説明

車両用歩行者保護装置及びその製造方法

【課題】プレート部の剛性と軽量化とが両立可能な構造を有する車両用歩行者保護装置を提供する。
【解決手段】車両の前部の下部部位に、車両の前後方向に延びるように配置されて、後側部分において車両に固定される合成樹脂製のプレート部12の後側部分30を発泡樹脂成形体にて構成する一方、プレート部12の前側部分26を、その後側部分30よりも剛性の大きな樹脂成形体にて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用歩行者保護装置とその製造方法とに係り、特に、車両前面に衝突乃至は接触した歩行者を保護する目的で、車両前部の下部部位に設置される車両用歩行者保護装置の改良された構造と、そのような車両用歩行者保護装置の有利な製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両においては、衝突時に生ずる衝撃エネルギーを吸収し、車体や乗員を保護することを主な目的として、車両の前面や後面、或いは側面等に、各種の保護装置が設置されている。また、近年では、車両の前面に歩行者が衝突(接触)した際に歩行者を保護する装置も、車両前面に設置されるようになってきている。
【0003】
かかる歩行者保護装置の一種として、所謂脚払い装置が知られている。この脚払い装置は、フロントバンパの内側や、フロントバンパとは独立して、その下部に設置されて、歩行者が車両前面に衝突したときに入力される衝撃荷重に対する反力を歩行者の脚部に作用せしめて、歩行者をボンネット等の衝撃吸収可能な部材にて受け止めさせることにより、歩行者の保護及び安全を図るようにしたものである。
【0004】
そのような歩行者保護装置に関して、従来から各種の構造が提案されている。例えば、下記特許文献1には、車両の前部の下部部位に、車両の前後方向に延びるように配置されて、後側部分において車両に固定される合成樹脂製のプレート部を有し、このプレート部の前端部において、車両の前面に衝突乃至は接触した歩行者の脚部に接触し、歩行者の脚部に反力を作用させることにより、歩行者を保護するようにした歩行者保護装置が、提案されている。
【0005】
かくの如き構造を有する歩行者保護装置においては、プレート部が合成樹脂製の一体成形品にて構成されているところから、優れた成形性が得られるものの、以下の問題が内在していた。
【0006】
すなわち、樹脂成形体からなるプレート部を有する従来の歩行者保護装置にあっては、プレート部の前端部に接触する歩行者の脚部に対して、衝撃荷重に対する反力を確実に作用させる上で、プレート部の前側部分の剛性(曲げ剛性)が、十分に大きくされている必要がある。そこで、かかる歩行者保護装置では、一般に、プレート部の前側部分に、その剛性を増大させるためのリブやビード等の補強部が設けられている。
【0007】
そのため、従来の歩行者保護装置においては、プレート部が合成樹脂製の一体成形品からなるにも拘わらず、樹脂成形体本来の軽量性を十分に得ることが困難であった。また、それが、歩行者保護装置が設置される車両の燃費等の性能の向上の妨げともなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−264741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、合成樹脂製のプレート部を有する車両用歩行者保護装置において、プレート部の前側部分における剛性を十分に確保しつつ、プレート部全体の軽量化が有利に図られ得るように改良された構造を提供することにある。また、そのような構造を有する車両用歩行者保護装置を有利に製造する方法を提供することをも、本発明の解決課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記した課題、又は本明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙する各種の態様において、好適に実施され得るものである。また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。そして、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0011】
