説明

車両用空調装置の制御方法

【課題】温水用熱交換器32と暖房用熱交換器19を同一の空気経路に配置し、上記温水用熱交換器32の上流に、温水用熱交換器32と暖房用熱交換器19とに共用のエアミックスドア38を設けても、温度制御特性の優れたヒートポンプによる空調装置を提供する。
【解決手段】冷房運転であるCOOLサイクル運転、及び暖房運転であるHOTサイクル運転を実行し、更に、温水用熱交換器32と、エアミックス手段38とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行し、暖房用熱交換器19の温度が低いと判断される程、エアミックス手段38による混合割合を、暖房側に補正制御する。これにより、COOLサイクルと温水暖房サイクルとを併用したとき、暖房用熱交換器19の温度の低さにより吹出温度が下がってしまうことがあっても、上記暖房側への補正制御により精度の良い温度制御が実現出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサを用いて熱交換器に冷媒を送り、車室内においてヒートポンプサイクルによる暖房を行う車両用空調装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載の車両用空調装置が知られている。この特許文献1では、温水用熱交換器(ヒータコア)の下流に暖房用熱交換器(室内コンデンサ)を設け、上記温水用熱交換器と暖房用熱交換器の各々にエアミックスドアを設けている。
【0003】
具体的には、特許文献1の発明は、冷房運転から暖房運転への切換時において、フロントガラスを曇らせず、またエンジン冷却水温が低いときに温水用熱交換器に空気を通しても車室内への吹出風の温度を下げず、かつ温水用熱交換器通風後の空気の持つ熱を有効利用できる車両用空調装置を提供するものである。
【0004】
そのために、特許文献1では、ダクト内に冷房用熱交換器(エバポレータ)、温水用熱交換器及び温水用熱交換器用のエアミックスドア、及び暖房用熱交換器及び暖房用熱交換器用のエアミックスドアの順で、それぞれを配設しているので、常に徐湿ができ、フロントガラスを曇らせることがなくなる。
【0005】
また、エンジン冷却水温が低くて、温水用熱交換器通風後の空気の温度が低くても、暖房用熱交換器で最後に高温にするので、車室内への吹出風の温度は高くなっている。また、温水用熱交換器の下流に暖房用熱交換器を配設することによって、温水用熱交換器で多少なりとも加熱してから暖房用熱交換器で高温にしているので、温水用熱交換器通風後の空気の持つわずかな熱でも有効に利用することにより、暖房用熱交換器の暖房負荷を軽減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−96931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1では、温水用熱交換器と暖房用熱交換器の各々に、夫々専用のエアミックスドアが必要であり、エアミックス手段の数が多くなり、コストアップの要因となり、車両用空調装置のサイズも大きくなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、温水用熱交換器と暖房用熱交換器を同一の空気経路に配置し、上記温水用熱交換器の上流に共用のエアミックス手段を設けても、吹出温度低下による不快感を低減できる温度制御特性の優れたヒートポンプによる空調装置を提供することを目的とする。
【0009】
従来技術として列挙された特許文献の記載内容は、この明細書に記載された技術的要素の説明として、参照によって導入ないし援用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、冷房能力の大きいCOOLサイクル運転、及びヒートポンプサイクルによる暖房運転であるHOTサイクル運転を実行し、更に、暖房用熱交換器(19)と同一の空気経路に配置され冷却水の廃熱を利用する温水用熱交換器(32)と、該温水用熱交換器(32)並びに暖房用熱交換器(19)を通る同一の空気経路の空気と冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御する、温水用熱交換器(32)と暖房用熱交換器(19)とに共用のエアミックス手段(38)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置の制御方法において、COOLサイクルと温水暖房サイクルによる暖房運転時において、暖房用熱交換器(19)の温度が低いと判断される程、温水用熱交換器(32)を通らない冷風と、温水用熱交換器(32)を通る空気とのエアミックス手段(38)による混合割合を、冷風の混合割合が少ない暖房側に制御して、選択された吹出口から送風機により車室内に送風することを特徴としている。
【0011】
この発明によれば、温水用熱交換器と暖房用熱交換器を同一の空気経路に配置し、共用のエアミックスドアを設けることが出来る。また、暖房用熱交換器(19)の温度が低いと判断される程、エアミックス手段(38)の開度を暖房側に補正することで、吹出温度を目標吹出温度(TAO)に近づけることができる。なお、通常、ヒートポンプサイクルによる暖房運転では暖房用熱交換器(19)の温度を高くして暖房するが、例えば、冬季にCOOLサイクルと温水暖房サイクルとを併用するようになると、暖房用熱交換器(19)の温度が低くなるため、冷却水温度及び温水用熱交換器(32)の温度が高くても、暖房用熱交換器(19)の温度の低さにより、吹出温度が下がってしまう。このようなときに、エアミックス手段(38)の上記暖房側への補正により精度の良い温度制御が実現出来る。
【0012】
請求項2に記載の発明では、エアミックス手段(38)による混合割合を決定するエアミックス手段(38)の開度を、温水用熱交換器(32)と暖房用熱交換器(19)から成る加熱器(19及び32)の温度である加熱器温度が低くなるほど開度が暖房側に移動するように、エアミックス手段(38)の開度を演算し、加熱器温度は暖房用熱交換器(19)の温度が低くなる程、低い値になることにより、暖房用熱交換器(19)の温度が低いと判断される程、温水用熱交換器(32)を通らない冷風と、温水用熱交換器(32)を通る空気とのエアミックス手段(38)による混合割合を、冷風の混合割合が少ない暖房側に制御することを特徴としている。
【0013】
この発明によれば、エアミックス手段(38)による混合割合をエアミックス手段(38)の開度で決定し、温水用熱交換器(32)と暖房用熱交換器(19)から成る加熱器(19及び32)の加熱器温度が低くなるほど開度が暖房側に移動するようにしたから、暖房用熱交換器(19)の温度の低さにより、吹出温度が下がってしまうという問題を、エアミックス手段(38)の開度の演算方法の改良により、解消することが出来る。
【0014】
請求項3に記載の発明では、暖房用熱交換器(19)の温度の算出に冷媒圧力値を用いると共に、冷媒圧力値の変化に遅れをもたせて暖房用熱交換器(19)の温度が演算されることを特徴としている。
【0015】
この発明によれば、エアミックス手段(38)の頻繁な作動が抑制され、耐久性を向上することが出来る。なお、暖房用熱交換器(19)の温度の算出には既存の冷媒圧力を用いることが、コスト的、及びスペース的に優位であるが、冷媒圧力はコンプレッサ(14)のオンオフ等による変動が大きく、冷媒圧力値をそのままエアミックス手段(38)の制御に反映すると、暖房用熱交換器(19)の温度が頻繁に変化したと認識されて、エアミックス手段(38)のアクチュエータが頻繁に作動し耐久性が低下する。よって、冷媒圧力値の変化に遅れをもたせて、暖房用熱交換器(19)の温度を演算することにより、エアミックス手段(38)の耐久性が向上する。
【0016】
請求項4に記載の発明では、COOLサイクル運転、及びHOTサイクル運転のサイクルを切り替えるときは、冷媒圧力値の変化に遅れをもたせないで暖房用熱交換器(19)の温度が演算されることを特徴としている。
【0017】
この発明によれば、サイクル切替え時は、冷媒圧力の急変を、エアミックス手段(38)の制御に反映しないと、サイクル切替え時に、吹出温度変動が発生するため、このサイクル切替え時は、冷媒圧力値の変化に遅れをもたせないことで、吹出温度変動を防止することが出来る。
【0018】
請求項5に記載の発明では、更に、少なくとも目標吹出温度(TAO)に応じて吹出口のモードを選択すると共に、吹出口のモードがフェイスモードでCOOLサイクルが選択されている場合に、冷却水温度の低下または暖房用熱交換器(19)の温度の低下により、目標吹出温度(TAO)よりも吹出空気の吹出温度が低いと判断される時は、目標吹出温度(TAO)よりも吹出空気の吹出温度が低くないと判断される時に比べて、送風機(3)の送風量を少なくすることを特徴としている。
【0019】
この発明によれば、吹出口がフェイスモードでCOOLサイクルが選択されている場合に、目標吹出温度(TAO)よりも吹出温度が低いと判断される時は、目標吹出温度(TAO)よりも吹出温度が低くないと判断される時に比べて、送風機(3)の送風量を少なくするから、乗員が肌寒さを感じことを防止することが出来る。
【0020】
請求項6に記載の発明では、送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、目標吹出温度(TAO)になるようにするために、冷媒圧力が冷媒圧力の目標値となる目標圧力(PDO)になるよう制御し、目標圧力(PDO)の演算に、目標吹出温度(TAO)、送風機(3)の風量またはブロワ電圧、及び暖房用熱交換器(19)の吸い込み温度となる暖房用熱交換器入口温度を用いると共に、暖房用熱交換器入口温度は、温水用熱交換器(32)に冷却水が流れている時は冷却水温度を用いて演算し、温水用熱交換器(32)に冷却水が流れていない時は冷房用熱交換器(18)の温度であるエバポレータ温度を用いて演算することを特徴としている。
【0021】
この発明によれば、暖房用熱交換器入口温度を、温水用熱交換器(32)に冷却水が流れている時は冷却水温度とすると共に、温水用熱交換器(32)に冷却水が流れていない時は、エバポレータ温度として、目標圧力(PDO)を演算することにより、吹出温度を精度良く目標吹出温度(TAO)に近づけることが出来る。また、暖房用熱交換器(19)に特別な吸込温度センサを設ける必要がない。
【0022】
請求項7に記載の発明では、エアミックス手段(38)は、温水用熱交換器(32)並びに暖房用熱交換器(19)の上流側に配設された単一のエアミックス手段(38)として形成されていることを特徴としている。
【0023】
この発明によれば、単一のエアミックス手段(38)を制御するのみでよく、制御が容易になる。
【0024】
請求項8に記載の発明では、冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、冷房能力の大きいCOOLサイクル運転、及びヒートポンプサイクルによる暖房運転であるHOTサイクル運転を実行し、更に、暖房用熱交換器(19)と同一の空気経路に配置され冷却水の廃熱を利用する温水用熱交換器(32)と、該温水用熱交換器(32)並びに暖房用熱交換器(19)を通る同一の空気経路の空気と冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御する、温水用熱交換器(32)と暖房用熱交換器(19)とに共用のエアミックス手段(38)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置の制御方法において、吹出口がフェイスモードでCOOLサイクルが選択されている場合に、冷却水温度の低下または暖房用熱交換器(19)の温度の低下により、目標吹出温度(TAO)よりも吹出空気の吹出温度が低いと判断される時は、目標吹出温度(TAO)よりも吹出空気の吹出温度が低くないと判断された時に比べて、送風機(3)の送風量を少なくすることを特徴としている。
【0025】
この発明によれば、温水用熱交換器(32)と暖房用熱交換器(19)を同一の空気経路に配置し、共用のエアミックスドア(38)を設けることが出来る。また、吹出口がフェイスモードでCOOLサイクルが選択されている場合に、冷却水温度の低下または暖房用熱交換器(19)の温度の低下により、目標吹出温度(TAO)よりも吹出温度が低いと判断される時は、目標吹出温度(TAO)よりも吹出温度が低くないと判断される時に比べて、送風機(3)の送風量を少なくするから、乗員が肌寒さを感じことを防止することが出来る。
【0026】
請求項9に記載の発明では、冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、冷房能力の大きいCOOLサイクル運転、及びヒートポンプサイクルによる暖房運転であるHOTサイクル運転を実行し、更に、暖房用熱交換器(19)と同一の空気経路に配置され冷却水の廃熱を利用する温水用熱交換器(32)と、該温水用熱交換器(32)並びに暖房用熱交換器(19)を通る同一の空気経路の空気と冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御する、温水用熱交換器(32)と暖房用熱交換器(19)とに共用のエアミックス手段(38)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置の制御方法において、送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、目標吹出温度(TAO)になるようにするために、冷媒圧力が冷媒圧力の目標値となる目標圧力(PDO)になるよう制御し、目標圧力(PDO)の演算に、目標吹出温度(TAO)、送風機(3)の風量またはブロワ電圧、及び暖房用熱交換器(19)の吸い込み温度となる暖房用熱交換器入口温度を用いると共に、暖房用熱交換器入口温度は、温水用熱交換器(32)に冷却水が流れている時は冷却水温度を用いて演算し、温水用熱交換器(32)に冷却水が流れていない時は冷房用熱交換器(18)の温度であるエバポレータ温度を用いて演算することを特徴としている。
【0027】
この発明によれば、温水用熱交換器(32)と暖房用熱交換器(19)に共用のエアミックスドア(38)を設けることが出来る。また、暖房用熱交換器入口温度を、温水用熱交換器(32)に冷却水が流れている時は冷却水温度を用いると共に、温水用熱交換器(32)に冷却水が流れていない時は、エバポレータ温度を用いて演算することにより、吹出温度を精度良く目標吹出温度TAOに近づけることが出来る。また、暖房用熱交換器(19)に特別な吸込温度センサを設ける必要がない。
【0028】
請求項10に記載の発明では、冷却水が流れているときは、冷却水温度とエバポレータ温度(TE)の関数値であるエバポレータ温度補正値とを用いて暖房用熱交換器入口温度が演算されることを特徴としている。
【0029】
この発明によれば、エバポレータ温度補正値を用いて、より正確に暖房用熱交換器入口温度を求めることが出来る。これによって車室内に吹出す空調風の吹出温度をより正確に目標吹出温度(TAO)に近づけることが出来る。
【0030】
なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に使用する電気自動車用空調装置のCOOLサイクル時の全体模式図である。
【図2】上記実施形態に使用する電気自動車用空調装置のHOTサイクル時の全体模式図である。
【図3】上記実施形態に使用する電気自動車用空調装置のDRY EVAサイクル時の全体模式図である。
【図4】上記実施形態に使用する電気自動車用空調装置のDRY ALLサイクル時の全体模式図である。
【図5】上記実施形態における上記各サイクルにおいて、エアコン制御装置が、各電磁弁をどのように制御するかを示す電磁弁作動表である。
【図6】上記実施形態におけるエアコン制御装置と主な各種センサ等との接続関係を示すブロック図である。
【図7】上記実施形態におけるエアコン制御装置による基本的な空調制御処理を示したフローチャートである。
【図8】上記実施形態におけるサイクル選択の詳細を示すフローチャートである。
【図9】上記実施形態におけるブロワ電圧決定のための詳細なフローチャートである。
【図10】上記実施形態において使用される目標吹出温度から吹出口モードを決定するための特性図である。
【図11】上記実施形態におけるエアミックスドアの開度を算出するフローチャートである。
【図12】上記実施形態におけるコンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【図13】上記実施形態における暖房用熱交換器目標温度と暖房用熱交換器の入口温度とから、仮の目標圧力を演算するためのマップである。
【図14】上記実施形態における偏差と、偏差変化率と、ヒートポンプサイクルによる暖房のためのコンプレッサ回転数変化量との関係を示すマップである。
【図15】上記実施形態における偏差と、偏差変化率と、COOLサイクルによる冷房のためのコンプレッサ回転数変化量との関係を示すマップである。
【図16】本発明の第2実施形態におけるコンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1乃至図15を用いて詳細に説明する。この第1実施形態は、蒸気圧縮式冷凍機をハイブリッド自動車用の空調装置に適用したものである。
【0033】
