説明

車両の操縦安定性能試験方法及び操縦安定性能試験装置

【課題】種々の走行状態を再現する内、最も再現性が困難なスラローム状態の操縦安定性能の評価を可能とする車両の操縦安定性能試験方法及び操縦安定性能試験装置を提供する。
【解決手段】車両の周期的な連続進路転換時における操縦安定性能を試験する方法であって、複数の加振機を個別に制御する加振コントローラは、左右いずれか一方の前輪に対応する加振機の加振開始時点よりも、一方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期進んだ時点から開始し、他方の前輪に対応する加振機の加振を一方の前輪に対応する加振機の加振開始時点と同時に、かつ、加振波形が半周期進んだ時点から開始し、他方の前輪の加振開始時点よりも、他方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期遅れた時点から開始するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操縦安定性能試験に関し、特に、連続進路転換(スラローム)を想定した操縦安定性能試験における車輪及び車両の挙動を正確に再現し、車輪及び車両の性能を評価するための車両の操縦安定性能試験方法及び操縦安定性能試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪の性能を評価するための車両の操縦安定性能試験は、第1の試験方法として、被検体の車輪を車両に装着して走行する実車走行試験、第2の試験方法として、車輪が装着された車両を操縦安定性能試験装置に搭載して試験する操縦安定性能試験、第3の方法として実際の車両を一切用いずにソフトウェア上で行う車両モデルシミュレーション試験により行われている。
第1の試験方法では、操縦安定性能試験を行う車両の車体に作用する前後,左右,上下方向の力を測定する複数の加速度センサと、ピッチング,ヨーイング,ローリングのモーメントを測定するジャイロセンサと、ハンドルの操舵量及び操舵速度を検出する舵角センサとが取り付けられ、車両の各車輪には、車輪に作用する前後,左右,上下,前後軸回り,左右軸回り,上下軸回りの力を測定する6分力計が取り付けられる。上記加速度センサ,ジャイロセンサ,舵角センサ,6分力計及び車両を制御するコンピュータはデータロガーに接続され、データロガーは、各センサの出力する測定結果と、車両のコンピュータから出力される車両の速度,各輪のスリップ状態等とを対応させて記録する。
そして、当該車両をテストドライバーが、課題とする走行状態を再現するように実際に車両を繰り返し走行させて車輪及び車両の種々のデータを測定し、データロガーに記録された各種測定データを解析することにより、操縦安定性能試験における車輪の走行性能や、車輪と車両とのマッチング等の評価をしている。
また、第2の試験方法では、操縦安定性能試験を行う車両の車体に作用する前後,左右,上下方向の力を測定する複数の加速度センサと、ピッチング,ヨーイング,ローリングのモーメントを測定するジャイロセンサと、ハンドルの操舵量及び操舵速度を検出する舵角センサとが取り付けられ、車両の各車輪には、車輪に作用する前後,左右,上下,前後軸回り,左右軸回り,上下軸回りの力を測定する6分力計が取り付けられる。そして、当該車両を加振し、輪荷重を測定する荷重計を備える加振機と、種々の走行状態をプログラムとして内蔵し、選択された走行状態のプログラムに従い加振機の加振を制御する加振コントローラと、上記加速度センサ,ジャイロセンサ,舵角センサ,6分力計及び荷重計に接続され、各センサ,6分力計,荷重計の出力する測定結果を記録するデータロガーとを備える操縦安定性能試験装置により操縦安定性能が試験される。
当該操縦安定性能試験装置による操縦安定性能試験は、加振機上に被検体の車両を設け、試験する走行状態を加振コントローラから選択し、試験開始を加振コントローラに入力することで、プログラムに従い加振機が試験する走行状態を再現するように車両の車輪を加振し、所定時間経過後、データロガーに記録された測定データを解析することにより、操縦安定性能試験における車輪の走行性能や、車輪と車両とのマッチング等の評価をしている。
また、第3の試験方法では、加振器等のハードウェアを用いず、ソフトウェア上において操縦安定性能試験を想定した種々の走行状態をシミュレーションにより再現し、車輪及び車両の操縦安定性能を評価している。
【0003】
しかしながら、車両の操縦安定性能試験のうち連続進路転換(スラローム走行状態)の走行状態を正確に再現することは、上記3つの何れの方法においても困難であり、正確に操縦安定性能を評価することができなかった。
