説明

車両用変速機およびその変速比の設定方法

【課題】運転者の感性に合致し、心地良い変速が可能な変速機およびその変速比を設定する方法を提供する。
【解決手段】最高速段と最低速段との変速比が車両の動力性能に基づいて設定された車両用変速機において、前記最高速段と最低速段との間の変速段の変速比が、各変速段で得られる駆動力の対数比に基づいて設定されている。この発明の方法で変速比を設定することにより、運転者や搭乗者の感覚もしくは感性に合致した変速が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載される変速機およびその変速比を設定する方法に関し、特に有段式の変速機およびその各変速段の変速比を設定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用の変速機は、エンジンなどの動力源の特性を補って動力性能や燃費などの特性を要求に合致させるものであり、低車速では動力源が出力するトルクを増大させ、また高車速では増速して動力源の回転数を相対的に低下させるように構成されている。その変速機としては、変速比を段階的に変化させる有段変速機や、変速比を連続的に変化させる無段変速機が知られており、また無段変速機であっても手動操作によって変速比をステップ的に変化させ、かつ車速やアクセル開度などの駆動要求量が変化しても変速比を維持するように構成された変速機も知られている。
【0003】
有段式の手動変速機もしくは自動変速機における各変速段のうちの最高速段の変速比あるいは無段変速機で手動操作によって設定される最高速段の変速比は、従来、水平な走行路の走行抵抗に打ち勝つ駆動力が得られる値に設定するのが一般的であり、また最低速段の変速比は、登坂可能な最大勾配および登坂速度を想定し、その想定した登坂走行が可能な値に設定するのが一般的である。さらに、それらの最高速段と最低速段との間の中間段の変速比は、それぞれの中間段での登坂性能や最高車速、燃費などを考慮して決めている。これらの観点から、前進8段の変速段の変速段間比が調和の取れたものとなるように構成した例が特許文献1に記載されている。
【0004】
一方、従来、操作量とその操作量に応じて得られる刺激の大きさとが指数関数で表される関係にあれば、その操作量と刺激とが人間の感性に合ったものとなり、心地良いものとなる、との法則がウェーバー・へフナーの法則として知られている。この法則を適用して構成した操舵装置の例が特許文献2や特許文献3に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−10073号公報
【特許文献2】特開2005−219686号公報
【特許文献3】特開2006−7843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、最高速段や最低速段の変速比は、最高速度や登坂性能などの車両の走行特性に基づいて設定され、また中間段は燃費をも考慮して設定されるが、これらの変速比を決める要因は車両としての性能である。これに対して特許文献1に記載された発明では、変速段の段間比が高速段側で順次大きくなっていることを調和の取れている状態としており、これによって変速感が向上するとしている。このように、従来では、変速比を決める要因として、運転者などの車両の搭乗者が受ける感触を取り入れておらず、運転者にとって心地良い変速とする変速比は如何にあるべきかなどの点で検討あるいは開発するべき余地が多分にあった。
【0007】
また、特許文献1の発明では、加速感を向上させるように変速比を設定しており、運転者が受ける感触を変速比の設定要因としているが、その変速比は高車速側の変速段で段間比が大きくなるものであり、変速に伴う駆動力あるいはその変化が運転者の感性に合致したものとは言い得ず、検討および改良の余地があった。なお、特許文献2や特許文献3には変速比を設定するための技術が開示されていない。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、運転者などの搭乗者の感性にあった変速を行うことのできる車両用変速機およびそのような変速比を設定する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、最高速段と最低速段との変速比が車両の動力性能に基づいて設定された車両用変速機において、前記最高速段と最低速段との間の変速段の変速比が、各変速段で得られる駆動力の対数比に基づいて設定された値であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、最高速段と最低速段との変速比が車両の動力性能に基づいて設定された車両用変速機における変速比の設定方法において、前記最高速段と最低速段との間の変速段の変速比を、各変速段で得られる駆動力の対数比に基づいて設定することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明の車両用変速機あるいは変速比の設定方法によれば、各変速段の変速比が、各変速段での駆動力の対数比に基づいて設定され、その結果、変速比を変化させる変速操作を感覚の大きさとし、駆動力の変化量を刺激の大きさとして、これらの間にウェーバー・へフナーの法則の関係が成り立つ。そのため、この発明の変速機によれば、またこの発明の方法で変速比を設定することにより、運転者や搭乗者の感覚もしくは感性に合致した変速が可能になり、運転し易い車両もしくは運転感覚の良好な車両を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明に係る変速機は、車両に搭載されて減速作用あるいは増速作用を行うものであり、例えば図1に示すように、変速機1は動力源2の出力側に連結され、その変速機1から終減速機3を介して左右の駆動輪4に動力を伝達する。したがって、変速機1は、変速比を多様に変化させるように構成され、特にこの発明に係る変速機1は複数段階に変速比を変化させるように構成されたいわゆる有段変速機である。その例は、複数のギヤ対を備え、動力伝達に関与するギヤ対を変更することにより変速比(変速段)を切り替える構成の変速機、複数組みの遊星歯車機構を備え、それらの遊星歯車機構を介した動力の伝達経路を変更することにより変速比(変速段)を切り替える構成の変速機である。また、変速比を連続的に(無段階に)切り替えることのできる無段変速機であって、段階的に設定された複数の変速比を手動操作に基づいて選択してその変速比を維持するいわゆるマニュアル操作によって変速段を選択するように構成された無段変速機が、この発明に係る変速機の他の例である。