<1> 車両の前部の下部部位に、車両の前後方向に延びるように配置されて、後側部分において車両に固定される合成樹脂製のプレート部を有し、該プレート部の前端部において、車両の前面に衝突した歩行者の脚部に接触せしめられることにより、該脚部を払って、保護するように構成した車両用歩行者保護装置において、前記プレート部の後側部分が、発泡樹脂成形体からなる一方、該プレート部の前側部分が、該後側部分よりも剛性の大きな樹脂成形体からなることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【0012】
<2> 前記プレート部の後側部分における車両への固定部位が、該後側部分を構成する前記発泡樹脂成形体よりも剛性の大きな樹脂成形体にて構成されている上記態様<1>に記載の車両用歩行者保護装置。
【0013】
<3> 前記プレート部の少なくとも前記前側部分に、該前側部分の剛性を増大させる補強部が一体形成されている上記態様<1>又は<2>に記載の車両用歩行者保護装置。
【0014】
<4> 車両の前部の下部部位に、車両の前後方向に延びるように配置されて、後側部分において車両に固定される合成樹脂製のプレート部を有し、該プレート部の前端部において、車両の前面に衝突した歩行者の脚部に接触せしめられることにより、該脚部を払って、保護するように構成した車両用歩行者保護装置の製造方法であって、(a)発泡性樹脂材料を用いて、前記プレート部の後側部分を成形する工程と、(b)前記発泡性樹脂材料を用いて成形される発泡樹脂成形体よりも剛性の大きな樹脂成形体を成形可能な樹脂材料を用いて、前記プレート部の後側部分よりも大きな剛性を有する、前記プレート部の前側部分を成形する工程と、(c)成形された前記プレート部の後側部分と前側部分とを一体的に接合する工程とを含むことを特徴とする車両用歩行者保護装置の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
すなわち、本発明に従う車両用歩行者保護装置においては、プレート部の後側部分が発泡樹脂成形体にて構成されているところから、かかるプレート部の後側部分の密度が有利に小さくされている。また、プレート部の前側部分が、その後側部分よりも剛性の大きな樹脂成形体にて構成されているため、プレート部の後側部分が発泡樹脂成形体からなるにも拘わらず、かかる前側部分、ひいてはプレート部全体での剛性の低下が可及的に回避乃至は抑制され得る。
【0016】
従って、かくの如き本発明に従う車両用歩行者保護装置にあっては、プレート部の前側部分における剛性を十分に確保しつつ、プレート部全体の軽量化が有利に図られ得る。その結果、車両用歩行者保護装置が設置される車両において、歩行者に対する十分な保護対策が講じられ得ると共に、車両用歩行者保護装置の設置が、燃費等の性能の向上の妨げとなるようこなことも、有利に回避され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に従う構造を有する歩行者保護装置の一例たる脚払い装置を示す上面説明図である。
【図2】図1におけるII−II断面説明図である。
【図3】図2のIII−III断面における端面拡大説明図である。
【図4】図2のIV−IV断面における端面拡大説明図である。
【図5】図1に示される脚払い装置を製造する際に実施される工程の一例を示す説明図であって、目的とする脚払い装置が有する第一非発泡部を形成した状態を示している。
【図6】図1に示される脚払い装置を製造する際に、図5に示される工程とは別個に実施に示される工程例を示す説明図であって、目的とする脚払い装置が有する第二非発泡部を形成した状態を示している。
【図7】図5及び図6に示される工程に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、形成された第一非発泡部と第二非発泡部とを、目的とする脚払い装置の外形形状に対応した形状を有する成形キャビティ内にセットした状態を示している。
【図8】図7に示される工程に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、成形キャビティ内に、発泡性樹脂材料を溶融状態で射出、充填して、インサート射出成形を行っている状態を示している。
【図9】本発明に従う構造を有する歩行者保護装置と従来構造を有する歩行者保護装置とに対する衝撃試験を行って得られた、各歩行者保護装置における衝撃荷重の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0019】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う車両用歩行者保護装置の一実施形態として、自動車の前面に設置されたフロントバンパの内側に取り付けられる脚払い装置が、その上面形態と横断面形態とにおいて、それぞれ示されている。それらの図から明らかなように、本実施形態の脚払い装置10は、プレート部としての基板12を有している。
