説明

車両用シートのトリムカバー端末固定構造

【課題】シートクッションのトリムカバーに固定されたリテーナがクッションフレームから外れ難くした車両用シートのトリムカバー端末固定構造を提供する。
【解決手段】クッションフレーム上に載置された発泡体製パッド6を被覆したトリムカバー7を、その端部内側に基端を固定され内方に突出する爪片10bを有する断面略J字状のリテーナ10を用いて該クッションフレームの前側フレーム部12の下端部12bに固定するようにした車両用シートのトリムカバー端末固定構造において、該前側フレーム部に前記爪片が挿入される係止孔13とこの係止孔の上端縁より該前側フレームの裏面側に下向きに舌状の上部係止片14及び上向きの下部係止片15とを形成し、前記トリムカバーの基端を前記上部係止片14の下方に内方且つ上向きに折曲して挿入収容して、前記リテーナの爪片を前記係止孔に係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッションのトリムカバーをクッションフレームに固定する車両用シートのトリムカバー端末固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、特開2000−189294号公報、実開平1−119597号公報などが開示されている。これらの公報に記載された車両用シートのトリムカバー端末固定構造にあっては、シートクッションのトリムカバーの端末内側に基端を縫着などで固定されたJ字状の樹脂製リテーナを、クッションフレームの下端部に係合することにより係止させている。そして、このリテーナには、クッションフレームに設けた引っ掛け片なる下部係止片に係止される爪片を有し、クッションフレームには、トリムカバーの端末内側に固定した前記リテーナの基端を挿入、収納可能な上部係止片を前記下部係止片に対して左右方向に異なる位置に設けている。従って、トリムカバーの端縁に沿って縫着されている長尺状のリテーナに、クッションフレームの下端部が挿入、収容され、そのリテーナの爪片が、クッションフレームの下部係止片に係止され、リテーナの基端がクッションフレームの上部係止片に挿入、収納されて、トリムカバーの端末がクッションフレームに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−119597号公報
【特許文献2】特開2000−189294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来の車両用シートのトリムカバー端末固定構造では、クッションフレームの下部係止片に対して上部係止片が、左右方向に異なった位置に配設されている。そして、着座者の着座に伴う引っ張り荷重の集中しやすいシートクッション前面の左右両端部付近には、その引っ張り荷重に抗しやすいように、通常、下部係止片が設けられている。
ここで、過剰な荷重がシートクッションの着座者面に入力されると、その荷重のもとでトリムカバー端末が上方に引っ張られ、これによりJ字状のリテーナが下部係止片を支点に開く様に引っ張られる。通常、このリテーナの開きは上部係止片によって規制されるが、上部係止片、下部係止片を左右方向で異なる位置に設けた公知の構成においては、開きの支点となる下部係止片上部での開き規制が十分でないため、予期せぬ過度の荷重に対しては、リテーナの外れるおそれが否定できない。
【0005】
そこで、本発明は、シートクッションのトリムカバーに固定されたリテーナを過度の荷重に対してもクッションフレームから外れ難くした車両用シートのトリムカバー端末固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、 クッションフレーム上に載置された発泡体製パッドを被覆したトリムカバーが、その端末内側に基端を固定され内方に突出する爪片を有した断面略J字状のリテーナで、前記クッションフレームの下端部に固定するようにした車両用シートのトリムカバー端末固定構造において、
前記クッションフレームには、前記爪片が挿入される係止孔Aが形成され、前記係止孔Aの上端縁より前記クッションフレームの裏面側に下向きに配置され前記トリムカバーの基端を挿入、収容する舌状の上部係止片と、前記上部係止片の下方に内方且つ上向きに折曲して前記リテーナの爪片が係止する下部係止片とが設けられていることを特徴とする。
【0007】
車両用シートのトリムカバー端末固定構造に利用されるクッションフレームは、クッ
ションフレームの下端部から裏側にリテーナを回り込ませるようにしてクッションフレ
ームに装着させ、クッションフレームの下部係止片に前記リテーナの爪片を係止すると
共にクッションフレームの上部係止片に、リテーナの基端を挿入、収容する。これによ
って、トリムカバーの端末をクッションフレームに固定させることができる。
従って、過剰な荷重がシートクッションの着座者面に入力されると、その荷重のも
とでトリムカバー端末が上方に引っ張られ、これによりJ字状のリテーナが下部係
止片を支点に開く様に引っ張られるが、上部係止片と下部係止片とが上下且つ近
接されているので、リテーナの開きの支点となる下部係止片上部でのリテーナの開
