説明

車両用ミラー部材

【課題】軽量化が可能であって、固定部材の破損強度の向上及びミラーの反射歪みの抑制を従来よりもバランスよく制御できる車両用ミラー部材を提供する。
【解決手段】上記課題を解決する本発明の車両用ミラー部材100は、平滑な主面110aを有し、第1の樹脂材料からなる反射層保持部110と、該反射層保持部110に固定して設けられ、第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部120、130と、反射層保持部110の上記主面110a上に設けられた金属反射層140とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ミラー部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ミラー部材として、反射面を形成するための基板となる部材である反射層保持部と、車両に取り付けるための固定部材とを備えるものが知られている。従来、このような分野の技術として、特許文献1に記載のものがある。この文献に記載のミラー部材は、そのミラー部材が組み付けられるハウジングと共に自動車用のバックミラーを構成している。このミラー部材は、前側外面がハウジングの外面を形成し、内面がハウジングの内面を形成するミラーを保持するための樹脂製保持部材を有しており、その保持部材の前側外面に反射膜が形成され、さらにハウジングやアクチュエータに取り付けるための固定部材が一体に形成されている。
【特許文献1】特開2002−120648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1記載のものをはじめとする従来の技術では、保持部材及び固定部材が同一の樹脂材料で構成されている。このようなミラー部材では、ミラーの反射歪みを低減する観点から、耐熱変形性の高い樹脂材料を用いることが望ましい。しかしながら、熱変形性の高い樹脂材料は弾性が低いため、ハウジングに取り付ける際の作業性が悪くなり、しかも固定部材の破損強度が低下してしまう。一方で、弾性の高い樹脂材料は熱変形性が低いため、ミラーの反射歪みが顕著になってしまう。
【0004】
そのため、現在までに実用化されているミラー部材は、例えば、ガラス板の背面側に蒸着処理あるいはそれに類する処理の施されたミラーが、ミラー保持部材に取り付けられ、その保持部材がミラーハウジング内に固定された構造となっている。しかしながら、このようなガラス板を用いたミラー部材は、軽量化に限界がある。
【0005】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、軽量化が可能であって、固定部材の破損強度の向上及びミラーの反射歪みの抑制を従来よりもバランスよく制御できる車両用ミラー部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明は、平滑な主面を有し、第1の樹脂材料からなる反射層保持部と、該反射層保持部に固定して設けられ、第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部と、反射層保持部の上記主面上に設けられた金属反射層とを備える車両用ミラー部材を提供する。
【0007】
本発明の車両用ミラー部材では、車両用ミラー本体のハウジング又はアクチュエータに固定するためのミラー本体固定部を構成する第2の樹脂材料が、ミラーとして機能する金属反射層を保持するための反射層保持部を構成する第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する。その結果、反射層保持部の耐熱変形性を高くすることが可能になってミラーの反射歪みを抑制することができる。しかも、ミラー本体固定部は、その弾性を高くすることが可能になるので、破損強度が高くなる。さらに、反射層保持部及びミラー本体固定部の両方を樹脂材料で構成することで軽量化も可能となる。また、高い耐熱変形性を有する樹脂材料は高い硬度を有するものが多いため、本発明の車両用ミラー部材は、反射層保持部の材料をそのような樹脂材料にすることで、ミラーの耐傷つき性を向上することもできる。
【0008】
本発明の車両用ミラー部材において、反射層保持部の金属反射層との界面に、金属反射層と接するようにして分散した平均粒径100nm以下のSiO粒子及び/又はAl粒子を備えると好ましい。こうすることにより、金属反射層を構成する金属等の材料と反射層保持部を構成する樹脂材料との間の密着性を高めることが可能となる。これは、反射層保持部の表面に反応性の高い水酸基(Si又はAlに結合した水酸基)が存在することに起因すると考えられる。また、SiO粒子及びAl粒子の平均粒径を100nm以下にすることで、これらの粒子に起因し得る反射光の散乱を十分に抑制することができる。
