説明

車両用押圧操作部材及びこれを備えた車両用操作装置

【課題】一定以上の押圧力を受けたときにパネルからの突出量が急減する車両用押圧操作部材であって、その急減のための破断可能部の設計が容易で、かつ、その急減が確実であるものを提供する。
【解決手段】押圧操作部材10は、ベース部材18と、ベース部材18から突出して押圧操作を受ける被操作部材20とを備える。ベース部材18は、被操作部材20をその押圧操作方向に案内する案内保持部30と、被操作部材20に当接することによりその後退を規制するストッパ50とを有する。被操作部材20は、案内保持部30による案内を受ける被案内部46Dと、ストッパ50との当接により被操作部材20の後退を規制する当接部56とを有する。ストッパ50及び当接部56の何れか一方は、被操作部材20が大きな一定以上の力で押圧を受けたときに他方から反力を受けて破断し、これにより、被操作部材20の更なるスライドを許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のインストゥルメントパネル等に設けられて押圧操作を受ける部材であって、一定以上の押圧荷重を受けた時に前記インストゥルメントパネル等の表面からの突出量を減らすように変形することが可能な車両用押圧操作部材及びこれを備えた車両用操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、一般に、空調装置やオーディオ機器等を操作するための操作部材が車室内に臨むパネル(例えばインストゥルメントパネル)に設けられ、その中には、指等で押圧操作を受ける押圧操作部材が存在する。これらの押圧操作部材の大半は、搭乗者により操作を受けることができるように前記パネルの表面から車室内に突出するように設けられる。
【0003】
かかる押圧操作部材の突出量は、安全面及び操作面の双方を満足するように設計されることが好ましい。具体的に、搭乗者による操作を容易にするには、ある程度大きな突出量を確保することが望ましい。その反面、車両の衝突や急停止時に搭乗者が前記押圧操作部材の突出部分に接触する場合を想定すると、安全上の観点からは、当該押圧操作部材の突出量が小さいことが望ましく、実際にその突出量を規制する国も存在する。
【0004】
そこで従来は、安全性と操作性の双方を満足させるための手段として、前記押圧操作部材に一定以上の押圧荷重が付与された場合に、この押圧操作部材の一部がその押圧方向に後退する(すなわち突出量が急減する)ことが可能な装置の開発が進められている。
【0005】
例えば特許文献1には、図14に示すような押圧操作装置が開示されている。この装置は、回路基板6と、その上に設けられるステータ部材7と、このステータ部材7に保持される押圧操作部材であるプッシュつまみ4とを備える。プッシュつまみ4は、押圧操作を受ける側の円筒状の大径部4と、この大径部4よりも小径で前記ステータ部材7に保持される小径部4bと、前記大径部4の後端と前記小径部4bの前端とを径方向につなぐ脆弱部4eとを一体に有する。
【0006】
前記脆弱部4eは他の部位よりも薄肉で、これに複数のスリット4dが形成されている。そして、前記大径部4に大きな押圧荷重(図では上からの荷重)が加わると前記脆弱部4eが上下方向にせん断されるように破断され、これにより当該大径部4aが前記小径部4bに対して相対的に没入方向に変位(すなわち後退し、これによりプッシュつまみ全体の突出量が急減されるように、前記脆弱部4eのせん断強度が設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−79484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記装置では、大径部4に加わる荷重が所定の値以上となったときに脆弱部4eに一定以上のせん断荷重が作用して当該脆弱部4eが破断するようにその形状が設計される必要があるが、当該設計は難しい。具体的には、大径部4aに対して押圧荷重が加えられる位置によって前記せん断荷重にばらつきがあり、しかも、この大径部4aの後端から前記脆弱部4eに押圧荷重が加えられる位置と当該脆弱部4eが破断する位置との間に径方向のずれがあるため、前記押圧力と前記脆弱部4eの破断荷重との関係を特定するのが難しい。