説明

車両用扉の非常時開放装置

【課題】鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には、非常用ドアコックを操作できないようにするのに加えて、設定速度以下になった場合には不用意に空気圧シリンダの圧力空気が排気され、側出入口扉を手動で開放できる状態にならないようにする。
【解決手段】鉄道車両の走行速度が設定速度を超えると、可動弁体13は第3の通路部11gの下流端を開放し、前記下流端を第2の空間部11b内に開放する状態になる。これにより、空間部11b内に圧力空気を導入し、可動スプール12の下端部に前記圧力空気が作用するので、操作ハンドル15を操作しようとしても、操作ハンドル15の状態を変化させることができない。その結果、鉄道車両の走行速度が設定速度以下になっても、空気圧シリンダ5から圧力空気が排出されることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両とくに鉄道車両用の側出入口扉を非常時に乗客等が手動で開放できるようにした非常時開放装置に関し、詳しくは、車両走行時の速度が所定速度を超えると、前記扉の開放動作を不能にして安全性を高めた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気圧シリンダ(ドアエンジン)で側出入口扉を開閉する鉄道車両では、空気源から前記空気圧シリンダへの配管の途中に、車内側から操作可能なハンドルレバーを備えた非常用ドアコックを設けている。このハンドルレバーを手動操作にて通常位置から非常位置に回転することにより、前記空気圧シリンダへの給気を遮断するとともに空気圧シリンダからの排気を行うことで、側出入口扉を手動で開閉できるようになっている。
【0003】
上記のような非常用ドアコックは、側出入口扉上方の鴨居内に設けられ、点検蓋を開放することで操作できるようになっているが、車両の走行速度に関係なく、いつでもドアコックを操作して側出入口扉を手動で開放できるようになるため、安全性を欠くおそれがある。
【0004】
そこで、前記ドアコックの排気部に、車両が所定速度以上になると閉じる電磁弁を設けた非常時開放装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この装置によれば、車両が所定速度以上で閉じる電磁弁を前記ドアコックの排気部に設けたものであるから、所定速度以上で前記ドアコックを操作しても、ドアエンジンである空気圧シリンダから排気されず、扉の閉状態が維持され、扉を手動で開放することができない。また、車両が所定速度未満であると、前記電磁弁が開き、ドアコックの操作により、空気圧シリンダから圧力空気が排出されて,扉は手動で開く。
【0005】
また、ハンドルレバーの近傍に、このハンドルレバーの回動を規制する鎖錠装置を設け、該鎖錠装置に、列車の一定走行速度以上で前記ハンドルレバーを鎖錠状態とする電気回路を設けたものも知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平6−56442号公報
【特許文献2】特開2002−347616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載のものでは、ドアコックの排気部に電磁弁を設け、電磁弁が閉じている状態でも、ドアコックのハンドルレバーは操作できるようになっているので、電磁弁が閉じている状態でハンドルレバーが開操作され、その状態で車両が所定速度未満になると、空気圧シリンダが排気され、必要がなくても側出入口扉を手動で開放できることになり、望ましくない。
【0008】
前記特許文献2に記載のものでは、鎖錠装置を別途設けるため、それを配置するために点検蓋内に大きなスペースを必要とする。また、構造が複雑となるので、故障しやすい。
【0009】
発明者は、鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には、非常用ドアコック自体を操作できないようにすれば、走行速度が設定速度以下になっても、不用意に側出入口扉を手動で開放できる状態にならないことに着想し、本発明をなしたものである。
【0010】