具体的には、第1の試験方法では、路面から車輪に入力される力を測定する場合に、実際に車両が走行する路面の凹凸,傾斜,天候等の外乱により、力の各方向成分の測定精度が悪かったり、走行する位置の微妙な変化により、試験の繰り返しにおいて再現性のある測定結果が得られず、操縦安定性能の評価の精度に懸念があった。
また、第2の試験方法では、加振機から各車輪に入力する加振の開始時点がはっきりわからなかったため、第2の試験方法と第1の試験方法により測定された結果との間の整合性にムラがあり、操縦安定性能の評価の精度に懸念があった。
また、第3の試験方法では、第2の試験方法と同様に、シミュレーション上の車輪に入力する加振の開始時点が不明であったため、第3の試験方法と第1の試験方法により測定された結果との間の整合性にムラがあり、操縦安定性能の評価の精度に懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−321253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、種々の走行状態を再現する内、最も再現性が困難なスラローム状態の操縦安定性能の評価を可能とする車両の操縦安定性能試験方法及び操縦安定性能試験装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の形態として、車両を加振する複数の加振機に車両のタイヤをそれぞれ載置し、複数の加振機を制御する加振コントローラにより、所定の加振波形に従って加振機を加振し、車両の周期的な連続進路転換時における操縦安定性能を試験する方法であって、加振コントローラは、左右いずれか一方の前輪に対応する加振機の加振開始時点よりも、一方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期進んだ時点から開始し、他方の前輪に対応する加振機の加振を一方の前輪に対応する加振機の加振開始時点と同時に、かつ、加振波形が半周期進んだ時点から開始し、他方の前輪の加振開始時点よりも、他方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期遅れた時点から開始するようにした。
本発明によれば、車両の車輪を複数の加振機で加振することにより、連続進路転換状態の車両を再現でき、かつ、連続進路転換状態における車輪に作用する上下方向の力を加振機の備える荷重計により測定できるので、連続進路転換状態の車輪及び車両の操縦安定性能を解析することが可能となり、新規に試作されたタイヤの操縦安定性能を解析するときに、実車走行試験をせずに、タイヤの操縦安定性能の評価を精度良く評価することができる。
【0007】
本発明の第2の形態として、加振波形は、SIN波形により与えられるようにした。
本発明によれば、加振波形を複雑な波形で構成することなく簡単なSIN波形により連続進路転換状態を再現でき、加振波形の振幅と周期を変化させるだけで、操舵角度の異なる連続進路転換や操舵周期の異なる連続進路転換を容易に実施し、車輪及び車両の操縦安定性能を解析することができる。
【0008】
本発明の第3の構成として、車両のタイヤが載置される複数の加振機を所定の加振波形に従って加振し、車両の周期的な連続進路転換時における操縦安定性能の試験を行う車両の操縦安定性能試験装置であって、操縦安定性能試験装置は、複数の加振機の加振周期及び加振振幅を個別に制御する複数の加振コントローラを備え、加振コントローラが、左右いずれか一方の前輪に対応する加振機の加振開始時点を設定する加振波形のデータマップと、一方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振時点を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期進んだ時点に設定する加振波形のデータマップと、他方の前輪に対応する加振機の加振時点を一方の前輪に対応する加振機の加振時点と同時、かつ、加振波形が半周期進んだ時点に設定する加振波形のデータマップと、他方の前輪の加振開始時点よりも他方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振時点を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期遅れた時点に設定する加振波形のデータマップとを備えるように構成した。
本発明によれば、操縦安定性能試験装置の加振コントローラが、連続進路転換状態の車両を再現するために加振機を加振するデータマップを備えるので、容易に連続進路転換状態の車輪及び車両の操縦安定性能試験が実施でき、かつ、車輪に作用する上下方向の力を測定することができるので、連続進路転換状態の車輪及び車両の操縦安定性能を精度良く解析することができ、例えば、新規に試作されたタイヤの操縦安定性能を解析するときに、実車走行試験を行うことなく操縦安定性能の評価を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る操縦安定性能試験装置の概念図。
