車両用シートのシートバック
【課題】乗員の背部を支えるシートバックの弾力性及び剛性を確保し、かつシートバック全体の軽量化を実現するシートバックを提供することである。
【解決手段】発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの発泡体で形成され、前面に凹状部を有するシートバックパッドと、前記シートバックパッドの前側の略下半分に、前記シートバックパッドと隙を介在させて張設した厚手のクッション材と、前記厚手のクッション材の上端部に連接させ、前記シートバックパッドの前側の略上半分に前記シートバックパッドと隙を介在させて、かつ前記シートバックパッドの上端部を被包するように張設した薄手のクッション材と、シートバックフレームと、前記張設された厚手のクッション材及び薄手のクッション材を被包する表皮と、を含む構成含む構成としたことで課題を解決できた。
【解決手段】発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの発泡体で形成され、前面に凹状部を有するシートバックパッドと、前記シートバックパッドの前側の略下半分に、前記シートバックパッドと隙を介在させて張設した厚手のクッション材と、前記厚手のクッション材の上端部に連接させ、前記シートバックパッドの前側の略上半分に前記シートバックパッドと隙を介在させて、かつ前記シートバックパッドの上端部を被包するように張設した薄手のクッション材と、シートバックフレームと、前記張設された厚手のクッション材及び薄手のクッション材を被包する表皮と、を含む構成含む構成としたことで課題を解決できた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、車両用シートの軽量化に関し、さらに詳しくはシートバックの軽量化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃費向上などから自動車を構成する部品の軽量化が求められており、乗員が着座する車両シートの軽量化、その中で乗員の背面を支えるシートバックの軽量化技術も提案されている。
【0003】
例えば、背もたれ部を形成する、ウレタンによって成型されたパッド本体部と、前記パッド本体部の上端から後方に突出して延在する張り出し部と、前記張り出し部から前記パッド本体部の下方向に移行するに従って前記パッド本体部の後方向に漸次肉厚が増大する肉厚部及び前記肉厚部から更に下方に連続するとともに漸次肉厚が減少する端部絞り部を有するフランジ部と、前記フランジ部及び前記張り出し部及び前記パッド本体部の内側面の全域に亘って張設される補強材と、を備えるシードパッドにおいて、前記端部絞り部の先端部分には、前記パッド本体部の幅方向に延在して前記端部絞り部の先端部分に配置された先端部充填体をウレタンより軽い発泡ポリスチレンで形成し軽量化させたシードパッドが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、車両用シートバックパッドはウレタンで構成されているが、ウレタンからなる本体部のサイドサポート部の裏面に、ウレタンより軽量な発泡スチロールの成形体を嵌着される提案がされている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−227302号公報
【特許文献2】特開平5−57069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2とも、発泡ポリスチレン(発泡スチロール)はウレタンより軽量であるが硬度が高いことから、乗員の背面を支えるシートバック部のシートバックパッド本体部は弾力性を重視してウレタンの成形体から構成され、ウレタンより軽量で高硬度な材質で成形される部位は、特許文献1はシートバック上部の後方先端部の一部であり、また特許文献2はシートバックのサイドサポート部の裏面であった。このため、シートバック全体の重量軽減はすべてをウレタンで成形されたものとの重量差が僅少であった。
【0007】
したがって、本願発明の目的は、乗員の背部を支えるシートバックの弾力性及び剛性などのシート性能を確保し、かつシートバック全体の軽量化を実現するシートバックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
「発明が解決しようとする課題」に記載した課題を解決するために、請求項1に記載の車両用シートのシートバック1の発明は、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させた発泡体で形成され、前面が凹状に掘り込まれた形態を有するシートバックパッド11と、前記シートバックパッド11の乗員の背面が当接する側で、前記シートバックパッド11の前側の略下半分に、前記シートバックパッド11凹状部表面と隙を設けて張設した厚手のクッション材12と、前記厚手のクッション材12の上端部に連接させ、前記シートバックパッド11の前側の略上半分に前記シートバックパッド11凹状部表面と隙を設けて張設し、かつ前記シートバックパッド11の上端部を被包するように配設した薄手のクッション材13と、前記シートバックパッド11の背面の略平面部を被覆するように配設したマット14と、前記シートバックパッド11内に内設した、四角枠形状の枠フレーム21、及び前記枠フレーム21の縦方向及び横方向の対向した枠フレーム21間にそれぞれ介設した強化用ワイヤー22、23とからなるシートバックフレーム20と、前記張設された厚手のクッション材12及び薄手のクッション材13を裏面に固定させてシートバックの背面を除く表面を被覆するように張設した表皮6と、を含む構成要素からなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の車両用シートのシートバック1の発明は、請求項1において、前記表皮6の裏面側に固定された前記厚手のクッション材12及び前記薄手のクッション材13が、前記シートバックパッド11の上端部、下端部、右端部及び左端部に当接させて張設され、前記厚手のクッション材12及び前記薄手のクッション材13と、前記シートバックパッド11の前面の凹状部表面との間に、シートに着座した乗員の背凭れ時の撓み深さに相当する隙10を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明は、シートバックパッド11の形成に一般的に使用されているウレタンより軽量の発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させて形成されるので、シートバック1の重量が大幅に減じられ、シートバック1の軽量化ができるという効果を奏する。
【0011】
乗員の背面が当接する部位である、シートバックパッド11の前方の下半分に張設した厚手のクッション材12と、前記厚手のクッション材12の上端部に連接させて前記シートバックパッド11の前面の上半分に張設した薄手のクッション材13とにより、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンがウレタンより硬質であるが、シートバック1の前側に弾力性を有するようにすることができ、シートに着座した乗員の背凭れ荷重を弾力的に支持することができる。
【0012】
さらに、表皮6の裏側に接着や縫製などで固定させて、乗員の背面が当接する部位である、シートバックパッド11の前方の下半分に配設した厚手のクッション材12と、前面を凹状に掘り込んだシートバックパッド11との間に隙10を設けたことにより、乗員が背凭れしてきたときの厚手クッション材12が凹状に掘り込んだシートバックパッド11の前表面位置近傍まで撓み、厚手クッション材12の弾力で乗員の体位置を保持でき、シートに着座した乗員の背凭れ荷重を弾力的に支持して乗員の疲労感を軽減するとともに快適な着座感を与えることができる。
【0013】
また、シートバックパッド11を、ウレタンより硬質な発泡ポリスチレン又は発泡ポリプロピレンで形成することにより、前記シートバックパッド11自体の剛性が従来のウレタンより高まる。
【0014】
これにより、シートバック1の剛性は、従来は略四角枠形状の四囲の枠フレームに略波板形状を有する平板26を溶接で固着させた形態のシートバックフレーム25構造により確保されていたのに対し、本願発明では、硬質のシートバックパッド11と、略四角枠形状の枠フレーム21及び前記枠フレーム21の縦方向又は横方向の枠フレーム21間に溶接して介設した強化用ワイヤー22,23とからなる形態のシートバックフレーム20構造とによって確保することができるので、シートバック1の重量を大幅に減少させ軽量化をさせることができた。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1の発明と同じ効果を奏する。さらに、シートバックパッド11の前面に配設した表皮6、厚手クッション材12などを、前記シートバックパッド11の前表面40の左右端41、42で着接させ、左右端41、42間の中間部で前記シートバックパッド11の前表面40から乖離して浮かせるように張設する構成とすることによって、乗員の背凭れによる加圧時に、張設した表皮6や厚手クッション材12などが前記シートバックパッド11の前表面の近傍の位置まで撓み、厚手クッション材12などの弾力で乗員の体を保持することができ、クッション性が極めて高まるという効果を奏する。
【0016】
以上により、従来のシートバック1に比較し、本願発明のシートバック1は、乗員が背凭れにより加圧される部位の弾力性が確保され、かつシートバック1の剛性が確保できた状態で、シートバック1の軽量化を実現させることができるので、乗員に快適な着座感を与えることができ、かつ燃費向上などの車両の商品力向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両シートのシートバックの概要図である。
【図2】図1における断面A−Aの断面概要図である。
【図3】本願発明のシートバックフレームの概要図である。
【図4】従来のシートバックフレームの概要図である。
【図5】表皮及び厚手のクッション材などを張設した形態のシートバックの一部断面を表した平面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明にかかる車両用シートのシートバック1の実施形態について、図1乃至図5で説明する。
