説明

車両用ホイールの成形方法

【課題】 外観を損ねることなくホイールディスクの軽量化が可能な成形方法を提供する。
【解決手段】
図2(A)に示す平板状の基材1を用意する。図2(B),(C)に示す予備成形工程において、基材1を絞り成形することにより中間材4を得る。この中間材4は、底壁2aが周縁部から中央に向かって傾斜した凹部2を有する。図2(D)に示すように、本成形工程では、中間材4の凹部2の底壁2aを円盤形状に成形することにより、ハブ取付部11を得る。これにより、ハブ取付部11を囲むアール部15の増肉を増肉することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ピースタイプの車両用ホイールにおけるホイールディスクの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、平板状の基材からホイールディスク10とホイールリム20を成形し、これを溶接してなる2ピースタイプの車両用ホイールは、特にスチール製のホイールにおいて周知である。
【0003】
上記ホイールディスク10は、円盤形状のハブ取付部11と、このハブ取付部11の外周に連なり断面がほぼ山形をなす円環状のハット部12と、このハット部12の外周に連なる円環状の意匠部13と、この意匠部13の外周に連なる円筒形状のリム取付部14とを有している。
【0004】
上記ハット部12において、ハブ取付部11の外周に隣接した環状部位は断面が湾曲しており、以下の説明ではアール部15と称する。図1(B)ではこのアール部15を斜線で示す。
【0005】
上記ハブ取付部11の中央にはハブ穴11aが形成され、ハブ穴11aを囲むようにして、複数のボルト穴11bが等間隔に形成され、ボルト穴11b間には凸部からなる変形部11cが形成されている。また、意匠部13には飾り穴13aが形成されている。
【0006】
上記ホイールディスク10のリム取付部14を、ホイールリム20のドロップ部21の内周に嵌めて溶接することにより、ホイールが完成する。
【0007】
上記ハブ取付部11は車両のハブに固定される。上記アール部15は、このハブの外周縁に隣接しているため、大きな負荷が加わる。それ故、アール部15に亀裂が発生してホイールディスク10の破壊の起点とならないように、十分な疲労強度を持たせるべく、アール部15の肉厚を設定している。
【0008】
上記ホイールディスク10は、特許文献1の図8に示すように、予備成形工程と本成形工程からなるプレス成形工程によって成形される。予備成形工程では、平板形状の基材を絞り成形して、円形の凹部を有する中間材を得る。この中間材の凹部底壁は、凹部の中心軸線に対して直交した円盤形状をなしている。
【0009】
本成形工程では、中間材を成形して、ハブ取付部11,ハット部12,意匠部13,リム取付部14を得る。この本成形工程において、中間材の円盤形状の凹部底壁がそのままハブ取付部11となる。
【0010】
上記予備成形工程において凹部を絞り成形する際に、ハブ取付部11とアール部15がほぼ完成されるが、アール部15では、凹部周壁の下縁部に位置するため、大きな曲げ歪みを伴ないながら引張り荷重を受けることになり、基材肉厚に対して10%程度減肉される。これに対して、ハブ取付部11は曲げ歪みを伴なわないので、殆ど減肉されない。
【0011】
上記成形方法では、十分な強度を持たせるために十分な肉厚を要求されるアール部15が、大きく減肉されるため、このアール部15の肉厚を基準にして基材肉厚を設定すると、ホイールディスクにおいて、要求される強度に対応する肉厚よりも大きい肉厚を有する部位が広く存在することになり、軽量化を推進する上で阻害要因となっていた。
【0012】
そこで、特許文献1の図3〜図7に示す成形方法が開発されている。この成形方法でも上述した方法と同様に、予備成形工程と本成形工程を備えている。予備成形工程で得られる中間材は、上述方法と同様に、円形の凹部とこの凹部から広がる鍔部を有しており、凹部の底壁は凹部の中心軸線と直交して円盤形状をなしている。ただし、凹部底壁の径は最終的に得られるハブ取付部の径より大きい。また、凹部周壁と鍔部との境に位置する環状屈曲部の高さ(凹部底壁からの高さ)は、最終的に得られるハット部頂上のハブ取付部からの高さより高くなっている。
【0013】
上記本成形工程では、上記中間材の凹部底壁の周縁部が下型の型面に当たった状態で、上記環状屈曲部を上型で押すことにより、ハット部の内側の山腹部を介して底壁周縁部近傍に圧縮荷重を付与する。この本成形工程によりハブ取付部とこのハブ取付部の外周に隣接したアール部が得られるが、このアール部は曲げ歪みを伴ないながら圧縮荷重を受けるので、増肉される。そのため、アール部の強度を低下させることなくホイールディスクの軽量化を図ることができる。
【特許文献1】特開2004−74248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1の図3〜図7に示す成形方法では、ハット部の内側の山腹部を介してアール部に圧縮荷重を付与するので、ハット部の内側の山腹部に皺が生じ易い。このハット部は外部から観察し易いので、皺があると外観を損なうことになる。
【0015】
また、中間材の底壁周縁部は、成形後にアール部ないしはアール部近傍領域となるが、その意匠面が本成形工程において金型と強接触することにより傷つくこともある。
