前突を適正に予知し、車両の前突事故が発生する前に、上記移動機構を作動させて拡張フットレスト部を初期位置から拡張位置まで移動させることができれば、フットレスト部に載置された乗員の下肢がフットレスト部材の下肢載置部から滑り落ちるという事態の発生を効果的に防止することが可能である。しかし、上記前面衝突予知手段および移動機構を設けるとともに、フットレスト部材の下肢載置部を拡張可能に構成する必要があるので、構造が複雑になるという欠点がある。
【0008】
また、上記前面衝突予知手段により車両の前突を適正に予知することは困難であるため、前突事故の発生する確率が低いにも拘わらず、上記移動機構が作動状態となって拡張フットレスト部を拡張位置へ移動することにより、運転者が違和感を受け易いという問題がある。なお、当該事態の発生を防止するために、前突事故の発生する確率が極めて高くなった時点で、上記移動機構を作動させることも考えられるが、この場合には、車両の前突事故が発生する前の適正なタイミングで上記拡張フットレスト部を拡張位置まで移動させることが困難であり、上記構造を採用したにも拘わらず、運転者の下肢を効果的に保護することができない虞があった。
【0009】
上記特許文献3に開示された車両用フットレスト構造では、車両の前突事故等の発生時に、ベースブラケット部の基部側とフットレスト部との基部側との間に配設されたフォースリミッタを変形もしくは破壊させることにより、衝撃荷重を吸収するように構成したため、フットレスト部材上に運転者の下肢を載置させた状態に維持することができれば、該下肢を効果的に保護することが可能である。しかし、上記構成を採用したとしても、車両の前突時にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちてしまうと、上記フォースリミッタを変形させる等による衝撃荷重の吸収効果を得ることができず、運転者が違和感を受け易いとともに、下肢の保護作用が充分に得られないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で車両の前突時等にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止して運転者の下肢を効果的に保護することができる車両の下肢保護構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、車室の底面を構成するフロアパネルと、該フロアパネルの前方に連続して上方へ延びるように設置されることにより車室の前壁を形成するダッシュパネルとを有し、上記フロアパネル上の運転席に着座した運転者が操作するペダル部材が上記ダッシュパネルに近接して設けられた車両において、該ダッシュパネルの下部で上記ペダル部材の側方部には、運転者の下肢が載置されるフットレスト部材が配設され、該フットレスト部材には、車両の前突時等に運転者の下肢がペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段が設けられたものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両の下肢保護構造において、上記フットレスト部材には、平面視でペダル部材側を指向するように傾斜した傾斜面からなる下肢載置部が設けられ、該下肢載置部により上記下肢移動規制手段が構成されたものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の車両の下肢保護構造において、上記フットレスト部材のペダル部材側に位置する面と反対側には、車体部材が配設されたものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造において、上記フットレスト部材には、所定荷重の入力時に下肢載置部のペダル部材側を反ペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部が設けられ、該変形促進部により上記下肢移動規制手段が構成されたものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、上記請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造において、平面視で運転者がペダル部材側を指向した着座状態となるように運転席の着座面が構成されたものである。
【0016】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造において、上記フットレスト部材には、所定荷重の入力時に下肢載置部の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部が設けられ、該変形促進部により上記下肢移動規制手段が構成されたものである。
【0017】
請求項7に係る発明は、上記請求項2〜6のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造において、上記ペダル部材の側面には、該ペダル部材を傾動可能に支持する支持部材が設けられ、該支持部材により上記下肢移動規制手段が構成されたものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明では、ペダル部材の側方部に配設されたフットレスト部材に、車両の前突時等に運転者の下肢がペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段を設けたため、車両の前突時に運転者の下肢が上記フットレスト部材の下肢載置部に押し付けられる方向に大きな荷重が作用した場合に、フットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止して該下肢を効果的に保護できるという利点がある。
【0019】
請求項2に係る発明では、平面視でペダル部材側を指向するように傾斜した傾斜面からなる下肢載置部により上記下肢移動規制手段を構成したため、車両の前突時に運転者の下肢が上記フットレスト部材の下肢載置部に押し付けられる方向に大きな荷重が作用した場合には、該下肢載置部の傾斜面に沿って運転者の下肢を反ペダル部材側に案内することにより、所定荷重の入力時に上記下肢載置部上に載置される運転者の下肢がペダル部材側に移動することを、極めて簡単な構成で効果的に防止できるという利点がある。
【0020】
請求項3に係る発明では、フットレスト部材のペダル部材側に位置する面と反対側に車体部材が配設されているため、トンネル部とペダル部材との間において、これらにフットレスト部材がそれぞれ近接して配設されることにより、上記フットレスト部材の幅寸法を大きくすることが困難であり、該フットレスト部材から運転者の下肢が滑り落ち易い傾向にある車両においても、車両の前突時等にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止することにより、車両をコンパクト化しつつ、運転者の下肢を効果的に保護できるという顕著な効果を奏することができる。
【0021】
請求項4に係る発明では、上記フットレスト部材に、所定荷重の入力時に下肢載置部のペダル部材側を反ペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部を設け、該変形促進部により上記下肢移動規制手段を構成したため、通常時に運転者が違和感を受けることなく、その下肢を上記下肢載置部上に適正状態で載置することができるように、上記下肢載置部の傾斜角度を小さくし、あるいは該下肢載置部を平面視で車幅方向に沿ったラインに対して真っ直ぐに設置した構造とした場合においても、車両の前突時等には、該フットレスト部材に圧接される下肢の圧力に応じ、下肢の外面側部が載置された下肢載置部の反ペダル部材側を、下肢の内側面部が載置されたペダル部材側に比べて大きく変形させることにより、フットレスト部材上の下肢が反ペダル部材側に滑り落ちるのを防止して該下肢を効果的に保護できるという利点がある。
【0022】
請求項5に係る発明では、平面視で運転者がペダル部材側を指向した着座状態となるように運転席の着座面を構成したため、フットレスト部材の下肢載置部を、平面視で運転者の反ペダル部材側がペダル部材側に比べて前方に位置するように傾斜させた構造等とした場合においても、上記フットレスト部材の下肢載置部上に載置された運転者の下肢が、平面視で窮屈な角度となることに起因して運転者が違和感を受けるのを防止しつつ、該下肢を効果的に保護することができる。
