説明

車両扉の戸先ゴム

【課題】戸先ゴムの断面形状を工夫して引抜性と検知感度とを向上させる。
【解決手段】戸先ゴムの側壁部に側溝を設け、戸先ゴムが車内外方向で撓み変形しやすくする。戸先ゴムの当たり面に物が挟まれた場合、車外側または車内側に容易に引き抜くことができる。当たり面は平坦部とすることにより、物が挟まれ戸閉め力が作用しても、その力は戸先ゴムの側壁部および中央突起部に分散させ、挟み物に加わる最大圧力を低減する。さらに、中空部を扉の戸閉め方向の寸法を短かく、車両の内外方向の寸法を長く形成し、ゴム変形を小さくして扉間隔が大きくなることで検知感度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等の乗降扉の戸先に設置される車両用の戸先ゴムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の戸先ゴムに要求される特性として、乗降扉の閉姿勢におけるシール性は勿論のこと、乗客や物が挟まれたことを検知できる検知性と、乗客や物が挟まれたときに引き抜きやすくする引抜性なども要求される。
【0003】
特許文献1には、戸先ゴムに空気室が設けられ、該戸先ゴムをその長手方向に直交する平面で切った時の該空気室の断面形状は半円状であって、該半円形状の空気室は戸先ゴムの車内側に配置され、戸先ゴムの車外側は中実であり、該空気室は圧力センサが設けられた空間に連通するようにした乗降扉用戸先ゴムが開示されている。
【0004】
この戸先ゴムによると、空気室の車外側は中実であるので、乗降扉に挟まれた物を車外のプラットフォーム側から引っ張ると、戸先ゴムの車内側が圧迫されて半円形状の空気室が変形し、空気室の圧力上昇により圧力センサを通じて戸挟みの検知が容易に行える。一方、乗降扉に挟まれた物を車内側から引っ張られると、戸先ゴムの車外側が圧迫されてが、戸先ゴムの車外側は中実であるので、空気室は少ししか変形せず、戸挟み感度が鈍感となる。
【特許文献1】特開2008−1303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、戸先ゴムに要求される検知性と引抜性については、その形態を工夫してさらなる向上を目指す要求がなされている。
【0006】
本発明は、上記に鑑み、断面形状を工夫することにより、引抜性を向上させること、さらには、検知感度を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、中空部を有する車両の引き戸式乗降扉の戸先ゴムであって、側壁部に戸先ゴムの撓み変形しやすくするための側溝が形成されたことを特徴とする。
【0008】
上記構成によると、戸先ゴムの当たり面に物が挟まれた場合、車外または車内に引き抜こうとするが、このとき、戸先ゴムの側壁部に側溝を設けておくと、戸先ゴムが車内外方向で撓み変形しやすくなる。そのため、挟み物が引き抜きやすくなる。
【0009】
また、上記構成に加えて、戸先ゴムの当たり面が平坦部とされ、該平坦部の背面側に中空部が形成され、該中空部の戸先ゴムの基部側に前記平坦部に対向してゴム突起が突出形成された構成を採用することができる。
【0010】
この構成によると、当たり面が平坦部であるため、手や指が戸先間に挟まされたとしても、戸閉め力が側壁部および中央突起部に分散する。その結果、挟み物に加わる最大圧力が低減され、打撲などの傷害を防ぐことができる。
【0011】
また、中空部は、扉の戸閉め方向の寸法が車両の内外方向の寸法よりも短く形成されている。これにより、物が戸先に挟まれて戸閉め力が作用しても、ゴム変形が小さく、扉間隔が大きくなることで検知感度を向上させることができる。
【0012】
さらに、当たり面の表層には低摩擦材層を形成することができる。これにより、物が挟まれた場合でも小さな引き抜き力で引く抜くことができる。
【0013】
なお、基部は中実に形成され、側溝は基部の側壁部に上下方向で凹条に形成される。この構成によると、中実状の基部も撓み変形が容易に行える。しかも、側壁部に側溝があるため、扉構体への戸先ゴムの挿入あるいは位置合わせ作業時に手指を側溝に掛けて作業を行うことができ、組付け作業性を向上させることができる。
【0014】
なお、側溝は、所望の引抜力に応じて、扉の開閉方向で複数条形成することができる。
【0015】