【0019】
本願発明の車両用シートのシートバック1は、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させた発泡体で形成され、前面が凹状に掘り込まれた形態を有するシートバックパッド11と、前記シートバックパッド11の乗員の背面が当接する側で、前記シートバックパッド11の前側の略下半分に、前記シートバックパッド11凹状部表面と隙10を設けて張設した厚手のクッション材12と、前記厚手のクッション材12の上端部に連接させ、前記シートバックパッド11の前側の略上半分に前記シートバックパッド11凹状部表面と隙10を設けて張設し、かつ前記シートバックパッド11の上端部を被包するように配設した薄手のクッション材13と、前記シートバックパッド11の背面の略平面部を被覆するように配設したマット14と、前記シートバックパッド11内に内設した、四角枠形状の枠フレーム21、及び前記枠フレーム21の縦方向及び横方向の対向した枠フレーム21間にそれぞれ介設した強化用ワイヤー22、23とからなるシートバックフレーム20と、前記張設された厚手のクッション材12及び薄手のクッション材13を裏面に固定させてシートバックの背面を除く表面を被覆するように張設した表皮6と、を含む構成要素からなる。
【0020】
そして、前記厚手のクッション材12及び前記薄手のクッション材13が、前記シートバックパッド11の上端部、下端部、右端部及び左端部に当接させて張設されたときの、前記シートバックパッド11の前面の凹状部表面との間の隙10を、シートに着座した乗員の背凭れ時の撓み深さに相当する隙に設定する。
【0021】
次に、本願発明かかる車両用シートのシートバック1の構成要素について、図1乃至図5で説明する。
【0022】
シートバックフレーム20は、略四角枠形状の枠フレーム21の縦方向又は横方向の対向する枠フレーム間に、それぞれの対向する枠フレーム21に直交させ、かつ縦方向と横方向の互いの方向の強化用ワイヤー22,23を直交させて、強化用ワイヤー22,23を溶接させた形態であり、シートバックパッド11内の背面4近傍に内設される。
【0023】
マット14は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル、ウール、レーヨン又はポリエステルの原材料からなる不織布シートで構成され、シートバック1の背面4側に、発泡ポリスチレン又は発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させて形成されたシートバックパッド11の背面に接着されて貼設される。そして、マット14は、前記シートバックパッド11の背面4の目隠し部材としても機能し、前記シートバックパッド11の剛性が高められる。
【0024】
シートバックパッド11については、前記シートバックフレーム20をブロー成形用の成形型内のシートバック1の背面4側の所定の位置に装着し、かつマット14をブロー成形用の成形型内のシートバックフレーム20の背面4側の所定の位置に装着した後に、成形型内に発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を充填し、これを蒸気によって加熱し発泡させてシートバックパット11が形成される。
【0025】
シートバックパッド11の形態は、前表面が凹状に掘り込まれた形態を有しており、前記凹状部の深さを、シートに着座した乗員の背凭れ時の撓み深さに設定する。これにより、シートに着座した乗員の背凭れ時のクッション性を高めることができる。
【0026】
成形されたシートバックパッド11は、従来のウレタンから成形されたシートバックパッド11よりも軽量化されて高剛性を有するものとなって、シートバックパット11とシートバックフレーム20は一体化されて成形されている。
【0027】
シートバックパッド11に高剛性を有するものとすることにより、略四角枠形状の四囲の枠フレーム21内を、従来の略波板形状を有する平板26でなく、縦横方向に配設させた強化用ワイヤー22,23に変えることができ、これによってシートバックフレーム20を軽量化できる。
【0028】
クッション材は、スラブウレタンなどの、樹脂材料をシートバックパッド11の成形時よりも発泡率を高くして発泡させて軟質にした材料からなるクッション材であり、乗員の背面が当接する部位である、シートバックパッド11の略下半分の前方に張設させた厚手のクッション材12と、前記厚手のクッション材12の上端部に連接させて前記シートバックパッド11の略上半分の前方に張設し、かつ前記シートバックパッド11の上端部を被包するように配設した薄手のクッション材13とが配設されている。
【0029】
スラブウレタンなどからなるクッション材は、シートバックパッド11と表皮6との間に介在させており、シートバックパッド11前面側に接着やマジックファスナー(登録商標)などによってクッション材を固設する方法、又は表皮6の裏面側に接着や縫製などによってクッション材を固設する方法で介在させる。
