説明

車両用ステアリング装置

【課題】運転者が操舵フィーリングに違和感を持つことなく超軽量車両のステアリングホイール操作を行えるようにする。
【解決手段】ステアリングホイールから入力される回転をラック軸3の軸方向の移動に変換して操舵を行なう車両用ステアリング装置であって、流体が封入される封入空間Sを有すると共にラック軸3が封入空間Sを貫通して軸方向に移動可能に設けられたシリンダ部11と、ラック軸3に固定されて封入空間Sを2つの空間S1、S2に区画すると共に、ラック軸3と共に軸方向に移動して空間S1、S2の容積を変化させるプランジャ14と、を備える流体ダンパ10を設けて、プランジャ14に設けたオリフィス孔16により、区画された2つの空間S1、S2を連通させると共に、オリフィス孔16の内径D2を、封入空間Sの内径D1よりも小さく設定した構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体重量の軽い車両の開発が種々行われており、例えば車体重量が300kg〜500kg程度の超軽量車両と呼ばれるものがある。
この超軽量車両と呼ばれる車両は、普通乗用車や軽自動車に比べて車体重量が非常に軽いため、操舵倍力装置を設ける必要なしにステアリング操作が容易に行えるほど、タイヤ輪荷重が軽くなっている。
そのため、普通乗用車や軽自動車の運転感覚でステアリング操作を行うと、運転者が意図する以上に操舵力が作用して、意図していたものとは異なる操舵挙動を与えることがあり、かかる場合に、運転者が操舵フィーリングに違和感を持つことがあった。
【0003】
また、超軽量車両の場合、操舵倍力装置を備える普通乗用車や軽自動車の場合とは異なり、走行時における路面からの外力(キックバック)が、そのままステアリングホイールに伝達されるため、このことによっても、運転者が操舵フィーリングに違和感を持つことがあった。
【0004】
特許文献1には、ステアリングホイールから入力される回転を、操舵輪のナックルに連結したロッドの軸方向の移動に変換して操舵を行なう超軽量車両のステアリング装置に、ロッドの移動に抗する反力を与える反力付与装置を設けて、操舵フィーリングを普通乗用車や軽自動車に近づけるようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−227179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の場合、ステアリング装置のロッドとは別に設けた反力付与装置により反力を与える構成となっており、反力付与装置を含むステアリング装置全体の大きさが大きくなると共に、構成が複雑になってしまう。
【0007】
よって、より簡単な構成で、運転者が操舵フィーリングに違和感を持つことなく、超軽量車両のステアリング操作を行えるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステアリングホイールから入力される回転を、操舵輪のナックルに連結したロッドの軸方向の移動に変換して操舵を行なう車両用ステアリング装置において、流体が封入される封入空間を有すると共に、ロッドが封入空間を貫通して軸方向に移動可能に設けられたシリンダ部と、ロッドに固定されて、封入空間を軸方向で隣接する2つの空間に区画するプランジャと、区画された2つの空間を連通させると共に、封入空間よりも内径が小さい連通路と、を備える流体ダンパを設けた構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステアリング操作に連動してロッドと共にプランジャが軸方向に移動すると、プランジャの移動方向側の空間内の流体が連通路を通って反対側の空間内に移動する。この際の流体の移動抵抗が、ロッドの軸方向の移動に抗する反力となって作用するので、操舵力が緩衝されて操舵挙動が調整される。
よって、ステアリングホイールの操作がロッドを軸方向に過大に移動させて意図しない操舵挙動となることが好適に防止されるので、運転者が操舵フィーリングに違和感を持つことなく、ステアリング操作を行えるようにすることができる。
また、ロッドに固定されたプランジャを用いて流体ダンパを構成しているので、反力を与えるための機構がより簡単になり、ステアリング装置全体の大きさをコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態にかかる車両用ステアリング装置の一部を切り欠いて示す平面図である。
【図2】図1の流体ダンパの部分の拡大図である。
【図3】第2の実施形態にかかる流体ダンパの拡大図である。