ハイブリッド自動車は、ガソリン等の液体燃料を爆発燃焼させて動力を発生させる走行用内燃機関をなすエンジン(E/G)、走行補助用電動機機能及び発電機機能を備える走行補助用の電動発電機、エンジンへの燃料供給量や点火時期等を制御するエンジン用電子制御装置(エンジン用ECU)、電動発電機やエンジン用電子制御装置等に電力を供給するバッテリ、電動発電機の制御及び無断変速機や電磁クラッチの制御を行うと共にエンジン用電子制御装置に制御信号を出力するハイブリッド電子制御装置を備えている。
【0034】
そして、ハイブリッド用電子制御装置は、電動発電機及びエンジンのいずれの駆動力を駆動輪に伝達するかの駆動切替えを制御する機能、及びバッテリの充放電を制御する機能を備えている。
【0035】
具体的には、以下のような制御を行う。
(1)車両が停止しているときは、基本的にエンジンを停止させる。
(2)走行中は、減速時を除き、エンジンで発生した駆動力を駆動輪に伝達する。なお、減速時は、エンジンを停止させて電動発電機にて発電してバッテリに充電する。
(3)発進時、加速時、登坂時及び高速走行時等の走行負荷が大きいときには、電動発電機を電動モータとして機能させてエンジンで発生した駆動力に加えて、電動発電機に発生した駆動力を駆動輪に伝達する。
(4)バッテリの充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジンの動力を電動発電機に伝達して電動発電機を発電機として作動させてバッテリの充電を行う。
(5)車両が停止しているときにバッテリの充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジン用電子制御装置に対してエンジンを始動する指令を発するとともに、エンジンの動力を電動発電機に伝達する。
【0036】
図1は、第1実施形態における車両用空調装置となる電気自動車用空調装置のCOOLサイクル時の全体模式図である。アキュムレータ式冷凍サイクルを用いた電気自動車用空調装置1は、車室内に送風空気を導くダクト2、このダクト2内に空気を導入して車室内へ送る送風機3、及びエアコン制御装置5(後述の図6)を備える。
【0037】
図1の送風機3は、図示しないブロワケース、遠心式ファン3b、ブロワモータ3cより成り、このブロワモータ3cへの印加電圧に応じて、ブロワモータ3cの回転速度が決定される。ブロワモータ3cへの印加電圧は、エアコン制御装置5からの制御信号に基づいて制御される。
【0038】
送風機3の図示しないブロワケースには、周知のように、車室内空気(内気)を導入する図示しない内気導入口と、車室外空気(外気)を導入する図示しない外気導入口とが形成されるとともに、内気導入口と外気導入口との開口割合を調節する図示しない内外気切替手段を成す内外気切替ダンパが設けられている。
【0039】
ダクト2の下流端(図1上)は、周知のように、車両のフロントガラスに向かって送風空気を吐出する図示しないデフロスタ吹出口、乗員の上半身に向かって送風空気を吐出するフェイス吹出口、乗員足元に向かって送風空気を吐出するフット吹出口に連絡されている。
【0040】
冷凍サイクルは、コンプレッサ14、室外熱交換器15、冷房用減圧装置16、暖房用減圧装置17、冷房用熱交換器(エバポレータとも言う)18、暖房用熱交換器19、アキュムレータ21、及び流路切替手段(後述する)を備える。
【0041】
コンプレッサ14は、内蔵された電動モータ14aにより駆動される。電動モータ14aは、図示しないインバータによって可変制御される周波数に応じて回転速度が決定される。従って、コンプレッサ14の冷媒吐出流量は、電動モータ14aの回転速度に応じて変化する。
【0042】
室外熱交換器15は、車室外に配置されて、外気と冷媒との熱交換を行うもので、室外ファン24の送風を受けて、暖房運転時にはエバポレータとして機能し、冷房運転時にはコンデンサとして機能する。
【0043】
冷房のために液化した冷媒は、図1の冷房用減圧装置(温度感応型エキスパンションバルブ)16に導入され、急激に減圧膨張し低温低圧の霧状となる。低温低圧の霧状冷媒は冷房用熱交換器18へ供給される。暖房用減圧装置(暖房用絞り)17は、暖房運転時に室外熱交換器15へ供給される冷媒を減圧膨脹させる。
【0044】
冷房用熱交換器18は、エバポレータとして機能するもので、ダクト2内に配設されている。この冷房用熱交換器18は、冷房用減圧装置16で減圧膨脹された低温低圧の冷媒と空気との熱交換を行うことにより、冷房用熱交換器18を通過する空気を冷却する。
【0045】
暖房用熱交換器19は、コンデンサとして機能するもので、ダクト2内で冷房用熱交換器18の下流(風下)に配設されて、コンプレッサ14で圧縮された高温高圧の冷媒と空気との熱交換を行うことにより、暖房用熱交換器19を通過する空気を加熱する。
【0046】
ウオータポンプ31は、エンジン冷却水から成る温水を温水用熱交換器(ヒータコアとも言う)32に供給する。この温水用熱交換器32は、上記暖房用熱交換器19と共に加熱器として機能する。
【0047】
エアミックス手段を成すエアミックスドア(A/M)38は、周知のように冷房用熱交換器18からの冷風と暖房用熱交換器19等(加熱器)との暖風との混合割合を制御する。アキュムレータ21は、冷凍サイクル内の過剰冷媒を一時蓄えると共に、気相冷媒のみを送り出して、コンプレッサ14に液冷媒が吸い込まれるのを防止する。
【0048】
暖房三方弁(HTMV)25a、高圧電磁弁(HPMV)25b、低圧電磁弁(LPMV)25c、除湿電磁弁(DHMV)25d、熱交(熱交換)シャット弁(HSMV)25e、第1逆止弁27、及び第2逆止弁28より流路切替手段が形成されている。
【0049】
この流路切替手段25a、25b、25c、25d、25e、27、及び28は、運転の種類であるCOOLサイクル時、HOTサイクル時、DRY EVAサイクル時、及びDRY ALLサイクル時で夫々、冷媒の流れ方向を切り替えるものである。
【0050】
エンジン30からの温水は、ウオータポンプ31によって、ヒータコア32に供給される。35は、冷媒吸入温度T35を測定する冷媒吸入温度センサである。また、矢印40、41、42、43、44は冷媒の流れる向きを示している。
【0051】
冷媒圧力センサ50PREは、暖房用熱交換器19より上流の冷媒の高圧圧力(コンプレッサ14の吐出圧力)PREを検出する。また、冷媒吸入温度センサ35は、室外熱交換器15の冷媒流れの下流側に設けられ冷媒吸入温度T35を検出する。また、室外熱交換器15に対して、冷房用熱交換器18と暖房用熱交換器19とで室内熱交換器(18及び19)を形成している。
【0052】
(COOLサイクル)
暖房性能無しであり、除湿能力が大レベルの運転時であるCOOLサイクルでは、図1のように、コンプレッサ14より吐出された冷媒が、暖房用熱交換器19→暖房三方弁21→室外熱交換器15→高圧電磁弁25b→第1逆止弁27→冷房用減圧装置16→冷房用熱交換器18→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に流れる様に上記流路切替手段25a、25b、25c、25d、25e、27、及び28が切り替えられる。この運転時の冷媒の流れを図中矢印40、41、42、43、及び44で示す。
【0053】
その結果、コンデンサとして機能する室外熱交換器15から、熱が室外に放出され、冷房用熱交換器(エバポレータとして機能する)18から熱が吸収される。このとき、暖房用熱交換器19も発熱しているが、エアミックスドア38の位置制御で、車室内空気との熱交換量を少なくすることが出来る。
【0054】
(HOTサイクル)
図2は、第1実施形態における車両用空調装置となる電気自動車用空調装置のHOTサイクル時の全体模式図である。暖房性能が大であり、除湿能力無しの運転時であるHOTサイクルによる運転時では、図2のように、コンプレッサ14より吐出された冷媒が、暖房用熱交換器19→暖房三方弁21→暖房用減圧装置17→熱交シャット弁25e→室外熱交換器15→低圧電磁弁25c→第2逆止弁28→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に流れる。
【0055】
この運転時の冷媒の流れを、図中矢印40、41、45、42a、46、及び47で示す。なお、室外空気が極めて低いときは、HOTサイクルによる暖房は効率が悪いので、上述のCOOLサイクルにてエンジンを稼動させ、エンジン冷却水(温水)の温度を上げて、温水用熱交換器32の熱で車室内が暖房される。
【0056】
(DRY EVAサイクル)
図3は、第1実施形態における電気自動車用空調装置のDRY EVAサイクル時の全体模式図である。このDRY EVAサイクルは、この一実施形態では、暖房能力が小レベルで車室内の中レベルの除湿を行うときに選択される。
【0057】
このDRY EVAサイクルでは、図3のように、コンプレッサ14より吐出された冷媒が、暖房用熱交換器19→暖房三方弁25a→暖房用減圧装置17→除湿電磁弁25d→冷房用熱交換器18→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に流れる。
