説明

車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置

【課題】車両用のシートにおける可動部の耐久試験を、作業者の手作業によることなく自動的に行うことができて、省力化、試験時間の短縮及び試験結果の適正化を図ることができる車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置を提供する。
【解決手段】車両用のシートの可動部及びその関連部分の耐久性を試験するための車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置において、シート61をロック状態から解除するためのロック解除機構21を設ける。シート61をロック解除状態において起立状態と倒伏状態とに繰り返し移動させるための起伏動作付与機構22を設ける。ロック解除機構21によるシート61のロック解除動作と、起伏動作付与機構22によるシート61の起伏動作とを繰り返し行って、シート61の耐久性を試験する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両の製造過程において、車両用のシートの可動部及びその関連部分の耐久性を試験するための車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両において、例えば車室内の後部に配置される補助シートの可動部及びその可動部と関連する部分の耐久試験を行う場合には、以下に示すような方法が採られていた。すなわち、図10(a)に実線で示すように、車両のアンダーボディ60上にシート61が組み付けられた状態において、シート61の腰掛部61a上に背もたれ部61bが折り畳まれた状態にする。次に、シート61の下側部の解除レバー62を手作業で作動させて、シート61をロック機構(図示しない)によるロック状態から解除させる。続いて、図10(b)に示すように、シート61の腰掛部61a及び背もたれ部61bを、手作業により、ヒンジ(図示しない)を中心にして倒伏状態から車室内側部への起立状態に回動させる。その後、同シート61の腰掛部61a及び背もたれ部61bを手作業により、前記ヒンジを中心にして図10(b)に実線で示す起立状態から鎖線で示す倒伏状態に回動させて、前記ロック機構により、その倒伏状態にロックさせる。
【0003】
そして、このシート61のロック解除動作と、シート61の倒伏状態と起立状態との間の起伏動作とを、例えば数千回程度の多数回繰り返し行うことにより、シート61のヒンジなど可動部、ロック機構等や、その関連部分に不具合が発生しないか否かを確認する試験を行っていた。
【0004】
しかしながら、この従来の車両用シートの耐久試験方法においては、前記のように、シート61のロック解除動作及びシート61の起伏動作を、作業者が手作業にて多数回繰り返し行っているため、作業が面倒で多大な労力と作業時間を要するという問題があった。また、作業の進行に伴って作業者の疲労が大きくなって、シート61の起伏動作等の動作速度が次第に低下するばかりでなく、試験担当の作業者の個人差によって動作速度や加えられる力が異なるため、適正な試験結果を得ることが困難であるという問題もあった。
【0005】
一方、供試体に荷重負荷を加えて荷重試験を行う荷重負荷試験方法としては、例えば特許文献1に開示されるような方法も従来から提案されている。この従来方法においては、駆動装置に制御波形を入力して、その駆動装置により供試体に対して目標波形で荷重負荷を加えるようにしている。この結果、供試体を繰り返し加振することなく、供試体に目標波形で適正に荷重負荷を加えることができるとしている。
【特許文献1】特開2002−62230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、前記特許文献1に記載の従来方法は、供試体の荷重負荷試験方法に関するものであるため、シートの可動部及びその可動部と関連する部分の耐久試験においてこの従来方法を適用することはできない。
【0007】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、車両用のシートの耐久試験を、作業者の手作業によることなく自動的に行うことができる車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明おいては、車両用のシートの可動部及びその関連部分の耐久性を試験するための車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置において、前記シートをロック状態から解除するためのロック解除手段と、前記シートを起立状態と倒伏状態とに繰り返し移動させるための起伏動作付与手段とを備えたことを特徴としている。なお、ここでシート取付部は、シート取付用のヒンジやその周辺機構を含む。
