説明

車両の絶縁構造

【課題】車両内に簡便かつ合理的に絶縁構造を設定できるようにする。
【解決手段】車両内に設置されたバッテリー端子Bt1と、このバッテリー端子Bt1の周辺にある金属製のシートクッションフレーム2との電気的な接触を防止する車両の絶縁構造である。シートクッションフレーム2に、シートクッションフレーム2の周縁部を囲うように装着される絶縁部材10を取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の絶縁構造に関する。詳しくは、車両内に設置されたバッテリー端子などの電気接続部と、この電気接続部の周辺にある車体装備品としての金属製のフレームと、の電気的な接触を防止する車両の絶縁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートに絶縁処理が施されているものがある(特許文献1)。具体的には、シートクッションの着座面上に静電容量式のセンサが敷設されており、このセンサとシートクッション内のフレームとの間に、シートクッションが被水した際の水の浸入を防止する防水層(絶縁層)が配設された構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−139384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の従来技術では、シートクッション下のフロア上にバッテリ等の電気品が設置されるものにおいては、絶縁機能が働かないものとなっている。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、車両内に簡便かつ合理的に絶縁構造を設定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両の絶縁構造は次の手段をとる。
第1の発明は、車両内に設置されたバッテリー端子などの電気接続部と、この電気接続部の周辺にある車体装備品としての金属製のフレームとの電気的な接触を防止する車両の絶縁構造である。フレームに、フレームの少なくとも一部の周縁部を囲うように装着される絶縁部材を取り付けた。
【0006】
この第1の発明によれば、電気接続部の周辺にある金属製のフレームに絶縁部材を取り付けたことにより、電気接続部とフレームとの電気的な接触が防止される。上記絶縁部材は、フレームに対し外周部を囲った状態となって取り付けられる簡素な構成となっている。したがって、上記電気接続部とフレームとの電気的な接触を、上記絶縁部材を用いて簡便かつ合理的に絶縁することができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、絶縁部材が、フレームの屈曲した形状部分に跨って装着されるようになっているものである。
【0008】
この第2の発明によれば、絶縁部材が、フレームの屈曲した形状部分に跨って装着されることにより、絶縁部材がフレームに対して回転止めされると共に、長さ方向への移動も規制されて、位置決めされた状態として取り付けられる。したがって、絶縁部材による絶縁機能をより安定的に発揮させることができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第1又は第2の発明において、次の構成となっているものである。絶縁部材が、互いの一端同士が回転ヒンジにより開閉回転可能に連結され、他端同士が互いに嵌まり合う嵌合形状とされた、受け側片と嵌め側片とに2等分割された、嵌合時に断面環状となる開閉形状とされている。絶縁部材は、フレームに対して、受け側片と嵌め側片との分割ラインが水平又は垂直となる向きに対して電気接続部が配された側から遠ざかる方向に傾けられた斜めの回転向き状態とされて取り付けられている。
【0010】
この第3の発明によれば、絶縁部材がフレームに対して上記のように斜めの回転向き状態で取り付けられていることにより、絶縁部材の受け側片もしくは嵌め側片の嵌合が外れて開いてしまっても、受け側片もしくは嵌め側片の電気接続部に近い側の片の形状が、電気接続部に対向する位置に残りやすくなる。したがって、絶縁部材による絶縁機能をより安定的に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の車両の絶縁構造の概略を示した平面図である。
【図2】絶縁部材単体の斜視図である。
【図3】図1のIII-III線断面図である。
