説明

車両用伝送路

【課題】車両の部品組み付け時の作業性を向上するとともに、車両部品を分別する際の分別作業の作業性を向上する。
【解決手段】車両2に設けられた金属製の第1部材20aの一部平面に、周期的な構造変化が生じるように金属製の第2部材10を配置した周期構造物が形成され、周期構造物および周期構造物の周りの空間を表面波伝送路として電磁波が伝搬するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された高周波回路より送出される電磁波を媒介する車両用伝送路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両においては、ワイヤーハーネスを用いて高周波通信用伝送路が構成され、ワイヤーハーネスを介して車両に搭載された各機器間でデータの送受信が行われるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。このような高周波通信用伝送路を介した通信は無線通信と比較して信頼性およびセキュリティ性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−19547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載されたような、ワイヤーハーネスを用いて高周波通信用伝送路を構成する場合、ワイヤーハーネスの配線作業に多くのコストがかかる。また、ワイヤーハーネスには絶縁用の被覆等が含まれるため、車両を廃車にして車両部品を分別する際にワイヤーハーネスを取り外す作業が必要となり、分別作業の作業性が悪いといった問題がある。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みたもので、車両の部品組み付け時の作業性を向上するとともに、車両部品を分別する際の分別作業の作業性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、車両に搭載された高周波回路より送出される電磁波を媒介する車両用伝送路であって、車両に設けられた金属製の第1部材の一部平面に、周期的な構造変化が生じるように金属製の第2部材を配置した周期構造物が形成され、周期構造物および周期構造物の周りの空間を表面波伝送路として電磁波が伝搬するように構成されていることを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、車両に設けられた金属製の第1部材の一部平面に、周期的な構造変化が生じるように金属製の第2部材を配置した周期構造物が形成され、周期構造物および周期構造物の周りの空間を表面波伝送路として電磁波が伝搬するように構成されているので、車両の部品組み付け時の配線作業が不要であり、車両の部品組み付け時の作業性を向上することができる。また、絶縁用の被覆等が含まれないので、車両部品を分別する際の分別作業の作業性を向上することができる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、第1部材は、車両の車体を構成する部材であることを特徴としている。
【0009】
このように、第1部材を、車両の車体を構成する部材とすることができるので、部品点数を削減することが可能である。
【0010】
なお、周期構造物は、請求項3に記載の発明のように、第1部材の一部平面と直交する方向に突出する第2部材を予め定められた間隔毎に並べて配置したものとすることができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、直線区間では第2部材の頂面の高さが一定となっていることを特徴としている。
【0012】
このように、直線区間では第2部材の頂面の高さを一定とするのが好ましい。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、曲線区間では外周側の第2部材の頂面の高さが内周側の第2部材の頂面の高さよりも高くなるように第2部材の頂面が傾斜していることを特徴としている。
【0014】
このように、曲線区間では外周側の第2部材の頂面の高さが内周側の第2部材の頂面の高さよりも高くなるように第2部材の頂面を傾斜させることで、透過特性を向上させることが可能である。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、直線区間と曲線区間の接続箇所における第2部材の頂面の高さが徐々に変化するように、直線区間から曲線区間に近づくにつれて第2部材の頂面の傾斜が徐々に大きくなっていることを特徴としている。
【0016】
このように、直線区間と曲線区間の接続箇所における第2部材の頂面の高さが徐々に変化するように、直線区間から曲線区間に近づくにつれて第2部材の頂面の傾斜を徐々に大きくすることにより、透過特性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用伝送路の概略構成を示す図である。
【図2】車両用伝送路の直線区間の外観図である。
【図3】平面導体上の表面波の電界分布を示す図である。
【図4】車両用伝送路を図2中の矢印A方向から見た図である。
【図5】図4中のB−B線の沿った断面図である。
【図6】第2部材の形状を表す図である。
【図7】溝の間隔を変化させた場合の溝の深さと速度の関係を示す図である。
【図8】第2部材の厚さ変化させた場合の溝の深さと速度の関係を示す図である。
【図9】車両用伝送路の曲線区間の外観図である。
【図10】車両用伝送路を図9中の矢印C方向から見た図である。
【図11】図10中のD−D線に沿った断面図である。
【図12】第2部材10の頂面の傾斜角θを変化させた場合の周波数と透過特性のシミュレーション結果を表した図である。
【図13】直線区間と曲線区間の接続箇所における第2部材の形状を表す図である。