【0009】
従って、この発明の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置においては、ロック解除手段によるシートのロック解除動作と、起伏動作付与手段によるシートの起立状態と倒伏状態との間の起伏動作とが多数回繰り返し行われて、シートの耐久試験が自動的に行われる。よって、作業者がシートのロック解除動作及び起伏動作を手作業にて多数回繰り返して行う必要がなくて、省力化を図ることができるとともに、耐久試験に要する時間を短縮することができる。
【0010】
しかも、シートのロック解除動作及び起伏動作が自動的に行われるため、作業者が手作業で行う場合のように、作業の進行に伴って作業者の疲労が大きくなって、シートの起伏動作等の動作速度が次第に低下したり、試験担当の作業者の個人差によって動作速度が変化したりするおそれがない。よって、耐久試験の結果にバラツキが発生することを抑制することができて、適正な試験結果を得ることができる。
【0011】
また、前記の構成において、前記ロック解除手段は、解除駆動手段により動作されるロック解除片を備え、そのロック解除片の位置を調節可能にするとよい。このように構成した場合には、耐久試験を行う車両の車種や試験対象のシートの変更によって、シート側の解除レバー等のロック解除部の位置が異なった場合でも、そのロック解除部と対応するようにロック解除片の位置を容易に調節することができる。
【0012】
さらに、前記の構成において、前記起伏動作付与手段は、起伏駆動手段により垂直面内において旋回される旋回部材を備え、その旋回部材にはシートに連結される連結部を設け、旋回部材が旋回されることにより前記連結部を介してシートが起伏動作されるように構成するとよい。このように構成した場合には、旋回部材の垂直面内での旋回により、作業者の手作業による腕の動きとほぼ同様に、シートを起立状態と倒伏状態との間で円滑に起伏動作させることができる。
【0013】
さらに、前記の構成において、前記起伏動作付与手段は、前記連結部の高さを調節するための高さ位置調節機構を備えるとよい。このように構成した場合には、耐久試験を行う車両の車種や試験対象のシートの変更によって、シートの高さ位置が異なった場合でも、シートに連結される連結部の高さをシートの高さ位置に応じて適切に調節設定することができる。
【0014】
さらに、前記の構成において、前記起伏動作付与手段は、前記連結部の旋回範囲を調節するための旋回範囲調節機構を備えるとよい。このように構成した場合には、車種や試験対象のシートの変更によって、シートの起立状態と倒伏状態との間の起伏角度等が異なった場合でも、連結部の旋回範囲をシートの起伏角度等に応じて適切に調節することができる。
【0015】
さらに、前記の構成において、前記起伏動作付与手段は、前記連結部の水平方向の位置を調節するための水平位置調節機構を備えるとよい。このように構成した場合には、車種や試験対象のシートの変更によって、シートの横幅が異なった場合でも、シートに連結される連結部の水平方向の位置をシートの横幅に応じて適切に調節することができる。
【0016】
しかも、前記とは別の発明においては、車両用のシートの可動部及びその関連部分の耐久性を試験するための車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置において、第1フレームには第1シリンダを支持するとともに、その第1シリンダのピストンロッドの先端部には、前記シートのロック解除部に係合可能なロック解除片を設けて、前記第1シリンダの作動によりシートをロック状態から解除させるように構成し、前記第1フレームと第1シリンダとの間には、前記ロック解除片の位置を調節するための位置調節部を設け、第2フレームには旋回アームを垂直面内において旋回可能に支持し、その旋回アームの第1端部には第2シリンダのピストンロッドを接続するとともに、旋回アームの第2端部にはシートに連結される連結部を設けて、前記第2シリンダの作動により前記連結部を介して、車両用シートを起立状態と倒伏状態との間で起伏動作させるように構成し、前記第2フレームと連結部との間には、連結部の高さを調節するための高さ調節部を設けたことを特徴としている。
【0017】