【0020】
この基板12は、図1における左右方向で、脚払い装置10の自動車への設置状態下において車幅方向に対応する方向(以下からは、単に、幅方向と言う)の寸法が、車幅よりも短く、且つ図1における上下方向で、自動車の前後方向に対応する方向(以下からは、単に、前後方向と言う)の寸法が、幅方向の寸法よりも十分に短くされた、全体として、略横長矩形状を呈する薄肉の平板材にて構成されている。
【0021】
そして、このような基板12においては、その後側の略半分を占める部位が、全幅に亘って平板形態を呈し、脚払い装置10の自動車への設置状態下において水平に広がる平板部14とされている。また、この平板部14の後端部には、それを板厚方向に貫通する、所定の固定ボルト等が挿通可能な挿通孔16が、幅方向に所定間隔をおいて複数(ここでは、5個)設けられている。
【0022】
一方、基板12における平板部14を除く前側の部位は、その幅方向の両サイド部位を除いた幅方向中間部位に、第一補強部18aと第二補強部18bと第三補強部18cと第四補強部18dとがそれぞれ複数個ずつ一体形成された補強構造を有する補強部形成部20とされている。
【0023】
この補強部形成部20に設けられた第一補強部18aは、縦断面コ字形状をもって上方に突出して、前後方向に延びるビードからなっている。第二補強部18bは、第一補強部18aを構成するビードよりも僅かに広幅の縦断面コ字形状をもって下方に突出して、前後方向に延びるビードからなっている。そして、そのようなビードからなる複数(ここでは7個)の第一補強部18aと複数(ここでは6個)の第二補強部18bとが、補強部形成部20の幅方向に1個ずつ交互に並んで位置せしめられている。換言すれば、補強部形成部20の幅方向中間部位が、矩形状の山部と谷部とが交互に位置する矩形の波形形状を呈しており、それら矩形の山部にて、第一補強部18aが、矩形の谷部にて、第二補強部18bが、それぞれ形成されている。
【0024】
また、それら第一補強部18aと第二補強部18bのそれぞれの前端には、上下方向に延びる竪壁部22a,22bが一体形成され、それら各竪壁部22a,22bの前面が、平面視において、一つの連続面形態を呈している。そして、この連続面が、後述するフロントバンパのバンパカバーの内面に対応した、前方に向かって凸となる湾曲面形状とされている。かくして、脚払い装置10の自動車への設置状態下で、自動車前面への歩行者の衝突等によって生ずる衝撃が入力される衝撃入力面24が、第一及び第二補強部18a,18bの各竪壁部22a,22bの連続する前面にて、形成されている。
【0025】
一方、補強部形成部20に設けられた第三補強部18cと第四補強部18dは、何れも、幅方向に延びる薄肉平板状のリブからなっている。そして、かかるリブ形態を呈する第三補強部18cが、基板12の下面において、幅方向に互いに隣り合う第二補強部18bの相互に対向する側壁部同士を連結して、位置せしめられている。また、第四補強部18dは、基板12の上面において、幅方向に互いに隣り合う第一補強部18aの相互に対向する側壁部同士を連結して、位置せしめられている。
【0026】
そして、図1、図3及び図4に示されるように、本実施形態の脚払い装置10にあっては、特に、基板12における補強部形成部20の前側の半分に満たない部分で且つ補強部形成部20の全幅に亘る部分(図1に斜線が付された部分)が、非発泡性(無発泡)の樹脂成形体からなる第一非発泡部26とされており、また、自動車への固定部位たる、平板部14の挿通孔16の周辺部分で且つかかる挿通孔16の全周において取り囲む円環状を呈する部分(図1に斜線が付された部分)も、非発泡性の樹脂成形体からなる第二非発泡部28とされている。一方、基板12における第一非発泡部26と第二非発泡部28とを除いた部分、即ち、基板12における補強部形成部20の後側半分強の部分と平板部14の挿通孔16周辺部を除く全部とが、発泡樹脂成形体からなる発泡部30とされている。これによって、基板12の軽量化が図られつつ、基板12の前側の部分の剛性が確保されるようになっている。このことから明らかなように、本実施形態では、基板12の第一非発泡部26にて、プレート部の前側部分が、また、基板12の発泡部30にて、プレート部の後側部分がそれぞれ構成されている。
