説明

車両用前照灯

【課題】 ハイビームによって遠方視界を確保しながら、配光パターンに形成する遮光領域を変位させることができるコンパクトな車両用前照灯を提供する。
【解決手段】 可動シェード機構15は、投影レンズ8の後方側焦点Fより後方において光軸Axに交差して上下方向に延びる鉛直軸線Vxに沿って配置されると共に、鉛直軸線Vx回りに回動し得るように構成された回動軸部材から成り、遮蔽位置において投影レンズ8の後方側焦点Fより前方に突出する先端側外周面部分20Aの水平断面が略半円形状とされ、先端側外周面部分20Aから鉛直軸線Vxに延びる基端側外周面部分20Bが先端側外周面部分20Aより水平断面幅の狭い狭窄状とされた回動シェード20と、回動シェード20を回動させることにより、車両前方に投影される配光パターンの遮光領域を水平方向へ変位させる回転モータ30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯に関し、特に先行車や対向車の有無等に応じて前照灯の配光を変化させることができる可変配光機能を備えたプロジェクタ型の車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両前後方向に延びる光軸上に配置された光源からの光をリフレクタにより前方へ向けて光軸寄りに集光反射させ、この反射光をリフレクタの前方に設けられた投影レンズを介して灯具前方へ照射するように構成されたプロジェクタ型の灯具ユニットを備えた車両用前照灯が知られている。
【0003】
この様なプロジェクタ型の灯具ユニットを使用する場合、投影レンズとリフレクタとの間にリフレクタからの反射光の一部を遮蔽可能なシェードを設けて、例えばすれ違い配光パターン等の要求される配光パターンに合わせて不要部分を遮蔽することで、所望の配光パターンの上端部にカットオフラインを形成することができる。
【0004】
更に、例えば特許文献1等には、光源ユニットが、第1LED(半導体発光素子)から出射した光を車両左側に照射して左側照射パターンを形成する第1の反射部(リフレクタ)と、第2LEDから出射した光を車両右側に照射して右側照射パターンを形成する第2の反射部と、第3LEDから出射した光を照射して中央照射パターンを形成する第3の反射部と、を備えた車両用灯具が提案されている。
【0005】
この様な車両用灯具によれば、制御部が、左側照射パターン、右側照射パターン及び中央照射パターンを選択的に点消灯制御することで、可変配光機能を備えることができる。そこで、例えば先行車が有る場合には、検出装置が先行車を検出し、その検出結果に応じて制御部が、第3LEDを消灯し、第1LED及び第2LEDを点灯制御する。これにより、ハイビームによって遠方視界を確保しながら、先行車に対するグレアを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−179969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1等に開示された車両用灯具が備える可変配光機能の構成では、左側照射パターン、右側照射パターン及び中央照射パターンをそれぞれ形成するために互いに異なる方向を向いた3つの反射部が必要となる。その為、車両用灯具が大型化するという問題があった。
【0008】
また、例えば先行車のグレアを防止するために中央照射パターンを形成する第3LEDを消灯して形成した遮光領域は、遮光位置を変位させることができない。そこで、対向車と自車との相対位置に応じた最適な配光パターンを形成する為には、多数の照射パターンを形成できるように光源と反射部を増やさねばならず、更に車両用灯具の大型化を招くという問題があった。
【0009】
従って、本発明の目的は上記課題を解消することに係り、ハイビームによって遠方視界を確保しながら、配光パターンに形成する遮光領域を変位させることができるコンパクトな車両用前照灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、ランプボディとカバーで形成された灯室内に、車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、前記投影レンズの後方側に配置された光源と、前記光源からの光を前方に向けて前記光軸寄りに反射するリフレクタと、前記投影レンズと前記光源との間に配置されて前記リフレクタからの反射光の一部及び前記光源からの直接光の一部を遮蔽する遮蔽状態と非遮蔽状態とを切り換え可能な可動シェード機構と、を備えた車両用前照灯であって、
前記可動シェード機構は、