従って、この発明の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置においては、第1シリンダにてロック解除片が作動されることにより、そのロック解除片がシートのロック解除部に係合されて、シートがロック状態から解除される。また、このシートのロック解除状態において、第2シリンダにて旋回アームが旋回されることにより、連結部を介してシートが起立状態と倒伏状態との間で起伏動作される。そして、このシートのロック解除動作と起伏動作とが多数回繰り返し行われることにより、シートの耐久試験が自動的に行われる。よって、この繰り返し動作を作業者が手作業で行っていた従来方法の場合と比較して、省力化を図ることができるとともに、試験時間を短縮することができる。また、繰り返し動作が自動的に行われるため、作業者の疲労の蓄積により動作速度が低下したり、担当作業者の個人差により動作速度が変化したりするおそれがなく、適正な試験結果を得ることができる。
【0018】
さらに、ロック解除片の位置が調節可能であるため、耐久試験を行う車両の車種や試験対象のシートの変更によって、シート側のロック解除部の位置が異なった場合でも、そのロック解除部と対応するようにロック解除片の位置を容易に調節することができる。しかも、旋回アームが垂直面内において旋回されるように構成されているため、その旋回アームの旋回により、作業者の手作業による腕の動きとほぼ同様に、シートを円滑に起伏動作させることができる。その上に、シートに連結される連結部の高さが調節可能であるため、車種や試験対象のシートの変更によって、シートの高さ位置が異なった場合でも、連結部の高さをシートの高さ位置に応じて容易に調節設定することができる。
【0019】
さらに、前記の構成において、前記高さ調節部は、前記第2フレームに上下方向へ延びるように設けられた案内部と、その案内部に昇降可能に案内され、前記旋回アームを旋回可能に支持する昇降体と、その昇降体を上下方向に移動調節するとともに、移動された位置において固定するための操作部とを備えるとよい。このように構成した場合には、操作部にて昇降体を上下方向に移動調節して所定位置に固定することにより、旋回アームの旋回中心位置が変更されて、その旋回アーム上の連結部の高さが調節される。よって、操作部の操作により、連結部の高さを適切に調節することができる。
【0020】
さらに、前記の構成において、前記旋回アームの第1端部と第2シリンダのピストンロッドとの間には、第1端部に対するピストンロッドの接続位置を旋回アームの長さ方向において調節するための調節部を設けるとよい。このように構成した場合には、旋回アームの第1端部に対するピストンロッドの接続位置を調節することにより、旋回アームの旋回角度が変更されて、旋回アーム上の連結部の旋回範囲を調節することができる。よって、車種や試験対象のシートの変更に伴って、シートの起立状態と倒伏状態との間の起伏角度等が異なった場合でも、連結部の旋回範囲をシートの起伏角度等に応じて適切に調節することができる。
【0021】
さらに、前記の構成において、前記旋回アームの第2端部に水平方向へ延びるバーを設けるとともに、そのバーには前記連結部を設け、バーと第2端部との間には、そのバーの位置を旋回アームの長さ方向に調節するための調節部を設けるとともに、バーと連結部との間には連結部の位置をバーの長さ方向に調節するための調節部を設けるとよい。このように構成した場合には、旋回アームの第2端部に対するバーの取付位置を調節するとともに、そのバーに対する連結部の取付位置を調節することにより、連結部の水平方向の位置や旋回範囲を変更することができる。よって、車種や試験対象のシートの変更に伴って、シートの横幅が異なった場合でも、連結部の水平方向の位置や旋回範囲をシートの横幅に応じて調節することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、この発明によれば、車両用のシートの耐久試験を、作業者の手作業によることなく自動的に行うことができて、省力化、試験時間の短縮及び試験結果の適正化を図ることができるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、この発明の一実施形態を、図1〜図9に基づいて説明する。なお、この実施形態では、説明の便宜上、図10に示すように、車室内の後部に配置される補助シートにおいて、シート61の腰掛部61a上に背もたれ部61bを折り畳んだ状態で、その腰掛部61a及び背もたれ部61bを繰り返し起伏動作させて、耐久試験を行う場合について説明する。
【0024】
図1に示すように、この実施形態の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置においては、ロック解除手段としてのロック解除機構21と、起伏動作付与手段としての起伏動作付与機構22とが装備されている。ロック解除機構21は、試験対象のシート61の下側部に設けられたロック解除部としてのロック解除レバー62に対応して設置され、そのロック解除レバー62を作動させることにより、シート61のロック機構(図示しない)をロック状態から解除する。起伏動作付与機構22は、腰掛部61a上に背もたれ部61bを折り畳んだ状態のシート61に対応して設置され、そのシート61をロック解除状態において、起立状態と倒伏状態とに繰り返し起伏動作させる。そして、このシート61のロック解除動作と、シート61の起伏動作とを、例えば数千回程度の多数回繰り返し行うことにより、可動部としてのシート61及びその関連部分としてのヒンジ63を含む取付部に不具合が発生しないか否かを確認する耐久試験が行われる。
