説明

車両の車体前部構造

【課題】油圧駆動のアクチュエータ等を必要とすることがなく、SUVのようの、フードエッジが高かい車両においても、衝突対象物をフード上にうまく掬い上げるようにすること。
【解決手段】グリル部材16を水平方向に横切って延在する一つの水平軸線A周りにバタフライ回転式に回転可能に取り付けられており、グリル部材16は、支持軸20より上側領域16Aに前面衝突の荷重を入力することにより、支持軸20より下側領域16Bが跳ね上がる方向に回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体前部構造に関し、特に、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)に好適な車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、車両前部に衝突した衝突対象物の保護のために、衝突対象物を車体前部のフード上に、掬い(すくい)上げるに適した車体前部構造を採用したものがある。その一つとして、車体前部のフロントバンパより下方に、油圧駆動のアクチュエータ等によって動作する掬い上げ手段を設け、衝突対象物の衝突を感知してアクチュエータによって掬い上げ手段を動作させるものがある(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−1848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の掬い上げ手段は、油圧作動式等、動力式のものであるため、構造が複雑になり、油圧系統等の動作信頼性を高く保つ必要がある。
【0004】
また、SUVのようの、フードエッジが高かい車両においては、フロントバンパより下方に設置された掬い上げ手段では、衝突対象物をフード上にうまく掬い上げることが難しくなる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、油圧駆動のアクチュエータ等を必要とすることがなく、SUVのように、フードエッジが高かい車両においても、衝突対象物をフード上にうまく掬い上げるようにすることである。また、本発明が解決しようとする課題は、SUVのように、車体のアプローチアングルが大きい車両において、衝突対象物のバンパ下部へのもぐり込みを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による車両の車体前部構造は、車体前部に車体前面部材を有する車両の車体前部構造であって、前記車体前面部材は、当該車体前面部材の上下方向の中間位置を水平方向に横切って延在する一つの水平軸線周りに回転可能に、車体構成部材に取り付けられており、前記車体前面部材は、前記水平軸線による自身の回転中心軸線より上側領域に前面衝突の荷重を入力することにより、前記回転中心軸線より下側領域が跳ね上がる方向に回転する。
【0007】
本発明による車両の車体前部構造は、好ましい一つの実施形態として、前記車体前面部材は、車体前部に配置されたフロントバンパフェース部材とフードとの間に配置されたグリル部材を含む。
【0008】
本発明による車両の車体前部構造は、好ましいもう一つの実施形態として、車体前部に、フロントバンパフェース部材として、上部バンパフェース部材と、前記上部バンパフェース部材の下方に配置された下部バンパフェース部材とを有し、前記車体前面部材は前記下部バンパフェース部材を含む。
【0009】
本発明による車両の車体前部構造は、云うまでもなく、前記車体前面部材は、前記グリル部材と、前記下部バンパフェース部材の双方を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明による車両の車体前部構造によれば、車体前面部材は一つの水平軸線周りにバタフライ回転式に回転可能であり、車体前面部材の回転中心軸線より上側領域に、前面衝突の荷重が入力されると、それにより車体前面部材に生じる回転モーメントによって、当該車体構成部材の回転中心軸線より下側領域が跳ね上がる方向に回転する。これにより、油圧駆動のアクチュエータ等を必要とすることなく、バタフライ回転式の車体前面部材によって衝突対象物をフード上に掬い上げることができる。
【0011】
特に、車体前部に配置されたフロントバンパフェース部材とフードとの間に配置されたグリル部材がバタフライ回転式の車体前面部材であることにより、当該車体前面部材が車両走行面より高い位置に配置されることになり、SUVのようのフードエッジが高かい車両においても、衝突対象物をフード上にうまく掬い上げることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明による車両の車体前部構造をSUVに適用した一つの実施形態を、図1〜図6を参照して説明する。
【0013】
図1に示されているように、本実施形態のSUVは、車体前部構造として、左右のフロントフェンダ10と、左右のフロントフェンダ10間に配置されてエンジンルーム上部を覆うフード12と、車体幅方向に略水平に延在するフロントバンパフェース部材14と、フロントバンパフェース部材14とフード10との間に配置されたグリル部材16とを有する。
【0014】
フロントバンパフェース部材14は、上部バンパフェース部材14Aと、上部バンパフェース部材14Aの下方に配置された下部バンパフェース部材14Bとを含む。
【0015】
グリル部材16は、フード12に隣接する上部グリル部材(上側領域)16Aと上部バンパフェース部材14Aに隣接する下部グリル部材(下側領域)16Bとを一体に有する。つまり、上部グリル部材16Aとグリル部材(下側領域)16Bとが一体構造になっている。
【0016】
図2は上部バンパフェース部材14Aを取り外した状態を示している。グリル部材16は、一つの車体前面部材であり、上下方向の中間位置を水平方向に横切って延在する一つの水平軸線Aと同一軸線上に支持軸20を有する。支持軸20は、グリル部材16の左右両側に各々設けられており、Cリングによる軸受部材22(図3参照)によって車体構成部材、本実施形態では、エンジンムールの前部を画定するバルクヘッドアッパビーム24に、自身の中心軸線周りに回転可能に取り付けられている。
【0017】
このように、グリル部材16は、上部バンパフェース部材14Aと下部バンパフェース部材14Bの境界部に沿って延在する一つの水平軸線A周りに回転可能に、バルクヘッドアッパビームビーム24に取り付けられており、水平軸線Aによる自身の回転中心軸線(支持軸20)より上側領域、つまり上部バンパフェース部材14Aに前面衝突の荷重を入力すると、回転中心軸線より下側領域、下部バンパフェース部材14Bが跳ね上がる方向に回転する構造になっている。