【0027】
なお、第一非発泡部26は、補強部形成部20の全幅に亘って形成されていることが望ましい。また、その前後方向の長さは、特に限定されるものではないものの、脚払い装置10の前後方向の最大長さに対して、4〜40%程度の長さとされていることが、好ましい。何故なら、かかる値が4%未満であると、第一非発泡部26の前後方向長さが小さ過ぎて、基板12の剛性を十分に確保することが困難となるからであり、また、かかる値が40%を超える場合には、発泡部30の前後方向の長さが小さくなり過ぎて、十分な軽量化を実現することが難しくなるからである。本実施形態では、脚払い装置10の前後方向の最大長さが200〜250mmとされ、また、第一非発泡部26の前後方向長さが、10〜80mm程度とされている。
【0028】
基板部12の第一及び第二非発泡部26,28をそれぞれ構成する樹脂成形体の種類も、何等限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレンやポリアミド等を用いて成形された非発泡性の樹脂成形体等、歩行者保護装置を与える樹脂成形体として、従来より一般に使用される樹脂成形体が用いられる。また、第一及び第二非発泡部26,28をそれぞれ構成する樹脂成形体は、基板部12の補強部形成部20が有する補強構造と、挿通孔16に挿通される固定ボルトの取付強度とを、それぞれ安定的に確保する上で、十分な曲げ剛性を有している必要がある。その点からして、第一非発泡部26と第二非発泡部28は、何れも1500MPa以上の曲げ弾性率を有していることが、望ましい。
【0029】
一方、発泡部30を構成する発泡樹脂成形体の種類は、特に限定されるものではなく、従来より公知のものが、使用される。例えば、非発泡部26を形成する樹脂材料と同一の樹脂材料、或いはそれとは異なる樹脂材料を用いた公知の発泡成形を行って得られる発泡樹脂成形体が、発泡部30を構成する発泡樹脂成形体として、何れも使用可能である。この発泡部30は、第一非発泡部26や第二非発泡部28よりも剛性(曲げ弾性率)が低くとも、十分な軽量性を有することが重要である。それ故、発泡部30を構成する発泡樹脂成形体としては、同一種類の樹脂材料からなる、同一体積の非発泡樹脂成形体(無発泡樹脂成形体)に対して、発泡により軽量化された重量の減少率(以下、軽量化率と言う)が3%以上となるものものが、好適に用いられる。
【0030】
ところで、かくの如き構造を有する脚払い装置10を製造する際には、例えば、以下の手順に従って、その作業が進められることとなる。
【0031】
先ず、第一非発泡部26と第二非発泡部28とを形成する非発泡性の樹脂材料と、発泡部30を形成する発泡性樹脂材料とを準備する。ここでは、非発泡性の樹脂材料として、例えば、プロピレンやポリアミド、或いはそれらの樹脂に、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、ガラス等の公知のフィラーが、単独で、若しくは2種類以上組み合わされて、添加されて、剛性が強化された樹脂材料が準備される。一方、発泡性樹脂材料としては、例えば、第一非発泡部26や第二非発泡部28の形成材料として準備される樹脂材料と同じ材料、又はかかる樹脂材料とは異なる樹脂材料中に、分解性発泡剤等の公知の発泡剤が添加されてなる発泡性樹脂材料が、準備される。ここで準備される発泡性樹脂材料に対して、発泡部30の剛性を高めるためのフィラーを、発泡部30の軽量性を損なわない程度(軽量化率を十分に確保可能な程度)において添加することも可能である。
【0032】
なお、発泡樹脂成形体の成形手法として、超臨界状態の炭酸ガスを2%程度、溶融樹脂中に混合することにより発泡成形を行う方法を採用することが出来るが、その際には、発泡部30を形成する発泡性の樹脂材料として、例えば、発泡剤が添加されていない、第一非発泡部26と第二非発泡部28の形成材料と同様な樹脂材料が、準備される。また、溶融樹脂中に混合させる臨界状態のガスとして、炭酸ガスに代えて窒素ガスを用いることも出来る。
【0033】
次に、準備された非発泡性の樹脂材料を用いて、例えば、公知の射出成形を行って、図5に示されるように、第一補強部18aと第二補強部18bの前端側部分と第三補強部18cと第四補強部18dとをそれぞれ複数個ずつ備えた、補強部形成部20の前側部分を与える、非発泡樹脂成形体からなる第一非発泡部26を形成する。
