説明

車両用バンパ装置

【課題】例えば車両衝突時におけるバンパリインホースの座屈荷重を増大し、より多くの衝撃エネルギーを吸収することができる車両用バンパ装置を提供する。
【解決手段】車両の幅方向に延びるバンパリインホース16の両端部において、バンパリインホース16と車両の前後方向に延びる一対のサイドメンバ11との間にそれぞれ介在される一対のクラッシュボックス13を備える。クラッシュボックス13は、車両の前後方向に延びる筒部23と、筒部23の車両前後方向の全長に亘って筒部23から車両幅方向両側に突設された一対のフランジ24とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バンパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用バンパ装置において、バンパリインホースと車両の前後方向に延びる一対のサイドメンバとの間に、クラッシュボックスが介在されたものが知られている。このクラッシュボックスは、例えば車両衝突時に蛇腹状に連続的に塑性変形(座屈変形)を繰り返すことで衝撃エネルギーを吸収する。
【0003】
こうしたクラッシュボックスとしては、例えば特許文献1に記載される断面八角形の中空構造を有するものや、特許文献2に記載される扁平八角形の一部を変形させた断面十六角形の中空構造を有するものが提案されている。
【特許文献1】特開2006−123887号公報
【特許文献2】特開2007−17003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図7に模式的に示すように、断面八角形や断面十六角形のクラッシュボックス91では、例えば車両衝突時に、基本的にその多角形断面の車両幅方向の範囲Rでしかその前側にあるバンパリインホース92を潰せないため、該バンパリインホース92の座屈領域による発生荷重(以下、「座屈荷重」という)が小さくなり、衝撃エネルギーが十分に吸収できなくなることがある。
【0005】
なお、バンパリインホース92の座屈荷重を増大すべく、クラッシュボックス91との結合部に十分な強度を有するブラケットを設けることも考えるが、この場合には、部品点数が増大する問題が生じてしまう。
【0006】
本発明の目的は、例えば車両衝突時におけるバンパリインホースの座屈荷重を増大し、より多くの衝撃エネルギーを吸収することができる車両用バンパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両の幅方向に延びるバンパリインホースの両端部において、該バンパリインホースと車両の前後方向に延びる一対のサイドメンバとの間にそれぞれ介在される一対のクラッシュボックスを備えた車両用バンパ装置において、前記クラッシュボックスは、車両の前後方向に延びる筒部と、前記筒部の車両前後方向の全長に亘って該筒部から車両幅方向両側に突設された一対のフランジとを有することを要旨とする。
【0008】
同構成によれば、前記クラッシュボックスでは、例えば車両衝突時に、前記筒部のみならず前記一対のフランジでも前記バンパリインホースを潰すことができるため、該バンパリインホースの座屈幅(座屈領域)を大きくできる分、その座屈荷重を増大することができ、前記バンパリインホースにおいてより大きな衝撃のエネルギーを吸収することができる。また、前記筒部のみの場合に比べて前記一対のフランジの分、前記クラッシュボックスの強度(断面強度)を向上できるため、例えば車両衝突時に発生する横方向の荷重に対し、該クラッシュボックスの横倒れを抑制することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用バンパ装置において、前記筒部は、開断面形状をそれぞれ有する第1板部材及び第2板部材の開口端同士を突き合わせてなることを要旨とする。
【0010】
同構成によれば、前記筒部を、前記第1及び第2板部材の2部品で構成することで、前記筒部の断面形状の自由度を増大することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車両用バンパ装置において、前記第1板部材は、開口端から車両幅方向両側に延びる一対の第1フランジ部を有し、前記第2板部材は、開口端から車両幅方向両側に延びる一対の第2フランジ部を有し、前記各フランジは、車両高さ方向に重ねられた前記各第1及び第2フランジ部が接合されてなることを要旨とする。
【0011】
同構成によれば、前記第1及び第2板部材は、前記各フランジを構成する前記各第1及び第2フランジ部の接合によって前記クラッシュボックスとして一体化することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の車両用バンパ装置において、車両高さ方向に重ねられた前記各第1及び第2フランジ部は、スポット溶接にて接合されていることを要旨とする。
【0013】
同構成によれば、前記各第1及び第2フランジ部の接合にスポット溶接を利用することで、該接合工程の自動化に容易に対応することができる。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の車両用バンパ装置において、前記クラッシュボックスは、断面略一定の押出材からなることを要旨とする。
【0014】
同構成によれば、前記筒部及び前記一対のフランジを備えた前記クラッシュボックスを押出し成形にて容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、例えば車両衝突時におけるバンパリインホースの座屈荷重を増大し、より多くの衝撃エネルギーを吸収することができる車両用バンパ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、自動車などの車両のフロント部分に適用される本実施形態に係る車両用バンパ装置を示す斜視図であり、図2(a)(b)は、その平面図及び正面図である。なお、図2では、車両の幅方向一側(車両の前方に向かって右側)の構造を代表して描画している。同図に示されるように、この車両用バンパ装置は、車両の幅方向両側に配設されてボデーの一部を構成する一対のサイドメンバ11に取り付けられる。各サイドメンバ11は、例えば金属板からなり、断面略四角形の中空構造を有して車両の前後方向に延びる。