【0009】
さらに、上述のSiO粒子及び/又はAl粒子が分散した領域のミラー本体固定部側に分散したガラスフィラーを備えると好ましい。これにより、金属反射層の下地部分の硬度が更に高まるため、反射面の耐傷つき性を一層向上することができる。
【0010】
上記第1の樹脂材料は、ポリカーボネート、アクリル樹脂、硬質ポリブチレンテレフタレート及び環状オレフィンコポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂を主成分として含み、第2の樹脂材料は、ポリプロピレン、ポリアセタール及び軟質ポリブチレンテレフタレートからなる群より選ばれる1種以上の樹脂を主成分として含むことが好適である。第1及び第2の樹脂材料がこれらを主成分として含めば、車両用ミラー部材におけるミラー本体固定部の破損強度及びミラーの反射歪みをより効果的かつ確実にバランスよく制御することができる。つまり、ミラー本体固定部の破損強度を十分に高めると同時に、ミラーの反射歪みを十分に抑制することができる。
【0011】
本発明の車両用ミラー部材は、金属反射層の反射層保持部とは反対側の主面上に、光触媒性物質と親水性物質とを含む親水機能層を備えると好ましい。このミラー部材によると、親水機能層における親水性物質の親水性により、ミラー表面に付着する水滴を薄い膜状に広げるため、優れた防曇性を得ることができる。さらに、ミラー表面に、親水機能を低下させるような汚れが付着した場合でも、親水機能層における光触媒性物質の光触媒作用により、付着した汚れが分解される。これにより、親水機能層における親水機能の低減を抑制することができる。その結果、雨天時等においても、ミラー表面に付着した水滴を水膜化できるので、十分な視認性を確保でき、安全性が向上する。
【0012】
また、本発明の車両用ミラー部材は、金属反射層の反射層保持部とは反対側の主面上に、光触媒性物質を含む光触媒層と、親水性物質を含む親水層とを備えてもよい。親水層を備えることで本発明の車両用ミラー部材は、良好な防曇性及び視認性を示すことができる。また、このミラー部材は、親水機能を低下させるような汚れが付着した場合でも、光触媒層に含まれる光触媒性物質の光触媒作用により、付着した汚れが分解されるので、優れた耐久性を示すことができる。その結果、このミラー部材は良好な防曇性を長期間にわたり維持する。
【0013】
本発明の車両用ミラー部材において、光触媒性物質がTiOを含み、親水性物質がSiOを含むと好適である。SiO(二酸化ケイ素)は、親水作用を有する物質の中でも耐摩耗性や耐傷付き性に優れているため、この車両用ミラー部材は、更に優れた防曇性及び視認性を示すだけでなく、より良好な耐摩耗性及び耐傷付き性を有するものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軽量化が可能であって、固定部材の破損強度の向上及びミラーの反射歪みの抑制を従来よりもバランスよく制御できる車両用ミラー部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0016】
図1は、本発明の好適な実施形態に係る車両用ミラー部材(以下、単に「ミラー部材」という。)を示す模式斜視図である。図1に示すミラー部材100は、平滑な主面110aを有し、第1の樹脂材料からなる反射層保持部110と、その反射層保持部110に固定して設けられ、第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部120、130と、反射層保持部110の主面110a上に設けられた金属反射層140とを備えるものである。
【0017】
反射層保持部110は、その主面110a上に金属反射層140を設けるための基板として機能する。反射層保持部110は角取りされた長方形板状であって、その主面110aは、金属反射層140がその上に形成された場合に金属反射層140に映された像がぼやけない程度に平滑になっている。また、反射層保持部110の主面110aとは反対側の主面110bには、後に詳述するミラー本体固定部120及び130と嵌合する形状を有する凹部110c及び110dが設けられている。これらの凹部110c、110dは、反射層保持部110の側面110eから反対側の側面110fに向かって溝状に形成されており、その一方の端面は側面110eと面一であり、他方の端面は側面110fよりも側面110e側に位置している。凹部110c、110dの溝断面形状は、溝の幅方向に長さの異なる2つの矩形が上下に連接した形状となっており、ミラー本体固定部120、130を下方向に取り外せないよう、溝開口部側の矩形の方が溝底面側の矩形の幅よりも狭くなっている。
