説明

車両の盗難検出機構及び盗難防止装置

【解決手段】 盗難検出機構に、キー挿入孔32cにキーK以外の物Dが挿入された時に沈み込むトップリング28と、このトップリング28が沈み込んだことを検出する沈み込みセンサ29とを備えた。
【効果】 キー以外の物をキー挿入孔に挿入した時にはトップリングを押し下げざるを得ず、沈み込みセンサが働いて盗難作業を確実に検出することができる。また、盗難検出機構は構造が簡単になり、コストを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は車両の盗難検出機構及び盗難防止装置に関する。
【0002】
【従来の技術】車両の盗難防止装置としては、■振動、赤外線、超音波等を感知するセンサや特定回路の断線を検知する回路をハンドル付近に設置し、盗難行為が行われた場合に上記のセンサ又は回路からの信号によって警報を発するもの、■実公昭57−27669号公報「自動2輪車の盗難防止警報装置」、■特開平7−223508号公報「自動二輪車の警報装置」がある。
【0003】上記従来技術■は、警報回路とエンジン点火回路とを、切換え用のスイッチを介して択一的に開閉自在にするとともに、この切換え用のスイッチを警報回路にセットしてハンドルグリップに設けた警報用のスイッチをハンドルグリップを握ることによってONとしたときに警報器が働くようにしたものでる。
【0004】上記従来技術■は、イグニッションスイッチにアラームポジションを設定し、このアラームポジションからキーが抜かれ、スタンドを使用して車体が保持されている状態から、第三者によりスタンドが格納位置に倒されると、スタンドに装着したスタンドスイッチによって警報発生手段に通電し警報を発するようにしたものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術■の盗難防止装置のセンサ類では、例えば、盗難行為でない場合に誤って車両に触れて振動させたり、上記のセンサ類を作動させるためのスイッチを切り忘れたりして警報を発するという不都合がある。また、上記のセンサ類は機構が複雑であり、高価であるという不都合もある。上記従来技術■及び■では、自動二輪車のハンドルグリップやスタンドに設けたスイッチを盗難行為でない時に不注意で作動させて警報を鳴らす恐れがあるという問題がある。
【0006】本発明の目的は、盗難行為以外では作動しにくく、盗難行為を確実に検知でき、コストを抑えた盗難検出機構とこの盗難検出機構を組込んだ盗難防止装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の請求項1は、盗難検出機構を、キー挿入孔にキー以外の物が挿入された時に沈み込むトップリングと、このトップリングが沈み込んだことを検出する沈み込みセンサとから構成した。キー以外の物をキー挿入孔に挿入した時にはトップリングを押し下げざるを得ず、沈み込みセンサが働いて盗難作業を確実に検出することができる。また、盗難検出機構は構造が簡単になり、コストを抑えることができる。
【0008】請求項2は、請求項1記載の車両の盗難検出機構に、この車両の盗難検出機構からの信号によって警報を発する盗難警報機構を加えた。盗難警報機構によって盗難作業を周囲に知らせることができ、盗難防止効果を高めることができる。
【0009】請求項3は、請求項1記載の車両の盗難検出機構に、この車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えた。盗難作業を検出した場合には、エンジンを始動させることができなくなり、盗難が困難になる。
【0010】請求項4は、請求項2記載の車両の盗難防止装置に、車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えた。盗難作業を検出した場合には、エンジンを始動させることができなくなり、盗難が困難になる。
【0011】請求項5は、請求項1記載の車両の盗難検出機構に、盗難作業を検出するために車体に取付けた振動センサ、超音波センサ、赤外線センサ、電気回路断線検出回路の少なくとも1つを備えた盗難作業検出機構を加えてなる。各種センサ類の異なった機能により種々の盗難作業が確実に検出できる。
【0012】請求項6は、請求項5記載の車両の盗難防止装置に、車両の盗難検出機構や盗難作業検出機構からの信号によって警報を発する盗難警報機構を加えた。各種センサ類の異なった機能により種々の盗難作業が確実に検出でき、盗難警報機構によって、盗難防止効果を高めることができる。