【図4】第3の実施形態にかかる流体ダンパの拡大図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態を、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態にかかる車両用ステアリング装置を、超軽量車両用のステアリング装置に適用した場合を説明する部分切り欠き図であり、(a)は、ラック軸3に取り付けられたプランジャ14が基準位置にある場合を、(b)は、ラック軸3の軸方向の移動によりプランジャ14が基準位置から図中右側に移動した場合を示す図である。
図2の(a)は、図1の(a)の流体ダンパ10の部分を拡大して示す図であり、(b)は、(a)における符号Aで囲った部分の拡大図であって、プランジャ14のラック軸3への固定(かしめ固定)を説明する図である。
【0012】
図1に示すように、実施形態に係る超軽量車両用のステアリング装置1は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置であり、ピニオンシャフト2のピニオン(図示せず)と、ラック軸3のラック(図示せず)とが、ギヤハウジング4内において噛合している。
【0013】
ピニオンシャフト2の上端には、図示しない自在継手を介してステアリングシャフトが接続されており、ステアリングホイール側からピニオンシャフト2に入力される回転(図中符号A参照)は、ラック(図示せず)とピニオン(図示せず)とにより、ラック軸3の軸方向の移動(図中符号B参照)に変換されるようになっている。
【0014】
ラック軸3の両端に固定された連結部5、6には、ステアリングナックル(図示せず)と連結されたタイロッド7が、ボールジョイント8を介して連結されており、ラック軸3の軸方向移動によりステアリングナックルが駆動されて、操舵輪が操舵されるようになっている。
【0015】
ギヤハウジング4は、ラック軸3の長手方向における一方側(連結部5側)に位置しており、ギヤハウジング4の他方側(連結部6側)には、流体ダンパ10が付設されている。
【0016】
図2の(a)に示すように、流体ダンパ10は、ラック軸3に沿って連結部6側に延びる円筒状のシリンダ部11を有している。
シリンダ部11の一端11a側は、ギヤハウジング4の縮径部41に外嵌し、他端11b側は、シリンダエンドケース9の縮径部91に外嵌しており、シリンダ部11は、長手方向における両端11a、11bが、ギヤハウジング4とシリンダエンドケース9とで封止されている。
【0017】
シリンダ部11は、長手方向の全長に亘って同じ内径D1で形成されており、シリンダ部11内の一端11a側と他端11b側には、オイルシール12、13が設けられている。
オイルシール12、13は、シリンダ部11の内周11cに、例えば軽圧入などにより固定されて、軸方向への移動が規制されている。
【0018】
オイルシール12、13は、ギヤハウジング4の縮径部41とシリンダエンドケース9の縮径部91に、それぞれ当接して設けられており、シリンダ部11内のオイルシール12とオイルシール13の間は、高粘性の流体(オイル)が封入される封入空間Sとされている。
ラック軸3は、オイルシール12、13を貫通して設けられており、オイルシール12、13は、ラック軸3を軸方向に摺動可能に支持すると共に、封入空間S内の流体の外部(ギヤハウジング4側およびシリンダエンドケース9側)への漏出を防止している。
【0019】
ラック軸3は、シリンダ部11を一端11aから他端11bに貫通しており、シリンダ部11の一端11aと他端11bを封止するギヤハウジング4とシリンダエンドケース9とで、軸方向に進退移動可能に支持されている。
【0020】
シリンダ部11内において、ラック軸3の軸方向(長手方向)の略中央部には、ラック軸3の軸方向の移動を緩衝するプランジャ14が設けられている。
プランジャ14は、軸方向から見てリング形状を有しており、プランジャ14の外周14aは、シリンダ部11の内周11cに整合する形状を有すると共に、挿通穴14bの内径が、ラック軸3の外周3aに整合する形状を有している。
【0021】
図2の(a)および(b)に示すように、プランジャ14の内径側では、Cリング15が嵌合する凹部14cが、ラック軸3の軸方向における一端側(オイルシール12側)に設けられており、他端側(オイルシール13側)には、軸方向に沿って延びる突部14dが設けられている。
突部14dは、軸方向から見てリング形状を有しており、挿通穴14bを全周に亘って囲むように設けられている。
【0022】
Cリング15は、ラック軸3の外周に全周に亘って設けられた溝部31に嵌合して設けられており、溝部31に嵌合させた状態で、ラック軸3の外周3aよりも径方向外側に突出している。