【0030】
スラブウレタンなどからなる厚手のクッション材12をシートバックパッド11の前面の略平面部のうち少なくとも下半分を被覆するように配設することにより、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの硬質な樹脂材料をシートバックパッド11に使用した場合であっても、乗員の背凭れ荷重を弾力的に支持して乗員の疲労感を軽減するとともに快適な着座感を与えることができる。
【0031】
さらに、図5で示すように、シートバックパッド11の前面に配設した表皮6、厚手クッション材12などを、前記シートバックパッド11の前表面40の左右端41、42で着接させ、左右端41、42間の中間部で前記シートバックパッド11の前表面40から乖離して浮かせるように張設する形態にすれば、張設された表皮6、厚手クッション材12などが、乗員が着座したときにシートバックパッド11の前表面40の近傍の位置近傍まで撓み、さらに厚手クッション材12などの弾力で乗員の背面を保持する。これにより、シートバック1に高いクッション性を具備させることができる。
【0032】
そして、シートバック1の前面3に配設した厚手のクッション材12、シートバック1の前面3及び上部2に配設した薄手のクッション材13、シートバック1の左右側部8、及びシートバック1の底部5から構成されるシートバック1の外周面を、織編物、ビニールレザー、皮革などで構成される布状表皮6で被包している。
【0033】
前記クッションなどの各部位の布状表皮6間の境目は、それぞれ見栄えのよい結合となるように縫合する。
【0034】
以下、実施例で本願発明を詳細に説明するが、本願発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0035】
リアのシートバックパッド11の材料として、密度25kg/m3の発泡ポリスチレン(発泡スチロール)の樹脂材料を使用し、シートバックフレーム20は、四角枠形状の枠フレーム21の縦方向又は横方向の対向した枠フレーム21間に介設した強化用ワイヤー22,23とからなるシートバックフレーム20を使用した。
【0036】
そして、厚手のクッション材12として厚さ10mmのスラブウレタンを使用し、薄手のクッション材13として厚さ3mmのスラブウレタンを使用した。
【0037】
比較例として、密度40kg/m3の発泡ウレタンの樹脂材料を使用し、四角枠形状の四囲の枠フレーム21に略波板形状を有する平板26を固着させた形態のシートバック1フレームを使用した。
【0038】
リアシートバック1台分の実施例及び比較例との重量の比較を表1に示す。単位はkgである。なお、使用した発泡ウレタン及び発泡ポリスチレンとも規定された難燃性を有している。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から、従来の発泡ウレタン使用の場合に比較して、本願発明の発泡ポリスチレン使用の場合の方が、重量で2.2kg減、重量比で約30%減となり、大幅な軽量化が実現できたことがわかる。
【0041】
また、乗員が本願発明の発泡ポリスチレン使用のシートバック1に着座したところ、乗員の背部を支えるシートバック1が弾力性及び剛性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0042】
1 シートバック
2 上端部
3 前面
4 背面
5 底面
6 表皮
8 側部
10 隙
11 シートバックパッド
12 厚手のクッション材
13 薄手のクッション材
14 マット
20 シートバックフレーム
21 枠フレーム
22 強化用ワイヤー
23 強化用ワイヤー
25 シートバックフレーム
26 平板
40 前表面
41 左右端
42 左右端
【技術分野】
【0001】
本願発明は、車両用シートの軽量化に関し、さらに詳しくはシートバックの軽量化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃費向上などから自動車を構成する部品の軽量化が求められており、乗員が着座する車両シートの軽量化、その中で乗員の背面を支えるシートバックの軽量化技術も提案されている。
【0003】
例えば、背もたれ部を形成する、ウレタンによって成型されたパッド本体部と、前記パッド本体部の上端から後方に突出して延在する張り出し部と、前記張り出し部から前記パッド本体部の下方向に移行するに従って前記パッド本体部の後方向に漸次肉厚が増大する肉厚部及び前記肉厚部から更に下方に連続するとともに漸次肉厚が減少する端部絞り部を有するフランジ部と、前記フランジ部及び前記張り出し部及び前記パッド本体部の内側面の全域に亘って張設される補強材と、を備えるシードパッドにおいて、前記端部絞り部の先端部分には、前記パッド本体部の幅方向に延在して前記端部絞り部の先端部分に配置された先端部充填体をウレタンより軽い発泡ポリスチレンで形成し軽量化させたシードパッドが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、車両用シートバックパッドはウレタンで構成されているが、ウレタンからなる本体部のサイドサポート部の裏面に、ウレタンより軽量な発泡スチロールの成形体を嵌着される提案がされている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−227302号公報