また、前記脆弱部4eの設計は、これに対して周方向に均等にせん断荷重が作用することを前提になされるが、実際には、大径部4aに対してその中心から外れた位置に押圧力が加わった場合、プッシュつまみが傾いて前記脆弱部4eに加わる荷重に偏り(周方向についての偏り)が生じるおそれがある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、一定以上の押圧力が加わったときにパネルからの突出量を減らすために破断される破断可能部の設計が容易で、当該押圧力が作用したときの突出量の低減の確実性を高めることができる車両用押圧操作部材およびこれを備えた車両用操作装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、車室内のパネルにこのパネルの表面から車室側に突出して押圧操作を受けるように設けられ、一定以上の力で押圧を受けることによりその突出量が減少するように構成された車両用押圧操作部材を提供する。この車両用押圧操作部材は、前記パネルまたはこのパネルに固定される部材に取付けられるベース部材と、前記ベース部材から車室側に突出するように当該ベース部材に取付けられ、押圧操作を受ける被操作部材とを備える。前記ベース部材は、このベース部材に対して前記被操作部材が前記押圧方向と平行な方向にスライドするように当該被操作部材を案内しながら保持する案内保持部と、前記被操作部材に当接することによりこの被操作部材が所定の押圧規制位置よりも後退する方向にスライドするのを規制するストッパとを有し、前記被操作部材は、前記案内保持部と嵌合して当該案内保持部による案内を受ける被案内部と、前記ベース部材のストッパと当接することにより当該被操作部材が後退する方向のスライドを阻止する当接部とを有する。当該ストッパおよび当該当接部のうちのいずれか一方は、この被操作部材が一定以上の力で押圧を受けたときにその押圧方向に他方から押圧力を受けることにより破断されてその押圧方向への被操作部材のさらなるスライドを許容する形状をもつ破断可能部を構成する。
【0011】
この押圧操作部材において、前記被操作部材が通常の操作力で押圧されるときは、その押圧力で当該被操作部材が後退する方向にスライドするが、この被操作部材の当接部とベース部材のストッパとが当接する位置で当該スライドが止められ、それ以上の後退が阻止される。つまり、ストッパは被操作部材の押圧操作ストロークを押圧規制位置までのストロークに制限する本来の機能を発揮する。
【0012】
これに対し、当該被操作部材に車両の搭乗者が強く接触するなどして大きな押圧力が加えられると、その押圧力に対応する圧力で当該被操作部材の当接部がベース部材側のストッパと圧接し、この圧接によって、当接部またはストッパに含まれる破断可能部が破断される。この破断により、前記被操作部材は前記押圧規制位置よりもさらに深い位置まで前記ベース部材側に後退し、これにより、押圧操作部材全体のパネルからの突出量が急減し、前記搭乗者の安全が確保される。
【0013】
この押圧時において、前記押圧力に相当する反力は前記ベース部材のストッパから前記当接部に加えられ、その位置で前記破断が生ずるので、当該押圧力と破断可能部の破断荷重との関係を特定するのが容易である。また、当該破断に伴う被操作部材の後退方向が案内保持部によって規定されるので、被操作部材の傾きに起因する押圧荷重の偏在は生じにくい。従って、破断可能部の設計は容易である。
【0014】
特に、前記ベース部材の各ストッパおよび前記被操作部材の各当接部が、当該被操作部材の押圧方向と直交する平面上に並ぶ複数の位置にそれぞれ設けられていれば、各破断可能部がこれに対応するストッパまたは当接部から受ける破断荷重がより均等化され、当該破断可能部の設計はより容易となる。
【0015】
例えば、前記被操作部材がその押圧方向と平行な特定の中心軸回りに並ぶ複数の位置にそれぞれ前記被案内部を有し、これら被案内部のうちの複数の被案内部の後端部がそれぞれ前記当接部を構成するようにすれば、当該被案内部の後端部を当接部として活用することにより、構造がより簡素化される。
