説明

車両の衝突エネルギ吸収装置

【課題】フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収を確実に行う。
【解決手段】フロントアンダーランプロテクタ4は、車両1の前端下部に支持されて車幅方向に延びる。エネルギ吸収体6は、フロントアンダーランプロテクタ4の後方で車両1の側部に支持され、フロントアンダーランプロテクタ4に近接する前面8aとフロントタイヤ11の前面11aに対向する後面9aとを有する。エアバッグコントローラが車両と他の車両との衝突を検知すると、衝突検知コントローラは、ウインドウォッシャ液噴射ノズル29からウインドウォッシャ液を噴射させる。噴射されたウインドウォッシャ液は、エネルギ吸収体6の後面9aとフロントタイヤ11の前面11aとの間に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の車両との衝突時に衝突エネルギを吸収する衝突エネルギ吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002−274300号公報には、大型トラック等の車両の前面下部に配置され、普通乗用車等の他の車両との正面衝突時に他の車両の車台下へのもぐり込みを防止するフロントアンダーランプロテクタの取付構造が記載されている。この構造では、車両のメインフレームに取付ステーが固定され、取付ステーの下部前側にフロントアンダーランプロテクタが固定される。取付ステーの下部後側には、昇降用ステップが固定され、昇降用ステップの後部は、フロントタイヤの前方に所定の間隔を置いて位置する。他の車両がフロントアンダーランプロテクタに衝突して取付ステーが後方に大きく変形すると、昇降用ステップの後部がフロントタイヤに衝突し、フロントタイヤの弾性力によって他の車両の衝撃が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−274300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特開2002−274300号公報記載の構造では、昇降用ステップとの接触時にフロントタイヤが完全に停止せずに回転していると、昇降用ステップの後部とフロントタイヤとの間に動摩擦力が作用し、昇降用ステップの後部がフロントタイヤの回転方向への力を受けて下方へ変形する可能性がある。昇降用ステップの後部が下方へ変形すると、昇降用ステップの後部がフロントタイヤによって支持されず、フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収が行われない可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収を確実に行うことが可能な衝突エネルギ吸収装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の衝突エネルギ吸収装置は、フロントアンダーランプロテクタと、エネルギ吸収体と、衝突検知手段と、潤滑液供給手段とを備える。フロントアンダーランプロテクタは、車両の前端下部に支持されて車幅方向に延びる。エネルギ吸収体は、フロントアンダーランプロテクタの後方で車両の側部に支持され、フロントアンダーランプロテクタに近接する前面とフロントタイヤの前面に対向する後面とを有する。衝突検知手段は、車両と他の車両との衝突を検知する。潤滑液供給手段は、衝突検知手段が衝突を検知したとき、エネルギ吸収体の後面とフロントタイヤの前面との間に潤滑液を供給する。
【0007】