【0023】
請求項6に係る発明では、上記フットレスト部材に、所定荷重の入力時に下肢載置部の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部を設け、該変形促進部により上記下肢移動規制手段を構成したため、車両の前突時に入力された衝撃荷重に応じて記フットレスト部材が後方に押圧されるとともに、運転者の下腿が相対的に前方に押動されることにより、その膝下角度が増大するように運転者の着座姿勢が変化した場合においても、足首角度が顕著に変化するのを防止することができる。したがって、該足首角度が未満となって運転者の足首に無理な力が作用し、これを回避するために下肢がフットレスト部材から脱落するという事態の発生を効果的に防止することができ、運転者がその下肢をフットレスト部材上に載置した状態で、衝撃に耐えることができるという利点がある。
【0024】
請求項7に係る発明では、上記ペダル部材の側面に、該ペダル部材を傾動可能に支持する支持部材を設け、該支持部材により上記下肢移動規制手段を構成したため、該クラッチペダルの踏込操作時に、上記支持部材によってクラッチペダルを支持することにより該クラッチペダルをスムーズに揺動変位させることができるという効果と、車両の前突時等に、フットレスト部材上の下肢が反ペダル部材側に滑り落ちるのを防止して該下肢を保護できるという効果とが同時に得られる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車両の下肢保護構造の第1実施形態を示す側面図である。
【図2】上記下肢保護構造を備えた車室前部の構造を示す説明図である。
【図3】フットレスト部材の具体的構成を示す側面断面図である。
【図4】フットレスト部材の具体的構成を示す平面図である。
【図5】運転者の着座状態を示す平面図である。
【図6】本発明の比較例を示す図4相当図である。
【図7】上記下肢保護構造の第1実施形態の作用を示す側面断面図である。
【図8】本発明に係る車両の下肢保護構造の第2実施形態を示す平面断面図である。
【図9】上記下肢保護構造の第2実施形態の作用を示す平面断面図である。
【図10】本発明に係る車両の下肢保護構造の第3実施形態を示す側面図である。
【図11】上記第3実施形態に係る下肢保護構造を示す平面図である。
【図12】上記第3実施形態においてクラッチペダルの踏込状態を示す側面図である。
【図13】車両の衝突時におけるクラッチペダルの変位状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1および図2は、本発明に係る車両の下肢保護構造の第1実施形態を示している。該車両には、車室の底面を構成するフロアパネル1と、該フロアパネル1の前方に連続して上方へ延びるように設置されることにより車室の前壁を形成するダッシュパネル2とが設けられている。上記フロアパネル1上であって車室の前部右側には、運転者が着座する運転席3が設置されるとともに、該運転席3に着座した運転者が踏込操作するアクセルペダル4、ブレーキペダル5およびクラッチペダル6等からなるペダル部材が、上記ダッシュパネル2に近接した位置に設けられている。
【0027】
また、上記ダッシュパネル2の下部でクラッチペダル6の側方部、つまり上記フロアパネル1上の車幅方向中央部において車体の前後方向に延びるように形成されたトンネル部7の側壁面からなる車体部材に近接した車幅方向中央部側には、フットレスト部材8が配設されている。該フットレスト部材8は、図3および図4に示すように、運転者がその下肢A、具体的には左足の足裏部を載置する下肢載置部9と、その前面から車体の前方側に突設されるとともに、上下方向に所定間隔を置いて配設された複数の脚部10とを有している。
【0028】
上記フットレスト部材8の下肢載置部9は、側面視で前上がりに傾斜して設置され、該下肢載置部9の傾斜角度αは、通常時に運転者が安楽姿勢を維持した状態でその下肢Aを載置し得るように設定されている。例えば、運転席1に着座した運転者が側面視で前方に前下がり状態で伸ばした左足の水平面対する設置角度(膝下角度)βが25°程度である場合には、その足首角度γを90°程度に設定して上記下肢載置部9上に下肢を載置し得るように、該下肢載置部9の水平面対する傾斜角度αが例えば65°程度に設定されている。
【0029】
上記フットレスト部材8の上方部に位置する脚部10は、その板厚t1が下方部に位置する脚部10の板厚t2よりも小さく設定されるとともに、上方部に位置する脚部10の設置間隔W1が下方部の脚部10の設置間隔W2に比べて大きく設定されている。このようにして上方に位置する脚部10の強度を下方に位置する脚部10よりも小さく設定することにより、後述するように所定荷重の入力時に上記下肢載置部9の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部が構成されている。
【0030】
また、上記下肢載置部9は、その反ペダル部材側(車幅方向中央側)を、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)に比べて前方に位置させることにより、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向するように傾斜した傾斜面に形成されている。そして、該下肢載置部9は、その車幅方向に沿ったラインLに対する傾斜角度θが例えば5°〜10°程度の範囲に設定されることにより、通常時には、運転者の下肢Aを安定して支持する支持手段としての機能と、車両の前突時等には、上記下肢載置部9上に載置された運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段としての機能とを有している。
【0031】
すなわち、図4に示すようにフットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向させるように、車幅方向に沿ったラインLに対して所定角度θで傾斜させた場合には、運転者の下肢Aが上記フットレスト部材8の下肢載置部9に押し付けられる方向に大きな荷重が作用する車両の前突時等に、該下肢載置部9の傾斜面に沿って運転者の下肢Aが車幅方向中央部側(トンネル部7側)に案内されることになる。これより、所定荷重の入力時に上記下肢載置部9上に載置された運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを防止し、該下肢Aの外側面を上記トンネル部7の側壁面に当接させた状態に保持できるように構成している。
【0032】
また、図5に示すように、上記運転席3が、平面視で若干ペダル部材側(車幅方向外方側)を指向するように、例えば車幅方向に沿ったラインLに対して2°〜5°の傾斜角度ηで傾斜して設置されることにより、運転者がペダル部材側を指向した着座状態(やや斜め外側を指向した着座状態)となるように運転席3の着座面が構成されている。なお、平面視で上記運転席3を傾斜させた状態で設置してなる上記構成に代え、あるいは該構成とともに、例えば上記運転席3の車幅方向における中心位置Oを、上記アクセルペダル4およびフットレスト部材8間の車幅方向中間位置Cよりも車幅方向の中央部側に配設することにより、運転者がペダル部材側(車幅方向外方側)を指向した着座状態となるように上記運転席3を構成してもよい。
【0033】
運転者は、その右足をアクセルペダル4に載置するとともに、左足をフットレスト部材8上に載置した状態で、背中の中央部をシートバック11の中心Oに位置させた状態で着座しようとする。このため、該シートバック11の中心Oをアクセルペダル4およびフットレスト部材8間の車幅方向中間位置Cよりも車幅方向の中央部側に配設することにより、左右両足の中間位置を背中の中央部よりも車幅方向に外方側に位置させ、これによって運転者を若干外向きの傾斜状態で着座させることが可能となる。
【0034】
上記のように車室の底面を構成するフロアパネル1と、該フロアパネル1の前方に連続して上方へ延びるように設置されて車室の前壁を形成するダッシュパネル2とを有し、上記フロアパネル1上の運転席3に着座した運転者が操作するクラッチペダル6等からなるペダル部材が上記ダッシュパネル2に近接して設けられた車両において、該ダッシュパネル2の下部で上記ペダル部材の側方部に、運転者の下肢Aが載置されるフットレスト部材8を配設し、該フットレスト部材8に、車両の前突時等に運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段を設けため、簡単な構成で車両の前突時等にフットレスト部材8の下肢載置部9から運転者の下肢Aが滑り落ちるのを防止して該下肢Aを効果的に保護することができる。
