説明

車両用ホイールの製造方法

【課題】 軽量かつ高強度の車両用ホイールを低コストで製造できるようにする。
【解決手段】 ディスク11とリムの一方の端部12とを一体に有する略円盤形状の第1部品10を鋳造するとともに、厚肉のリム用プリフォームとして提供される筒形状の第2部品20を鋳造する。第1部品10は、ディスク11とリムの一方の端部12との境に環状の凹部15を有するとともに、この環状の凹部15の径方向外側および内側に位置する一対の環状の第1接合面18,19を有する。また、第2部品20は、その一端面に、第1部品10の一対の第1接合面18,19と対峙する一対の環状の第2接合面28,29を有する。次に、第1部品10の一対の第1接合面18,19と第2部品20の一対の第2接合面28,29とを摩擦圧接する。次に、第2部品20をスピニング加工してリムの中間部20aおよび他方の端部20bを成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ホイールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ホイールを、アルミ合金等の軽金属で鋳造する方法は公知である。このような鋳造方法では、円盤形状のディスク用成形空間と筒形状のリム用成形空間を有する鋳型を用意する。ディスク用成形空間の中央または側面にゲートを接続し、このゲートから溶湯を注入してディスク用成形空間、リム用成形空間へと順に溶湯を充填する。
【0003】
上記鋳造の際には、複雑な形状のディスク用成形空間から狭いリム用成形空間に短時間に溶湯を充填させる必要があり、金型構造的にも抜き勾配を付ける必要があるため、両成形空間の境の環状の接続部を広くしてある。
【0004】
上記車両用ホイールの製造方法では、最終形状に近い車両用ホイールを一度で成形するため、金型構造が複雑となり、製造コストが高かった。
【0005】
また、溶湯充填後の凝固過程において、リム先端から凝固が始まり上記接続箇所に向かって凝固が進行するが、上記環状の接続部の溶湯量が多いので、これより先にディスク用成形空間での凝固が始まり、上記環状の接続部が最後に凝固することになる。そのため、この接続部でひけ巣等の鋳造欠陥が生じる可能性があった。その結果、ディスク部の凝固速度を向上させることが困難となり、機械的性質の劣化が懸念された。
【0006】
さらに、最終形状の車両用ホイールにおいて、上記環状接続部に対応するディスクとリムの境は、要求される強度が低いにも拘わらず、必要以上の肉厚となり材料の無駄があった。
【0007】
上記鋳造方法の欠点は鋳造される車両用ホイールの径およびリム幅、肉厚が大きくなるにしたがって顕著になる。なぜなら、径が大きいほど上記環状接続部を広くして鋳造性を高める必要があるため、鋳造欠陥の発生率が高くなるとともに、材料の無駄が多くなり軽量化を図ることができないからである。
【0008】
特許文献1には、第1、第2の部品を用意し、これらを摩擦圧接することにより、車両用ホイールを製造する方法が開示されている。詳述すると、第1部品は、ディスクとリムの一方の端部とを一体に有して略円盤形状をなしている。また、第2部品はリムの大部分すなわちリムの中間部と他方の端部を一体に有して筒形状をなしている。
【0009】
上記第1部品は、上記ディスクとリムの一方の端部との境において環状の凹部を有するとともに、この環状の凹部の径方向外側および内側に位置する一対の環状の第1接合面を有している。
他方、上記第2部品は、その一端面に、上記第1部品の一対の第1接合面と対峙する一対の環状の第2接合面を有している。
【0010】
そして、上記第1部品の一対の第1接合面と第2部品の一対の第2接合面とを溶接することにより、ホイール原形を得る。その後、切削加工により最終形状の車両用ホイールを得る。上記溶接としてアーク溶接、レーザー溶接等の他に摩擦圧接も教示されている。
【0011】
特許文献1の製造方法は、第1、第2部品を別々に製造するため、製造コストを削減できる可能性がある。また、ディスクとリムの境に環状の空洞が形成されるため、材料の無駄を省き軽量化を図ることもできる。なお、上記特許文献1には、第1、第2部品の個別の製造工程について記載は無い。
【0012】
特許文献2にも、2つの部品により車両ホイールを製造する方法が開示されている。特に特許文献2の第3図に示す第3実施例では、ディスクを鍛造または鋳造後鍛造することにより得る。リムは、厚肉のプリフォームを鋳造した後、このプリフォームをスピニング加工することにより得る。そして、図2に示す第2実施例と同様にリム内周部をディスク外周部に摩擦圧接することにより、ホイール原形を得る。その後、切削加工により最終形状の車両用ホイールを得る。
