説明

車両用バンパー

【目的】 オンライン塗装が可能であり、かつ車両軽衝突時に車体を保護することができる車両用バンパーを得る。
【構成】 車両用バンパーの表皮部1が、熱可塑性樹脂を母材樹脂とする繊維強化熱可塑性樹脂層2と、その表面に上記母材樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面層が一体形成されてなるバンパー。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、バンパー表皮部が、熱可塑性樹脂を母材樹脂とする繊維強化熱可塑性樹脂層と、その表面に該母材樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面層を一体形成してなるバンパーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車のバンパーは元来、車両軽衝突時に効果的に衝撃を吸収し車体および乗員を保護するものであったが、近時では、バンパーも外装の一部として考えられ、デザイン自由度等の観点から表皮部を樹脂で形成することが一般化している。樹脂製バンパー表皮部の場合、高温時に熱たわみ変形するため、組み付けた後に車体と同時に、しかも同じ塗料を用いて焼付け塗装(オンライン塗装)することができず、個別に樹脂専用塗料で塗装した後、車体に組み付けているのが現状である。また、表皮部の耐潰れ荷重性不足による車両軽衝突時の車体保護が問題となり、従来ではバンパー裏面にリブを立てたり、補強材を組み込んだりして耐潰れ荷重性を向上させていた。しかし、図3に示すようにバンパー裏面に横リブ9もしくは縦リブ10を設けた場合、成形圧の違いからバンパー表面にヒケ等が発生し、表面品質を損なうことがあった。一方、図4に示すように補強板11を組み込む場合、従来では金属製が一般的であったが、樹脂と金属の線膨張係数は大きく異なり、製造後に冷却されるとバンパー表皮部が変形をおこし、車体に組み付けられない等の問題があった。そのため、例えば特開昭58−116243号公報にあるようにリムエラストマー製バンパー表皮部の裏面に樹脂製板を取り付けることにより補強することも行なわれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、樹脂製補強板をバンパー表皮部裏面に形成した場合、表皮部を形成する樹脂と補強板を形成する樹脂が異なると、樹脂間の接着が悪いためバンパー表皮部と補強板が一体化されず、このために溶剤処理やサンディング等の表面処理が必要となり、コストおよび工程が増加する。また、樹脂製補強板を用いた場合、樹脂自体の剛性が低いため、車両軽衝突時に十分な耐潰れ荷重性を得るには肉厚とならざるをえず、重くなってしまう。さらに、オンライン塗装が可能となれば工程の省略および塗料の共通化が可能となり全体的なコスト削減効果は著しいが、塗料焼付け時に車体は高温となるため、樹脂補強板ではそれ自体がたわみ変形してしまい、バンパー表皮部のたわみを抑えることはできずオンライン塗装することはできない。従って本発明の目的は、オンライン塗装が可能であり、かつ車両軽衝突時に車体を保護することができる車両用バンパーを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記目的を達成すべく、例えば図1に示すように、熱可塑性樹脂を母材樹脂とする繊維好ましくは有機繊維強化熱可塑性樹脂層2を所望の性能が発現するように付形した後、その表面に表面品質を向上させるため熱可塑性樹脂表面層3を射出成形させるか、もしくは、表面層の樹脂と同種の樹脂を母材とする繊維強化熱可塑性樹脂層2の外層に熱可塑性樹脂表面層を構成して圧縮成形することにより、表面処理をすることなくバンパー表皮部1を一体化して形成することにより上記課題を解決している。即ち、本発明は、1) オンライン塗装と車両軽衝突時の車体保護を可能とするため、熱可塑性樹脂を母材樹脂とする繊維強化熱可塑性樹脂層2と表面品質を向上させるために、その表面に上記母材樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面層3が一体形成されている、2) 繊維強化熱可塑性樹脂層2を構成する強化繊維を好ましくは有機系繊維とすること、3) 熱可塑性樹脂表面層3を構成する樹脂を好ましくはポリオレフィン系樹脂とすること、4) 繊維強化熱可塑性樹脂層2を構成する母材樹脂を、好ましくは表面層の樹脂の融点よりも+10℃低い融点をもつポリオレフィン系樹脂とすること、を特徴としている。