【0025】
そこで、前記ロック解除機構21について詳細に説明する。
図2及び図3に示すように、車両のアンダーボディ60上に組み付けられたシート61の側部近傍において、作業所の床面上に設置された定盤B上には正面形ほぼL字状の第1フレーム25が複数のボルト26により、シート61と接近離間する方向へ位置調節可能に取り付けられる。第1フレーム25の側面には、支持板27が傾斜状態で一対のシャコ万力等のクランプ28により、取付高さ位置及び取付角度の調節可能に取り付けられている。なお、前記アンダーボディ60は、シート61を支持する部分のみが切り出されたカットパーツである。
【0026】
前記支持板27の上端側面には、ロック解除片29が支持板27上のガイドレール27aに沿って長手方向へ移動可能に支持されている。このロック解除片29は、ガイドレール27aにてガイドされる平板部29aと、その平板部29aの上方に突設された棒状の係合部29bとから構成されている。そして、シート61の下側部に設けられたロック解除部としてのロック解除レバー62の先端部には延長パイプ62aが嵌着され、ロック解除片29の係合部29bがこの延長パイプ62aと係合可能に対応配置される。
【0027】
前記支持板27の下端側面にはエアシリンダよりなる解除駆動手段としての第1シリンダ30が取り付けられ、その第1シリンダ30のピストンロッド30aの先端部には前記ロック解除片29の平板部29aが連結されている。そして、第1シリンダ30の引き込み動作にてロック解除片29が図2及び図3の左方向に移動されることにより、シート61側のロック解除レバー62が延長パイプ62aを介して作動されて、シート61が倒伏位置におけるロック状態から解除される。
【0028】
また、この第1の実施形態においては、前記支持板27により第1フレーム25と第1シリンダ30との間の位置調節部が構成されている。そして、第1フレーム25に対する支持板27の取付高さ位置及び取付角度を変更することにより、ロック解除片29の位置を調節して、そのロック解除片29の係合部29bを異なる種類のシートであっても、シート61側のロック解除レバー62上の延長パイプ62aと係合可能に対応配置できるようになっている。
【0029】
次に、前記起伏動作付与機構22について詳細に説明する。
図1、図4及び図5に示すように、車両のアンダーボディ60上に組み付けられたシート61の後側近傍において、作業所の床面等よりなる基台33上には四角枠状の第2フレーム34が設置されている。第2フレーム34の前面中央には、一対の案内部としてのガイドレール34aが上下方向へ平行に延びるように設けられている。第2フレーム34の前面には、昇降体35がガイドレール34aに沿って昇降可能に支持されている。
【0030】
前記第2フレーム34内には、ネジ軸36が上下方向に延びる軸線上で回転可能に支持されている。昇降体35の後部には、ネジ軸36に螺合するナット37が設けられている。第2フレーム34の後面には軸受部38が突設され、その軸受部38には操作部としての操作ハンドル39が操作軸40を介して、前後方向に延びる軸線上で回転可能に支持されている。操作軸40の先端部及びネジ軸36の上端部には、互いに噛合する傘歯車41,42が固定されている。軸受部38には固定ネジ43が回転操作可能に取り付けられている。そして、操作ハンドル39の回転操作にてネジ軸36が回転されることにより、ナット37を介して昇降体35が上下方向に移動調節される。この状態で、固定ネジ43を締め付けて操作軸40の回転を規制することにより、昇降体35が移動調節位置に固定される。
【0031】
前記昇降体35の前面には、旋回部材としての旋回アーム44がその長さ方向の中間部において支軸45により垂直面内で旋回可能に支持されている。第2フレーム34の側部近傍において、基台33上にはブラケット46が複数のボルト47により、第2フレーム34と接近離間する方向へ位置調節可能に固定されている。ブラケット46にはエアシリンダよりなる起伏駆動手段としての第2シリンダ48が支軸49を介して回動可能に支持され、その第2シリンダ48のピストンロッド48aが接続板50を介して旋回アーム44の第1端部44aに接続されている。この接続板50は、複数のボルト51により旋回アーム44の第1端部44aに対して旋回アーム44の長さ方向へ位置調節可能に取り付けられている。