【0018】
ミラー本体固定部120は、反射層保持部110を図示しないミラー本体のハウジング又はアクチュエータと連結するために配設される。ミラー本体固定部120は、反射層保持部110に固定されるよう凹部110cと嵌合する形状を有する第1嵌合部120aと、図示しないミラー本体のハウジング又はアクチュエータと嵌合する形状を有する第2嵌合部120bとからなる。また、ミラー本体固定部130は、反射層保持部110に固定されるよう凹部110cと嵌合する形状を有する嵌合部130aと、図示しないミラー本体のハウジング又はアクチュエータと係合する形状を有する係合部130bとからなる。
【0019】
第1嵌合部120a及び嵌合部130aは、幅方向に長さの異なる2つの矩形が連接した断面形状を有する。これら第1嵌合部120a及び嵌合部130aが、反射層保持部110の凹部110c、110dとそれぞれ嵌合することにより、ミラー本体固定部120、130が反射層保持部110に固定される。第2嵌合部120bは、矩形環の一部が欠損した断面形状を有しており、係合部130bは突起を有する鉤状の断面形状を有している。第2嵌合部120bがハウジング又はアクチュエータに備えられる部分と嵌合し、係合部130bがハウジング又はアクチュエータに備えられる部分と係合することにより、ミラー部材100がミラー本体に固定される。なお、これら第2嵌合部120b、係合部130bの形状は、従来のミラー部材が備えるものと同様の形状であればよい。
【0020】
ミラー本体固定部120、130を構成する第2の樹脂材料は、反射層保持部110を構成する第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有するものであればよい。ここで、「耐熱変形性」とは、外部から荷重を受けた状態で加熱された際に変形し難い特性であり、熱機械分析による線膨張率試験方法(JIS K7197)で評価することができる。また、弾性は荷重たわみ温度の試験方法(JIS K7191−1)により評価することができる。
【0021】
このようなミラー部材100では、反射層保持部110の耐熱変形性が高くなるため、車両用ミラーの製造時及び使用時におけるミラーの反射歪みを抑制することができる。しかも、ミラー本体固定部120、130はその弾性が高くなるので、ミラー本体に組み付ける際に破損したり、ミラー本体を使用している間に破損したりすることを有効に防止することができる。また、特に反射層保持部110の材質を従来実用化されているガラスよりも比重の軽い樹脂材料にすることで、ミラー本体の軽量化が可能となる。また、高い耐熱変形性を有する樹脂材料は高い硬度を有するものが多いため、ミラー部材100は、反射層保持部110の材料をそのような樹脂材料にすることで、ミラーの耐傷つき性を向上することもできる。さらには、加熱によっても反射層保持部110の変形が抑制され、かつミラー部材100の破損が防止されることで、このミラー部材100をミラー本体に組み付ける際の作業性が向上する。
【0022】
そのような第1及び第2の樹脂材料の主成分となる樹脂の組合せとしては、第1の樹脂材料においては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、硬質ポリブチレンテレフタレート及び環状オレフィンコポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であって、第2の樹脂材料においては、ポリプロピレン、ポリアセタール及び軟質ポリブチレンテレフタレートからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であると好適である。さらに、第1の樹脂材料における樹脂がポリカーボネートであるとより好ましく、第2の樹脂材料における樹脂がポリプロピレンであるとより好ましい。
【0023】
なお、第1及び第2の樹脂材料には、耐熱変形性及び弾性が上述のような関係を満足する限りにおいて、主成分となる樹脂以外に微量の添加成分を含んでいてもよい。またミラー本体固定部120、130は互いに同一の樹脂材料で構成されていてもよく、互いに異なる樹脂材料で構成されていてもよい。
【0024】