【0035】
すなわち、上記第1実施形態では、フットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向させるように、車幅方向に沿ったラインLに対して所定角度θで傾斜させている。当該構成によれば、車両の前突時に運転者の下肢Aが上記フットレスト部材8の下肢載置部9に押し付けられる方向に大きな荷重が作用した場合には、該下肢載置部9の傾斜面に沿って運転者の下肢Aが車幅方向中央部側に案内されることになるため、所定荷重の入力時に上記下肢載置部9上に載置される運転者の下肢Aがペダル部材側に移動することを効果的に防止し、該下肢Aの側面を上記トンネル部7の側壁面に当接させた状態に安定して保持することができる。したがって、上記のようにフットレスト部材8に、平面視で運転者の反ペダル部材側(トンネル部7側)がペダル部材側に比べて前方に位置した傾斜面からなる下肢載置部9を設けるという極めて簡単な構成で、車両の前突時等にフットレスト部材8の下肢載置部9から運転者の下肢Aが滑り落ちるのを防止して該下肢Aを効果的に保護できるという利点がある。
【0036】
上記第1実施形態では、該フットレスト部材8のペダル部材側に位置する面と反対側、つまり車幅方向中央部側にトンネル部7の側壁面からなる車体側部材を配設したため、上記トンネル部7とクラッチペダル6等との間において、これらにフットレスト部材8がそれぞれ近接して配設されることにより、上記フットレスト部材8の幅寸法を大きくすることが困難であって、該フットレスト部材8から運転者の下肢Aが滑り落ち易い傾向にある。このような車両において、上記のようにフットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向させるように傾斜させることにより、車両の前突時等にフットレスト部材8の下肢載置部9から運転者の下肢Aが滑り落ちるのを防止するように構成した場合には、車両をコンパクト化しつつ、運転者の下肢Aを効果的に保護できるという顕著な効果を奏することができる。
【0037】
なお、上記下肢載置部9の傾斜角度θが大きくなると、通常の着座状態において下肢Aの内側面部が外側面部よりも大きく後方側に位置することとなって運転者が違和感を受け易くなる。逆に、上記下肢載置部9の傾斜角度θが小さくなると、該下肢載置部9上に載置された運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段としての機能が充分に得られないため、上記下肢載置部9の傾斜角度θを5°〜10°程度の範囲に設定することが好ましい。特に、上記下肢載置部9の傾斜角度θを7°前後に設定した場合には、通常時に、運転者の下肢Aを安定して支持しつつ、車両の前突時等に、運転者の下肢Aがフットレスト部材8から滑り落ちるのを防止する効果が顕著に得られるという利点がある。
【0038】
また、上記フットレスト部材8に、平面視で運転者の反ペダル部材側がペダル部材側に比べて前方に位置した傾斜面からなる下肢載置部9を設けることにより車両の前突時等に運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを規制するように構成した上記第1実施形態において、該フットレスト部材8のペダル部材側に位置する面と反対側に上記トンネル部7の側壁面からなる車体側部材を配設した構造とした場合には、所定荷重の入力時に上記下肢載置部9上に載置される運転者の下肢Aを上記トンネル部7の側壁面に当接した状態に保持することができるため、フットレスト部材8上の下肢Aが反ペダル部材側に滑り落ちるのを確実に防止して、該下肢Aをより効果的に保護できるという利点がある。
【0039】
さらに、上記第1実施形態では、図5に示すように、運転席3のシートバック11を所定角度ηで傾斜させることにより、運転者が平面視でややペダル部材側(車幅方向外方側)を指向した着座状態となるように運転席3の着座面を構成したため、上記のようにフットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視で運転者の反ペダル部材側がペダル部材側に比べて前方に位置するように傾斜させた構造とした場合においても、上記フットレスト部材8の下肢載置部9上に載置された運転者の下肢Aが、平面視で窮屈な角度となることに起因して運転者が違和感を受けるのを防止しつつ、該下肢Aを効果的に保護することができる。
【0040】
例えば、フットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視でペダル部材側を指向するように傾斜させた場合において、運転者が真っ直ぐに前方を向いた状態で、図6に示すように、左足を外開き気味に伸ばして下肢Aを上記フットレスト部材8上に下腿Aを載置すると、平面視で運転者の下肢Aが無理な角度で傾斜した傾斜状態となって運転者が違和感を受け易い傾向がある。これに対して図5に示すように、運転者が平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向した着座状態となるように運転席3の着座面を構成した場合には、車幅方向に沿ってラインLに対する運転者の傾斜方向と上記下肢載置部9の傾斜方向とを相対応させることできるため、運転者の下肢Aが無理な角度で傾斜状態となるのを抑制して運転者の違和感を効果的に低減できるという利点がある。
【0041】
また、上記第1実施形態では、図3に示すように、フットレスト部材8の上方部に位置する脚部10の板厚t1を下方部に位置する脚部10の板厚t2よりも小さく設定するとともに、上方部に位置する脚部10の設置間隔W1を下方部の脚部10の設置間隔W2に比べて大きく設定する等により、所定荷重の入力時に上記下肢載置部9の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部を上記フットレスト部材8に設けたため、車両の前突時等に該フットレスト部材8に圧接される下肢Aの圧力に応じ、図7に示すように、下肢Aのつま先部が載置されたフットレスト部材8の上方部を、下肢Aの踵部が載置されたフットレスト部材8の下方部に比べて大きく変形させることができる。
【0042】
このため、車両の前突時に入力された衝撃荷重に応じて記フットレスト部材8が後方に押圧されるとともに、運転者の下腿Aが相対的に前方に押動されることにより、その膝下角度βが増大するように運転者の着座姿勢が変化した場合においても、足首角度γが顕著に変化するのを防止することができる。したがって、該足首角度γが90°未満となって運転者の足首に無理な力が作用し、これを回避するために下肢Aがフットレスト部材8から脱落するという事態の発生を効果的に防止することができ、運転者がその下肢Aをフットレスト部材8上に載置した状態で、衝撃に耐えることができるという利点がある。
【0043】
図8は、本発明に係る車両の下肢保護構造の第2実施例を示している。該下肢保護構造の第2実施形態では、フットレスト部材8の下肢載置部9に複数枚の脚部10aが車幅方向に所定間隔を置いて配設され、その反ペダル部材側(車幅方向中央部側)に位置する脚部10aの板厚t1がペダル部材側に位置する脚部10aの板厚t2よりも小さく設定されている。さらに、上記フットレスト部材8の反ペダル部材側に位置する脚部10aの設置間隔W1がペダル部材側の脚部10aの設置間隔W2に比べて大きく設定されることにより、所定荷重の入力時に下肢載置部9の反ペダル部材側をペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部からなる下肢移動規制手段が、フットレスト部材8に設けられている。
【0044】
上記第2実施形態のように、所定荷重の入力時に下肢載置部9の反ペダル部材側をペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部をフットレスト部材8に設けた構造とした場合には、通常時に運転者が違和感を受けることなく、その下肢Aを上記下肢載置部9上に適正状態で載置することができるように、上記下肢載置部9の傾斜角度θを小さくし、あるいは該下肢載置部9を平面視で車幅方向に沿ったラインLに対して真っ直ぐに設置した構造とした場合においても、車両の前突時等には、該フットレスト部材8に圧接される下肢Aの圧力に応じ、図9に示すように、下肢Aの外面側部が載置された下肢載置部9の反ペダル部材側を、下肢Aの内側面部が載置されたペダル部材側に比べて大きく変形させることにより、フットレスト部材8上の下肢Aが反ペダル部材側に滑り落ちるのを防止して該下肢Aを効果的に保護できるという利点がある。
