説明

車両用扉の非常時開放装置

【課題】簡単な構成で、鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には、非常用ドアコックを操作しても、側出入口扉を手動で開閉できないようにする。
【解決手段】空気通路6の途中に、非常用ドアコック7と電磁切換弁11とを含む切換回路21を設ける。電磁切換弁11は、スプール11bが、空気源8からの圧力空気を、非常用ドアコック7を経て、空気圧シリンダ5に供給する第1の位置と、前記圧力空気を、非常用ドアコック7をバイパスして、空気圧シリンダ5に供給する第2の位置とを変位可能で、鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときには、非通電とされてスプール11bが第1の位置とされる一方、鉄道車両の走行速度が前記設定速度を超えるときには、通電されてスプール11bが第2の位置とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両とくに鉄道車両用の側出入口扉を非常時に乗客等が手動で開放できるようにした非常時開放装置に関し、詳しくは、車両走行時の速度が所定速度を超えると、前記扉の開放動作を不能にして安全性を高めた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ドアエンジンとして機能する空気圧シリンダで側出入口扉を開閉する鉄道車両では、空気源から圧力空気を前記空気圧シリンダに供給する配管の途中に、車内側から操作可能なレバー状のハンドルを備えた非常用ドアコックが設けられている。このハンドルを手動操作にて回転することにより、前記空気圧シリンダへの圧力空気(作動流体)の供給を遮断するとともに空気圧シリンダからの圧力空気の排気を行うことができ、これにより空気圧シリンダがドアエンジンとして機能しなくなり、側出入口扉を手動で開放できるようになる。
【0003】
上記のような非常用開放コックは、側出入口扉上方の鴨居内に設けられ、点検蓋を開放することで操作できるようになっているが、車両の走行速度に関係なく、いつでも非常用ドアコックを開放して側出入口扉を手動で開放できるようになるため、安全性を欠くおそれがある。
【0004】
そこで、前記ドアコックの排気部に、車両が所定速度以上になると閉じる電磁弁を設けた非常時開放装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この装置によれば、車両が所定速度以上で閉じる電磁弁を前記ドアコックの排気部に設けたものであるから、所定速度以上で前記ドアコックを操作しても、ドアエンジンである空気圧シリンダから排気されず、扉の閉状態が維持され、扉を手動で開放することができない。また、車両が所定速度以下であると、前記電磁弁が開き、ドアコックの操作により、空気圧シリンダから圧力空気が排出されて,扉は手動で開く。
【0005】
また、ハンドルの近傍に、該ハンドルの回動を規制する鎖錠装置を設け、該鎖錠装置に、列車の一定走行速度以上で前記ハンドルを鎖錠状態とする電気回路を設けたものも知られている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平6−56442号公報
【特許文献2】特開2002−347616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載のものでは、ドアコックの排気部に電磁弁を設けるため、ドアコックとして完成された1つのユニットである前記ドアコックの排気部を改造して、排気管を新たに設け、その排気管に車両が所定速度以上になると閉じる電磁弁を設ける必要がある。
【0008】
前記特許文献2に記載のものでは、鎖錠装置を別途設けるため、それを配置するために点検蓋内に大きなスペースを必要とする。また、構造が複雑となるので、故障しやすい。
【0009】
そこで、発明者は、空気源から非常用ドアコックまでの空気通路の途中に、非常用ドアコックを含む切換回路を設けて、鉄道車両の走行速度が設定速度を超えると、前記空気通路を遮断し空気圧シリンダからの排気を行うようにすれば、完成品ユニットであるドアコックを改造することなく、設定速度を超えると、前記ドアコックを操作してもドアエンジンから圧力空気(作動流体)が抜けないようにできることに着想し、本発明をなしたものである。
【0010】
本発明は、簡単な構成で、鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には、非常用ドアコックを操作しても、側出入口扉を手動で開閉できないようにした車両用扉の非常時開放装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、鉄道車両の側出入口扉を開閉するドアエンジンとしての空気圧シリンダと、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下の場合に前記空気圧シリンダを大気開放して前記側出入口扉の手動での開閉を可能とするレバー式の非常用ドアコックとを備える車両用扉の非常時開放装置であって、前記空気圧シリンダに圧力空気を供給する空気通路の途中に、前記非常用ドアコックと電磁切換弁とを含む切換回路が設けられ、前記電磁切換弁は、弁体が、前記圧力空気を、前記非常用ドアコックを経て、前記空気圧シリンダに供給する第1の位置と、前記圧力空気を、前記非常用ドアコックをバイパスして、前記ドアエンジンに供給する第2の位置とを変位可能で、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときには前記第1の位置とされる一方、前記鉄道車両の走行速度が前記設定速度を超えるときには前記第2の位置とされることを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、前記鉄道車両の走行速度が前記設定速度を超えるときには、電磁切換弁の弁体が、前記圧力空気を、前記非常用ドアコックをバイパスして、前記空気圧シリンダに供給する第2の位置とされるので、非常用ドアコックのレバーを操作しても、側出入り口扉を開閉することはできない。一方、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときには、電磁切換弁の弁体が変位して、前記圧力空気を、前記非常用ドアコックを経て、前記空気圧シリンダに供給する前記第1の位置とされ、非常用ドアコックのレバーを操作して、前記空気圧シリンダを大気開放して前記側出入口扉の手動での開閉が可能となる。