【図4】図1のIV-IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の車両の絶縁構造について、図1〜図4を用いて説明する。本実施例の車両の絶縁構造は、図1に示すように、自動車の助手席シート1の着座部を構成するシートクッション1Aの内部骨格(シートクッションフレーム2)に適用されている。具体的には、このシートクッションフレーム2は、鋼管材(丸パイプ)をシートクッション1Aの外周形状に沿うように平面視略U字状の形に折り曲げて形成したものとなっており、その一部の外周部上に、樹脂製パイプ形状の絶縁部材10が巻装されて取り付けられた構成となっている。この絶縁部材10の装着により、助手席シート1の下部に設置されたバッテリーBtをフロアF上から取り外したりフロアF上に戻したりする作業時に、そのバッテリー端子Bt1がシートクッションフレーム2に電気的に直接接触することが防止されるようになっている。ここで、シートクッションフレーム2が本発明の「フレーム」に相当し、バッテリー端子Bt1が本発明の「電気接続部」に相当する。
【0014】
上記シートクッションフレーム2は、その左右両側のサイドフレーム部2Aが、図示しないロアパネル等のフレーム材を介してフロアF上に一体的に結合されて固定された状態とされている。なお、図1では、車両内側のサイドフレーム部2Aの図示が省略されており、車両外側のサイドフレーム部2Aの構成が図示されている。上記シートクッションフレーム2の形状は、詳しくは、上記各サイドフレーム部2Aとシートクッション1Aの前部の骨格を成すフロントフレーム部2Bとの間に、斜め内向きに屈曲されて延びる斜めフレーム部2Cが形成された形状となっている。これらサイドフレーム部2A、斜めフレーム部2C、及びフロントフレーム部2Bの各断面形状は、図3〜図4に示すように、略正円の断面形状に形成されている。
【0015】
図1に示すように、絶縁部材10は、上記シートクッションフレーム2に対し、バッテリー端子Bt1が近くに配置される側となる車両外側のサイドフレーム部2Aと、同側の斜めフレーム部2Cと、に跨って取り付けられている。ここで、絶縁部材10は、樹脂の一体成形により一部が開口した屈曲したパイプ形状に形成されており、図1〜図2に示すように、ヒンジによる開閉操作によってサイドフレーム部2Aに装着可能な第1の装着部10Aと、同じくヒンジによる開閉操作によって斜めフレーム部2Cに装着可能な第2の装着部10Bと、を有する構成となっている。具体的に説明すると、絶縁部材10は、その下側の半パイプ形状を成す受け側片11と、この受け側片11の一部に第1のインテグラルヒンジ13Aにより開閉可能にヒンジ接続された上側の半パイプ形状を成す第1の嵌め側片12Aと、受け側片11の他の一部に第2のインテグラルヒンジ13Bにより開閉可能にヒンジ接続された上側の半パイプ形状を成す第2の嵌め側片12Bと、を有する構成となっている。ここで、第1の嵌め側片12Aと第2の嵌め側片12Bとが、それぞれ、本発明の「嵌め側片」に相当する。
【0016】
上記受け側片11は、上記サイドフレーム部2A及び斜めフレーム部2Cの下面部に嵌合されて装着される構成とされ、これらサイドフレーム部2Aと斜めフレーム部2Cとが連なって形成される屈曲した形に沿って、屈曲した形に形成されている。第1の嵌め側片12Aは、上記受け側片11におけるサイドフレーム部2Aに嵌装されるストレートな延伸部分の横断面で見た内側の縁部に、第1のインテグラルヒンジ13Aにより開閉回転可能にヒンジ連結されている。これにより、第1の嵌め側片12Aは、図3に示すように、その閉じ操作によって、サイドフレーム部2Aの上面部に嵌合されるようになっており、上記受け側片11との間にサイドフレーム部2Aを挟み込んだ状態となって、サイドフレーム部2Aに装着されるようになっている。ここで、上記第1の嵌め側片12Aの閉じ操作によって互いに合わせられる第1の嵌め側片12Aの横断面で見た外側の縁部と受け側片11の外側の縁部とには、第1の嵌め側片12Aの閉じ操作によって互いに弾性的に嵌まり合って係合する第1の係止爪12A1と第1の係止孔11A1とが形成されている。この第1の係止爪12A1と第1の係止孔11A1との係合により、第1の嵌め側片12Aを受け側片11に閉じた状態にして保持できるようになっている。
【0017】
図1〜図2に示すように、第2の嵌め側片12Bは、上記受け側片11における斜めフレーム部2Cに嵌装されるストレートな延伸部分の横断面で見た内側の縁部に、第2のインテグラルヒンジ13Bにより開閉回転可能にヒンジ連結されている。これにより、第2の嵌め側片12Bは、図3に示すように、その閉じ操作によって、斜めフレーム部2Cの上面部に嵌合されるようになっており、上記受け側片11との間に斜めフレーム部2Cを挟み込んだ状態となって、斜めフレーム部2Cに装着されるようになっている。ここで、上記第2の嵌め側片12Bの閉じ操作によって互いに合わせられる第2の嵌め側片12Bの横断面で見た外側の縁部と受け側片11の外側の縁部とには、第2の嵌め側片12Bの閉じ操作によって互いに弾性的に嵌まり合って係合する第2の係止爪12B1と第2の係止孔11B1とが形成されている。この第2の係止爪12B1と第2の係止孔11B1との係合により、第2の嵌め側片12Bを受け側片11に閉じた状態にして保持できるようになっている。