本発明は、鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には、非常用ドアコックを操作できないようにし、また、鉄道車両の走行速度が設定速度以下になった場合には不用意に空気圧シリンダの圧力空気が排気され、側出入口扉を手動で開放できる状態にならないようにした車両用扉の非常時開放装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、空気源から圧力空気を供給され鉄道車両の側出入口扉を開閉するドアエンジンとしての空気圧シリンダと、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下の場合に前記空気圧シリンダを大気開放して前記側出入口扉の手動での開閉を可能とする非常用ドアコックとを備える車両用扉の非常時開放装置であって、前記非常用ドアコックは、前記空気圧シリンダに圧力空気を供給する空気通路の途中に設けられるもので、前記空気通路を連通させて前記空気圧シリンダを動作可能とする通常位置と前記空気通路の連通を遮断して前記空気圧シリンダを動作不能とする非常位置との間を変位する可動スプールを含む操作部と、前記可動スプールに対し、前記鉄道車両の速度が設定速度を超えるときには前記可動スプールが前記通常位置から前記非常位置に変位するのを規制する一方、前記鉄道車両の速度が設定速度以下のときには前記規制を解除する制御部とを備えることを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、前記鉄道車両の速度が設定速度を超えるときには、前記可動スプールが前記通常位置から前記非常位置に変位するのを規制するので、前記非常用ドアコックを操作できず、前記可動スプールが変位することはなく、走行速度が設定速度以下になっても、空気圧シリンダの圧力空気が排気されることはなく、不用意に側出入口扉を手動で開放できる状態にならないようにできる。
【0013】
また、可動スプールを変位させて、空気圧シリンダを動作可能とする通常位置と前記空気圧シリンダを動作不能とする非常位置とを切換えるだけであるので、構造がシンプルで、制御が簡単であり、信頼性に優れる。また、コンパクト化を図りやすいので、設置スペースは従来と同様あるいはそれより小さくすることができる。
【0014】
この場合、請求項2に記載のように、前記制御部による規制・規制解除は、空気源から前記空気圧シリンダに供給される圧力空気を利用して行われることが望ましい。
【0015】
このようにすれば、ドアエンジンとしての空気圧シリンダの圧力空気を利用する構造であるので、既存の鉄道車両に対しても、大きな改造を施すことなく取り付けることができる。
【0016】
請求項3に記載のように、前記操作部は、前記可動スプールがコックハウジングの第1の空間部内に変位可能に設けられる構成とされ、前記コックハウジングは、前記第1の空間部に連通するとともに前記空気通路の一部を形成する第1及び第2の通路部を有し、前記第1の通路部が前記空気源に、前記第2の通路部が前記空気圧圧シリンダにそれぞれ連通される構成とされ、前記通常位置では前記可動スプールが前記第1及び第2の通路部の端部を開放することで前記第1の空間部を通じて連通させ、前記非常位置では前記第1及び第2通路部の端部を閉鎖することで前記連通を遮断する構成とすることが望ましい。
【0017】
このようにすれば、通常位置と非常位置との切換えを、前記可動スプールの変位方向(軸線方向)の相対変位によって行うことができるので、前記切換えの制御が簡単である。
【0018】
請求項4に記載のように、前記可動スプールは、外部の操作ハンドルによって前記第1の空間部に押し込み可能に設けられるとともに、前記操作ハンドルによって前記通常位置から前記非常位置に向けて変位させると前記通常位置に戻る方向に付勢される構成とされ、前記操作ハンドルは、前記可動スプールを非常位置まで移動させた状態で回転することで前記コックハウジングに係脱可能に係止される構成とすることができる。
【0019】
このようにすれば、第1の空間部内で可動スプールを押し込み、その後可動スプールを回転しないと、空気圧シリンダ(ドアエンジン)から圧力空気が排出されないので、可動スプールを前記第1の空間部内で押し込むだけで回転しなけば、ドアエンジン(空気圧シリンダ)によって側出入口扉を開閉することができる。
【0020】