【0032】
図4に示すように、前記第2シリンダの基端部には、作動速度調整器48bが設けられている。そして、この作動速度調整器48bを調整することにより、第2シリンダに対するエアの流量が変更されて、ピストンロッド48aの作動速度,すなわち伸縮速度が調整される。この調整により、旋回アーム44の旋回速度を適宜に設定することができる。
【0033】
前記旋回アーム44の第2端部44bには、水平方向に延びるバー52が複数のボルト53により旋回アーム44の長さ方向へ位置調節可能に取り付けられている。バー52の先端部には、シート61に対する連結部としての起伏動作付与部材54が複数のボルト55によりバー52の長さ方向へ位置調節可能に取り付けられている。この起伏動作付与部材54は、シート61の背もたれ部61bの背面に被覆固定された当板64に当接可能な押圧ローラ54aと、シート61の一部に連結(結着)される引き上げ紐54bとから構成されている。
【0034】
そして、前記第2シリンダ48の突出動作により、旋回アーム44が図4に実線で示す位置から反時計方向に旋回されたときには、起伏動作付与部材54の押圧ローラ54aが当板64を介してシート61に当接されて、シート61がヒンジ63を中心にして、図6(a)に示す起立状態から図6(b)に示す倒伏状態に回動される。これに対して、第2シリンダ48の引き込み動作により、旋回アーム44が図4に鎖線で示す位置から時計方向に旋回されたときには、起伏動作付与部材54の引き上げ紐54bを介してシート61が引き上げられ、そのシート61がヒンジ63を中心にして、図6(b)に示す倒伏状態から図6(a)に示す起立状態に回動される。
【0035】
なお、この実施形態においては、前記昇降体35、ネジ軸36及び操作ハンドル39等を含む高さ調節部により、起伏動作付与部材54の高さを調節するための高さ位置調節機構M1が構成されている。また、旋回アーム44の第1端部44aに対する接続板50の位置調節部により、起伏動作付与部材54の旋回範囲を調節するための旋回範囲調節機構M2が構成されている。さらに、バー52の先端部に対する起伏動作付与部材54の位置調節部により、起伏動作付与部材54の水平方向の位置を調節するための水平位置調節機構M3が構成されている。
【0036】
次に、前記のように構成された車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置の動作を説明する。
さて、この車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置において、図10に示すように、車室内の後部に配置される補助シートの耐久試験を行う場合には、図1に示すように、アンダーボディ60上のシート61の背もたれ部61bを、腰掛部61a上に折り畳む。そして、背もたれ部61bの背面には、金属やベニヤ板等の剛性のある当板64を被覆状態で固定する。それとともに、シート61の下側部に設けられたロック解除レバー62の先端部には、延長パイプ62aを嵌着する。
【0037】
この状態で、図1に示すように、シート61のロック解除レバー62に対応して、作業所の床面の定盤上にロック解除機構21を設置する。この場合、クランプ28を弛緩させて、第1フレーム25に対する支持板27の取付高さ位置及び取付角度を調整する。すなわち、ロック解除機構21のロック解除片29の高さ位置及び作動方向を、シート61側のロック解除レバー62の高さ位置及び解除動作方向に合わせて調整する。
【0038】
さらに、図1に示すように、折り畳み状態のシート61に対応して、アンダーボディ60の後側における作業所の床面上に起伏動作付与機構22を設置する。そして、起伏動作付与部材54の押圧ローラ54aをシート61の背もたれ部61b上の当板64に当接可能に対応させるとともに、引き上げ紐54bをシート61の一部に連結する。この場合、図7(a)及び(b)に示すように、試験対象のシート61の高さ位置が例えば前回の試験対象のシート61に対して高低差Hがあるときには、高さ位置調節機構M1の操作ハンドル39の回転操作により、ネジ軸36及びナット37を介して昇降体35を昇降させて、旋回アーム44の旋回中心位置を上下方向に変更する。この変更により、起伏動作付与部材54の高さ位置をシート61の高さ位置に合わせて調節することができる。
【0039】
また、試験対象のシート61が変更されたりして、そのシート61の起立状態と倒伏状態との間の起伏範囲等が変化したときには、図8(a)及び(b)に示すように、旋回範囲調節機構M2において、旋回アーム44の第1端部44aに対する接続板50の取付位置を旋回アーム44の長さ方向に調節する。それとともに、旋回アーム44の第2端部44bに対するバー52の取付板を旋回アーム44の長さ方向に調節する。これらの調節により、第2シリンダ48の作動に伴う旋回アーム44の旋回角度θ1,θ2、及びバー52上の起伏動作付与部材54の旋回半径R1,R2を変更して、その起伏動作付与部材54の旋回範囲をシート61の起伏範囲等に合わせて調節する。