【0045】
図10および図11は、本発明に係る車両の下肢保護構造の第3実施例を示している。該下肢保護構造の第3実施形態では、クラッチペダル6からなるペダル部材の側面に、該クラッチペダル6に回動可能に支持された第1リンクプレート12と、下端部がヒンジ軸13を支点として回動可能に支持された第2リンクプレート14とを有するリンク機構からなる支持部材15が設けられ、該支持部材15により上記下肢移動規制手段が構成されている。上記第2リンクプレート14の先端部には、連結ピン16を介して第1リンクプレート12に連結される長孔17がされている。そして、運転者が下肢Aをフットレスト部材8上に載置した状態では、フットレスト部材8の車幅方向外側方部において上記第2リンクプレート14が起立状態となって、該第2リンクプレート14によりフットレスト部材8上の下肢Aが反ペダル部材側に移動することが規制されるようになっている。
【0046】
また、上記クラッチペダル6の踏面部6aを踏み込んでクラッチ操作を行う際には、上記第2リンクプレート14が下端部の枢支軸13を支点として揺動変位するとともに、上記連結ピン16が第2リンクプレート14の長孔17に沿って摺動することにより、図12に示すように、上記リンク機構からなる支持部材15によりクラッチペダル6が支持されつつ、その踏込操作が許容されるようになっている。さらに、車両の前突時等に、図13に示すように、クラッチペダル6を後方に押動する大きな衝撃荷重Fが作用した場合には、上記連結ピン16が長孔17の端部に当接して第1,第2リンクプレート12,14の傾動変位が規制されることにより、該クラッチペダル6の後方移動が阻止されるため、クラッチペダル6が大きく後方に移動して運転者が違和感を受けるという事態の発生を効果的に防止することができる。
【0047】
上記第3実施形態に示すように、クラッチペダル6等からなるペダル部材の側面に該ペダル部材を傾動可能に支持するリンクプレート機構からなる支持部材15を設け、該支持部材15により上記下肢移動規制手段としての機能を兼ね備えさせるように構成した場合には、該クラッチペダル6の踏込操作時に、上記支持部材15でクラッチペダル6を支持することにより該クラッチペダル6をスムーズに揺動変位させることができるという効果と、クラッチペダル6を後方に押動する大きな衝撃荷重の作用時に、該クラッチペダル6の後方移動を上記支持部材15により規制して運転者が違和感を受けるのを防止できるという効果と、かつ車両の前突時等に、フットレスト部材8上の下肢Aが反ペダル部材側に滑り落ちるのを防止して該下肢Aを保護できるという効果とが同時に得られるという利点がある。
【0048】
なお、上記実施形態では、車室の前部右側に運転者が着座する運転席3が設置された所謂右ハンドル車について説明したが、運転席3が斜視前部の左側に配設された左ハンドル車についても本発明を適用可能である。この場合、サイドシルからなるからなる車体部材に近接した車幅方向外方部側にフットレスト部材8を配設するとともに、該フットレスト部材8に載置された運転者の下肢がクラッチペダル6等からなるペダル部材側(車幅方向中央部側)に移動するのを規制する移動規制手段を上記フットレスト部材8に設けた構造とすることにより、簡単な構成で車両の前突時等にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止して運転者の下肢を効果的に保護することができる。また、本発明は、上記クラッチペダル6のない所謂オートマチックタイプの車両においても適用可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 フロアパネル
2 ダッシュパネル
3 運転席
6 クラッチペダル(ペダル部材)
7 トンネル部(車体部材)
8 フットレスト部材
9 下肢載置部
15 支持部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の底面を構成するフロアパネルと、該フロアパネルの前方に連続して上方へ延びるように設置されて車室の前壁を形成するダッシュパネルとを有し、上記フロアパネル上の運転席に着座した運転者が操作するペダル部材が上記ダッシュパネルに近接して設けられた車両の下肢保護構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、フロアトンネルの側面傾斜壁とカーペットとの間に、フットレストの車幅方向かつ上側においてエネルギー吸収材を設け、該エネルギー吸収部材の車幅方向外側面を側面傾斜壁に対して車幅方向外側へ傾斜させることにより、車両の前面衝突時等にフットレストがフロアトンネル側へ回動されて乗員の足先部がフロアトンネル側へ回動される際には、足先部のフロアトンネル側への回動エネルギーが上記エネルギー吸収部材によって吸収されるように構成して乗員の足(下肢)を保護することが行われている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、フロアトンネル部からなる衝撃吸収体の近傍に設置された所定高さのフットレストに、初期位置から拡張位置に拡張可能な拡張フットレスト部と、車両の前面衝突予知手段の予知に応じて上記拡張フットレスト部を初期位置から拡張位置まで移動させる移動機構とを設けることにより、フットレストに載置された乗員の足がフットレストの踏面から外れるのを防止して乗員の足を保護することが行われている。
【0004】
さらに、下記特許文献3に示されるように、トーボードに固定されるベースブラケット部の基部側と、搭乗者の足を載せるフットレスト部との基部側とを屈曲部を介して一体成形するとともに、ベースブラケット部の基部側にフォースリミッタを形成し、上記ベースブラケット部とフットレスト部とを、屈曲部を屈曲させて互いに対向させるとともに、両部材の先端側に介装したクッションを介して連結し、互いに対向する両部材の基部側の高さをフォースリミッタで規定し、大きな衝撃荷重が印加された場合は、フォースリミッタを変形もしくは破壊させることが衝撃荷重を吸収することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−279984号公報
【特許文献2】特開2008−189030号公報
【特許文献2】特開2007−238035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された発明では、フットレスト部材の側方に位置するフロアトンネル部の側壁傾斜面に発泡樹脂製のエネルギー吸収材を設けたため、車両の前突時等に、フットレスト部材がフロアトンネル部側へ回動するように車体が変形した場合に、フットレスト部材上に載置された運転者の下肢(足先部)がフロアトンネル部の側壁面に押し付けられることによる衝撃を緩和して下肢を保護することが可能である。しかし、上記構成を採用したとしても、フットレスト部材上に載置された運転者の下肢をペダル部材の設置部側へ移動させる方向の荷重が作用した場合に、フットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを効果的に防止することができず、運転者が違和感を受け易いとともに、下肢の保護作用が充分に得られないという問題があった。
【0007】
上記特許文献2に開示された発明では、前面衝突予知手段により車両の前突を適正に予知し、車両の前突事故が発生する前に、上記移動機構を作動させて拡張フットレスト部を初期位置から拡張位置まで移動させることができれば、フットレスト部に載置された乗員の下肢がフットレスト部材の下肢載置部から滑り落ちるという事態の発生を効果的に防止することが可能である。しかし、上記前面衝突予知手段および移動機構を設けるとともに、フットレスト部材の下肢載置部を拡張可能に構成する必要があるので、構造が複雑になるという欠点がある。
【0008】
また、上記前面衝突予知手段により車両の前突を適正に予知することは困難であるため、前突事故の発生する確率が低いにも拘わらず、上記移動機構が作動状態となって拡張フットレスト部を拡張位置へ移動することにより、運転者が違和感を受け易いという問題がある。なお、当該事態の発生を防止するために、前突事故の発生する確率が極めて高くなった時点で、上記移動機構を作動させることも考えられるが、この場合には、車両の前突事故が発生する前の適正なタイミングで上記拡張フットレスト部を拡張位置まで移動させることが困難であり、上記構造を採用したにも拘わらず、運転者の下肢を効果的に保護することができない虞があった。