【特許文献2】特開平5−57069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2とも、発泡ポリスチレン(発泡スチロール)はウレタンより軽量であるが硬度が高いことから、乗員の背面を支えるシートバック部のシートバックパッド本体部は弾力性を重視してウレタンの成形体から構成され、ウレタンより軽量で高硬度な材質で成形される部位は、特許文献1はシートバック上部の後方先端部の一部であり、また特許文献2はシートバックのサイドサポート部の裏面であった。このため、シートバック全体の重量軽減はすべてをウレタンで成形されたものとの重量差が僅少であった。
【0007】
したがって、本願発明の目的は、乗員の背部を支えるシートバックの弾力性及び剛性などのシート性能を確保し、かつシートバック全体の軽量化を実現するシートバックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
「発明が解決しようとする課題」に記載した課題を解決するために、請求項1に記載の車両用シートのシートバック1の発明は、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させた発泡体で形成され、前面が凹状に掘り込まれた形態を有するシートバックパッド11と、前記シートバックパッド11の乗員の背面が当接する側で、前記シートバックパッド11の前側の略下半分に、前記シートバックパッド11凹状部表面と隙を設けて張設した厚手のクッション材12と、前記厚手のクッション材12の上端部に連接させ、前記シートバックパッド11の前側の略上半分に前記シートバックパッド11凹状部表面と隙を設けて張設し、かつ前記シートバックパッド11の上端部を被包するように配設した薄手のクッション材13と、前記シートバックパッド11の背面の略平面部を被覆するように配設したマット14と、前記シートバックパッド11内に内設した、四角枠形状の枠フレーム21、及び前記枠フレーム21の縦方向及び横方向の対向した枠フレーム21間にそれぞれ介設した強化用ワイヤー22、23とからなるシートバックフレーム20と、前記張設された厚手のクッション材12及び薄手のクッション材13を裏面に固定させてシートバックの背面を除く表面を被覆するように張設した表皮6と、を含む構成要素からなることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の車両用シートのシートバック1の発明は、請求項1において、前記表皮6の裏面側に固定された前記厚手のクッション材12及び前記薄手のクッション材13が、前記シートバックパッド11の上端部、下端部、右端部及び左端部に当接させて張設され、前記厚手のクッション材12及び前記薄手のクッション材13と、前記シートバックパッド11の前面の凹状部表面との間に、シートに着座した乗員の背凭れ時の撓み深さに相当する隙10を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明は、シートバックパッド11の形成に一般的に使用されているウレタンより軽量の発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させて形成されるので、シートバック1の重量が大幅に減じられ、シートバック1の軽量化ができるという効果を奏する。
【0011】
乗員の背面が当接する部位である、シートバックパッド11の前方の下半分に張設した厚手のクッション材12と、前記厚手のクッション材12の上端部に連接させて前記シートバックパッド11の前面の上半分に張設した薄手のクッション材13とにより、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンがウレタンより硬質であるが、シートバック1の前側に弾力性を有するようにすることができ、シートに着座した乗員の背凭れ荷重を弾力的に支持することができる。
【0012】
さらに、表皮6の裏側に接着や縫製などで固定させて、乗員の背面が当接する部位である、シートバックパッド11の前方の下半分に配設した厚手のクッション材12と、前面を凹状に掘り込んだシートバックパッド11との間に隙10を設けたことにより、乗員が背凭れしてきたときの厚手クッション材12が凹状に掘り込んだシートバックパッド11の前表面位置近傍まで撓み、厚手クッション材12の弾力で乗員の体位置を保持でき、シートに着座した乗員の背凭れ荷重を弾力的に支持して乗員の疲労感を軽減するとともに快適な着座感を与えることができる。
【0013】
また、シートバックパッド11を、ウレタンより硬質な発泡ポリスチレン又は発泡ポリプロピレンで形成することにより、前記シートバックパッド11自体の剛性が従来のウレタンより高まる。
【0014】