【0013】
それに加えて、前記空気圧シリンダに圧力空気を供給する空気通路の途中に、前記非常用ドアコックと電磁切換弁とを含む切換回路が設けられているので、非常用ドアコックをそのまま用いることができ、肝臓する必要がない。
【0014】
この場合、請求項2に記載のように、前記電磁切換弁は、前記鉄道車両の走行速度が前記設定速度を超えるときに、通電されて前記弁体が前記第2の位置とされる一方、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときに、非通電とされて前記弁体が前記第1の位置とされることが望ましい。
【0015】
このようにすれば、停電時や故障時などにおいて非通電状態となったときには、電磁切換弁の弁体が第1の位置とされ、手動で開閉できるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上記のように構成したから、電磁切換弁を切り換えて弁体を変位させるという簡単な操作によって、鉄道車両の走行速度が設定速度を超えるときには、非常用ドアコックのレバーを操作しても、側出入り口扉を開閉することはできない状態とすることができる。前記空気圧シリンダに圧力空気を供給する空気通路の途中に、前記非常用ドアコックと電磁切換弁とを含む切換回路が設けられているので、非常用ドアコックをそのまま用いることができ、改造する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る車両用扉の非常時開放装置の概略構成を示し、(a)は側面図、(b)は一部縦断面図、(c)は電磁切換弁の説明図である。
【図2】前記電磁切換弁を示し、(a)は前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときの説明図、(b)は鉄道車両の走行速度が設定速度を超えるときの状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0019】
図1(a)(b)(c)に示すように、鉄道車両1の側部に乗客が乗降するための乗降口2が設けられ、その乗降口2に側出入口扉3が開閉可能に設けられている。乗降口2の上方の天井鴨居部4に、側出入口扉3を開閉するためのドアエンジンとしての空気圧シリンダ5と、空気源8から空気圧シリンダ5に圧力空気を供給する空気通路6の途中に、鉄道車両の走行速度が設定速度以下の場合に空気圧シリンダ5を大気開放して側出入口扉3の手動での開閉を可能とする非常用ドアコック7(いわゆるDコック)が設けられている。この非常用ドアコック7に対応して、天井鴨居部4には、点検蓋9が開閉可能に設けられ、この点検蓋9を開放することで、非常用ドアコック7を操作できるようになっている。
【0020】
非常用ドアコック7は、周知のように、車内側から操作可能なレバー状のハンドル7aを備え、このハンドル7aが配管の方向に沿った位置にあるときは,配管を連通状態にして空気源8から空気圧シリンダ5への圧力空気の供給を許容する一方、ハンドル7aを車内側に90度回転した状態では、空気源8から空気圧シリンダ5への圧力空気の供給を遮断し、空気圧シリンダ5の戸閉め側室の圧力空気を大気に放出し、空気圧シリンダ5の作動を不能として、側出入口扉3を手動で開閉できるようになる。
【0021】
空気通路6の途中に、非常用ドアコック7と電磁切換弁11とを含む切換回路21が設けられている。電磁切換弁11は、2位置5ポート形で、後述するハウジング11a内でのスプール11bの変位によって、前記圧力空気を、非常用ドアコック7を経て、空気圧シリンダ5に供給する状態(図2(a)参照)と、前記圧力空気を、非常用ドアコック7をバイパスして、空気圧シリンダ5に供給する状態(図2(b)参照)とを切換可能である。
【0022】
つまり、電磁切換弁11は、A,B,S,P,Rポートを有するハウジング11aを備え、このハウジング11aのAポートは空気圧シリンダ5に、Pポートは空気源8にそれぞれ接続され、BポートとRポートとの間に非常用ドアコック7が設けられ、Sポートは大気開放されている。そして、ハウジング11a内にスプール11b(弁体)がソレノイド11cへの通電・非通電によって変位するように構成され、スプール11bが、非通電時には、AポートとRポートと、BポートとPポートをそれぞれ連通する第1の位置(図2(a)参照)に、通電時には、AポートとPポートとを連通し、Rポートを閉鎖し、BポートをSポートを通じて開放する第2の位置(図2(b)参照)となるように構成されている。なお、停電時、電気回路遮断時などの非常時には、スプール11bがリターンスプリング(図示せず)によって第1の位置とされる。
【0023】
そして、電磁切換弁11は、鉄道車両の走行速度を検出する車速センサ12からの信号を受ける制御回路13によって切換制御されるもので、鉄道車両の走行速度が設定速度(たとえば5km/h)以下のときには、スプール11bが第1の位置(図2(a)参照)とされる。この第1の位置のときには、AポートとRポート、BポートとPポートとがそれぞれ連通される状態で、空気源8からの圧力空気が、非常用ドアコック7を経て、空気圧シリンダ5に供給する状態となっているので、非常用ドアコック7のレバー7aを回転することで、空気圧シリンダ5への圧力空気の供給が遮断されるとともに空気圧シリンダ5が大気開放され、側出入口扉3の手動での開閉を可能となる。
