説明

車両用前照灯装置およびその制御方法

【課題】前走車との距離に応じて視認性の向上とグレアの低減とをより高いレベルで両立し得る技術を提供する。
【解決手段】車両用前照灯装置は、車両に配置される前照灯ユニットと、自車両より前方を走行する前走車との距離に応じて前照灯ユニットによる光の照射を制御する制御手段と、を備える。制御手段は、前走車との距離が所定の閾値より小さい第1の場合(S16のNo)には、前走車との距離が伸びるにしたがって徐々に上方まで照射するように配光パターンの位置を制御する一方、前走車との距離が所定の閾値より大きい第2の場合(S16のYes)には、第1の場合の配光パターンよりも上方を含む領域を照射する配光パターンを形成せしめるとともにその照度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに用いられる車両用前照灯装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯装置は、一般にロービームとハイビームとを切り替えることが可能である。ロービームは、近方を所定の照度で照明するものであって、対向車や先行車にグレアを与えないよう配光規定が定められており、主に市街地を走行する場合に用いられる。一方、ハイビームは、前方の広範囲および遠方を比較的高い照度で照明するものであり、主に対向車や先行車が少ない道路を高速走行する場合に用いられる。したがって、ハイビームはロービームと比較してより運転者による視認性に優れているが、車両前方に存在する車両の運転者や歩行者にグレアを与えてしまうという問題がある。
【0003】
そこで、他車両にグレアを与えることなく車両前方の視認性を向上させることができる車両用前照灯装置が望まれている。特許文献1には、他車両が検出された場合には、カットラインの位置を部分的に変更することで検出された他車両が存在する領域に光が照射されないようにする技術が開示されている。また、特許文献2には、ハイビーム用のライトに印加する電圧を制御するあるいはヘッドライトの光軸を調整することで、対向車の運転者に対してグレアを与えないように車両との相対距離に応じてハイビームの目標電圧を変化させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開平6−267304号公報
【特許文献2】特開2004−161082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の技術はグレアの低減という観点からなされており、視認性の向上という観点からは更なる改善が望まれる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、前走車との距離に応じた視認性の向上とグレアの低減とをより高いレベルで両立し得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用前照灯装置は、車両に配置される前照灯ユニットと、自車両より前方を走行する前走車との距離に応じて前照灯ユニットによる光の照射を制御する制御手段と、を備える。制御手段は、前走車との距離が所定の閾値より小さい第1の場合には、前走車との距離が伸びるにしたがって徐々に上方まで照射するように配光パターンの位置を制御する一方、前走車との距離が所定の閾値より大きい第2の場合には、第1の場合の配光パターンよりも上方を含む領域を照射する配光パターンを形成せしめるとともにその照度を制御する。
【0007】
この態様によると、例えば、配光パターンが固定の場合と比較して、自車両と前走車との間の領域の視認性を段階的に向上することができるとともに、前走車との距離が所定の閾値より離れている場合には、前走車にグレアを与えない程度に照度を制御し、視認性を向上することができる。なお、所定の閾値は、例えば、配光パターンの位置の制御だけでは前走車までの照射領域の視認性の向上が十分でなくなるような距離や、灯具ユニットにおける光源の性能やユニット形状等の構成を考慮して設定されていてもよい。
【0008】
制御手段は、前走車との距離が所定の閾値の場合には、配光パターンのカットオフラインが水平線に達しているように配光パターンの位置を制御してもよい。これにより、前走車との距離が所定の閾値をまたいで変化しても、それまで照射されていた配光パターンが少なくとも水平線より下方の領域を照射しているため、路面の照射領域が不連続に広がることが抑制される。その結果、照度制御に対する運転者の違和感を軽減することができる。
【0009】
