説明

車両用燃料タンク

【課題】メインタンク及びサブタンクの面剛性差に起因する歪みを解消しつつ、部品点数の抑制、及び腐食促進成分が滞留に伴う諸問題の抑制を図ることが可能な車両用燃料タンクの提供を目的とした。
【解決手段】車両用燃料タンク10は、メインタンク20と、メインタンク20内に収容されメインタンク20の底面30に固定されるサブタンク50とを有する。メインタンク20の底面30にはメイン側ビード40が形成され、サブタンク50の底面52にはサブ側ビード60が形成されている。また、メイン側ビード40をなすメイン側主ビード42の両端部には、末端側に向かうに連れて漸次拡幅するように形成された拡幅部46が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインタンクの内底部にサブタンクを固定した車両用燃料タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メインタンク内にサブタンクを収容し、メインタンクの内底部に対してサブタンクを直接溶接することにより固定した車両用燃料タンクがある。このような構造の車両用燃料タンクにおいては、サブタンクの剛性に対してメインタンクの剛性が低い。そのため、このような車両用燃料タンクでは、内圧変動、あるいは車両の振動等に伴って作用する応力の影響により、メインタンクとサブタンクとの溶接部分において歪みが生じるといった問題が生じる可能性がある。
【0003】
そこで、かかる問題を解消すべく、下記特許文献1に開示されているような車両用燃料タンクが提供されている。下記特許文献1に開示されている車両用燃料タンクにおいては、燃料貯留用のメインタンク(タンク本体)とサブタンクとの間に支持板を介挿させた構造が採用されている。また、この車両用燃料タンクにおいては、メインタンク及び支持板を溶接により固定すると共に、支持板及びサブタンクを溶接により固定した構造とされている。このような構成とすることにより、メインタンク及びサブタンクの面剛性差に起因して固定部分に作用する応力を緩和し、固定部分に歪みが生じることを回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2744424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1に開示されているようにメインタンクとサブタンクとの間に支持板を介挿させて固定することにより、メインタンク及びサブタンクの面剛性差に起因する歪みを解消することができる。しかしながら、本発明者らが検討したところ、支持板を設けることによる部品点数及び重量の増加、あるいは製造コストの上昇等の問題を解消すべく、さらなる改良の余地があることを見いだした。
【0006】
また、支持板を設けない構成とすることができれば、メインタンクの内底面と、支持板をなす鋼板の外縁部(板コバ)との間にメインタンク等の腐食を促進しうる水等の腐食促進成分が滞留しにくくなると想定される。かかる想定の下、本発明者らは、支持板を設けない構成とすることにより、より一層、車両用燃料タンクを長寿命化し、メンテナンスの必要性を低下させることができるのではないかとの知見に至った。
【0007】
上述したような知見に基づき、本発明は、メインタンク及びサブタンクの面剛性差に起因する歪みを解消しつつ、部品点数の抑制、及び腐食促進成分が滞留に伴う諸問題の抑制を図ることが可能な車両用燃料タンクの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の車両用燃料タンクは、燃料を貯留可能なメインタンクと、前記メインタンク内に収容され前記メインタンクの底面に固定されるサブタンクとを有し、前記メインタンクの底面、及び前記サブタンクの底面のうち、少なくともメインタンクの底面に、他方のタンクの底面に対して凹形状となるように形成されたビードが設けられており、前記ビードが、末端側に向かうに連れて漸次拡幅するように形成された拡幅部を有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の車両用燃料タンクにおいては、サブタンクよりも剛性が低くなるメインタンクの底面にビードを設けることにより、メインタンクの剛性向上が図られている。これにより、上述した特許文献1に開示されているもののようにメインタンクとサブタンクとの間に支持板等の部材を介在させることなく、両タンクを固定することができる。
【0010】
すなわち、少なくともメインタンクの底面にビードを設けることにより、メインタンク及びサブタンクの剛性差を最小限に抑制することができる。これにより、上述した特許文献1のように支持板を介在させることなくメインタンク及びサブタンクを固定したとしても、メインタンク及びサブタンクの面剛性差に起因する応力集中、及び両タンクの固定部分における歪みの発生を防止できる。従って、本発明によれば、メインタンク及びサブタンクの固定部分に歪みが生じることを回避しつつ、車両用燃料タンクを構成する部品点数及び重量を最小限に抑制し、製造コストを安価なものとすることができる。