請求項5に記載のように、前記制御部は、前記コックハウジングの第2の空間部内に変位可能に設けられ、前記空気通路からの圧力空気を前記可動スプールに作用させ前記可動スプールの移動を規制する規制位置と前記作用を解除して前記可動スプールの移動を許容する許容位置とを選択的に取り得る制御部材と、前記制御部材に前記規制位置または前記許容位置を選択的に取らせるアクチュエータ部とを備え、鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には前記アクチュエータ部を作動させて前記制御部材を前記規制位置とする一方、前記走行速度が設定速度以下の場合には前記アクチュエータ部の作動を解除して前記制御部材を許容位置とする構成とされていることが望ましい。
【0021】
このようにすれば、鉄道車両の走行速度に応じて、アクチュエータ部によって制御部材の位置を切り換えることによって、簡単に制御することができる。
【0022】
請求項6に記載のように、前記制御部材は、前記規制位置のときには、前記第1の通路部からの前記圧力空気を、前記第2の空間部を通じて前記可動スプールに作用させる一方、前記許容位置のときには前記可動スプールへの前記作用を解除する構成とされている構成とすることができる。
【0023】
このようにすれば、空気圧シリンダ(ドアエンジン)の作動流体である圧力空気を利用して、規制位置と許容位置との間で可動スプールを簡単に変位させることができる。
【0024】
請求項7に記載のように、前記アクチュエータ部は、前記走行速度が設定速度以下の場合であっても、前記可動スプールを押し込む前は前記制御部材への前記作用を解除した状態であり、押し込んだ後に前記空気圧シリンダを大気に開放させるものであることが望ましい。
【0025】
このようにすれば、制御部材を押し込んで回転しないと、空気圧シリンダ(ドアエンジン)から圧力空気が排出されないので、制御部材を押し込んで回転しなけば、手動により側出入口扉を開閉することができない。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、上記のように、鉄道車両の速度が設定速度を超えるときには可動スプールが空気圧シリンダを動作可能とする通常位置から空気圧シリンダを動作不能とする非常位置に変位するのを規制する一方、前記鉄道車両の速度が設定速度以下のときには、前記可動スプールが前記通常位置から前記非常位置に変位するのを許容するようにしているので、可動スプールを変位させることで、前記通常位置と前記非常位置との切換えを簡単に制御することができる。
【0027】
とくに、前記鉄道車両の速度が設定速度を超えるときには、前記可動スプールが前記通常位置から前記非常位置に変位するのを規制するので、前記可動スプールが変位することはなく、走行速度が設定速度以下になっても、不用意に側出入口扉を手動で開放できる状態にならない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る車両用扉の非常時開放装置の概略構成を示し、(a)は側面図、(b)は縦断面図、(c)は非常用ドアコックの概略断面図、(d)は非常用ドアコックの可動スプールの斜視図である。
【図2】車両の走行走行速度が設定速度以下の場合の非常用ドアコックを示し、(a)は操作ノブを押し込む前の状態を示す概略断面図、(b)は操作ノブを押し込み回転したときの状態を示す概略断面図である。
【図3】車両の走行走行速度が設定速度を超える場合の非常用ドアコックをの状態を示す図2(a)と同様な図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0030】
図1(a)(b)に示すように、鉄道車両1の側部に乗客が乗降するための乗降口2が設けられ、その乗降口2に側出入口扉3が開閉可能に設けられている。乗降口2の上方の天井鴨居部4に、側出入口扉3を開閉するためのドアエンジンとしての空気圧シリンダ5と、空気源8から空気圧シリンダ5に圧力空気を供給する空気通路6の途中に、鉄道車両1の走行速度が設定速度以下の場合に空気圧シリンダ5を大気開放して側出入口扉3の手動での開閉を可能とする非常用ドアコック7が設けられている。この非常用ドアコック7に対応して、天井鴨居部4には、点検蓋9が開閉可能に設けられ、この点検蓋9を開放することで、非常用ドアコック7を操作できるようになっている。
【0031】
非常用ドアコック7が空気通路6の途中に設けられることで、空気通路6は、ドアコック7を境として、空気源8側の上流側空気通路部6Aと、空気圧シリンダ5側の下流側空気通路部6Bとに分かれている。
【0032】