【0016】
また、前記破断可能部の具体的な構成としては、当該破断可能部が、前記被操作部材の押圧方向と直交する方向に延びる梁部を含み、この梁部の長手方向の中間部位が前記押圧力を受けることにより破断するものが、好適である。このような梁部を含む破断可能部については、当該梁部の破断強度を一般的な曲げ理論に基づき算定することが可能であり、従ってその設計は容易である。
【0017】
例えば、前記のように被案内部の後端部を当接部として利用する場合、当該当接部を構成する被案内部の後端部が板状をなし、この端部をその板厚方向に貫通する貫通孔が設けられ、この貫通孔よりも先端側の部分が前記被操作部材の押圧方向と直交する方向に延びる梁部を形成し、この梁部の長手方向の中間部位が前記押圧力を受けることにより破断するものが、好適である。この構造では、板状の被案内部の後端部に貫通孔を設けるだけの簡素な構造で、破断可能部に好適な梁部が形成される。
【0018】
また本発明は、車両内に設けられる操作装置であって、車室内に臨むように設けられるパネルと、このパネルの裏側に固定される回路基板と、前記パネルにこのパネルの表面から車室側に突出するように操作可能に設けられ、一定以上の押圧を受けることによりその突出量が減少するように変形する前記の車両用押圧操作部材と、前記回路基板上に設けられ、前記車両用押圧操作部材の被操作部材が押圧規制位置まで操作されたときに電気信号を出力する操作検出器とを備え、前記車両用押圧操作部材のベース部材が前記パネルに固定されるものである。
【0019】
この操作装置において、前記車両用押圧操作部材の被操作部材には、前記当接部と別の位置に設けられて当該被操作部材の押圧操作に伴いその押圧力を前記操作検出器に伝達する押圧操作部と、この被操作部材が一定以上の押圧を受けたときに前記押圧操作部が前記操作検出器から受ける反力によって破断する操作側破断可能部とを設けることにより、当該押圧操作部も破断可能な部分として利用することができる。この場合には、当該操作側破断可能部が破断するときの押圧荷重が前記破断可能部が破断するときの押圧荷重と同等になるように当該操作側破断可能部の形状を設定すればよい。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る車両用押圧操作部材では、大きな押圧力を受けたときに被操作部材がベース部材側に後退することにより、パネルからの押圧操作部材全体の突出量を急減させることができる。しかも、前記押圧力は被操作部材の当接部とこれに対応するベース部材のストッパとの当接箇所に直接作用するので、当該当接部および当該ストッパ(特に破断可能部)の設計が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用操作装置を表側からみた分解斜視図である。
【図2】前記車両用操作装置の押圧操作部材を裏側から見た分解斜視図である。
【図3】前記押圧操作部材の正面図である。
【図4】前記車両用操作装置の側面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】(a)は図5のVI−VI線断面図、(b)は(a)の状態から破断可能部の破断を伴って被操作部材である操作ノブが後退した状態を示す断面側面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【図8】前記押圧操作部材のベース部材を示す斜視図である。
【図9】前記ベース部材の正面図である。
【図10】前記操作ノブを裏側から見た斜視図である。
【図11】前記操作ノブを表側から見た斜視図である。
【図12】前記操作ノブが押圧規制位置にある状態を示す断面斜視図である。
【図13】前記操作ノブが破断可能部の破断を伴って前記押圧規制位置よりもさらに後退した状態を示す断面斜視図である。
【図14】従来の車両用操作装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好ましい実施の形態を図1〜図13を参照しながら説明する。
【0023】