Cリング15は、溝部31により軸方向の移動が規制されており、図中右側からラック軸3に外挿して取り付けられるプランジャ14の凹部14cに嵌合して、プランジャ14の位置決めが行われるようになっている。
【0023】
ラック軸3の外周3aには、溝部31から図中右方向に所定距離離間した位置に溝部32が設けられており、この溝部32には、プランジャ14の突部14dが、かしめられて挿入されるようになっている。
【0024】
実施の形態では、図2の(b)に示すように、プランジャ14を図中右側からラック軸3に外挿して、Cリング15に当接する位置に配置したのち、突部14dをかしめて溝部32に挿入することで、プランジャ14がラック軸3に対して固定(かしめ固定)されるようになっている。
これにより、プランジャ14は、ステアリングホイールの操作に連動して軸方向に進退移動するラック軸3と共に、シリンダ部11(封入空間S)内を軸方向に移動するようになっている。
【0025】
シリンダ部11内の封入空間Sは、プランジャ14を境に二つの空間S1、S2に区画されており、プランジャ14がラック軸3と共に軸方向に移動すると、空間S1、S2の容積が変化するようになっている。
プランジャ14には、軸方向に貫通するオリフィス孔16が設けられており、これら二つの空間S1、S2は、プランジャ14に形成したオリフィス孔16を介してのみ連通している。
そのため、例えばステアリングホイールの操作に連動してプランジャ14が図中右方向に移動する場合、空間S2内の流体がオリフィス孔16を通って空間S1に移動することで、ラック軸3と共にプランジャ14が移動できるようになっている。
【0026】
実施の形態では、オリフィス孔16の内径(流路断面積)D2は、シリンダ部11の内径(流路断面積)D1よりも小さくなっている。
そのため、ステアリングホイールの操作に連動してラック軸3が図中右方向に移動する場合、空間S2内の流体が、プランジャ14のオリフィス孔16を通って空間S1に向けて移動する。この際に、オリフィス孔16の径に応じた負荷(抵抗力)が、ラック軸3の移動を妨げる方向に作用するようになっている。
【0027】
オリフィス孔16は、ラック軸3周りの周方向で、均等間隔をおいて複数設けられており、複数のオリフィス孔16の各々は、同じ径で形成されている。
流体がオリフィス孔16を通過することによりプランジャ14に作用する負荷が、ラック軸3周りの周方向で均等になるようにすることで、作用する負荷が、ラック軸3を、このラック軸3の軸心に対して傾けようとする方向に作用することを防止するためである。
【0028】
第1の実施形態にかかる車両用ステアリング装置の作用を説明する。
なお、以下の説明は、ステアリングホイールの操舵によりラック軸3が移動して、ラック軸3に固定されたプランジャ14が、図1(a)に示す中立位置から図中右方向に移動して、図1の(b)に示す位置まで変位した場合を例に挙げて説明する。
【0029】
ステアリングホイールの操作に連動してラック軸3が図中右方向に移動すると、プランジャ14は、シリンダ部11の内周11cを摺動しながらラック軸3と共に同方向に移動する。この際、オリフィス孔16を通過できる流体の量が限られているので、通過できる流体の量に応じた反力(抵抗力)が、ラック軸3の移動を妨げる方向に作用する。
【0030】
この抵抗力は、ステアリングホイールを操作してラック軸3を軸方向に移動させようとする力(操作力)に対する反力(操舵反力)として作用し、ステアリングホイールの操作力を減衰させることになる。
【0031】
よって、実施形態の流体ダンパ10では、このプランジャ14のオリフィス孔16により、ステアリングホイールの操舵速度が速く、ラック軸3を軸方向に変位させる力が急に作用するほど大きな反力(操舵反力)が生じ、操舵速度が遅く、ラック軸3を軸方向に変位させる力がゆっくりと作用するほど小さな反力(操舵反力)が生じる。例えば、ラック軸3を図1において右方向に移動させる際の操舵速度が速くなるほど、反対方向である左方向に作用する操舵反力が大きくなる。
【0032】
以上の通り、実施形態では、ステアリングホイールから入力される回転を、操舵輪のナックルに連結したラック軸3(ロッド)の軸方向の移動に変換して操舵を行なう車両用ステアリング装置であって、高粘性の流体が封入される筒状の封入空間Sを内部に有すると共に、ラック軸3が封入空間Sを貫通して軸方向に移動可能に設けられたシリンダ部11と、ラック軸3に固定されて封入空間Sを軸方向で隣接する2つの空間S1、S2に区画すると共に、ラック軸3と共に軸方向に移動して区画された2つの空間S1、S2の容積を変化させるプランジャ14と、を備える流体ダンパ10を設けて、プランジャ14に設けたオリフィス孔16により、区画された2つの空間S1、S2を連通させると共に、オリフィス孔16の内径D2を、封入空間Sの内径D1よりも小さく設定して、オリフィス孔16の流路断面積を封入空間Sの流路断面積よりも小さくした構成とした。
