説明

車両用水封装置

【課題】フロートと下部弁座とが異物を介して張り付いた状態になることを防止し、フロートによる排水管の開閉、気圧変動の抑制を確実に行うことができる車両用水封装置を提供する。
【解決手段】水位の変動に伴って上下動するフロート17が当接して排水管を遮断する上部弁座15と下部弁座16とを有するフロート室12と、フロート室12内の水位を設定する排水トラップ14とを備えた車両用水封装置において、フロート室12の下部に、内周縁に下部弁座を有する周状突片18を突設するとともに、該周状突片の上面を水平方向乃至前記下部弁座に向かう下り勾配であって、該下り勾配の水平線に対する角度を、フロートと下部弁座との当接点を通るフロート外周面の接線と水平線との交角未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用水封装置に関し、詳しくは、高速で走行する鉄道車両の洗面台などの排水管に設けられる車両用水封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速で走行する鉄道車両では、トンネル進入時やトンネル退出時に車体周りの気圧が大きく変動するため、車体を気密構造として車内の気圧変動を抑えるようにしている。また、洗面所などからの排水は、排水管をS型に屈曲させて水を滞留させることにより気密性を保持する排水トラップと、気圧の変動時に排水トラップ内の水位が変動することを利用して排水管を遮断する球形のフロートを収納したフロート室とを備えた車両用水封装置を介して車外に排出するようにしている。フロート室は、上下に弁座となる円錐面をそれぞれ有する紡錘状に形成されており、外気圧が急上昇するとフロート室内の水位が上昇してフロート室の上部円錐面(上部弁座)にフロートが当接して排水管を閉塞し、外気圧が急低下するとフロート室内の水位が下降してフロート室の下部円錐面(下部弁座)にフロートが当接して排水管を閉塞するように形成されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2587794号公報
【特許文献2】特許第4280207号公報
【特許文献3】特開2010−23712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に記載された構造の水封装置を採用することによって洗面所などの排水管における気密性を保持することはできるが、洗面所などの使用頻度が極端に少ない状態で気圧の変動が繰り返されると、排水トラップ内の水量が減少してフロート室内の排水が無くなり、フロートがフロート室の下部弁座に着座したままの状態になる。通常は、フロート室内への排水の流入や外気圧の上昇によってフロートが浮上し、下部弁座を開放して正常な状態に復帰する。
【0005】
しかし、下部弁座となる円錐面に嘔吐物や即席麺の残り汁などの流動性、粘着性を有する異物が大量に付着していると、異物を介してフロートと下部弁座とが張り付いた状態になり、洗面所などからの排水がフロート室内に流入してもフロートが浮上できなくなることがあった。
【0006】
例えば、図6に示すように、下部弁座51となる部分がフロート室下部の円錐面の場合は、下部弁座51がフロート52の外周面に対して接線方向に当接する状態になることから、下部弁座51の近傍に付着した異物Cがフロート52の下部弁座当接部の周辺の広い面積に接触することになり、フロート52と下部弁座51とが異物Cを介して広い範囲で張り付いた状態になることがある。このように、異物を介して広い面積でフロートと下部弁座とが張り付いた状態になってしまうと、洗面所などからの排水がフロート室内に流入してもフロートが浮上せず、排水不能状態になってしまうおそれがあった。
【0007】
そこで本発明は、フロートと下部弁座とが異物を介して張り付いた状態になることを防止し、フロートによる排水管の開閉、気圧変動の抑制を確実に行うことができる車両用水封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の車両用水封装置は、車内と車外とをつなぐ排水管に、該排水管の内径より大きな内径を有し、内部に球形のフロートを収納したフロート室と、排水を溜めて排水管を水封する排水トラップとを設け、前記フロート室の上部及び下部に、フロート室内の水位の変動に伴って上下動するフロートが当接して排水管を遮断する円形の上部弁座と下部弁座とをそれぞれ備えた車両用水封装置において、前記フロート室の下部に、内周縁に前記下部弁座を有する周状突片を突設するとともに、該周状突片の上面を、水平方向乃至前記下部弁座に向かう下り勾配であって、該下り勾配の水平線に対する角度を、前記フロートと前記下部弁座との当接点を通るフロート外周面の接線と水平線との交角未満としたことを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の車両用水封装置は、前記フロート室の下部内周面が前記周状突片の基部に向かって漸次縮径する漏斗状に形成されていること、前記フロートの外周面下部が前記下部弁座の一部に当接し、かつ、フロートの外周面側部がフロート室内周面に当接したときに、フロートの重心が前記下部弁座の内周側に位置していることを特徴としている。また、前記フロートが下部弁座に着座してフロートの周囲に排水が存在する状態で、フロートの質量をW[kg]、下部弁座の開口面積をA[m]、フロートの周囲の水位をH[m]、フロートが水没した部分の体積をV[m]、排水の密度をρ[kg/m]としたときに、あらかじめ設定された水位以上で、V・ρ−(A・H・ρ+W)>0の関係が成立することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用水封装置によれば、フロート室の内周面から水平方向乃至前記下部弁座に向かう下り勾配であって、前記フロートの外周面の接線に交わる方向に周状突片を突設し、該周状突片の内周縁に下部弁座を設けたので、下部弁座に異物が付着していてもフロートの外周面の広い範囲に接触することはなく、フロートと下部弁座とが異物を介して強く張り付いた状態になることがなくなる。
【0011】
また、フロート室の下部内周面を漏斗状に形成したり、フロートの重心を下部弁座の内周側に位置させることにより、フロートを下部弁座に確実に着座させることができる。さらに、フロートの質量、下部弁座の開口面積、フロート周囲の水位、フロートが水没した部分の体積を適切に設定することにより、フロートに確実な浮力を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の車両用水封装置の第1形態例を示す断面正面図である。
【図2】フロートが下部弁座に着座した状態を示す要部の断面正面図である。
【図3】下部弁座の近傍に付着した異物とフロートとの関係を示す図である。
【図4】フロートと下部弁座とフロート室内周面との関係を示す図である。
【図5】フロートと下部弁座との関係を示す説明図である。
【図6】従来のフロート式水封装置における円錐面形状の下部弁座の近傍に付着した異物とフロートとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本形態例に示す車両用水封装置は、鉄道車両の車内と車外とをつなぐ排水管の途中に設けられるもので、例えば車内に設けられた洗面台などの排水口に接続する上部排水管11と、該上部排水管11の下部に接続されるフロート室12と、該フロート室12の下部に接続される下部排水管13と、該下部排水管13に設けられたS型管トラップ14とを備えている。
【0014】
フロート室12は、上部排水管11や下部排水管13の内径より大きな内径を有する円筒状の胴部12aと、該胴部12aの上部と上部排水管11の下端開口とを接続するとともに、内周面に上部弁座15を形成する上部レジューサ部12bと、胴部12aの下部に設けられた下部レジューサ部12cと、該下部レジューサ部12cと下部排水管13との間に設けられた下部弁座16とを備えている。このフロート室12の内部には、前記上部弁座15及び下部弁座16の内径より大きく、胴部12aの内径より小さな外径を有する球形のフロート17が上下動可能な状態で収納されている。
【0015】
排水トラップ14は、フロート室12の下方の所定位置、例えば1m程度下方でU字状に屈曲した下部屈曲部14aと、該下部屈曲部14aの流出側から鉛直方向上方に向かって設けられた立ち上がり管部14bと、立ち上がり管部14bの上端で逆U字状に屈曲した上部屈曲部14cと、該上部屈曲部14cの流出側から下方に向かって設けられた出口管部14dとを有しており、出口管部14dの下流側が車外に開口している。また、上部屈曲部14cの高さは、この排水トラップ14内に溜まる排水の水面がフロート室12の上下方向中間部に位置するように設定されている。
【0016】