【特許文献1】特開2000−289402号公報
【特許文献2】特許2838593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1において2つの部品を溶接する際にアーク溶接等を用いる場合には、その熱により材質改変を招く可能性がある。また、摩擦圧接を用いる場合には、下記の不都合がある。
【0014】
摩擦圧接は、一方の部品を他方の部品に対して相対回転するとともに、大きな力(推力)で一方を他方に近づけるように押し付けることにより、実現される。そのため、上記第1、第2部品は、大きな推力(またはその反力)に耐える強度を要求される。
【0015】
特許文献1では、一対の第2接合面で受ける推力(またはその反力)は、最終的にリムの中間部で負担することになるが、このリムの中間部は薄肉であるので、変形を招く恐れがある。
【0016】
また、第2部品において径方向外側の第2接合面が、リムの中間部から径方向に突出する鍔部の外周縁近傍に形成されているため、径方向外側の第2接合面で受ける推力(またはその反力)は、推力の作用方向と直交する鍔部で負担することになる。そのため、この鍔部の内周縁部(リムの中間部との接続部)に大きな応力がかかり、その変形を招く恐れがある。
【0017】
上記のように特許文献1では、摩擦圧接の際に第2部品の変形を招く恐れがあり、この変形を招かないためには推力を低減させる必要があり、接合品質の劣化を招く。
【0018】
特許文献2の第3実施例の場合では、リムの中間部がリムの接合面のほぼ中央に位置しているため、特許文献1より摩擦圧接条件が良いことが推測されるが、それでもリムの中間部が薄肉であるため推力を十分に付与することはできない。また、特許文献2では、ディスクとリムとの境が厚肉であるため材料の無駄が生じ、車両用ホイールの軽量化に寄与しない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、車両用ホイールの製造方法において、
(ア)ディスクとリムの一方の端部とを一体に有する略円盤形状の第1部品と、厚肉のリム用プリフォームとして提供される筒形状の第2部品とを用意し、
上記第1部品は、上記ディスクとリムの一方の端部との境に環状の凹部を有するとともに、この環状の凹部の径方向外側および内側に位置する一対の環状の第1接合面を有し、
上記第2部品は、その一端面に、上記第1部品の一対の第1接合面と対峙する一対の環状の第2接合面を有し、
(イ)上記第1部品の一対の第1接合面と第2部品の一対の第2接合面とを摩擦圧接し、
(ウ)上記摩擦圧接後に上記第2部品をスピニング加工してリムの中間部および他方の端部を成形することを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、車両用ホイールを2つの部品により製造するので、製造コストを低減させることができる。しかも大きな強度を要求されないディスクとリムの境において環状の空洞が形成されるので、材料の無駄を省くことができるとともに、車両用ホイールの軽量化を図ることができる。
また、スピニング加工によりリムの薄肉軽量化、高強度化を図ることができる。
また、摩擦圧接を用いるので入熱量が少なく、そのため材質改変や変形が少なく、溶材も不要であり、溶接コストが低い。
さらに、摩擦圧接の際に、第2部品は肉厚であるため、一対の第2接合面から受ける大きな推力を、変形することなく負担することができ、接合品質を向上させることができる。
【0021】
好ましくは、上記第1部品が軽金属を鋳造したもの、または鋳造後に鍛造したものである。これによれば、第1部品を低コストで鋳造することができ、巣等の鋳造欠陥の発生を抑制ないしは防止できる。その結果、凝固速度を向上させることが可能となり、機械的性質の向上が図れる。
【0022】
好ましくは、上記第2部品が軽金属を鋳造することにより得られる。これによれば、第2部品を低コストで鋳造することができ、巣等の鋳造欠陥の発生を抑制ないしは防止できる。
【0023】
好ましくは、上記第2部品が軽金属を押出成形した円筒形状のもの、または円筒形状の押出成形品をほぼ円錐形状に加工したものである。
これによれば、第2部品をさらに安価に得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、軽量かつ高強度の車両用ホイールを低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の第1実施形態に係わる車両用ホイールの製造方法を図1、図2を参照しながら説明する。概略的に説明すると、アルミ合金(軽金属)の鋳造品からなる円盤形状の第1部品10と筒形状の第2部品20とを摩擦圧接して、図において実線で示すホイール初期形1を得、次に、スピニング加工をして破線で示すホイール原形2を得、その後で切削して2点鎖線で示す最終形状の車両用ホイール3を得る。