前照灯ユニットは、ロービーム用配光パターンを形成する第1の灯具ユニットと、ハイビーム用配光パターンを形成する第2の灯具ユニットとを有してもよい。制御手段は、第1の場合には、前走車との距離が伸びるにしたがって徐々にロービーム用配光パターンが上方まで照射するように第1の灯具ユニットによる光の照射を制御する一方、第2の場合には、ロービーム用配光パターンよりも上方を含む領域を照射するハイビーム用配光パターンを形成せしめるとともに、前走車との距離が伸びるにしたがってハイビーム用配光パターンの照度を高めるように第2の灯具ユニットによる光の照射を制御してもよい。これにより、前走車との距離が所定の閾値より小さい場合にはロービーム用配光パターンの位置を制御することで、また、前走車との距離が所定の閾値より大きい場合にはハイビーム用配光パターンの照度を制御することで前走車との距離に応じた適切な光の照射が可能となる。
【0010】
制御手段は、車両が走行する環境に応じて閾値を変化させてもよい。視認性は車両が走行する環境、例えば、周囲の明るさや天候に影響を受ける。そのため、そのような環境に応じて閾値を変更することで、前走車との距離に応じた適切な光の照射が可能となる。
【0011】
本発明の別の態様は、車両用前照灯装置の制御方法である。この方法は、前走車との距離が所定の閾値より小さい場合には前走車との距離に応じて配光パターンの上下方向の位置を制御する一方、前走車との距離が所定の閾値より大きい場合には前走車との距離に応じて配光パターンの照度を高める制御をする。
【0012】
この態様によると、配光パターンが固定の場合と比較して、自車両と前走車との間の領域の視認性を段階的に向上することができるとともに、前走車との距離が所定の閾値より離れている場合には、前走車にグレアを与えない程度に照度を高め視認性を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前走車との距離に応じて視認性の向上とグレアの低減とをより高いレベルで両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置を適用した自動車の前部の外観を示す概略図である。本実施の形態に係る車両10は、車両用前照灯装置12と、後述するランプモードを切り替えるためにステアリングホイール14近傍に設けられたランプモード切替えスイッチ16と、車両が備える不図示のセンサが検出した情報や運転者によるランプモード切替えスイッチ16の切替え操作の情報を処理して車両用前照灯装置12に送信する車両制御部18と、を備える。
【0016】
車両用前照灯装置12は、一対の前照灯ユニット20R,20Lと、各前照灯ユニット20R,20Lの配光特性、すなわち配光パターンの形状や位置をそれぞれ制御する前照灯制御部22とを備える。前照灯制御部22は、車両制御部18から送信された信号に基づいて自車両より前方を走行する前走車との距離に応じて前照灯ユニット20R,20Lを制御する。なお、本実施の形態に係る前照灯制御部22は、ランプモード切替えスイッチ16によるランプモードの切替えが行われると、選択されたランプモードに応じて前照灯ユニット20R,20Lによる光の照射を制御する。
【0017】
ここで、ランプモード切替えスイッチ16により選択可能なランプモードとしては、「走行モード(ハイビームモード)」、「すれ違いモード(ロービームモード)」、「照度自動調整モード」が設定されている。なお、照度自動調整モードとは、前走車との距離に応じて照度が調整されるモードである。
【0018】
次に、車両用前照灯装置が備える前照灯ユニットについて説明する。上述の前照灯ユニット20R,20Lは左右対称の構造をしている以外は同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット20Rを例として説明し、左側の前照灯ユニット20Lの説明は省略する。図2は、前照灯ユニット20Rの外観斜視図である。
【0019】
前照灯ユニット20Rは、ランプボディ24と、ランプボディ24の前面開口部に取り付けられた透光カバー26と、を備える。そして、ランプボディ24と透光カバー26とで形成される灯室28内には、ロービーム用配光パターンを形成するロービーム用灯具ユニット30およびそれぞれハイビーム用配光パターンを形成する4つのハイビーム用灯具ユニット32が収容されている。
【0020】
次に、前照灯ユニット20Rのうちロービーム用灯具ユニット30について説明する。図3(a)は、第1の実施の形態に係るロービーム用灯具ユニット近傍の概略断面図、図3(b)は、図3(a)に示すロービーム用灯具ユニットの配光パターンを示す図である。
【0021】