【0013】請求項7は、請求項5又は請求項6の車両の盗難防止装置に、盗難作業検出機構や車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えた。盗難作業を検出した場合には、エンジンを始動させることができなくなり、盗難が困難になる。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。図1は本発明に係るハンドルロック装置を備えた自動二輪車のフロント部分の斜視図であり、自動二輪車1は図示せぬフレームの前部に取付けたステアリングヘッド2と、このステアリングヘッド2に図示せぬハンドルポストを介して揺動可能に取付けたフロントフォーク3と、このフロントフォーク3端部に取付けたホイール付きフロントタイヤ4と、このフロントタイヤ4上部を覆うフロントフェンダ5と、フロントフォーク3を一体的に揺動するハンドル6と、このハンドル6左右に取付けたクラッチレバー7、フロントブレーキレバー(不図示)並びにバックミラー11,11(右側は不図示)と、ハンドル6左右端に取付けたグリップ12,12と、ステアリングヘッド2前部に取付けた、前から後に風防13、スピードメータ14及びタコメータ15、ハンドルロック装置16(図3参照)付きメインスイッチ18と、ステアリングヘッド2後部のフレーム上部に取付けた燃料タンク21と、この燃料タンク21下方のフレームに取付けたエンジン22と、このエンジン22前部から取出したエキゾーストパイプ23とを備える。
【0015】図2は本発明に係るハンドルロック装置付きメインスイッチの平面図であり、メインスイッチ18は、上面にキー孔28aと、キーK(図4(a)参照)の回動位置を示すOFF、ON、PUSH及びLOCKの表示を有する。キーがOFF位置にあるときは、エンジンは停止状態、ハンドルはアンロック状態にある。この位置でキーを差込むことができる。キーをON位置にすると、エンジン始動が可能になる。ここで、スタータスイッチをオンにしてエンジンを始動する。ハンドルはもちろんアンロック状態にある。
【0016】ハンドルをロックする場合は、まず、図1において、ハンドル6を左又は右に一杯に切り、この状態でメインスイッチ18のキーKをOFF位置で押込み、図2において、反時計回りにLOCK位置まで回す。このLOCK位置でキーKは下方からの付勢力で上方の元の高さ位置に戻り、ハンドルロックが完了する。このLOCK位置では、キーKを引き抜くことができる。
【0017】図3は図2の3−3線断面図であり、キーがOFF位置にある状態を示す。メインスイッチ18は、上部のハンドルロック装置16と、下部のイグニッションスイッチ部17とからなる。
【0018】ハンドルロック装置16は、車体に取付けた錠外筒26と、この錠外筒26を覆うカバー27と、この錠外筒26上部に回動並びに上下動可能に収納し、キー孔28aの開いたトップリング28と、このトップリング28の下部フランジ28bの下面に当接する突起29aが下降してトップリング28の沈み込みを検出する沈み込みセンサ29と、トップリング28の下部に回動並びに上下動可能に収納した、クランク部32a上部の直線部32bのキー挿入孔32cにキーK(図4(a)参照)を挿入することにより直線部32bに引き込まれるタンブラ31…(…は複数個を示す。以下同様。)を備えたクランク軸32と、このクランク軸32の上部に形成した環状溝32dに配置してトップリング28を上方へ付勢するコイルばね33と、クランク軸32のクランク部32aによりロック又はアンロック状態となるロックピン34と、クランク軸32をリテーナ35を介して上方へ付勢するコイルばね36と、錠外筒26に固定され、先端をクランク軸32側面に形成されたカム溝32eに挿入した、クランク軸32の上下動及び回動を規制するコントロールピン37とからなる。
【0019】沈み込みセンサ29は、後述する盗難警報機構42,52に接続し、突起29aが下降した時にオンになり、これによって盗難警報機構42,52が作動して警報を発する。なお、29bは沈み込みセンサ29のセンサ本体、29c,29cはリード線である。
【0020】以上に述べたハンドルロック装置の作用を次に説明する。図4(a),(b)は本発明に係るハンドルロック装置のロック位置での断面図であり、(a)はキーを挿入した状態、(b)は異形物を挿入した状態を示す。(a)において、キーKを図2に示したOFF位置で押込んだまま、反時計回りにLOCK位置まで回動すると、クランク軸32のクランク部32aが図の左から右に移動し、これに伴って、クランク部32aに一端を係止したロックピン34が図の左から右に移動して、ハンドルロック装置16内から外へ飛び出す。この状態では、トップリング28は沈み込まず、沈み込みセンサ29の突起29aは下降しないので、沈み込みセンサ29はオンにならない。