【0058】
この運転時の冷媒の流れを図中矢印40、41、45,47、及び48で示す。このDRY EVAサイクルは、室外熱交換器15を使用せず冷房用熱交換器(エバポレータ)18を使用し、暖房性能は小レベルで除湿能力は中レベルの空調を行う。
【0059】
(DRY ALLサイクル)
図4は、第1実施形態における電気自動車用空調装置のDRY ALLサイクル時の全体模式図である。このDRY ALLサイクルは、この一実施形態では、暖房能力が中レベルで車室内の小レベルの除湿を行うときに選択されて実行される。このDRY ALLサイクルでは、冷房用熱交換器(エバポレータ)18と室外熱交換器15の両方を使用する。
【0060】
このDRY ALLサイクルでは、図4のように、コンプレッサ14より吐出された冷媒が、暖房用熱交換器19→暖房三方弁25a→暖房用減圧装置17→熱交シャット弁25e→室外熱交換器15→低圧電磁弁25c→第2逆止弁28→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に流れる。
【0061】
また、同時に、暖房用減圧装置17→除湿電磁弁25d→冷房用熱交換器18→→アキュムレータ21→コンプレッサ14の順に、上記冷媒が流れる。この運転時の冷媒の流れを図中矢印40、41、45、42a、46、47、49、48で示す。
【0062】
図1乃至図4で図示を省略したエアコン制御装置5(図6)は、マイクロコンピュータ(図示しない)を内蔵する。図5は、上記各サイクルにおいて、エアコン制御装置5が、各電磁弁25a〜25eをどのように制御するかを示す電磁弁作動表である。
【0063】
図6は、エアコン制御装置5と各種センサ等との接続関係を示すブロック図である。センサは、室温Trを検出する内気センサ50Tr、外気温度Tamを検出する外気センサ50Tam、日射量Tsを検出する日射センサ50Ts、図2の暖房用熱交換器19の吸込側空気温度Tinを検出する入口温度センサ50Tin、上記暖房用熱交換器19より上流の冷媒の高圧圧力(コンプレッサ14の吐出圧力)PREを検出する冷媒圧力センサ50PRE、図1の室外熱交換器15の冷媒流れの下流側に設けられ冷媒吸入温度T35を検出する冷媒吸入温度センサ35等(以下、省略する)を備える。
【0064】
また、エアコン制御装置5は、エアコン操作パネル51から出力される操作信号および上記各センサからの検出信号に基づいて、送風機3、コンプレッサ14駆動用のインバータ52、室外ファン24、暖房三方弁25a、各種電磁弁25b〜25e、周知の内外気切替ダンパ53、及び吹出口切替ダンパ54等の電気部品を通電制御する。なお、内外気切替ダンパ53、及び吹出口切替ダンパ54とあるのは、実際には、これらのダンパを駆動するアクチュエータ部分にエアコン制御装置5から通電される。
【0065】
また、エアコン制御装置5と、上述の図示しないハイブリッド用電子制御装置及びエンジン用電子制御装置は相互に通信可能になっており、この第1実施形態では、所定のプロトコルに基づいたデータ通信により通信している。
【0066】
また、上記エアコン操作パネル51には、冷凍サイクルの運転状態を手動で、上記COOLサイクル、HOTサイクル、DRY EVAサイクル、及びDRY ALLサイクルのいずれかに切替える図示しない手動スイッチを有し、この手動操作信号をエアコン制御装置5に入力している。
【0067】
また、図6のエアコン操作パネル51には、図1のコンプレッサ14に内蔵された電動モータ14aの起動及び停止を指令するためのエアコンスイッチ、吸込口モードをマニュアルモードで切り替えるための吸込口切替スイッチ、車室内の温度を所望の設定温度Tsetに設定するための温度設定スイッチ、図1の送風機3の送風量をマニュアルモードで切り替えるための風量切替スイッチ、及び図示しない吹出口モードをマニュアルモードで切り替えるための吹出口切替スイッチ等を備える。
【0068】
図7は、第1実施形態のエアコン制御装置5(図6)による基本的な制御処理を示したフローチャートである。図7において、イグニッションスイッチが投入されて、エアコン制御装置5に電源が供給されると制御がスタートする。
(プレ空調判定)
図6に示したエアコン制御装置5は、上記の各種センサからの信号、エアコン操作パネル51に設けられた各種操作部材からの信号、及び遠隔操作可能な操作手段である図示しないリモートコントロール装置を成す携帯機からの信号等に基づいて、車室内を空調するように構成されている。車両が継続的に停止して乗員が搭乗していないときには、エアコン制御装置5は、上記リモートコントロール装置からのプレ空調要求の有無を監視している。
【0069】
そして、リモートコントロール装置からプレ空調要求があった場合(即時空調の要求があった場合、または予め送信入力された空調要求時刻に基づいて空調を開始するタイミングとなった場合)には、車両が停止状態であるか否か判断するとともに、電源電力がプレ空調作動時の要求電力に対し大きいか否か判断する。
【0070】
車両が停止状態であり、電源電力がプレ空調要求電力より大きいことを確認したら、プレ空調の実施を許可するためにプレ空調フラグを立てる(ステップS1)。
【0071】
(イニシャライズ)
次に、図6のエアコン制御装置5内の各パラメータ等を初期化(イニシャライズ)する(ステップS2)。
【0072】
(スイッチ信号読み込み)
次に、図6に示したエアコン操作パネル51からのスイッチ信号等を読み込む(ステップS3)。
【0073】
(センサ信号読み込み)
次に、図6に示した各種センサからの信号を読み込む(ステップS4)。
【0074】
(TAO算出基本制御)
次に、ROMに記憶された下記の数式1に基づいて、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度TAOを算出する(ステップS5)。
【0075】
(数式1)TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C
ここで、Tsetは温度設定スイッチにて設定した設定温度、Trは内気センサ50Trにて検出した室温、Tamは外気センサ50Tamにて検出した外気温度、Tsは日射センサ50Tsにて検出した日射量である。また、Kset、Kr、Kam及びKsはゲインで、Cは補正用の定数である。
【0076】
そして、このTAO、及び上記各種センサからの信号により、図1のエアミックスドア38の後述するアクチュエータの制御値、及び、周知のように、ウオータポンプ31の回転数等の制御値等を算出する。
【0077】
(サイクル選択)
次に、運転すべきサイクルの選択を図7のステップS6にて行う。このステップS6は、具体的には、図8に基づいて行う。図8は、図7のステップS6におけるサイクル選択の詳細を示すフローチャートである。
【0078】
図8において、制御がスタートすると、ステップS30にて、外気温度が−3℃より低いか否かを判定する。外気温度が−3℃より低いと、ヒートポンプの性能が十分に出ないため、ステップS32にてCOOLサイクルとする。なお、このとき、エンジン冷却水(温水)の温度が低いときで、図1のエンジン30が停止している場合は、エンジン30を始動させる。外気温度が−3℃より低くない場合、ステップS31にて、自動制御での吹出口モードが、フェイス(FACE)モードか否かを判定する。
【0079】
フェイスモードの場合、「ヒートポンプサイクルの必要無し」と判断して、ステップS32にて、COOLサイクルとする。フェイスモードでない場合、ステップS33にて、窓曇りの可能性が有るか否かを判定する。
【0080】
この窓ガラスの曇り判定は、特開2002−120545号公報等にて公知である。曇り判定を簡単に説明する。RH25を車室内の相対湿度の快適湿度(25℃相当の相対湿度)とし、RHW25を25℃相当の飽和絶対湿度としたとき、RH25、及びRHW25は下記の数式2及び3に基づいて演算できる。
【0081】
(数式2)RH25=f(Tr)×RH/100(%)
但し、RHは、図示しない湿度センサの検出値である相対湿度で、f(Tr)は、図6の内気センサ50Trの検出値である室温Trの関数である。
【0082】
(数式3)RHW25=f(TWG)(%)
但し、f(TWG)はウインドウ温度TWGの関数である。このウインドウ温度は、室温(Tr)、日射量(Ts)、外気温度(Tam)、車速(SPD)の関数で表されるが、雨天時には、ウインドウ温度(TWG)=外気温度(Tam)となる。
【0083】
そして、図8のステップS33において、25℃相当の飽和絶対湿度RHW25が100より大きければ、窓曇りの可能性有りと判定する。窓曇りの可能性が無ければ、暖房効率が最も高い除湿無し暖房(HOTサイクル)をステップS38にて行う。
【0084】