図3(a)に示すように、ロービーム用灯具ユニット30は、プロジェクタ型の放電ランプであり、光源としての放電灯34と、放電灯34を収容するランプハウジング36と、ランプハウジング36の前面に配設されているレンズ38とで構成されている。ランプハウジング36は、回転楕円形状のリフレクタ40を備えており、放電灯34から出射した光とリフレクタ40で反射した光をレンズ38で集光して自動車の前方に照射して照明を行う。
【0022】
また、ランプハウジング36は、光軸Axよりも右側領域では上方に照射する光を遮光し、左側領域では右側領域よりも上方に照射させるためのカットライン形成用のシェード42が取り付けられている。これにより、ロービーム用灯具ユニット30は、図3(b)に示すように、従来の自動車のすれ違いビーム(ロービーム)とほぼ同様に前走車(対向車や先行車)を眩惑することがない範囲で自車の前方の広い領域を照明する配光パターンPLを形成することができる。配向パターンPLは、左配向のロービーム用配向パターンであって、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1,CL2,CL3を有している。
【0023】
なお、図3(b)において、記号VとHはそれぞれ自動車の直進方向に向けられた光軸を通る垂直線、水平線である。また、ロービーム用配向パターンは、例えばJIS、ECEなどに規定された配光規定に沿って設定されている。また、ロービーム用灯具ユニット30は、エイミング機構44等によって灯室28内に支持されており、モータやギアからなる光軸調整部46により光軸Axが上下方向に変化するように構成されている。
【0024】
次に、前照灯ユニット20Rのうちハイビーム用灯具ユニット32について説明する。図4(a)は、第1の実施の形態に係るハイビーム用灯具ユニット近傍の概略断面図、図4(b)は、図4(a)に示すハイビーム用灯具ユニットの配光パターンの一例を示す図である。なお、前照灯ユニット20Rは、4つのハイビーム用灯具ユニット32を備えているが、各ユニットの構成はほぼ同じであるため、そのうちの一つのユニットに着目して説明する。
【0025】
ハイビーム用灯具ユニット32は、LEDランプであり、図4(a)に示すように、LED(発光ダイオード)48を透明樹脂レンズで封止した光源としてのLEDモジュール50と、LEDモジュール50を収納するランプハウジング52と、LEDモジュール50がランプハウジング52内に支持するための支持板54と、ランプハウジング36の内部に配置された所要の反射面形状をしたリフレクタ56と、ランプハウジング52の前面開口部に配設された所要形状のレンズ58と、を備える。
【0026】
なお、ハイビーム用灯具ユニット32は、LED48に電流を供給するための電気コード60により後述する電源回路62と接続されている。このようなハイビーム用灯具ユニット32において、LEDモジュール50から出射された光は直接、あるいはリフレクタ56で反射され、レンズ58で集光されて自動車の前方に向けて照射される。本実施の形態に係るハイビーム用灯具ユニット32は、図4(b)に示すように、ロービーム用灯具ユニット30が形成する配光パターンPLよりも上方を含む領域を照射することが可能な配光パターンPHを形成するように、前述のリフレクタ56およびレンズ58の所要形状が設計されている。また、ハイビーム用灯具ユニット32は、ロービーム用灯具ユニット30と比較して、狭い範囲ではあるがより遠方まで明るく照射することが可能なように構成されている。なお、説明を簡略化するために、以下では各ハイビーム用灯具ユニット32が形成する配光パターンPHが全て同じ場合について説明するが、用途や目的に応じてそれぞれに異なる配光パターンを形成させるようにしてもよい。
【0027】
本実施の形態に係る車両用前照灯装置は、自車両より前方を走行する前走車との距離に応じて上述の前照灯ユニットによる光の照射を制御することで、視認性の向上とグレアの低減とをより高いレベルで両立することができる。以下では、上述した前照灯ユニットの制御方法について説明する。
【0028】
図5は、第1の実施の形態に係る車両10と車両用前照灯装置12との構成を説明するための制御ブロック図である。本実施の形態では、車両10側に設けられているセンサやカメラ、ナビゲーションシステム等の情報取得装置から得られた情報に基づいて算出された前走車との距離に応じて配光パターンの制御が行われる。
【0029】