【図2】本発明に係る右前輪及び右後輪を加振するためのデータマップ。
【図3】本発明に係る左前輪及び左後輪を加振するためのデータマップ。
【図4】本発明に係るデータマップによる加振の位相差又は位相角を示す図。
【図5】本発明に係る加振により測定された接地反力の応答波形図。
【0010】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組合せすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態1
図1は、本発明に係る操縦安定性能試験装置1を示す。以下、操縦安定性能試験装置1について図1を用いて説明する。
操縦安定試験装置1は、車両2の複数の車輪3a〜3dを加振する複数の加振機4と、加振機4に個別に設けられ、車輪3の輪荷重を測定する荷重計5と、複数の加振機4を個別に制御し、種々の走行状態を再現するための波形を加振機4に出力する加振コントローラ6と、荷重計5から出力される輪荷重を個別に記録するデータロガー7とにより構成される。
加振機4は、加振ユニット11と、荷重計5と、車輪3が載置される車輪載せ台17とを備える。
本実施形態において、加振ユニット11は、サーボバルブ13の作動によりピストン15aの伸縮速度及び伸縮量を制御する油圧シリンダ15からなる。
加振ユニット11としての油圧シリンダ15は、シリンダ部15bが試験室内の床面に垂直に立設される。具体的には、シリンダ部15bは、底部にシリンダ部15bの直径よりも大径かつ、環状に複数形成される図外の取付孔を備え、当該取付孔と対応するように床面に突設されるアンカーボルトに取付孔を挿通させ、取付孔より突出するボルト部分にナットを螺合して固定される。
油圧シリンダ15のピストン15aの先端には、荷重計5が固定される。荷重計5は、後述のデータロガーにそれぞれ接続され、車両の輪荷重値を測定し、データロガーに出力する。荷重計5の上面側には、取付部材16が固定され、取付部材16を介して車輪載せ台17が固定される。
車輪載せ台17は、上面と下面が平行に形成された矩形状の平板材により構成され、上面側には、タイヤが載置されるタイヤ載せ面が形成される。タイヤ載せ面は、車輪3を載せたときに車輪3が前後方向及び左右方向に移動しないように規制する図外の輪止機構を備える。
上記構成の加振機4は、車両2のホイールベースやトレッド幅に対応する間隔で床面に設置される。
【0012】
次に、加振機4の加振動作を制御する加振コントローラ6について説明する。
加振コントローラ6は、加振機4の各サーボバルブ13と個別に接続され、サーボバルブ13に加振信号を出力することにより、油圧シリンダ15のピストン15aの変位量及び変位速度を制御する。即ち、サーボバルブ13の開閉速度及び流量を制御することにより、車輪載せ台17の上下方向の変位量及び変位速度が制御される。
加振コントローラ6は、入力部6Aと記憶部6Bと制御部6Cとを備える。
入力部6Aには、操縦安定性能試験を実施する試験条件を入力するキーボードやマウス等の入力装置と、各荷重計5とが接続される。
記憶部6Bには、操縦安定性能試験を実施する種々の走行状態を再現するための、加振波形が記憶される。具体的には、加振コントローラ6の記憶部6Bは、図2(a),(b)、図3(a),(b)に示すような加振波形を備えたデータマップFR,RR,FL,RLを記憶する。
制御部6Cは、記憶部6Bから読み出された加振波形に基づいて各加振機4のサーボバルブ13に対して加振信号を出力し、サーボバルブ13の開閉速度及び流量を制御することにより、油圧シリンダ15のピストン15aの変位量及び変位速度を制御する。また、制御部6Cは、試験条件のうち車両2の走行速度に対応して各加振機4が加振を開始する加振開始位置に位相差αを設定し、これに従い各加振機4を制御する。
【0013】
以下、操縦安定性能試験のうち、本発明に係る連続進路転換試験を行う場合の加振波形について図2(a),(b)、図3(a),(b)を用いて説明する。
図2(a)は、右前輪3aを加振する加振波形のデータマップFRを示す。データマップFRの加振波形は、基本波形として1つのサイン波(Sin波)で構成される。当該サイン波の振幅は加振機4の車輪載せ台17の変位量であり車両における操舵角度を示し、周期は加振機4の車輪載せ台17の変位速度であり車両における操舵周期を示している。