【0018】
なお、通常状態時には、グリル部材16が図1に示されているような通常の正規の取付姿勢を保つよう、軸受部材22による支持軸20の支持部に抵抗を与える、或いは別のラッチ手段が設けられてよい。
【0019】
また、グリル部材16は、上方から大きい荷重を受けると、Cリングによる軸受部材22の変形によってバルクヘッドアッパビーム24による支持状態より下方に脱落する。これにより、フード12の先端部分が衝撃吸収のために、変形し易くなる。
【0020】
図2、図4に示されているように、下部バンパフェース部材14Bは、車幅方向中央領域を除く部分を構成する略ヨーク形状の本体部材14Baと、車幅方向中央領域を構成する四角板状の可動部材14Bbの2部品に分割されている。
【0021】
可動部材14Bbは、もう一つの車体前面部材であり、上下方向の中間位置を水平方向に横切って延在する一つの水平軸線Bと同一軸線上に支持軸30を有する。支持軸30は、可動部材14Bbの左右両側に各々設けられており、Cリングによる軸受部材32(図5参照)によって本体部材14Bに、自身の中心軸線周りに回転可能に取り付けられている。
【0022】
可動部材14Bbは、水平軸線Bによる自身の回転中心軸線(支持軸30)より上側領域(車体前側領域)34Aに前面衝突の荷重を入力すると、前記回転中心軸線より下側領域(車体後側領域)34Bが跳ね上がる方向に回転する構造になっている。
【0023】
なお、通常状態時には、可動部材14Bbが図1に示されているような通常の正規の取付姿勢を保つよう、軸受部材32による支持軸30の支持部に抵抗を与える、或いは別のラッチ手段が設けられてよい。
【0024】
図6に示されているように、前面衝突時、フード12の先端が変形し、グリル部材16が車体後方へ変位する過程で、グリル部材16の回転中心軸線より上側領域、つまり、上部グリル部材16Aに、前面衝突の荷重Laが入力されると、それによってグリル部材16に、支持軸20を中心とする図6で見て時計廻り方向の回転モーメントが生じる。
【0025】
これにより、グリル部材16の回転中心軸線より下側領域、つまり、下部グリル部材16Bが跳ね上がる方向に回転する。この回転によって衝突対象物がフード12上に掬い上げられるようになる。
【0026】
また、前面衝突による下部バンパフェース部材14Bの車体後方へ変位に伴って、下部バンパフェース部材14Bの可動部材14Bbの回転中心軸線より上側領域34Bに、前面衝突の荷重Laが入力されると、それによって可動部材14Bbに、支持軸30を中心とする図6で見て時計廻り方向の回転モーメントが生じる。
【0027】
これにより、可動部材14Bbの回転中心軸線より下側領域34Bが跳ね上がる方向に回転する。この回転によっても衝突対象物がフード12上に掬い上げられるようになる。
【0028】
このように、油圧駆動のアクチュエータ等を必要とすることなく、バタフライ回転式のグリル部材16、可動部材14Bbによって衝突対象物をフード12上に掬い上げることができる。特に、フロントバンパフェース部材14とフード12との間に配置されたグリル部材16がバタフライ回転式の車体前面部材であることにより、当該車体前面部材が車両走行面より高い位置に配置されることになり、SUVのようのフードエッジが高かい車両においても、衝突対象物をフード12上にうまく掬い上げることができるようになる。
【0029】
また、下部バンパフェース部材14Bの可動部材14Bbの回動によって、SUVのように、車体のアプローチアングルが大きい車両においても、衝突対象物のバンパ下部へのもぐり込みを防止することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による車両の車体前部構造をSUVに適用した一つの実施形態を示す斜視図である。
【図2】本実施形態による車体前部構造の要部を示す斜視図である。
【図3】本実施形態による車体前部構造のグリル支持部の構造を示す拡大斜視図である。
【図4】本実施形態による車体前部構造の下部バンパフェース部分を示す斜視図である。
【図5】本実施形態による車体前部構造の下部バンパフェース部材の可動部材の支持部の構造を示す拡大斜視図である。
【図6】本実施形態による車体前部構造の衝突時の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
10 フロントサイドフェンダ
12 フード
14 フロントバンパフェース部材
14A 上部バンパフェース部材
14B 下部バンパフェース部材
14Ba 本体部材
14Bb 可動部材
16 グリル部材
16A 上部グリル部材(上側領域)
16B 下部グリル部材(下側領域)
20 支持軸
22 軸受部材
30 支持軸
32 軸受部材
34A 上側領域(車体前側領域)
34B 下側領域(車体後側領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に車体前面部材を有する車両の車体前部構造であって、
前記車体前面部材は、当該車体前面部材の上下方向の中間位置を水平方向に横切って延在する一つの水平軸線周りに回転可能に、車体構成部材に取り付けられており、
前記車体前面部材は、前記水平軸線による自身の回転中心軸線より上側領域に前面衝突の荷重を入力することにより、前記回転中心軸線より下側領域が跳ね上がる方向に回転する車両の車体前部構造。
【請求項2】
前記車体前面部材は、車体前部に配置されたフロントバンパフェース部材とフードとの間に配置されたグリル部材を含む請求項1に記載の車両の車体前部構造。
【請求項3】
車体前部に、フロントバンパフェース部材として、上部バンパフェース部材と、前記上部バンパフェース部材の下方に配置された下部バンパフェース部材とを有し、前記車体前面部材は前記下部バンパフェース部材を含む請求項1に記載の車両の車体前部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−255781(P2009−255781A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108260(P2008−108260)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)