非常用ドアコック7は、図1(c)(d)に示すように、コックハウジング11と、可動スプール12と、可動弁体13(制御部材)と、電磁ソレノイド14と、操作ハンドル15とを主要構成要素として備え、空気通路6を連通したりその連通を遮断したりする操作部として機能する第1の部分7Aと、この部分7Aの機能を規制したりその規制を解除したりする制御部として機能する第2の部分7Bとに分かれる。この第2の部分7Bは、鉄道車両の走行速度に応じて、空気源8からの圧力空気を利用して第1の部分の機能を規制したりその規制を解除したりするもので、鉄道車両の速度が設定速度(たとえば5km/h)を超えるときには第1の部分7Aの操作部としての機能を規制する一方、鉄道車両の速度が設定速度以下になったときには第1の部分7Aの操作部としての機能の規制を解除するものである。
【0033】
コックハウジング11は、可動スプール12が移動可能に配置される第1の空間部11aと、可動弁体13が移動可能に配置される第2の空間部11bとを備える。第1の空間部11aと第2の空間部11bとは、連通穴11cを通じて相互に連通され、第2の空間部11bは、連通穴11cが設けられている側とは反対側が、排気穴11dを通じて大気開放されている。
【0034】
また、コックハウジング11には、さらに、空気通路6の一部を構成すると共に第1の空間部11aと連通する第1及び第2の通路部11e,11fを有する。この第1の通路部11eは上流端側が上流側空気通路部6Aに、下流端側が第1の空間部11aに連通している。第2の通路部11fは、上流端側が第1の空間部11aに、下流端側が下流側空気通路部6Bにそれぞれ連通している。第1の通路部11eの下流端と第2の通路部11eが第1の空間部11aに連通(開口)する位置は、可動スプール12の変位方向においてずれている。
【0035】
さらに、第1の通路部11eに上流端が連通し、下端部が、連通穴11cと並んで第2の空間部11bに連通する第3の通路部11gも有する。
【0036】
可動スプール12は、図1(d)に示すように、上側大径部12aと、下側大径部12bと、それらを連結する中間小径部12cとを有し、中間小径部12cの周囲の凹部12dを通じて、可動スプール12の変位方向において第1の空間部11aへの開口端が離れている第1及び第2の通路部11e,11fを連通できるようになっている。可動スプール12の下側部分には、下端面に下端部が開放されるスプリング穴12eが形成され、このスプリング穴12e内にコイルスプリング18が設けられている。このコイルスプリング18の下端は、第1の空間部11aの内底面に接触し、可動スプール12を常時上方に付勢している。スプリング穴12eの上端は、上部大径部12aを直径方向に貫通する貫通穴12fに連通している。なお、貫通穴12fは、スプリング穴12eとともに、空気圧シリンダ5から排気する際の排気通路の一部を構成する。
【0037】
上部大径部12aには2つのOリング21,22が、下部大径部12bには1つのOリング23がそれぞれ設けられている。上部大径部12a側のOリング21,22は、貫通穴12fが設けられている部分を挟んで両側に設けられている。
【0038】
可動スプール12は、操作ハンドル15の押し込み操作によってその押し込み方向(第2の空間部11b側に向かう方向)に変位し、その押し込み操作を解除すると、コイルスプリング18のスプリング力によって元の状態に戻る構成とされ、操作ハンドル15の操作やコイルスプリング18のスプリング力によって第1及び第2の通路部11e,11fを第1の空間部11a(凹部12d)を通じて連通させる通常位置と、前記連通を遮断する非常位置とを選択的に取り得るようになっている。
【0039】
第1および第2の通路部11e,11fは、操作ハンドル15したがって可動スプール12を押し込む前には、図2(a)及び図3に示すように、連通状態にある。つまり、第1の空間部11a(可動スプール12の凹部12d)によって第1の通路部11eと第2の通路部11fとが相互に連通し、空気圧シリンダ5を動作可能とする通常位置となる。
【0040】
そして、可動スプール12を所定量押し込んだ状態では、図2(b)に示すように、第1および第2の通路部11e,11fの連通が遮断される。そして、第2の通路部11fが、貫通穴12f、スプリング穴12e、連通穴11c、第2の空間部11b及び排気穴11dを通じて大気に開放され、空気圧シリンダ5から排気が行われる。これにより、空気圧シリンダ5を動作不能とする非常位置となる。なお、操作ハンドル15を、前記押し込み状態でほぼ90度回転すると、操作ハンドル5が係脱可能に係止される。いわゆるロック状態となる。
【0041】