また、低摩擦材層としてはフッ素樹脂から構成されるものを例示することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、戸先ゴムの側壁部に側溝を設けて戸先ゴムが車内外方向で撓み変形しやすくしているので、戸先ゴムの当たり面に物が挟まれた場合、車外側または車内側に容易に引き抜くことができ、引抜性に優れた安全性に高い戸先ゴムを提供することができる。また、当たり面に平坦部を形成することにより、物が挟まれ、戸閉め力が作用しても、その力は戸先ゴムの側壁部および中央突起部に分散し、挟み物に加わる最大圧力を低減する。さらに、中空部を扉の開閉方向の左右方向寸法よりも車両の内外方向の寸法が長く形成すると、ゴム変形が小さく、扉間隔が大きくなることで検知感度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図11は本発明の実施形態を示す鉄道車両の乗降扉を示す斜視図、図2は引き戸式の乗降扉に物が挟まった状態を示す概略正面図、図3は乗降扉の閉状態における戸先ゴムの断面図である。
【0018】
図1,2において、戸先ゴム1は、鉄道車両2の引き戸式乗降扉3の扉構体3aの戸先3bに取り付けられ、扉の閉状態で互いに接触してシールするものである。
【0019】
乗降扉3は、戸閉め力が作用して扉が閉状態になると、扉構体3aに取り付けられた接触子19が車体側に設置された戸閉まり感知スイッチ18をオンすることで乗降扉3の閉状態を感知できるようになっている。
【0020】
万一、戸先ゴム1間に挟み物20を挟んだ場合、感知スイッチ18がオフ状態であるので、戸閉まりを感知せず、鉄道車両の発車が制限されることになる。
【0021】
戸先ゴム1は、乗降扉3の戸先3bに取り付けられる取付部5と、戸先の対向面側に配置される基部6と、該基部よりも先端側に配置される当たり部7とを備えている。
【0022】
戸先ゴム1は、その上下方向で横断面形状が同一であり、クロロプレンゴム等のゴム状弾性体により押し出し成形されてなる。ゴム状弾性体は、ゴム以外の樹脂エラストマーであってもよいことは勿論である。
【0023】
取付部5は、断面四角状に形成され、扉構体3aの戸先内部に形成された取付凹部15に、上方から差し込み可能に装着される。取付部5と基部6とは幅狭の連結部16で連結される。連結部16は、扉構体3aの戸先3bに形成されたスリット17に嵌合される。これにより、取付部5は、扉構体3aから抜け出ないようになっている。
【0024】
当たり部7は、表面側の当たり面が平坦な平坦部9とされ、背面側に中空部10が形成されている。平坦部9は、車両の内外方向の全体幅に対して半分以上の幅で平坦面とされる。
【0025】
中空部10は、扉の戸閉め方向の寸法が車両の内外方向の寸法よりも短く形成されている。中空部10は、当たり部7において、内外方向にほぼ全域にわたって長く形成されると共に、戸閉め方向には小さく形成される。例えば、戸先ゴムの扉構体からの露出高さが15mmのとき、中空部10の内寸法が3mm程度に設定される。
【0026】
中空部10の戸先ゴムの基部6側には前記平坦部9に対向してゴム突起12が突出形成されている。突起12は、車両の内外方向に長く中空部10のほぼ1/2程度の長さに設定されている。また、突起12の高さは、中空部の扉開閉方向の長さに対してほぼ1/3程度に設定されている。戸閉め力が作用してもゴムの変形が小さくなるように設定されている。
【0027】
当たり部7の表層には低摩擦材層11が形成され、物が挟まれた場合でも小さな引抜き力で引き抜くことができるようになっている。この低摩擦材層11は、材料としては特に限定されないが、フッ素樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレンから構成することができる。低摩擦材層11の層厚は特に限定されず、所望の表面摩擦係数を継続維持できる程度の層厚であればよい。図3において、低摩擦材層11は、当たり部7の表面にのみ形成したが、基部6の側壁部に及ぶ露出部分全体に形成してもよい。
【0028】
基部6は、中空部10よりも扉の戸先側で全体の3/5程度の高さを占める。基部6は、中実に形成され、その側壁部に戸先ゴム1の撓み変形をしやすくするための側溝13が上下方向に連続して形成されている。側溝13は、半円状の断面凹形状に形成される。
【0029】