【0033】
このように構成すると、ステアリングホイールの操作に連動してラック軸3が軸方向に移動すると、封入空間S内の流体がプランジャ14のオリフィス孔16を通って、空間S1から空間S2、または空間S2から空間S1に移動する。
この際、オリフィス孔16の内径D2は封入空間Sの内径D1よりも小さいので、流体がオリフィス孔16を通過する際に、プランジャ14の移動方向とは反対側に向かう反力(抵抗力)がプランジャ14およびラック軸3に作用する。
この抵抗力は、ステアリングホイールを操作してラック軸3を軸方向に移動させようとする力(操作力)に対する反力(操舵反力)として作用し、ステアリングホイールの操作力を減衰させる。
ここで、反力(抵抗力)の大きさは、オリフィス孔16の径に応じて決まるので、オリフィス孔16の内径D2を適宜設定して操舵反力を調整することで、例えば操舵加重が普通乗用車や軽自動車の場合に比べて軽くなり過ぎないようにすることができる。
これにより、ステアリングホイールの操作に対する操舵輪の挙動を、適宜調整できるので、超軽量車両のようにステアリングホイールが軽い場合に、普通乗用車や軽自動車の運転感覚でステアリングホイール操作を行っても、運転者が操舵フィーリングに違和感を覚えないようにすることができる。
また、流体ダンパ10(ラック軸3に設けたプランジャ14およびオリフィス孔16)は、ステアリングホイールの操舵速度に応じた抵抗力を生じ、例えばステアリングホイールの操舵速度が速くなるほど、より大きな反力(抵抗力)が作用することになる。
よって、ステアリングホイールが急に操作された場合であっても、操舵輪が急操舵されることや、オーバステアとなることを好適に防止できる。
さらに、流体ダンパ10は、操舵力を緩衝する操舵反力を与えてステアリングホイールを操作するのに必要な力が軽くなり過ぎることを好適に防止するので、ステアリングホイールを所定位置(例えば中立位置)に保持し易くなる。よって、車両の走行時における直進安定性が向上すると共に、走行時の車両のふらつき(走行不安定感)が軽減される。
また、路面から操舵輪に入力される振動や反力も流体ダンパ10により減衰されて、そのままステアリングホイールに伝達されることを防止するので、ステアリングホイールのガタツキが好適に防止できる。
特に、オリフィス孔16の径や数を適宜変更することで、操作力に対する反力の大きさを調整できるので、ユーザの好みに応じて調整された操舵フィーリングを与えるステアリング装置を容易に提供できる。
【0034】
また、ステアリング装置は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置であり、前記シリンダ部11は、ラックギヤとピニオンギヤとの噛合部を収容するギヤハウジング4(ギヤケース)を、軸方向に延在させて形成される構成とした。
【0035】
これにより、ラック軸3に入力される操舵力や、走行時に路面側からラック軸3に入力される外力(キックバック)を、ラックギヤとピニオンギヤとの噛合部だけではなく、シリンダ部11を含むギヤハウジング4全体で受けることができるので、ステアリング装置1全体の強度を確保するうえで有利である。すなわち、ステアリング装置1(流体ダンパ10)の強度を確保するための補強構造を別途設ける必要がないので、製作コストの低減が可能となると共に、補強構造を別途設けるためにステアリング装置の重量が増大することもないので、流体ダンパ10を付加することによる燃費への影響を抑えることができる。
また、ラックギヤとピニオンギヤとの噛合部におけるギヤ接触による機械的で無機質な操舵感を、流体ダンパ10に封入された流体に特有のしっとりした操舵感へと変化させるので、操舵フィーリングを向上させることができる。
さらに、ラック軸3に固定されたプランジャ14を用いて流体ダンパ10を構成しているので、反力を与えるための機構がより簡単になり、ステアリング装置1全体の大きさをコンパクトにすることができると共に、安価に形成できる。また、流体ダンパ10を設けてもステアリング装置1の全体重量が大きく増加しないので、流体ダンパ10を設けることが車両の燃費性能に悪影響を及ぼすことを好適に防止できる。
【0036】
本発明にかかるステアリング装置の第2の実施形態を説明する。
図3は、第2の実施形態にかかるステアリング装置の流体ダンパ10Aの要部拡大図である。なお、以下の説明において、前記した第1の実施形態と同じものは同一の符号を付して示し、その説明は省略する。
【0037】