つまり、操作ハンドル15を押し込むことで、可動スプール12を押し込み方向に変位させて、連通位置から遮断位置に切り替えることができ、その押し込みを解除すれば、コイルスプリング18のスプリング力によって連通位置に戻されるようになっている。また、周知の構造によって、操作ハンドル15を押し込んだ状態でほぼ90度回転すれば、その押し込み状態にロックできるようになっている。よって、押し込み状態にロックされれば、遮断位置を維持することになる。なお、このロック機構については具体的には図示していないが、周知の機構が利用される。
【0042】
第2の空間部11bの周囲には電磁ソレノイド14が設けられ、その電磁ソレノイド14の励磁・消磁によって、可動弁体13(制御部材)が、第3の通路部11gの下流端を閉鎖し排気穴11dの上流端を開放する押し込み許容位置と、排気穴11dの上流端を閉鎖し第3の通路部11gの下流端を開放する押し込み規制位置とを選択的に取り得るアクチュエータ部が構成される。可動弁体13は、第3の通路部11gの下流端に対応する上端部及び排気穴11dの上流端に対応する下端部に弾性シール材24,25が設けられ、閉鎖時に空気漏れが生じないようにしている。また、可動弁体13には、電磁ソレノイド14の消磁時には、第3の通路部11gの下流端を閉鎖する方向に可動弁体13を付勢するリターンスプリング26が設けられている。
【0043】
そして電磁ソレノイド14に通電される通電状態では可動弁体13が排気穴11dを閉鎖する押し込み規制位置となる。このとき、第3の通路部11gの下流端は第2の空間部11bに開放されるので、第3の通路部11gを通じて空気源8からの圧力空気が第2の空間部11b内に導入され、その圧力空気による押圧力が、連通穴11c、第1の空間部11a及びスプリング穴12eを通じて可動スプール12の下端部側を押圧し、可動スプール12の変位(操作ハンドル15の押し込み)を規制する。この状態では、第1及び第2の通路部11e,11fが連通されて、空気源8から圧力空気が空気圧シリンダ5に供給され、空気圧シリンダ5がドアエンジンとして機能することになる。そして操作ハンドル15を操作できないので、側出入口扉3を手動で開閉できなくなる。
一方、電磁ソレノイド14に通電しない非通電状態では、可動弁体13がリターンスプリング26のスプリング力により変位して、第3の通路部11gの下流端を閉鎖する押し込み許容位置となる。これにより、第3の通路部11gを通じて空気源8からの圧力空気が第2の空間部11b内に供給されなくなるので、可動スプール12の変位(操作ハンドル15の押し込み)が許容される。よって、可動スプール12を変位させ、所定量押し込むことで、可動スプール12を第1及び第2の通路部11e,11fの連通を遮断する非常位置にすることができ、その状態で操作ハンドル15をほぼ90度回転することで、その状態(非常位置)にロックされる。この状態では、第2の通路部11fが、可動スプール12の貫通穴12fと連通し、貫通穴12fがスプリング穴12e、連通穴11c、第2の空間部11b及び排気穴11dを通じて大気に開放されるので、空気圧シリンダ5から圧力空気が排気され、空気圧シリンダ5がドアシリンダとして機能しなくなる。よって、側出入口扉3を手動で開けることが可能となる。
【0044】
なお、電磁ソレノイド14は、鉄道車両の走行速度に応じて通電制御されるもので、走行速度が設定速度(たとえば5km/h)を超える場合に通電状態となり、設定速度以下の場合に非通電状態となる。ここで、鉄道車両の走行速度は速度センサ(図示せず)によって検出される。
【0045】
続いて、上記装置の動作について、鉄道車両の走行速度が設定速度(たとえば5km/h)以下の場合と、設定速度を超える場合とに分けて説明する。
(i)鉄道車両の走行速度が設定速度(たとえば5km/h)以下の場合
電磁ソレノイド14が非通電状態で、可動弁体13によって第3の通路部11gの下流端が閉鎖され(許容位置)、第3の通路部11gの、第2の空間部11bへの開放は規制されている。一方、第1の通路部11eと第2の通路部11fとの連通は維持されているので、操作ハンドル15を把持して可動スプール12を押し込まなければ、第1の通路部11eおよび第2の通路部11fを通じて、空気通路6(空気通路部6A,6B)は連通状態となり、空気圧シリンダ5に圧力空気が供給され、空気圧シリンダ5がドアエンジンとして機能する状態にあり、手動で側出入口扉3を開閉することはできない(通常位置)。
【0046】