【0009】
上記特許文献3に開示された車両用フットレスト構造では、車両の前突事故等の発生時に、ベースブラケット部の基部側とフットレスト部との基部側との間に配設されたフォースリミッタを変形もしくは破壊させることにより、衝撃荷重を吸収するように構成したため、フットレスト部材上に運転者の下肢を載置させた状態に維持することができれば、該下肢を効果的に保護することが可能である。しかし、上記構成を採用したとしても、車両の前突時にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちてしまうと、上記フォースリミッタを変形させる等による衝撃荷重の吸収効果を得ることができず、運転者が違和感を受け易いとともに、下肢の保護作用が充分に得られないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で車両の前突時等にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止して運転者の下肢を効果的に保護することができる車両の下肢保護構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、車室の底面を構成するフロアパネルと、該フロアパネルの前方に連続して上方へ延びるように設置されることにより車室の前壁を形成するダッシュパネルとを有し、上記フロアパネル上の運転席に着座した運転者が操作するペダル部材が上記ダッシュパネルに近接して設けられた車両において、該ダッシュパネルの下部で上記ペダル部材の側方部には、運転者の下肢が載置されるフットレスト部材が配設され、該フットレスト部材には、車両の前突時等に運転者の下肢がペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段が設けられたものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両の下肢保護構造において、上記フットレスト部材には、平面視でペダル部材側を指向するように傾斜した傾斜面からなる下肢載置部が設けられ、該下肢載置部により上記下肢移動規制手段が構成されたものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の車両の下肢保護構造において、上記フットレスト部材のペダル部材側に位置する面と反対側には、車体部材が配設されたものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造において、上記フットレスト部材には、所定荷重の入力時に下肢載置部のペダル部材側を反ペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部が設けられ、該変形促進部により上記下肢移動規制手段が構成されたものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、上記請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造において、平面視で運転者がペダル部材側を指向した着座状態となるように運転席の着座面が構成されたものである。
【0016】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造において、上記フットレスト部材には、所定荷重の入力時に下肢載置部の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部が設けられ、該変形促進部により上記下肢移動規制手段が構成されたものである。
【0017】
請求項7に係る発明は、上記請求項2〜6のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造において、上記ペダル部材の側面には、該ペダル部材を傾動可能に支持する支持部材が設けられ、該支持部材により上記下肢移動規制手段が構成されたものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明では、ペダル部材の側方部に配設されたフットレスト部材に、車両の前突時等に運転者の下肢がペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段を設けたため、車両の前突時に運転者の下肢が上記フットレスト部材の下肢載置部に押し付けられる方向に大きな荷重が作用した場合に、フットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止して該下肢を効果的に保護できるという利点がある。
【0019】
請求項2に係る発明では、平面視でペダル部材側を指向するように傾斜した傾斜面からなる下肢載置部により上記下肢移動規制手段を構成したため、車両の前突時に運転者の下肢が上記フットレスト部材の下肢載置部に押し付けられる方向に大きな荷重が作用した場合には、該下肢載置部の傾斜面に沿って運転者の下肢を反ペダル部材側に案内することにより、所定荷重の入力時に上記下肢載置部上に載置される運転者の下肢がペダル部材側に移動することを、極めて簡単な構成で効果的に防止できるという利点がある。
【0020】
請求項3に係る発明では、フットレスト部材のペダル部材側に位置する面と反対側に車体部材が配設されているため、トンネル部とペダル部材との間において、これらにフットレスト部材がそれぞれ近接して配設されることにより、上記フットレスト部材の幅寸法を大きくすることが困難であり、該フットレスト部材から運転者の下肢が滑り落ち易い傾向にある車両においても、車両の前突時等にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止することにより、車両をコンパクト化しつつ、運転者の下肢を効果的に保護できるという顕著な効果を奏することができる。
【0021】
請求項4に係る発明では、上記フットレスト部材に、所定荷重の入力時に下肢載置部のペダル部材側を反ペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部を設け、該変形促進部により上記下肢移動規制手段を構成したため、通常時に運転者が違和感を受けることなく、その下肢を上記下肢載置部上に適正状態で載置することができるように、上記下肢載置部の傾斜角度を小さくし、あるいは該下肢載置部を平面視で車幅方向に沿ったラインに対して真っ直ぐに設置した構造とした場合においても、車両の前突時等には、該フットレスト部材に圧接される下肢の圧力に応じ、下肢の外面側部が載置された下肢載置部の反ペダル部材側を、下肢の内側面部が載置されたペダル部材側に比べて大きく変形させることにより、フットレスト部材上の下肢が反ペダル部材側に滑り落ちるのを防止して該下肢を効果的に保護できるという利点がある。
【0022】
請求項5に係る発明では、平面視で運転者がペダル部材側を指向した着座状態となるように運転席の着座面を構成したため、フットレスト部材の下肢載置部を、平面視で運転者の反ペダル部材側がペダル部材側に比べて前方に位置するように傾斜させた構造等とした場合においても、上記フットレスト部材の下肢載置部上に載置された運転者の下肢が、平面視で窮屈な角度となることに起因して運転者が違和感を受けるのを防止しつつ、該下肢を効果的に保護することができる。
【0023】
請求項6に係る発明では、上記フットレスト部材に、所定荷重の入力時に下肢載置部の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部を設け、該変形促進部により上記下肢移動規制手段を構成したため、車両の前突時に入力された衝撃荷重に応じて記フットレスト部材が後方に押圧されるとともに、運転者の下腿が相対的に前方に押動されることにより、その膝下角度が増大するように運転者の着座姿勢が変化した場合においても、足首角度が顕著に変化するのを防止することができる。したがって、該足首角度が未満となって運転者の足首に無理な力が作用し、これを回避するために下肢がフットレスト部材から脱落するという事態の発生を効果的に防止することができ、運転者がその下肢をフットレスト部材上に載置した状態で、衝撃に耐えることができるという利点がある。