【0011】
また、本発明の車両用燃料タンクにおいては、上述した支持板のような部材をメインタンク及びサブタンクの間に介在させないため、メインタンク等の腐食を促進しうる水等の腐食促進成分が滞留しにくい。さらに、本発明の車両用燃料タンクにおいては、ビードに末端側に向かうに連れて漸次拡幅するように形成された拡幅部を設けている。これにより、車両の走行に伴う振動等の影響により内部に貯留されている燃料が流動した際に、ビード内を流通する燃料の流速が、サブタンク周辺を流れる燃料の流速よりも高くなる。よって、本発明の燃料タンクにおいては、仮にビードあるいはその周辺に水等の腐食促進成分が滞留するようなことがあったとしても、ビードから排出される燃料の流れによって腐食促進成分の滞留が解消される。従って、本発明の車両用燃料タンクにおいては、腐食促進成分の滞留に伴う車両用燃料タンクの腐食の可能性を最小限に抑制し、メンテナンスの必要性も最小限に抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メインタンク及びサブタンクの面剛性差に起因する歪みを解消しつつ、部品点数の抑制、及び腐食促進成分が滞留に伴う諸問題の抑制を図ることが可能な車両用燃料タンクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る車両用燃料タンクの分解斜視図、(b)はロアタンクの平面図、(c)はサブタンクの平面図である。
【図2】(a)はサブタンク設置領域、メイン側ビード、及びサブ側ビードを示す平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、本発明の一実施形態に係る車両用燃料タンク10について、図面を参照しつつ詳細に説明する。車両用燃料タンク10は、薄肉の金属板に折り曲げ加工等を施すことにより形成されたものである。図1(a)に示すように、車両用燃料タンク10は、メインタンク20と、サブタンク50とに大別される。車両用燃料タンク10は、メインタンク20の内部にサブタンク50を収容させ、メインタンク20に対してサブタンク50を固定した構造を有する。
【0015】
図1(a)に示すように、メインタンク20は、上方側のアッパータンク部22と、下方側のロアタンク部24とに大別される。アッパータンク部22は、天面26と、天面26の外周端縁から垂下する側面28とを有する。また、図1(a),(b)に示すように、ロアタンク部24は、底面30と、底面30の外周端縁から立上がる側面32とを有する。
【0016】
ロアタンク部24の底面30には、サブタンク50を設置するためのサブタンク設置領域34が存在する。図1(b)及び図2に示すように、サブタンク設置領域34内には、メイン側ビード40が形成されている。メイン側ビード40は、サブタンク設置領域34上に設置されるサブタンク50に対して凹形状となるように形成されている。すなわち、メイン側ビード40は、プレス加工等を施すことにより、底面30をメインタンク20(ロアタンク部24)の内側から外側に向けて窪むように変形させることにより形成されている。
【0017】
メイン側ビード40は、メイン側主ビード42と、メイン側副ビード44とによって構成されている。メイン側主ビード42は、サブタンク設置領域34の長手方向、言い換えればサブタンク設置領域34に設置されるサブタンク50の長手方向に延びるように形成されている。また、メイン側主ビード42は、サブタンク設置領域34の短手方向(サブタンク50の短手方向)略中央部を横切るように形成されている。
【0018】
メイン側主ビード42の両端部には、拡幅部46が設けられている。拡幅部46においては、メイン側主ビード42の末端側に向かうに連れて開口幅が漸次拡幅するように形成されている。具体的には、拡幅部46以外の部分と拡幅部46との境界部分におけるメイン側主ビード42の幅をa、拡幅部46の末端部分における幅をbとした場合、a<bの関係が成立し、拡幅部46の境界部分から末端部分に向けて徐々に幅が拡大している。
【0019】
また、メイン側副ビード44は、メイン側主ビード42から枝分かれするように形成されている。メイン側副ビード44は、メイン側主ビード42に対して交差するように、複数形成されている。具体的には、サブタンク設置領域34の長手方向略中央部に設けられたメイン側副ビード44は、メイン側主ビード42に対して略直交するように形成されている。
【0020】