【0040】
さらに、試験対象のシート61の横幅や当板64の左右位置が異なるときには、図9(a)及び(b)に示すように、水平位置調節機構M3において、バー52に対する起伏動作付与部材54の取付位置をバー52の長さ方向に調節する。この調節により、旋回アーム44から起伏動作付与部材54までの水平方向間隔L1,L2を変更して、起伏動作付与部材54の水平方向の位置をシート61の横幅や当板64の左右位置に合わせて調節する。
【0041】
このように、シート61の位置や状態に応じて各調節機構M1〜M3を調節した後、耐久試験装置の運転が開始されると、まず、ロック解除機構21の第1シリンダ30が引き込み動作されて、ロック解除片29が図2及び図3の左方向に移動される。このため、シート61のロック解除レバー62が延長パイプ62aを介して作動されて、ロック機構がロック解除状態になり、従って、シート61が倒伏位置におけるロック状態から解除される。
【0042】
続いて、起伏動作付与機構22の第2シリンダ48が引き込み動作されて、旋回アーム44が図6(b)に示す位置から時計方向に旋回される。この旋回により、シート61が起伏動作付与部材54の引き上げ紐54bを介して引き上げられて、図6(b)に示す倒伏状態から図6(a)に示す起立状態に回動される。その後、第2シリンダ48が突出動作されて、旋回アーム44が図6(a)に示す位置から反時計方向に旋回される。この旋回により、シート61が起伏動作付与部材54の押圧ローラ54aを介して、図6(a)に示す起立状態から図6(b)に示す倒伏状態に回動されて、ロック機構によりその倒伏状態にロックされる。
【0043】
そして、このロック解除機構21によるシート61のロック解除動作と、起伏動作付与機構22によるシート61の倒伏状態と起立状態との間の起伏動作とが、例えば数千回程度の多数回繰り返して行われる。このようにして、可動部としてのシート61及びその関連部分としてのヒンジ63を含む取付部に不具合が発生しないか否かの試験が行われる。
【0044】
以上のようにして、車室内の後部に配置される補助シート61を繰り返し起伏動作させて、耐久試験を行ことができる。そして、同様にして、運転席や助手席の背もたれ部を繰り返し起伏させたり、ラッゲージルームを広げるために起立状態で退避できるようにした後部座席を繰り返し起伏させたりして、それらの可動部及び関連部分の耐久性を確認することができる。
【0045】
この場合には、試験対象(背もたれ部等)が組み付けられたカットパーツを起伏動作付与機構22に対応して設置し、起伏動作付与機構22の旋回アーム44の押圧ローラ54aを試験対象の当板64と対向させるとともに、引き上げ紐54bを試験対象の一部に連結する。また、ロック解除機構21のロック解除片29が試験対象(背もたれ部等)のロック解除レバーと対向するように、支持板27の傾斜状態等を調整した状態のロック解除機構21を定盤B上に設置する。当然、これに先だって、前記旋回アーム44を有する昇降体35の高さ,旋回アーム44の旋回角度θ1,θ2、及びバー52上の起伏動作付与部材54の旋回半径R1,R2及び旋回アーム44上の起伏動作付与部材54の水平方向の位置等を調節する。
【0046】
以上のように構成されたこの実施形態においては、以下の効果がある。
(1)この実施形態の耐久試験装置においては、ロック解除機構21と起伏動作付与機構22とが交互に繰り返し作動されることにより、シート61の耐久試験を自動的に行われる。よって、作業者がシート61のロック解除動作及び起伏動作を手作業で多数回繰り返して行う必要がなくなって、省力化を図ることができるとともに、耐久試験に要する時間を短縮することができる。
【0047】
(2) また、シート61のロック解除動作及び起伏動作が自動的に行われるため、作業者が手作業で行う場合のように、作業の進行に伴って疲労が蓄積して、シート61の起伏動作速度が低下したり、試験担当の作業者の個人差によって動作速度が変化したりするおそれがない。よって、耐久試験の結果にバラツキが発生することを抑制することができて、適正な試験結果を得ることができる。
【0048】
(3) さらに、この実施形態の耐久試験装置においては、ロック解除機構21のロック解除片29の位置が調節可能になっている。このため、耐久試験を行う車両の車種や試験対象のシートの変更によって、シート61側のロック解除レバー62の位置が異なった場合でも、そのロック解除レバー62部と対応するように、ロック解除片29の位置を容易に調節することができる。