【0024】
請求項7に係る発明では、上記ペダル部材の側面に、該ペダル部材を傾動可能に支持する支持部材を設け、該支持部材により上記下肢移動規制手段を構成したため、該クラッチペダルの踏込操作時に、上記支持部材によってクラッチペダルを支持することにより該クラッチペダルをスムーズに揺動変位させることができるという効果と、車両の前突時等に、フットレスト部材上の下肢が反ペダル部材側に滑り落ちるのを防止して該下肢を保護できるという効果とが同時に得られる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車両の下肢保護構造の第1実施形態を示す側面図である。
【図2】上記下肢保護構造を備えた車室前部の構造を示す説明図である。
【図3】フットレスト部材の具体的構成を示す側面断面図である。
【図4】フットレスト部材の具体的構成を示す平面図である。
【図5】運転者の着座状態を示す平面図である。
【図6】本発明の比較例を示す図4相当図である。
【図7】上記下肢保護構造の第1実施形態の作用を示す側面断面図である。
【図8】本発明に係る車両の下肢保護構造の第2実施形態を示す平面断面図である。
【図9】上記下肢保護構造の第2実施形態の作用を示す平面断面図である。
【図10】本発明に係る車両の下肢保護構造の第3実施形態を示す側面図である。
【図11】上記第3実施形態に係る下肢保護構造を示す平面図である。
【図12】上記第3実施形態においてクラッチペダルの踏込状態を示す側面図である。
【図13】車両の衝突時におけるクラッチペダルの変位状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1および図2は、本発明に係る車両の下肢保護構造の第1実施形態を示している。該車両には、車室の底面を構成するフロアパネル1と、該フロアパネル1の前方に連続して上方へ延びるように設置されることにより車室の前壁を形成するダッシュパネル2とが設けられている。上記フロアパネル1上であって車室の前部右側には、運転者が着座する運転席3が設置されるとともに、該運転席3に着座した運転者が踏込操作するアクセルペダル4、ブレーキペダル5およびクラッチペダル6等からなるペダル部材が、上記ダッシュパネル2に近接した位置に設けられている。
【0027】
また、上記ダッシュパネル2の下部でクラッチペダル6の側方部、つまり上記フロアパネル1上の車幅方向中央部において車体の前後方向に延びるように形成されたトンネル部7の側壁面からなる車体部材に近接した車幅方向中央部側には、フットレスト部材8が配設されている。該フットレスト部材8は、図3および図4に示すように、運転者がその下肢A、具体的には左足の足裏部を載置する下肢載置部9と、その前面から車体の前方側に突設されるとともに、上下方向に所定間隔を置いて配設された複数の脚部10とを有している。
【0028】
上記フットレスト部材8の下肢載置部9は、側面視で前上がりに傾斜して設置され、該下肢載置部9の傾斜角度αは、通常時に運転者が安楽姿勢を維持した状態でその下肢Aを載置し得るように設定されている。例えば、運転席1に着座した運転者が側面視で前方に前下がり状態で伸ばした左足の水平面対する設置角度(膝下角度)βが25°程度である場合には、その足首角度γを90°程度に設定して上記下肢載置部9上に下肢を載置し得るように、該下肢載置部9の水平面対する傾斜角度αが例えば65°程度に設定されている。
【0029】
上記フットレスト部材8の上方部に位置する脚部10は、その板厚t1が下方部に位置する脚部10の板厚t2よりも小さく設定されるとともに、上方部に位置する脚部10の設置間隔W1が下方部の脚部10の設置間隔W2に比べて大きく設定されている。このようにして上方に位置する脚部10の強度を下方に位置する脚部10よりも小さく設定することにより、後述するように所定荷重の入力時に上記下肢載置部9の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部が構成されている。
【0030】
また、上記下肢載置部9は、その反ペダル部材側(車幅方向中央側)を、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)に比べて前方に位置させることにより、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向するように傾斜した傾斜面に形成されている。そして、該下肢載置部9は、その車幅方向に沿ったラインLに対する傾斜角度θが例えば5°〜10°程度の範囲に設定されることにより、通常時には、運転者の下肢Aを安定して支持する支持手段としての機能と、車両の前突時等には、上記下肢載置部9上に載置された運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段としての機能とを有している。
【0031】
すなわち、図4に示すようにフットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向させるように、車幅方向に沿ったラインLに対して所定角度θで傾斜させた場合には、運転者の下肢Aが上記フットレスト部材8の下肢載置部9に押し付けられる方向に大きな荷重が作用する車両の前突時等に、該下肢載置部9の傾斜面に沿って運転者の下肢Aが車幅方向中央部側(トンネル部7側)に案内されることになる。これより、所定荷重の入力時に上記下肢載置部9上に載置された運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを防止し、該下肢Aの外側面を上記トンネル部7の側壁面に当接させた状態に保持できるように構成している。
【0032】
また、図5に示すように、上記運転席3が、平面視で若干ペダル部材側(車幅方向外方側)を指向するように、例えば車幅方向に沿ったラインLに対して2°〜5°の傾斜角度ηで傾斜して設置されることにより、運転者がペダル部材側を指向した着座状態(やや斜め外側を指向した着座状態)となるように運転席3の着座面が構成されている。なお、平面視で上記運転席3を傾斜させた状態で設置してなる上記構成に代え、あるいは該構成とともに、例えば上記運転席3の車幅方向における中心位置Oを、上記アクセルペダル4およびフットレスト部材8間の車幅方向中間位置Cよりも車幅方向の中央部側に配設することにより、運転者がペダル部材側(車幅方向外方側)を指向した着座状態となるように上記運転席3を構成してもよい。
【0033】
運転者は、その右足をアクセルペダル4に載置するとともに、左足をフットレスト部材8上に載置した状態で、背中の中央部をシートバック11の中心Oに位置させた状態で着座しようとする。このため、該シートバック11の中心Oをアクセルペダル4およびフットレスト部材8間の車幅方向中間位置Cよりも車幅方向の中央部側に配設することにより、左右両足の中間位置を背中の中央部よりも車幅方向に外方側に位置させ、これによって運転者を若干外向きの傾斜状態で着座させることが可能となる。
【0034】
上記のように車室の底面を構成するフロアパネル1と、該フロアパネル1の前方に連続して上方へ延びるように設置されて車室の前壁を形成するダッシュパネル2とを有し、上記フロアパネル1上の運転席3に着座した運転者が操作するクラッチペダル6等からなるペダル部材が上記ダッシュパネル2に近接して設けられた車両において、該ダッシュパネル2の下部で上記ペダル部材の側方部に、運転者の下肢Aが載置されるフットレスト部材8を配設し、該フットレスト部材8に、車両の前突時等に運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段を設けため、簡単な構成で車両の前突時等にフットレスト部材8の下肢載置部9から運転者の下肢Aが滑り落ちるのを防止して該下肢Aを効果的に保護することができる。
【0035】
すなわち、上記第1実施形態では、フットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向させるように、車幅方向に沿ったラインLに対して所定角度θで傾斜させている。当該構成によれば、車両の前突時に運転者の下肢Aが上記フットレスト部材8の下肢載置部9に押し付けられる方向に大きな荷重が作用した場合には、該下肢載置部9の傾斜面に沿って運転者の下肢Aが車幅方向中央部側に案内されることになるため、所定荷重の入力時に上記下肢載置部9上に載置される運転者の下肢Aがペダル部材側に移動することを効果的に防止し、該下肢Aの側面を上記トンネル部7の側壁面に当接させた状態に安定して保持することができる。したがって、上記のようにフットレスト部材8に、平面視で運転者の反ペダル部材側(トンネル部7側)がペダル部材側に比べて前方に位置した傾斜面からなる下肢載置部9を設けるという極めて簡単な構成で、車両の前突時等にフットレスト部材8の下肢載置部9から運転者の下肢Aが滑り落ちるのを防止して該下肢Aを効果的に保護できるという利点がある。