【図14】第2部材の頂面の傾斜角θを変化させた場合と、直線区間と曲線区間をテーパ接続/不連続接続した場合の透過特性のシミュレーション結果を表した図である。
【図15】変形例について説明するための図である。
【図16】変形例について説明するための図である。
【図17】変形例について説明するための図である。
【図18】変形例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る車両用伝送路の概略構成を図1に示す。本車両用伝送路1は、車両2の後部に搭載されたセンサ3に設けられた高周波回路(図示せず)より送出される電磁波をECU4まで媒介するものとして構成されている。なお、センサ3より送出される電磁波の周波数は1.6GHz帯となっている。
【0019】
図2に、本車両用伝送路1の直線区間の外観図を示す。本車両用伝送路1は、車両2の車体(ボデー、シャーシ等)を構成する金属製の第1部材20aの一部平面に、周期的な構造変化が生じるように金属製の第2部材10を配置した周期構造物が形成されており、この周期構造物および周期構造物の周りの空間を表面波伝送路として電磁波が伝搬するようになっている。具体的には、第1部材20aの一部平面に、この第1部材20aの一部平面と直交する方向に突出する第2部材10を予め定められた間隔毎に並べて配置した凹凸構造物が構成されている。
【0020】
なお、第1部材20aは、導電性の鋼板を用いて構成されており、第2部材10は、導電性の金属部材を用いて構成されている。なお、第2部材10は、車体組み立て前の工程で、第1部材20a上に固定される。また、第1部材20aと第2部材10は、それぞれ金属製部材により構成されており、車両を廃棄する際に第1部材20aと第2部材10を分別することなく車両部品をリサイクルすることが可能となっている。
【0021】
図2に示すような周期的な凹凸構造を平面上に形成することにより、その近傍の空間を伝わる電磁波の位相速度が遅れ、凹凸構造の上を電磁波が伝搬する。このような伝送路を構成することにより、低損失で電磁波を伝送することが可能であることが知られている。この場合、磁界は常に溝の方向に沿った成分のみとなり、すなわち進行方向には成分は無く、電界は進行方向にも成分を持っている。このような電磁波は、TM波(Transverse Magnetic Wave)と呼ばれる。図3に、平面導体上の表面波の電界分布を示す。
【0022】
図4に、本車両用伝送路1を図2中の矢印A方向から見た図を示す。また、図5に、図4中におけるB―B線に沿った断面図を示す。図5に示すように、第2部材10は、幅をW、高さをhとした矩形形状をなしている。
【0023】
ここで、図6に示すように、複数の第2部材10により構成される凹凸構造の溝の間隔をG、第2部材10の厚さをT、第2部材10による溝の深さ(第2部材10の高さ)をh、伝搬する電磁波の周波数をf、光速をcとすると、複数の第2部材10により構成される周期構造物およびこの周期構造物の周りの空間を表面波伝送路として伝搬する電磁波の速度vと光速cの比v/cは、数式1で表される。
【0024】
【数1】

この数式1を用いて、第2部材10の厚さT=10ミリメートル(mm)、周波数f=1.6ギガヘルツ(GHz)として、溝の深さhを変えた場合の速度の変化を計算すると、図7に示す特性となる。なお、図7には、溝の間隔G=1mm、5mm、10mmとした場合のv/cの関係が示されている。
【0025】
また、溝の間隔G=10ミリメートル(mm)、周波数f=1.6ギガヘルツ(GHz)として、溝の深さhを変えた場合の速度の変化を計算すると、図8に示す特性となる。なお、図8には、第2部材の厚さT=50mm、30mm、10mmとした場合のv/cの関係が示されている。
【0026】
図7、図8において、v/c=1のとき、面上を伝搬する電磁波の速度が光速と等しくなり、v/cが0に近づく条件では、電磁界が凹凸構造の近傍の空間に集中して伝搬することを意味する。また、溝の深さhを変化させることで電磁波の速度が変化することが分かる。
【0027】
本車両用伝送路1は、センサ3とECU4との間の伝送路を直線区間と曲線区間に分けて構成している。すなわち、直線区間と曲線区間を組み合わせてセンサ3とECU4との間を接続している。図9に、本車両用伝送路1の曲線区間の外観図を示す。図10は、図9中の矢印C方向から見た図であり、図11は、図10中のD−D線に沿った断面図である。
【0028】
図11に示すように、曲線区間における第2部材10は、第2部材の頂面が傾斜している。すなわち、曲線区間では外周側の第2部材10の頂面の高さが内周側の第2部材10の頂面の高さよりも高くなっている。
【0029】
曲線区間では、内径側の方が外形側よりも溝の間隔Gが密になり、内径側と外形側とで電磁波の伝搬速度に違いが生じるため、放射損失が大きくなる。本車両用伝送路1では、このような伝搬速度の違いによる放射損失の増加を抑制するため、曲線区間における第2部材10の頂面を傾斜させている。
【0030】
図12に、半径R=250ミリメートル(mm)、第2部材10の幅W=50mm、第2部材10による溝の深さh=36mmとし、第2部材10の頂面の傾斜角θを変化させた場合の周波数と透過特性のシミュレーション結果を示す。
【0031】
周波数f=1.6ギガヘルツ(GHz)において、傾斜角θ=10度(°)では、透過損失は−3デシベル(dB)であるのに対し、傾斜角θ=0度(°)では、透過損失は−6デシベル(dB)となり、3デシベル(dB)の差が生じることが分かる。また、第2部材10の頂面の傾斜角θにより、透過損失が異なることが分かる。
【0032】
また、本車両用伝送路1では、直線区間と曲線区間の接続箇所において、第2部材10の頂面の高さが徐々に変化するように、直線区間から曲線区間に近づくにつれて第2部材10の頂面の傾斜が徐々に大きくなっている。
【0033】