【0049】
(4) しかも、この実施形態の耐久試験装置においては、起伏動作付与機構22の起伏動作付与部材54が、垂直面内で旋回可能な旋回アーム44の端部に水平方向へ延びるバー52を介して取り付けられ、第2シリンダ48にて旋回アーム44が旋回されることにより、起伏動作付与部材54を介してシート61が起伏動作されるように構成されている。このため、旋回アーム44の垂直面内での旋回により、作業者の手作業による腕の動きとほぼ同様に、シート61を起立状態と倒伏状態との間で円滑に起伏動作させることができる。
【0050】
(5) その上に、この実施形態の耐久試験装置においては、起伏動作付与機構22の起伏動作付与部材54の高さ位置、旋回範囲及び水平方向位置を調節するための高さ位置調節機構M1、旋回範囲調節機構M2及び水平位置調節機構M3が設けられている。このため、耐久試験を行う車両の車種や試験対象のシートの変更によって、シート61の高さ位置、旋回範囲あるいは横幅が異なった場合でも、そのシート61の位置や状態に応じて、起伏動作付与部材54の位置や旋回範囲を容易に調節設定することができる。
【0051】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記実施形態において、シート61をロック状態から解除するためのロック解除機構21の構成を任意に変更すること。例えば、支持板27を第1フレーム25に対して軸により回動可能に支持すること。
【0052】
・ 前記実施形態において、シート61を起伏駆動させるための起伏動作付与機構22の構成を任意に変更すること。例えば、引き上げ紐54bの代わりに押圧ローラを設けて、一対の押圧ローラにより試験対象を起伏できるようにしたり、押圧ローラ54aの代わりに引き上げ紐を設けて、一対の引き上げ紐により試験対象を起伏できるようにしたりすること。なお、引き上げ紐を一対にした場合には、一方の引き上げ紐は、試験対象を引き下げることになる。また、押圧ローラを一対にした場合には、試験対象に両押圧ローラに対応する一対の当板を設ける必要がある。
【0053】
・ ロック解除機構21を起伏動作付与機構22の第2フレーム34に搭載すること。
・ ロック解除機構21及び起伏動作付与機構22を片持梁の先端部に搭載し、その片持梁をロック解除機構21及び起伏動作付与機構22が試験対象と対向されるようにカットパーツではない実際の車両内に進入させて、その車両内において耐久試験を実行できるように構成すること。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】一実施形態の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置を示す斜視図。
【図2】図1の耐久試験装置におけるロック解除機構を拡大して示す側面図。
【図3】図2のロック解除機構の平面図。
【図4】図1の耐久試験装置における起伏動作付与機構を拡大して示す正面図。
【図5】図4の起伏動作付与機構の側面図。
【図6】(a)及び(b)は起伏動作付与機構の動作状態を示す概略正面図。
【図7】(a)及び(b)は起伏動作付与機構における連結部の異なった高さの調節状態を示す概略正面図。
【図8】(a)及び(b)は起伏動作付与機構における連結部の異なった旋回範囲の調節状態を示す概略正面図。
【図9】(a)及び(b)は起伏動作付与機構における連結部の異なった水平方向位置の調節状態を示す概略正面図。
【図10】(a)及び(b)は従来の車両用シートの耐久試験方法を示す斜視図。
【符号の説明】
【0055】
21…ロック解除手段としてのロック解除機構、22…起伏動作付与手段としての起伏動作付与機構、25…第1フレーム、27…位置調節部を構成する支持板、28…クランプ、29…ロック解除片、30…解除駆動手段としての第1シリンダ、30a…ピストンロッド、34…第2フレーム、34a…案内部としてのガイドレール、35…高さ位置調節機構を構成する昇降体、36…同機構を構成するネジ軸、39…同機構を構成する操作ハンドル、40…操作軸、43…固定ネジ、44…旋回部材としての旋回アーム、44a…第1端部、44b…第2端部、48…起伏駆動手段としての第2シリンダ、48a…ピストンロッド、50…旋回範囲調節機構を構成する接続板、52…バー、54…水平位置調節機構を構成する連結部としての起伏動作付与部材、54a…押圧ローラ、54b…引き上げ紐、61…シート、61a…腰掛部、61b…背もたれ部、62…ロック解除部としてのロック解除レバー、62a…延長パイプ、M1…高さ位置調節機構、M2…旋回範囲調節機構、M3…水平位置調節機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のシートの可動部及びその関連部分の耐久性を試験するための車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置において、