【0036】
上記第1実施形態では、該フットレスト部材8のペダル部材側に位置する面と反対側、つまり車幅方向中央部側にトンネル部7の側壁面からなる車体側部材を配設したため、上記トンネル部7とクラッチペダル6等との間において、これらにフットレスト部材8がそれぞれ近接して配設されることにより、上記フットレスト部材8の幅寸法を大きくすることが困難であって、該フットレスト部材8から運転者の下肢Aが滑り落ち易い傾向にある。このような車両において、上記のようにフットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向させるように傾斜させることにより、車両の前突時等にフットレスト部材8の下肢載置部9から運転者の下肢Aが滑り落ちるのを防止するように構成した場合には、車両をコンパクト化しつつ、運転者の下肢Aを効果的に保護できるという顕著な効果を奏することができる。
【0037】
なお、上記下肢載置部9の傾斜角度θが大きくなると、通常の着座状態において下肢Aの内側面部が外側面部よりも大きく後方側に位置することとなって運転者が違和感を受け易くなる。逆に、上記下肢載置部9の傾斜角度θが小さくなると、該下肢載置部9上に載置された運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段としての機能が充分に得られないため、上記下肢載置部9の傾斜角度θを5°〜10°程度の範囲に設定することが好ましい。特に、上記下肢載置部9の傾斜角度θを7°前後に設定した場合には、通常時に、運転者の下肢Aを安定して支持しつつ、車両の前突時等に、運転者の下肢Aがフットレスト部材8から滑り落ちるのを防止する効果が顕著に得られるという利点がある。
【0038】
また、上記フットレスト部材8に、平面視で運転者の反ペダル部材側がペダル部材側に比べて前方に位置した傾斜面からなる下肢載置部9を設けることにより車両の前突時等に運転者の下肢Aがペダル部材側に移動するのを規制するように構成した上記第1実施形態において、該フットレスト部材8のペダル部材側に位置する面と反対側に上記トンネル部7の側壁面からなる車体側部材を配設した構造とした場合には、所定荷重の入力時に上記下肢載置部9上に載置される運転者の下肢Aを上記トンネル部7の側壁面に当接した状態に保持することができるため、フットレスト部材8上の下肢Aが反ペダル部材側に滑り落ちるのを確実に防止して、該下肢Aをより効果的に保護できるという利点がある。
【0039】
さらに、上記第1実施形態では、図5に示すように、運転席3のシートバック11を所定角度ηで傾斜させることにより、運転者が平面視でややペダル部材側(車幅方向外方側)を指向した着座状態となるように運転席3の着座面を構成したため、上記のようにフットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視で運転者の反ペダル部材側がペダル部材側に比べて前方に位置するように傾斜させた構造とした場合においても、上記フットレスト部材8の下肢載置部9上に載置された運転者の下肢Aが、平面視で窮屈な角度となることに起因して運転者が違和感を受けるのを防止しつつ、該下肢Aを効果的に保護することができる。
【0040】
例えば、フットレスト部材8の下肢載置部9を、平面視でペダル部材側を指向するように傾斜させた場合において、運転者が真っ直ぐに前方を向いた状態で、図6に示すように、左足を外開き気味に伸ばして下肢Aを上記フットレスト部材8上に下腿Aを載置すると、平面視で運転者の下肢Aが無理な角度で傾斜した傾斜状態となって運転者が違和感を受け易い傾向がある。これに対して図5に示すように、運転者が平面視でペダル部材側(車幅方向外方側)を指向した着座状態となるように運転席3の着座面を構成した場合には、車幅方向に沿ってラインLに対する運転者の傾斜方向と上記下肢載置部9の傾斜方向とを相対応させることできるため、運転者の下肢Aが無理な角度で傾斜状態となるのを抑制して運転者の違和感を効果的に低減できるという利点がある。
【0041】
また、上記第1実施形態では、図3に示すように、フットレスト部材8の上方部に位置する脚部10の板厚t1を下方部に位置する脚部10の板厚t2よりも小さく設定するとともに、上方部に位置する脚部10の設置間隔W1を下方部の脚部10の設置間隔W2に比べて大きく設定する等により、所定荷重の入力時に上記下肢載置部9の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部を上記フットレスト部材8に設けたため、車両の前突時等に該フットレスト部材8に圧接される下肢Aの圧力に応じ、図7に示すように、下肢Aのつま先部が載置されたフットレスト部材8の上方部を、下肢Aの踵部が載置されたフットレスト部材8の下方部に比べて大きく変形させることができる。
【0042】
このため、車両の前突時に入力された衝撃荷重に応じて記フットレスト部材8が後方に押圧されるとともに、運転者の下腿Aが相対的に前方に押動されることにより、その膝下角度βが増大するように運転者の着座姿勢が変化した場合においても、足首角度γが顕著に変化するのを防止することができる。したがって、該足首角度γが90°未満となって運転者の足首に無理な力が作用し、これを回避するために下肢Aがフットレスト部材8から脱落するという事態の発生を効果的に防止することができ、運転者がその下肢Aをフットレスト部材8上に載置した状態で、衝撃に耐えることができるという利点がある。
【0043】
図8は、本発明に係る車両の下肢保護構造の第2実施例を示している。該下肢保護構造の第2実施形態では、フットレスト部材8の下肢載置部9に複数枚の脚部10aが車幅方向に所定間隔を置いて配設され、その反ペダル部材側(車幅方向中央部側)に位置する脚部10aの板厚t1がペダル部材側に位置する脚部10aの板厚t2よりも小さく設定されている。さらに、上記フットレスト部材8の反ペダル部材側に位置する脚部10aの設置間隔W1がペダル部材側の脚部10aの設置間隔W2に比べて大きく設定されることにより、所定荷重の入力時に下肢載置部9の反ペダル部材側をペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部からなる下肢移動規制手段が、フットレスト部材8に設けられている。
【0044】
上記第2実施形態のように、所定荷重の入力時に下肢載置部9の反ペダル部材側をペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部をフットレスト部材8に設けた構造とした場合には、通常時に運転者が違和感を受けることなく、その下肢Aを上記下肢載置部9上に適正状態で載置することができるように、上記下肢載置部9の傾斜角度θを小さくし、あるいは該下肢載置部9を平面視で車幅方向に沿ったラインLに対して真っ直ぐに設置した構造とした場合においても、車両の前突時等には、該フットレスト部材8に圧接される下肢Aの圧力に応じ、図9に示すように、下肢Aの外面側部が載置された下肢載置部9の反ペダル部材側を、下肢Aの内側面部が載置されたペダル部材側に比べて大きく変形させることにより、フットレスト部材8上の下肢Aが反ペダル部材側に滑り落ちるのを防止して該下肢Aを効果的に保護できるという利点がある。
【0045】
図10および図11は、本発明に係る車両の下肢保護構造の第3実施例を示している。該下肢保護構造の第3実施形態では、クラッチペダル6からなるペダル部材の側面に、該クラッチペダル6に回動可能に支持された第1リンクプレート12と、下端部がヒンジ軸13を支点として回動可能に支持された第2リンクプレート14とを有するリンク機構からなる支持部材15が設けられ、該支持部材15により上記下肢移動規制手段が構成されている。上記第2リンクプレート14の先端部には、連結ピン16を介して第1リンクプレート12に連結される長孔17がされている。そして、運転者が下肢Aをフットレスト部材8上に載置した状態では、フットレスト部材8の車幅方向外側方部において上記第2リンクプレート14が起立状態となって、該第2リンクプレート14によりフットレスト部材8上の下肢Aが反ペダル部材側に移動することが規制されるようになっている。