車両用前照灯装置12は、ロービーム用灯具ユニット30およびハイビーム用灯具ユニット32による光の照射を制御する制御手段としての前照灯制御部22と、前照灯制御部22からの制御信号に基づいて灯具を点灯させるための電力をロービーム用灯具ユニット30およびハイビーム用灯具ユニット32へ供給する電源回路62とを備える。車両10には、車両10の制御を行う車両制御部18と、ステアリングの操舵角を検出するステアリングセンサ64と、衛星から取得した信号に基づいて自車の位置情報を取得し収納されている道路情報と照らし合わすことで目標までの道路案内を行うナビゲーションシステム66と、車両10の車速を検出する車速センサ68と、車両10の車高を検出する車高センサ70と、前走車を認識するためのカメラ72と、上述のランプモード切替えスイッチ16とが設けられている。
【0030】
前走車との距離の算出は、従来検討されている種々の方法によって行えばよい。例えば、車両制御部18は、カメラ72により取得した画像データから前走車との距離を推定してもよいし、カメラ72に換えてミリ波レーダや赤外線レーダなどの検出結果に基づいて前走車との距離を算出してもよい。あるいは、車両制御部18は、ナビゲーションシステム66による自車の位置情報と前走車の位置情報とから間接的に距離を算出してもよい。また、これらの組合せによって前走車との距離を算出してもよい。
【0031】
車両制御部18は、このように算出した前走車との距離の情報を前照灯制御部22に送信する。前照灯制御部22は、車両制御部18から取得した前走車との距離に応じて前照灯ユニットにおけるロービーム用灯具ユニット30およびハイビーム用灯具ユニット32による光の照射を制御する。
【0032】
図6は、第1の実施の形態に係る車両用前照灯装置の制御方法を示すフローチャートである。この処理は所定のタイミングおよび間隔で繰り返される。図7は、前走車との距離とカットオフライン高さとの関係を模式的に示す図である。図8は、前走車との距離とH線(水平線)上方領域の明るさとの関係を示す図である。
【0033】
この処理が開始されると、照度自動調整モードが選択されているか否かが判定される(S10)。具体的には、運転者がランプモード切替えスイッチ16を操作し、照度自動調整モードが選択された場合、車両制御部18が前照灯制御部22に制御信号を出力する。照度自動調整モードが選択されていない場合(S10のNo)、前照灯制御部22はこの処理を一度終了する。照度自動調整モードが選択されている場合(S10のYes)、前照灯制御部22は電源回路62を介してロービーム用灯具ユニット30を点灯する(S12)。
【0034】
次に、前照灯制御部22は、前走車との車間距離Xの情報を取得し(S14)、所定の閾値Lと比較する(S16)。なお、前走車が複数存在する場合、自車両に最も近い前走車との距離を用いてもよい。また、前走車が存在しない場合、車間距離Xを無限大あるいは閾値Lと比較して十分に大きな値としてその後の処理を行えばよい。車間距離Xが閾値L以下の場合(S16のNo)、前照灯制御部22は、ハイビーム用灯具ユニット32が点灯していたときはそれを消灯するように電源回路62を制御する(S18)とともに、前走車との距離が伸びるにしたがって徐々にロービーム用配光パターンが上方まで照射するようにロービーム用灯具ユニット30による光の照射を制御する。具体的には、前照灯制御部22は、上述のエイミング機構44における光軸調整部46のモータに流す電流を制御することで光軸Axの角度を変更する。
【0035】
その結果、図7に示すように、前走車との距離に応じてカットオフラインの位置が変更され、配向パターンの位置が制御される(S20)。この際、ロービーム用灯具ユニット30は、図8に示すように、前走車との車間距離Xが閾値Lを超えない範囲では、水平線上方領域を照らさないように設定されている。これにより、前走車との車間距離が近い場合であっても、グレアを与えることなく前走車までの視認性の向上を図ることができる。
【0036】
一方、車間距離Xが閾値Lよりも大きい場合(S16のYes)、ハイビーム用灯具ユニット32の光度が制御される(S22)。ハイビーム用灯具ユニット32は、図4(b)に示すように、ロービーム用灯具ユニット30が形成するロービーム用の配向パターンPLより上方(カットオフラインCL1〜CL3の上方)を含む領域を照射するハイビーム用の配向パターンPHを形成することができるように構成されている。本実施の形態に係る前照灯制御部22は、ハイビーム用灯具ユニット32に流す電流を電源回路62を介して制御し、前走車との距離が伸びるにしたがってハイビーム用配光パターンの照度を高めるように光度を変化させる(図7参照)。そのため、ハイビーム用灯具ユニット32により形成される配光パターンの水平線上方領域の明るさは、図8に示すように、車間距離Xが閾値Lを超えて延びるに従い増加するように設定されている。
【0037】