前記シートをロック状態から解除するためのロック解除手段と、
前記シートを起立状態と倒伏状態とに繰り返し移動させるための起伏動作付与手段と
を備えたことを特徴とする車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項2】
前記ロック解除手段は、解除駆動手段により動作されるロック解除片を備え、そのロック解除片の位置を調節可能にしたことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項3】
前記起伏動作付与手段は、起伏駆動手段により垂直面内において旋回される旋回部材を備え、その旋回部材にはシートに連結される連結部を設け、旋回部材が旋回されることにより前記連結部を介してシートが起伏動作されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項4】
前記起伏動作付与手段は、前記連結部の高さを調節するための高さ位置調節機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項5】
前記起伏動作付与手段は、前記連結部の旋回範囲を調節するための旋回範囲調節機構を備えたことを特徴とする請求項3または4に記載の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項6】
前記起伏動作付与手段は、前記連結部の水平方向の位置を調節するための水平位置調節機構を備えたことを特徴とする請求項3〜5のうちのいずれか一項に記載の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項7】
車両用のシートの可動部及びその関連部分の耐久性を試験するための車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置において、
第1フレームには第1シリンダを支持するとともに、その第1シリンダのピストンロッドの先端部には、前記シートのロック解除部に係合可能なロック解除片を設けて、前記第1シリンダの作動によりシートをロック状態から解除させるように構成し、前記第1フレームと第1シリンダとの間には、前記ロック解除片の位置を調節するための位置調節部を設け、
第2フレームには旋回アームを垂直面内において旋回可能に支持し、その旋回アームの第1端部には第2シリンダのピストンロッドを接続するとともに、旋回アームの第2端部にはシートに連結される連結部を設けて、前記第2シリンダの作動により前記連結部を介して、車両用シートを起立状態と倒伏状態との間で起伏動作させるように構成し、前記第2フレームと連結部との間には、連結部の高さを調節するための高さ調節部を設けた
ことを特徴とする車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項8】
前記高さ調節部は、前記第2フレームに上下方向へ延びるように設けられた案内部と、その案内部に昇降可能に案内され、前記旋回アームを旋回可能に支持する昇降体と、その昇降体を上下方向に移動調節するとともに、移動された位置において固定するための操作部とを備えたことを特徴とする請求項7に記載の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項9】
前記旋回アームの第1端部と第2シリンダのピストンロッドとの間には、第1端部に対するピストンロッドの接続位置を旋回アームの長さ方向において調節するための調節部を設けたことを特徴とする請求項7または8に記載の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。
【請求項10】
前記旋回アームの第2端部に水平方向へ延びるバーを設けるとともに、そのバーには前記連結部を設け、バーと第2端部との間には、そのバーの位置を旋回アームの長さ方向に調節するための調節部を設けるとともに、バーと連結部との間には連結部の位置をバーの長さ方向に調節するための調節部を設けたことを特徴とする請求項7〜9のうちのいずれか一項に記載の車両用シート及びシート取付部の耐久試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−54381(P2010−54381A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220477(P2008−220477)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】