【0005】
【作用】樹脂製バンパー表皮部1は、熱可塑性樹脂を母材樹脂とした繊維好ましくは有機系繊維強化熱可塑性樹脂層2をあらかじめ付形したのち型に固定し、その表面に母材樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面層3を射出充填して形成している。積層樹脂層2の母材樹脂の融点は、射出された樹脂の融点よりも+10℃低いことが好ましく、特にこのようにする場合には、射出樹脂の熱と流れにより積層樹脂層の表面が溶融し、両者は一層容易に一体化される。このような表皮部は、繊維強化熱可塑性樹脂層2を構成するときに、外層に樹脂表面層を積層して加熱、軟化した後、圧縮成形することによっても得られる。このとき、有機繊維は積層樹脂層3の母材樹脂に近い線膨張係数をもつため、バンパー表皮部にソリ等の熱変形は生じない。また、積層樹脂層3の有機繊維は十分な耐熱性と剛性をもつため、高温時のたわみ変形を拘束してバンパー表皮部の形状を保持することができ、オンライン塗装が可能となる。このように構成されたバンパー表皮部1は、例えばフロントバンパーの場合、図1,2に示すように、ブラケット4やリテーナー5を介し、車体8に取付けたアダプタ7および車体8のボルト孔を介してボルトとナット6等により車体8に締結して固定される。車両軽衝突時にバンパー表皮部1に荷重が入力した場合、初期には、積層樹脂層の強化繊維によりバンパー表皮部の耐潰れ荷重が向上しているため衝撃に耐えることができる。さらに荷重が加わった場合、断面形状が潰れ変形して積層シートの層間を剥離させることにより、衝撃を吸収し車体を保護できる。
【0006】
【実施例】以下に、本発明を実施例および比較例に基づき詳細に説明する。本例では、自動車用フロントバンパーに適用して説明するが、リヤバンパーにも適用可能であることはいうまでもない。
【0007】実施例1厚み0.2mmの高強度ビニロンとして高強力ビニロンUV7901((株)クラレ製、商品名)チョップド繊維強化ポリプロピレンプリプレグ2枚を積層させた樹脂層(以下、VF/PP積層樹脂層)2を加熱、軟化してバンパー形状に圧縮成形した。成形されたVF/PP積層樹脂層2を射出成形型に固定し、その表面にVF/PP積層樹脂層の母材樹脂と同種のPP樹脂としてE−200(出光石油化学(株)製、商品名)3を射出圧力500kg/cm2 、射出速度125mm/secの条件で射出して平均肉厚約3mmのバンパー表皮部1を形成した。このとき、積層樹脂層の母材PPの融点は射出される表面層PPより5℃高かった。
【0008】実施例2実施例1で用いた厚み0.2mmの高強度ビニロンチョップド繊維強化ポリプロピレンプリプレグを4枚積層させた樹脂層を用いた。以下、実施例1と同様にしてバンパー表皮部1を形成した。
【0009】実施例3実施例1で用いた厚み0.2mmの高強度ビニロン平織りクロス繊維強化ポリプロピレンプリプレグ2枚を積層させた樹脂層を用いた。以下、実施例1と同様にしてバンパー表皮部1を形成した。
【0010】実施例4PPとしてE−200G(出光石油化学(株)製、商品名)を用い、繊維として高強力ビニロンUV7901((株)クラレ製、商品名)を用いた。厚み0.2mmの高強度ビニロン平織りクロス繊維強化ポリプロピレンプリプレグ4枚を積層させた樹脂層を用いた。この樹脂層の表面にTX933(三菱油化(株)製、商品名)を、低分子量PP(平均分子量5000)としてビスコール660−P(三洋化成(株)製、商品名)で希釈して得たPPを実施例1と同様の条件で射出して平均肉厚約3mmのバンパー表皮部1を形成した。
【0011】実施例5実施例4と同様の厚み0.2mmの高強度ビニロンチョップド繊維強化ポリプロピレンプリプレグ4枚を積層させた樹脂層を用いた。このとき、積層樹脂層の母材PPの融点は射出される表面層PPより8℃高かった。
【0012】実施例6実施例1と同様の厚み0.2mmの高強度ビニロンチョップド繊維強化ポリプロピレンプリプレグ4枚を積層させた樹脂層を用いた。このとき、積層樹脂層の母材PPの融点は射出される表面層PPより11℃高かった。
【0013】比較例1ガラスチョップド繊維強化ポリプロピレンとして、LFP(三井東圧化学(株)製、商品名)を用いた。厚み0.2mmのガラスチョップド繊維強化ポリプロピレンプリプレグ2枚を積層させた樹脂層を用いた。