このように、可動スプール12を押し込む前の状態では、可動弁体13によって第3の通路部11gの下流端が閉鎖され、可動スプール12には圧力空気が作用しない状態となっているので、操作ハンドル15を把持して可動スプール12を押し込み可能である。また、操作ハンドル15を押し込めば、可動スプール12の変位により第1の通路部11eと第2の通路部11fとの連通が遮断されるが、その押し込みを解除すれば、リターンスプリング18によって、元の状態に戻される。
【0047】
そして、操作ハンドル15を把持し、可動スプール12を所定量押し込むと、第2の通路部11fが、可動スプール12の貫通穴12fと連通し、貫通穴12fがスプリング穴12e、連通穴11c、第2の空間部11b及び排気穴11dを通じて大気に開放される(非常位置)。
【0048】
これにより空気圧シリンダ5から圧力空気が排出され、空気圧シリンダ5がドアエンジンとして機能しなくなり、点検扉9を開けば、手動で側出入口扉3を開閉できる。なお、可動スプール12を所定量押し込んだ後ほぼ90度回転すると、操作ハンドル15は前記押し込み回転した状態に係脱可能に係止され、いわゆるロック状態となる。
(ii)鉄道車両の走行速度が設定速度(たとえば5km/h)を超える場合
鉄道車両の走行速度が設定速度を超えると、電磁ソレノイド14が通電状態となって可動弁体13が変位して、第3の通路部11gの下流端の閉鎖が解除され、前記下流端が第2の空間部11bに開放される状態となる(規制位置)。これにより、空気源8からの圧力空気が第3の通路部11gを通じて空間部11b内に作用し、可動スプール12の下端部に圧力空気による押圧力(押し込む方向と反対の方向に作用する力)が作用し、可動スプール12を押し上げるので、操作ハンドル15を把持して可動スプール12を押し込もうとしても、押し込むことができなくなる。
【0049】
よって、点検扉9を開いて操作ハンドル15を操作しようとしても、操作することができないので、手動で側出入口扉3を開閉することができない。
【0050】
とくに、圧力空気によって操作ハンドル15全体が可動スプール12とともに押し上げられているので、可動スプール12を押し下げることさえできず、操作ハンドル15の状態を変化させることができない。その結果、鉄道車両の走行速度が設定速度以下になっても、空気圧シリンダ5から圧力空気が排出されることもない。
【0051】
本発明は前述した実施の形態のほか、次のように変更して実施することも可能である。
【0052】
(i)鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には、非常用ドアコックの操作が規制中であることを報知する警告ランプを、前記非常用ドアコック付近に設けることも可能である。
【0053】
(ii)前記実施の形態では、空気通路6を連通したりその連通を遮断したりする操作部として機能する第1の部分7Aと、この部分7Aの機能を規制したりその規制を解除したりする制御部として機能する第2の部分7Bとを上下に配置しているが、左右に配置することも可能である。
【0054】
また、このような第1及び第2の部分7A,7Bを必ずしも一体とする必要はなく、分離して別体とし、たとえば第2の部分7Bを、スペース的に余裕がある、離れた場所に配置するとともに第1及び第2の部分7A,7Bとを空気配管で繋ぐ構造として、同一の機能を果たすように構成することも可能である。前記可動弁体や電磁ソレノイドを使用するアクチュエータ部として、第3の通路部の途中に3ポート2位置形の電磁切換弁または4ポート2位置形の電磁切換弁を設け、第3の通路部の下流端の、第2の空間部11bへの開放を制御するように構成することも可能である。またパイロット式電磁弁を用い、パイロット圧に応じて第3の通路部の下流端の開放・閉鎖を行うようにすることもでき、この場合は、電力使用が少なく、省スペースが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 鉄道車両
2 乗降口
3 側出入口扉
5 空気圧シリンダ(ドアエンジン)
6 空気通路
7 非常用ドアコック
8 空気源
9 点検蓋
11 コックハウジング
11a 第1の空間部
11b 第2の空間部
11c 連通穴
11d 排気穴
11e 第1の通路部
11f 第2の通路部
11g 第3の通路部
12 可動スプール
12a 上側大径部
12b 下側大径部
12c 中間小径部
12d 凹部
12e スプリング穴
12f 貫通穴
13 可動弁体(制御部材)
14 電磁ソレノイド
15 操作ハンドル