【0034】
また、かかる第一非発泡部26の形成の前又は後に、或いはそれと同時に、非発泡性の樹脂材料を用いた射出成形等を実施することにより、図6に示されるように、全体として、円環板形状を呈し、内孔にて、基板12の挿通孔16を与える、非発泡樹脂成形体からなる第二非発泡部28を、基板12に設けられる挿通孔16と同じ数(ここでは、5個)だけ形成する。
【0035】
その後、形成された第一非発泡部26と複数個の第二非発泡部28とをインサート品として用いると共に、図7に示されるように、型合せ状態下で、目的とする脚払い装置10の全体形状に対応した形状の成形キャビティ32が内部に形成される上型34と下型36とからなる射出成形型38を使用して、公知のインサート射出成形を行う。
【0036】
すなわち、かかるインサート射出成形を実施するには、先ず、図7に示されるように、第一非発泡部26と複数個の第二非発泡部28とを、射出成形型38の成形キャビティ32内の所定位置に、それぞれセットする。
【0037】
次に、図8に示されるように、成形キャビティ32内に、公知の発泡剤(図示せず)が添加、混合せしめられた発泡性樹脂材料40を溶融状態で、射出、充填する。引き続き、射出成形型38を加熱する等して、成形キャビティ32内の発泡性樹脂材料に混合せしめられた発泡剤を分解することにより、溶融状態の発泡性樹脂材料中に気泡を発生させる。その後、射出成形型38を冷却して、内部に気泡が発生した発泡性樹脂材料を冷却、固化して、発泡樹脂成形体からなる発泡部30を形成すると共に、この発泡部30を、第一非発泡部26や第二非発泡部28に対して、それらとの境界面において一体的に接合する。かくして、図1に示される如き構造を有する、目的とする脚払い装置10を得る。
【0038】
なお、発泡部30を形成する成形キャビティ32部分のキャビティ面を、上型34や下型36に対してスライド移動可能なコア型(図示せず)にて構成し、発泡性樹脂材料40の発泡成形時に、コア型を移動させて、発泡部30を形成する成形キャビティ32部分を拡げる、所謂コアバックを実施することにより、発泡部30の発泡倍率を高めるようにしても良い。このコアバックを実施した際には、発泡部30の軽量化率が15〜60%程度の高い値となると予想される。
【0039】
このように、本実施形態の脚払い装置10は、基板12の平板部14の大部分と補強部形成部20の後側の半分以上の部分とが、発泡樹脂成形体からなる発泡部30とされている。それ故、基板12の半分よりも多くの領域を占める後側の部分の密度が有利に小さくされる。それによって、非発泡性の樹脂成形体からなる従来装置に比して、脚払い装置10全体の軽量化が、効果的に達成され得る。
【0040】
しかも、かかる脚払い装置10では、基板12の前側の部分を構成する補強部形成部20の前端側の部分が、全幅に亘って、従来装置と同様に、発泡部30よりも剛性の高い非発泡性の樹脂成形体からなる第一非発泡部26とされている。そのため、補強部形成部20の前側部分での剛性が有利に確保され得、また、補強部形成部20の全体が発泡樹脂成形体にて構成される場合とは異なって、脚払い装置10の自動車への設置状態下で、衝撃入力面24の一部に、歩行者の脚部が衝突乃至接触せしめられた際に、補強部形成部20における歩行者脚部の接触部分が局所的に凹んでしまうようなことがなく、歩行者脚部の接触によって生ずる衝撃荷重が、発泡部30において幅方向に広く分散せしめられつつ、基板12の後側に伝達される。その結果、基板12の後側部分が発泡部30にて構成されているにも拘わらず、衝撃荷重に対する反力が十分に発揮され得る。
【0041】
従って、かくの如き本実施形態の脚払い装置10にあっては、基板12の軽量化と、基板12での剛性による十分な反発力の確保とを両立させることが可能となる。その結果として、設置される自動車の燃費等の性能の向上を何等妨げることなく、歩行者の脚部の保護を効果的に且つ十分に達成することが出来るのである。
【0042】
また、かかる脚払い装置10では、発泡部30の一部からなる平板部14に設けられて、基板12を自動車に固定するための固定ボルトが挿通される各挿通孔16の周辺部分に、各挿通孔16を取り囲む円環板状の第二非発泡部28が形成されている。それ故、各挿通孔16の周辺部分が発泡樹脂成形体からなる場合に比して、各挿通孔16の内周面部分の強度が有利に高められ得る。それによって、各挿通孔16に挿通される固定ボルトによる自動車等への基板12の取付強度が効果的に向上され得ることとなる。