この第2の実施形態にかかるステアリング装置の流体ダンパ10Aでは、シリンダ部11に取り付けた流路パイプ20を介して、プランジャ14Aにより区画されたシリンダ部11内の空間S1、S2が互いに連通しており、プランジャ14Aには、第1の実施形態のプランジャ14のオリフィス孔16(図2参照)に相当するものが設けられていない構成となっている。
【0038】
プランジャ14Aは、第1の実施の形態のプランジャ14と同様に、シリンダ部11内において、ラック軸3の軸方向(軸心Xの長手方向)の略中央部に設けられており、シリンダ部11内の封入空間Sは、このプランジャ14Aにより、二つの空間S1、S2に区画されている。
【0039】
プランジャ14Aは、軸方向から見てリング形状を有しており、プランジャ14の外周14aは、シリンダ部11の内周11cに整合する形状を有している。
プランジャ14Aの外周14aには、ラック軸3の軸方向における中央部に、凹溝14eが設けられている。凹溝14eは、プランジャ14Aの外周の全周に亘って設けられており、この凹溝14eには、Oリング17が嵌合して取り付けられている。
Oリング17は、凹溝14eに嵌合させた状態で、プランジャ14の外周14aよりも径方向外側に突出している。
【0040】
プランジャ14Aは、第1の実施の形態のプランジャ14と同様に、ラック軸3に固定されたCリング15により軸方向の位置決めがされ、突部14dをかしめることで、ラック軸3に対して固定されている。
よって、プランジャ14Aは、ステアリングホイールの操作に連動してラック軸3が軸方向に進退移動すると、このラック軸3と共に、シリンダ部11(封入空間S)内を軸方向に移動するようになっている。
【0041】
この際、プランジャ14Aの移動により、空間S1、S2の容積が変化する。しかし、プランジャ14Aの外周14aにはOリング17が設けられているので、プランジャ14Aの外周14aとシリンダ部11の内周11cの隙間を介した空間S1から空間S2、または空間S2から空間S1へのオイル(流体)の移動が阻止されるようになっている。
【0042】
シリンダ部11の長手方向における一端11a側と他端11b側には、流路パイプ20が接続されており、プランジャ14を境にして、図中左側に位置する空間S1と、右側に位置する空間S2とが、流路パイプ20を介して連通している。
そのため、プランジャ14が図中左右方向に移動する際には、この流路パイプ20を介して、空間S1、S2内のオイルが移動することで、空間S1、S2の容積が変化するようになっている。
【0043】
流路パイプ20は、一端側の接続部21と、他端側の接続部22と、接続部21、22の間の本体部23とを備える。
この流路パイプ20は、一端側の接続部21から、本体部23を経て他端側の接続部22に至るまでの内径D3(流路断面積)が全長に亘って同じとなるように、パイプ部材を折り曲げて形成されている。
【0044】
互いに平行に配置された接続部21、22は、シリンダ部11の長手方向に沿って軸心Xに対して平行に延びる本体部23の両端から同一方向に延びており、シリンダ部11の長手方向に直交する方向から、シリンダ部11に取り付けられた連結部25に連結されている。
【0045】
連結部25は、シリンダ部11に固定される固定部26と、フランジ部27と、流路パイプ20(接続部21、22)が嵌入して接続される嵌入部28と、連結部25を長手方向に貫通する貫通孔29とを備える。
【0046】
シリンダ部11の一端11a側と他端11b側には、シリンダ部11内の空間S1、S2と、シリンダ部11の外部とを連通させる連通穴18が設けられており、シリンダ部11の外周には、この連通穴18を囲むボス部19が、径方向外側(シリンダ部11の長手方向に直交する方向Y)に突出して設けられている。
【0047】
実施の形態では、ボス部19と連結部25の筒状の固定部26とがテーパねじで螺合されている。
固定部26は、外周に雄ネジ(図示省略)が形成されたテーパねじであり、連結部25のフランジ部27をボス部19の上端19aに当接させる位置まで、ボス部19の内周の雌ネジ(図示省略)に螺入されている。
ここで、テーパねじとしたのは、封入空間S内の流体が、ボス部19と連結部25との連結部分から外部に流出することを好適に防止するためである。
【0048】
フランジ部27は、軸Yの軸方向から見て、六角ナット形状を有しており、連結部25の固定部26をボス部19に螺入する際に、スパナなどの工具で把持できるようになっている。
【0049】
嵌入部28は、フランジ部27を挟んで固定部26とは反対側に位置しており、固定部26とは反対方向に延びている。
この嵌入部28の外周には、ナット30が螺合する雄ネジ(図示省略)が、高さ方向(フランジ部27から離れる方向)の全長に亘って形成されている
