説明

車両用灯具のレンズ

【課題】レンズ表面の良好な見栄えを確保しながらレンズの軽量化を図ることができる車両用灯具のレンズを提供する。
【解決手段】車両用灯具10の前面レンズ20は、先打ちされた第1樹脂層21と、該第1樹脂層21の表面上に後打ちされた第2樹脂層23とが積層成形された二色成形レンズである。第1樹脂層21は3つのダイレクトゲート37により成形される。第2樹脂層23は1つのダイレクトゲート39により第1樹脂層21の表面全域を覆うように成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両における標識灯に適用する車両用灯具のレンズに関し、特にリヤコンビネーションランプの前面レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用灯具のレンズとしては、後打ちされた表面側の色の薄い第2樹脂層の裏面側の所定位置に、先打ちされた色の濃い第1樹脂層が積層成形された二色成形レンズがある(例えば、特許文献1参照)。この二色成形レンズは、積層部分の第2樹脂層が第1樹脂層側に隆起して第1、第2樹脂層の境界面が第1樹脂層側にオフセットされている。これにより、キャビティ内の隆起部分に対応する金型境界面の段差によって一部溶融した第1樹脂層の溶融状態の第2樹脂層への流入を阻止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−319347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、近年自動車の軽量化に伴ってレンズの軽量化も図られているが、レンズの薄肉化を図ろうとすると、表面上にヒケ等が発生してしまい、良好な見栄えを確保しながらレンズの軽量化を図るのは難しかった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、レンズ表面の良好な見栄えを確保しながらレンズの軽量化を図ることができる車両用灯具のレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することができる本発明に係る車両用灯具のレンズは、先打ちされた第1樹脂層と、該第1樹脂層の表面上に後打ちされた第2樹脂層とが積層成形された車両用灯具のレンズにおいて、前記第1樹脂層は、複数のダイレクトゲートにより成形されるとともに、前記第2樹脂層は、1つのダイレクトゲートにより前記第1樹脂層の表面全域を覆うように成形されることを特徴とする車両用灯具のレンズにより達成される。
【0007】
上記構成の車両用灯具のレンズによれば、第1樹脂層の成形に多点ダイレクトゲートを用いることで、1つのゲートから流入する溶融樹脂の流動長を短くすることができる。これにより、レンズの薄肉化が可能となり、レンズの軽量化と低コスト化を図ることができる。
また、ダイレクトゲートを用いることによってゲートカットが不要となるため、次の積層成形にそのまま移れるので、生産性の向上を図ることができる。更に、第1樹脂層の表面側に発生するゲート跡やウェルドラインを第2樹脂層により覆って見えなくすることができる。これにより、意匠性の向上を図ることができる。
【0008】
また、上記構成の車両用灯具のレンズにおいて、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層からなる積層領域の他に、前記第2樹脂層のみからなる単層領域を有しており、前記第2樹脂層成形時のゲート位置は、前記単層領域に設けられていることが望ましい。
【0009】
このような構成の車両用灯具のレンズによれば、単層領域にダイレクトゲートが配置されているので、ダイレクトゲートから射出された樹脂は、単層領域から積層領域に流れ込むこととなるため、第1樹脂層の表面が溶融しても単層領域に流れ出てくることはなく、品質の向上を図ることができる。
【0010】
また、上記構成の車両用灯具のレンズにおいて、前記積層領域の前記第2樹脂層の厚さは、単層領域の前記第2樹脂層の厚さよりも薄いことが望ましい。
【0011】
このような構成の車両用灯具のレンズによれば、第2樹脂層の厚さを単層領域よりも積層領域を薄くすることで、単層領域のゲートから樹脂が射出された時、厚い領域(厚肉部)を通って薄い領域(薄肉部)に樹脂が流れる。厚い領域では圧力が低いので、樹脂が流れ易く、広い範囲に樹脂を行き届かせることができる。その分、積層領域の厚さを薄肉化することができる。
【0012】
また、上記構成の車両用灯具のレンズにおいて、前記第1樹脂層の裏面側には、リブが設けられていることが望ましい。
【0013】
このような構成の車両用灯具のレンズによれば、第1樹脂層の薄肉化に伴ってリブの基部付近の第1樹脂層表面側にヒケが発生しても、第1樹脂層の表面側が第2樹脂層によって覆われるので、ヒケ部分を隠すことができ、へこみや段差のない滑らかなレンズ表面を形成することができる。
なお、第1樹脂層の裏面側に設けられたリブは、レンズとランプボディとを振動溶着、熱板溶着等する際に、当該リブを溶融等させることによりランプボディと固着することができる。
【0014】
また、上記構成の車両用灯具のレンズにおいて、前記第1樹脂層は濃色であり、前記第2樹脂層は薄色であることが望ましい。
【0015】
このような構成の車両用灯具のレンズによれば、表面側から薄色の第2樹脂層を透かして第1樹脂層を視認できるが、第2樹脂層によりウェルドラインを見えなくすることができ、意匠性の一層の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る車両用灯具のレンズによれば、第1樹脂層の成形に多点ダイレクトゲートを用いることで、1つのゲートから流入する溶融樹脂の流動長を短くすることができるので、レンズの薄肉化が可能となる。これにより、レンズの軽量化を図ることができると共に、樹脂材料の削減による低コスト化を図ることができる。