ステップS33において、25℃相当の飽和絶対湿度RHW25が100より大きく、窓曇りの可能性有りと判定した場合は、ステップS34に進み、冷却水温度(=図1の温水用熱交換器32の温度)の影響で、暖房用熱交換器19では充分に空気と熱交換できない可能性があるか否かを判定する。なお、図8ではRHW25を単にRHWと略記した。
【0085】
このために、ステップS34において、「暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度」が、−3℃より高く+3℃より低いか否かを判定する。暖房用熱交換器目標温度と冷却水温度とが接近しており、「暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度」が−3℃より高く、+3℃より低い場合は、図1の暖房用熱交換器19では充分に熱交換が出来ない(空気に熱を与えることが出来ない)と判断し、ステップS35に進む。
【0086】
このステップS35では、図6のエアコン制御装置5から図示しないエンジン用電子制御装置(エンジン用ECU)に対して、+500rpmのエンジン回転数アップを要求する。このエンジン回転数アップにより、以後の各ステップでCOOLサイクルに切替えた時に、吹出温度が下がらないようにするため、冷却水温度を上げておく。
【0087】
ステップS34において、暖房用熱交換器目標温度と冷却水温度とが接近しておらず、「暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度」が−3℃より高くないか、または、+3℃より低くない場合は、図1の暖房用熱交換器19で、充分に空気と熱交換が出来る判断し、ステップS36に進む。
【0088】
このステップS36では、暖房用熱交換器19の暖房用熱交換器目標温度と冷却水温度(=温水用暖房器32の温度)の差が、+1℃より低いか否かを判定する。暖房用熱交換器目標温度が冷却水温度に比べて高く、「暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度」が+1℃より低くなければ、暖房用熱交換器19で充分に熱交換することができるので、ステップS37に進む。
【0089】
ステップS37では、図1の冷房用熱交換器(エバポレータ)18の表面温度の測定値であるエバポレータ温度TEを使用する。ステップS37での「2℃−エバポレータ温度(2−TEと記す)」が、2<(2−TE)となり、(2−TE)が2℃より高いと、除湿能力の無いHOTサイクルに切替える(ステップS38)。
【0090】
上記2−TEが、1℃より高く2℃以下であり、1<(2−TE)≦2の条件を満たす場合は、ステップS39において、DRY ALLサイクル(除湿能力小、暖房能力中)の運転に切替える。上記2−TEが、1℃以下だと、ステップS40において、DRY EVAサイクル(除湿能力中、暖房能力小)の運転に切替える。
【0091】
上記ステップS36で、(暖房用熱交換器目標温度−冷却水温度)<1を満たし、冷却水温度に比べて暖房用熱交換器目標温度TAO HPが低い場合は、暖房用熱交換器19では、充分に熱交換ができない。よって、このときは、ステップS41で、COOLサイクルに切替える必要があるか否かを判定する。
【0092】
ステップS41では、窓曇りの可能性が高いか否かで、クーラサイクルの要否を判定する。これは、上述の25℃相当の飽和絶対湿度RHW25が、110以上か否かで判定する。ステップS41で、RHW25>110ではなく、窓曇りの可能性が高くないと判断した場合は、ステップS37に進む。ステップS41で、RHW25>110となり、窓曇りの可能性が高いと判断した場合は、ステップS32で、COOLサイクルに切替えることにより、高い除湿性能を得る。
(ブロワ電圧決定)
次に、図7のステップS7において、ROMに記憶された特性図から、目標吹出温度TAOに対応するブロワ電圧を決定する。つまり、図2の送風機3のブロワモータ3cへの印可電圧を決定する。
【0093】
図9は図7のステップS7のブロワ電圧決定のための詳細なフローチャートである。図9において、制御がスタートすると、ステップS110において、図1の送風機3の制御が、オートモードかどうかを判定する。オートモードでなくマニュアルモードのときは、ステップS111で、操作位置がL0のときは4ボルトの電圧をブロワモータ3cに印加する。
【0094】
操作位置がM1のときは、6ボルトの電圧をブロワモータ3cに印加する。操作位置がM2では、8ボルトの電圧をブロワモータ3cに印加する。操作位置がM3では、10ボルトの電圧をブロワモータ3cに印加する。操作位置がHiでは、12ボルトのブロワ電圧をブロワモータ3cに印加する。
【0095】
ステップS110で、図1の送風機3の制御が、オートモードであると判定された場合は、ステップS112にて、目標吹出温度TAOに応じて、ベースとなるブロワモータ3cへの印加電圧であるベースブロワ電圧を決定する。
【0096】
次に、ステップS113で、吹出口がフェイスモードで、かつCOOLサイクルによる運転か否かを判定する。COOLサイクルの場合、ステップS114にて、目標吹出温度TAOに対して、図1の加熱器32及び19からの吹出温度が低いか否か、また、どのくらい低いかに応じて、ブロワ電圧を補正するためにCOOLサイクル時のブロワ電圧補正量を演算する。なお、ステップS114で使用するマップは、横軸に冷却水温度及び暖房用熱交換器19の温度のうちいずれか高いほうの温度と目標吹出温度TAOとの差を取っている。
【0097】
ステップS116では、上記ベースブロワ電圧と上記ブロワ電圧補正量との差の電圧(ボルト)と4ボルトのうちいずれか大きいほうの値を今回のブロワ電圧と決定して、ブロワモータ3cに印加する。
【0098】
この補正により、冷却水温度又は暖房用熱交換器19の温度が低く、目標吹出温度TAOに対して、加熱器32及び19を経由した吹出温度が低い時は、ブロワ電圧補正量がマイナス側に大きくなって、図1の送風機3に印加される図9のステップS116のブロワ電圧が低下するので、乗員の肌寒さを軽減することが出来る。
(吸込口モード決定)
次に、図7のステップS8において、ROMに記憶された図示しない特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吸込口モードを決定する。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには、内気循環モードが選択され、目標吹出温度TAOが低いときには、外気導入モードが選択される。
(吹出口モード決定)
図10は、ROMに記憶された目標吹出温度TAOから吹出口モードを決定するための特性図である。図7のステップS9では、図10の特性図から、目標吹出温度TAOに対応する吹出口モードを決定する。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには、図10のマップからフット(FOOT)モードが選択され、目標吹出温度TAOの低下に伴って、バイレベル(B/L)モード、更にはフェイス(FACE)モードの順に選択される。
(SW算出)
次に、図7のステップS10において、図1のエアミックスドア38の開度SWを目標吹出温度TAO等により算出する。図11は、この第1実施形態のエアミックスドア38の開度SWを算出するフローチャートである。
【0099】
図11において、制御がスタートすると、ステップS50にて、ヒートポンプサイクルによる室内暖房制御か否かを判定する。図8のステップS38、S39及びS40のいずれかのサイクルが選択された場合、つまり選択されたサイクルが、ヒートポンプサイクルによる室内暖房制御であれば、図11のステップS54にて、図2のエアミックスドア38を、マックスホット(MAX HOT;実質的に全ての空調風が暖房用熱交換器19を通過するようになるエアミックスドア38の位置)に固定する。
【0100】
これにより、暖房用熱交換器19の温度と、車室内への吹出温度がおおよそ等しくなり、所望の吹出温度に対して、必要最低限の暖房用熱交換器19の温度で済むため、省電力制御が可能になる。なお、この省電力制御のときは、エアミックスドア38の開度SWの制御による吹出温度調整ではなく、暖房用熱交換器19の温度の制御より吹出温度を調整する。
【0101】
次に、図11のステップS50において、ヒートポンプサイクルによる暖房制御でなければ、ステップS52にて、エアミックスドア38の制御に用いる制御水温TWを算出する。このステップS52において、制御水温TWは、冷却水温度と暖房用熱交換器19の目標温度である暖房用熱交換器目標温度との高い方の温度を、制御水温TWとして選択する。
【0102】