上記構成の衝突エネルギ吸収装置を備えた車両の前面に他の車両が衝突すると、衝突検知手段が衝突を検知し、潤滑液供給手段がエネルギ吸収体の後面とフロントタイヤの前面との間に潤滑液を供給する。また、上記衝突によってフロントアンダーランプロテクタの端部が車両後方に変形してエネルギ吸収体の前面を押圧し、エネルギ吸収体が車両後方へ移動すると、エネルギ吸収体の後面がフロントタイヤの前面に接触する。この接触時に、フロントタイヤが完全に停止せずに回転していると、エネルギ吸収体の後面とフロントタイヤの前面との間に動摩擦力が作用するが、エネルギ吸収体の後面とフロントタイヤの前面との間には潤滑液供給手段から潤滑液が供給されているので、この潤滑液が、両者間の摩擦抵抗を低下させ、両者間の動摩擦力を低く抑え、エネルギ吸収体の後面に作用するフロントタイヤの回転方向(下向き)の力を低減させる。このため、エネルギ吸収体の後部の下方への変形が抑制され、エネルギ吸収体の後部がフロントタイヤの前面によって確実に支持され、エネルギ吸収体の車両後方への移動がフロントタイヤによって規制される。従って、フロントアンダーランプロテクタに入力する衝突エネルギを、エネルギ吸収体の変形によって確実に吸収することができる。また、エネルギ吸収体がフロントタイヤの前面によって確実に支持されるので、フロントタイヤの弾性力によって衝突エネルギを吸収することができる。
【0008】
このように、衝突時に車両後方へ移動するエネルギ吸収体の後面がフロントタイヤの前面によって確実に支持されるので、フロントタイヤを利用した衝突エネルギの吸収を確実に行うことができ、衝突時に他の車両に加わる衝撃を効率的に緩和することができる。
【0009】
また、潤滑液はウインドウォッシャ液であるとしてもよい。
【0010】
上記構成では、フロントウインドウパネルの洗浄用として車両に備蓄されるウインドウォッシャ液を潤滑液として使用するので、衝突時に使用する潤滑液を別途車両に備蓄する必要がない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、他の車両との衝突時において、発生する衝突エネルギをフロントタイヤを利用して確実に吸収して他の車両に与える衝撃を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の衝突エネルギ吸収装置を備えた車両の前方下部の側面図である。
【図2】図1の前面図である。
【図3】図1の車両の衝突時の状態を示す側面図である。
【図4】通常時のウインドウォッシャ液の供給回路の状態を機能的に示す模式図である。
【図5】衝突時のウインドウォッシャ液の供給回路の状態を機能的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図中のFRは車両前方を、UPは上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示す。また、以下の説明において、前後方向は車両の進行方向の前後を意味し、左右方向は車両の進行方向前方を向いた状態での左右を意味する。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態の衝突エネルギ吸収装置が搭載されるキャブオーバートラック(車両)1は、キャブ2と、メインフレーム3と、フロントアンダーランプロテクタ(以下、FUPと称する)4と、フロントアンダーランブラケット5と、フロントタイヤ11等を備えている。また、車両1には、図4に示すように、ウォッシャタンク24と、エアタンク25と、加速度センサ32と、エアバックコントローラ30等が搭載されている。
【0015】
図1及び図2に示すように、メインフレーム3は、車両1の車幅方向両側で車両前後方向に延びており、クロスメンバによって、左右各メインフレーム3の前端部間が連結されている。FUP4は、矩形筒状に形成されて車幅方向に延びている。FUP4は、フレームの前端部に固定された左右一対のフロントアンダーランブラケット5によりクロスメンバの下方平行に支持されている。車両前部にはFUP4の前端部を覆うフロントバンパ12が設けられている。フェンダ16は、キャブ2の下部に固定されてフロントタイヤ11の斜め前方上半分を覆っている。
【0016】
フレーム3の前部上部にはキャブ2を支持するためのキャブマウント20が固定されており、フレーム3の前部下部にはフロントタイヤ11の車軸を支持するためのスプリングブラケット21が固定されている。また車両の進行方向右側のフレーム3前部上部には操舵のためのステアリングユニット22が固定され、ステアリングユニット22にはドラックリンク23が連結されている。
【0017】