また、ダイレクトゲートを用いることによってゲートカットが不要となるため、次の積層成形にそのまま移れるので、生産性の向上を図ることができる。
更に、第1樹脂層の表面側に発生するゲート跡やウェルドラインを第2樹脂層により覆って見えなくすることができるので、意匠性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る一実施形態の車両用灯具10の正面図である。
【図2】図1に示した車両用灯具10のA−A線断面図である。
【図3】図2の前面レンズ20の拡大図である。
【図4】前面レンズ20を成形する第1工程を示す成形金型の断面図である。
【図5】前面レンズ20を成形する第2工程を示す成形金型の断面図である。
【図6】図3の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両用灯具のレンズの一実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。なお、この車両用灯具は、例えば、テール&ストップランプとバックアップランプを一体化したリヤコンビネーションランプであり、この灯具ハウジングの前面に配置される前面レンズを一例に説明する。
【0019】
図1及び図2に示すように、本発明の一実施形態である車両用灯具10は、ランプボディ11の前面開口部に前面レンズ20が組み付けられて3つの灯室が画成されている。即ち、上からテールランプ室12、バックアップランプ室14及びテールランプ室16である。ランプボディ11の後端部にはバルブ挿着孔13が設けられており、光源であるバックアップランプ用バルブ15と2つのテールランプ用バルブ17が挿着されている。
【0020】
前面レンズ20は、先打ちされた第1樹脂層21と、第1樹脂層21の表面上に後打ちされた第2樹脂層23とが積層成形された二色成形レンズである。第2樹脂層23は、第1樹脂層21の表面全域を覆っている。第1樹脂層21の裏面側には、リブである溶着脚25が突設されている。
【0021】
前面レンズ20は、外周部分に第1樹脂層21と第2樹脂層23の2層からなる積層領域27と、中央部分に第2樹脂層23のみからなる単層領域29と、から構成されている。第1樹脂層21は濃色であるアンバ色又は赤色のアクリル製であり、第2樹脂層23は薄色(又は無色)であるアクリル製のクリアである。
【0022】
図3に示すように、前面レンズ20を構成する積層領域27の第2樹脂層23の厚さt2は、単層領域29の第2樹脂層23の厚さt3よりも薄肉に成形されている。また、第1樹脂層21の厚さt1と第2樹脂層23の厚さt2との和である積層領域27の厚さ(t1+t2)は、単層領域29の第2樹脂層23の厚さt3よりも厚肉に成形されている。例えば、積層領域27の第1樹脂層21の厚さt1は1.0mm、第2樹脂層23の厚さt2は1.5mm、単層領域29の第2樹脂層23の厚さt3は2.0mmである。
【0023】
次に、車両用灯具10の前面レンズ20の製造方法について説明する。
図4に示すように、一次成形として第1樹脂層21を成形すると共に、二次成形として第2樹脂層23を成形する二色成形用の成形用金型30は、固定された第1上金型31と、可動する下金型33により第1キャビティ部35を形成する。
【0024】
第1上金型31は、アクリル樹脂40を射出するダイレクトゲート37が3箇所に設けられている。第1樹脂層21は、この3つのダイレクトゲート37により成形される。
【0025】
下金型33は、次工程の二次成形時に使用されるダイレクトゲート39が単層領域29に対応した位置に1箇所設けられている。第2樹脂層23は、この1つのダイレクトゲート39により単層領域29を成形するとともに、第1樹脂層21の表面全域を覆うように成形される。
【0026】
(一次成形)
図4に示すように、3つのダイレクトゲート37からアクリル樹脂40がパーティングラインPLに沿って、第1キャビティ部35内に射出されることで第1樹脂層21が射出成形される。各ダイレクトゲート37から流入する溶融したアクリル樹脂40の流動長は短くなるので、例えば1mm程の狭いキャビティ先端部まで行き届かせることができる(図1参照)。
【0027】
(二次成形)
図5に示すように、溶着脚25を含む第1樹脂層21を所定時間かけて硬化させた後に、第1上金型31を第2上金型32に交換することで、第2キャビティ部43が形成される。
次に、第2上金型32の単層領域29に対応した位置に配置された1つのダイレクトゲート39からアクリル樹脂40がパーティングラインPLに沿って、第2キャビティ部43内に射出されることで第2樹脂層23が第1樹脂層21の表面全域を覆うように射出成形される。
【0028】
このとき、ダイレクトゲート39から射出されたアクリル樹脂40は、単層領域29から積層領域27に流れ込むことになるため、第1樹脂層21の表面が溶融しても単層領域29に流れ出てくることはない。
また、ダイレクトゲート39からアクリル樹脂40が射出された時、厚肉な領域である単層領域29を通って薄肉な領域である積層領域27にアクリル樹脂40が流れる。厚肉な領域では樹脂の流動できる幅が広いのでアクリル樹脂40が流れ易く、その後に流れ込む薄肉な領域(端部)にも行き渡り易い。また、樹脂を流し込んだ後の保圧工程においても、薄肉な領域より厚肉な領域の方が樹脂の硬化時間が遅いため、長い時間圧力をかけることができるので、成形性が良い。