次に、図2(b)は、右後輪3bを加振する加振波形のデータマップRRを示す。データマップRRは、右前輪3aを加振する加振波形よりも、半周期遅れ、かつ、右前輪を加振する加振波形が半周期進んだ位置から加振を開始するサイン波形で構成される。
次に、図3(a)は、左前輪3cを加振する加振波形のデータマップFLを示す。データマップFLは、右前輪3aを加振する加振波形よりも、半周期遅れた位置から加振を開始するサイン波形で構成され、ちょうど右前輪3aを加振するデータマップFRを操舵周期軸で反転した波形である。
次に、図3(b)は、左後輪3dを加振する加振波形のデータマップRLを示す。データマップRLは、左前輪3cを加振する加振波形よりも、半周期遅れ、かつ、左前輪3cを加振する加振波形が半周期進んだ位置から加振を開始するサイン波形で構成される。ちょうど右後輪3bを加振するデータマップRRを操舵周期軸で反転した波形である。
つまり、前輪の左右3a,3c、後輪の左右3b,3dの車輪を加振するデータマップFR,RR、データマップFL,RLの加振波形は、データマップFRに対してデータマップFLが操舵周期軸に対して対称であり、データマップRRとデータマップRLとが対称であるように設定される。
上記のように加振機4に出力する加振信号をデータマップFR,RR,FL,RLとして記憶部6Bに記憶することにより、定常スラローム走行状態を繰り返し同一条件で再現することができる。
また、振幅及び周期を適当に選択することにより種々の定常スラローム走行状態の操縦安定性能試験を実施することができる。
そして、制御部6Cが、上記データマップFR,RR,FL,RLとに基づき加振を制御する。具体的には、図4(a)に示すように、制御部6Cは、データマップFRの読み込みよりも位相差αをもってデータマップRRを先に読み込み、データマップFLの読み込みよりも位相差αをもってデータマップRLを読み込み、当該データマップFR,RR,FL,RLの読み込むタイミング及びデータマップFR,RR,FL,RLに従って各サーボバルブ13を制御して、車輪載せ台17の変位を制御する。位相差αは、連続進路転換試験を行う場合の車両2の速度に応じて設定され、例えば、位相差αは、100分の2〜3秒に設定され、車両2の速度設定が早くなるに従い位相差αが大きくなる。
このようにデータマップFR,RR,FL,RLの読み込みに位相差αを設定することにより、連続進路転換試験において、実際に連続進路転換する車両2の慣性力の影響を再現することができる。
なお、制御部6Cは、データマップFRの読み込みよりも位相差αをもってデータマップRRを先に読み込み、データマップFLの読み込みよりも位相差αをもってデータマップRLを読み込むとしたが、図4(b)に示すように、位相差αに相当する位相角βを記憶部6Bの記憶するデータマップRR,RLに設定し、データマップFR,RR,FL,RLとを同時に読み込むようにしても良い。
即ち、実車におけるスラローム走行状態の車両2の挙動は、まず操舵開始時点において、車両2の前輪3a,3c(操舵輪)は操舵方向に進行を開始するが、車両2の車体2Aは操舵直前の車両2の進行方向に移動しようとする慣性力が作用するため、操舵方向とは逆向きに車体2Aが傾斜する。さらに、車体2Aの傾斜は、前輪3a,3c側から後輪3b,3d側に位相差αの影響によりワンテンポ遅れて作用することになる。例えば、操舵が右に行われたときには、左前輪3c側の車体2Aが沈み込み、右前輪3a側の車体2Aが浮き上がる挙動を示し、次に、位相差αの影響によりワンテンポ遅れて左後輪3d側の車体が沈み込み、右後輪3b側の車体2Aが浮き上がる挙動を示すことから、実車におけるスラローム走行状態の車体2Aの挙動のように、車体2Aが前後,左右に傾斜するように複数の加振機4を個別に制御して車輪3a〜3dを上下させることにより、スラローム走行状態を再現できる。よって、加振機4aが上下する振幅は、車体2Aの傾斜角に対応する操舵角度であり、加振機4が上下する周期は、操舵の切り替え早さに対応する操舵周期である。
【0014】
以下、定常スラローム走行状態の車輪3a〜3d及び車両2の操縦安定性能試験について説明する。
まず、操縦安定性能試験装置1に車両2を搭載する前に、各車輪3a〜3dの内圧がカーメーカー指定値に設定されているかを確認し、設定値でない場合には指定値となるように調整する。
次に、車両2を操縦安定性能試験装置1に搬送し、車輪載せ台17上に各車輪3a〜3dを載置する。
次に、定常スラローム走行試験の操舵角度及び操舵周期等の試験条件を入力装置から入力する。
次に、入力された操舵角度及び操舵周期となるようにSIN波形を構成し、図2(a),(b)、図3(a),(b)に示すような加振波形のデータマップFR,RR,FL,RLに基づく加振信号をデータマップFR,FLの加振信号に対してデータマップRR,RLの加振信号が進んだ状態となる位相差αをもって各加振機4に出力し、車輪載せ台17を加振して各車輪3a〜3dを個別に加振することにより、定常スラローム走行試験が開始される。