【0026】
まず、鋳造品または鋳造後鍛造品としての第1部品10について説明する。この第1部品10は、ディスク11と、リムの一方の端部12とを有している。
【0027】
上記ディスク11は、通常の車両用ホイールのディスクと同様ないしは類似の形状をなし、図1のスポーク部11aと図2の飾り穴11bとを周方向に交互に有している。
【0028】
上記リムの一端部12は、リムの一方のフランジ部12aと、一方のビードシート部12bとを有している。
【0029】
上記ディスク11とリムの一端部12との境部における一方の面には、環状の凹部15が形成されている。なお本実施形態では、凹部15の断面形状が、スポーク部11aに対応する箇所と飾り穴部11bに対応する箇所で異なっている。本実施形態では、この環状凹部13aは全周にわたって連続しているが、連続せずに所定間隔おきにリブ等を配して中断してもよい。
【0030】
上記境部の一方の面において、環状凹部15の径方向内側および径方向外側の領域は、一対の第1接合面18、19として提供される。これら一対の第1接合面18、19は、第1部品10の軸芯Oxを中心とする共通の仮想円錐面A上にある。なお、第1接合面18,19は、この仮想円錐面Aの代わりに軸芯Oxと直交する仮想平面上に位置させてもよい。
【0031】
上記第2部品20は、厚肉のリム用プリフォームとして鋳造され、概略的には、一端から他端に向かって比較的緩やかな角度で円錐状に広がるような筒形状をなしている。
【0032】
より詳しく説明すると、第2部品20の内周において、一端から所定距離にわたる領域が円筒面21をなし、この領域から他端に向かって円錐面22をなしている。他方、第2部品20の外周では、一端から所定距離(上記円筒面21の形成領域より短い)離れた箇所が最小径をなし、この最小径部23から他端に向かって円錐面24をなしている。
【0033】
上記第2部品20の外周において、上記一端と最小径部23との間には、ほぼ径方向に突出する環状の鍔部25が形成されている。
【0034】
上記第2部品20において、内側と外側の円錐面22,24で画成された円錐状の主要部26は均等肉厚をなす。内周の円筒面21と外周の最小径部23で挟まれた部位が最小肉厚をなし、この最小径部23から主要部26に向かって徐々に肉厚が増大するようになっている。そして、鍔部25を形成した部位が第2部品20で最大肉厚となっている。なお、主要部は均等肉厚でなくてもよい。
【0035】
上記第2部品20の一端面は、上記仮想円錐面Aと同形状の円錐面27をなしている。この円錐面27の内周縁近傍と外周縁近傍の領域が、一対の第2接合面28,29として提供される。
【0036】
上述した円盤形状の第1部品10および円錐状に広がる厚肉の筒形状の第2部品20は比較的簡単な構造であるから、容易かつ低コストで鋳造でき、しかも鋳造欠陥の発生を抑制ないしは防止できる。
【0037】
上記形状をなす第1部品10と第2部品20は、第1接合面18,19と第2接合面28,29が当接した状態で、一方を他方に対して相対回転することにより、摩擦圧接(摩擦溶接)される。この摩擦圧接により実線で示すホイール初期形1が得られる。
【0038】
上記摩擦圧接の際には、一方の部品を他方の部品に向かって押し付ける軸方向の大きな力(推力)が付与される。この際、第1部品10では、第1接合面18,19に付与された推力(またはその反力)は、軸方向または斜め方向に所定距離にわたって延びる部位により変形することなく受け止められる。
【0039】
他方、第2部品20では、第2接合面28、29に付与された推力(またはその反力)は、厚肉をなす主要部26で変形することなく受け止められる。なお、外側の第2接合面29に付与された推力(またはその反力)は、鍔部25を介して主要部26に伝達されるが、主要部26が厚肉をなし鍔部25の径方向への突出量が小さいので、鍔部25は変形することなく大きな推力(またはその反力)を受け止めることができる。その結果、良好な接合品質を得ることができる。
【0040】
上記摩擦圧接により、第1部品10の環状凹部15が第2部品20の一端面により塞がれて環状の空洞30となる。この部位は大きな強度を必要としないところであるので、空洞30が形成されていても差し支えない。この空洞30により、材料の節約および車両用ホイールの軽量化を図ることができる。
【0041】
上記摩擦圧接後に、上記ホイール初期形1にスピニング加工(フローフォーミング加工)を施し、破線で示すホイール原形2を得る。このスピニング加工により、薄肉で高強度のリムが得られる。
【0042】