【0029】
なお、3つのダイレクトゲート37からのアクリル樹脂40の射出成形により第1樹脂層21の表面上にゲート跡やウェルドラインが発生する。しかしながら、第1樹脂層21の表面全域に第2樹脂層23が形成されるので、ゲート跡や発生位置が特定できないウェルドラインを第2樹脂層23により覆って見えなくすることができる。
【0030】
また、図6に示すように、背面側に溶着脚25が設けられていると、前面レンズ20の表面にヒケ41が生じる。しかしながら、前述したように第1樹脂層21の表面全域に第2樹脂層23が形成されるので、ヒケ41部分を埋めて滑らかなレンズ表面を形成することができる。
【0031】
上述した本実施形態の車両用灯具10の前面レンズ20によれば、第1樹脂層21は、3つのダイレクトゲート37により成形されるとともに、第2樹脂層23は、1つのダイレクトゲート39により第1樹脂層21の表面全域を覆うように成形される。
したがって、3つの各ダイレクトゲート37から流入する溶融したアクリル樹脂40の流動長を短くすることができ、前面レンズ20の薄肉化による軽量化と、成形サイクルの短縮によるコスト低減を図ることができる。
【0032】
また、ダイレクトゲート37,39を用いることによってゲートカットが不要となり、次の工程にそのまま移れるので、生産性の向上を図ることができる。更に、第1樹脂層21の表面側に発生するゲート跡やウェルドラインを第2樹脂層23により覆って見えなくすることができるので、透明感と共に意匠性の向上を図ることができる。
【0033】
また、単層領域29にダイレクトゲート39が配置されているので、ダイレクトゲート39から射出されたアクリル樹脂40は、単層領域29から積層領域27に流れ込むことになるため、第1樹脂層21の表面が溶融しても単層領域29に流れ出てくることはなく、品質の向上を図ることができる。
【0034】
また、第2樹脂層23の厚さを単層領域29よりも積層領域27を薄くすることで、単層領域29のダイレクトゲート39からアクリル樹脂40が射出された時、厚い領域を通って薄い領域にアクリル樹脂40が流れる。これにより、単層領域29の広い範囲にアクリル樹脂40を行き届かせることができ、積層領域27の厚さを薄肉化することができる。
【0035】
また、第1樹脂層21の裏面側に溶着脚25が設けられている場合、第1樹脂層21の薄肉化に伴って溶着脚25の基部付近の表面側にヒケ41等が発生しても、第1樹脂層21の表面側が第2樹脂層23によって覆われるので、へこみや段差のない滑らかなレンズ表面を形成することができる。
【0036】
また、第1樹脂層21は濃色であり、第2樹脂層23は薄色であるので、表面側から薄色の第2樹脂層23を透かして第1樹脂層21を視認できるが、第2樹脂層23によりウェルドラインを見えなくすることができ、意匠性の一層の向上を図ることができる。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
即ち、上記実施形態では、リヤコンビネーションランプの前面レンズを一例に説明したが、その他の標識灯用の前面レンズや灯室内に収容されるインナーレンズにも適用することができる
【符号の説明】
【0038】
10…車両用灯具
20…前面レンズ(レンズ)
21…第1樹脂層
23…第2樹脂層
25…溶着脚(リブ)
27…積層領域
29…単層領域
35…第1キャビティ部
37,39…ダイレクトゲート
43…第2キャビティ部
t1…第1樹脂層の肉厚
t2…積層領域の第2樹脂層の肉厚
t3…単層領域の第2樹脂層の肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先打ちされた第1樹脂層と、該第1樹脂層の表面上に後打ちされた第2樹脂層とが積層成形された車両用灯具のレンズにおいて、
前記第1樹脂層は、複数のダイレクトゲートにより成形されるとともに、前記第2樹脂層は、1つのダイレクトゲートにより前記第1樹脂層の表面全域を覆うように成形されることを特徴とする車両用灯具のレンズ。
【請求項2】
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層からなる積層領域の他に、前記第2樹脂層のみからなる単層領域を有しており、
前記第2樹脂層成形時のゲート位置は、前記単層領域に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具のレンズ。
【請求項3】
前記積層領域の前記第2樹脂層の厚さは、単層領域の前記第2樹脂層の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項2に記載の車両用灯具のレンズ。
【請求項4】
前記第1樹脂層の裏面側には、リブが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用灯具のレンズ。
【請求項5】
前記第1樹脂層は濃色であり、前記第2樹脂層は薄色であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両用灯具のレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−187299(P2011−187299A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50830(P2010−50830)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】