図2(a),(b)、図3(a),(b)の加振信号に基づき、加振機4aは、右前輪3aを上向きに押し上げ、加振機4bは、左前輪3cを下向きに下げる。これは、操舵輪としての左右前輪3a,3cを右向きに操舵した状態を再現している。このとき、後輪3b,dのいずれにも加振は行われない。
次に、左右前輪3a,3cの加振が開始されて半周期後に到達する位相差α分先に、左右の後輪3b,3dの加振が開始される。右後輪3bは、右前輪3aの加振方向と同一となるように加振が開始され、左後輪3dは、左前輪3cの加振方向と同一となるように加振が開始される。つまり、前輪3a,3cの加振の開始よりも後輪3b,3dの加振の開始を半周期から位相差α分だけ進めることにより、実際の車両2における操舵に対する車体2Aの応答遅れ、つまり車体2Aの上下動作を再現することができる。
そして、各車輪3a〜3dの加振が開始されたときの一定の周期及び一定の振幅で繰り返し各車輪3a〜3dを加振することで定常スラローム走行状態が再現される。
車輪3a〜3dの加振が開始されると、加振に応じて変化する各車輪3a〜3dの輪荷重の変化を各荷重計5が測定して、データロガー7に逐次出力する。これにより、各車輪3a〜3dに作用する上下方向の力を精度良く測定することができる。
次に、所定時間加振した後に加振を停止することで、定常スラローム走行試験が終了する。
【0015】
以上説明したように、1つのサイン波を基本波形として加振波形を構成し、当該加振波形により前輪3a,3cのうちいずれか1輪を加振し、他の車輪を基本波形にそれぞれ異なった位相差を与えて加振することにより、定常スラローム走行状態の操縦安定性能試験を実施することが可能となる。
【0016】
図5(a),(b)は、操縦安定性能試験装置1により操縦安定性能試験を行い、荷重計5により測定された各車輪3の接地反力の変化を示す応答波形図である。具体的には、図5(a)は、左前輪3cと左後輪3dの接地反力の変化を示し、図5(b)は、右前輪3aと右後輪3bの接地反力の変化を示す。なお、図5(a),(b)において、横軸は無次元化された操舵周期を示し、縦軸は無次元化された接地反力を示す。
図5(a)に示すように、操舵周期が約1.5以降から左前輪3c及び左後輪3dの接地反力の変化が周期的となり、左前輪3cの接地反力のピークと左後輪3dの接地反力のピークとの間に加振の位相差αによる応答遅れが、車体2Aの上下動に伴う輪荷重置の変化として再現されている。
また、図5(b)に示すように、操舵周期が約1.5以降から右前輪3a及び右後輪3bの接地反力の変化が周期的となり、右前輪3aの接地反力のピークと右後輪3bの接地反力のピークとの間に加振の位相差αによる応答遅れが、車体2Aの上下動に伴う輪荷重置の変化として再現されている。
この前輪3a,3cに対する後輪3b,3dの接地反力の変化の応答遅れは、実車走行試験の結果と一致するものである。なお、操縦安定性能試験装置1のスラローム状態の試験の検証は、実車走行試験で測定されたテストドライバーによる操舵量及び操舵周期を操縦安定性能試験装置1に加振波形として入力し、実車走行試験で測定された輪荷重値及び輪荷重値の変化を操縦安定性能試験装置1で測定された輪荷重値及び輪荷重値の変化と比較して行った。
よって、本発明のように車両2の車輪3を加振機4により加振することで、実車走行性能試験と同等な、スラローム状態の操縦安定性能試験を正確に再現することが実証された。
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、前輪のうち左右いずれか一方の前輪3a,3cに対応する加振機4の加振を開始するタイミングよりも一方の後輪3b,3dに対応する加振機4を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期進んだ位置よりも位相差α分早くから加振を開始し、他方の前輪に対応する加振機4を一方の前輪の加振を開始するタイミングと同時に加振波形が半周期進んだ位置から加振を開始し、他方の前輪の加振を開始するタイミングよりも他方の後輪に対応する加振機4を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期遅れた位置よりも位相差α分早くから加振を開始するようにして車両とともに車輪を加振することにより、操縦安定性能試験のうち再現性を得ることが困難であった連続進路転換の操縦安定性能試験を精度良くできるようになった。これにより、連続進路転換の操縦安定性能試験において、タイヤの性能及び車両2に対するタイヤのマッチングに信頼性のある評価を行うことができるようになった。
【0018】