本実施形態では、側溝13は車両の内外で、基部6の側壁部にそれぞれ1条づつ形成しているが、その条数はこれに限らず、所望の引抜き力を得るために2条以上の複数条の側溝を形成してもよいことは勿論である。
【0030】
上記構成において、戸先ゴム1の当たり面に物20が挟まれ、これを車外または車内方向に引き抜こうとした場合、戸先ゴム1の側壁部に側溝13を設けているので、戸先ゴム1が車内外方向で撓み変形しやすくなる。そのため、挟み物20が引き抜きやすくなる。
【0031】
また、戸先3bに手や指が挟まれた場合でも、当たり部7が平坦部9とされているため、戸閉め力が基部6の側壁部および中央突起部12に分散することになる。その結果、挟み物20に加わる最大圧力が低減され、打撲などの傷害を防ぐことができる。
【0032】
また、中空部10は、扉の戸閉め方向寸法よりも車両の内外方向の寸法が長く形成されている。言い換えると、扉の戸閉め方向の寸法が車両の内外方向の寸法よりも短く形成されているので、物20が戸先3bに挟まれて戸閉め力が作用しても、ゴム変形が小さく、乗降扉3の間隔が大きくなることで、感知スイッチ18が作動せず、戸閉まりを検知しなくなる。そのため、戸先ゴム1の検知感度を向上させることができる。
【0033】
さらに、当たり部7の表層には低摩擦材層11が形成されているので、物20が挟まれた場合でも小さな引き抜き力で引く抜くことができる。
【0034】
なお、基部6には、側溝13があるため、扉構体3aへの戸先ゴム1の挿入あるいは位置合わせ作業時に手指を側溝13に掛けて組付け作業性を容易に行うことができる。
【0035】
次に、本発明の実施例1,2および比較例1,2について検知性および引抜性を対比すると表1のようになる。このときの条件は図4および図5に示す通りである。
【0036】
図4(a)は本実施例の戸先ゴムの平面図、同図(b)は比較例の戸先ゴムの平面図である。ただし、いずれも低摩擦材層を省略した図になっている。また、同じ条件で試験できるように、戸先ゴムの高さや幅寸法を同一条件とするなど、図示の寸法(単位はmm)の戸先ゴムを準備した。図5(a)は戸先ゴムの検知性を試験するための条件を示す図、同図(b)は挟み物20の引抜性を試験するための条件を示す図である。
【0037】
図5(a)において、挟み物20は、直径20mmの金属丸棒と、20mm角の金属角棒を準備し、戸閉め力は両側から500Nの押圧力を作用させ、そのときの戸先ゴム1間の隙間寸法Cを測定した。
【0038】
また、図5(b)において、挟み物20を戸閉め力を両側から500Nの押圧力で押圧させた状態で、車外方向に引き抜いたときの引抜力を測定した。
【0039】
比較例1および実施例1は、低摩擦材層が形成されていない戸先ゴムであり、比較例2および実施例2は、低摩擦材層としてフッ素樹脂層を形成した戸先ゴムである。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、20mmの金属角棒を挟み物として検知性を測定した場合、隙間寸法Cが比較例1,2では3.9mm、3.8mmであるのに対し、実施例1では11.0mm、実施例2では10.1mmと大幅に広くなる。また、20mmの金属丸棒を挟み物として検知性を測定した場合も同様に、隙間寸法Cが比較例1,2では0.3mm、0.0mmであるのに対し、実施例1では7.0mm、実施例2では5.9mmと大幅に広くなる。したがって、本実施例の場合、物が挟まれたときの検知感度が向上するといった結果が得られた。
【0042】
また、20mmの金属角棒を挟み物として引抜性を測定した場合、比較例1では200N以上、比較例2では119Nであるのに対し、実施例1では150N、実施例2では109Nと大幅に引き抜き力が低下する。
【0043】
また、20mmの金属丸棒を挟み物として引抜性を測定した場合も同様に、比較例1では200N以上、比較例2では130Nであるのに対し、実施例1では127N、実施例2では118Nと大幅に引抜力が低下する。したがって、本実施例の場合、物が挟まれたときの引抜力が低下するといった結果が得られた。
【0044】
また、直径20mmの金属丸棒を挟み物として、これに予め圧力測定フイルム(例えば、富士フイルム製 商品名:プレスケール)を巻き付けた後、戸先ゴムに挟み、戸閉め方向で両側から500Nの荷重をかけて測定した。最大圧力の読み取りは、フイルム専用の光学式濃度計で読み取り、換算グラフから圧力を求めた。