【0024】
一方、鉄道車両の走行速度が前記設定速度を超えるときには、スプール11bが第2の位置(図2(b)参照)とされる。この第2の位置のときには、AポートとPポートとが連通され、Rポートが閉鎖され、BポートがSポートを通じて大気に開放される状態にあるので、圧力空気が、非常用ドアコック7をバイパスして、空気圧シリンダ5に供給されることとなり、非常用ドアコック7のレバー7aの状態にかかわりなく、空気圧シリンダ5がドアエンジンとして機能する。
【0025】
ここで、電磁切換弁11は、鉄道車両の走行速度が前記設定速度を超えるときに、通電状態とされてソレノイド11cが励磁され、スプール11bが第2の位置とされる一方、鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときに、非通電状態とされてソレノイド11cが消磁され、スプール11bがリターンスプリング(図示せず)のスプリング力によって第1の位置とされる。
【0026】
上記装置によれば、鉄道車両1の走行速度が設定速度(たとえば5km/h)を超えるときには、電磁切換弁11のスプール11bが、空気源8からの圧力空気を、非常用ドアコック7をバイパスして、空気圧シリンダ5に直接に供給する第2の位置とされるので、非常用ドアコック7のレバー7aを操作しても、側出入口扉3を開閉することはできない。
【0027】
一方、鉄道車両1の走行速度が設定速度以下のときには、電磁切換弁11のスプール11bが、空気源8からの圧力空気を、非常用ドアコック7を経て、空気圧シリンダ5に供給する第1の位置とされ、非常用ドアコック7のレバー7aを把持して回転すれば、空気圧シリンダ5は大気開放されてドアエンジンとして機能しなくなり、側出入口扉3を手動で開閉することが可能となる。
【0028】
それに加えて、空気圧シリンダ5に圧力空気を供給する空気通路6の途中に、非常用ドアコック7と電磁切換弁11とを含む切換回路21を設ける構造であるので、非常用ドアコック7をそのまま用いることができ、非常用ドアコック7の排気部を改造する必要がない。
【0029】
また、電磁切換弁11のスプール11bは、鉄道車両の走行速度が設定速度を超えるときに、通電状態とされて第2の位置となる一方、鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときに、非通電状態ととされて第1の位置となるようにしているので、停電時や故障時などにおいて非通電状態となったときには、電磁切換弁11のスプール11bは第1の位置とされる。よって、非常用ドアコック7のレバー7aを操作すれば、空気圧シリンダ5は大気開放され、手動で側出入口扉3開閉できるようになる。
【0030】
本発明は前述した実施の形態のほか、次のように変更して実施することも可能である。
【0031】
(i)鉄道車両の走行速度が設定速度を超える場合には、非常用ドアコック7の操作を規制中であることを報知する警告ランプを、非常用ドアコック7付近に設けることも可能である。
【0032】
(ii)2位置5ポート形の電磁切換弁に代えて、同様な機能を発揮する他の電磁弁を用いることができるのはもちろん、パイロット式電磁弁を用いることもできる。この場合は、電力使用が少なく、省スペースが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1 鉄道車両
2 乗降口
3 側出入口扉
5 空気圧シリンダ(ドアエンジン)
6 空気通路
7 非常用ドアコック
7a ハンドル
8 空気源
9 点検蓋
11 電磁切換弁
11a ハウジング
11b スプール(弁体)
11c ソレノイド
12 車速センサ
13 制御回路
21 切換回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の側出入口扉を開閉するドアエンジンとしての空気圧シリンダと、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下の場合に前記空気圧シリンダを大気開放して前記側出入口扉の手動での開閉を可能とするレバー式の非常用ドアコックとを備える車両用扉の非常時開放装置であって、
前記空気圧シリンダに圧力空気を供給する空気通路の途中に、前記非常用ドアコックと電磁切換弁とを含む切換回路が設けられ、
前記電磁切換弁は、弁体が、前記圧力空気を、前記非常用ドアコックを経て、前記空気圧シリンダに供給する第1の位置と、前記圧力空気を、前記非常用ドアコックをバイパスして、前記ドアエンジンに供給する第2の位置とを変位可能で、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときには前記第1の位置とされる一方、前記鉄道車両の走行速度が前記設定速度を超えるときには前記第2の位置とされることを特徴とする車両用扉の非常時開放装置。
【請求項2】
前記電磁切換弁は、前記鉄道車両の走行速度が前記設定速度を超えるときに、通電されて前記弁体が前記第2の位置とされる一方、前記鉄道車両の走行速度が設定速度以下のときに、非通電とされて前記弁体が前記第1の位置とされることを特徴とする請求項1記載の車両用扉の非常時開放装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−121509(P2012−121509A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275348(P2010−275348)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(000204240)株式会社TAIYO (63)