金属反射層140は膜状であって、反射層保持部110の主面110a上に蒸着法、スパッタ法等により直接形成された金属を含む反射膜である。すなわち、金属反射層140は、それぞれ異なる材質である複数の金属膜を積層してなるものであってもよく、それぞれ異なる積層段階で形成された複数の金属膜を積層してなるものであってもよい。金属反射層140の材質は、従来の反射膜に用いられるものであれば特に限定されず、単独種の金属であってもよく、合金であってもよく、炭素を少量含む鋼であってもよい。具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)及び白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上の金属及び/又はステンレス鋼が挙げられる。これらの中では、耐薬品性及び耐食性を向上させる観点から、クロム、ニッケル及び白金からなる群より選ばれる1種以上の金属が好ましい。
【0025】
金属反射層140の厚みは特に制限されないが、車両用ミラーのハーフミラー化の防止等の観点から15〜100nmであると好ましい。この膜厚が上記下限値を下回ると、車両用ミラーのハーフミラー化を十分に防止し難くなる傾向にあり、上記上限値を超えると、材料コスト及び生産コストが過剰に高くなる傾向にある。
【0026】
次に、上記実施形態に係るミラー部材100の製造方法についてその一例を説明する。このミラー部材100の製造方法は、反射層保持部110及びミラー本体固定部120、130を形成するための金型を準備する第1工程と、その金型を用いて反射層保持部110を形成する第2工程と、上記金型を用いてミラー本体固定部120、130を形成する第3工程と、反射層保持部110の主面110a上に金属反射層140を形成する第4工程とを有する。このミラー部材100の製造方法において、反射層保持部110とミラー本体固定部120、130とは二色射出成形により形成されている。以下、各工程について、必要に応じて図2、3及び4を参照しながら詳述する。
【0027】
まず、第1工程において、反射層保持部110及びミラー本体固定部120、130を形成するための金型を準備する。図2は、この金型200の各部材を模式的に示す斜視図である。金型200は、上側の第1金型210と、下側の第2金型220と、主に第2工程において用いられる第3金型230と第4金型240とを備える。図3は、上側の第1金型210及び下側の第2金型220を示す模式平面図である。
【0028】
上側の第1金型210は、図2においては上側に位置する矩形板状の底部212、及びその底部212の縁端部分から垂下する矩形環状の壁部214からなる。それら底部212及び壁部214によって、図2において下側に開口部を有するキャビティ216が形成されており、そのキャビティ216の空間形状は、図1における反射層保持部110の上部112と同一形状である。また、第1金型210は、壁部214の一部を切り欠くようにして形成された溝部218a及び218bが設けられている。これらの溝部218a、218bはそれぞれ第3金型230の上部と第4金型240の上部が嵌り込み、かつ滑動可能な空間形状になっている。また、溝部218a、218bの深さは、キャビティ216の深さよりも浅い。
【0029】
下側の第2金型220は、図2においては下側に位置する矩形板状の底部222、及びその底部222の縁端部分から直立する矩形環状の壁部224からなる。それら底部222及び壁部224によって、図2において上側に開口部を有するキャビティ226が形成されており、そのキャビティ226の空間形状は、図1における反射層保持部110の下部114と同一形状である。また、第2金型220は、壁部214の一部を切り欠くようにして形成された溝部228a及び228bが設けられている。これらの溝部228a、228bはそれぞれ第3金型230の下部(すなわち、第3金型230の上記上部以外の部分)と第4金型240の下部(すなわち、第4金型240の上記上部以外の部分)が嵌り込み、かつ滑動可能な空間形状になっている。また、それらの断面形状はそれぞれ、ミラー部材100におけるミラー本体固定部120、130の上側一部を除く部分の断面形状と同一である。
【0030】
さらに第2金型220の底部222には、溝部228a及び228bからそれぞれ連続して設けられた溝部228c及び228dが設けられている。これら溝部228c及び228dの空間形状はそれぞれ、ミラー部材100におけるミラー本体固定部120の第2の嵌合部120b、並びにミラー本体固定部130の係合部130bと同一の形状である。
【0031】
また、第3金型230及び第4金型240の形状はそれぞれ、ミラー部材100におけるミラー本体固定部120、130の形状と同一である。
【0032】
次に第2工程において、金型200を用いて反射層保持部110を形成する。図4は、金型200を用いて反射層保持部110を形成する第2工程、並びに、ミラー本体固定部120、130を形成する第3工程を示す模式斜視図である。なお、図4において、説明の便宜上、第1金型210は図示していないが、(a)、(b)及び(c)において実際は第1金型210が第2金型220上にそれぞれのキャビティ216及び226の壁面を面一にして載置されている。