スピニング加工は、第2部品20の円筒面21をマンドレルに嵌めた状態で行う。具体的には、最小径部23および主要部26をスピニング加工して薄肉の所定形状にし、リムのドロップ部20a(リムの中間部)、他方の端部20bを成形する。このリムの他端部20bは、他方のビードシート部20c、他方のフランジ部20dを含む。
【0043】
上記スピニング加工において、上記最小径部23での肉厚が減少し、その結果として鍔部25の突出量が増大する。この鍔部25は一方のビードシート部12bとドロップ部20aとの間の段差を提供する。
【0044】
上記スピニング加工の後に、切削を行って2点鎖線で示す最終形状の車両用ホイール3を得る。
【0045】
上記実施形態において、第1部品10と第2部品20は同材料により形成してもよいが、異なる材料により形成してもよい。例えば、第1部品10には鋳造に適し機械的性質の高い材料としてたとえばAl-Si系合金を用い、第2部品20には、鋳造に適するとともにスピニング加工に適し、機械的性質の高い材料としてたとえばAl-Mg、Al-Mg-Si系、Al-Zn-Mg系合金を用いる。
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態について図3を参照しながら説明する。第2実施形態において第1実施形態と同様の構成については図中同番号を付して、その説明を省略する。第2実施形態では、第2部品20の一端面が円錐面ではなく、第1部品10の環状凹部15に対峙する環状の浅い凹部27aを有している。この凹部27aの径方向内側と外側に一対の第2接合面28,29が形成されている。
【0047】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の態様を採用可能である。例えば、第2部品20を上記実施形態より厚くし、鍔部25をなくしてもよい。
第2部品20を円筒形状の押出品で構成してもよい。また、この円筒形状の押出品を加工して上記実施形態と似た円錐形状にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態をなす車両用ホイールの製造方法を説明する要部断面図であり、スポーク部での断面図である。この図において、実線は摩擦圧接直後の形態、破線はスピニング加工完了後の形態、2点鎖線は切削後の形態を、それぞれ示す。
【図2】同製造方法を説明する要部断面図であり、飾り窓部での断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態をなす車両用ホイールの製造方法を説明する図1相当図である。
【符号の説明】
【0049】
1 摩擦圧接工程後のホイール初期形
2 スピニング加工後のホイール原形
3 切削後の最終形状の車両用ホイール
10 第1部品
11 ディスク
12 リムの一端部
15 環状の凹部
18、19 第1接合面
20 第2部品
20a リムドロップ部(リムの中間部)
20b リムの他端部
28,29 第2接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(ア)ディスクとリムの一方の端部とを一体に有する略円盤形状の第1部品と、厚肉のリム用プリフォームとして提供される筒形状の第2部品とを用意し、
上記第1部品は、上記ディスクとリムの一方の端部との境に環状の凹部を有するとともに、この環状の凹部の径方向外側および内側に位置する一対の環状の第1接合面を有し、
上記第2部品は、その一端面に、上記第1部品の一対の第1接合面と対峙する一対の環状の第2接合面を有し、
(イ)上記第1部品の一対の第1接合面と第2部品の一対の第2接合面とを摩擦圧接し、
(ウ)上記摩擦圧接後に上記第2部品をスピニング加工してリムの中間部および他方の端部を成形することを特徴とする車両用ホイールの製造方法。
【請求項2】
上記第1部品が軽金属を鋳造したもの、または鋳造後に鍛造したものであることを特徴とする請求項1に記載の車両用ホイールの製造方法。
【請求項3】
上記第2部品が軽金属を鋳造することにより得られることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ホイールの製造方法。
【請求項4】
上記第2部品が軽金属を押出成形した円筒形状のもの、または円筒形状の押出成形品をほぼ円錐形状に加工したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ホイールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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