前記投影レンズの後方側焦点より後方において前記光軸に交差して上下方向に延びる鉛直軸線に沿って配置されると共に、前記鉛直軸線回りに回動し得るように構成された回動軸部材から成り、遮蔽位置において前記投影レンズの後方側焦点より前方に突出する先端側外周面部分から前記鉛直軸線に延びる基端側外周面部分が前記先端側外周面部分より水平断面幅の狭い狭窄状とされた回動シェードと、
前記回動シェードを回動させることにより、車両前方に投影される配光パターンの遮光領域を水平方向へ変位させるアクチュエータと、
を備えることを特徴とする車両用前照灯により達成される。
【0011】
上記構成の車両用前照灯によれば、鉛直軸線に沿って配置された回動シェードが、リフレクタからの反射光の一部及び光源からの直接光の一部を遮蔽することによって、配光パターンの略中央部に遮光領域を形成することができる(遮蔽状態)。
更に、遮蔽位置において回動シェードを回動させることにより、投影レンズの後方側焦点より前方に突出する先端側外周面部分が水平方向へ移動する。そこで、車両前方に投影される配光パターンの遮光領域を水平方向へ変位させることができる。
【0012】
また、回動シェードの基端側外周面部分は、先端側外周面部分より水平断面幅の狭い狭窄状とされている。そこで、回動シェードを反転して非遮蔽位置とした際、投影レンズの後方側焦点近傍に位置する基端側外周面部分が、投影レンズへ入射する光の一部を遮蔽してしまうことがない(非遮蔽状態)。
【0013】
尚、上記構成の車両用前照灯において、前記回動シェードの先端側外周面部分は、水平断面が略半円形状とされていることが望ましい。
この様な構成の車両用前照灯によれば、水平方向へ変位する遮光領域の幅変化を最小限に抑えることができる。
【0014】
また、前記光軸を挟んで車幅方向に配置された一対の前記光源と、これら各光源からの光を前方に向けて前記光軸寄りに反射することにより、それぞれ左右の片ハイビーム用配光パターンを形成する一対のリフレクタと、を備えることが望ましい。
この様な構成の車両用前照灯によれば、一対の前記光源をそれぞれ点灯制御することにより、片ハイビーム用配光パターンを容易に得ることができる。
【0015】
また、上記構成の車両用前照灯において、前記一対のリフレクタの境界には、非遮蔽位置における前記回動シェードの先端側外周面部分との隙間を遮光する固定遮光板が設けられていることが望ましい。
この様な構成の車両用前照灯によれば、片ハイビーム用配光パターンを形成する際、リフレクタと非遮蔽位置の回動シェードとの隙間からの漏れ光が遮光領域に投影されるのを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明した本発明の車両用前照灯によれば、3つ以上の多数の光源やリフレクタを用いることなく、配光パターンの略中央部に遮光領域を形成することができると共に該遮光領域を変位させることができる。
したがって、ハイビームによって遠方視界を確保しながら、配光パターンに形成する遮光領域を変位させることができるコンパクトな車両用前照灯を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用前照灯の概略縦断面図である。
【図2】図1の車両用前照灯における灯具ユニットの概略斜視図である。
【図3】図2に示した回動シェードの上面図である。
【図4】図2に示した灯具ユニットにおける回動シェードがハイビーム用配光パターンにおける車幅方向の略中央部を遮光する状態を説明するための要部水平断面図である。
【図5】図2に示した灯具ユニットにおける回動シェードがハイビーム用配光パターンを生成する状態を説明するための要部水平断面図である。
【図6】車両用前照灯から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターン例を透視的に示す図であり、(a)は通常ハイビーム用配光パターンを示し、(b)は追走ハイビーム用配光パターンを示し、(c)は対向ハイビーム用配光パターンと示し、(d)は片側対向ハイビーム用配光パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に基づいて本発明の一実施形態に係る車両用前照灯を詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の車両用前照灯1は、素通し状の透明カバー(カバー)2とランプボディ3とで区画形成された灯室4内に、灯具ユニット5が収容されている。
【0019】