この制御水温TWの選択により、車両の加速やバッテリ残量減少による図1のエンジン30の作動に伴って冷却水温度が高くなると、制御水温TW、ひいては、暖房用熱交換器19と温水用熱交換器32から成る加熱器の温度も高くなる傾向がある。このため、ステップS59で求めるエアミックスドア38の開度SWの演算式の分母が大きくなり、エアミックスドア38の開度SWが小さくなるので、エアミックスドア38の位置が冷房側に移動する。
【0103】
つまり、冷却水温度が高くなると、エアミックスドア38の位置が上記マックスホット位置と反対側に動き、図1の冷房用熱交換器(エバポレータ)18からの冷風が加熱器19及び32通過後の暖風と混合されて、室内に吹出す空気の温度を調節する。
【0104】
ステップS52の次に、ステップS53において、エバポレータ温度補正値となるf(エバポレータ温度)を算出する。このエバポレータ温度補正値となるf(エバポレータ温度)は、図1の冷房用熱交換器(エバポレータ)18の表面温度であるエバポレータ温度TEの関数値として図11のステップS53に記載したマップから求める。なお、f(エバポレータ温度)の「f」は、関数を表している。
【0105】
次に、ステップS55では、暖房用熱交換器19の温度を冷媒圧力から演算する。冷媒の温度は圧力が高いほど高くなるため、ステップS55のマップより、図1の冷媒圧力センサ50PREの計測値である冷媒圧力PREを用いることで暖房用熱交換器19の温度f(PRE)が演算できる。なお、「f」は関数を表し、暖房用熱交換器19の温度は、冷媒圧力PREの関数値として求められる。
【0106】
この時、暖房用熱交換器19の温度f(PRE)には、60秒の時定数τをかける。言い換えれば、変動する暖房用熱交換器19の温度f(PRE)の瞬時値を取り扱うのでなく、60秒の時定数τを持った丸め演算を行い、丸めた値を暖房用熱交換器19の温度として、以後の演算に使用する。
【0107】
これにより、コンプレッサ14のオンオフ(ON/OFF)による冷媒圧力変動で、後述するステップS59で求めるエアミックスドア38の開度SWの値が変動することは無く、図示しないエアミックスドアアクチュエータが頻繁にON/OFFしてしまうことがないのでエアミックスドアアクチュエータの耐久性低下を防止できる。
【0108】
但し、サイクル切替え時は、冷媒圧力の急変を、エアミックスドア38の制御に反映しないと、サイクル切替え時に、吹出温度変動が発生するため、このサイクル切替え時は、時定数τを0にすることで、吹出温度変動を防止している。
【0109】
次に、ステップS56において、COOLサイクルで、かつ、図1の温水用熱交換器32へエンジン冷却水を送るウオータポンプ31が作動しているか否かを判定する。ステップS56で、運転サイクルが、COOLサイクルであり、かつ、ウオータポンプ31が作動していると判定された場合、ステップS57に進む。
【0110】
ステップS57では、温水用熱交換器32の下流温度である「(TW×0.8)+f(エバポレータ温度)」に対して、暖房用熱交換器19の温度である「f(PRE)」を所定割合で、夫々加算した加熱器温度を算出する。
【0111】
ここで、TWはステップS52で求めた制御水温である。また、f(エバポレータ温度)は、ステップS53で求めたエバポレータ温度補正値である。また、ステップS55で求めたf(PRE)は、暖房用熱交換器19の温度である。また、加熱器とは、温水用熱交換器32と暖房用熱交換器19を総称したものであり、これら温水用熱交換器32と暖房用熱交換器19を通過した空気の温度が加熱器温度である。
【0112】
そして、加熱器温度は「0.8×{(TW×0.8)+f(エバポレータ)}+0.2×f(PRE)」で求められる。
【0113】
これにより、COOLサイクル時に、暖房用熱交換器19の温度f(PRE)が低くなり、温水用熱交換器32で暖めた温風温度が下がってしまう場合でも、暖房用熱交換器19の温度が低いことにより、ステップS57で算出する加熱器温度が低くなり、ステップS59で演算するエアミックスドア38の開度SWを求める式の分母が小さくなるので、開度SWが大きくなり、エアミックスドア38の開度が暖房側に移動するため、温度低下した暖房用熱交換器19による空気温度の低下が補正され、目標吹出温度TAOに合致した吹出空気の温度を精度良く実現できる。
【0114】
換言すれば、通常、ヒートポンプサイクルでは暖房用熱交換器19の温度を高くして暖房するが、冬季に、COOLサイクルで温水暖房サイクルを併用するようになると、ヒートポンプサイクルの暖房用熱交換器19の温度が低くなるため、温水(冷却水)の温度が高くても、暖房用熱交換器19の温度の低さにより、吹出温度が下がってしまう。
【0115】
このため、暖房用熱交換器19の温度が低いと判断できる時は、エアミックスドア38の開度を暖房側に補正することで、吹出温度を極力、目標吹出温度TAOに近づけることができる。
【0116】
次に、ステップS59において、エアミックスドア(A/M)38の開度SWを、ステップS57で求めた加熱器温度、目標吹出温度TAO、及びエバポレータ温度TEを用いて、図11のステップS59に記載した数式にて演算する。
【0117】
この演算式の分母は、大略、加熱器温度とエバポレータ温度TEの差の値と、10とのいずれか大きいほうを分母とする。また、TAOとエバポレータ温度TEとの差を分子とする。なお、ステップS59の開度SWの演算式中の+2℃は省略して、数式4のようにしても差し支えない。
【0118】
(数式4)SW={(TAO−TE)/MAX(10、加熱器温度−TE)}×100(%)
上述のように、車両の加速やバッテリ残量減少による図1のエンジン30の作動に伴って、ステップS52の冷却水温度が高くなると、ステップS57で求めた加熱器温度が高くなるため、ステップS59で求めるエアミックスドア38の開度SWの演算式の分母が大きくなり、エアミックスドア38の開度SWが小さくなるので、エアミックスドア38の位置がクール(COOL)側になる。このため、冷却水温度が高くなっても、実際の吹出温度は目標吹出温度TAOを大きく外れることは無い。
【0119】
また、ステップS56において、サイクルがCOOLサイクルでないか、または、ウオータポンプ31が作動していない場合は、ステップS58に進み、上記加熱器温度が、「(TW×0.8)+f(エバポレータ)」で求められる。
(コンプレッサ回転数決定)
次に、図7のステップS11においてコンプレッサ回転数の決定を行う。図12は、図7のステップS11におけるコンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【0120】
図12において、制御がスタートすると、ステップS60にて、目標吹出温度TAOが、制限値である47℃以上か否かを判定する。このTAO=47℃の値は、ほとんどの人が十分な暖房感を得られ、かつ、過剰に高くない値を設定する。
【0121】
目標吹出温度TAOが、比較的低く、47℃より低ければ、目標吹出温度TAOを、そのまま図1の暖房用熱交換器19の目標温度である暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する(ステップS61)。
【0122】
目標吹出温度TAOが、比較的高く、47℃より高ければ、47℃を暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する(ステップS62)。即ち、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを低いほうに制限する低目標吹出温度(TAO HP=47℃=低目標吹出温度)に設定する。
【0123】
次に、ステップS63で、図1のウオータポンプ31が作動中か否かを判定する。ウオータポンプ31が作動中であれば、図1の暖房用熱交換器19の入口温度は、冷却水温度の影響を大きく受けるので、ステップS64で暖房用熱交換器19の入口温度=冷却水温度とする。
【0124】
次に、ステップS63で、ウオータポンプ31が停止していれば、冷房用熱交換器(エバポレータ)18の温度の影響がそのまま暖房用熱交換器19の入口に来るので、ステップS65で、暖房用熱交換器19の入口温度=エバポレータ温度とする。
【0125】
ステップS66で、暖房用熱交換器19の下流側の空気温度であるコンデンサ後温度が暖房用熱交換器目標温度TAO HPとおおよそ等しくなるための、仮の目標圧力PDODを図13のマップを用いて演算する。この仮の目標圧力PDODは、ブロワ電圧4V時の場合を演算する。図13は、暖房用熱交換器19の入口温度と暖房用熱交換器目標温度TAO HPとから、仮の目標圧力PDODを演算するためのマップである。
【0126】
図12のステップS67では、図1の送風機3の風量(ブロワ電圧)による目標圧力PDОへの影響値である目標圧力(PDO)補正係数を演算する。風量が多いと、同じ室内コンデンサ後温度を得たい場合でも、暖房用熱交換器19の温度を高くしておく必要があるので、ブロワ電圧に応じた目標圧力(PDO)補正係数を算出するのである。