このように、光軸を変化させることでロービーム用灯具ユニット30の配向パターンの位置を変化させることができるので、ロービーム用灯具ユニット30が固定の配光パターンしか形成できない場合と比較して、自車両と前走車との間の領域の視認性を段階的に向上することができる。また、前走車との距離が閾値Lより離れている場合には、前走車にグレアを与えない程度にハイビーム用灯具ユニット32の光度を制御し、視認性を向上することができる。つまり、前走車との距離が閾値Lより小さい場合にはロービーム用配光パターンの位置を制御することで、また、前走車との距離が所定の閾値Lより大きい場合にはハイビーム用配光パターンの照度を制御することで前走車との距離に応じた適切な光の照射が可能となる。
【0038】
また、本実施の形態に係る前照灯制御部22は、前走車との距離が閾値Lの場合には、ロービーム用の配光パターンPLのカットオフラインCL1〜CL3が水平線に達しているように配光パターンの位置を制御してもよい。これにより、前走車との距離が所定の閾値をまたいで変化しても、それまで照射されていたロービーム用配向パターンPLにより少なくとも水平線より下方の領域が照射されているため、新たにハイビーム用灯具ユニット32の照射が加わった際に路面の照射領域が不連続に広がることが抑制される。その結果、照度制御に対する運転者の違和感を軽減することができる。また、前照灯制御部22は、前走車との距離が閾値Lに達するとハイビーム用灯具ユニット32を点灯可能な最小光度で点灯させ、前走車との距離に応じて徐々に光度を上げていくように制御してもよい。
【0039】
また、上述の実施の形態では、ロービーム用配向パターンPLの上下方向の位置の制御をエイミング機構44を用いた光軸の移動で行う場合について説明したが、例えば、シェード42を上下方向に移動させる移動機構を設け、その移動機構を制御することでロービーム用配向パターンPLの上下方向の位置を制御するようにしてもよい。
【0040】
また、前照灯制御部22は、自車両が走行する環境に応じて所定の閾値を変化させてもよい。ここで、自車両が走行する環境とは、車両走行に関連する各種の状態量や外部情報を意味するものであって、例えば、車速、舵角、車両姿勢、天候、明るさ、ナビゲーション情報等が該当する。例えば、周囲の明るさを検出する照度センサの検出結果に基づいて周囲が明るい市街地を自車両が走行中であると判定された場合には、比較的視認性は良好な状況であることが推定される。そこで、周囲の環境に応じて閾値Lを大きくすることでハイビーム用灯具ユニット32が点灯するタイミングでの前走車との距離が長くなり、前走車へ与えるグレアの低減を優先させることができる。一方、照明のない郊外を自車両が走行中であると判定された場合には、視認性が十分でない状況であることが推定される。そこで、周囲の環境に応じて閾値Lを小さくすることでハイビーム用灯具ユニット32が点灯するタイミングでの前走車との距離が短くなり、前走車までの路面の視認性の向上を優先させることができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
図9は、第2の実施の形態に係る前照灯ユニットの概略断面図である。本実施の形態に係る前照灯ユニットは、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとをシェードを回動させることで切り換えて形成することができる。
【0042】
図9に示すように、本実施の形態に係る前照灯ユニット120は、素通し状の透光カバー122と、ランプボディ124と、を備える。そして、透光カバー122とランプボディ124で形成される灯室内には、車両前後方向に延びる光軸Axを有する灯具ユニット126が、エイミング機構128を介して上下方向および左右方向に傾動可能に収容されている。
【0043】
エイミング機構128は、ランプボディ124の複数箇所に回転可能に取り付けられたエイミングスクリュー130に、灯具ユニット126のブラケット126aがエイミングナット132を介して連結されてなり、このエイミング機構128により灯具ユニット126のエイミング調整が行われようになっている。そして、このエイミング調整が完了した段階では、ランプボディ124の光軸Axは、車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びるようになっている。
【0044】
灯具ユニット126は、プロジェクタ型の灯具ユニットであって、放電バルブ136と、リフレクタ138と、ランプハウジング140と、投影レンズ142と、リテーニングリング144と、シェード146と、補助シェード148と、シェード駆動機構150とを備えている。
【0045】
放電バルブ136は、メタルハライドバルブであって、その放電発光部により構成される光源136aが、光軸Ax上において該光軸Axと同軸で配置されるようにして、リフレクタ138に取り付けられている。