【0013】
この発明に係る変速機1は、上記のように変速比が互いに異なる複数の変速段を設定できるように構成されている。それらの変速段のうち最高速段(最上段)と最低速段(最下段)との変速比は、従来と同様に、車両に要求される特性に基づいて設定されている。例えば最高速段の変速比は、水平な走行路面を走行抵抗に打ち勝つ駆動力や最高車速に基づいて設定され、これに対して最低速段の変速比は、登坂可能な最大勾配および登坂速度を想定し、その想定した登坂走行が可能となるように設定されている。これを図に示すと図2のとおりであり、「Rmin」の符号で示す線が最高速段の変速比であり、その線上のA点が車両として最高車速である。また図2で「Rmax」の符号で示す線が最低速段の変速比であり、その線上のB点が想定された最大勾配の登坂路での最高車速となる。なお、図2における破線は、各勾配ごとの走行抵抗を示している。
【0014】
上記の変速機1は、これらの最高速段と最低速段とを含む複数の変速段を設定できるように構成されており、最高速段と最低速段とを除くいわゆる中間段の変速比は、以下のようにして設定されている。感覚の大きさEと刺激の大きさWとに関するウェーバー・へフナーの法則によれば、
E=K・logW+C(KおよびCは定数)
の関係が成立することにより、人間の感性に合った刺激が得られ、心地良さを体感できる、とされている。これを変速による駆動力の変化に当てはめると、(n−1)段からn段への変速の場合、そのような変速を生じさせる操作すなわち変速比の変化が感覚の大きさになるので、
[(n−1)段→n段に変速]=log(Fn/Fn-1)
が成立するように変速比を設定すれば、運転者の感覚に合った変速となる。なお、Fは駆動力である。
【0015】
ここで、
F=T・R/r
(T:動力源のトルクもしくは変速機の入力トルク、R:トータルギヤ比、r:タイヤ半径)であるから、例えば手動操作で変速したことにより変化する駆動力の変化は、動力源の出力トルクもしくは変速機の入力トルクが変速の前後で同じであるとした場合、
log(Fn/Fn-1)=log(Rn/Rn-1)
となる。
【0016】
したがって、最高速段の変速比Rminと最低速段の変速比Rmaxとから
log(Rmax/Rmin)=α
が求められる。そして、変速機1で設定できる変速段がn段であるとした場合、隣接する変速段の変速比同士の対数比が(α/n)に設定される。
log(Rn/Rn-1)=(α/n)
【0017】
そして、対数表から
(Rn/Rn-1)=β
であることが知られるから、最低速段の変速比Rmaxに上記のβを掛け合わせて、最低速段の次の第2速段の変速比を設定することができる。以下、同様にして、既知の変速比と上記のβとによって、変速比が既知の変速段に隣接する変速段の変速比を順次、設定することができる。なお、動力源がガソリンエンジンなどの内燃機関の場合、回転数に応じてトルクが変化するので、上述した変速の前後で動力源トルクもしくは変速機の入力トルクが同じ、との仮定が成立しないので、変速比の対数比に替えて駆動力の対数比に基づいて各変速段の変速比を設定することが好ましい。
【0018】
図1に示す変速機1の変速比は、上記のように、それぞれの変速段での駆動力の対数比に基づいて設定されており、その結果、変速操作によって得られる駆動力もしくはその変化量がウェーバー・へフナーの法則に則したものとなり、運転者もしくは変速操作した者の感覚(感性)にあった変速が可能になる。また、最低速段や最高速段の変速比は、最高車速や登坂性能などの動力性能を考慮して設定されるので、車両の性能を損なうことなく、心地良い変速が可能な変速機を得ることができる。そして、この発明の方法によれば、上述したようにして変速比を設定するので、変速機の変速比を心地良い変速が可能な値に容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係る変速機を含むパワートレーンの一例を示す模式図である。
【図2】その変速機を搭載した車両の最高速段と最低速段とでの駆動力と走行抵抗との関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0020】
1…変速機、 2…動力源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最高速段と最低速段との変速比が車両の動力性能に基づいて設定された車両用変速機において、
前記最高速段と最低速段との間の変速段の変速比が、各変速段で得られる駆動力の対数比に基づいて設定された値であることを特徴とする車両用変速機。
【請求項2】
最高速段と最低速段との変速比が車両の動力性能に基づいて設定された車両用変速機における変速比の設定方法において、
前記最高速段と最低速段との間の変速段の変速比を、各変速段で得られる駆動力の対数比に基づいて設定することを特徴とする変速比の設定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−250376(P2009−250376A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100384(P2008−100384)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】