【0033】
まず、第3金型230及び第4金型240をそれぞれ、溝部218a、228a、及び218b、228bに嵌め込んだ後、キャビティ216、226内まで滑動させる。これにより、第2金型220の溝部228c及び228dにそれぞれ、第3金型230及び第4金型240が嵌合した状態となる。この際、第3金型230及び第4金型240の溝部228a、228b側の端面は、キャビティ216、226の溝部218a等が形成された壁面と面一になっている(図4(a)参照)。次に、第2金型220の底部222からキャビティ226内に貫通して設けられた図示しないゲートから金型200のキャビティ216、226内に第1の樹脂材料を注入し、更に硬化する。これによって反射層保持部110が形成される(図4(b)参照)。
【0034】
次いで、第3工程においてミラー本体固定部120、130を形成する。まず、第3金型230及び第4金型240を滑動させて、それぞれ溝部218a、228a、及び218b、228b内に収容する。この際、第3金型230及び第4金型240のキャビティ216、226側の端面は、キャビティ216、226の溝部218a等が形成された壁面と面一になっている(図4(c)参照)。次に、第2金型220の底部222から溝部228c、228d内に貫通して設けられた図示しないゲートから溝部228c、228d内に第2の樹脂材料を注入し、更に硬化する。これによってミラー本体固定部120、130が得られる(図4(d)参照)。なお、図示していないが、2色射出成形された反射層保持部110及びミラー本体固定部120、130からなる構造体を金型200から取り出すには、第2金型220の溝部228a、228bが形成された壁部をその他の部分と分割可能なようにしておけばよい。
【0035】
そして、第4工程において反射層保持部110の主面110a上に金属反射層140を形成する。金属反射層140は、公知の蒸着法、スパッタ法等により所望の膜厚となるように形成することができる。こうして、ミラー部材100が得られる。
【0036】
得られたミラー部材100において、反射層保持部110及びミラー本体固定部120は嵌合した状態にあり、しかも2色射出成形により樹脂材料同士が互いに密着しているため、それらが互いに分離することは十分に抑制される。
【0037】
ミラー部材100の用途としては、例えば、自動車用サンバイザーミラー、自動車用直左ミラー、自動車用フェンダーミラー、自動車用インナーミラーが挙げられる。ミラー部材100の形状は用途に合わせて変更すればよい。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0039】
例えば、本発明のミラー部材の別の好適な実施形態として、図5に示すようなものであってもよい。図5は、本発明の実施形態に係るミラー部材を模式的に示す断面図である。(a)は、図1に示すミラー部材100のII−II線に沿った模式断面図であり、(b)、(c)、(d)及び(e)は、別の実施形態に係るミラー部材における、(a)と同様の部分の模式断面図である。
【0040】
図5(a)に示すミラー部材100は、上述のとおり、第1の樹脂材料からなる反射層保持部110と、その反射層保持部110に固定して設けられ、第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部120、130と、反射層保持部110の主面上に設けられた金属反射層140とを備える。
【0041】
また、図5(b)に示すミラー部材300は、第1の樹脂材料からなる反射層保持部310と、その反射層保持部310に固定して設けられ、第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部320、330と、反射層保持部310の主面上に設けられた金属反射層340と、反射層保持部310と金属反射層340との間に設けられた酸化物粒子充填層350とを備える。
【0042】
金属反射層340は、ミラー部材100における金属反射層140と同様である。また、反射層保持部310、及びミラー本体固定部320、330は、互いに嵌合する部分の断面形状が異なる他は、上記ミラー部材100におけるものと同様である。
【0043】
酸化物粒子充填層350は、樹脂材料からなる母層内に複数の酸化物粒子が分散されてなる層であり、その金属反射層340との界面には酸化物粒子が金属反射層340と接するようにして分散されている。この酸化物粒子充填層350は、金属反射層340及び反射層保持部310間の密着性を高めるために形成されている。これは、反射層保持部310の表面に反応性の高い水酸基を有する酸化物粒子が存在することに起因すると考えられる。酸化物粒子充填層350の母層を構成する樹脂材料は特に限定されないが、本発明による作用効果を確実に奏するために、第2の樹脂材料よりも高い耐熱変形性及び低い弾性を有していることが好ましい。そのような樹脂材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、硬質ポリブチレンテレフタレート及び環状オレフィンコポリマーが挙げられる。