灯具ユニット5は、図1及び図2に示すように、プロジェクタ型のハイビーム用灯具ユニットであり、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された投影レンズ8と、投影レンズ8の後方側焦点Fよりも後方に配置された左右一対の半導体発光素子(光源)10L,10Rと、各半導体発光素子10L,10Rからの光を前方に向けて光軸Ax寄りに反射する左右一対のリフレクタ13L,13Rと、投影レンズ8と半導体発光素子10L,10Rとの間に配置されてリフレクタ13L,13Rからの反射光の一部及び半導体発光素子10L,10Rからの直接光の一部を遮蔽する遮蔽状態と非遮蔽状態とを切り換え可能な可動シェード機構15と、を備えている。
【0020】
この灯具ユニット5は、支持フレーム11の上下支持ベース11a,11bに取付けられている。支持フレーム11は、エイミングスクリュウ6a及びエイミングナット6bとで構成されるエイミング機構6を介して、ランプボディ3に支持されている。エイミング機構6は、エイミングナット6bによる締め付けを調整することで灯具ユニット5の取付位置及び取付角度を微調整するための機構で、エイミング調整した段階では、灯具ユニット5の光軸Axは、車両前後方向に対して略水平の方向に延びるようになっている。支持フレーム11の後面には放熱フィン18が突設されており、半導体発光素子10L,10Rに生じる熱を放熱している。
【0021】
投影レンズ8は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸レンズからなり、その後方側焦点Fを含む焦点面上の像を反転像として前方へ投影するようになっている。
【0022】
本実施形態の場合、半導体発光素子10L,10Rは、それぞれ発光部10aを有する白色ダイオードである。一対の半導体発光素子10L,10Rは、光軸Axを挟んで車幅方向左右に配置され、その照射軸LxR,LxLが光軸Ax側を向いて互いに対向するように配置される。より正確には、半導体発光素子10L,10Rは互いに対向した状態から、その照射軸LxR,LxLがそれぞれリフレクタ13L,13Rの反射面13La,13Raを向くように車両後方に少し傾いた状態でリフレクタ本体7の両側に固定されている(図4,5参照)。尚、これら半導体発光素子10L,10Rは、図示しない点灯制御装置により独立して点灯制御される。
【0023】
本実施形態のリフレクタ13L,13Rは、図2及び図4に示すように、光軸Axを中心とする左右一対の反射面13La,13Raを有し、互いに接続されて一体化された反射部材である。これら反射面13La,13Raは、アルミニウム合金や樹脂等から成るリフレクタ本体7の一部にアルミニウム蒸着等で形成された略楕円球面状の反射面である。
【0024】
これら反射面13La,13Raは、水平断面形状が発光部10aの中心位置を第1焦点(F1)とすると共に投影レンズ8の後方側焦点F近傍を第2焦点とする略楕円形に設定されており、左右の半導体発光素子10L,10Rと向かい合うように配置されている。従って、これら反射面13La,13Raは、発光部10aからの光を前方へ向けて光軸Ax寄りに集光反射させるようになっている。また、これら反射面13La,13Raの離心率は、鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。
【0025】
本実施形態の可動シェード機構15は、図1〜図5に示すように、投影レンズ8の後方側焦点Fより後方において光軸Axに交差して上下方向に延びる鉛直軸線Vxに沿って配置されると共に、該鉛直軸線Vx回りに回動し得るように構成された回動軸部材から成る回動シェード20と、リフレクタ13L,13Rの境界に配置されて回動シェード20との隙間を遮光する固定遮光板12と、回動シェード20を回動させるアクチュエータとしての回転モータ30と、を備える。
【0026】
固定遮光板12は、リフレクタ13L,13Rの境界から光軸Axに沿って、図5に示した非遮蔽位置における回動シェード20の先端側外周面部分20Aの手前まで延びるように配置された板状の遮光部材である。この固定遮光板12は、片ハイビーム用配光パターンを形成する際、リフレクタ13L,13Rと非遮蔽位置の回動シェード20との隙間からの漏れ光が遮光領域に投影されるのを防止する。
【0027】
本実施形態の回動シェード20は、垂直軸線Vx上に配置された支軸21a,21bを両端に有する水平断面略水滴形状の金属柱部材から成る。回動シェード20の下端側に突設された支軸21aは、回転モータ30のモータ軸30aに連結される。
【0028】