これにより、シートバック1の剛性は、従来は略四角枠形状の四囲の枠フレームに略波板形状を有する平板26を溶接で固着させた形態のシートバックフレーム25構造により確保されていたのに対し、本願発明では、硬質のシートバックパッド11と、略四角枠形状の枠フレーム21及び前記枠フレーム21の縦方向又は横方向の枠フレーム21間に溶接して介設した強化用ワイヤー22,23とからなる形態のシートバックフレーム20構造とによって確保することができるので、シートバック1の重量を大幅に減少させ軽量化をさせることができた。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1の発明と同じ効果を奏する。さらに、シートバックパッド11の前面に配設した表皮6、厚手クッション材12などを、前記シートバックパッド11の前表面40の左右端41、42で着接させ、左右端41、42間の中間部で前記シートバックパッド11の前表面40から乖離して浮かせるように張設する構成とすることによって、乗員の背凭れによる加圧時に、張設した表皮6や厚手クッション材12などが前記シートバックパッド11の前表面の近傍の位置まで撓み、厚手クッション材12などの弾力で乗員の体を保持することができ、クッション性が極めて高まるという効果を奏する。
【0016】
以上により、従来のシートバック1に比較し、本願発明のシートバック1は、乗員が背凭れにより加圧される部位の弾力性が確保され、かつシートバック1の剛性が確保できた状態で、シートバック1の軽量化を実現させることができるので、乗員に快適な着座感を与えることができ、かつ燃費向上などの車両の商品力向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両シートのシートバックの概要図である。
【図2】図1における断面A−Aの断面概要図である。
【図3】本願発明のシートバックフレームの概要図である。
【図4】従来のシートバックフレームの概要図である。
【図5】表皮及び厚手のクッション材などを張設した形態のシートバックの一部断面を表した平面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明にかかる車両用シートのシートバック1の実施形態について、図1乃至図5で説明する。
【0019】
本願発明の車両用シートのシートバック1は、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させた発泡体で形成され、前面が凹状に掘り込まれた形態を有するシートバックパッド11と、前記シートバックパッド11の乗員の背面が当接する側で、前記シートバックパッド11の前側の略下半分に、前記シートバックパッド11凹状部表面と隙10を設けて張設した厚手のクッション材12と、前記厚手のクッション材12の上端部に連接させ、前記シートバックパッド11の前側の略上半分に前記シートバックパッド11凹状部表面と隙10を設けて張設し、かつ前記シートバックパッド11の上端部を被包するように配設した薄手のクッション材13と、前記シートバックパッド11の背面の略平面部を被覆するように配設したマット14と、前記シートバックパッド11内に内設した、四角枠形状の枠フレーム21、及び前記枠フレーム21の縦方向及び横方向の対向した枠フレーム21間にそれぞれ介設した強化用ワイヤー22、23とからなるシートバックフレーム20と、前記張設された厚手のクッション材12及び薄手のクッション材13を裏面に固定させてシートバックの背面を除く表面を被覆するように張設した表皮6と、を含む構成要素からなる。
【0020】
そして、前記厚手のクッション材12及び前記薄手のクッション材13が、前記シートバックパッド11の上端部、下端部、右端部及び左端部に当接させて張設されたときの、前記シートバックパッド11の前面の凹状部表面との間の隙10を、シートに着座した乗員の背凭れ時の撓み深さに相当する隙に設定する。
【0021】
次に、本願発明かかる車両用シートのシートバック1の構成要素について、図1乃至図5で説明する。
【0022】
シートバックフレーム20は、略四角枠形状の枠フレーム21の縦方向又は横方向の対向する枠フレーム間に、それぞれの対向する枠フレーム21に直交させ、かつ縦方向と横方向の互いの方向の強化用ワイヤー22,23を直交させて、強化用ワイヤー22,23を溶接させた形態であり、シートバックパッド11内の背面4近傍に内設される。
【0023】
マット14は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリル、ウール、レーヨン又はポリエステルの原材料からなる不織布シートで構成され、シートバック1の背面4側に、発泡ポリスチレン又は発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させて形成されたシートバックパッド11の背面に接着されて貼設される。そして、マット14は、前記シートバックパッド11の背面4の目隠し部材としても機能し、前記シートバックパッド11の剛性が高められる。
【0024】