【0046】
また、上記クラッチペダル6の踏面部6aを踏み込んでクラッチ操作を行う際には、上記第2リンクプレート14が下端部の枢支軸13を支点として揺動変位するとともに、上記連結ピン16が第2リンクプレート14の長孔17に沿って摺動することにより、図12に示すように、上記リンク機構からなる支持部材15によりクラッチペダル6が支持されつつ、その踏込操作が許容されるようになっている。さらに、車両の前突時等に、図13に示すように、クラッチペダル6を後方に押動する大きな衝撃荷重Fが作用した場合には、上記連結ピン16が長孔17の端部に当接して第1,第2リンクプレート12,14の傾動変位が規制されることにより、該クラッチペダル6の後方移動が阻止されるため、クラッチペダル6が大きく後方に移動して運転者が違和感を受けるという事態の発生を効果的に防止することができる。
【0047】
上記第3実施形態に示すように、クラッチペダル6等からなるペダル部材の側面に該ペダル部材を傾動可能に支持するリンクプレート機構からなる支持部材15を設け、該支持部材15により上記下肢移動規制手段としての機能を兼ね備えさせるように構成した場合には、該クラッチペダル6の踏込操作時に、上記支持部材15でクラッチペダル6を支持することにより該クラッチペダル6をスムーズに揺動変位させることができるという効果と、クラッチペダル6を後方に押動する大きな衝撃荷重の作用時に、該クラッチペダル6の後方移動を上記支持部材15により規制して運転者が違和感を受けるのを防止できるという効果と、かつ車両の前突時等に、フットレスト部材8上の下肢Aが反ペダル部材側に滑り落ちるのを防止して該下肢Aを保護できるという効果とが同時に得られるという利点がある。
【0048】
なお、上記実施形態では、車室の前部右側に運転者が着座する運転席3が設置された所謂右ハンドル車について説明したが、運転席3が斜視前部の左側に配設された左ハンドル車についても本発明を適用可能である。この場合、サイドシルからなるからなる車体部材に近接した車幅方向外方部側にフットレスト部材8を配設するとともに、該フットレスト部材8に載置された運転者の下肢がクラッチペダル6等からなるペダル部材側(車幅方向中央部側)に移動するのを規制する移動規制手段を上記フットレスト部材8に設けた構造とすることにより、簡単な構成で車両の前突時等にフットレスト部材の下肢載置部から運転者の下肢が滑り落ちるのを防止して運転者の下肢を効果的に保護することができる。また、本発明は、上記クラッチペダル6のない所謂オートマチックタイプの車両においても適用可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 フロアパネル
2 ダッシュパネル
3 運転席
6 クラッチペダル(ペダル部材)
7 トンネル部(車体部材)
8 フットレスト部材
9 下肢載置部
15 支持部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の底面を構成するフロアパネルと、該フロアパネルの前方に連続して上方へ延びるように設置されることにより車室の前壁を形成するダッシュパネルとを有し、上記フロアパネル上の運転席に着座した運転者が操作するペダル部材が上記ダッシュパネルに近接して設けられた車両において、該ダッシュパネルの下部で上記ペダル部材の側方部には、運転者の下肢が載置されるフットレスト部材が配設され、該フットレスト部材には、車両の前突時等に運転者の下肢がペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段が設けられたことを特徴とする車両の下肢保護構造。
【請求項2】
上記フットレスト部材には、平面視でペダル部材側を指向するように傾斜した傾斜面からなる下肢載置部が設けられ、該下肢載置部により上記下肢移動規制手段が構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項3】
上記フットレスト部材のペダル部材側に位置する面と反対側には、車体部材が配設されたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項4】
上記フットレスト部材には、所定荷重の入力時に下肢載置部のペダル部材側を反ペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部が設けられ、該変形促進部により上記下肢移動規制手段が構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項5】
平面視で運転者がペダル部材側を指向した着座状態となるように運転席の着座面が構成されたことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項6】
上記フットレスト部材には、所定荷重の入力時に下肢載置部の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部が設けられ、該変形促進部により上記下肢移動規制手段が構成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項7】
上記ペダル部材の側面には、該ペダル部材を傾動可能に支持する支持部材が設けられ、該支持部材により上記下肢移動規制手段が構成されたことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項1】
車室の底面を構成するフロアパネルと、該フロアパネルの前方に連続して上方へ延びるように設置されることにより車室の前壁を形成するダッシュパネルとを有し、上記フロアパネル上の運転席に着座した運転者が操作するペダル部材が上記ダッシュパネルに近接して設けられた車両において、該ダッシュパネルの下部で上記ペダル部材の側方部には、運転者の下肢が載置されるフットレスト部材が配設され、該フットレスト部材には、車両の前突時等に運転者の下肢がペダル部材側に移動するのを規制する下肢移動規制手段が設けられたことを特徴とする車両の下肢保護構造。
【請求項2】
上記フットレスト部材には、平面視でペダル部材側を指向するように傾斜した傾斜面からなる下肢載置部が設けられ、該下肢載置部により上記下肢移動規制手段が構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項3】
上記フットレスト部材のペダル部材側に位置する面と反対側には、車体部材が配設されたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項4】
上記フットレスト部材には、所定荷重の入力時に下肢載置部のペダル部材側を反ペダル部材側に比べて大きく変形させることが可能な変形促進部が設けられ、該変形促進部により上記下肢移動規制手段が構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項5】
平面視で運転者がペダル部材側を指向した着座状態となるように運転席の着座面が構成されたことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項6】
上記フットレスト部材には、所定荷重の入力時に下肢載置部の上方部分を下方部分に比べて前方へ大きく変形させることが可能な変形促進部が設けられ、該変形促進部により上記下肢移動規制手段が構成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造。
【請求項7】
上記ペダル部材の側面には、該ペダル部材を傾動可能に支持する支持部材が設けられ、該支持部材により上記下肢移動規制手段が構成されたことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の車両の下肢保護構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−178289(P2011−178289A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44973(P2010−44973)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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