【0017】
前記各サイドメンバ11の前端には、該サイドメンバ11の開口部を閉塞する態様で、例えば金属板からなる略四角形のブラケット12が溶接にて固着されている。
前記各ブラケット12の前面には、例えば金属板からなり、車両の前後方向に延びるクラッシュボックス13が取着されている。このクラッシュボックス13は、前後方向の中心線が前記サイドメンバ11の前後方向の中心線と一致するように配置されており、その後端に溶接にて固着されたブラケット14において、前記ブラケット12にボルト及びナット(図示略)にて締結される。一対のクラッシュボックス13は、加えられた荷重を軸方向の塑性変形で吸収して衝撃エネルギーを吸収する。なお、各クラッシュボックス13は、軸方向に蛇腹状に塑性変形する。
【0018】
ここで、図3に示すように、前記クラッシュボックス13は、例えば金属板を屈曲形成してなる第1板部材21及び第2板部材22を備えて構成される。第1板部材21は、略Uの字の開断面形状を有する本体部21aと、該本体部21aの開口端から車両幅方向両側に延びる一対の第1フランジ部21bとを有する。同様に、第2板部材22は、略Uの字の開断面形状を有する本体部22aと、該本体部22aの開口端から車両幅方向両側に延びる一対の第2フランジ部22bとを有する。第1及び第2板部材21,22は、本体部21a,22aの対向する開口端同士が突き合わされ、車両高さ方向に重ねられた前記各第1及び第2フランジ部21b,22bが、例えばスポット溶接にて接合されることでクラッシュボックス13として一体化される。
【0019】
そして、前記クラッシュボックス13は、前記両本体部21a,22aにより車両の前後方向に延びる断面略四角形の筒部23を形成するとともに、前記第1及び第2フランジ部21b,22bにより前記筒部23から車両幅方向両側に突設された一対のフランジ24を形成する。なお、前記筒部23には、その中心線に直交する面に沿って一周する溝部23a(図2参照)が形成されている。この溝部23aは、筒部23(クラッシュボックス13)の座屈変形の起点となる応力集中部を形成する。
【0020】
前記各クラッシュボックス13の前端には、該クラッシュボックス13の開口部を閉塞する態様で、例えば金属板からなるプレート15が溶接にて固着されるとともに、該プレート15には、車両の幅方向に延びるバンパリインホース16の各端部がボルト及びナット(図示略)にて締結されている。このバンパリインホース16は、例えばアルミニウムの押出材からなる断面略四角形の一定断面を有しており、車両の幅方向両端部において、上述の態様で前記一対のクラッシュボックス13に支持されている。
【0021】
従って、前記クラッシュボックス13の各フランジ24は、前記筒部23の車両前後方向の全長(ブラケット14とプレート15との間)に亘って延在する。なお、前記プレート15は、前記クラッシュボックス13及びバンパリインホース16の締結用に便宜的に設けられるものであって、該バンパリインホース16の座屈領域に影響し得ない小さな強度しかないものである。
【0022】
ここで、車両の衝突等により前方から衝撃が加えられると、この衝撃は、バンパリインホース16及びクラッシュボックス13を介してサイドメンバ11(ボデー)に伝達される。このとき、バンパリインホース16とともにクラッシュボックス13が塑性変形することで、ボデーへと伝達される衝撃を緩衝する。これにより、ボデー及び乗員に加えられる衝撃エネルギーが吸収される。
【0023】
次に、本実施形態の動作について説明する。図4に模式的に示すように、本実施形態のクラッシュボックス13では、前記一対のフランジ24の車両幅方向への突出長の分、クラッシュボックス13とバンパリインホース16が接する車両幅方向の範囲R1が、例えば該フランジ24のない従来のクラッシュボックスの車両幅方向の範囲Rよりも拡大されている。そして、このクラッシュボックス13では、例えば車両衝突時に、前記筒部23のみならず前記一対のフランジ24でも前記バンパリインホース16を潰すことができる。バンパリインホース16の座屈幅(座屈領域)が一対のフランジ24の突出長の分大きくなるため、座屈荷重が増大され、前記バンパリインホース16においてより大きな衝撃エネルギーが吸収される。
【0024】
図5は、バンパリインホース16における変形量に対する荷重の推移を簡略的に示すグラフであって、本実施形態のクラッシュボックス13での推移を実線で、従来のクラッシュボックスでの推移を破線でそれぞれ示す。同図に示すように、本実施形態のクラッシュボックス13では、変形量に対する荷重、即ち衝撃エネルギーの吸収量が増大されている。
【0025】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)前記クラッシュボックス13では、例えば車両衝突時に、前記筒部23のみならず前記一対のフランジ24でも前記バンパリインホース16を潰すことができる。バンパリインホース16の座屈幅(座屈領域)が一対のフランジ24の突出長の分大きくなるため、座屈荷重を増大することができ、前記バンパリインホース16においてより大きな衝撃のエネルギーを吸収することができる。また、前記筒部23のみの場合に比べて前記一対のフランジ24の分、前記クラッシュボックス13の強度(断面強度)を向上できるため、例えば車両衝突時に発生する横方向の荷重に対し、該クラッシュボックス13の横倒れを抑制することができる。また、前記一対のフランジ24は、前記筒部23の車両前後方向の全長に亘って延在するため、例えば車両衝突時における該フランジ24に起因した荷重変動を抑制することできる。