【0050】
貫通孔29は、固定部26と、フランジ部27と、嵌入部28とを、ラック軸3の軸心Xに直交する方向Yに貫通して、設けられている。
貫通孔29の嵌入部28の内側に位置する部分には、拡径部29aが設けられており、この拡径部29aは、流路パイプ20の接続部21、22の外径D4と整合する径で形成されている。
【0051】
実施の形態では、流路パイプ20の接続部21、22は、連結部25の嵌入部28にナット30で固定されており、連結部25に対して着脱自在となっている。連結部25では、拡径部29aを設けることで、嵌入部28に流路パイプ20を嵌入した際に、貫通孔29の内径と接続部21,22の内径とが整合するようになっている。連結部25と流路パイプ20との接続部分で流路断面積が変化しないようにするためである。
【0052】
以上の通り、実施形態では、ステアリングホイールから入力される回転を、操舵輪のナックルに連結したラック軸3(ロッド)の軸方向の移動に変換して操舵を行なう車両用ステアリング装置であって、高い粘性の流体が封入される筒状の封入空間Sを内部に有すると共に、ラック軸3が封入空間Sを貫通して軸方向に移動可能に設けられたシリンダ部11と、ラック軸3に固定されて封入空間Sを軸方向で2つの空間S1、S2に区画すると共に、ラック軸3と共に軸方向に移動して区画された2つの空間S1、S2の容積を変化させるプランジャ14と、シリンダ部11の軸方向における一端11a側と他端11b側とに連結されて区画された2つの空間S1、S2を連通させる流路パイプ20(連通管)と、を備える流体ダンパ10Aを設けて、流路パイプ20の内径D3を封入空間Sの内径D1よりも小さく設定して、流路パイプ20の流路断面積を封入空間Sの流路断面積よりも小さくした構成とした。
【0053】
このように構成すると、ステアリングホイールの操作に連動してラック軸3が軸方向に移動すると、封入空間S内の流体が流路パイプ20を通って、空間S1から空間S2、または空間S2から空間S1に移動する。
この際、流路パイプ20の内径D3は封入空間Sの内径D1よりも小さいので、流体が流路パイプを通過する際に、プランジャ14の移動方向とは反対側に向かう反力(抵抗力)がプランジャ14およびラック軸3に作用する。
この抵抗力は、ステアリングホイールを操作してラック軸3を軸方向に移動させようとする力(操作力)に対する反力(操舵反力)として作用し、ステアリングホイールの操作力を減衰させる。
ここで、反力(操舵反力)の大きさは、流路パイプ20の内径D3に応じて決まるので、流路パイプ20の内径D3を適宜設定して操舵反力を調整することで、例えば操舵加重が普通乗用車や軽自動車の場合に比べて軽くなり過ぎないようにすることができる。
よって、第1の実施形態の場合と同様に、ステアリングホイールが急に操作された場合であっても、操舵輪が急操舵されることや、オーバステアとなることを好適に防止できる。
さらに、流体ダンパ10は、操舵力を緩衝する操舵反力を与えてステアリングホイールを操作するのに必要な力が軽くなり過ぎることを好適に防止するので、ステアリングホイールを所定位置(例えば中立位置)に保持し易くなる。よって、車両の走行時における直進安定性が向上すると共に、走行時の車両のふらつき(走行不安定感)が軽減される。
また、路面から操舵輪に入力される振動や反力も流体ダンパ10により減衰されて、そのままステアリングホイールに伝達されることを防止するので、ステアリングホイールのガタツキが好適に防止できる。
特に、オリフィス孔16の径や数を適宜変更することで、操作力に対する反力の大きさを調整できるので、ユーザの好みに応じて調整された操舵フィーリングを与えるステアリング装置を容易に提供できる。
また、路面から操舵輪に入力される振動や反力が流体ダンパ10Aにより減衰されて、そのままステアリングホイールに伝達されることを防止するので、ステアリングホイールのガタツキを好適に防止できる。
【0054】
シリンダ部11の一端11a側と他端11b側には、シリンダ部11の内部の空間S1、S2と、シリンダ部11の外部とを連通させる連通穴18と、この連通穴18を囲むと共に、径方向外側(シリンダ部11の長手方向Xに直交する方向Y)に突出するボス部19と、このボス部19にテーパねじで螺合されると共に、シリンダ部11の長手方向に直交する方向に貫通する貫通孔29を有する連結部25とが設けられており、流路パイプ20は、連結部25に対して着脱自在に設けられている構成とした。
【0055】
このように構成すると、内径(流路断面積)の異なる流路パイプ20を複数用意しておくことで、ユーザの要求する操舵反力を与える内径の流路パイプ20に交換するだけで、ユーザの好みに応じて調整された操舵フィーリングを与えるステアリング装置を容易に提供できる。