【0127】
ステップS68では、ステップS66で求めた仮の目標圧力PDО(仮の目標温度PDOをPDODと称する。)に対して、ステップS67で求めた目標圧力(PDO)補正係数を乗算して、今回の目標圧力PDОを演算する。図14は、偏差Pnと、偏差変化率PDOTとから、ヒートポンプサイクルによる暖房のためのコンプレッサ回転数変化量ΔfHを求めるためのマップである。
【0128】
ステップS69では、図14のマップと、ステップS68で演算した目標圧力PDОを用いて、COOLサイクル以外のHOTサイクル等(ヒートポンプサイクルによる暖房)のためのコンプレッサ回転数変化量ΔfHを演算する。なお、上述のように、図1の冷媒圧力センサ50PREは、コンプレッサ14と暖房用熱交換器19とを連絡する冷媒配管55に取りつけられている。
【0129】
図12のステップS68で求めた目標圧力PDOと冷媒圧力センサ50PREにて検出された高圧圧力PREとの圧力の偏差Pnを下記数式5に基づいて算出する。なお、以下のPnのnは自然数、Pnは、今回の偏差であり、P(n−1)は前回の偏差である。
【0130】
(数式5)Pn=PDO−PRE
また、偏差変化率PDOTを下記数式6に基づいて算出する。
【0131】
(数式6)PDOT=Pn−P(n−1)
次に、上記偏差Pnと上記偏差変化率PDOTとを用いて、図6のエアコン制御装置5内のROMに記憶された図14のマップから、1秒前のコンプレッサ回転数に対して増減する回転数変化量ΔfHを求める。
【0132】
次に、図15は、偏差Pnと、偏差変化率PDOTと、COOLサイクルのためのコンプレッサ回転数変化量ΔfCとの関係を示すマップである。
【0133】
図12のステップS70では、図15のマップと、ステップS68で演算した目標圧力PDОを用いて、COOLサイクル時のコンプレッサ回転数変化量ΔfCを演算する。
【0134】
次に、ステップS71では、図8のサイクル選択のステップで選択したサイクルが、COOLサイクルか否かを判定する。COOLサイクルでなければ、ステップS72にて、HOTサイクル、DRY ALLサイクル、及びDRY EVAサイクルで、「今回のコンプレッサ回転数=前回のコンプレッサ回転数+ΔfH」として求めた目標回転数のもとで、コンプレッサ14を制御する。
【0135】
また、ステップS71において、図8のサイクル選択のステップで選択したサイクルがCOOLサイクルであれば、ステップS73にて、「今回のコンプレッサ回転数=前回のコンプレッサ回転数+ΔfC」として求めた目標回転数において、コンプレッサ14を制御する。
(バルブON/OFF決定)
次に、図7のステップS12において、所定のサイクルで制御が実行できるよう、サイクル中の電磁弁のONまたはOFF作動について決定する。この制御は、図5のサイクルの変更に応じて、各電磁弁の作動をオンオフする出力信号を生成する。
(制御信号出力)
次に、図7のステップS13において、上記各ステップで算出または決定した各制御状態が得られるように、図示しないエンジン用ECU、各種のアクチュエータ、電磁弁、及びサーボモータに対して制御信号を出力する。そして、図7のステップS14において所定時間の経過を待ってから、ステップS3に戻る。
【0136】
上記第1実施形態では、第1に、ヒートポンプサイクルで暖房を行うHOTサイクルでの運転時は、エアミックスドア38の開度を暖房側の特定位置であるMAX HOTの位置にしている。なお、完全なMAX HOTの位置でなく、その近傍の特定位置でもかまわない。
【0137】
具体的には、上述したように、図11のステップS50及び54において、ヒートポンプサイクルによる暖房中と判断したときに、図2のエアミックスドア38を、マックスホット(MAX HOT)に固定する制御(固定制御と称する)に切替えている。
【0138】
これにより、暖房用熱交換器19の温度と吹出温度がおおよそ等しくなり、所望の吹出温度に対して、必要最低限の暖房用熱交換器19の温度で済むため、省電力制御が可能になる。なお、この省電力制御のときは、エアミックスドア38の開度調整による吹出温度調整は行わず開度を固定とし、暖房用熱交換器19の温度の調整により吹出温度が調整される。
【0139】
第2に、ヒートポンプで暖房を行うHOTサイクルでの暖房用熱交換器19の目標温度(暖房用熱交換器目標温度TAO HP)を、目標吹出温度TAOよりも低く設定している。
【0140】
つまり、上述したように、図12において、目標吹出温度TAOが、比較的高く、47℃より高ければ、47℃を暖房用熱交換器目標温度TAO HPに設定する。なお、このTAO=47℃の値は、ほとんどの人が十分な暖房感を得られ、かつ、過剰に高くない値である。
【0141】
具体的に述べれば、目標吹出温度TAOが所定の制限値47℃より高くない(TAO>47℃でない)時は、ヒートポンプサイクルによる暖房運転時の暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAOになるよう、コンプレッサ14を制御する。
【0142】
それと共に、目標吹出温度TAOが所定値47℃より高い(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを、このときの目標吹出温度TAOよりも低い上記制限値47℃になるように設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ14を制御している。
【0143】
基本的にエンジンの廃熱を利用する温水暖房に比べて、ヒートポンプサイクルによる暖房は空調のために多大な電力を消費するため、ユーザーの誤操作などにより目標吹出温度TAOが通常考えられる必要度合以上に高くなっている(TAO>47℃である)時は、暖房用熱交換器目標温度TAO HPを目標吹出温度TAOより低くなるよう設定(TAO HP=47℃)して、コンプレッサ14を制御することで、省電力運転を行うことが出来る。
【0144】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以降の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴について説明する。図16は、本発明の第2実施形態におけるコンプレッサ回転数の決定を行うステップを説明するフローチャートである。
【0145】
この図16は、第1実施形態の図12に比べるとステップS642の暖房用熱交換器の入口温度の求め方だけが相違している。ステップS642のf(エバポレータ温度)は、図11のステップS53で求めた値と同一である。そして、図16のステップS642においては暖房用熱交換器19の入口温度を「0.8×冷却水温度+0.2×f(エバポレータ温度)」にて演算している。
【0146】
このステップS642の演算によって、冷房用熱交換器(エバポレータ)18の温度を考慮して、より正確に暖房用熱交換器19の入口温度を求めることが出来る。これによって車室内に吹出す空調風の吹出温度をより正確に目標吹出温度TAOに近づけることが出来る。
【0147】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述の各実施形態では、単純にマップを用いて回転数変更分ΔfH、及びΔfCを演算したが、この回転数変更分ΔfH、及びΔfCは、図6のエアコン制御装置5内の図示しないROMに記憶された所定のメンバーシップ関数、及びルールに基づいて、公知のファジー制御にて求めることも出来る。
【0148】
また、上記各実施形態において、図1の冷媒吸入温度センサ35は、室外熱交換器15に設けても構わないし、低圧冷媒圧力等のパラメータを検出するなどして、この検出したパラメータを温度換算して、冷媒吸入温度の予測値を演算し、この演算結果を、上記冷媒吸入温度の代わりに使用しても良い。つまり、冷媒吸入温度T35は、室外熱交換器15の着霜状態を監視できる測定値であれば良い。
【0149】
但し、冷媒吸入温度T35を冷媒吸入温度センサ35にて検出する場合は、室外熱交換器15を、従来の一般的車両と共通使用することができる。かつ、上記低圧冷媒圧力を検出する圧力検出素子よりも低価格にてシステムが構成できる。その上、測定誤差も小さいので、冷媒吸入温度センサ35を冷媒配管に設けることが望ましい。
【0150】
そして、この冷媒吸入温度T35を活用して、室外熱交換器15の着霜時のための除霜運転ステップを図7のステップ中に入れても良い。
【符号の説明】
【0151】
1 電気自動車用空調装置
2 室内に送風空気を導くダクト
3 送風機
5 エアコン制御装置
14 コンプレッサ
14a コンプレッサに内蔵された電動モータ
15 室外熱交換器
18 冷房用熱交換器(エバポレータ)
19 暖房用熱交換器
18及び19 室内熱交換器