この実施の形態に係る車両用操作装置は、押圧操作部材10と、回路基板12と、パネル14とを備える。前記パネル14は車室内の適所(例えばインストゥルメントパネル)に組み付けられ、その裏側に前記回路基板12が固定される。前記押圧操作部材10は、前記パネル14に設けられた図略の貫通孔を貫通する状態で回路基板12上に固定され、前記パネル14の表側から前記回路基板12に対して略直交する方向に押圧操作を受けるとともに、その通常の操作力を上回る一定以上の力で押圧を受けることによりその突出量が減少するように変形する。その詳細は後述する。
【0024】
この押圧操作部材10は、前記回路基板12上に固定されるベース部材18と、このベース部材18からさらに車室側に突出するように当該ベース部材18に取付けられる操作ノブ20とを備える。この操作ノブ20は、前記押圧操作を受ける被操作部材に相当する。
【0025】
前記ベース部材18は、内側筒部22と、外側筒部24と、環状壁26と、複数の取付部28とを有し、これらが例えば合成樹脂により一体に成形されている。
【0026】
前記内側筒部22は、前記押圧操作方向と平行な方向に中心軸をもつ円筒状をなし、その後端には底壁23を有する。その外周面上の適当な箇所(図では互いに周方向に90°離間する4箇所)に、前記操作ノブ20を保持する案内保持部30を有する。これらの案内保持部30は、当該操作ノブ20が前記押圧操作方向と平行な方向にスライド可能(進退可能)となるように保持するものである。
【0027】
各案内保持部30は、前記内側筒部22の内周面から内側に突出する一対の保持用突起32を有する。対をなす保持用突起32は、互いに内側筒部22の周方向に一定間隔Lをおいて離間しながら前記中心軸と平行な方向に延びている。つまり、これらの保持用突起32同士の間に、前記操作ノブ20のスライドを許容するための空間が確保されている。
【0028】
内側筒部22において、前記4つの空間のうちの上側及び下側の空間には、係止片34A,34Bがそれぞれ形成されている。これらの係止片34A,34Bは、内側筒部22からの前記操作ノブ20の脱落を阻止するためのもので、前記空間の奥端の位置から前方に延びるとともに、径方向に撓み可能な前端を有し、この前端に内向きに突出する係止突起36A,36Bを有する(図8及び図9)。
【0029】
前記外側筒部24は、前記内側筒部22よりも小さい軸方向寸法を有し、当該内側筒部22をその径方向外側から全周にわたり囲むように形成されるとともに、当該外側筒部24の後端部(正確には後端よりも少し前側の部分)が前記環状壁26(図5)を介して前記内側筒部22の後端の外周面につながっている。
【0030】
前記取付部28は、それぞれ前記外側筒部24の外周面の適所から径方向外側に突出する。各取付部28にはこれを軸方向(前記押圧操作方向と平行な方向)に貫通するボルト挿通孔29が設けられる。一方、前記回路基板12には前記各ボルト挿通孔29に対応する位置にそれぞれボルト挿通孔13が設けられ(図3)、両ボルト挿通孔29,13に挿通されるボルトにナットが装着されることにより、前記外側筒部24の後端面が回路基板12上に当接した状態でベース部材18が当該回路基板12上に固定される。
【0031】
前記操作ノブ20は、前記押圧操作方向に押圧操作を受けることによりその押圧操作方向に後退する(スライドする)ように前記ベース部材18に保持される。
【0032】
具体的に、この操作ノブ20は、指等により押圧操作を受ける被操作板42と、この被操作板42の裏面から後方に延びる被保持筒44とを有する。
【0033】
被保持筒44は、上下左右にそれぞれ配された4枚の被案内部46A,46B,46C,46Dと、これら被案内部46A,46B,46C,46Dよりも所定寸法だけ径方向内側に位置して周方向に互いに隣接する被案内部同士を連結する複数の(ここでは4つの)連結部48とを有する。
【0034】
各被案内部46A〜46Dは被保持筒44の径方向に対して直交する平板状をなす。そして、前記ベース部材18の内側筒部22において各案内保持部30を構成する保持用突起32同士の間に前記押圧操作方向と平行な方向に沿って差し込まれることにより、同方向にスライド可能となるように保持される。