【0043】
さらに、本実施形態においては、基板12の前側の部分を構成する補強部形成部20にビード形態やリブ形態を呈する第一、第二、第三、及び第四補強部18a〜18dが一体形成されている。それ故、このことと、補強部形成部20の前側の部分が第一非発泡部26にて構成されていることとが相俟って、基板12の特に前側の部分の剛性が、より有利に高められ得る。その結果、基板12において、衝撃荷重に対する反力がより十分に発揮されて、歩行者脚部の保護が、更に一層有利に達成され得る。
【0044】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0045】
例えば、前記実施形態では、補強部形成部20の前端側部分からなる基板12の前側部分が、非発泡樹脂成形体からなる第一非発泡部30とされていたが、かかる基板12の前側部分は、発泡樹脂成形体からなる後側部分よりも剛性の大きな樹脂成形体にて構成されておれば良い。従って、基板12の前側部分を、その後側部分よりも剛性の大きな発泡樹脂成形体にて構成することも出来る。それによって、更なる軽量化が達成され得る。
【0046】
なお、その場合には、基板12の前側部分を与える発泡樹脂成形体として、その剛性を十分に確保する上で、軽量化率が10%未満の値であるものが、一般に用いられる。また、前側部分が発泡樹脂成形体にて構成されるときの基板12の後側部分を構成する発泡樹脂成形体としては、軽量性の向上のために、軽量化率が10%以上の値であるものが、好適に用いられる。
【0047】
基板12の前側部分を構成する第一非発泡部26と、基板12の後側部分を構成する発泡部30との接合は、例示されたインサート成形を利用した方法で実現される他、例えば、二色射出成形を利用する方法や、第一非発泡部26と発泡部30とを、それぞれ別個に成形した後、接着剤を用いた接着や各種の溶着により接合する、所謂後接合による方法でも、実現可能である。また、基板12の後側部分における自動車等への固定部位たる、平板部14の挿通孔16の周辺部分を構成する第二非発泡部28と発泡部30との接合も、例示されたインサート成形を利用した方法以外に、上記の後接合による方法でも実現可能である。
【0048】
補強部形成部20に設けられる第一乃至第四補強部18a〜18dの全体形状や個数、配設位置及び間隔も、変更可能である。また、それら第一乃至第四補強部18a〜18dを省略しても良い。
【0049】
加えて、本発明は、自動車の前面に設置されたフロントバンパの内側に取り付けられる歩行者保護装置とその製造方法以外に、自動車の前面に、バンパとは独立して別個に設置されるものや、自動車以外の車両の前面に、各種の形態で設置される歩行者保護装置とその製造方法の何れに対しても、有利に適用され得るものであることは、勿論である。
【0050】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明の特徴を更に明確にすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によっても、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【0052】
先ず、非発泡性の樹脂材料として、ポリプロピレンの所定量と、発泡性樹脂材料として、ポリプロピレンに熱分解型のアゾ化合物系の性発泡剤を添加、混合してなる混合物の所定量とを準備した。
【0053】
次いで、非発泡性樹脂材料を用いた射出成形を実施して、図5に示される如き構造を有する第一非発泡部を成形した。その後、この第一非発泡部をインサート品として用いると共に、先に準備された発泡性樹脂材料を使用して、インサート射出成形を実施することにより、図1に示される如く、基板の前側部分が第一非発泡部にて構成される一方、その後側部分が発泡部にて構成された、本発明に従う構造を有する脚払い装置を作製した。そして、これを本発明品とした。なお、この本発明品の脚払い装置の基板の前後方向の最大長さは200mmで、第一非発泡部の前後方向長さを25mmとした。発泡部の軽量化率は13%であった。
【0054】
また、比較のために、本発明品の脚払い装置とは別に、本発明品の脚払い装置の第一非発泡部の形成材料たる非発泡性樹脂材料を用いた射出成形を実施して、本発明品の端払い装置と同一の形状及び大きさを有し、且つ装置全体が非発泡樹脂成形体からなる脚払い装置を作製した。そして、これを比較品1とした。更に、本発明品の脚払い装置の発泡部の形成材料たる発泡性樹脂材料を用いた射出成形を実施して、本発明品の端払い装置と同一の形状及び大きさを有し、且つ装置全体が発泡樹脂成形体からなる脚払い装置を作製した。そして、これを比較品2とした。この比較品2の各脚払い装置の軽量化率は13%であった。