また、サブタンク設置領域34の長手方向中央部を外れた位置(一端側、及び他端側)に形成されたメイン側副ビード44は、サブタンク設置領域34の長手方向中央部に設けられたものに対してやや外側に向けて傾斜するように形成されている。言い換えれば、メイン側副ビード44は、メイン側主ビード42の略中央部から放射状に拡がるように形成されている。
【0021】
図1(a)に示すように、サブタンク50は、上述したようにメインタンク20のロアタンク24内に収容されたタンクである。サブタンク50は、ロアタンク24の底面30に設けられたサブタンク設置領域34内に、後に詳述するようにしてスポット溶接により固定されている。図1(c)等に示すように、サブタンク50は、底面52と、底面52の外周端縁から立上がる側面54とを備え、上部に向けて開放された箱状の外観形状を有するものである。
【0022】
図1(c)及び図2に示すように、サブタンク50の底面52には、サブ側ビード60が形成されている。図2(b),(c)に示すように、サブ側ビード60は、メインタンク20に対してサブタンク50を設置した状態において、メインタンク20の底面30に対して凹形状となるように形成されている。すなわち、サブ側ビード60は、プレス加工等を施してサブタンク50を形成する鋼板を変形させることにより、サブタンク50の外側から内側に向けて凹形状となるように形成されている。
【0023】
サブ側ビード60は、サブタンク50の短手方向(幅方向)に延びるように形成されている。また、サブ側ビード60は、サブタンク50の長手方向略中央部と、その両脇の3カ所に形成されている。各サブ側ビード60は、メインタンク20側に設けられたメイン側副ビード44の位置関係と対応するように形成されている。すなわち、図2(a),(c)に示すように、サブ側ビード60は、サブタンク50をメインタンク20側に設けたサブタンク設置領域34内に設置した際に、メイン側副ビード44と一部又は全部が重なるような位置関係となるように形成されている。
【0024】
サブタンク50は、上述したようにして形成されたロアタンク24のサブタンク設置領域34内に設置され、スポット溶接によりロアタンク24と一体化される。この際、図2(a)中に黒色の丸印で示すように、メイン側主ビード42とメイン側副ビード44との交差部分近傍であって、メイン側副ビード44の両脇に位置する各溶接位置62においてスポット溶接が施される。
【0025】
サブタンク50に形成されたサブ側ビード60が、メインタンク20に形成されたメイン側副ビード44に対応し、上述したような位置関係となるように形成されている。そのため、サブタンク50をサブタンク設置領域34内に設置すると、図2(c)に示すようにサブ側ビード60とメイン側副ビード44とが重複する部分に燃料が流通できる流路70が形成される。また、メイン側副ビード44は、図2(a)において破線で示したサブタンク50の設置部分よりも外側まで延伸している。そのため、車両の走行等に伴い車両用燃料タンク10内において燃料の流れが発生すると、流路70内を流通する燃料を、メイン側副ビード44に沿ってサブタンク50の下方及び近傍からサブタンク50から離れた位置まで誘導し、確実に排出させることができる。
【0026】
また、上述したようにしてサブタンク50をメインタンク20と一体化させると、図2(a),(b)に示すように、メイン側主ビード42によって形成された流路80が形成される。流路80は、サブタンク50の下方においてサブタンク50の長手方向に延びるように形成される。また、メイン側主ビード42についても、図2(a)において破線で示したサブタンク50の設置部分よりも外側まで延伸している。そのため、車両の走行等に伴い車両用燃料タンク10内において燃料の流れが発生すると、流路80内を流通する燃料を、メイン側主ビード42に沿ってサブタンク50の下方及び近傍からサブタンク50から離れた位置まで誘導し、確実に排出させることができる。
【0027】
さらに、上述したようにメイン側主ビード42の両端部には、開口幅が漸次拡幅するように形成された拡幅部46が存在している。そのため、車両の走行に伴う振動等の影響により車両用燃料タンク10内に貯留されている燃料が流動した際に、メイン側主ビード42によって構成された流路80内を流通する燃料の流速が、サブタンク50の周辺を流れる燃料の流速よりも高くなる。そのため、車両の走行時等において車両用燃料タンク10に揺れが作用すると、メイン側主ビード42から外側に向けて排出される燃料の流れが確実に形成される。
【0028】
上述したように、本実施形態の車両用燃料タンク10は、車両の走行に伴う振動等が加わると、メイン側ビード40及びサブ側ビード60によって形成される流路70,80内を燃料が流れ、サブタンク50の下方から外側(サブタンク50から離れる方向)に向けて排出される。そのため、仮にサブタンク50の周辺に水等の腐食促進成分が滞留するようなことがあったとしても、メイン側ビード40及びサブ側ビード60から排出される燃料の流れによって腐食促進成分の滞留が解消される。従って、車両用燃料タンク10においては、腐食促進成分の滞留に伴う腐食の可能性を最小限に抑制すると共に、腐食防止のために要するメンテナンスの必要性を最小限に抑制できる。