【0044】
さらには、上記密着性を更に高める観点から、母層を構成する樹脂材料は第1の樹脂材料と同じ材料であると好ましい。また、この母層は金属反射層340とは別の段階で形成されてもよいが、金属反射層340と一体成形されると、密着性を更に向上できるので更に好ましい。この場合、酸化物粒子は反射層保持部310に埋め込まれた状態となる。また、ミラー部材300は、反射層保持部310の金属反射層340との界面に、金属反射層340と接するようにして分散した酸化物粒子を備えていることになる。
【0045】
酸化物粒子としては、金属酸化物粒子及びSiO粒子が挙げられる。酸化物粒子は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、密着性を一層高める観点から、Al粒子及び/又はSiO粒子が好ましい。また、金属酸化物粒子の平均粒径はミラー部材300からの反射光の散乱を抑制する観点から、100nm以下であることが好適であり、50nm以下であることがより好適である。
【0046】
図5(c)に示すミラー部材400は、第1の樹脂材料からなる反射層保持部410と、その反射層保持部410に固定して設けられ、第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部420、430と、反射層保持部410の主面上に設けられた金属反射層440と、反射層保持部410と金属反射層440との間に設けられた酸化物粒子充填層450と、反射層保持部410と酸化物粒子充填層450との間に設けられたガラスフィラー充填層460とを備える。
【0047】
金属反射層440及び酸化物粒子充填層450は、ミラー部材300における金属反射層340及び酸化物粒子充填層350と同様である。また、反射層保持部410、及びミラー本体固定部420、430は、互いに嵌合する部分の断面形状が異なる他は、上記ミラー部材300におけるものと同様である。
【0048】
ガラスフィラー充填層460は、樹脂材料からなる母層内に複数のガラスフィラーが分散されてなる層である。このガラスフィラー充填層460を備えることにより、ミラー部材400における金属反射層440の下地部分の硬度がより高まる。その結果、ミラー部材400の反射面は、耐傷つき性が更に優れたものとなる。ガラスフィラー充填層460の母層を構成する樹脂材料は特に限定されないが、本発明による作用効果を確実に奏するために、第2の樹脂材料よりも高い耐熱変形性及び低い弾性を有していることが好ましい。そのような樹脂材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、硬質ポリブチレンテレフタレート及び環状オレフィンコポリマーが挙げられる。
【0049】
さらには、反射層保持部410及び酸化物粒子充填層450間の剥離をより抑制する観点から、母層を構成する樹脂材料は第1の樹脂材料と同じ材料であると好ましい。また、この母層は酸化物粒子充填層450とは別の段階で形成されてもよいが、金属反射層440及び酸化物粒子充填層450と一体成形されると、密着性を更に向上できるので更に好ましい。この場合、ガラスフィラーは反射層保持部410に埋め込まれた状態となる。また、ミラー部材400は、反射層保持部410の金属反射層440との界面に、金属反射層440と接するようにして分散した酸化物粒子を備え、更に、上記酸化物粒子が分散した領域のミラー本体固定部420、430側に、分散したガラスフィラーを備えていることになる。
【0050】
図5(d)に示すミラー部材500は、第1の樹脂材料からなる反射層保持部510と、その反射層保持部510に固定して設けられ、第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部520、530と、反射層保持部510の主面上に設けられた金属反射層540と、反射層保持部510と金属反射層540との間に設けられた酸化物粒子充填層550と、反射層保持部510と酸化物粒子充填層550との間に設けられたガラスフィラー充填層560と、金属反射層540の反射層保持部410とは反対側の主面上に、光触媒性物質と親水性物質とを含む親水機能層570とを備える。
【0051】
反射層保持部510、ミラー本体固定部520、530、金属反射層540、酸化物粒子充填層550及びガラスフィラー充填層560は、ミラー部材400におけるものと同様である。