【0035】
また、上側及び下側の被案内部46A,46Cにはその前後方向(押圧操作方向と平行な方向)について所定の寸法を有する矩形状の貫通孔45がそれぞれ設けられ、各貫通孔45内に前記ベース部材18の各係止片34A,34Bの係止突起36A,36Bがそれぞれ嵌り込んでいる。前記貫通孔45の前後方向についての位置及び寸法は、前記係止突起36A,36Bが前記操作ノブ20のスライドを許容しながら当該操作ノブ20が内側筒部22から脱落するのを阻止するように、設定されている。
【0036】
さらに、下側の被案内部46Dの後端からはさらに後方に押圧操作棒47(図2等)が延びている。
【0037】
一方、前記内側筒部22の底壁23の前側面には、前記各被案内部46A〜46Dに対応する位置でストッパ用のリブ50が突設されている。これらのリブ50は、この実施の形態では、前記各被案内部46A〜46Dと直交する方向、すなわち径方向に延び、当該被案内部46A〜46Dの後端と当接することにより、操作ノブ20のスライドストロークを規制する。すなわち、各被案内部46A〜46Dの後端は、前記各リブ50と当接することにより操作ノブ20がその当接位置(押圧規制位置)よりも後退する方向にスライドするのを阻止する当接部を構成し、これに当接する各リブ50は当該スライドを規制するストッパを構成する。
【0038】
また、この底壁23には、当該底壁23を前記押圧操作棒47が貫通するのを許容するための貫通孔52が設けられる。一方、前記回路基板12上において前記押圧操作棒47に対応する位置には、操作検出器であるスイッチ素子15が設けられる。このスイッチ素子15は、前記操作ノブ20が前記押圧規制位置まで後退するようにスライドしたときに前記押圧操作棒47の押圧を受けて検出信号を出力する。
【0039】
さらに、この装置の特徴として、前記当接部を構成する被案内部46A〜46Dの後端のうち被案内部46A〜46Cの後端は、操作ノブ20が通常の押圧操作力よりも大きい一定以上の力で押圧を受けたときに前記リブ50から反力を受けることにより破断されて前記押圧規制位置よりもさらに後退する方向に前記操作ノブ20がスライドするのを許容する形状をもつ破断可能部を構成する。具体的には、図6(a)に示すように、当該被案内部46A〜46Cの後端部においてその最後端部位を残してそれよりも前側の位置に当該被案内部46A〜46Dを貫通する矩形状の貫通孔54が形成され、これにより当該最後端部位が前記リブ50と直交する直線状の梁部56として構成されている。そして、前記操作ノブ20に一定以上の押圧荷重が加えられたときに前記各梁部56の中間部位がこれと圧接するリブ50から受ける反力によって図6(b)のA部に示すように破断するように、当該梁部56の長さ及び断面形状が設定されている。
【0040】
一方、前記押圧操作棒47が設けられている被案内部46Dの後端部においては、操作ノブ20が一定以上の押圧を受けたときに前記押圧操作棒47が前記スイッチ素子15から受ける反力によって破断する操作側破断可能部が形成されている。具体的には、図7に示すように、前記被案内部46A〜46Cと同様、被案内部46Dの後端部においてその最後端部位を残してそれよりも前側の位置に矩形状の貫通孔54Dが形成され、これにより当該最後端部位が前記押圧操作棒47と直交する直線状の梁部56Dとして構成されている。そして、前記操作ノブ20に一定以上の押圧荷重が加えられたときに前記梁部56Dの中間部位が前記スイッチ素子15から前記押圧操作棒47を介して受ける反力によって破断するように、当該梁部56Dの長さ及び断面形状が設定されている。この梁部56Dの破断強度は、当該梁部56Dが破断するときの押圧荷重が前記各梁部56が破断するときの押圧荷重と同等になるように、設定されている。
【0041】
なお、この実施の形態に係る操作装置では、前記車両用操作部材10と併せて図12及び図13に示すようなダイヤル操作部材(回転操作部材)60が設けられている。このダイヤル操作部材60は、回転操作を受けるもので、リング状のベース部材62と、同じくリング状のダイヤル部材(被操作部材)64とを備える。また、前記ベース部材18には当該ダイヤル操作部材60の回転に伴って操作者にクリック感を与える図略のばね機構が装填される。