【0021】(b)において、ハンドルをロックしている時に、例えば、はさみやドライバー等の異形物Dをキー孔28aに挿入された場合に、クランク軸32を無理に回そうとしてもタンブラ31と錠外筒26との係合やクランク軸32に形成したカム軸32eとコントロールピン37との係合によって回すことは困難である。ここで、クランク軸32を押し下げれば、カム軸32eとコントロールピン37との係合は解除され、タンブラ31と錠外筒26との係合のみとなる。しかし、異形物Dを押込んだときにトップリング28が沈み、沈み込みセンサ29の突起29aが下降し、沈み込みセンサ29がオンになって、これに接続した盗難警報機構42,52(図5、図6参照)が作動し警報を発するので、盗難を防ぐことが可能となる。
【0022】このように、異形物Dの挿入によってクランク軸32を無理に回すという盗難行為では、必然的にトップリング28を沈み込ませることになり、上記の沈み込みセンサ29で確実に盗難行為を検出することができる。また、自動二輪車の通常の使用においては、トップリング28を沈み込ませるということは有り得ず、誤って警報を鳴らすということはない。
【0023】図5は本発明に係る盗難防止装置のブロック図であり、盗難防止装置40は、トップリング沈み込みセンサ29を備えた盗難作業検出機構41と、この盗難検出作業機構41からの信号SS(トップリング28の沈み込み信号)に基づき警報を発する盗難警報機構42とからなる。このように、盗難防止装置40を以上のような構成にすることにより、簡単な構成のためコストがかからず低価格の車両にも採用でき、また、確実に盗難行為を検出することができる。
【0024】図6は本発明に係る盗難防止装置の変形例のブロック図であり、盗難防止装置50は、各種センサ類を含む盗難作業検出機構51と、この盗難作業検出機構51からの信号SAに基づき警報を発する盗難警報機構52と、同じく盗難作業検出機構51から信号SAに基づき車両に搭載したエンジンの点火を止める点火禁止機構53とからなる。
【0025】盗難作業検出機構51は、トップリング沈み込みセンサ29と、イグニッションスイッチに接続する導線の断線を検出する電気回路断線検出回路54、車両の振動を検出する振動センサ55、超音波によって車両の動きを検出する超音波センサ56、赤外線によって車両の動きを検出する赤外線センサ57のうちの少なくとも一つか場合によっては複数と、これら振動センサ55、超音波センサ56及び赤外線センサ57の作動開始までの時間を設定するためのタイマ58とからなる。
【0026】以上に述べた盗難作業検出機構の変形例の作用を次に説明する。車両の盗難行為としては、次に挙げるようなものが考えられる。
■ニッパ等でイグニッションスイッチに接続する導線を切断し結線してイグニッションオンの状態にする。
■ハンドルロック装置を道具を用いて破壊し、ロックを解除する。
■ハンドルロックされた車両ごと移動する。
【0027】上記盗難行為の■に対しては、電気回路断線検出回路54が検出する。上記盗難行為の■に対しては、キー孔への異形物挿入を沈み込みセンサ29が検出し、発生する振動を振動センサ55が検出する。上記盗難行為の■に対しては、車両の動きを超音波センサ56又は赤外線センサ57が検出する。この場合、両センサ56,57は、路面等の対象までの距離を計測しその変化を検知するが、超音波センサ56では、対象が吸音性を有すると検知が困難となる。また、赤外線センサ57では、対象が光沢を有したり、赤外線の投光部分が汚れた時には検知が困難となる。このように、両センサ56,57には上記のような短所を有するが、これらセンサを組合せることで互いの短所を補いながら盗難行為を検出することが可能である。
【0028】上記センサ類からの検出信号により盗難作業検出機構51は、信号SAを盗難警報機構52及び点火禁止機構53に送り、盗難警報機構52は警報を発し、点火禁止機構53は点火を禁止する。従って、上記盗難作業検出機構が各センサ類を備えていることで、ほとんどの盗難行為に確実に対応することができ、もし、イグニッションオンの状態になったとしても、点火しなくなりエンジン始動は不可能となって、盗難が困難になる。
【0029】
【発明の効果】本発明は上記構成により次の効果を発揮する。請求項1の車両の盗難検出機構は、盗難検出機構を、キー挿入孔にキー以外の物が挿入された時に沈み込むトップリングと、このトップリングが沈み込んだことを検出する沈み込みセンサとから構成したので、キー以外の物をキー挿入孔に挿入した時にはトップリングを押し下げざるを得ず、沈み込みセンサが働いて盗難作業を確実に検出することができる。また、この盗難検出機構は構造が簡単となり、コストを抑えることができる。
【0030】請求項2の車両の盗難防止装置は、請求項1記載の車両の盗難検出機構に、この車両の盗難検出機構からの信号によって警報を発する盗難警報機構を加えたので、盗難警報機構によって盗難作業を周囲に知らせることができ、盗難防止効果を高めることができる。