【0052】
親水機能層570は、光触媒性物質と親水性物質とを併有している。光触媒性物質としては、光触媒性を示すものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、二酸化チタン(TiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、三酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化スズ(SnO)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中では、TiOが好ましい。また、親水性物質としては、優れたぬれ性を示すものであれば特に限定されず、多孔質の無機酸化物であってもよい。親水性物質としては、二酸化ケイ素(SiO)、並びに、三酸化二ホウ素(B)と二酸化ケイ素との混合物が挙げられ、SiOが好ましい。なお、親水機能層570の膜厚は、その光触媒性及び親水性、並びに反射光の色調などを考慮して設定すればよい。
【0053】
親水機能層570を設けることにより、親水性を阻害する有機汚染物質が反射面に付着しても光触媒作用により、その有機汚染物質を分解・除去することが可能となる。これにより、反射面に付着した雨滴等の水滴が膜状となって光の散乱が抑制されるため、良好な視認性を確保できる。また、光触媒性物質は概して屈折率が高いため、金属反射層540との光干渉効果を利用して、膜厚を調整して任意の色調を付与することができる。さらに、樹脂材料から構成される反射層保持部510と親水機能層570との間に金属反射層540が存在するので、紫外線が反射層保持部510に直接入射することが防止され、樹脂の耐候劣化を抑制することができる。また、金属反射層540の介在により、反射層保持部510の樹脂材料が光触媒作用により劣化することも防止できる。
【0054】
また、後述する親水層及び光触媒層の両方を設ける場合と比較して、製造工程を省略化でき、一層のコスト削減が可能となる。また、ミラー部材500における総膜数を少なくできるので、膜厚のばらつきによる色調の変動幅が小さく、色調の安定した製品を容易に製造することが可能となる。親水機能層570は、公知の蒸着法などにより形成することができる。
【0055】
図5(e)に示すミラー部材600は、第1の樹脂材料からなる反射層保持部610と、その反射層保持部610に固定して設けられ、第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部620、630と、反射層保持部610の主面上に設けられた金属反射層640と、反射層保持部610と金属反射層640との間に設けられた酸化物粒子充填層650と、反射層保持部610と酸化物粒子充填層650との間に設けられたガラスフィラー充填層660と、金属反射層640の反射層保持部610とは反対側の主面上に設けられた光触媒性物質を含む光触媒層680及び親水性物質を含む親水層690とを備える。
【0056】
反射層保持部610、ミラー本体固定部620、630、金属反射層640、酸化物粒子充填層650及びガラスフィラー充填層660は、ミラー部材400におけるものと同様である。
【0057】
光触媒層680は、金属反射層640の主面上に形成された膜であり、光触媒性物質を含む膜である。光触媒性物質としては、光触媒性を示すものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、二酸化チタン(TiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、三酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化スズ(SnO)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中では、TiOが好ましい。光触媒層680の膜厚は、その光触媒性及び反射光の色調などを考慮して設定すればよく、例えば50〜130nm程度であってもよい。
【0058】
親水層690は、光触媒層680の主面上に形成された膜であり、親水性物質を含むことにより、水滴に対して非常に優れたぬれ性(親水性)を示すものである。親水層690は、確実に良好な親水性を得るために、少なくともその表面付近が多孔質であると好ましい。親水性物質は、優れたぬれ性を示すものであれば特に限定されず、多孔質の無機酸化物であってもよい。親水性物質としては、二酸化ケイ素(SiO)、並びに、三酸化二ホウ素(B)と二酸化ケイ素との混合物が挙げられ、SiOが好ましい。親水層690の膜厚は、その親水機能を有効に発揮しつつ、光触媒層680の光触媒作用を阻害せず、所望の色調を得る観点から調整されればよく、例えば10〜50nm程度であってもよい。