シートバックパッド11については、前記シートバックフレーム20をブロー成形用の成形型内のシートバック1の背面4側の所定の位置に装着し、かつマット14をブロー成形用の成形型内のシートバックフレーム20の背面4側の所定の位置に装着した後に、成形型内に発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を充填し、これを蒸気によって加熱し発泡させてシートバックパット11が形成される。
【0025】
シートバックパッド11の形態は、前表面が凹状に掘り込まれた形態を有しており、前記凹状部の深さを、シートに着座した乗員の背凭れ時の撓み深さに設定する。これにより、シートに着座した乗員の背凭れ時のクッション性を高めることができる。
【0026】
成形されたシートバックパッド11は、従来のウレタンから成形されたシートバックパッド11よりも軽量化されて高剛性を有するものとなって、シートバックパット11とシートバックフレーム20は一体化されて成形されている。
【0027】
シートバックパッド11に高剛性を有するものとすることにより、略四角枠形状の四囲の枠フレーム21内を、従来の略波板形状を有する平板26でなく、縦横方向に配設させた強化用ワイヤー22,23に変えることができ、これによってシートバックフレーム20を軽量化できる。
【0028】
クッション材は、スラブウレタンなどの、樹脂材料をシートバックパッド11の成形時よりも発泡率を高くして発泡させて軟質にした材料からなるクッション材であり、乗員の背面が当接する部位である、シートバックパッド11の略下半分の前方に張設させた厚手のクッション材12と、前記厚手のクッション材12の上端部に連接させて前記シートバックパッド11の略上半分の前方に張設し、かつ前記シートバックパッド11の上端部を被包するように配設した薄手のクッション材13とが配設されている。
【0029】
スラブウレタンなどからなるクッション材は、シートバックパッド11と表皮6との間に介在させており、シートバックパッド11前面側に接着やマジックファスナー(登録商標)などによってクッション材を固設する方法、又は表皮6の裏面側に接着や縫製などによってクッション材を固設する方法で介在させる。
【0030】
スラブウレタンなどからなる厚手のクッション材12をシートバックパッド11の前面の略平面部のうち少なくとも下半分を被覆するように配設することにより、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの硬質な樹脂材料をシートバックパッド11に使用した場合であっても、乗員の背凭れ荷重を弾力的に支持して乗員の疲労感を軽減するとともに快適な着座感を与えることができる。
【0031】
さらに、図5で示すように、シートバックパッド11の前面に配設した表皮6、厚手クッション材12などを、前記シートバックパッド11の前表面40の左右端41、42で着接させ、左右端41、42間の中間部で前記シートバックパッド11の前表面40から乖離して浮かせるように張設する形態にすれば、張設された表皮6、厚手クッション材12などが、乗員が着座したときにシートバックパッド11の前表面40の近傍の位置近傍まで撓み、さらに厚手クッション材12などの弾力で乗員の背面を保持する。これにより、シートバック1に高いクッション性を具備させることができる。
【0032】
そして、シートバック1の前面3に配設した厚手のクッション材12、シートバック1の前面3及び上部2に配設した薄手のクッション材13、シートバック1の左右側部8、及びシートバック1の底部5から構成されるシートバック1の外周面を、織編物、ビニールレザー、皮革などで構成される布状表皮6で被包している。
【0033】
前記クッションなどの各部位の布状表皮6間の境目は、それぞれ見栄えのよい結合となるように縫合する。
【0034】
以下、実施例で本願発明を詳細に説明するが、本願発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0035】
リアのシートバックパッド11の材料として、密度25kg/m3の発泡ポリスチレン(発泡スチロール)の樹脂材料を使用し、シートバックフレーム20は、四角枠形状の枠フレーム21の縦方向又は横方向の対向した枠フレーム21間に介設した強化用ワイヤー22,23とからなるシートバックフレーム20を使用した。
【0036】
そして、厚手のクッション材12として厚さ10mmのスラブウレタンを使用し、薄手のクッション材13として厚さ3mmのスラブウレタンを使用した。
【0037】
比較例として、密度40kg/m3の発泡ウレタンの樹脂材料を使用し、四角枠形状の四囲の枠フレーム21に略波板形状を有する平板26を固着させた形態のシートバック1フレームを使用した。
【0038】
リアシートバック1台分の実施例及び比較例との重量の比較を表1に示す。単位はkgである。なお、使用した発泡ウレタン及び発泡ポリスチレンとも規定された難燃性を有している。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から、従来の発泡ウレタン使用の場合に比較して、本願発明の発泡ポリスチレン使用の場合の方が、重量で2.2kg減、重量比で約30%減となり、大幅な軽量化が実現できたことがわかる。
【0041】