【0031】請求項3の車両の盗難防止装置は、請求項1記載の車両の盗難検出機構に、この車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えたので、盗難作業を検出した場合には、エンジンを始動させることができなくなり、盗難が困難になる。
【0032】請求項4の車両の盗難防止装置は、請求項2記載の車両の盗難防止装置に、車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えたので、盗難作業を検出した場合には、エンジンを始動させることができなくなり、盗難が困難になる。
【0033】請求項5の車両の盗難防止装置は、請求項1記載の車両の盗難検出機構に、盗難作業を検出するために車体に取付けた振動センサ、超音波センサ、赤外線センサ、電気回路断線検出回路の少なくとも1つを備えた盗難作業検出機構を加えたので、各種センサ類の異なった機能により種々の盗難作業が確実に検出できる。
【0034】請求項6の車両の盗難防止装置は、請求項5記載の車両の盗難防止装置に、車両の盗難検出機構や盗難作業検出機構からの信号によって警報を発する盗難警報機構を加えたので、各種センサ類の異なった機能により種々の盗難作業が確実に検出でき、盗難警報機構によって、盗難防止効果を高めることができる。
【0035】請求項7の車両の盗難防止装置は、請求項5又は請求項6の車両の盗難防止装置に、盗難作業検出機構や車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えたので、盗難作業を検出した場合には、エンジンを始動させることができなくなり、盗難が困難になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るハンドルロック装置を備えた自動二輪車のフロント部分の斜視図
【図2】本発明に係るハンドルロック装置付きメインスイッチの平面図
【図3】図2の3−3線断面図
【図4】本発明に係るハンドルロック装置のロック位置での断面図
【図5】本発明に係る盗難防止装置のブロック図
【図6】本発明に係る盗難防止装置の変形例のブロック図
【符号の説明】
1…車両(自動二輪車)、2…車体(ステアリングヘッド)、16…ハンドルロック装置、17…イグニッションスイッチ部、22…エンジン、28…トップリング、28a…キー孔、29…沈み込みセンサ、32c…キー挿入孔、40,50…盗難防止装置、41,51…盗難作業検出機構、42,52…盗難警報機構、53…点火禁止機構、54…電気回路断線検出回路、55…振動センサ、56…超音波センサ、57…赤外線センサ、K…キー、D…キー以外の物(異形物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両のハンドルロック装置に組込んだ盗難検出機構において、この盗難検出機構は、キー挿入孔にキー以外の物が挿入された時に沈み込むトップリングと、このトップリングが沈み込んだことを検出する沈み込みセンサとからなることを特徴とする車両の盗難検出機構。
【請求項2】 請求項1記載の車両の盗難検出機構に、この車両の盗難検出機構からの信号によって警報を発する盗難警報機構を加えたことを特徴とする車両の盗難防止装置。
【請求項3】 請求項1記載の車両の盗難検出機構に、この車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えたことを特徴とする車両の盗難防止装置。
【請求項4】 請求項2記載の車両の盗難防止装置に、前記車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えたことを特徴とする車両の盗難防止装置。
【請求項5】 請求項1記載の車両の盗難検出機構に、盗難作業を検出するために車体に取付けた振動センサ、超音波センサ、赤外線センサ、電気回路断線検出回路の少なくとも1つを備えた盗難作業検出機構を加えてなることを特徴とする車両の盗難防止装置。
【請求項6】 請求項5記載の車両の盗難防止装置に、前記車両の盗難検出機構や前記盗難作業検出機構からの信号によって警報を発する盗難警報機構を加えたことを特徴とする車両の盗難防止装置。
【請求項7】 請求項5又は請求項6の車両の盗難防止装置に、前記盗難作業検出機構や前記車両の盗難検出機構からの信号によって点火を不可にする点火禁止機構を加えたことを特徴とする車両の盗難防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開平9−254843
【公開日】平成9年(1997)9月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−70559
【出願日】平成8年(1996)3月26日
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)