ウォッシャタンク24(図4参照)は、例えばキャブ2の下部に区画されるエンジンルーム(図示省略)内に配置され、フロントウインドウパネル(図示省略)の外面に供給されるウインドウォッシャ液を備蓄する。エアタンク25(図4参照)は、例えばフレーム3の前後方向中央部に配置され、車両1のエアブレーキ等に用いる所定圧力の空気を備蓄する。
【0018】
加速度センサ32(図4参照)は、車両1の前後方向の加速度を検出してエアバックコントローラ30(図4参照)へ出力する。エアバックコントローラ30は、加速度センサ32から入力された加速度が急激に減少したか否かを逐次判定し、加速度が急激に減少したときに、走行中の車両1が衝突したと判断して、エアバックモジュール(図示省略)へエアバック展開指示信号を出力する。エアバックコントローラ30からエアバック展開指示作動信号を受信したエアバックモジュールでは、インフレータが作動してエアバックを瞬時に展開させる。また、エアバックコントローラ30は、エアバック展開指示信号の出力と同時に、後述する衝突検知コントローラ31へ衝突検知信号を出力する。すなわち、加速度センサ32及びエアバックコントローラ30は、車両1と他の車両との衝突を検知する衝突検知手段として機能する。
【0019】
衝突エネルギ吸収装置は、上記フロントアンダーランプロテクタ4と、エネルギ吸収体6と、ウインドウォッシャ液噴射ノズル29と、上記加速度センサ32と、上記エアバックコントローラ30と、衝突検知コントローラ25(図4参照)と、ウインドウォッシャ液の供給回路40(図4参照)とを備える。エネルギ吸収体6とウインドウォッシャ液噴射ノズル29とは、車両1の前端下部の左右両側にそれぞれ配置されている。なお、エネルギ吸収体6及びウインドウォッシャ液噴射ノズル29は、右側と左側とがそれぞれ同様の構成を有するため、以下ではその一方(右側)について説明し、他方(左側)についての説明を省略する。
【0020】
図1及び図2に示すように、エネルギ吸収体6は、FUP4とフロントタイヤ11との間に配置され、管状のブラケット13によって車体側に支持されている。ブラケット13は、メインフレーム3の外側部に固定されるフランジ状の一端13aと、エネルギ吸収体6の上部が固定されるフランジ状の他端13bとを一体的に有し、一端13aから他端13bへ向かって車幅方向外側へ延びて下方へ曲折する。
【0021】
エネルギ吸収体6は、本体7とキャッチャ8とストッパ9とから構成されている。本体7は、前後で開口する矩形筒状の外周板14と複数の仕切板10とを一体的に有し、外周板14の上面にブラケット13の他端13bが固定される。複数の仕切板10は、外周板14の内部に配置され、所定の間隔をおいて車幅方向に並ぶ。各仕切板10は、起立した状態で前後方向に延び、各仕切板10の上端縁及び下端縁は、外周板14の内側上面14aと内側下面14bとにそれぞれ接合されている。
【0022】
キャッチャ8は、本体7の前端面に固定されて本体7の前側開口を閉止する。キャッチャ8の前面8a(エネルギ吸収体6の前面)は、FUP4の端部の後面に近接して位置している。キャッチャ8は、車幅方向の長さが本体7とほぼ等しく、上下方向の長さが本体7の前端部よりも長い板状である。キャッチャ8の上端部及び下端部は、本体7の前端部からそれぞれ上下に突出して前方(FUP4側)へ湾曲している。この湾曲によって、FUP4の端部が後方へ変形してキャッチャ8の前面8aに当接した際に、FUP4の端部の上下方向への移動が規制される。
【0023】
ストッパ9は、本体7の後端部に固定されて本体7の後側開口を閉止する。ストッパ9の後面9a(エネルギ吸収体6の後面)は、フェンダ16の下方に位置し、フロントタイヤ11の前面11aに対向する。ストッパ9は、車幅方向の長さが本体7の幅とほぼ等しく、上下方向の長さが本体7の後端部よりも長い板状である。ストッパ9の上端部及び下端部は、エネルギ吸収体本体7の後端部からそれぞれ上下に突出している。ストッパ9の後面9aは、フロントタイヤ11の外周に沿って円弧状に湾曲しており、衝突発生によりエネルギ吸収体6が後方に変移した時にフロントタイヤ11の前面11aに広い範囲で面接触する。
【0024】
車両1の前方衝突時において、エネルギ吸収体6に前方からの衝突荷重が入力し、且つエネルギ吸収体6の後方への移動が規制されている場合、外周板14及び複数の仕切板10がそれぞれ潰れ変形を起こす。この本体7の潰れ変形によって、エネルギ吸収体6に入力する衝突エネルギが効率的に吸収される。