図13に、直線区間と曲線区間の接続箇所における第2部材10の形状を示す。(a)、(b)は、それぞれ図13中の直線区間と曲線区間の接続箇所を矢印F方向から見た図である。
【0034】
図13(a)は、直線区間と曲線区間の接続箇所における第2部材10の頂面の高さが徐々に変化するように直線区間と曲線区間をテーパー接続した場合の構成を示しており、図13(b)は、直線区間と曲線区間の接続箇所における第2部材10の頂面の高さが急に変化するように直線区間と曲線区間を不連続接続した場合の構成を示している。なお、本車両用伝送路1は、図13(a)に示すような、直線区間と曲線区間をテーパー接続した構成となっている。
【0035】
図14に、本車両用伝送路1において、第2部材10の頂面の傾斜角θを5度(°)と15°度(°)にした場合と、直線区間と曲線区間をテーパー接続した場合と不連続接続場合の透過特性のシミュレーション結果を示す。
第2部材10の頂面の傾斜角θを5度(°)にした場合、直線区間と曲線区間をテーパー接続した場合と不連続接続場合とで、透過特性に大きな差異が見られないが、第2部材10の頂面の傾斜角θを15度(°)にした場合、直線区間と曲線区間をテーパー接続した場合と不連続接続した場合とで、透過特性に比較的大きな差異が見られる。
【0036】
上記した構成によれば、車両に設けられた金属製の第1部材の一部平面に、周期的な構造変化が生じるように金属製の第2部材を配置した周期構造物が形成され、周期構造物および周期構造物の周りの空間を表面波伝送路として電磁波が伝搬するように構成されているので、配線作業が不要であり、車両の部品組み付け時の作業性を向上することができる。また、絶縁用の被覆等が含まれないので、車両部品を分別する際の分別作業の作業性を向上することができる。
【0037】
また、第1部材を、車両の車体を構成する部材とすることができるので、部品点数を削減することが可能である。
【0038】
また、曲線区間では外周側の第2部材の頂面の高さが内周側の第2部材の頂面の高さよりも高くなるように第2部材の頂面を傾斜させることで、透過特性を向上させることが可能である。
【0039】
また、直線区間と曲線区間の接続箇所における第2部材の頂面の高さが徐々に変化するように、直線区間から曲線区間に近づくにつれて第2部材の頂面の傾斜を徐々に大きくすることにより、透過特性を向上させることが可能である。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々なる形態で実施することができる。
【0041】
例えば、上記実施形態では、図15(a)に示すように、角部が直角となった第2部材10を一定間隔毎に配置して周期構造物を形成したが、図15(b)に示すように、第2部材10の角部に丸みRを持たせ、これらの第2部材10を一定間隔毎に配置して周期構造物を形成するようにしてもよい。なお、図15(a)に示した構成と図15(b)に示した構成とでは、シミュレーションの結果、ほぼ同等の透過特性が得られることが分かった。
【0042】
また、図16〜図18に示すような形状の凹凸構造を周期的に配置して周期構造物を形成するようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、車両2の車体部材(ボデー、シャーシ等)を構成する金属製の第1部材20aの一部平面に、周期的な構造変化が生じるように金属製の第2部材10を配置した周期構造物を形成したが、例えば、車両2の車体部材(ボデー、シャーシ等)と別の部材で第1部材20aを構成してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、センサ3より送出される電磁波の周波数を1.6GHz帯として車両用伝送路を構成したが、電磁波の周波数は1.6GHz帯に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0045】
1 車両用伝送路
2 車両
3 センサ
4 ECU
10 第2部材
20a 第1部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された高周波回路より送出される電磁波を媒介する車両用伝送路であって、
前記車両に設けられた金属製の第1部材の一部平面に、周期的な構造変化が生じるように金属製の第2部材を配置した周期構造物が形成され、
前記周期構造物および前記周期構造物の周りの空間を表面波伝送路として前記電磁波が伝搬するように構成されていることを特徴とする車両用伝送路。
【請求項2】
前記第1部材は、前記車両の車体を構成する部材であることを特徴とする請求項1に記載の車両用伝送路。
【請求項3】
前記周期構造物は、前記第1部材の一部平面と直交する方向に突出する前記第2部材を予め定められた間隔毎に並べて配置したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用伝送路。
【請求項4】
直線区間では前記第2部材の頂面の高さが一定となっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用伝送路。
【請求項5】
曲線区間では外周側の前記第2部材の頂面の高さが内周側の前記第2部材の頂面の高さよりも高くなるように前記第2部材の頂面が傾斜していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用伝送路。
【請求項6】
直線区間と曲線区間の接続箇所における前記第2部材の頂面の高さが徐々に変化するように、直線区間から曲線区間に近づくにつれて前記第2部材の頂面の傾斜が徐々に大きくなっていることを特徴とする請求項5に記載の車両用伝送路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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