【0046】
リフレクタ138は、光軸Axを中心軸とする略楕円球面状の反射面138aを有している。この反射面138aは、光軸Axを含む断面形状が光源136aの中心位置を第1焦点F1とする略楕円形に設定されており、光源136aからの光を前方へ向けて光軸Ax寄りに集光反射させるようになっている。この反射面138aの離心率は、鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。
【0047】
ランプハウジング140は、リフレクタ138の前端開口部から前方へ向けて略筒状に延びるように形成されており、その後端部においてリフレクタ138を固定支持している。そして、このランプハウジング140は、その前端部においてリテーニングリング144を介して投影レンズ142を固定支持して、その投影レンズ142を光軸Ax上に配置するように構成されている。
【0048】
投影レンズ142は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸レンズからなり、その後方側焦点F2を含む後方側焦点面上に形成される光源136aの像を、反転像として前方へ投影するようになっている。シェード146および補助シェード148は、ランプハウジング140の内部空間に配置されており、リフレクタ138からの反射光の一部を遮蔽するようになっている。シェード146は、ランプハウジング140に回動可能に支持されており、補助シェード148は、ランプハウジング140と一体的に形成されている。
【0049】
シェード146は、投影レンズ142の後方側焦点F2の下方近傍において車幅方向に延びる水平軸線Ax1に沿って配置されるとともに水平軸線Ax1の回りに回動し得るように構成された回動軸部材からなっている。すなわち、このシェード146は、水平軸線Ax1上に配置された断面小判型の金属製の芯材152を略半円筒状に囲む金属製の板状部材からなり、その両端部に形成された壁面部146aにおいて芯材152に固定されている。そして、このシェード146は、その外周面が水平軸線Ax1に関して略中心角180°の角度範囲にわたって形成されているとともに、残りの略中心角180°の角度範囲が凹部として形成されている。
【0050】
芯材152は、その両端部近傍において1対のカラー(不図示)を介してランプハウジング140に回動可能に支持されており、その一端部にはギヤ154が固定されている。補助シェード148は、シェード146の回動位置にかかわらず、シェード146の下方を通過しようとするリフレクタ反射光を遮蔽するとともに、投影レンズ142に入射しようとする迷光を遮蔽する。
【0051】
シェード駆動機構150は、ステップモータ156と、ステップモータ156の出力軸に固定されたギヤ158と、このギヤ158と噛み合うギヤ154とからなっている。そして、このシェード駆動機構150は、第1の実施の形態と同様に車両走行状況あるいは図1に示すランプモード切替えスイッチ16の操作に応じて駆動制御される。
【0052】
本実施の形態に係る車両前照灯装置は、自車両より前方を走行する前走車との距離に応じて上述の前照灯ユニットによる光の照射を制御することで、視認性の向上とグレアの低減とをより高いレベルで両立することができる。以下では、上述した前照灯ユニットの制御方法について説明するが、第1の実施の形態と同様の構成については説明を適宜省略する。
【0053】
図10は、第2の実施の形態に係る車両10と車両用前照灯装置112との構成を説明するための制御ブロック図である。本実施の形態においても、車両10側に設けられているセンサやカメラ、ナビゲーションシステム等の情報取得装置から得られた情報に基づいて算出された前走車との距離に応じて配光パターンの制御が行われる。
【0054】
車両用前照灯装置112は、灯具ユニット126と、灯具ユニット126による光の照射を制御する前照灯制御部22と、前照灯制御部22からの制御信号に基づいて灯具を点灯させるための電力を灯具ユニット126へ供給する電源回路62と、灯具ユニット126における配光パターンを変更するためのシェード駆動機構150と、を備える。
【0055】
図11は、第2の実施の形態に係る車両用前照灯装置の制御方法を示すフローチャートである。この処理は所定のタイミングおよび間隔で繰り返される。
【0056】
この処理が開始されると、照度自動調整モードが選択されているか否かが判定される(S30)。照度自動調整モードが選択されていない場合(S30のNo)、前照灯制御部22はこの処理を一度終了する。照度自動調整モードが選択されている場合(S30のYes)、前照灯制御部22は電源回路62を介して灯具ユニット126を点灯する(S32)。