【0018】
上記構成の絶縁部材10は、次の手順で上述したシートクッションフレーム2に取り付けられて装着される。先ず、下側の受け側片11を、上述した外側のサイドフレーム部2Aと斜めフレーム部2Cとに下方側から嵌合させて装着させた状態とする。次いで、第1の嵌め側片12Aと第2の嵌め側片12Bとをそれぞれ閉じて受け側片11に係合させる。これにより、絶縁部材10が、上記第1の嵌め側片12Aが閉じられた第1の装着部10Aと、第2の嵌め側片12Bが閉じられた第2の装着部10Bと、において、サイドフレーム部2Aと斜めフレーム部2Cとにそれぞれ装着された状態となって取り付けられる。この装着状態では、絶縁部材10は、上記サイドフレーム部2Aと斜めフレーム部2Cとが連なって形成される屈曲した形に跨って嵌合して装着された状態となっていることにより、これらサイドフレーム部2Aや斜めフレーム部2Cに対して回転止めされると共に、各フレームの長さ方向への移動も規制されて、位置決めされた状態として取り付けられるようになっている。
【0019】
なお、上記絶縁部材10のうち、サイドフレーム部2Aと斜めフレーム部2Cとの間の屈曲部2Dにかかる部分では、この上面部にかけられる形状はなく、開口となっており、バッテリー端子Bt1に面する下面部のみにおいて、受け側片11が屈曲部2Dに嵌合されて巻装された構成となっている(図4参照)。このように、屈曲部2Dにかかる部分において、絶縁部材10の上面部が開口した形となっていても、受け側片11が屈曲部2Dの下面部を覆うように構成されていることにより、絶縁部材10をシートクッションフレーム2の屈曲した形に合うように1部品で形成しながらも、絶縁部材10をサイドフレーム部2Aと斜めフレーム部2Cとに簡単な開閉操作によって取り付けられる構成が得られている。
【0020】
ここで、図3に示すように、上記絶縁部材10の第1の装着部10Aが、下側の半パイプ状の受け側片11と上側の半パイプ状の第1の嵌め側片12Aとに2等分割されて形成されている両者の分割ライン14Aは、水平向きに対して、バッテリー端子Bt1が配された車両内側が上がる斜め向きとなるように設定されている(バッテリー端子Bt1が配された側から遠ざかる方向に傾けられた斜め向きに設定されている)。これにより、受け側片11と第1の嵌め側片12Aとの嵌合が外れて第1の装着部10Aが開いてしまっても、バッテリー端子Bt1に近い側に面を向ける受け側片11の形状が、バッテリー端子Bt1に対向する位置に残りやすくなる。したがって、絶縁部材10による絶縁機能が少しでも安定して発揮されるようになる。
【0021】
また、同じく、上記絶縁部材10の第2の装着部10Bが、下側の半パイプ状の受け側片11と上側の半パイプ状の第2の嵌め側片12Bとに2等分割されて形成されている両者の分割ライン14Bも、水平向きに対して、バッテリー端子Bt1が配された車両内側が上がる斜め向きとなるように設定されている(バッテリー端子Bt1が配された側から遠ざかる方向に傾けられた斜め向きに設定されている)。これにより、受け側片11と第2の嵌め側片12Bとの嵌合が外れて第2の装着部10Bが開いてしまっても、バッテリー端子Bt1に近い側に面を向ける受け側片11の形状が、バッテリー端子Bt1に対向する位置に残りやすくなる。したがって、絶縁部材10による絶縁機能が少しでも安定して発揮されるようになる。
【0022】
また、図4に示すように、屈曲部2Dにかかる絶縁部材10の受け側片11の形状も、バッテリー端子Bt1が配された車両内側が上がる切断ラインとなる半パイプ形状に形成されており、バッテリー端子Bt1に近い側に面を向ける受け側片11の形状が、バッテリー端子Bt1に対向する位置に残りやすい構成となっている。これにより、絶縁部材10による絶縁機能が少しでも安定して発揮されるようになっている。
【0023】
このように、本実施例の車両の絶縁構造によれば、バッテリー端子Bt1(電気接続部)の周辺にある金属製のシートクッションフレーム2に絶縁部材10を取り付けたことにより、バッテリー端子Bt1とシートクッションフレーム2との電気的な接触が防止される。上記絶縁部材10は、シートクッションフレーム2に対し外周部を囲った状態となって取り付けられる簡素な構成となっている。したがって、上記バッテリー端子Bt1とシートクッションフレーム2との電気的な接触を、上記絶縁部材10を用いて簡便かつ合理的に絶縁することができる。
【0024】