18 コイルスプリング
26 リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気源から圧力空気を供給され鉄道車両の側出入口扉を開閉するドアエンジンとしての空気圧シリンダと、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下の場合に前記空気圧シリンダを大気開放して前記側出入口扉の手動での開閉を可能とする非常用ドアコックとを備える車両用扉の非常時開放装置であって、
前記非常用ドアコックは、前記空気圧シリンダに圧力空気を供給する空気通路の途中に設けられるもので、前記空気通路を連通させて前記空気圧シリンダを動作可能とする通常位置と前記空気通路の連通を遮断して前記空気圧シリンダを動作不能とする非常位置との間を変位する可動スプールを含む操作部と、前記可動スプールに対し、前記鉄道車両の速度が設定速度を超えるときには前記可動スプールが前記通常位置から前記非常位置に変位するのを規制する一方、前記鉄道車両の速度が設定速度以下のときには前記規制を解除する制御部とを備えることを特徴とする車両用扉の非常時開放装置。
【請求項2】
前記制御部による規制・規制解除は、空気源から前記空気圧シリンダに供給される圧力空気を利用して行われることを特徴とする請求項1に記載の車両用扉の非常時開放装置。
【請求項3】
前記操作部は、前記可動スプールがコックハウジングの第1の空間部内に変位可能に設けられる構成とされ、
前記コックハウジングは、前記第1の空間部に連通するとともに前記空気通路の一部を形成する第1及び第2の通路部を有し、前記第1の通路部が前記空気源に、前記第2の通路部が前記空気圧圧シリンダにそれぞれ連通される構成とされ、
前記通常位置では前記可動スプールが前記第1及び第2の通路部の端部を開放することで前記第1の空間部を通じて連通させ、前記非常位置では前記第1及び第2通路部の端部を閉鎖することで前記連通を遮断する請求項1または2記載の車両用扉の非常時開放装置。
【請求項4】
前記可動スプールは、外部の操作ハンドルによって前記第1の空間部に押し込み可能に設けられるとともに、前記操作ハンドルによって前記通常位置から前記非常位置に向けて変位させると前記通常位置に戻る方向に付勢される構成とされ、
前記操作ハンドルは、前記可動スプールを非常位置まで移動させた状態で回転することで前記コックハウジングに係脱可能に係止される構成とされている請求項1または2に記載の車両用扉の非常時開放装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記コックハウジングの第2の空間部内に変位可能に設けられ、前記空気通路からの圧力空気を前記可動スプールに作用させ前記可動スプールの移動を規制する規制位置と前記作用を解除して前記可動スプールの移動を許容する許容位置とを選択的に取り得る制御部材と、
前記制御部材に前記規制位置または前記許容位置を選択的に取らせるアクチュエータ部とを備え、
鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には前記アクチュエータ部を作動させて前記制御部材を前記規制位置とする一方、前記走行速度が設定速度以下の場合には前記アクチュエータ部の作動を解除して前記制御部材を許容位置とする構成とされている請求項4記載の車両用扉の非常時開放装置。
【請求項6】
前記制御部材は、前記規制位置のときには、前記第1の通路部からの前記圧力空気を、前記第2の空間部を通じて前記可動スプールに作用させる一方、前記許容位置のときには前記可動スプールへの前記作用を解除する構成とされている請求項5記載の車両用扉の非常時開放装置。
【請求項7】
前記アクチュエータ部は、前記走行速度が設定速度以下の場合であっても、前記可動スプールを押し込む前は前記制御部材への前記作用を解除した状態であり、押し込んだ後に前記空気圧シリンダを大気に開放させるものである請求項5または6記載の車両用扉の非常時開放装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−121508(P2012−121508A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275347(P2010−275347)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(000204240)株式会社TAIYO (63)