この回動シェード20は、図3及び図4に示した遮蔽位置において投影レンズ8の後方側焦点Fより前方に突出する先端側外周面部分20Aの水平断面が略半円形状とされ、先端側外周面部分20Aから鉛直軸線Vxに延びる基端側外周面部分20Bが先端側外周面部分20Aの幅wより水平断面幅の狭い狭窄状(本実施形態においては、三角形の水平断面形状)とされている。また、先端側外周面部分20Aの下方には、図5に示した非遮蔽位置においてリフレクタ13L,13Rとの干渉を防止するための切り欠き部20Cが形成されている(図2参照)。
【0029】
更に、先端側外周面部分20Aと基端側外周面部分20Bとをつなぐ後方側焦点Fより後方の部分には、両側に平行部20Dが形成されている。そして、これら先端側外周面部分20A、基端側外周面部分20B及び平行部20Dの外側面全周は、アルミニウム蒸着が施されて反射面とされている。
そこで、回動シェード20が遮蔽位置の際には、半導体発光素子10L,10Rからの直接光の一部D1,D2を平行部20Dが投影レンズ8の入射面(後方側表面)に向けて反射して前方へ投影することができるので、光利用率を高めて照射パターンの光量を向上させることができる(図4参照)。
【0030】
本実施形態のアクチュエータは、ステップモータ等の回転モータ30から成り、モータ軸30aに連結された支軸21aを介して回動シェード20を回転駆動する。
そして、この回転モータ30は、図示しないコントロールユニットにより車両走行状況或いはビーム切換えスイッチ操作に応じて駆動制御されるようになっている。
【0031】
図4に示した遮蔽位置において、光軸Ax上に位置して幅wの先端側外周面部分20Aが投影レンズ8の後方側焦点Fより前方に突出した回動シェード20は、半導体発光素子10L,10Rからの光の一部E1,E2を遮蔽することによって、通常ハイビーム用配光パターンPHの略中央部に遮光領域C1を形成する(図6(a),(b)参照)。
この際、半導体発光素子10L,10Rからの直接光の一部D1,D2は、回動シェード20の平行部20Dにより投影レンズ8の入射面に向けて反射され、前方へ投影されるので、照射パターンの光量が向上する。
【0032】
そして、回転モータ30が光軸Axを中心に左右方向に約30度の角度範囲で回動シェード20を連続的に回動させることにより、投影レンズ8の後方側焦点Fより前方に突出する先端側外周面部分20Aが水平方向へ移動する。そこで、図6(c)に示すように、車両前方に投影される通常ハイビーム用配光パターンPHの遮光領域C1を水平方向へ変位させることができる。
【0033】
尚、回動シェード20の先端側外周面部分20Aは、水平断面の半径r1が回動シェード20の回動半径R1よりも曲率が大きい略半円形状とされ、この半径r1の中心が後方側焦点Fよりも後方にある。そこで、回動シェード20の回動に伴って水平方向へ変位する遮光領域C1の左右幅の変化を最小限に抑えることができる。
また、本実施形態に係る回動シェード20の場合、約30度より大きい角度範囲で回動させた際には、遮光領域C1の位置が変わらず配光パターンに乱れが生じてしまう為に使用しない。しかしながら、回動シェードやリフレクタ等の形状を適宜変える事により、回動シェードを約30度より大きい角度範囲で回動させて使用することも可能なことは勿論である。
【0034】
次に、回転モータ30が図5に示した非遮蔽位置に回動シェード20を反転させることにより、先端側外周面部分20Aが投影レンズ8の後方側焦点Fから離れた後方に移動し、基端側外周面部分20Bが後方側焦点Fの後方近傍に移動する。即ち、回動シェード20は、投影レンズ8の入射面に向かうリフレクタ13L,13Rからの反射光及び半導体発光素子10L,10Rからの直接光を遮蔽してしまうことがない非遮蔽位置に移動する。
【0035】
更に、回動シェード20の基端側外周面部分20Bは、鉛直軸線Vxに向かって水平断面幅が窄まる三角形の水平断面形状とされている。そこで、後方側焦点Fの後方近傍に位置する基端側外周面部分20Bが、リフレクタ13L,13Rからの反射光の一部に干渉して遮光してしまうこともない。
【0036】
図6(a)は、このとき車両用前照灯1から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターン例を透視的に示す図である。
同図に示すように、この配光パターンは、右側の半導体発光素子10Rからの光B1による左側ハイビーム用配光パターンPHLと左側の半導体発光素子10Lからの光B2による右側ハイビーム用配光パターンPHRとにより合成された通常ハイビーム用配光パターンPHである。
【0037】