【0057】
次に、前照灯制御部22は、前走車との車間距離Xの情報を取得し(S34)、所定の閾値Lと比較する(S36)。車間距離Xが閾値L以下の場合(S36のNo)、前照灯制御部22は、灯具ユニット126がハイビーム用配光パターンの光度で点灯していたときはそれをロービーム用配光パターンの光度に減光するように電源回路62を制御する(S38)とともに、前走車との距離が伸びるにしたがって徐々にロービーム用配光パターンが上方まで照射するように灯具ユニット126による光の照射を制御する。具体的には、前照灯制御部22は、シェード駆動機構150におけるステップモータ156に流す電流を制御することでシェード146の回転位置を変更する。
【0058】
その結果、図7に示すように、前走車との距離に応じてカットオフラインの位置が変更され、配向パターンの位置が制御される(S40)。この際、灯具ユニット126は、図8に示すように、前走車との車間距離Xが閾値Lを超えない範囲では、水平線上方領域を照らさないように設定されている。これにより、前走車との車間距離が近い場合であっても、グレアを与えることなく前走車までの視認性の向上を図ることができる。
【0059】
一方、車間距離Xが閾値Lよりも大きい場合(S36のYes)、ハイビーム用配光パターンが形成されるようにシェード146の回転位置が変更され、その状態でハイビーム用配光パターンの光度が制御される(S42)。ハイビーム用配光パターンにより、ロービーム用配向パターンより上方を含む領域が照射される。本実施の形態に係る前照灯制御部22は、灯具ユニット126に流す電流を電源回路62を介して制御し、前走車との距離が伸びるにしたがってハイビーム用配光パターンの照度を高めるように光度を変化させる(図7参照)。そのため、ハイビーム用灯具ユニット32により形成される配光パターンの水平線上方領域の明るさは、図8に示すように、車間距離Xが閾値Lを超えて延びるに従い増加するように設定されている。
【0060】
このように、シェード146を変化させることでロービーム用配光パターンの位置を変化させることができるので、灯具ユニット126が固定の配光パターンしか形成できない場合と比較して、自車両と前走車との間の領域の視認性を段階的に向上することができる。また、前走車との距離が閾値Lより離れている場合には、前走車にグレアを与えない程度にハイビーム用配光パターンの光度を制御し、視認性を向上することができる。つまり、前走車との距離が閾値Lより小さい場合にはロービーム用配光パターンの位置を制御することで、また、前走車との距離が所定の閾値Lより大きい場合にはハイビーム用配光パターンの照度を制御することで前走車との距離に応じた適切な光の照射が可能となる。
【0061】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0062】
上述の各実施の形態では、所望の配光パターンの照度を得るためにLEDモジュール50や放電バルブ136に流す電流を調整することで光度を変化させているが、例えば、光源の前方に液晶シャッターのような光の透過量を変化させることができる機構を設け、その透過量を変化させることで配光パターンの照度を制御するようにしてもよい。
【0063】
また、上述の各実施の形態において、前走車との距離Xが閾値Lより大きな閾値L1を超えた場合、それ以降は距離Xにかかわらず水平線より上方の領域を照らす配光パターンの照度を一定にしてもよい。前走車との距離Xが非常に遠い場合、その間の路面領域の視認性を全て満足することは必ずしもないため、配光パターンの照度を一定にすることで消費電力の低減や光源の長寿命化が図られる。
【0064】
また、上述の各実施の形態において、前走車との距離Xが閾値Lより小さな閾値L2よりも近い場合、カットオフライン位置の制御を停止してもよい。前走車との距離Xが近い場合、前走車との距離Xが変化するたびに配光パターンを移動させると視認性の向上よりも頻繁なモータなどの駆動による寿命の低下を考慮すると、カットオフライン位置の制御を停止することで消費電力の低減や駆動機構の長寿命化が図られる。
【0065】
なお、上述の各実施の形態においては、前走車との距離に応じて照度をリニアに上昇させる場合を例示しているが、上昇のさせ方は設計によって最適化すればよく、ノンリニア、ステップ状、あるいは所定の曲線で上昇させてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施の形態に係る車両用前照灯装置を適用した自動車の前部の外観を示す概略図である。
【図2】前照灯ユニットの外観斜視図である。