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、本発明の車両の絶縁構造は、自動車等車両におけるエンジンルームや荷室など、車両内において、バッテリー端子などの電気接続部が配設されていて、その周辺に車体装備品としての金属製のフレームが配設された構造箇所に対して、広く様々な箇所に適用することができるものである。上記構造箇所の具体的な例としては、例えばエンジンルーム内にバッテリーが配設されていて、そのバッテリー端子の上部領域に、エンジンルームのボディ強度を高めるために金属製のフレームが架け渡されて設けられているような構成が挙げられる。
【0025】
また、絶縁部材が取り付けられるフレームの形状は、板形状や管形状のものなど、その具体的な形状は特に限定されず、種々の断面形状のものを適用することができるものである。また、フレームの形状は、ストレートに延伸する形状に限定されず、全体が湾曲していたり折れ曲がっていたりする形状のものであってもよい。また、フレームの形状は、パネル等の広い断面形状をもつものであってもよく、電気接続部の周辺に相当する箇所に、部分的に絶縁部材を通せるような孔を設けて絶縁部材を装着できるようにしたものであってもよい。また、絶縁部材は、必ずしもフレームの断面形状と同じ断面形状をもつ形状となっていなくてもよく、フレームとの間に隙間をもって取り付けられるものであってもよい。また、絶縁部材は、樹脂のほか、ゴムやフェルト等の種々の絶縁性の材料を用いて形成したものであってもよい。また、絶縁部材は、1つのパーツによってフレームの周縁部を囲うように装着されるものでなくてもよく、別体で構成された2つ以上のパースによってフレームの外周部を挟み込むように装着されるものであってもよい。また、絶縁対象とする電気接続部は、バッテリー以外の車両に装備される他の電気部品の接続部を対象としてもよい。
【0026】
また、電気接続部が金属製のフレームに電気的に接触する場合(電気接続部の周辺に金属製のフレームが位置する状況)の想定として、上記実施例ではバッテリーの取り付け取り外しのメンテナンス時を例示したが、電気接続部が金属製のフレームに接近するような状況以外にも、シートがスライドしたり格納されたりして動作した時など、金属製のフレームが電気接続部に接近するような状況も含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1 助手席シート
1A シートクッション
2 シートクッションフレーム(フレーム)
2A サイドフレーム部
2B フロントフレーム部
2C 斜めフレーム部
2D 屈曲部
10 絶縁部材
10A 第1の装着部
10B 第2の装着部
11 受け側片
11A1 第1の係止孔
11B1 第2の係止孔
12A 第1の嵌め側片(嵌め側片)
12A1 第1の係止爪
12B 第2の嵌め側片(嵌め側片)
12B1 第2の係止爪
13A 第1のインテグラルヒンジ
13B 第2のインテグラルヒンジ
14A 分割ライン
14B 分割ライン
Bt バッテリー
Bt1 バッテリー端子(電気接続部)
F フロア


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内に設置されたバッテリー端子などの電気接続部と該電気接続部の周辺にある車体装備品としての金属製のフレームとの電気的な接触を防止する車両の絶縁構造であって、
前記フレームに、該フレームの少なくとも一部の周縁部を囲うように装着される開閉式の絶縁部材を取り付けたことを特徴とする車両の絶縁構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の絶縁構造であって、
前記絶縁部材が、前記フレームの屈曲した形状部分に跨って装着されることを特徴とする車両の絶縁構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の絶縁構造であって、
前記絶縁部材が、互いの一端同士が回転ヒンジにより開閉回転可能に連結され他端同士が互いに嵌まり合う嵌合形状とされた受け側片と嵌め側片とに2等分割された、嵌合時に断面環状となる開閉形状とされており、前記絶縁部材は、前記フレームに対して、前記受け側片と前記嵌め側片との分割ラインが水平又は垂直となる向きに対して前記電気接続部が配された側から遠ざかる方向に傾けられた斜めの回転向き状態とされて取り付けられていることを特徴とする車両の絶縁構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112245(P2013−112245A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261506(P2011−261506)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】