【0045】
その結果、比較例1では1.95MPa、比較例2では1.90MPa、実施例1では1.80MPa、実施例2では1.75MPaの結果が得られた。これらの結果から、当たり部7の当たり面が平坦面であるため、手や指が戸先間に挟まされたとしても、戸閉め力が側壁部や中央突起部側に分散され、その結果、挟み物に加わる最大圧力が低減されることがわかった。しかも、フッ素樹脂層などの低摩擦材層11が形成された戸先ゴムの方が最大圧力が低減されることがわかった。
【0046】
すなわち、低摩擦材層11は、本来、引抜力の低減を目的として形成されるものであるが、最大圧力の低減にも効果があることが判明した。これは、低摩擦材層11により、挟み物20と戸先ゴム間の摩擦係数が当然ながら低下するので、接触部のゴムが滑り、接触面積が増大して圧力分布の平準化が起こる。その結果、最大圧力が低下するものと考えられる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で多くの修正・変更を加えることができるのは勿論である。例えば、上記図4に示す実施例の寸法はあくまでも物性を特定するための例示であって、本発明はこれに限定されるものではないことは勿論である。また、上記実施形態では鉄道車両用の引き戸式乗降扉について説明したが、本発明は、これに限らず、鉄道以外の引き戸式扉の戸先ゴムに適用することができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態を示す鉄道車両の乗降扉を示す斜視図
【図2】引き戸式の乗降扉に物が挟まった状態を示す概略正面図
【図3】乗降扉の閉状態における戸先ゴムの断面図
【図4】(a)は本実施例の戸先ゴムの平面図、(b)は比較例の戸先ゴムの平面図
【図5】(a)は戸先ゴムの検知性を試験するための条件を示す図、(b)は挟み物の引抜性を試験するための条件を示す図
【符号の説明】
【0049】
1 戸先ゴム
2 鉄道車両
3 乗降扉
3a 扉構体
3b 戸先
5 取付部
6 基部
7 当たり部
9 平坦部
10 中空部
11 低摩擦材層
12 ゴム突起
13 側溝
15 取付凹部
16 連結部
17 スリット
18 感知スイッチ
19 接触子
20 挟み物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有する車両の引き戸式乗降扉の戸先ゴムであって、側壁部に戸先ゴムの撓み変形しやすくするための側溝が形成されたことを特徴とする車両の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項2】
前記戸先ゴムの当たり面が平坦部とされ、該平坦部の背面側に中空部が形成され、該中空部の戸先ゴムの基部側に前記平坦部に対向してゴム突起が突出形成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項3】
前記当たり面の表層に低摩擦材層が形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項4】
前記中空部は、扉の戸閉め方向の寸法が車両の内外方向の寸法よりも短く形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項5】
前記基部は中実に形成され、前記側溝は前記基部の側壁部に上下方向で凹条に形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項6】
前記側溝は、扉の開閉方向で複数条形成されたことを特徴とする請求項5に記載の車両の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項7】
前記低摩擦材層がフッ素樹脂から構成されたことを特徴とする請求項3に記載の車両の乗降扉用戸先ゴム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−111368(P2010−111368A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288106(P2008−288106)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000134903)株式会社ニシヤマ (33)