下部弁座16は、前記フロート室12の下部レジューサ部12cの内周面に突設した周状突片18の先端内周縁に設けられている。周状突片18は、絞り加工によって下部レジューサ部12cと一体に形成されており、周状突片18の上面は、下部レジューサ部12cの内周面から水平方向に突設した状態となっている。また、下部弁座16の内径は下部排水管13の内径と同じ内径に形成しており、下部弁座16の下方に直接又は適宜な接続管を介して下部排水管13の上端を接合している。
【0017】
このように、下部弁座16を水平方向に突設した周状突片18の先端内周縁に設けることにより、図3に示すように、下部弁座16の近傍に流動性、粘着性を有する異物Cが付着していても、フロート17に接触する異物Cの量や面積は極めて僅かであり、フロート17と下部弁座16とが異物Cを介して張り付いた状態になることを防止できる。
【0018】
また、図4に示すように、フロート17と下部弁座16と下部レジューサ部12cの内周面との関係は、フロート17の外周面下部17aが前記下部弁座16の一部に当接し、かつ、フロート17の外周面側部17bが胴部12a又は下部レジューサ部12cの内周面に当接したときに、フロート17の重心Gが下部弁座16の内周側に位置するように、フロート17の外径、下部弁座16の内径及びフロート17の外周面側部17bが当接する部分の胴部12a又は下部レジューサ部12cの内径がそれぞれ設定されている。
【0019】
これにより、フロート17が下降する際に、フロート17の外周面が胴部12a又は下部レジューサ部12cの内周面に沿って下降し、フロート17の重心Gが下部弁座16の中心とずれた状態になっていても、フロート17が周状突片18の上面に乗ったままの状態になることはなく、重心Gの位置関係からフロート17を下部弁座16にガイドすることができ、フロート室12の水位の低下に伴って下部弁座16をフロート17で確実に閉塞することができる。
【0020】
さらに、フロート17と下部弁座16とは、図5において、フロート17が下部弁座16に着座してフロート16の周囲に排水Dが存在する状態で、フロート17の質量をW[kg]、下部弁座16の開口面積をA[m]、フロート17の周囲の水位をH[m]、フロート17が水没した部分の体積をV[m]、排水Dの密度をρ[kg/m](通常の排水の場合は1000[kg/m])としたときに、あらかじめ設定された水位以上で、V・ρ−(A・H・ρ+W)>0の関係が成立するように形成されている。このような関係が成立するようにフロート17と下部弁座16とを関連づけて形成することにより、排水トラップ14内の水量が減少してフロート室12内の排水が無くなり、フロート17が下部弁座16に着座した状態になっても、上部排水管11から排水がフロート室12内に流入してフロート17が排水中にある程度水没すると、フロート17がフロート17自身の浮力のみで確実に浮上して下部弁座16を開放することができる。なお、前記関係が成立する水位は、下部弁座16の開口径やフロート17の径、質量などの条件によって異なり、例えば、下部弁座16に着座したフロート17が完全に水没する水位以上としてもよく、フロート17の中心以上の水位に設定することができる。
【0021】
また、下部レジューサ部12cの内周面からの周状突片18の突出方向、少なくとも周状突片18の上面の角度は、本形態例に示す水平方向に限るものではなく、図5において、下部レジューサ部12cの内周面から下部弁座16に向かう下り勾配であって、該下り勾配の水平線Lに対する角度αを、フロート17と下部弁座16との当接点を通るフロート外周面の接線Tと水平線Lとの交角β未満、好ましくは、交角βの1/2以下とすることができる。すなわち、周状突片18の上面を下部弁座16に向かう上り勾配にすると、周状突片18の上面に排水が溜まって異物が付着しやすくなり、異臭発生の原因ともなるので避けるべきであり、下り勾配の角度αが接線Tの角度βに近づくと、下部弁座16の近傍の周状突片18の上面とフロート17の外周面との距離が近くなるため、周状突片18の上面に付着した異物とフロート17の外周面とが接触しやすくなるために好ましくない。
【0022】