【0025】
図2に示すように、ウインドウォッシャ液噴射ノズル29は、ストッパ9の上端部に固定され、ウインドウォッシャ液噴射ノズル29には、ウインドウォッシャ液供給配管27が接続されている。ウインドウォッシャ液噴射ノズル29は、フロントタイヤ11の前面11aの車幅方向略中央に対向して配置され、ウインドウォッシャ液供給配管27から供給されるウインドウォッシャ液をフロントタイヤ11の前面11aに向けて噴射する。噴射されたウインドウォッシャ液は、ストッパ9の後面9aとフロントタイヤ11の前面11aとの間に供給される。
【0026】
図1及び図2に示すように、エネルギ吸収体6の本体7の上面には、平板状のファーストステップ17が固定され、ファーストステップ17の上方には、セカンドステップ19が設けられている。ファーストステップ17は、ブラケット13の車幅方向外側に配置され、セカンドステップ19は、ブラケット13の上方に配置される。これらのステップ17,19は、乗員がキャブ2に乗降する際の足場として機能する。セカンドステップ19は、キャブ2の車幅方向外側の底部から下方へ延びるステップパネル18の中間部に固定されている。ステップパネル18は、車幅方向外側に開口する略U字形のパネルであり、ステップパネル18の後面の上部は、フェンダ16に沿って湾曲し、ステップパネル18の下端は、ファーストステップ17に近接する。
【0027】
なお、図2では、キャブ2、フロントバンパ12、フロントアンダーランプロテクタ4、フロントアンダーランプロテクタブラケット5、キャッチャ8、ステップパネル18及びセカンドステップ19の図示を省略している。
【0028】
図4に示すように、ウインドウォッシャ液の供給回路40は、ウォッシャタンク配管33、エアタンク配管34、切替制御弁26、ウインドウォッシャ液制御弁28L,28R、及びウインドウォッシャ液供給配管27(27L,27R),35,36L,36Rから構成され、衝突検知コントローラ31及びウインドウォッシャ液噴射ノズル29(図1に示す)とともに、エネルギ吸収体6の後面9aとフロントタイヤ11の前面11aとの間にウインドウォッシャ液(潤滑液)を供給する潤滑液供給手段として機能する。
【0029】
切替制御弁26は、第1及び第2の入力ポートと1つの出力ポートとを有する流路切替制御用の電磁弁である。第1の入力ポートには、ウォッシャタンク配管33の下流端が接続され、ウォッシャタンク配管33の上流端は、ウォッシャタンク24に接続されている。第2の入力ポートには、エアタンク配管34の下流端が接続され、エアタンク配管34の上流端は、エアタンク25に接続されている。切替制御弁26は、非励磁状態で第1の入力ポートと出力ポートとを連通し、励磁状態で第2の入力ポートと出力ポートとを連通する。
【0030】
切替制御弁26の出力ポートには、ウインドウォッシャ液供給配管35の上流端が接続され、ウインドウォッシャ液供給配管35の下流端は、左用のウインドウォッシャ液供給配管36Lと右用のウインドウォッシャ液供給配管36Rとに分岐している。
【0031】
ウインドウォッシャ液制御弁28L,28Rは、入力ポートと出力ポートとを1つずつ有する開閉制御用の電磁弁である。左用のウインドウォッシャ液制御弁28Lの入力ポートには、左用のウインドウォッシャ液供給配管36Lの下流端が接続され、出力ポートには、左用のウインドウォッシャ液供給配管27Lの上流端が接続されている。同様に、右用のウインドウォッシャ液制御弁28Rの入力ポートには、右用のウインドウォッシャ液供給配管36Rの下流端が接続され、出力ポートには、右用のウインドウォッシャ液供給配管27Rの上流端が接続されている。左右のウインドウォッシャ液供給配管27L,27Rの下流端には、左右のウインドウォッシャ液噴射ノズル29がそれぞれ接続されている。
【0032】