【0055】
そして、かくして作製された本発明品と比較品1及び2の3種類の脚払い装置を、それぞれ、実車(自動車)の前面に固設されたフロントバンパのバンパカバーの内側に設置して、互いに構造の異なる脚払い装置がそれぞれ設置されてなる3種類の試験車両を得た。その後、それら3種類の試験車両を用いて、自動車のフロントバンパへの歩行者の衝突を想定した歩行者保護想定衝撃試験を行って、歩行者の衝突時に、各脚払い装置に入力される衝撃荷重の経時変化を、公知の手法により、各々調べた。その結果を、図9に示した。なお、各試験車両に対する歩行者保護想定衝撃試験は、各試験車両のフロントバンパの前面に対して、21.3kgの重量を有するダミーを20km/hの速度で衝突させることにより実施した。
【0056】
かかる図9から明らかなように、本発明品の脚払い装置を用いた場合における衝撃荷重は、装置全体が非発泡樹脂成形体からなる比較品1の脚払い装置を用いた場合の衝撃荷重と同様な経時変化を示している。これに対して、装置全体が発泡樹脂成形体からなる比較品2の脚払い装置を用いた場合の衝撃荷重は、本発明品の脚払い装置や比較品1の脚払い装置を用いた場合の衝撃荷重に比して、極端に低い値で推移していることが、認められる。これは、本発明に従う構造を有する脚払い装置が、軽量化を達成しつつ、衝撃荷重に対する反力を、従来の一般的な脚払い装置と同程度において、瞬時に且つ十分に確保し得ることを、如実に示している。
【符号の説明】
【0057】
10 脚払い装置 12 基板
14 平板部 18 補強部
20 補強部形成部 26 第一非発泡部
28 第二非発泡部 30 発泡部
38 射出成形型 40 発泡性樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部の下部部位に、車両の前後方向に延びるように配置されて、後側部分において車両に固定される合成樹脂製のプレート部を有し、該プレート部の前端部において、車両の前面に衝突した歩行者の脚部に接触せしめられることにより、該脚部を払って、保護するように構成した車両用歩行者保護装置において、
前記プレート部の後側部分が、発泡樹脂成形体からなる一方、該プレート部の前側部分が、該後側部分よりも剛性の大きな樹脂成形体からなることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項2】
前記プレート部の後側部分における車両への固定部位が、該後側部分を構成する前記発泡樹脂成形体よりも剛性の大きな樹脂成形体にて構成されている請求項1に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項3】
前記プレート部の少なくとも前記前側部分に、該前側部分の剛性を増大させる補強部が一体形成されている請求項1又は請求項2に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項4】
車両の前部の下部部位に、車両の前後方向に延びるように配置されて、後側部分において車両に固定される合成樹脂製のプレート部を有し、該プレート部の前端部において、車両の前面に衝突した歩行者の脚部に接触せしめられることにより、該脚部を払って、保護するように構成した車両用歩行者保護装置の製造方法であって、
発泡性樹脂材料を用いて、前記プレート部の後側部分を成形する工程と、
前記発泡性樹脂材料を用いて成形される発泡樹脂成形体よりも剛性の大きな樹脂成形体を成形可能な樹脂材料を用いて、前記プレート部の後側部分よりも大きな剛性を有する、前記プレート部の前側部分を成形する工程と、
成形された前記プレート部の後側部分と前側部分とを一体的に接合する工程と、
を含むことを特徴とする車両用歩行者保護装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−179671(P2010−179671A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22213(P2009−22213)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)