【0042】
前記ベース部材62は、前記押圧操作部材10側のベース部材18に当該ベース部材18の中心軸と同軸回りに回転可能となるように保持される。具体的には、当該ベース部材18の外側筒部24から前方に複数の保持片38が延設され、これらが前記ベース部材62を径方向外側から抱き込むように保持する。
【0043】
前記ダイヤル部材64は、前記ベース部材62により径方向内側から支持される被支持筒65と、前記操作ノブ20における被操作板42の外周に沿って設けられるダイヤルリング66と、このダイヤルリング66と前記被支持筒65とを両者が一体に回転するように径方向に連結する複数の連結部68とを有する。前記被支持筒65は、前記ベース部材62と一体に回転し、かつ、ダイヤル部材64が一定以上の押圧力を受けたときに前記操作ノブ20と同様に前記ベース部材62に対してその押圧力の向きに後退するように、当該ベース部材62に係合される。
【0044】
このダイヤル部材64の後退を許容する手段は特に問わない。例えば、前記ダイヤル部材64に前記押圧操作部材10側の破断可能部(梁部56,56D)と同様の破断可能部が設けられてもよいし、当該ダイヤル部材64が前記ベース部材62に前後方向にスライド可能に保持されかつばね等で前側に付勢され、ダイヤル部材64が押圧を受けたときに前記ばねの圧縮変形を伴って当該ダイヤル部材64が後退するものでもよい。
【0045】
なお、本発明に係る操作装置において前記のダイヤル操作部材60は必須のものではない。すなわち、前記押圧操作部材10はそれ単独で用いられてもよい。
【0046】
次に、この操作装置の作用を説明する。
【0047】
押圧操作部材10の操作ノブ20は、押圧操作を受ける前の状態では、その押圧操作棒47がスイッチ素子15に軽く触れるかあるいは当該スイッチ素子15から離間した位置に保持される。この位置から当該操作ノブ20が押圧操作されると、その押圧操作方向に沿って操作ノブ20が後退する方向にスライドし、当該押圧操作力が前記押圧操作棒47によりスイッチ素子15に与えられ、当該スイッチ素子15が検出信号を出力する。このとき、操作ノブ20の各被案内部46A〜46Dがベース部材18の各案内保持部30の案内を受けることにより、操作ノブ20のスライドは安定する。また、操作ノブ20の後退位置は、前記被案内部46A〜46Dの後端の各梁部56がベース部材18側のリブ50に当接する位置(押圧規制位置)に規制される(図12)。
【0048】
これに対し、車両の衝突等に起因して搭乗者が操作ノブ20に強く押し付けられる等して当該操作ノブ20に一定以上の押圧力(通常の押圧操作力よりも相当大きい力)が加わると、この押圧力に起因して各被案内部46A〜46Cの梁部56及び被案内部46Dの梁部56Dがほぼ同時に破断し、これにより操作ノブ20が前記押圧規制位置からさらに後退する(図13)。具体的には、前記各被案内部46A〜46Cの後端における梁部(破断可能部)56の中間部位が各リブ50から前記押圧力に対応する反力を受ける一方、被案内部46Dの梁部(操作側破断可能部)56Dの中間部位がスイッチ素子15から押圧操作棒47を介して前記押圧力に対応する反力を受け、これらによって各梁部がほぼ同じ条件で破断する。
【0049】
この破断に伴う操作ノブ20の後退によって、パネル14からの押圧操作部材10の突出量が急減する。また、この実施の形態では、前記押圧力の付与により前記操作ノブ20の周囲のダイヤルリング66も被支持筒65と一体にベース部材62に対して後退し、操作部材全体の突出量の急減を担保する。
【0050】
この後退に際し、前記操作ノブ20に加えられる押圧力に相当する反力は前記ベース部材18のストッパである各リブ50から各梁部56に直接加えられ、その反力が作用する位置で当該梁部56が破断するので、当該押圧力と破断可能部である梁部56の破断荷重との関係を特定するのが容易である。また、当該破断に伴う操作ノブ20の後退方向がベース部材18の案内保持部30によって規定されるので、操作ノブ20の傾きに起因する押圧荷重の偏在は生じにくい。これらのことは、破断可能部である各梁部56の設計を容易にする。