き規制を充分行える。そのため、予期せぬトリムカバーに対する過度の荷重に対して
、リテーナがクッションフレームから外れるおそれがない。
【0008】
また、前記係止孔Aの上下には、舌状の上部係止片と、下部係止片とが各々内方に向けて設けられているので、係止孔A、上部係止片、下部係止片のプレス加工が容易になる。
【0009】
また、 前記クッションフレームに設けられた前側フレーム部の少なくとも左右両側に、前記舌状の上部係止片と下部係止片とを上下に有する係止孔A、また、この係止孔A,A間の前側フレーム部に、この係止孔Aに対して別個の前記下部係止片付きの係止孔Bとが形成されていると好適である。
これによって、リテーナが外れ易い前側フレーム部の湾曲状の左右両側から、リテーナが外れ難くなり、前記下部係止片付きの係止孔Bには、舌状の上部係止片が形成されていないため、リテーナのクッションフレームに対する取り付けが容易になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シートクッションのトリムカバーに固定されたリテーナがクッションフレームから外れ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る車両用シートのトリムカバー端末固定構造を適用したシートフレームの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】車両用シートを示す斜視図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】トリムカバーに縫着されたリテーナの斜視図である。
【図5】係止孔A部分を示す正面図である。
【図6】図5のB−B線に沿う断面図である。
【図7】係止孔Bにリテーナが装着された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る車両用シートのトリムカバー端末固定構造の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1及び図2に示すように、シートフレーム1は、傾動自在なバックフレーム2を有し、このバックフレーム2には、パッドの表面にトリムカバーが装着されたシートバックSBが固定されている。
【0014】
このバックフレーム2の下端は、回転軸3を介してクッションフレーム4に傾倒自在に取り付けられている。クッションフレーム4には、発泡体製のパッド6をトリムカバー7で被覆してシートクッションSCが形成されている。図1に示すクッションフレーム4は板金でコ字状に形成され、その前側である前側フレーム部12は起立状の前面板12aより構成されている。
【0015】
図4に示すように、シートクッションSCのトリムカバー7の端末7aには、可撓性の樹脂材により形成された断面略J字状で、長尺状のリテーナ10の基端10dがトリムカバー7の端末7aに沿って縫着されている。
【0016】
このリテーナ10は、従来周知の構造のもので、例えば,特開2000−189294号に開示されているもので、トリムカバー7の端末7aの裏面側である内側に基端10dを縫着により固定される本体部10aと、本体部10aの内側から突出する爪片10bと、本体部10aと一体で爪片10bに向かって折り返された湾曲部10cとを有している。

【0017】
また、図1、図5及び図6に示すように、着座者の着座に伴う引っ張り荷重の集中しやすい前記クッションフレーム4の前側フレーム部12における前面板12aの左右,及び中央には、リテーナ10の爪片10bが挿入される係止孔A13,13,13が形成されている。
【0018】
この各係止孔A13の上下には、上部係止片14と、下部係止片15とが設けられている。
上部係止片14は係止孔A13の上端縁13aより前記前側フレーム部12における前面板12aの裏面側に下向きに配置され前記トリムカバー7の基端7aを挿入、収容する舌状に形成されている。
【0019】
図示する下部係止片15は、前面板12aの下端部12bより係止孔A13の下端縁方向に向けて且つ前面板12aの裏面側から上端が離れる傾斜するように、段部13c,13cによって形成されている。この下部係止片15は係止孔A13の下端縁13 より内側に上向きに折曲するように延設したものでもよい。即ち、前記リテーナ10の爪片10bが係止できればその形状は図示するに限定されるものでない。
【0020】
以上の上部係止片14の左右の両端は開放され、上部係止片14と前面板12aの裏面との間に下からリテーナ10の基端10d及び本体部10aの上部を挿入して、収容することができる。従って、リテーナ10の本体部10aの上部は、上部係止片14と前面板12aの裏面との間に介在することができ、これによって、リテーナ10の上方への移動を規制することができる。
【0021】
また、以上の上部係止片14の下方に形成された下部係止片15の左右の両端は開放され、リテーナ10の本体部10aを以上の上部係止片14に挿入することによって、リテーナ10の爪片10bが下部係止片15に係止することができる。これによって、リテーナ10の下方への移動を規制することができる。