さらに、本形態例に示すように、上部排水管11の途中にトラップ枡21を設けてフロート室12内への異物の流入を抑えることにより、フロート17による上部弁座15及び下部弁座16の開閉をより円滑にすることができる。このトラップ枡21は、筒型のトラップ本体21aと、該トラップ本体21aの上部に開口した流入口21bと、トラップ本体21aの下部からトラップ本体21aの内部に立ち上がった流出管21cと、流出管21cの開口の上方に設けられた邪魔板21dとを備えており、流入口21bから流入する排水が流出管21cに直接流入することを邪魔板21dで防止するとともに、排水中の異物をトラップ本体21aの底部に沈殿させることにより、異物が流出管21cから流出しないようにしている。
【0023】
なお、上部弁座の形状は任意であり、本形態例に示す下部弁座と同じような形状に形成することもできる。また、フロート室の下部に、周状突片の基部に向かって漸次縮径する漏斗状に形成した下部レジューサ部を設けずに、胴部の下部から周状突片を突設することもでき、フロート室の下部を階段状に形成して周状突片を設けることもでき、周状突片の下部にもレジューサ部を設けて下部排水管の上端部に接続することもできる。さらに、周状突片の上面は、曲面で形成することもでき、中間を屈曲させてもよい。また、前記形態例では、フロート室と周状突片とを一体に形成しているが、フロート室とは別に適宜な形状の周状突片形成用の部材を形成し、この周状突片形成用の部材をフロート室を形成するための部材の内周に溶接などで取り付けるようにすることもできる。さらに、排水トラップの構造も、S型管トラップに限定されるものではなく、フロート室内の水位を所定高さに設定できる構造ならば、P型などの任意の排水トラップを採用することができる。
【符号の説明】
【0024】
11…上部排水管、12…フロート室、12a…胴部、12b…上部レジューサ部、12c…下部レジューサ部、13…下部排水管、14…S型管トラップ、14a…下部屈曲部、14b…立ち上がり管部、14c…上部屈曲部、14d…出口管部、15…上部弁座、16…下部弁座、17…フロート、17a…外周面下部、17b…外周面側部、18…周状突片、21…トラップ枡、21a…トラップ本体、21b…流入口、21c…流出管、21d…邪魔板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内と車外とをつなぐ排水管に、該排水管の内径より大きな内径を有し、内部に球形のフロートを収納したフロート室と、排水を溜めて排水管を水封する排水トラップとを設け、前記フロート室の上部及び下部に、フロート室内の水位の変動に伴って上下動するフロートが当接して排水管を遮断する円形の上部弁座と下部弁座とをそれぞれ備えた車両用水封装置において、前記フロート室の下部に、内周縁に前記下部弁座を有する周状突片を突設するとともに、該周状突片の上面を、水平方向乃至前記下部弁座に向かう下り勾配であって、該下り勾配の水平線に対する角度を、前記フロートと前記下部弁座との当接点を通るフロート外周面の接線と水平線との交角未満としたことを特徴とする車両用水封装置。
【請求項2】
前記フロート室の下部内周面は、前記周状突片の基部に向かって漸次縮径する漏斗状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用水封装置。
【請求項3】
前記フロートの外周面下部が前記下部弁座の一部に当接し、かつ、フロートの外周面側部がフロート室内周面に当接したときに、フロートの重心が前記下部弁座の内周側に位置していることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用水封装置。
【請求項4】
前記フロートが下部弁座に着座してフロートの周囲に排水が存在する状態で、フロートの質量をW[kg]、下部弁座の開口面積をA[m]、フロートの周囲の水位をH[m]、フロートが水没した部分の体積をV[m]、排水の密度をρ[kg/m]としたときに、あらかじめ設定された水位以上で、V・ρ−(A・H・ρ+W)>0の関係が成立することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用水封装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−18413(P2013−18413A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154395(P2011−154395)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】