さらに、ハット部の形状によっては十分な圧縮荷重を付与できず、増肉が困難な場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、車両用ホイールディスクの成形方法において、平板状の基材を絞り成形することにより、底壁が周縁部から中央に向かって傾斜した凹部を有する中間材を得る予備成形工程と、上記中間材の凹部底壁を円盤形状に成形することにより、ハブ取付部を得る本成形工程と、を備えたことを要旨とする。
【0017】
本発明方法によれば、アール部を増肉することにより強度を十分に確保できるので、基材を薄くすることができ、ひいてはホイールディスクの軽量化を図ることができる。ここでアール部の増肉とは、基材肉厚に比べて増肉する場合のみならず、基材肉厚より薄くても従来の一般的な方法に比べて増肉する場合をも含む。
【0018】
さらに本発明方法によれば、圧縮荷重は凹部底壁を介してアール部に付与するので、ハット部には圧縮荷重が付与されないか軽微であるため、ハット部に皺が発生するのを防止できる。
本成形工程において、アール部およびアール部近傍領域の意匠面が金型と強接触することがないので、この意匠面が傷つくのを防止できる。
アール部を増肉するためにハット部形状が制約を受けることがないため、多様なハット部形状を採用可能である。
【0019】
好ましくは、上記中間材の凹部底壁が中央に向かって深くなるように傾斜する。これによれば、アール部の湾曲が比較的緩やかとなり、この予備成形工程におけるアール部の減肉を抑制できる。
【0020】
好ましくは、上記中間材の凹部底壁が略円錐形状をなす。これによれば、本成形工程において、アール部に凹部底壁を介して圧縮荷重を集中的に付与でき、増肉効果を高めることができる。
【0021】
好ましくは、上記中間材の凹部底壁が、中間材の中心軸線と直交する平面に対して5〜45°の角度をなしている。5°未満だと増肉効果が弱くなり、45°を超えると成形が困難になるからである。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明では、外観を損ねることなくアール部の増肉が可能となり、ホイールディスクの軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態をなすホイールディスクのプレス成形方法について図2を参照しながら説明する。本実施形態で最終的に得られるホイールディスク10は図2(F)に示されるが、既に図1を参照して説明した通りであるので、各部位の説明を省略する。
【0024】
本実施形態の成形方法は、第1〜第5工程および穴明け等の補助工程を含む。ここで第1,第2工程を予備成形工程と称し、第3〜第5工程を本成形工程と称す。
【0025】
図2(A)に示すように、平板形状の基材1を用意する。この基材1は、正方形のスチール板材の四隅を円形にカットすることにより得られる。
【0026】
図2(B)に示すように、第1工程では、基材1を絞り成形することにより、凹部2を形成する。この凹部2の平面形状は円形をなしており、底壁2aと周壁2bとを有している。凹部2の外側は平板形状の鍔部3として残される。底壁2aは円錐形状をなしており、中心軸線に向かって徐々に深くなっている。
【0027】
図2(C)に示すように、第2工程では、さらに絞り成形することにより、凹部2を広げる。すなわち、凹部2の開口径をd1からd1’にし、円錐形状をなす底壁2aの径をd2からd2’へと広げる。これにより、中間材4を得る。
【0028】
上記中間材4において、凹部2の中心軸線100と直交する平面に対する底壁2aの傾斜角度Θは、好ましくは5〜45°である。なお、本実施形態では、底壁2aの傾斜角度Θは第1工程と第2工程で等しいが、第1工程では比較的小さくし、第2工程で増大させるように成形してもよい。
【0029】
図2(D)に示すように、第3工程では、上記中間材4をプレス成形してハブ取付部11と、ハット部12を得る。ハブ取付部11は、上記中間材4における円錐形状の底壁2aを円盤形状に成形することにより得られる。ハット部12は中間材4における周壁2bと鍔部3の内周部を成形することにより得られる。
図示しないが、第3工程と第4工程の間に、穴明け工程を実行し、ハブ穴,ボルト穴,飾り穴を形成する。
【0030】
図2(E)に示すように、第4工程では、残された鍔部3の内周部をプレス成形することにより意匠部13を得る。
図2(F)に示すように、第5工程では、鍔部3の外周部を成形してリム取付部14を得る。
最後に、ハブ穴11aの周縁部に短い円筒形状のフランジ部を形成するとともに,ボルト穴の周縁部にナット座を成形する。
【0031】
次に、第1〜第5工程における肉厚の変化について、特にアール部15を中心にして説明する。なお、図2においては肉厚を誇張して記載しているが、肉厚の変化は示していない。
【0032】
図2(B)に示す第1工程での絞り成形により、凹部2では全ての領域で減肉する。すなわち、凹部2は周壁2bおよびその近傍領域のみならず、底壁2aでも円錐形状成形による引張荷重を受けるため、減肉が生じる。
【0033】