【0051】
特に、この実施の形態では、前記ベース部材18のストッパである各リブ50及びこれに当接する各梁部56が、当該操作ノブ20の押圧操作方向と直交する直交する平面上に並ぶ複数の位置にそれぞれ設けられているから、各梁部56がリブ50から受ける反力がより均等化され、当該梁部56の設計はより容易となる。また、このような梁部56の破断強度は一般的な曲げ理論に基づき算定することが可能であるから、その設計は容易である。これは、操作側破断可能部である梁部56Dについても同様である。
【0052】
なお、本発明では必ずしも被押圧部に当接部(図例では梁部56)が設けられていなくてもよく、当該被押圧部とは別に当接部が設けられてもよい。しかし、前記のように被案内部の後端部が当接部を構成することは、構造のさらなる簡素化を可能にする。
【0053】
特に、図例の押圧操作部材10では、被案内部46A〜46Dの少なくとも後端部を板状とし、この後端部に貫通孔54を設けるといった簡素な構造で、前記貫通孔54よりも先端側の部分に破断可能部に好適な梁部56を形成することができる。
【0054】
本発明において、破断可能部は被操作部材(図例では操作ノブ20)側の当接部ではなくベース部材側のストッパに含まれていてもよい。例えば、ベース部材に梁状のストッパが形成され、このストッパが被操作部材側の当接部から受ける押圧力により破断されてもよい。
【実施例】
【0055】
例えば中国及び欧州の内部突起法規では、操作装置にパネルから9.5mm以上突出する突出物がある場合、この突出物に約380Nの静的荷重が作用した時に当該突出物の突出量を9.5mm以下に減らすことが要求される。図1〜図13に示す操作装置において当該要求を満たすためには、次の要領で梁部56,56Dの設計が行われればよい。
【0056】
1)各梁部の破断荷重Pf
前記操作装置では、4つの梁部56,56,56,56Dが90°間隔で周方向に均等に配置されているから、操作ノブ20が380Nの押圧荷重を受けて後退するためには、それぞれの梁部が380/4=95(N)の荷重を受けて破断するように、すなわち各梁部の破断荷重Pfが95Nとなるように、当該梁部が設計されればよい。
【0057】
2)梁部の形状設計
両端固定梁である梁部56,56Dの中間部位に荷重Pが作用するとき、当該梁部の長さ(すなわち貫通孔54の幅)をL、当該中間部位に作用する曲げモーメントをMとすると、これらの関係は次式で表される。
【0058】
P=8×M/L …(1)
このうち、曲げモーメントMが作用するときの梁部56,56Dの中間部位の最大曲げ応力σmaxは、当該梁部56,56Dの断面係数をZとすると、当該曲げモーメントMは
M=σmax×Z …(2)
で表される。
【0059】
ここで、図例の梁部56,56Dの断面係数Zは、当該梁部が形成される被案内部46A〜46Dの板厚(すなわち梁部の幅)をt、当該梁部の厚み(貫通孔54の後端から被案内部46A〜46Dの後端までの距離)をdとすると、
Z=t×d/6 …(3)
で表される。
【0060】
(2)式及び(3)式を(1)式に代入すると、次式が得られる。
【0061】
P=8×σmax×t×d/6L …(4)
ここで、梁部56,56Dが破断するときの最大曲げ応力σmaxは材料物性により決まるから、(4)式においてP=Pf(≒95N)とするように梁部の形状(L,t,d)を定めることにより、操作ノブ20が約380Nの押圧荷重を受けたときに各梁部56,56,56,56Dがほぼ均等に破断する操作装置を構築することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 押圧操作部材
12 回路基板
14 パネル
15 スイッチ素子(操作検出器)
18 ベース部材
20 操作ノブ(被操作部材)
30 案内保持部
32 保持用突起
42 被操作板
44 被保持筒
46A〜46D 被案内部
47 押圧操作棒
50 リブ(ストッパ)
54,54D 貫通孔
56 梁部(破断可能部)