また、着脱自在とすることで、短時間での操舵フィーリングの調整が可能になるので、ユーザの利便性が向上する。
さらに、ステアリング装置を組み付けた後であっても、操舵フィーリングの調整が可能になるので、ユーザの利便性が向上する。
【0056】
本発明にかかるステアリング装置の第3の実施形態を説明する。
図4は、第2の実施形態にかかるステアリング装置の要部拡大図である。
なお、以下の説明において、前記した第2の実施形態と同じものは同一の符号を付して示し、その説明は省略する。
【0057】
この第3の実施形態にかかるステアリング装置の流体ダンパ10Bでは、シリンダ部11内において、スプリング33、34がラック軸3に外挿されており、スプリング33、34の端部33a、34aは、オイルシール12、13に固定されており、反対側の端部33b、34bは、プランジャ14Aに固定されて設けられている。
【0058】
ここで、スプリング33、34は、それぞれ同じバネ自由長を有しており、ラック軸3に外挿されて、オイルシール12、13とプランジャ14Aとに固定された状態のバネ取付長もまた、同じになるように設けられている。
よって、直進走行時のようにステアリングホイールに操舵力が作用していない場合には、プランジャ14には、シリンダ部11の長手方向における一端11a側と他端11b側から、スプリング33、34による同じ大きさの付勢力が作用しており、ラック軸3は、軸方向の移動を規制されつつ所定位置に保持されるようになっている。
【0059】
実施の形態では、ラック軸3の所定位置は、ラック軸3にステアリングシャフト(図示せず)を介して連結しているステアリングホイールが、中立位置で保持される位置に設定されており、スプリング33、34による付勢力よりも大きい力がステアリングホイールに入力されない限り、ステアリングホイールは中立位置に保持されるようになっている。
【0060】
第3の実施形態に係る車両用ステアリング装置の作用を説明する。
直進走行時のようにステアリングホイールに操舵力が作用していない場合には、ラック軸3のプランジャ14は、スプリング33、34により、シリンダ部11の一端11a側と他端11b側とから略同じ付勢力で付勢されている。
この際、シリンダ部11で軸方向に移動可能に支持されているラック軸3は、軸方向の移動が規制されつつ所定位置に保持されており、スプリング33、34による付勢力よりも大きい力がステアリングホイールに入力されない限り、軸方向の移動を規制している。
よって、ステアリングホイールを所定位置(例えば中立位置)に保持し易くなるので、車両の走行時における直進安定性が向上すると共に、走行時の車両のふらつき(走行不安定感)が軽減される。
【0061】
また、ステアリングホイールが操舵されてスプリング33、34による付勢力よりも大きい力が入力されて、例えばプランジャ14がラック軸3と共に図4において右方向に移動すると、スプリング33が伸び、スプリング34が縮むので、プランジャ14Aには、スプリング33を縮めようとするバネ反力FLと、スプリング34を延ばそうとするバネ反力FRの合力が、ラック軸3の軸方向の移動に抗する操舵反力として作用する。
そして、この操舵反力は、ステアリングホイールの操舵量が大きくなるほど大きくなるので、ステアリングホイールを急に操作しても、ラック軸3が軸方向に急激に移動することが阻止されるので、操舵輪の急操舵やオーバステアとなることを好適に防止できる。
また、ステアリングホイールの初期位置への戻りが良くなるので、車両の直進安定性が向上することになる。
【0062】
以上の通り、第3の実施形態では、プランジャ14Aをシリンダ部11の一端11a側に付勢するスプリング34と、プランジャ14Aを他端11b側に付勢するスプリング33とを、シリンダ部11内に設けて、プランジャ14Aが、一端11a側と他端11b側とから同じ付勢力で付勢される構成とした。
このように構成すると、ステアリングホイールの中立位置への座りや戻りが良くなるので、超軽量車両のように操舵加重が軽いステアリングホイールであっても走行安定性が向上する。
また、ステアリングホイールを操舵する際に、スプリング33、34により適度な操舵反力が与えられるので、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0063】
前記した実施の形態では、シリンダ部11に流路パイプ20を設けた構成の流体ダンパに、スプリングを設ける場合を例示したが、プランジャ14にオリフィス孔16を設けた構成の流体ダンパ10(図2参照)にスプリングを設けても良い。
かかる場合には、前記した第3の実施の形態の効果が第2の実施の形態の効果と共に奏されることになる。