即ち、本実施形態の場合、通常ハイビーム用配光パターンPHは、左右の半導体発光素子10L,10Rを点灯させ、且つ、リフレクタ13L,13Rからの反射光及び半導体発光素子10L,10Rからの直接光を遮蔽しないように回動シェード20の先端側外周面部分20Aを投影レンズ8の後方側焦点Fから離れた後方に位置させることにより形成できる。
【0038】
また、回転モータ30が図4に示した遮蔽位置に回動シェード20を反転させると、先端側外周面部分20Aが投影レンズ8の後方側焦点Fより前方に突出する。そこで、光軸Ax上に位置する回動シェード20が半導体発光素子10L,10Rからの光の一部E1,E2を遮蔽するので、投影レンズ8から前方へ投影される通常ハイビーム用配光パターンPHの車幅方向の略中央部が除去されることとなる。
【0039】
図6(b)は、このとき車両用前照灯1から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターン例を透視的に示す図である。
同図に示すように、この配光パターンは、半導体発光素子10Rからの光B1による左側ハイビーム用配光パターンPHLと半導体発光素子10Lからの光B2による右側ハイビーム用配光パターンPHRとにより合成されたハイビーム用配光パターンにおいて、H−H線より上方の略中央部に遮光領域C1が形成された追走ハイビーム用配光パターンPHMである。この追走ハイビーム用配光パターンPHMによれば、車両前方の中央を走行する先行車にグレアを与えることなく自車の視認性を向上させることができる。
【0040】
また、図4に想像線で示したように、投影レンズ8の後方側焦点Fより前方に突出する先端側外周面部分20Aが光軸Axから右方向に約30度回転するように回転モータ30の回動制御が行われると、車両前方に投影される追走ハイビーム用配光パターンPHMの遮光領域C1が左へ変位し、車幅方向の左寄り中央部が除去されることとなる。
【0041】
図6(c)は、このとき車両用前照灯1から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターン例を透視的に示す図である。
同図に示すように、この配光パターンは、半導体発光素子10Rからの光B1による左側ハイビーム用配光パターンPHLと半導体発光素子10Lからの光B2による右側ハイビーム用配光パターンPHRとにより合成されたハイビーム用配光パターンにおいて、H−H線より上方の左寄り中央部に遮光領域C1が形成された対向ハイビーム用配光パターンPHNである。この対向ハイビーム用配光パターンPHNによれば、追走ハイビーム用配光パターンPHMよりも左方寄りに遮光領域C1が形成されるので、車両前方の左側を走行する対向車にグレアを与えることなく自車の視認性を向上させることができる。
【0042】
更に、本実施形態の車両用前照灯1は、光軸Axを挟んで車幅方向に配置された一対の半導体発光素子10L,10Rと、各半導体発光素子10L,10Rからの光B1,B2を前方に向けて光軸Ax寄りに反射する左右一対のリフレクタ13L,13Rと、を備えている。そこで、一対の半導体発光素子10L,10Rをそれぞれ点灯制御することにより、片ハイビーム用配光パターンを容易に得ることができる。
【0043】
即ち、投影レンズ8の後方側焦点Fより前方に突出する先端側外周面部分20Aが光軸Axから右方向に約30度回転するように回転モータ30の回動制御を行った後、右側の半導体発光素子10Rを消灯して左側の半導体発光素子10Lのみを点灯させる。すると、半導体発光素子10Lからの光B2の一部が遮蔽され、投影レンズ8から前方へ投影される片ハイビーム用配光パターンの車幅方向の左側部分が除去されることとなる。
【0044】
図6(d)は、このとき車両用前照灯1から前方へ照射される光により、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターン例を透視的に示す図である。
同図に示すように、この配光パターンは、半導体発光素子10Lからの光B2による右側ハイビーム用配光パターンPHRにおいて、H−H線より上方の左側に遮光領域C1が形成された片側対向ハイビーム用配光パターンPHRである。この片側対向ハイビーム用配光パターンPHRによれば、車両前方の左側をすれ違う対向車にグレアを与えることなく自車の視認性を向上させることができる。
【0045】
この様に、本実施形態の車両用前照灯1によれば、図示しないコントロールユニットにより先行車や対向車の有無等に応じて回転モータ30を駆動制御し、回動シェード20を車両走行状況に応じて回動させることにより、投影レンズ8の後方側焦点Fより前方に突出する先端側外周面部分20Aを水平方向へ移動することができる。そこで、灯具ユニット5からの光照射によって車両前方に投影される配光パターンの遮光領域C1を水平方向へ変位させることができ、走行状態に応じた最適な視認性を得ることができる。