切替制御弁26は、非励磁状態で第1の入力ポートと出力ポートとを連通し、励磁状態で第2の入力ポートと出力ポートとを連通する。ウインドウォッシャ液制御弁28L,28Rは、非励磁状態で入力ポートと出力ポートとを遮断し、励磁状態で入力ポートと出力ポートとを連通する。従って、図4に示すように、切替制御弁26及びウインドウォッシャ液制御弁28L,28Rが非励磁状態に設定されると、ウォッシャタンク24からウインドウォッシャ液制御弁28L,28Rまでの管路(ウォッシャタンク配管33及びウインドウォッシャ液供給配管35,36L,36R)が連通し、ウォッシャタンク24からウインドウォッシャ液供給配管35,36L,36Rにウインドウォッシャ液が供給されて滞留する。また、図5に示すように、切替制御弁26及びウインドウォッシャ液制御弁28L,28Rが非励磁状態から励磁状態に変更されると、エアタンク25からウインドウォッシャ液噴射ノズル29までの管路(エアタンク配管34及びウインドウォッシャ液供給配管35,36L,36R,27L,27R)が連通し、ウインドウォッシャ液供給配管35,36L,36Rに滞留したウインドウォッシャ液がエアタンク25からの圧縮空気によってウインドウォッシャ液噴射ノズル29から噴射される。なお、図4と図5とでは、切替制御弁26に対するウォッシャタンク配管33、エアタンク配管34及びウインドウォッシャ液供給配管35の各接続位置が相違し、ウインドウォッシャ液制御弁28L,28Rに対するウインドウォッシャ液供給配管36L,36R,27L,27Rの各接続位置が相違しているが、図4及び図5は、切替制御弁26の流路切替前と切替後の双方の状態を模式的に図示し、ウインドウォッシャ液制御弁28L,28Rの流路開放前と開放後の双方の状態を模式的に図示したものであり、切替制御弁26及びウインドウォッシャ液制御弁28L,28Rは、上記接続位置を変更する構造ではない。
【0033】
通常時には、エアバッグコントローラ30は、衝突検知信号を出力せず、衝突検知コントローラ31は、切替制御弁26及びウインドウォッシャ液制御弁28に対して励磁信号を出力しない。このため、切替制御弁26及びウインドウォッシャ液制御弁28は非励磁状態に維持され、ウォッシャタンク24からのウインドウォッシャ液がウインドウォッシャ液供給配管35,36L,36Rに滞留する。
【0034】
車両1が衝突し、エアバッグコントローラ30が衝突を検知して衝突検知信号を出力すると、衝突検知コントローラ31は、切替制御弁26及びウインドウォッシャ液制御弁28に励磁信号を出力し、切替制御弁26及びウインドウォッシャ液制御弁28が非励磁状態から励磁状態に切り替わる。これにより、ウインドウォッシャ液供給配管35,36L,36Rに滞留したウインドウォッシャ液がウインドウォッシャ液噴射ノズル29から瞬時に噴射される。
【0035】
本実施形態では、車両1の前面に他の車両が衝突し、エアバッグコントローラ30が衝突を検知すると、衝突検知コントローラ31は、切替制御弁26及びウインドウォッシャ液制御弁28に励磁信号を出力し、ウインドウォッシャ液がウインドウォッシャ液噴射ノズル29からフロントタイヤ11の前面11aに向かって瞬時に噴射される。
【0036】
また、上記衝突によってフロントアンダーランプロテクタ4の端部が後方に変形してエネルギ吸収体6のキャッチャ8を押圧し、エネルギ吸収体6が車両1後方へ移動すると、図3に示すように、エネルギ吸収体6のストッパ9がフロントタイヤ11の前面11aに接触する。フロントタイヤ11が完全に停止せずに回転していると、ストッパ9の後面9aとフロントタイヤ11の前面11aとの間に動摩擦力が作用する。しかし、両者の間にはウインドウォッシャ液噴射ノズル29からウインドウォッシャ液が供給されているので、ウインドウォッシャ液の潤滑作用により、両者の間の動摩擦力は低く抑えられ、ストッパ9に作用するフロントタイヤ11の回転方向(下向き)の力は低減する。このため、ストッパ9の下方への変形が抑制され、エネルギ吸収体6の後部がフロントタイヤ11の前面11aによって確実に支持され、エネルギ吸収体6の後方への移動がフロントタイヤ11によって規制される。従って、フロントアンダーランプロテクタ4に入力する衝突エネルギを、エネルギ吸収体6の変形によって確実に吸収することができる。また、エネルギ吸収体6がフロントタイヤ11の前面11aによって確実に支持されるので、フロントタイヤ11の弾性力によって衝突エネルギを吸収することができる。