30 エンジン
31 ウオータポンプ
32 温水用熱交換器(ヒータコア)
35 冷媒吸入温度センサ
38 エアミックスドア(エアミックス手段)
50PRE 冷媒圧力センサ
PRE 高圧圧力(測定値)
51 エアコン操作パネル
Tset 温度設定スイッチにて設定した設定温度
TAO 目標吹出温度
TAO HP 暖房用熱交換器目標温度
TE エバポレータ温度
PDO 目標圧力
PDOD 仮の目標圧力
PDOT 偏差変化率
Pn 偏差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、冷房能力の大きいCOOLサイクル運転、及びヒートポンプサイクルによる暖房運転であるHOTサイクル運転を実行し、更に、前記暖房用熱交換器(19)と同一の空気経路に配置され冷却水の廃熱を利用する温水用熱交換器(32)と、該温水用熱交換器(32)並びに前記暖房用熱交換器(19)を通る前記同一の空気経路の空気と前記冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御する、前記温水用熱交換器(32)と前記暖房用熱交換器(19)とに共用のエアミックス手段(38)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置の制御方法において、
前記COOLサイクルと前記温水暖房サイクルによる暖房運転時において、前記暖房用熱交換器(19)の温度が低いと判断される程、前記温水用熱交換器(32)を通らない冷風と、前記温水用熱交換器(32)を通る空気との前記エアミックス手段(38)による混合割合を、前記冷風の混合割合が少ない暖房側に制御して、選択された吹出口から前記送風機により車室内に送風することを特徴とする車両用空調装置の制御方法。
【請求項2】
前記エアミックス手段(38)による混合割合を決定する前記エアミックス手段(38)の開度を、前記温水用熱交換器(32)と前記暖房用熱交換器(19)から成る加熱器(19及び32)の温度である加熱器温度が低くなるほど開度が暖房側に移動するように、前記エアミックス手段(38)の開度を演算し、前記加熱器温度は前記暖房用熱交換器(19)の温度が低くなる程、低い値になることにより、前記暖房用熱交換器(19)の温度が低いと判断される程、前記温水用熱交換器(32)を通らない冷風と、前記温水用熱交換器(32)を通る空気との前記エアミックス手段(38)による混合割合を、前記冷風の混合割合が少ない前記暖房側に制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項3】
前記暖房用熱交換器(19)の温度の算出に冷媒圧力値を用いると共に、前記冷媒圧力値の変化に遅れをもたせて前記暖房用熱交換器(19)の前記温度が演算されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項4】
前記COOLサイクル運転、及び前記HOTサイクル運転のサイクルを切り替えるときは、前記冷媒圧力値の変化に遅れをもたせないで前記暖房用熱交換器(19)の前記温度が演算されることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項5】
更に、少なくとも前記目標吹出温度(TAO)に応じて前記吹出口のモードを選択すると共に、前記吹出口のモードがフェイスモードで前記COOLサイクルが選択されている場合に、前記冷却水温度の低下または前記暖房用熱交換器(19)の温度の低下により、前記目標吹出温度(TAO)よりも前記吹出空気の前記吹出温度が低いと判断される時は、前記目標吹出温度(TAO)よりも前記吹出空気の前記吹出温度が低くないと判断される時に比べて、前記送風機(3)の送風量を少なくすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項6】
前記送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、前記目標吹出温度(TAO)になるようにするために、冷媒圧力が冷媒圧力の目標値となる目標圧力(PDO)になるよう制御し、前記目標圧力(PDO)の演算に、目標吹出温度(TAO)、前記送風機(3)の風量またはブロワ電圧、及び前記暖房用熱交換器(19)の吸い込み温度となる暖房用熱交換器入口温度を用いると共に、前記暖房用熱交換器入口温度は、前記温水用熱交換器(32)に前記冷却水が流れている時は冷却水温度を用いて演算し、前記温水用熱交換器(32)に前記冷却水が流れていない時は前記冷房用熱交換器(18)の温度であるエバポレータ温度を用いて演算することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項7】
前記エアミックス手段(38)は、前記温水用熱交換器(32)並びに前記暖房用熱交換器(19)の上流側に配設された単一のエアミックス手段(38)として形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の車両用空調装置の制御方法。
【請求項8】
冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、冷房能力の大きいCOOLサイクル運転、及びヒートポンプサイクルによる暖房運転であるHOTサイクル運転を実行し、更に、前記暖房用熱交換器(19)と同一の空気経路に配置され冷却水の廃熱を利用する温水用熱交換器(32)と、該温水用熱交換器(32)並びに前記暖房用熱交換器(19)を通る前記同一の空気経路の空気と前記冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御する、前記温水用熱交換器(32)と前記暖房用熱交換器(19)とに共用のエアミックス手段(38)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置の制御方法において、
前記吹出口がフェイスモードで前記COOLサイクルが選択されている場合に、前記冷却水温度の低下または前記暖房用熱交換器(19)の温度の低下により、前記目標吹出温度(TAO)よりも前記吹出空気の前記吹出温度が低いと判断される時は、前記目標吹出温度(TAO)よりも前記吹出空気の前記吹出温度が低くないと判断された時に比べて、前記送風機(3)の送風量を少なくすることを特徴とする車両用空調装置の制御方法。
【請求項9】
冷房用熱交換器(18)及び暖房用熱交換器(19)から成る室内熱交換器(18及び19)と室外熱交換器(15)との間で冷媒を移動させるコンプレッサ(14)を備えて、送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、設定温度(Tset)から求められた目標吹出温度(TAO)になるように、冷房能力の大きいCOOLサイクル運転、及びヒートポンプサイクルによる暖房運転であるHOTサイクル運転を実行し、更に、前記暖房用熱交換器(19)と同一の空気経路に配置され冷却水の廃熱を利用する温水用熱交換器(32)と、該温水用熱交換器(32)並びに前記暖房用熱交換器(19)を通る前記同一の空気経路の空気と前記冷房用熱交換器(18)を通過した冷風との混合状態を制御する、前記温水用熱交換器(32)と前記暖房用熱交換器(19)とに共用のエアミックス手段(38)とを備えて、温水暖房サイクルによる暖房運転を実行する車両用空調装置の制御方法において、
前記送風機(3)による吹出空気の吹出温度が、前記目標吹出温度(TAO)になるようにするために、冷媒圧力が冷媒圧力の目標値となる目標圧力(PDO)になるよう制御し、前記目標圧力(PDO)の演算に、目標吹出温度(TAO)、前記送風機(3)の風量またはブロワ電圧、及び前記暖房用熱交換器(19)の吸い込み温度となる暖房用熱交換器入口温度を用いると共に、前記暖房用熱交換器入口温度は、前記温水用熱交換器(32)に前記冷却水が流れている時は冷却水温度を用いて演算され、前記温水用熱交換器(32)に前記冷却水が流れていない時は前記冷房用熱交換器(18)の温度であるエバポレータ温度(TE)を用いて演算されることを特徴とする車両用空調装置の制御方法。
【請求項10】
前記冷却水が流れているときは、前記冷却水温度と前記エバポレータ温度(TE)の関数値であるエバポレータ温度補正値とを用いて前記暖房用熱交換器入口温度が演算されることを特徴とする請求項6または9に記載の車両用空調装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−11723(P2011−11723A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160131(P2009−160131)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】