また、乗員が本願発明の発泡ポリスチレン使用のシートバック1に着座したところ、乗員の背部を支えるシートバック1が弾力性及び剛性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0042】
1 シートバック
2 上端部
3 前面
4 背面
5 底面
6 表皮
8 側部
10 隙
11 シートバックパッド
12 厚手のクッション材
13 薄手のクッション材
14 マット
20 シートバックフレーム
21 枠フレーム
22 強化用ワイヤー
23 強化用ワイヤー
25 シートバックフレーム
26 平板
40 前表面
41 左右端
42 左右端
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させた発泡体で形成され、前面が凹状に掘り込まれた形態を有するシートバックパッドと、前記シートバックパッドの乗員の背面が当接する側で、前記シートバックパッドの前側の略下半分に、前記シートバックパッド凹状部表面と隙を設けて張設した厚手のクッション材と、前記厚手のクッション材の上端部に連接させ、前記シートバックパッドの前側の略上半分に前記シートバックパッド凹状部表面と隙を設けて張設し、かつ前記シートバックパッドの上端部を被包するように配設した薄手のクッション材と、前記シートバックパッドの背面の略平面部を被覆するように配設したマットと、前記シートバックパッド内に内設した、四角枠形状の枠フレーム、及び前記枠フレームの縦方向及び横方向の対向した枠フレーム間にそれぞれ介設した強化用ワイヤーとからなるシートバックフレームと、前記張設された厚手のクッション材及び薄手のクッション材を裏面に固定させてシートバックの背面を除く表面を被覆するように張設した表皮と、を含む構成要素からなることを特徴とする車両用シートのシートバック。
【請求項2】
前記表皮の裏面側に固定された前記厚手のクッション材及び前記薄手のクッション材が、前記シートバックパッドの上端部、下端部、右端部及び左端部に当接させて張設され、前記厚手のクッション材及び前記薄手のクッション材と、前記シートバックパッドの前面の凹状部表面との間に、シートに着座した乗員の背凭れ時の撓み深さに相当する隙を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両用シートのシートバック。
【請求項1】
発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの樹脂材料を発泡させた発泡体で形成され、前面が凹状に掘り込まれた形態を有するシートバックパッドと、前記シートバックパッドの乗員の背面が当接する側で、前記シートバックパッドの前側の略下半分に、前記シートバックパッド凹状部表面と隙を設けて張設した厚手のクッション材と、前記厚手のクッション材の上端部に連接させ、前記シートバックパッドの前側の略上半分に前記シートバックパッド凹状部表面と隙を設けて張設し、かつ前記シートバックパッドの上端部を被包するように配設した薄手のクッション材と、前記シートバックパッドの背面の略平面部を被覆するように配設したマットと、前記シートバックパッド内に内設した、四角枠形状の枠フレーム、及び前記枠フレームの縦方向及び横方向の対向した枠フレーム間にそれぞれ介設した強化用ワイヤーとからなるシートバックフレームと、前記張設された厚手のクッション材及び薄手のクッション材を裏面に固定させてシートバックの背面を除く表面を被覆するように張設した表皮と、を含む構成要素からなることを特徴とする車両用シートのシートバック。
【請求項2】
前記表皮の裏面側に固定された前記厚手のクッション材及び前記薄手のクッション材が、前記シートバックパッドの上端部、下端部、右端部及び左端部に当接させて張設され、前記厚手のクッション材及び前記薄手のクッション材と、前記シートバックパッドの前面の凹状部表面との間に、シートに着座した乗員の背凭れ時の撓み深さに相当する隙を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車両用シートのシートバック。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−245290(P2012−245290A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121230(P2011−121230)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000151760)株式会社東洋シート (142)
【出願人】(594209463)東洋コルク株式会社 (2)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000151760)株式会社東洋シート (142)
【出願人】(594209463)東洋コルク株式会社 (2)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】
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