【0037】
このように、本実施形態によれば、衝突時に後方へ移動するエネルギ吸収体6のストッパ9がフロントタイヤ11の前面11aによって確実に支持されるので、フロントタイヤ11を利用した衝突エネルギの吸収を確実に行うことができ、衝突時に他の車両に加わる衝撃を効率的に緩和することができる。
【0038】
また、ウインドウォッシャ液を潤滑液として使用するとともに、車両1に装備されたエアタンク25の圧縮空気によってウインドウォッシャ液をウインドウォッシャ液噴射ノズル29から噴射するので、潤滑液を備蓄するためのタンクや噴射のためのエアタンクなどを別途車両1に設ける必要がなく、構造の簡素化を図ることができる。
【0039】
なお、潤滑液は、ウインドウォッシャ液に限定されるのものではなく、例えば潤滑油等であってもよい。また、電動ポンプなどによって潤滑液をフロントタイヤ11の前面11aに供給してもよい。
【0040】
また、衝突検知コントローラが加速度センサ32から車両1の加速度を取得して衝突を検出するように、衝突検知コントローラにエアバッグコントローラ30と同様の衝突検知機能を設けてもよい。
【0041】
また、ウインドウォッシャ液を供給する場所は、ストッパ9の後面9aとフロントタイヤ11の前面11aとの間であれば任意である。例えば、ストッパ9の前面から後面9aへ噴射ノズルを挿通し、ストッパ9の後面9aからウインドウォッシャ液を噴射させてもよい。また、ウインドウォッシャ液噴射ノズル29を複数設けてもよい。
【0042】
また、エネルギ吸収体6は、車体側に支持されていればよく、例えば、フロントアンダーランプロテクタ4に支持されていてもよい。
【0043】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、貨物車両などの大型車両の衝突エネルギ吸収装置として広く適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1:キャブオーバートラック(車両)
3:メインフレーム
4:フロントアンダーランプロテクタ
5:フロントアンダーランプロテクタブラケット
6:エネルギ吸収体
7:エネルギ吸収体の本体
8:キャッチャ
8a:キャッチャの前面(エネルギ吸収体の前面)
9:ストッパ
9a:ストッパの後面(エネルギ吸収体の後面)
11:フロントタイヤ
11a:フロントタイヤの前面
13:ブラケット
24:ウォッシャタンク
25:エアタンク
26:切替制御弁
27:ウインドウォッシャ液供給配管
28:ウインドウォッシャ液供給制御弁
29:ウインドウォッシャ液噴射ノズル(潤滑液供給手段)
30:エアバッグコントローラ(衝突検知手段)
31:衝突検知コントローラ(潤滑液供給手段)
40:ウインドウォッシャ液の供給回路(潤滑液供給手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前端下部に支持されて車幅方向に延びるフロントアンダーランプロテクタと、
前記フロントアンダーランプロテクタの後方で前記車両の側部に支持され、前記フロントアンダーランプロテクタに近接する前面とフロントタイヤの前面に対向する後面とを有するエネルギ吸収体と、
前記車両と他の車両との衝突を検知する衝突検知手段と、
前記衝突検知手段が衝突を検知したとき、前記エネルギ吸収体の後面と前記フロントタイヤの前面との間に潤滑液を供給する潤滑液供給手段と、を備えた
ことを特徴とする車両の衝突エネルギ吸収装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の衝突エネルギ吸収装置であって、
前記潤滑液はウインドウォッシャ液である
ことを特徴とする車両の衝突エネルギ吸収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−51400(P2012−51400A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193334(P2010−193334)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)