【0064】
また、図2に示す構成の流体ダンパに流路パイプ20を設けた構成の流体ダンパとしても良い。かかる場合には、オリフィス孔16を設けたプランジャ14をラック軸3にかしめ固定した後であっても、内径(流路断面積)の異なる流路パイプ20に変更することで、ラック軸3に作用する操舵反力の大きさを適宜調整できるようになる。
よって、ユーザの好みに応じて細かく調整された操舵フィーリングを与えるステアリング装置を容易に提供できるようになる。
【0065】
前記した実施の形態では、ラックアンドピニオン式のステアリング装置の場合を例に挙げて説明をしたが、本発明は、ステアリングホイールから入力される回転を、操舵輪のナックルに連結したロッドの軸方向の移動に変換して車輪の操舵を行なうステアリング装置であれば、例えばリサーキュレーティングボール式や遊星ギヤ式のステアリング装置にも好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 ステアリング装置
2 ピニオンシャフト
3 ラック軸
3a 外周
5、6 連結部
7 タイロッド
8 ボールジョイント
9 シリンダエンドケース
10、10A、10B 流体ダンパ
11 シリンダ部
11a 一端
11b 他端
11c 内周
12、13 オイルシール
12a、13a 挿通孔
14、14A プランジャ
14a 外周
14b 挿通穴
14c 凹部
14d 突部
14e 凹溝
15 Cリング
16 オリフィス孔
17 Oリング
18 連通穴
19 ボス部
19a 上端
20 流路パイプ
21 接続部
22 接続部
23 本体部
25 連結部
26 固定部
27 フランジ部
28 嵌入部
29 貫通孔
29a 拡径部
30 ナット
31、32 溝部
33、34 スプリング
41 縮径部
91 縮径部

A 図中符号
B 図中符号
D1 内径
D2 内径
D3 内径
D4 外径
FL バネ反力
FR バネ反力
S、S1、S1空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールから入力される回転を、操舵輪のナックルに連結したロッドの軸方向の移動に変換して操舵を行なう車両用ステアリング装置において、
流体が封入される封入空間を有すると共に、前記ロッドが前記封入空間を貫通して前記軸方向に移動可能に設けられたシリンダ部と、
前記ロッドに固定されて前記封入空間を前記軸方向で隣接する2つの空間に区画するプランジャと、
前記区画された2つの空間を連通させると共に、前記封入空間よりも内径が小さい連通路と、備える流体ダンパを設けたことを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項2】
前記ステアリング装置は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置であり、
前記シリンダ部は、ラックギヤとピニオンギヤとの噛合部を収容するギヤケースを、前記軸方向に延在させて形成されることを特徴とする請求項1に記載の車両用ステアリング装置。
【請求項3】
前記連通路は、
前記プランジャに設けられたオリフィス孔であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ステアリング装置。
【請求項4】
前記連通路は、
前記シリンダ部の前記軸方向における一端側と他端側とに連結されて、前記区画された2つの空間を連通させる連通管であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ステアリング装置。
【請求項5】
前記連通管は、前記シリンダ部に対して着脱自在に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の車両用ステアリング装置。
【請求項6】
前記シリンダ部内には、前記プランジャを前記一端側に付勢するスプリングと、他端側に付勢するスプリングとが設けられており、前記プランジャは前記一端側と他端側とから同じ付勢力で付勢されていることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の車両用ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−225179(P2011−225179A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99091(P2010−99091)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000128544)株式会社オーテックジャパン (183)