【0046】
従って、本実施形態の車両用前照灯1は、例えば3つ以上の多数の光源やリフレクタを用いることなく、配光パターンの略中央部に遮光領域を形成することができると共に該遮光領域を変位させることができる。そこで、ハイビームによって遠方視界を確保しながら、配光パターンに形成する遮光領域を変位させることができるコンパクトな車両用前照灯1を提供できる。
【0047】
尚、上記実施形態における投影レンズ、光源、リフレクタ、可動シェード機構、回動シェード、先端側外周面部分、基端側外周面部分及びアクチュエータなどの具体的な構成も、上記実施形態に限定するものではなく、本発明の主旨に基づいて種々の変更が可能であることは云うまでも無い。
例えば、上記実施形態では、光源として半導体発光素子を用いた例を説明したが、放電バルブやハロゲンバルブ等の光源バルブを用いることもできる。また、回動シェードを回動させるアクチュエータとして、ソレノイド及び歯車機構を用いることもできる。
【0048】
また、上記実施形態では、基端側外周面部分を三角形の水平断面形状としたが、本発明に係る基端側外周面部分は先端側外周面部分の幅より水平断面幅の狭い狭窄状であれば、種々の形状を採りうることは云うまでも無い。
また、上記実施形態の車両用前照灯1では、光軸Axを挟んで車幅方向に配置された一対の半導体発光素子10L,10Rと、一対のリフレクタ13L,13Rと、を備えた構成としたが、単一の光源及びリフレクタで構成しても良い。
【符号の説明】
【0049】
1 車両用前照灯
2 透明カバー(カバー)
3 ランプボディ
4 灯室
5 灯具ユニット
8 投影レンズ
10L,10R 半導体発光素子(光源)
10a 発光部
12 固定遮光板
13L,13R リフレクタ
13La,13Ra 反射面
15 可動シェード機構
20 回動シェード
20A 先端側外周面部分
20B 基端側外周面部分
20C 切り欠き部
20D 平行部
21a,21b 支軸
30 回転モータ(アクチュエータ)
Ax 光軸
Vx 鉛直軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランプボディとカバーで形成された灯室内に、車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、前記投影レンズの後方側に配置された光源と、前記光源からの光を前方に向けて前記光軸寄りに反射するリフレクタと、前記投影レンズと前記光源との間に配置されて前記リフレクタからの反射光の一部及び前記光源からの直接光の一部を遮蔽する遮蔽状態と非遮蔽状態とを切り換え可能な可動シェード機構と、を備えた車両用前照灯であって、
前記可動シェード機構は、
前記投影レンズの後方側焦点より後方において前記光軸に交差して上下方向に延びる鉛直軸線に沿って配置されると共に、前記鉛直軸線回りに回動し得るように構成された回動軸部材から成り、遮蔽位置において前記投影レンズの後方側焦点より前方に突出する先端側外周面部分から前記鉛直軸線に延びる基端側外周面部分が前記先端側外周面部分より水平断面幅の狭い狭窄状とされた回動シェードと、
前記回動シェードを回動させることにより、車両前方に投影される配光パターンの遮光領域を水平方向へ変位させるアクチュエータと、
を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記回動シェードの先端側外周面部分は、水平断面が略半円形状とされていることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記光軸を挟んで車幅方向に配置された一対の前記光源と、これら各光源からの光を前方に向けて前記光軸寄りに反射することにより、それぞれ左右の片ハイビーム用配光パターンを形成する一対のリフレクタと、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記一対のリフレクタの境界には、非遮蔽位置における前記回動シェードの先端側外周面部分との隙間を遮光する固定遮光板が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−43656(P2012−43656A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184234(P2010−184234)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】