【0014】比較例2比較例1と同様の厚み0.2mmのガラスチョップド繊維強化ポリプロピレンプリプレグ4枚を積層させた樹脂層を用いた。
【0015】比較例3厚み0.2mmの一方向ガラス連続繊維強化ポリプロピレンとしてLFP(三井東圧化学(株)製、商品名)のプリプレグ4枚を〔0°/90°〕sの構成で積層させた樹脂層を用いた。
【0016】このようにして形成したバンパー表皮部1を、金属製のブラケット4およびリテーナー5を介して、車体8に取付けたアダプタ7および車体8のボルト孔を介して車体8に組み付け、振子式衝撃試験機を荷重1.2トンに調整して時速4km/hの衝突実験をおこない、バンパー変位(耐潰れ荷重性)を評価した。また、オンライン塗装性の評価は、部品単体を実車状態と同様に固定し、140℃の恒温槽に30分入れた後の形状変化の有無によって評価した。以上のバンパー表皮部の性能評価結果を表1に示す。
【0017】この結果から明らかなように、バンパー表皮部を、熱可塑性樹脂を母材樹脂とする繊維強化樹脂層と、その表面上に上記母材樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面層を表面処理等をすることなく一体にして形成することにより、オンライン塗装を可能とし、かつ車両軽衝突時に十分に車体を保護することができる。
【0018】尚、本実施例では高強度ビニロン繊維強化ポリプロピレン積層樹脂層に限って説明したが、用いられる熱可塑性樹脂としては特に制約はなく、オレフィン系重合体、ポリアミド、ポリエステル等の公知の熱可塑性樹脂およびその変性体から1種もしくは数種のものが使用できる。また、配合される有機強化繊維も特に制約はなく、高強度ポリエチレン繊維、アラミド繊維、液晶繊維等が、短繊維、長繊維、連続繊維、織布、不織マット等の形態で使用できる。
【0019】
【表1】


【0020】
【発明の効果】本発明によれば、樹脂製バンパー表皮部1を、熱可塑性樹脂を母材樹脂とする繊維強化熱可塑性樹脂層2をあらかじめ付形したのち、その表面に上記母材樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面層3を射出成形させるか、もしくは、上記熱可塑性樹脂を母材樹脂とした繊維強化熱可塑性樹脂層2の外層に上記樹脂表面層3を構成して圧縮成形することにより一体化して形成したため、表面処理工程を省略することが可能となる。また、強化繊維の拘束により、耐熱たわみ性を向上させオンライン塗装することが可能となり、かつ車両軽衝突時の耐潰れ荷重性を向上させ車体を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一例のバンパーの図2におけるA−A線に沿った断面図である。
【図2】バンパー構造を分解して示す斜視図である。
【図3】従来の一例のバンパー構造を図2と同様に示す断面図である。
【図4】従来の他の例のバンパー構造を図2と同様に示す断面図である。
【符号の説明】
1 バンパー表皮部
2 繊維強化熱可塑性樹脂層
3 熱可塑性樹脂表面層
4 ブラケット
5 リテーナー
6 ボルトとナット
7 車体に取付けたアダプタ
8 車体
9 横リブ
10 縦リブ
11 補強板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両用バンパーの表皮部が、オンライン塗装と車両軽衝突時の車体保護を可能とするため、熱可塑性樹脂を母材樹脂とする繊維強化熱可塑性樹脂層と、表面品質を向上させるために、その表面に上記母材樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面層を一体形成してなることを特徴とする車両用バンパー。
【請求項2】 繊維強化熱可塑性樹脂層を構成する強化繊維が有機系繊維であることを特徴とする請求項1記載の車両用バンパー。
【請求項3】 熱可塑性樹脂表面層を構成する樹脂をポリオレフィン系樹脂とし、繊維強化熱可塑性樹脂層を構成する母材樹脂を、上記ポリオレフィン系樹脂よりも10℃低い融点をもつポリオレフィン系樹脂としたことを特徴とする請求項1または2記載の車両用バンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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