このような構成の係止孔A13、上部係止片14、下部係止片15を形成するにあたって、前面板12aの下部を前面板12aの裏側に向かって押し込むようにプレス加工することにより、上部係止片14などを同時に成形することができ、プレスの加工性を向上させることができる。
【0022】
なお、前面板12aの下端部12bに、リテーナ10の湾曲部10cが係合する共にリテーナ10の爪片10bを下部係止片15に係止することにより、前面板12aの下端部12bを上下方向に挟み、リテーナ10の上下方向の移動を、また、リテーナ10の湾曲部10cの先端とリテーナ10の爪片10bとで前面板12aの内、外面を挟むことで、リテーナ10の前後方向の移動を夫々規制している。これによって、リテーナ10が縫着されているトリムカバー7の端末7aは、クッションフレーム4に固定させることができ、リテーナ10の外れを防止することができる。
【0023】
このように、車両用シートのトリムカバー端末固定構造に利用されるリテーナ10は、トリムカバー7の端末7aの内面側に固定されているため、前面板12aの下端部12b側から内側に回り込ませるようにして前面板12aの内側に沿って装着させることができ、これによって、トリムカバー7に張力を加えた状態で、トリムカバー7を前面板12aに固定させることができる。
【0024】
そして、係止孔A13の上下には、上部係止片14と下部係止片15とが設けられているため、予期せぬ過度の荷重がトリムカバー7にかかると、リテーナ10全体に下方の力が入力され、下部係止片15の上部を回転支点に、リテーナ10の爪片10bに下部係止片15から脱出方向に回転しようとする力が作用するが、下部係止片15の上方に配置されている上部係止片14 に、リテーナ10の基端10b側が支持されているため、下部係止片15に対するリテーナ10の爪片10bの係止状態を保持できる。これによって、リテーナ10の爪片10bの下部係止片15の上部での開きを規制することができ、クッションフレーム4に固定させたリテーナ10の外れを防止することができる。
【0025】
図1及び図7に示すように、上部係止片14が付与された係止孔A13,13,13の間には、前記上部係止片14が付与されていない係止孔B23、23が設けられている。即ち、各係止孔B23の下方には、前記下部係止片15と同一の形状の下部係止片15Aが設けられ、この下部係止片15Aに、前記上部係止片14に係止めされるリテーナ20の爪片10bが係止される。従って、係止孔B23には上部係止片14が無いので、リテーナ20の爪片10bを係止孔B23内に容易に係止させることができ、トリムカバー7の端末7aの固定作業の効率が向上する。
【0026】
本発明は、前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、前述した上部係止片14が付与された係止孔A13は、クッションフレーム4の前側フレーム部12に限らず、サイドフレーム部16(図1参照)に採用してもよい。
【符号の説明】
【0027】
4…クッションフレーム、6…パッド、7…トリムカバー、10…リテーナ、10a…リテーナの本体部、10b…リテーナの爪片、10c…リテーナの湾曲部、10d…リテーナの縫着部、12…前側フレーム部、12a…前面板、12b…前面板の下端部、13…係止孔A、 23…係止孔B、14…上部係止片、15,15A…下部係止片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッションフレーム上に載置された発泡体製パッドを被覆したトリムカバーが、その端末内側に基端を固定され内方に突出する爪片を有した断面略J字状のリテーナで、前記クッションフレームの下端部に固定するようにした車両用シートのトリムカバー端末固定構造において、
前記クッションフレームには、前記爪片が挿入される係止孔Aが形成され、この係止孔の上端縁より前記クッションフレームの裏面側に下向きに配置され前記トリムカバーの基端を挿入、収容する舌状の上部係止片と、前記上部係止片の下方に内方且つ上向きに折曲して前記リテーナの爪片が係止する下部係止片とが設けられていることを特徴とする車両用シートのトリムカバー端末固定構造。
【請求項2】
前記クッションフレームに設けられた前側フレーム部の少なくとも左右両側に、前記舌状の上部係止片と下部係止片とを上下に有する係止孔Aが設けられ、この係止孔A,A間の前側フレーム部に、前記係止孔Aに対して別個で前記下部係止片付きの係止孔Bとが形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用シートのトリムカバー端末固定構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−125505(P2012−125505A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281971(P2010−281971)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000133098)株式会社タチエス (454)