【0029】
車両用燃料タンク10においては、メイン側ビード40及びサブ側ビード60を設けることにより、メインタンク20及びサブタンク50の剛性を向上させると共に、両タンク20,50の剛性のバランスを適切なものとしている。そのため、車両用燃料タンク10においては、メインタンク20及びサブタンク50の剛性差により、両タンク20の固定点たる溶接位置62において応力が集中すること、及び応力集中に伴う歪みが生じることを回避できる。また、上述した従来技術のようにメインタンク20とサブタンク50との間に他部材を介在させる必要がないため、車両用燃料タンク10の構成部品点数、重量、及び製造コストを最小限に抑制することができる。
【0030】
なお、上述した実施形態においては、メイン側主ビード42の両端部に拡幅部46を設けることにより、流路80における燃料の流速向上を図った構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜設計変更することが可能である。具体的には、メイン側主ビード42の両端部に拡幅部46を設けるのではなく、いずれか一方側の端部にのみ拡幅部46を設けても良い。また、拡幅部46の始点位置についても適宜変更可能である。また、メイン側主ビード42全体として中央部から末端部に向けて漸次拡幅するように形成することにより、メイン側主ビード42全体を拡幅部46としても良い。
【0031】
また、本実施形態においては、メイン側主ビード42に拡幅部46を設けた構成を例示したが、メイン側副ビード44あるいはサブ側ビード60にも拡幅部46と同様に末端に向けて漸次拡幅する部分を設けた構成としても良い。メイン側主ビード42に拡幅部46を設けず、メイン側副ビード44あるいはサブ側ビード60にのみ拡幅部46に相当するものを設けても良い。なお、燃料の流速向上効果を図るべく拡幅部46あるいはこれに相当するものを設ける場合には、メイン側副ビード44あるいはサブ側ビード60よりも長いメイン側主ビード42に優先的に設けることが好ましい。
【0032】
また、メイン側ビード40あるいはサブ側ビード60の形状、大きさ、あるいは配置については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜設計変更することが可能である。具体的には、本実施形態においてはメイン側ビード40を構成するメイン側副ビード44のうち、長手方向両端側に形成されるものを中央部に形成されるものに対して傾斜させ、放射状に形成した例を示したが、両端側のメイン側副ビード44についても中央のメイン側副ビード44と同様にメイン側主ビード42に対して略直交するように形成しても良い。
【0033】
また、本実施形態においては、メインタンク20のロアタンク24にメイン側ビード40を形成すると共に、サブタンク50側にサブ側ビード60を設けた構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、サブ側タンク50にサブ側ビード60を設けない構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の車両用燃料タンクは、車両において使用する燃料を貯留するためのタンクとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 車両用燃料タンク
20 メインタンク
34 サブタンク設置領域
40 メイン側ビード
46 拡幅部
50 サブタンク
60 サブ側ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を貯留可能なメインタンクと、
前記メインタンク内に収容され前記メインタンクの底面に固定されるサブタンクとを有し、
前記メインタンクの底面、及び前記サブタンクの底面のうち、少なくともメインタンクの底面に、他方のタンクの底面に対して凹形状となるように形成されたビードが設けられており、
前記ビードが、末端側に向かうに連れて漸次拡幅するように形成された拡幅部を有することを特徴とする車両用燃料タンク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−71497(P2013−71497A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210303(P2011−210303)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】