56D 梁部(操作側破断可能部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内のパネルにこのパネルの表面から車室側に突出して押圧操作を受けるように設けられ、一定以上の力で押圧を受けることによりその突出量が減少するように変形する車両用押圧操作部材であって、
前記パネルまたはこのパネルに固定される部材に取付けられるベース部材と、
前記ベース部材から車室側に突出するように当該ベース部材に取付けられ、押圧操作を受ける被操作部材とを備え、
前記ベース部材は、このベース部材に対して前記被操作部材が前記押圧方向と平行な方向にスライドするように当該被操作部材を案内しながら保持する案内保持部と、前記被操作部材に当接することによりこの被操作部材が所定の押圧規制位置よりも後退する方向にスライドするのを規制するストッパとを有し、
前記被操作部材は、前記案内保持部と嵌合して当該案内保持部による案内を受ける被案内部と、前記ベース部材のストッパと当接することにより当該被操作部材が後退する方向のスライドを阻止する当接部とを有し、
当該ストッパおよび当該当接部のうちのいずれか一方は、この被操作部材が一定以上の力で押圧を受けたときにその押圧方向に他方から押圧力を受けることにより破断されて前記押圧規制位置よりもさらに後退する方向に前記被操作部材がスライドするのを許容する形状をもつ破断可能部を含むことを特徴とする車両用押圧操作部材。
【請求項2】
請求項1記載の車両用押圧操作部材において、
前記ベース部材の各ストッパおよび前記被操作部材の各当接部は、当該被操作部材の押圧方向と直交する平面上に並ぶ複数の位置にそれぞれ設けられることを特徴とする車両用押圧操作部材。
【請求項3】
請求項2記載の車両用押圧操作部材において、
前記被操作部材は、当該被操作部材の押圧方向と直交する平面上に並ぶ複数の位置にそれぞれ前記被案内部を有し、これら被案内部のうちの複数の被案内部の後端部がそれぞれ前記当接部を構成することを特徴とする車両用押圧操作部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の車両用押圧操作部材において、
前記破断可能部は、前記被操作部材の押圧方向と直交する方向に延びる梁部を含み、この梁部の長手方向の中間部位が前記押圧力を受けることにより破断することを特徴とする車両用押圧操作部材。
【請求項5】
請求項3記載の車両用押圧操作部材において、
前記当接部を構成する被案内部の後端部は板状をなし、この端部をその板厚方向に貫通する貫通孔が設けられ、この貫通孔よりも先端側の部分が前記被操作部材の押圧方向と直交する方向に延びる梁部を形成し、この梁部の長手方向の中間部位が前記押圧力を受けることにより破断することを特徴とする車両用押圧操作部材。
【請求項6】
車両内に設けられる操作装置であって、
車室内に臨むように設けられるパネルと、
このパネルの裏側に固定される回路基板と、
前記パネルにこのパネルの表面から車室側に突出するように操作可能に設けられ、一定以上の押圧を受けることによりその突出量が減少するように変形する請求項1〜5のいずれかに記載の車両用押圧操作部材と、
前記回路基板上に設けられ、前記車両用押圧操作部材の被操作部材が押圧規制位置まで操作されたときに電気信号を出力する操作検出器とを備え、
前記車両用押圧操作部材のベース部材が前記パネルに固定されることを特徴とする車両用操作装置。
【請求項7】
請求項6記載の操作装置において、
前記車両用押圧操作部材の被操作部材は、前記当接部と別の位置に設けられて当該被操作部材の押圧操作に伴いその押圧力を前記操作検出器に伝達する押圧操作部と、この被操作部材が一定以上の押圧を受けたときに前記押圧操作部が前記操作検出器から受ける反力によって破断する操作側破断可能部を有し、この操作側破断可能部が破断するときの押圧荷重が前記破断可能部が破断するときの押圧荷重と同等になるように当該操作側破断可能部の形状が設定されていることを特徴とする車両用操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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