【0026】
(2)本実施形態では、前記筒部23を、前記第1及び第2板部材21,22の2部品で構成することで、前記筒部23の断面形状の自由度を増大することができる。
(3)本実施形態では、前記第1及び第2板部材21,22は、前記各フランジ24を構成する前記各第1及び第2フランジ部21b,22bの接合によって前記クラッシュボックス13として一体化することができる。
【0027】
(4)本実施形態では、前記各第1及び第2フランジ部21b,22bの接合にスポット溶接を利用することで、該接合工程の自動化に容易に対応することができる。
(5)本実施形態では、クラッシュボックス13に座屈変形の起点となる溝部23aを設けたことで、前記クラッシュボックス13の横倒れを抑制することができる。
【0028】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・図6に示すように、断面略八角形の筒部31を有するクラッシュボックス32や、断面略十四角形の筒部33を有するクラッシュボックス34、断面略六角形の筒部35を有するクラッシュボックス36などであってもよい。要は、バンパリインホース16の座屈幅(座屈領域)を大きくできる一対のフランジ24があればよい。
【0029】
・前記実施形態において、前記筒部23は、サイドメンバ11(ブラケット14)側とバンパリインホース16(プレート15)側とで開口面積が異なるように角錐台状に成形してもよいし、同等になるように多角筒状に成形してもよい。
【0030】
・前記実施形態において、前記フランジ24の車両幅方向への突出長は、車両前後方向の全長に亘って一定でなくてもよい。また、一対のフランジ24は、互いに異なる形状であってもよい。
【0031】
・前記実施形態において、クラッシュボックス13の各フランジ24におけるスポット溶接の打点数は、必要な強度に合わせて適宜設定すればよい。この場合、一対のフランジ24間で、スポット溶接の打点数が異なっていてもよい。
【0032】
・前記実施形態において、クラッシュボックス13をアルミニウムの押出材で形成してもよい。この場合、前記筒部23及び前記一対のフランジ24を備えたクラッシュボックス13を押出し成形にて容易に製造することができる。
【0033】
・前記実施形態において、サイドメンバ11及びクラッシュボックス13、あるいはクラッシュボックス13及びバンパリインホース16を溶接にて結合してもよい。
・前記実施形態において、バンパリインホース16の断面形状は、日の字や目の字、あるいは田の字などであってもよい。
【0034】
・前記実施形態において、バンパリインホース16を金属板で形成してもよい。
・本発明は、車両のリヤ部分に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態を示す斜視図。
【図2】(a)(b)は、同実施形態を示す平面図及び正面図。
【図3】クラッシュボックスを示す斜視図。
【図4】同実施形態の動作を示す模式図。
【図5】同実施形態の変形量と荷重との関係を示すグラフ。
【図6】本発明の変形形態を示す断面図。
【図7】従来例の動作を示す模式図。
【符号の説明】
【0036】
11…サイドメンバ、13,32,34,36…クラッシュボックス、16…バンパリインホース、21…第1板部材、21b…第1フランジ部、22…第2板部材、22b…第2フランジ部、23,31,33,35…筒部、24…フランジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の幅方向に延びるバンパリインホースの両端部において、該バンパリインホースと車両の前後方向に延びる一対のサイドメンバとの間にそれぞれ介在される一対のクラッシュボックスを備えた車両用バンパ装置において、
前記クラッシュボックスは、
車両の前後方向に延びる筒部と、
前記筒部の車両前後方向の全長に亘って該筒部から車両幅方向両側に突設された一対のフランジとを有することを特徴とする車両用バンパ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用バンパ装置において、
前記筒部は、開断面形状をそれぞれ有する第1板部材及び第2板部材の開口端同士を突き合わせてなることを特徴とする車両用バンパ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用バンパ装置において、
前記第1板部材は、開口端から車両幅方向両側に延びる一対の第1フランジ部を有し、
前記第2板部材は、開口端から車両幅方向両側に延びる一対の第2フランジ部を有し、
前記各フランジは、車両高さ方向に重ねられた前記各第1及び第2フランジ部が接合されてなることを特徴とする車両用バンパ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用バンパ装置において、
車両高さ方向に重ねられた前記各第1及び第2フランジ部は、スポット溶接にて接合されていることを特徴とする車両用バンパ装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用バンパ装置において、
前記クラッシュボックスは、断面略一定の押出材からなることを特徴とする車両用バンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−56945(P2009−56945A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226225(P2007−226225)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)