【図3】図3(a)は、第1の実施の形態に係るロービーム用灯具ユニット近傍の概略断面図、図3(b)は、図3(a)に示すロービーム用灯具ユニットの配光パターンを示す図である。
【図4】図4(a)は、第1の実施の形態に係るハイビーム用灯具ユニット近傍の概略断面図、図4(b)は、図4(a)に示すハイビーム用灯具ユニットの配光パターンの一例を示す図である。
【図5】第1の実施の形態に係る車両と車両用前照灯装置との構成を説明するための制御ブロック図である。
【図6】第1の実施の形態に係る車両用前照灯装置の制御方法を示すフローチャートである。
【図7】前走車との距離とカットオフライン高さとの関係を模式的に示す図である。
【図8】前走車との距離とH線(水平線)上方領域の明るさとの関係を示す図である。
【図9】第2の実施の形態に係る前照灯ユニットの概略断面図である。
【図10】第2の実施の形態に係る車両と車両用前照灯装置との構成を説明するための制御ブロック図である。
【図11】第2の実施の形態に係る車両用前照灯装置の制御方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0067】
10 車両、 12 車両用前照灯装置、 16 ランプモード切替えスイッチ、 18 車両制御部、 20R 前照灯ユニット、 22 前照灯制御部、 24 ランプボディ、 26 透光カバー、 30 ロービーム用灯具ユニット、 32 ハイビーム用灯具ユニット、 42 シェード、 44 エイミング機構、 46 光軸調整部、 48 LED、 50 LEDモジュール、 62 電源回路、 66 ナビゲーションシステム、 68 車速センサ、 70 車高センサ、 72 カメラ、 112 車両用前照灯装置、 120 前照灯ユニット、 122 透光カバー、 124 ランプボディ、 126 灯具ユニット、 128 エイミング機構、 146 シェード、 150 シェード駆動機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に配置される前照灯ユニットと、
自車両より前方を走行する前走車との距離に応じて前記前照灯ユニットによる光の照射を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前走車との距離が所定の閾値より小さい第1の場合には、前走車との距離が伸びるにしたがって徐々に上方まで照射するように配光パターンの位置を制御する一方、
前走車との距離が所定の閾値より大きい第2の場合には、第1の場合の配光パターンよりも上方を含む領域を照射する配光パターンを形成せしめるとともにその照度を制御することを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前走車との距離が前記所定の閾値の場合には、前記配光パターンのカットオフラインが水平線に達しているように前記配光パターンの位置を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記前照灯ユニットは、ロービーム用配光パターンを形成する第1の灯具ユニットと、ハイビーム用配光パターンを形成する第2の灯具ユニットとを有し、
前記制御手段は、
前記第1の場合には、前走車との距離が伸びるにしたがって徐々にロービーム用配光パターンが上方まで照射するように前記第1の灯具ユニットによる光の照射を制御する一方、
前記第2の場合には、前記ロービーム用配光パターンよりも上方を含む領域を照射するハイビーム用配光パターンを形成せしめるとともに、前走車との距離が伸びるにしたがってハイビーム用配光パターンの照度を高めるように前記第2の灯具ユニットによる光の照射を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記制御手段は、車両が走行する環境に応じて前記閾値を変化させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
前走車との距離が所定の閾値より小さい場合には前走車との距離に応じて配光パターンの上下方向の位置を制御する一方、前走車との距離が所定の閾値より大きい場合には前走車との距離に応じて配光パターンの照度を高める制御をすることを特徴とする車両用前照灯装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−220636(P2009−220636A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64940(P2008−64940)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】