上記第1工程において、アール部予定領域15’(中間材4においてアール部15が形成されるべき領域)の曲げ歪みは、最小限に抑制される。その理由として、底壁2aが円錐形状に成形され、成形に伴なう減肉を負担すること、底壁2aの円錐形状が中心軸線に向かって深くなるため、底壁2aの外周での曲げ角度が緩やかになり曲げ歪みが抑制されること、アール部予定領域15’が、曲げ歪みが比較的大きい底壁2aと周壁2bの境部から外れていること、等がある。
【0034】
図2(C)に示す第2工程でも、凹部2の広がりに伴い、アール部予定領域15’に曲げ歪みが生じるが、底壁2aが成形に伴なう減肉を負担すること、およびこのアール部予定領域15’が第1工程でも曲げられていて第2工程での曲げ歪みが小さいことにより、アール予定領域15’の減肉を最小限にすることができる。この第2工程により、アール部予定領域15’が円錐形状の底壁2a(すなわち、ハブ取付部予定領域)に隣接することになる。結果として中間材4のアール部予定領域15’は基材1の肉厚に対して数%の減肉に留まる。この減肉は底壁2aの減肉よりも小さい。
【0035】
図2(D)に示す第3工程では、底壁2aが下型に当たり円錐形状から円盤形状に成形される際に、底壁2aの広がりが周壁2bにより規制される。これにより、底壁2aを介してアール予定領域15’に圧縮荷重が付与されることになる。アール予定領域15’では他の領域に比べて大きな曲げ歪みが生じた状態で圧縮荷重を受けるため、増肉が集中する。その結果、成形されたアール部15は、基材1に比べて10%程度増肉される。これに対して、第3工程で底壁2aからハブ取付部11を成形する過程では、ハブ取付部11の増肉は殆どないか、僅かしかない。ハブ取付部11はアール部15に比べて要求される疲労強度のレベルが低いので、薄肉になっても支障はない。
【0036】
上記第3工程では、ハット部12も同時成形される。本実施形態では、このハット部12の成形は、アール部15の曲げ歪みを増大させるように働くため、この点からも増肉効果が得られる。なお、ハット部12の成形の際、ハット部12の頂上付近では円周方向に圧縮ひずみを受けるので、基本的には増肉する挙動を示すが、ハット形状により、減肉するケースも稀にある。
【0037】
上記のように、他の領域よりも高い疲労強度を要求されているアール部15を増肉し、他の領域に比べて厚くすることができる。そのため、基材1を薄くでき、ホイールディスク10の軽量化を図ることができる。
【0038】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の形態を採用可能である。例えば、中間材の凹部底壁は、円錐形状に限らず、下方に向かって凸になるように(凹部が中心軸線に向かって深くなるように)湾曲していてもよい。この場合、周縁部から中央に向かって傾斜角度が緩やかになるのが好ましい。
また、中間材において、凹部底壁が中心軸線に向かって浅くなるように一回以上の変曲点を持って傾斜していてもよい。
さらに、図3に示すとおり、図2(D)に成形する際に成形しやすいように、凹部2の底壁2aの中心部2cは傾斜角を0度とし平坦な形状としてもよい。
本実施形態では予備成形工程を第1,第2の工程で構成していたが、1回の工程で構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】2ピース車両用ホイールを示すもので、(A)は縦断面図、(B)は正面図である。
【図2】本発明の車両用ホイールディスクの成形方法の一実施形態において、(A)は基材を示し,(B)〜(F)は順に実行される第1〜第5成形工程を示す縦断面図である。
【図3】本発明の成形方法の第2実施形態における中間材の縦断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 基材
2 凹部
2a 底壁
2b 周壁
4 中間材
10 ホイールディスク
11 ハブ取付部
12 ハット部
13 意匠部
14 リム取付部
15 アール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の基材を絞り成形することにより、底壁が周縁部から中央に向かって傾斜した凹部を有する中間材を得る予備成形工程と、
上記中間材の凹部底壁を円盤形状に成形することにより、ハブ取付部を得る本成形工程と、
を備えたことを特徴とする車両用ホイールディスクの成形方法。
【請求項2】
上記中間材の凹部底壁が中央に向かって深くなるように傾斜することを特徴とする請求項1に記載の車両ホイールディスクの成形方法。
【請求項3】
上記中間材の凹部底壁が略円錐形状をなすことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ホイールディスクの成形方法。
【請求項4】
上記中間材の凹部底壁が、中間材の中心軸線と直交する平面に対して5〜45°の角度をなしていることを特徴とする請求項3に記載の車両用ホイールディスクの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−83297(P2007−83297A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277627(P2005−277627)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)