また、操縦安定性能試験装置1に、6分力計を加え、車輪のホイールに装着することにより、連続進路転換の軸力を測定できるようになる。即ち、加振によりタイヤに作用する前後,左右,上下方向の力及び、前後軸,左右軸,上下軸回りのモーメントを測定することができる。よって、6分力計により測定された上下方向の力と、加振機4の荷重計により測定された荷重値としての接地反力を比較することで、車輪3の上下力伝達特性を解析することができる。
さらに、操縦安定性能試験装置1に車両2のサスペンションに当該サスペンションの変位量や変位速度を測定するストロークセンサやストローク速度センサを加え、車両2に装着することにより、加振状態のサスペンションの上下力伝達特性を解析することができ、車輪及び車両2に対するタイヤのマッチングの操縦安定性能試験をより精度良く行なうことができる。
【0019】
なお、上記実施形態において、右前輪を基本波形のサイン波形により加振するとして説明したが、左前輪を基本波形のサイン波形により加振しても良い。
また、加振波形を1つの加振波形として説明したが、連続進路転換以外の操縦安定性能試験を実施する場合には、適宜加振波形を選択すれば良い。
【0020】
以上、連続進路転換の操縦安定性能試験として説明したが、これに限らず、例えば、微小舵角操作時の車輪及び車両の挙動を調べる操縦安定性能試験であっても良い。
【0021】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 操縦安定性能試験装置、2 車両、3a〜3d 車輪、4;4a〜4d 加振機、
5 荷重計、6 加振コントローラ、7 データロガー、11 加振ユニット、
13 サーボバルブ、15 油圧シリンダ、15a ピストン、15b シリンダ、
16 取付部材、17 車輪載せ台、6A 入力部、6B 記憶部、6C 制御部、
FR;RR;FL;RL データマップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を加振する複数の加振機に前記車両のタイヤをそれぞれ載置し、
前記複数の加振機を制御する加振コントローラにより、所定の加振波形に従って前記加振機を加振し、前記車両の周期的な連続進路転換時における操縦安定性能を試験する方法であって、
前記加振コントローラは、
左右いずれか一方の前輪に対応する加振機の加振開始時点よりも、前記一方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振を半周期遅れ、かつ、前記加振波形が半周期進んだ時点から開始し、
他方の前輪に対応する加振機の加振を前記一方の前輪に対応する加振機の加振開始時点と同時に、かつ、前記加振波形が半周期進んだ時点から開始し、
前記他方の前輪の加振開始時点よりも、前記他方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振を半周期遅れ、かつ、前記加振波形が半周期遅れた時点から開始することを特徴とする車両の操縦安定性能試験方法。
【請求項2】
前記加振波形は、SIN波形により与えられることを特徴とする請求項1に記載の車両の操縦安定性能試験方法。
【請求項3】
車両のタイヤが載置される複数の加振機を所定の加振波形に従って加振し、前記車両の周期的な連続進路転換時における操縦安定性能の試験を行う車両の操縦安定性能試験装置であって、
前記操縦安定性能試験装置は、
前記複数の加振機の加振周期及び加振振幅を個別に制御する複数の加振コントローラを備え、
前記加振コントローラが、
左右いずれか一方の前輪に対応する加振機の加振開始時点を設定する加振波形のデータマップと、
前記一方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振時点を半周期遅れ、かつ、前記加振波形が半周期進んだ時点に設定する加振波形のデータマップと、
他方の前輪に対応する加振機の加振時点を前記一方の前輪に対応する加振機の加振時点と同時、かつ、加振波形が半周期進んだ時点に設定する加振波形のデータマップと、
前記他方の前輪の加振開始時点よりも前記他方の前輪側の後輪に対応する加振機の加振時点を半周期遅れ、かつ、加振波形が半周期遅れた時点に設定する加振波形のデータマップとを備えることを特徴とする車両の操縦安定性能試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−247626(P2011−247626A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118296(P2010−118296)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)