【0059】
光触媒層680及び親水層690は公知の蒸着法等により形成することができる。
【0060】
光触媒層680及び親水層690を両方設けることにより、親水性を阻害する有機汚染物質が反射面に付着しても光触媒作用により、その有機汚染物質を分解・除去することが可能となる。これにより、反射面に付着した雨滴等の水滴が膜状となって光の散乱が抑制されるため、良好な視認性を確保できる。また、光触媒性物質は概して屈折率が高いため、金属反射層540との光干渉効果を利用して、膜厚を調整して任意の色調を付与することができる。さらに、樹脂材料から構成される反射層保持部610と光触媒層680及び親水層690との間に金属反射層640が存在するので、紫外線が反射層保持部610に直接入射することが防止され、樹脂の耐候劣化を抑制することができる。また、金属反射層640の介在により、反射層保持部610の樹脂材料が光触媒作用により劣化することも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係るミラー部材を示す模式斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るミラー部材を製造する際に用いる金型の模式斜視図である。
【図3】図2に示す金型が備える第1金型及び第2金型の模式平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るミラー部材の製造方法における一部の工程を説明するために斜視的に示した模式工程図である。
【図5】本発明の実施形態に係るミラー部材を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0062】
100、300、400、500、600…ミラー部材、110、310、410、510、610…反射層保持部、120、130、320、330、420、430、520、530、620、630…ミラー本体固定部、140、340、440、540、640…金属反射層、350、450、550、650…酸化物粒子充填層、460、560、660…ガラスフィラー充填層、570…親水機能層、680…光触媒層、690…親水層。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑な主面を有し、第1の樹脂材料からなる反射層保持部と、
該反射層保持部に固定して設けられ、前記第1の樹脂材料よりも低い耐熱変形性及び高い弾性を有する第2の樹脂材料からなるミラー本体固定部と、
前記反射層保持部の前記主面上に設けられた金属反射層と、を備える車両用ミラー部材。
【請求項2】
前記反射層保持部の前記金属反射層との界面に、前記金属反射層と接するようにして分散した平均粒径100nm以下のSiO粒子及び/又はAl粒子を備える、請求項1記載の車両用ミラー部材。
【請求項3】
前記SiO粒子及び/又はAl粒子が分散した領域の前記ミラー本体固定部側に、分散したガラスフィラーを備える、請求項2記載の車両用ミラー部材。
【請求項4】
前記第1の樹脂材料は、ポリカーボネート、アクリル樹脂、硬質ポリブチレンテレフタレート及び環状オレフィンコポリマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂を主成分として含み、
前記第2の樹脂材料は、ポリプロピレン、ポリアセタール及び軟質ポリブチレンテレフタレートからなる群より選ばれる1種以上の樹脂を主成分として含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用ミラー部材。
【請求項5】
前記金属反射層の前記反射層保持部とは反対側の主面上に、光触媒性物質と親水性物質とを含む親水機能層を備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用ミラー部材。
【請求項6】
前記金属反射層の前記反射層保持部とは反対側の主面上に、光触媒性物質を含む光触媒層と、親水性物質を含む親水層とを備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用ミラー部材。
【請求項7】
前記光触媒性物質がTiOを含み、前記親水性物質がSiOを含む請求項5又は6に記載の車両用ミラー部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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